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ヤシガニッキ : 飼育下におけるヤシガニ小型個体の脱皮について

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C A N C E R 16 (2007), p. 39-42

ヤシガニッキ:飼育下におけるヤシガニ小型個体の脱皮について

はじめに

ヤ シガニBirgus latro (Linnaeus, 1767) は,オ カヤドカ リ科 に 属 す る 大 型 の 十 脚 甲 殻 類 で , イ ンド ー西 太 平 洋 の 熱 帯 ・ 亜 熱 帯 島 嶼 に 広 く 分 布 し て い る 国 内 で は 琉 球 列 島 に 分 布 し , 特 に 宮 古 諸 島 と 八 重 山諸 島 で比較的個体数が多い . しか し近年,開発などに よる生息環境の悪化や珍味食 材としての過剰捕獲などによって大型個体を中 心 に減少傾向にあり,環境省 ・沖縄県の レッドデー タプックでは共に絶滅危惧

II

類に,水産庁の「日 本の希少な野生水生生物に関するデータブック」 では希少種にそれぞれ該当している (武田, 1995; 藤田 ,2005; 諸喜田 ,2006). ヤ シガ ニは, 成 体 で は 貝 殻 を 持 た な い が , グ ラウ コト エ 幼 生 ( 最 終 幼 生 ) に 変 態 後 し ば ら く は,オカ ヤド カ リ類の よ うに巻貝の中で過ごすこ とが知られている (Reese, 1968; Reese & Kinzie, 1968; Kadiri-Jan & Chauvet, 1998). しかし,野外 における本種小 型個体の採集例 はそれほど多くな く,生息場所など生態 的 に不明な点が多い . 著者らは近年,琉球列島の南部に位置する宮古 島の海岸から,甲長 (CL) が 1 - 2 c m程度の小 型 ヤ シガニ個体を複数発見した . それらのうちの

2

個体を研究室にて 「ペッ ト」として飼育してい たところ,脱皮が確認されたため,それを契機に 観 察 記 録 「 ヤ シガ ニ ッキ (ヤ シガ ニ 日記)」 をつ けることにした. 小 型 ヤ シガニ個体の野外での生 息環境や形態などの詳細に関しては,別途報告す る予定であり(藤田,準備中),本報では,飼育下 におけるヤシガニ小 型個体の脱皮について紹介し たVヽ.

Yoshihisa FuJITA & Akane ITO: Notes on the molt-ing behavior of juvenile coconut crab Birgus latro (Linnaeus, 1758) reared in the laboratory

材料と方法

飼 育 に 用 い た

2

個 体 の ヤ シ ガ ニ は , 宮 古 島 の 海 岸 に お い て2005年4月22日と同年5月8日に採 集 し た . 以降, 2005年4月22日 に 採 取 し た 雌 を 「ヤ シガ ニ個 体

1

」 とし,

5

8

日 に 採 取 し た 雌 を 「ヤシガニ個体

2

」とする.採集したヤシガニ は,研究室に持ち帰り, 1辺 が16 c mの立方形の 水 槽 に 個 別 に 収 容 し て 飼 育 し た 水 槽 内 に は , 淡 水で湿らせた土を 4 - 8 c m敷き詰め,石を配置 した .水は,飲み水としては与えなかったが,土 が常に濡れるように数日ごとに霧吹き または コ ッ プで水槽内に散布した .餌は,基本的に熱帯魚用 配合飼料を与え (稀に乾燥イ トミミズ,オカヤド カ リゼリ ー, 果 物 も 与 え た ),毎 日 新 し い 餌 と 交 換した (食べていない場合も交換した ). 先にも述べた よ うに,当初はペッ トとして飼育 していたため,特に飼育デー タをとっていなかっ たが,脱皮を初めて確認した2005年11

24日から 気温(室温),残餌,その 他 特 徴 的 な 行 動 な ど を 毎日記録した . また,ヤシガニの脱皮前後の体サ イズの変化 を 明らかにするため, Fletcher et al. (1990) の計測 方 法 に 従 い , 甲 長 (C T + R ) と , 後 甲 長 (TL) を計測した.

結果と考察

1. 飼 育 記 録 ヤ シガ ニ個 体1は, 2006年5

14日に水槽から 脱 走 し て 斃 死 す る ま で の387日 間 飼 育 す る こ と が でき,飼育期間中の2005年11月24日と, 2006年5

6 日の2回の脱皮を確認した . 甲長と後甲長の 計測は,最初の脱皮が終了した後に行い,その時 の甲長は16.09 m m, 後甲長は6.96 m mであった. また, 2回目の脱皮後は,甲長16.78 m m, 後 甲 長

(2)

40 ヤシガニ ッキ:飼育下におけるヤシガニ小型個体の脱皮について 7.21

m m

になった . 一 方 の ヤ シ ガ ニ 個 体2は, 2006年 9

26日に 脱 皮 に 失 敗 し て 死 亡 す る ま で の506日間飼育する ことができ,飼育期間中の2006年 5月 6日と2006 年9月26日にの2回 の 脱 皮 (後 者 は 途 中 で 失 敗 して死亡 ) を確認した. 1回 目 の 脱 皮 前 の 甲 長 は20.68

m m,

後甲長は9.14

m m

であったが, 1回 目の脱皮後には甲長21.51

m m,

後甲長9.33

m m

に なった (2回目の脱皮途中で死亡したため,計測 は行わなか った ). 2 . 「巣穴」について ヤシガニは, 日中には石の下に「穴」を掘って 潜んでおり (図1 A ), 夜 間 に 穴 か ら 出 て 餌 を 食 図1 ヤシガ ニ小型個体の飼育下における行動. べ て い る の が 観 察 で き た (図1 B ). た だ し , 夜 間 で も 光 を 当 て る と す ぐ に 動 き を 停 止 し た そ の 後 元 の 穴 に 戻 り , 入 り 口 に 土 を 盛 っ て 完 全 に 塞 い で い た し か し , 同 じ 穴 で は な く , 水 槽 内 の 別 の石の下に別の穴を掘る ことも高頻度に観察され た ま た , 飼 育 期 間 中 に は , 糞 な ど で 土 が 汚 れ た 際にたびたび掃除をし,穴を破壊してしまうこと になったが,ヤシガニはそ の度に新たな穴を掘っ て身を隠していた. Fletcher (1993) は,小型の ヤ シ ガ ニ 個 体 が 見 つ か り に く い 要 因 の 一 つ と し て,穴に潜むことを指摘している .今回の観察に おいても, 日中はほぽ例外なく土中の穴に潜んで い る こ と が 確 認 さ れ た ま た , 必 ず し も 元 の 穴 に 戻るわけでもない ことか ら,野外においても「特 A , 日中に石の下に穴を掘 って潜んでいるヤシガ ニ (矢印は餌の配合餌料); 8 , 夜間に穴から出て餌を食ぺるヤシ ガニ;

c.

ヤシガ ニの脱皮の様子と石の下に掘られた脱皮用の穴; D . 脱皮に失敗して死亡したヤシガニ (個体 2 )

(3)

伊 藤 茜

41

定の巣穴」は持たないことが示唆された . これ ら の生態が,ヤシガニ小型個体が野外において発見 されにくい要因になっているものと思われる.な お,実際に野外において転石下の土中わずかな穴 を掘 って潜んでいた個体を発見している (藤田, 準備中 ).

3 .

脱皮に関連する行動について 飼育期間中の4回の脱皮のうち ,個体1の最初 の脱皮

(2005

11

24

日) を除く

3

回の脱皮につ いては,以下のような脱皮の過程を観察すること ができた . まず,脱皮に先立ち,腹部が著しく膨らむのが 観察された .残餌の確認記録からは,脱皮前の

21

- 2 7

日間は餌を全く食べていなか った.脱皮は, 石の下の「穴」で行われた.脱皮時の穴は,通常 に日中に潜むための穴とは異なり,ヤシガニ個体 よ りも

2

倍程度の広さのほぼ円形の空間で, まわ りの土は固められており,崩れにくくな っていた (図1 C ). 脱皮過程の詳細な観察は出来なかった ものの,脱皮後に自分の脱皮殻を食べているの が 観 察で きた.脱皮後は , 暫 く 穴 内に留まって いたが,

3 - 7

日で餌を食べるようにな った な お,ヤシガニ個体

2

は,

2

回目の脱皮時に死亡し たが,頭胸甲,腹部,前方の胸脚,その他前方の 付属肢 (触角や口器など)が引 っかか った状態で あった (図1 D ). ヤ シ ガ ニ の 脱 皮 習 性 や 成 長 に 関 す る 報 告 は , 過去に数例の研究が知られているが

(H eld, 1963;

A mesbury,

1980; Fletcher et al.

1990; Fletcher,

,

1993;

田内,

1996

など),以下の点で過去 の研究と同様の観察ができた :1 )脱皮前には腹 部が膨らむ;2 )脱皮は巣穴内で行われる; 3 )脱 皮前には巣穴に閉じこもり,餌を食べない (水も 飲まない );4 )脱皮は頭胸甲と腹部の境か らはじ まる (本観察での ヤシガニ個体

2

の脱皮死亡の状 態か ら追認できた );5 )脱皮後に自分の脱皮殻を 食べる; 6 )小型個体は ,殻の硬 化ま でを含む脱 皮後過程を

2 - 3

日で終える. 本観察では, ヤ シ ガ ニ 個 体

1

367

日間の飼 育 で

2

回 の 脱 皮 , ヤ シ ガ ニ 個 体

2

506

日間の 飼 育 で

2

回の脱皮を観察できた. しかし,

Held

(1963)

は,甲長

20.8 m m (10 m m

T L) の ヤ シ ガ ニを

463

日間飼育し ,その期間中に

4

回の脱皮を 観察し,最終的に甲長

3 0 m m

までの成長を確認 している.同様に,

Fletcher et

al.

(1990)

もバ ヌアツにて飼育 実験 を行い,

1

年間で最大

3

回の 脱皮を 記録し ている.飼育条件としては,

H eld

(1963)

は,気温

26-30

℃ ,湿度

70-90 %

の条 件 で,コプラ,新鮮な ココナ ツ,パン, リンゴ, オ レ ン ジ , バ ナ ナ , 牛 肉 , 魚 肉 , 淡 水 お よ び 海 水を与えてお り,

Fletcher et al. (1990)

は, 鶏 肉 ペ レ ッ ト, 野菜, ココナ ツ,そして十分な淡水 および海水を与えて飼育していた.本飼育では, 飼育時の 気 温 は

13.8- 29.6

℃ で,餌は配合餌科が 主で, 水 も 飲 み 水 と し て は 与 え て い な か った. ヤ シ ガ ニ は , 野 外 お よ び 室 内 に お い て 海 水 や 淡 水を飲む行動が知られおり

(Held, 1963; Fletcher

et

al., 1990; Fletcher, 1993),

さらに

Fletcher et

al.

(1990)

は,脱皮場所での水の欠如が成 長率低下 の原因となる可能性を指摘している.従って,飼 育温度,餌や給水などの飼育条件が,脱皮回数に 影押を与えている可能性が考えられ,今後,飼育 条件を改善する必要があると思われる. ヤシガニ小型個体は,野外で発見されることが 稀なため,長期の飼育観察例が少ない. しかし, 著者らの調査に より (藤田,準備中 ),野外での小 型ヤシガニ個体の生息環境が解明されつつあり, 従 来 に比べ小型個体の採集が容易になるものと予 想される (事実,著者らは

2007

5

月現在,甲長

18.73-27.83 m m,

後 甲 長

7.96- 11.82 m m

の 小 型 ヤシガニ

5

個体を飼育している ).今後,これら の小型ヤシガニ個体について , より詳細な飼育観 察や形態観察を行うことで,これまで情報の乏し か った小型ヤシガニの成長,生態,行動が明 らか になると思われる. 謝 辞 宮古島海岸 でのヤシガニ小型個体採集に協力し ていただいた,琉球大 学 の 旧 諸喜 田研究 室 の池 田広志氏に感謝します. また ,ヤ シガニの脱皮に 関する様々な文献をご教授ただいた琉球大学名 誉 教授の諸喜田茂充先生 に深謝いたします.

(4)

42 ヤシガニ ッキ :飼育下に おけ るヤ シガニ小型個体の脱皮について

文 献

Amesbury, S. S., 1980. Biological studies on the coconut crab (Birgus latro) in the Mariana Islands. U niversity of G u a m Technical Report N o. 17. 39pp.

Fletcher, W.

J..

Brown, I. W., & Fielder, D . R., 1990. Growth of the coconut crab Birgus latro in Vanuatu. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology,

141: 63-78.

Fletcher, W.

J..

1993. Coconut crabs. In: A Wright & L. Hill (eds.) , Nearshore Marine Resources of the South Paci.fic. pp. 643-681, ! C O D, Canada.

H eld, E. E . 1963. Moulting behaviour of Birg, 四 latro L.

Nature, 200: 799-800.

Kadiri-Jan, T., & Chauvet, C .. 1998. Distribution of the juvenile coconut crab, Birgus latro (L.), on the island of Lifou, N e w Caledonia. Ecoscience, 5: 275-278. Reese, E . S., 1968. Shell use: an adaptation for

emigra-tion from the sea for the coconut crab. Science, 161: 385-386.

Reese, E. S.,& Kinzie III, R. A , 1968. T he larval develop-m ent of the coconut or robber crab Birgus latro (L.)

in the laboratory (Anomura, Paguridea). C rustaceana, Supplem ent, 2: 117-144. 諸 喜 田茂充, 2006. 日本 の 絶 滅 の お そ れ の あ る 野 生 生 物 ー レッ ドデータプ ッ クー 7 クモ形類 ・甲殻類等 」. pp. 54, 財 団 法 人 自 然 環境研究センター. 田内裕之, 1996. ヤ シガニの脱皮習性. C ancer, 5: 7-9. 藤田喜久, 2005.ヤ シガニ .沖縄県編.「改 訂 ・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 (動物編 ) レッ ドデータおきなわ」. pp. 205-206, 沖縄県. 田内裕之 ・ 小 西 光 一,1996. ヤ シ ガ ニ の 餌科と成長. C ancer, 5: 3-6. 武 田 正 倫, 1995. ヤ シ ガ ニ. 日 本 水 産 資 源 保 護 協 会 編 「日 本 の 希 少 な 水 生 生 物 に 関 す る 基 礎 夜 (II)」, pp. 625-630, (社 )日本水産資源保護協会. (藤田喜久:琉球大学大学教育センター /

N P O

法人海の自然史研究所 伊藤 茜 :琉球大学医学部)

参照

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