DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.39.7 47 三宅: 未来医療と神戸アイセンター構想
未来医療と神戸アイセンター構想
三 宅 琢
公益社団法人NEXT VISIONFuture medicine and Kobe Eye Center
Taku Miyake
Kobe Eye Center Hospital
Vision Park, which is located in the entrance space of Hospital, is a comprehensive support area for the vision impaired. It is for people facing difficulty due to their low visual activity to regain the willingness to live. As a feature of the design, each area is divided by steps that can be learned for using a white cane and provided a spatial experi-ence adapted to emotions within areas of different floor level. Each area has a lot of multiple information opportuni-ties such as medical care, welfare, education, and hobbies. Not only benches that offer varied styles of stay, but also kitchen and the climbing wall, we offer the opportunity to regain lost daily life due to lack of visual activity and pro-vide a space to create a self realization and awareness experience.
Keywords: low vision care, QOL, design
神戸アイセンター病院とビジョンパークとは 神戸アイセンターは病院,研究所,企業,社団法人が 一体的に活動する複合施設であり,眼科のiPS細胞治療 を中心とした最先端の基礎研究,臨床治療,ロービジョ ンケア,社会復帰まで一気通貫で対応できる施設として 2017年12月に開設した。 公益社団法人NEXT VISIONは,ビジョンパークの運 営管理をするとともに,見え方で困難を抱えている方へ 必要な情報を提供し,QOLの向上,社会復帰を支援す る団体であり,この目的を達成するために福祉施設,特 別支援学校,当事者団体等の各機関と連携している。 ビジョンパークは神戸アイセンター病院受付前のメイ ンエントランスに位置し,壁には視覚障害者でも光と音 を頼りにクライミングが楽しめる世界初の光と音で誘導 する「みちびクライミング」,iPadの活用をはじめとし たさまざまなワークショップが可能なオープンキッチン が中央に存在するなど,これまでの支援施設の常識を変 える構造を持つ。 各エリアには多様なデザインのベンチがあり,本棚に は約500冊の図書がテーマごとに配置され,視覚障害者 を対象とした点字や拡大印刷の書籍に加えて見ることの 本質を再確認できるような書籍を多数配置している。 ビジョンパークでは公益社団法人NEXT VISIONが主 催する視覚障害者の情報共有の場である「ロービジョン のつどい」,視覚障害と企業担当者の相互理解を深めて 視覚障害者の就労の可能性を広げることを目的とした 「isee! Working Awards」などを開催するなどの企業連携
も進めている。 また教育分野でも盲学校からも教育相談担当者や進路 指導担当者に参加頂き,就学相談や就労相談の窓口を パーク内に開設,盲学校の児童生徒がビジョンパークで クライミングの体験などを行うなど,ビジョンパークと いう場を通して医療・就労・教育・福祉の枠を超えた連 携活動を行っている。 ビジョンパークの空間作りに込めた想い ビジョンパークは視覚障害により失われた日常生活を 取り戻せる学びと気づきの公園であり,社会と人をつな ぐ成長する空間というコンセプトを持っている。そのた め視覚障害者が視力低下による困難さを抱える人々が生 きる意欲を取り戻すための気づきを提供し,当事者と支
The Japanese Journal of Psychonomic Science
2020, Vol. 39, No. 1, 47–48
講演論文
Copyright 2020. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Kobe Eye Center Hospital, 2F, 2–1–
8 Minatojimaminamimachi, Chuo-ku, Kobe, Hyogo 650– 0047, Japan. E-mail: [email protected]
48 基礎心理学研究 第39巻 第1号 援者がともに挑戦と成長できることを目的とした空間作 りとして設計が始まった。 デザインの特徴として視覚障害者には危険な存在とさ れてきた段差を廃止するのではなく,積極的に安全なレ ベルの段差を設置し当事者が白杖を使って学べる段差で 各エリア間を区切った。安全な段差によりグラデーショ ンを持って分けられた高低差のあるエリアは,失明宣告 による失望や悲観,自然からの癒し,生きるための情報 取得の意欲,社会への接続と仲間作りなどの視覚障害に 対する受け入れの状態や感情のレベルに合わせた空間体 験を提供している。 具体的には太陽光に癒される青の空間,自然の色彩や 自然音に心を癒される緑の空間,医療・福祉・教育・趣 味など多分野の情報提供の機会の提供を得る茶の空間, スポーツや趣味などの活動性の高い当事者と多様な過ご し方を提供する橙の空間,就労・就学環境をシミュレー タする白の空間などが存在する。 多様な形状のベンチや使い方を規定しないキッチンエ リアなど,多様な人々が自然に交わることで視覚障害者 が視力低下により失われた日常を取り戻し,晴眼者や医 療者をはじめ空間を共有する人々が見ることの本質への 気づき体験を生む空間の提供を目指している。 視覚障害者は目に障害のない人よりも五感を通して空 間を楽しめる工夫を試みていることは多く,身体的な空 間認知を助けるためにいくつかのレイヤーを重ね合わせ ることで,既存の手すりや段差解消のためのスロープの 代替となるように考慮した。身体の延長としてのベンチ と本棚などを兼ねた家具の渦巻き状配置,リズムのある 段差,床材の硬さ,柔らかさ,色彩のグラデーション, などを工夫している。 これらデザインを導入するにあたり,私たちは視覚障 害者と共に設計プロセスにおいて実寸大の模型による検 証を試み,何度か使っていけば使いこなせる安全な段差 をはじめ挑戦と成長を生む環境を作ろうと試みた。 模型による使用感や安全性の検証時の当事者の前向き な発言は私たちや関わった数名のデザイナーを大いに励 まし,この挑戦的な空間を実現する勇気を与えてくれる と同時に,私たちの障害者へ抱く偏見を覆し彼らの成長 という可能性を気づかせてくれた。 ビジョンパークはこれまでの常識の枠を外して空間の 主体者を安全運用する管理側から,空間の利用者である 視覚障害者の想い,気づき,成長などに焦点を当てた空 間デザインである。高齢社会に突入した現在の日本にお いて,限られた医療資源の中で障害種別にとらわれるこ となく,その場を過ごすすべての人がともに気づき,学 び,成長できる場作りも新しい医療の形であると私たち は信じている。またビジョンパークはそのような新しい 医療を生む空間として,スタッフを含めて当事者ととも に成長していける空間であると日々実感している。 ビジョンパークの運用への支援のお願い 公益社団法人NEXT VISIONは賛助会員やふるさと納 税等の支援を中心としてビジョンパークの運営をはじめ 視覚障害者の理解と活性化を目指した活動を行なってい る。当事者や当事者家族をはじめ,眼科医療に関わるす べての方々にとって今後の医療を作る活動を継続するた めにもみなさまのご理解とご支援をいただきたい。ぜひ 神戸にお越しの際はお気軽に見学に来て,元気な視覚障 害者の笑顔に新しい医療の可能性を感じてほしい。