脳卒中片麻痺患者における前庭動眼反射が歩行能力に及ぼす影響
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(2) 脳卒中片麻痺患者の VOR が歩行能力に及ぼす影響. 177. 象とした脳卒中患者でも同様の結果が得られた。DGI は二重課 題処理能力を必要とする応用動作の評価であり,脳卒中患者の GST が応用動作に影響を及ぼす可能性がある。DGI は頸部運動 や頭位の変化を伴う動作を評価することが多く,姿勢を制御す るために前庭覚が貢献している。そのため,前庭機能のひとつ である VOR が反映される GST と高い相関関係を示したと考え られる。一方,GST の疾患特異性について,前庭機能障害患者 では VOR の機能障害が直接,歩行能力を低下させる要因と示 唆されている 5)。本研究の対象者は前庭機能の直接的な障害が ないにもかかわらず,GST が脳卒中患者でも応用動作に関与す る可能性がある。さらに,GST と DGI を組み合わせた評価では, 転倒に対して非常に高い感度,特異度が示されている 6)。VOR 図 1 Gaze Stabilization Test と Dynamic Gait Index の関係. は応用動作に対して非常に重要な役割を担い,転倒を防止する ための姿勢安定性に寄与することが考えられる。 重回帰分析を用いて GST に影響を及ぼす因子を解析した結. プワイズ重回帰分析を行った。. 果,TUG と DGI が選択された。このふたつの歩行能力評価に. 結 果. 共通するのは,頭部運動を伴いながら移動することである。方. 対象者の基本特性および各計測結果は表 1 に示す。本研. 向転換や頸部運動は,これらの動作に先行して眼球運動が生じ. 究の脳卒中患者は GST が 84.1 ± 26.0 deg/sec であった。一. る。この眼球運動は VOR と密接な関係が認められるため,本. 方,GST と歩行能力の相関関係は 10 m 歩行速度が r = 0.375,. 研究の結果が得られたと考えられる。. TUG が r = ‒ 0.202,DGI が r = 0.649 と な り,DGI は 有 意 な. 本 研 究 は GST を 行 う 際 に 常 時, 視 力 表 を 提 示 し て お り,. 相関を認めた(p < 0.001)。GST と DGI の関係は図 1 に示す。. VOR だけでなく追跡眼球運動の機能が混在した可能性があ. ステップワイズ重回帰分析の結果,GST に影響する独立変数. る。今後は,表示した視力表の最小認識時間を確立したうえで. として TUG(p = 0.009)と DGI(p < 0.001)が選択された。. VOR が身体能力に及ぼす影響を調査していく必要がある。. 得 ら れ た 回 帰 式 は,GST = 26.192 + 3.203 × DGI + 0.51 ×. 文 献. 2 TUG(自由度調整済み決定係数(R* )は 0.496)であった。. 考 察 本研究は脳卒中片麻痺患者における VOR が歩行能力に及 ぼす影響を検証した。その結果,脳卒中片麻痺患者の GST は 84.1 ± 26.0 deg/sec で あ っ た。GST に つ い て, 先 行 研 究 では Goebel ら 3) は,健常者が 147.40 deg/sec と示しており, Whitney ら 5)は,高齢健常者が 124.4 deg/sec と報告している。 GST は VOR を評価するための代表的な方法である。このこと から脳卒中患者の VOR 機能が健常高齢者より低下している可 能性がある。さらに,これらの患者は脳損傷による直接的な前 庭機能の低下だけでなく,脳卒中の発症によって転倒恐怖心が 強くなることも影響すると考えられる。健常高齢者では GST と転倒恐怖心との関係性が示されており 6),脳卒中患者も様々 な機能障害から転倒に対する恐怖心が強くなることで,自ら動 作速度を制限して前庭覚の活動を低下させる可能性がある。 歩行能力について,先行研究では健常高齢者における GST と DGI の有意な正の相関関係が認められており 6),本研究で対. 1)Jørgensen L, Engstad T, et al.: Higher incidence of falls in long-term stroke survivors than in population controls: depressive symptoms predict falls after stroke. Stroke. 2002; 33: 542‒547. 2)Bonan IV, Marquer A, et al.: Sensory reweighting in controls and stroke patients. Clin Neurophysiol. 2013; 24(4): 713‒722. 3)Goebel JA, Tungsiripat N, et al.: Gaze stabilization test: a new clinical test of unilateral vesitibular dysfunction. Otol Neurotol. 2007; 28: 68‒73. 4)Shumway-Cook A, Woollacott MH: Motor Control: translating research into clinical practice. 4th ed, Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2012, pp. 415‒473. 5)Whitney SL, Marchetti GF, et al.: Gaze stabilization and gait performance in vestibular dysfunction. Gait Posture. 2009; 29: 194‒198. 6)Honaker JA, Lee C, et al.: Clinical use of the gaze stabilization test for screening falling risk in communitydwelling older adults. Otol Neurotol. 2013; 34: 729‒735..
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