日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-64 424
-見返し対処の心理的要因の検討―競争心と自己効力感との関連について―
○岸田 萌、池田 浩之 兵庫教育大学大学院学校教育研究科人間発達教育専攻臨床心理学コース 目的 怒り(Anger)の機能は 8 つに分けられ, その中で もエネルギー機能は心身を活性にすることに役立ち, 状況を克服するために必要なエネルギーを準備すると さ れ て い る (Schwenkmezger,Steffgen, &Dusi, 2004)。この怒りが状況を克服するために必要なエネ ルギーを準備する機能として作用している例として, “見返し対処”が考えられる。 “見返し対処”とは,怒りが喚起された際に怒り対 象者を見返そうと考え,自身が努力行動を行い,直接 対象者に表出しない自己完結的な対処のことである (関屋・小玉,2013)。 そもそも「見返す」という言葉は,「相手をしのぐ 状態にある自分を誇示する」という意味を持ってい る。そのため,相手に勝つ,あるいは相手に負けたく ないという動機づけの一つとして競争心が挙げられ る。怒りが喚起された際に怒りを向ける対象をライバ ルとし,ライバルに負けたくないと思うことで見返し 対処を行うと考えられる。このことから,怒りが喚起 される場面において,競争心が見返し対処志向性に何 らかの影響を与えるのではないかと予想される。 そして,自己効力感が高いほど目標としている行動 に挑戦しようと努力する(Bandura&Cervone,1983)。 つまり,自己効力感が高いことで「相手に勝つ」とい う目標に向けた努力を行うと考えられる。そのため, 自己効力感についても考慮する必要がある。 見返し対処のモデル図をFigure 1に示す。個人の特 性として競争心,自己効力感,特性怒りが存在する。 怒りが喚起されるような状況になると,状態怒りが喚 起され,感じた怒りに対しての認知が生じる。怒りに 対する認知には様々なものがあり,怒りの自己陳述尺 度(増田他,2005)では,「他者からの不当な扱い」「敵 意に満ちた考え」「報復の正当化」「自己への叱責」「他 者からの非難」に分けている。例えば,「他者からの 不当な扱い」だと怒りを捉えた場合,怒りを向ける相 手を見返そうとする見返し対処志向性に繋がると考え られる。 しかし,留意しなくてならない点として,見返し対 処志向性に怒りを向ける対象への報復が含まれている 可能性が挙げられる。上記で述べたように,「見返す」 という言葉は,「相手をしのぐ状態にある自分を誇示 する」という意味を持つ。相手をしのぐ自分を誇示す る事に,相手への報復や復讐といった意図が入らない とは言いきれない。そのため,本研究では相手に直接 的に報復する対処と考えられる“仕返し対処”と比較 する。本研究では,怒りに対する認知の違いによる意 欲の特徴の検討と,怒り感情喚起場面における怒り, あるいは競争心が意欲に及ぼす影響の検討を目的とす る。 近年,怒りや怒りの表出・抑制が悪影響を与えると いう研究が多い。個人によって怒りへの印象は異なる が,怒りへのネガティブな印象は,怒りを感じる自己 に対する悪影響を与える場合も考えられる。そのた め,怒りが機能的に作用する場合を取り上げること で,怒りを肯定的に捉えられるようなポジティブな側 面を示し,過度な自己否定を避けるような知見を得ら れることが期待される。 研究の限界としては,質問紙と実際の反応が異なる 可能性がある点,また怒りが喚起される場面がこれに 限定しない点が挙げられる。 本調査 目的 怒り喚起場面の有無によって,怒りや競争心,自己 効力感に変化が見られるのかを検討する。 質問紙 フェイスシート(年齢,性別,所属), ( a )怒り自己陳述尺度(ASSQ;増田他,2005) ( b )多面的競争心尺度(太田,2010) ( c ) 怒 り 行 動 尺 度 邦 訳 版(STAXI; 鈴 木・ 春 木, 1994) ( d )特性的自己効力感尺度(成田ら,1995) ( e ) どのくらいはっきりとイメージできたかを 5 件法。 手続き 大学院生 6 名(男性 3 名,女性 3 名),大学生(男 性 2 名,女性 1 名)を対象とした質問紙調査を実施し た。 結果 怒り喚起場面は大体イメージをしてもらえた。全体 的に「競争回避」について,怒り感情が喚起される場 合の方が,怒り喚起場面を提示しなかった場合より得 点が低くなっていた。また,「負けず嫌い」は 8 以外 女性の方が男性より得点が高かった。そして,状態怒 りが高くなった 3 と 6 は,「自己効力感」が他と比較 して大きく低下し,「他者への非難」が高くなってい た。一方で,同じように状態怒りが高くなった 8 と 9日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-64 425 -は,「自己効力感」が増加し,「手段型競争心」が低下 し,「他者への非難」が低下し,「他者からの不当な扱 い」が高くなった。加えて, 3 は「自己効力感」が低 下したが大きくは低下していない。また,「他者から の不当な扱い」も高くなっていく。 結果から,女性は男性より「負けず嫌い」の得点が 高いこと,状態怒りが喚起された場合,自己効力感の 高低によって怒りへの認知も異なると考えられる。太 田が多面的競争心尺度を作成した際には性差は見られ なかった。しかし,別の競争心について測定する尺度 では性差が生じている場合も考えられる。また、江本 (2000)は,自己効力感の認識に影響を与える要因の 一つとして,原因の帰属を挙げている。つまり,相手 の行動に対して怒りを感じるのか,相手が自分にした 行動に対して怒りを向けるのかといった怒りの原因を 何にするかによって自己効力感への認識に違いが見ら れたのではないかと考えられる。 今後の展望 今後は,怒り感情が喚起されない場合,あるいは怒 り感情が喚起された場合に,競争心や自己効力感にど のような変化が見られるのか調査を進めていく必要が ある。それによって,見返し対処を行いやすい心理的 要因を検討していく。