都市と農村における
SNS 利用者の地域意識に関する研究
A study on sense of region of SNS users in urban and rural areas
鬼塚 健一郎
*・星野 敏
**・橋本 禅
**Kenichirou ONITSUKA
*, Satoshi HOSHINO
**and Shizuka HASHIMOTO
** 要旨:農村地域においてもインターネット利用環境の整備が進んでおり,SNS 等のソーシャル・メディ アには地域のための新たな交流の場としての役割が期待される。一方で,そのようなツールの利用が個人 的なものに偏ると,逆に地域意識が低下し,地域コミュニティが一層弱体化することも懸念される。本研 究では,SNS の利用タイプ間における地域意識の差について比較分析を行った。その結果,1)地域意識 は外向き・内向きで異なること,2)実名SNS の利用者では,特に外向きの地域意識が高いこと,3) いずれの地域意識についても農村部の方が都市部より高いこと,4)将来,実名SNS の利用により地域 外との交流の活発化が期待できることなどが明らかとなった。 キーワード:Web アンケート調査,SNS,地域意識,農村地域,因子分析Abstract: Internet access has been getting available even in rural area and the role of the Internet, especially social media such as SNS, as a new communication place is expected. But SNS usage for private purpose may weaken sense of region, leading to a weaker community. In this study, we analyzed the difference in sense of region between types of SNS usage. In the result, we clarified: 1) There are 2 types of senses of region, inward and outward ones respectively, 2) Real-name SNS users have a higher outward sense, 3) Both of the senses are higher in rural area than in urban area and 4) Communication with the outside is expected to get vitalized through real-name SNS in the future.
Key Words: web-based questionnaire survey, SNS, sense of region, rural area, factor analysis
はじめに 農村地域やそれを取り巻く二次的自然は,水源涵養や 良好な自然景観の保全,生物多様性の保全,レクリエー ションの場の提供など多面的な機能を有している1)。し かし,それらの維持・管理の役割を担ってきた農村地域 コミュニティは,高齢化や人口減少等により,その機能 を大幅に縮小させている。そのため,SATOYAMA イニ シアティブなど,二次的自然の維持と発展に向けた取組 が行われており,そこでは,多様な主体による参加・協 働が求められている2)。多様な主体の交流を促進する新 たな場として注目されるのが,SNS(Social Networking Service)に代表されるソーシャル・メディアである。 2001年のe-Japan 構想やIT基本法の制定を皮切りに, 我が国ではインターネット(以降ネットと略記)接続環 境の整備が急ピッチで進められ,農村地域においても, その多くで有線のブロードバンド回線や携帯電話網によ るネット利用が可能となっている3)。ネットを通じて農 村地域の情報が可視化され,地域内外で広く共有される ことで,農業や農村への関心の増加,自然環境に対する 意識の向上と,その保全活動への参加等が期待される。 近年,地域コミュニティ機能の再生を目的として,地 域SNS 等を活用する取組がみられる。時間的・空間的 制約を受けない交流を可能とするSNS は,コミュニテ ィの結びつきの強化や,地域に留まらない新たなコミュ ニティの形成等が期待される反面,利用が個人的なもの に偏ると,地域に対する関心や帰属意識が薄れていくこ とも懸念される(前納ほか, 2012;丸田,2007)。 このように,地域におけるネット利用には,プラスの 効果とマイナスの効果が混在していると考えられる。近 年,コミュニティに関して注目されるソーシャル・キャ ピタル(以降SC と略記)の議論でも,テレビやネット という新たなメディアが地域コミュニティを衰退させて いるとする論点(Putnum, 1995)がある一方で,ネットに よるコミュニケーション機会の拡大により,SC は増加 するという指摘(Lin, 2001)もある。他にも,ネット利用 が家庭や地域社会に負の影響を与えるとする,Kraut et al.(1998)のインターネット・パラドックスの議論がある 一方で,Hampton et al.(2003)では,ネットが地域社会 においてSC を向上させる効果を明らかにしており,ネ ットの地域社会に対する効果については,議論が分かれ ている。 ネットが日常に浸透していく中で,ネット利用と地域 意識4)との関連性を明らかにすることは,今後,弱体化 した農村地域コミュニティの機能を,多様な主体との協 * 京都大学大学院農学研究科 ** 京都大学大学院地球環境学堂
働により再生していくためのネット活用を考えていく上 で,意義が大きい。本研究では,近年,新たなコミュニ ケーション基盤としての重要性が増しているSNS に着 目して,SNS 利用者の居住地域に対する地域意識を, SNS の利用タイプ,都市と農村,現在と将来における比 較分析により明らかにすることを目的とする。 農村地域におけるネット利用者を対象とした先行研究 としては,鬼塚ほか(2013)が挙げられる。鬼塚ほか(2013) は,京都府下の集落・旧村規模の3 地域を対象としたア ンケート調査により,ネット利用タイプ別に地域意識の 比較分析を行い,ソーシャル・メディアのユーザーで, 地域意識が相対的に低くなっていることを明らかにした。 一方で,この研究では,以下の3 点の課題が指摘できる。 ①対象地域はいずれも地域づくりに関心の高い地域であ り,一般的な農村地域の傾向を表しているのかどうかは わからない,②ソーシャル・メディア利用者の年齢層が 若年層に偏っており,高齢者のサンプルが非常に少なく, 年齢による影響を無視できない,③地域意識の把握のた めに利用している質問項目が地域内の活動に偏っており, 若年層に適さないものになっている可能性がある。 本研究では,鬼塚ほか(2013)を踏まえつつ,上記課題 の克服を試みた。まず課題①に関しては,全国規模の Web アンケート調査を実施し,都市部との比較をも合わ せることで,一般的な農村地域の傾向を把握することを 試みた。課題②に関しては,回答者の抽出の際に,各年 齢層を均等に抽出するように調査設計を行った(詳細は 次章参照)。課題③に関しては,地域意識に関する質問に ついて,若年層が参加しにくい地域内の活動に関するも ののみならず,地域外に関する項目も大幅に追加した。 1.研究の方法 1.1 Web アンケート調査の実施概要 アンケート調査票は,ネットの利用状況やネット利用 に関する意識と,地域でのつきあいや地域に対する関心 との関連性を把握する目的で2011 年 12 月~2012 年 2 月にかけて設計し,プレテストを踏まえた上で2012 年 2 月下旬に最終確定した。2012 年 3 月の 1~2 週目にかけ て,(株)クロス・マーケティングによるWeb モニター を対象として,Web上でのアンケート調査を実施した5)。 本研究で用いるアンケート項目は表1 の通りである。 表中の①と②は,総務省通信利用動向調査などの既存 のネット関連調査を参考にして作成した。③は内閣府6) や農林水産省7)で実施されたSC に関連する質問項目を 参考にして作成した。④は,地域に対する関心や考え方 を測定するために作成したものである。 回収サンプル数は1,576s となり,欠損値は全く含まれ ていない。対象については,まず,居住地についての回 答により,都市部居住者8)と山間部居住者9)のサンプル 数が均等になるように依頼した。判断がつかない場合に 備えて「その他」の選択肢を設けた。同時に,年齢×性 別×職業(農林業に従事しているか否か)についても, 各カテゴリーのサンプル数が均等になるように依頼した。 以上のように,二段階の層化抽出法を用いてランダムサ ンプリングを行うことで,都市部居住者と農村部居住者 10)の比較分析を可能としたほか11),年齢や性別等によ るサンプル数の偏りの回避を目指した12)。各カテゴリー の該当サンプル数は表2,表 3 の通りである。 1.2 分析の枠組み 本研究では,まずアンケート調査回答者について, SNS 利用の有無に基づいて 3 タイプに分類した。一般的 に,匿名の方が,発言が活発になりやすい反面荒れやす いのに対して,実名では逆に荒れにくく,発言の信頼性 が高い,といった特徴がある13)。そこで,利用が実名か 匿名かにより参加者の特性も異なると仮定して,SNS 利 表 1 本研究で用いるアンケート項目 大項目 質問項目 尺度 ①インターネッ トの利用状況 1日の利用時間 48段階 ②インターネッ トに関する意識 現在の利用状況・将来の利用意向 4 段階 ③普段のつきあ いや地域参加 近所つきあいの程度 4 段階 地域の娯楽イベントへの参加程度 5 段階 自治会・町内会への参加程度 ④地域への関心 地域に対する愛着 4 段階 地域の一体感を感じるか 地域に危機感を感じるか 今後の居住意向 地域内外との交流意欲 地域の地域づくり活動を知りたい 他地域の地域づくり活動を知りた い 地域外の人の短期間住んでほしい 地域外の人に長期間住んでほしい 地域外の人の観光に来てほしい 地域外の人に地域を知ってほしい 地域外の人とネットで交流したい 地域外の人とビジネスをしたい 表 3 職業・年齢・性別による層化抽出の結果 (N=1,576,カッコ内は各カテゴリーが占める割合(%)) 職 業 性別 20 代 (14.4) 30 代 (22.3) 40 代 (23.0) 50 代 (22.7) 60 代以 上(17.7) 農 林 業 男(33.1) 54 112 124 130 102 女(14.9) 27 65 72 61 10 そ の 他 男(25.8) 73 75 83 94 82 女(26.1) 73 99 83 72 85 表 2 居住地域による層化抽出の結果(N=1,576) 居住地域 都市部 山間部 その他 サンプル数 647 664 265
用者について,匿名SNS(主に Mixi・Twitter)のみの 利用者,実名SNS(主に Facebook・実名の地域 SNS) の利用者の2 タイプに分類した。次に,地域意識に関す る質問項目を用いて因子分析を行い,潜在因子を抽出し た。抽出された因子のスコアを用いて,まず,地域意識 に影響を与えると考えられる属性として,年齢・性別・ 一日のネット利用時間・農業従事者か否かに着目し,比 較分析を行った。さらに,SNS 利用タイプ,居住地(都 市部・山間部)における地域意識の比較分析を行った。 2.結 果 2.1 SNS の利用者と未利用者の分類 まず,SNS の利用状況に基づいて回答者を 3 タイプに 分類した。分類に用いた質問の詳細は表4 のとおりであ る。この質問では,8 つのネット利用項目について現在 の利用状況と将来の利用意向を含めた選択肢が設定され ている。この質問に対する回答をもとに,実名SNS・匿 名SNS・Twitter を利用していない人を「SNS 未利用者」, Twitter もしくは匿名 SNS を利用しているが実名 SNS は利用していない人を「匿名SNS のみの利用者」,実名 SNS を利用している人を「実名 SNS 利用者」として分 類した。以上の分類を,現在の利用状況と将来の利用意 向の双方について実施した。分類された各タイプの性 別・年齢別・居住地別・職業別の集計結果を表5 に示す。 現在の利用状況をみると,全体でSNS 未利用者の割合 が60%弱を占めていた。性別・居住地・職業では,未利 用者が約60%,匿名・実名SNS 利用者がそれぞれ約20% となっており,全体の比率と大きな差はみられなかった。 年齢では,20 代で各タイプがほぼ均等であった以外は, 年代が上がるにつれて未利用者の割合が増加する傾向が 確認できた。また,SNS 利用者では,匿名・実名の間で 大きな差はみられなかったが,60 代以上では実名の利用 者の割合がやや多くなっていた。30 代以下と 60 代以上 で割合に違いがみられるものの,60 代以上でも SNS 利 用者のサンプルを確保できていることがわかった。 次に将来の利用意向についてみると,全体として,SNS 未利用意向者の割合が全体の約15%減少し,匿名 SNS のみの利用意向者が全体の約6%,実名 SNS 利用意向者 が全体の約9%増加していた。性別では,実名 SNS 利用 意向者の比率が,女性でやや低くなっていた。居住地・ 職業については,全体の比率と大きな差はみられなかっ た。年齢については,現在の利用状況と比較して,年代 別の利用タイプの偏りの差は小さくなっていた。 2.2 地域意識に関する因子分析 SNS の利用タイプと地域意識との関連性を分析する ために,まず,表1 の地域意識に関連する③と④の項目 を用いて探索的因子分析を実施し,潜在因子を抽出した (最尤法,プロマックス回転)。特に共通性が低い項目 (0.20 以下)や,どの因子に対しても強い負荷を及ぼさな い項目を削除しながら,スクリープロットも参考にして 試行した結果,最終的に14 項目を採用し,因子数を 2 と確定した。因子分析の結果は次頁表6 のとおりである。 2 因子の因子間相関は 0.612 と高くなっていた。 全般的に高めの因子負荷量がみられたため,因子負荷 量が0.50 以上の項目を参考にして各因子について解釈 を行った。第1 因子についてみると,特に地域外の人と の交流に関する項目で高い因子負荷量を示していること がわかる。それに対して第2 因子では,地域内における 表 4 ネット利用状況に関する質問の詳細 質問 利用項目 回答選択肢 あなたは,イ ンターネッ ト利用に関 する次の項 目について どのように 考えていま すか? ホームページやブロ グの閲覧 「1.すでに利用してお り,今後も利用した い」,「2.利用していな いが,今後は利用した い」,「3.すでに利用し ているが,今後は利用 したくない」,「4.利用 していないし,今後も 利用したくない」の4 択 Twitter への投稿 メールのやりとり(送 受信) ネット電話 実名 SNS の閲覧 実名 SNS での投稿 匿名 SNS の閲覧 匿名 SNS での投稿 表 5 職業・年齢・性別による分類結果 (N=1,576) SNS 未利用 (%) 匿名 SNS の み利用(%) 実名SNSを 利用(%) 現 在 の 利 用 状 況 サンプル数(%) 918(58.2) 323(20.5) 335(21.3) 性別 男性 58.2 19.4 22.4 女性 58.3 22.1 19.6 年齢 20 代 34.4 31.7 33.9 30 代 49.0 25.9 25.1 40 代 63.0 18.0 19.1 50 代 66.4 18.2 15.4 60 代 以上 72.8 10.8 16.5 居住 地 都市部 57.0 19.2 23.8 山間部 53.6 21.8 20.0 その他 61.5 20.4 18.1 職業 農業 60.2 20.3 19.4 その他 56.4 20.6 23.0 将 来 の 利 用 意 向 サンプル数(%) 678(43.0) 422(26.8) 476(30.2) 性別 男性 42.4 24.1 33.5 女性 43.9 30.6 25.5 年齢 20 代 27.8 32.6 39.6 30 代 38.2 32.8 29.1 40 代 44.2 25.7 30.1 50 代 44.8 23.8 31.4 60 代 以上 57.7 19.7 22.6 居住 地 都市部 42.2 25.3 32.5 山間部 42.0 28.6 29.4 その他 47.5 25.7 26.8 職業 農業 その他 42.8 43.2 26.8 26.7 30.4 30.0
表 6 地域意識に関する因子分析の結果 (N=1,576) 質問項目 外向き の地域 意識 内向き の地域 意識 共通性 (h2) 地域外の人に地域を知ってほしい 0.868 0.561 0.755 地域外の人に長期間住んでほしい 0.831 0.509 0.690 地域外の人の観光に来てほしい 0.820 0.464 0.675 地域外の人の短期間住んでほしい 0.804 0.451 0.650 他地域の地域づくり活動を知りた い 0.688 0.650 0.558 地域外の人とネットで交流したい 0.664 0.363 0.444 地域外の人とビジネスをしたい 0.575 0.315 0.332 地域の地域づくり活動を知りたい 0.676 0.744 0.631 地域の一体感を感じるか 0.449 0.727 0.528 地域に対する愛着 0.389 0.701 0.494 自治会・町内会への参加程度 0.370 0.654 0.429 近所つきあいの程度 0.347 0.626 0.384 今後の居住意向 0.311 0.614 0.384 地域の娯楽イベントへの参加程度 0.366 0.544 0.298 因子寄与率 41.863 10.015 注)質問項目は 1~4 の値を取り,肯定的な回答ほど高い値をとる 活動やつきあい,地域に対する愛着に関する項目で高い 因子負荷量を示していた。以上により,第1 因子は地域 外との交流を志向する地域意識として,「外向きの地域意 識」を表す因子,第2 因子は,地域への愛着や地域内の つきあい・活動参加を志向する地域意識として,「内向き の地域意識」を表す因子と解釈した。各因子を構成する 項目について,クロンバックのαを算出したところ,そ れぞれ0.908, 0.849 となり,いずれも高い値が得られた ため,これらの因子を以降の分析で採用することとした。 2.3 属性による地域意識の差 抽出された因子を用いて,まず,属性による地域意識 の差を確認した。ここでは,地域意識と関連が深いと考 えられる項目として,年齢・性別・一日のネット利用時 間(平日・休日)・農業従事者か否かについて着目した。 まず,年齢・一日のネット利用時間と2 種類の地域意 識との間で単純相関分析を行った(表7)。年齢について みると,外向きの地域意識では,ほとんど相関がみられ ないのに対して,内向きの地域意識では,弱めの相関が みられた。一日のネット利用時間では,それぞれの地域 意識との間でほとんど相関はみられなかった。 次に,性別・農業従事者か否かによる地域意識の差を 分析するために,t 検定を行った(表 8)。性別について みると,外向きの地域意識,内向きの地域意識のいずれ においても,男性の方が5%水準で有意に高くなってい た。農業従事者か否かについてみると,外向きの地域意 識,内向きの地域意識のいずれにおいても,農業従事者 の方が1%水準で有意に高くなっていた。 2.4 SNS 利用タイプ・居住地による地域意識の差 SNS の利用タイプ,居住地において,得られた 2 因子 の因子得点の平均値に差があるかどうかを分析するため に,抽出された2 種類の地域意識に関する因子を従属変 数,SNS 利用タイプと居住地を説明変数として二元配置 分散分析を行った。結果を次頁図1~4 に示す。現在の 利用状況について,外向きの地域意識に関する結果を示 したものが図1,内向きの地域意識に関する結果を示し たものが図2 である。また,将来の利用意向について, 外向きの地域意識に関する結果を示したものが図3,内 向きの地域意識に関する結果を示したものが図4 である。 図中のカッコは,該当する項目間で,5%水準で平均値に 有意な差があることを示している。なお,居住地につい ては,定義が明確ではない「その他」を除外し,都市部・ 山間部間の差についてのみ分析を行った。 まず,図1~図 4 のすべてにおいて,都市部と山間部 の間で,地域意識は,外向き・内向きともに有意に山間 部の方が高い傾向が確認できた。次に,図1 をみると, 現在のSNS未利用者と匿名SNSのみの利用者の間では 有意な差はみられないのに対して,実名SNS利用者は, 他の利用者と比較して外向きの地域意識が有意に高いこ とがわかった。図2 をみると,SNS 未利用者と比べて匿 名SNS のみの利用者は内向きの地域意識が有意に低く なっていた。内向きの地域意識は年齢とやや相関があり, 匿名SNS のみの利用者では 20~30 代,未利用者では 40~50 代の割合がそれぞれ高いため,年齢の影響がある と考えられる。そこで,内向きの地域意識に関する因子 スコアを年齢で除した値による平均値の差も確認したが, 結果は同様であった。実名SNS の利用者と他の利用者 との間では有意な差はみられなかった。図3 をみると, 将来実名SNS を利用したい人は,他と比較して外向き の地域意識が有意に高いことがわかった。図4 では,誤 差分散の等質性が仮定できない結果となり,いずれのタ イプ間においても有意な差はみられなかった。 表 7 属性と地域意識との間の相関分析の結果 年齢 一日のネット利 用時間(休日) 一日のネット利 用時間(平日) 外向きの地 域意識 0.07** -0.04 -0.04 内向きの地 域意識 0.30** -0.12** -0.06* * p<0.05 ** p<0.01 表 8 性別・職業別の地域意識に関する t 検定の結果 性別の平均値 t 値 有意確率 男 女 外向きの地域意識 0.05 -0.07 2.581 ** 内向きの地域意識 0.08 -0.11 3.978 *** 職業別の平均値 t 値 有意確率 農業 その他 外向きの地域意識 0.13 -0.12 -5.176 *** 内向きの地域意識 0.17 -0.16 -7.064 *** * p<0.10 ** p<0.05 *** p<0.01
3.考 察 以上の分析結果を踏まえて,考察を行う。 3.1 SNS 利用タイプ 別のネット利用傾向 まず,ネット利用者に限定したWeb アンケート調査 であっても,60%弱の利用者は SNS を利用していない ことがわかった。ただし,将来の利用意向をみると,そ の割合は43%程度にまで減少しており,将来は利用者の 増加が期待できる。30 代以下では,SNS 利用者が占め る割合が特に高い傾向がみられたが,60 代以上の高齢者 でも約27%みられた。将来も傾向は変わらないものの, 高齢者のSNS 利用者数の増加も期待できる。性別でみ ると,現在の利用状況では,実名SNS の利用者で男性 の割合が女性よりもやや高かった。この傾向は将来の利 用意向でも同様であり,女性は実名SNS の利用に意欲 的ではなく,警戒心などを抱いている可能性も推測され る。居住地については各タイプ間で特に大きな差はみら れなかった。 3.2 属性による地域意識の違い 次に,属性による地域意識の違いをみると,内向きの 地域意識は年齢とやや相関がみられ,高齢者ほど,地域 内への関心が高まる傾向が示された。ネット利用時間は, 地域意識と大きな関連性はみられなかった。また,男性・ 農業従事者はそれぞれの地域意識が高く,地域のための SNS 活用は期待できる。女性は,地域に嫁いでくる場合 も多いこと,農業は地域に根付いた職業であり,地域に 滞在する時間が長く,交流や共同活動の機会が多いこと 等が要因として考えられる。 3.3 SNS 利用タイプ による地域意識の違い 因子分析により,地域の内部におけるつきあいや参加 等に関する内向きの地域意識と,地域外との交流に関す る外向きの地域意識という2 種類の地域意識が抽出され た。これらは因子間相関が高く,内向き・外向きともに 地域意識には共通する部分があるものの,以下に示す通 り異なる性質を有していることがわかった。 外向きの地域意識では,SNS 未利用者・匿名 SNS の みの利用者と比較して,実名SNS 利用者で大幅に高く なっていた。実社会での関係の拡張や情報収集につなが りやすい実名SNS の利用により,地域外に対する視野 や意識が広がる効果が推察される。一方で,広く社会全 般への関心が強い人が,匿名よりも実名でSNS を利用 する傾向があることも考えられる。因果関係の把握には さらなる研究が必要とされるが,前者に従えば,地域の ためにはSNSは実名のものを選択することが望ましい。 -.30 -.25 -.20 -.15 -.10 -.05 .00 .05 .10 .15 .20 SNS未利用 匿名SNSのみ利用 実名SNSを利用 都市部 山間部 図 2 内向きの地域意識の平均値の差(現在の利用状況) -.30 -.20 -.10 .00 .10 .20 .30 .40 SNS未利用 匿名SNSのみ利用 実名SNSを利用 都市部 山間部 図 1 外向きの地域意識の平均値の差(現在の利用状況) -.20 -.15 -.10 -.05 .00 .05 .10 .15 .20 .25 .30 SNS未利用 匿名SNSのみ利用 実名SNSを利用 都市部 山間部 図 4 内向きの地域意識の平均値の差(将来の利用意向) -.30 -.20 -.10 .00 .10 .20 .30 .40 .50 SNS未利用 匿名SNSのみ利用 実名SNSを利用 都市部 山間部 図 3 外向きの地域意識の平均値の差(将来の利用意向)
一方で,内向きの地域意識についてみると,未利用者 と比較して,匿名SNSのみの利用者で低くなっていた。 これより,匿名SNS のみの利用者は,個人的な目的で SNS を利用する可能性が高く,地域内の交流や活動への 参加などには結びつきにくい可能性が示唆された。 以上の傾向については,現在の利用状況,将来の利用 意向のいずれにおいても概ね同様であった。鬼塚ほか (2013)では,SNS 利用者の地域意識が未利用者より も低い傾向が示されていたが,本研究より,その傾向が 強いのは匿名SNS のみの利用者のみであり,実名 SNS 利用者ではむしろ外向きの地域意識が高く,地域外との 交流の活発化につながる可能性があることが示唆された。 3.4 都市部・山間部による地域意識の傾向の違い 都市部と山間部の間でも地域意識の傾向には違いがみ られ,内向き・外向きのいずれについても,山間部の方 が高かった。山間部ではまだ地域コミュニティの機能が 残っており,都市部と比較して居住地域に対する意識や 関心が高いことが推察される。これより,地域コミュニ ティのためのSNS 活用には,山間部の方が適している ことが推察される。ただし山間部ではそのような取組は 少なく,有用性についての認知向上が必要とされる。 3.5 地域意識の現状と将来への期待 現在の利用状況と将来の利用意向に関する結果では大 きな傾向の違いはみられなかったが,外向きの地域意識 では,実名SNS 利用者とそれ以外の利用者の差が,将 来やや大きくなっていた。将来,実名SNS の利用者の 割合が高まる可能性を考慮すると,今後,ソーシャル・ メディアの持つ多くの利点を活かして,特に地域外との 新たなネットワークの形成を通じた交流・協働機会の増 加といった効果を得られる効果が期待できる。そのため には,地域意識の高さを地域のためのSNS 活用に結び 付け,地域コミュニティの再生もしくは新たなコミュニ ティの形成につなげられるように,利用率の向上や,十 分な学習機会の提供が望まれる。 おわりに 本研究では,ネット利用者の地域意識について,SNS 利用タイプ,都市部・山間部,現在と将来という比較軸 により分析を行なった。特に山間部の実名SNS 利用者 で地域意識が高いという結果により,農村地域における 実名SNS の活用により農村や二次的自然に関する地域 内外の理解が深まり,その維持や発展のための協働の輪 が広がることは期待でき,具体的な取組が望まれる。 なお,本研究は,一時点における関連性のみを分析し たものであるが,ネット利用と地域意識の間の因果関係 に関する研究は非常に不足している。因果関係を明らか にするためには,多時点でのパネル調査を踏まえた交差 遅れ効果モデルによる分析等が必要とされる(三浦ほか, 2009)。また,本研究で得られた知見のさらなる一般性 を確保するために,事例研究の蓄積が望まれる。 謝 辞 本 研 究 は , 総 務 省 戦 略 的 情 報 通 信 研 究 開 発 推 進 制 度 (SCOPE)(112307007)の助成を受けたものである。 補 注 1)農業・農村の多面的機能 <http://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou>, 2013.5.31 参照 2 )里 山 イ ニ シ ア テ ィ ブ<http://satoyama-initiative.org/about>, 2013.5.31 参照 3)総務省 平成22 年通信利用動向調査概要 <http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR201000_0 01.pdf>,2013.5.31 参照 4)本研究で扱う「地域意識」は,地域における人づきあいや地域活動 に対する関心を総合的に表現するものとする。 5)(株)クロス・マーケティングに依頼して実施し。約一週間の回答 期間を設けて回収を行った。同社では常時100 万人以上のWeb モニタ ーを保持しており,その質の維持にも十分な配慮を行っている。 6)平成14 年度に,内閣府は SC と市民活動の関係の検証や,SC の定 量的把握を目的とした委託調査を実施した。 7)農林水産省では,平成18 年から 19 年にかけて,「農村におけるソ ーシャル・キャピタル研究会」により,農村に特有のソーシャル・キャ ピタルの実態把握を行なっている。 8)都市部居住者を特定するために,回答者に次の定義を提示した。「商 業や流通が発達していて,限られた地域に人口が集中している領域」 9)(中)山間部居住者を特定するために,回答者に次の定義を提示し た。「平野の周辺から山地に至る平坦な耕地の少ない場所に位置する, 農業を主な産業とする地域」 10)本研究で扱う「農村地域」は,特に中山間地域を意識しており,文 中ではアンケート調査で用いた「山間部」という表現を用いている。 11)居住地の区分について,依頼したWeb リサーチ会社と事前に入念 な調整を行ったが,調査実施時に,回答者の住所を市区町村以下にまで 細分化して指定することは困難であったため,アンケート質問により区 分を行った。注釈9)のように中山間地域の定義を提供したほか,中山 間地域の写真を提示することで,判断を行いやすくした。 12)可能な限り均等になるように依頼したが,一部のカテゴリーでは十 分なサンプル数が得られなかったほか,事前の計画(1200s)よりも多 くのサンプルが得られたため,カテゴリーごとに若干ばらつきがある。 1 3 )総 務 省 『 住 民 参 画 シ ス テ ム 利 用 の 手 引 き 』< http://www.soumu.go.jp/denshijiti/ict/sns/3-2.html>, 2013.5.31 参照 引用文献
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