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脳卒中片麻痺患者における前庭動眼反射が歩行能力に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 176 43 巻第 2 号 176 ∼ 177 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 平成 26 年度研究助成報告書. 表 1 対象者の基本特性および各測定結果 年齢(歳). 脳卒中片麻痺患者における前庭動眼反射 が歩行能力に及ぼす影響 光武 翼 1)2),岡真一郎 3),堀川悦夫 2). 性別 男性 / 女性(名). 30 / 9. 疾患名 出血 / 梗塞(名). 10 / 29. 損傷側 左 / 右(名). 18 / 21. 経過期間(日). 63.7 ± 42.5. FMA-LL(点). 28.8 ± 6.5. FIM(点). 1). 白石共立病院リハビリテーション部. 2). 佐賀大学大学院医学系研究科. 3). 国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科. キーワード:脳卒中片麻痺患者,前庭動眼反射,Dynamic Gait Index はじめに. 70.4 ± 10.8. 102.7 ± 16.4. GST (deg/sec). 84.1 ± 26.0. 10m 歩行速度(m/s). 0.86 ± 0.45. TUG (sec). 22.9 ± 21.9. DGI(点). 14.4 ± 7.6. FMA-LL: Fugl-meyer assessment-lower limb, FIM: Functional independence measure, GST: Gaze stabilization test, TUG: Timed up and go test, DGI: Dynamic gait index.  脳卒中患者における転倒の危険性は健常高齢者より高く 1), その要因のひとつとして,視覚,体性感覚,前庭覚から構成さ れる感覚戦略が関与している 2)。脳卒中患者は視覚,体性感覚. 下,DGI)を行った。. および前庭覚に対して刺激を加えたときの姿勢安定性が健常者.  GST は先行研究を参考にして実施した. 2). 3). 。計測環境は防音. より低下することが示されている 。このことは姿勢だけでな. の個室で対象者は背もたれがある椅子座位で行った。対象者の. く移動に関して,直線歩行より多重課題遂行時の応用的な歩行. 1.5 m 先にはコンピュータ画面上に視力表を表示した。視力表. に影響を及ぼすことが予測される。直線歩行では頭部が正中位. はアルファベットの E を用いた E チャートを使用した。これ. であれば視界をある程度一定に保つことができるため視覚情報. は画面中央に表示した E を上下左右の 4 方向に対してランダム. が得られやすいが,方向転換や歩行しながら上下左右を見る動. に提示し,対象者には文字の空いている方向を口頭で示すよう. 作,階段昇降などの応用的な歩行は視線が移動しているときに. に指示した。最初に正しく 3 回認識した最小の指標を対象者の. 網膜上にずれが生じるため視覚情報の低下が生じる。これを前. 静止視力とした。数値は logMAR で示した。次に,対象者の. 庭覚や体性感覚情報によって補完することで姿勢安定性を保. 頭部上にセンサ(ATR-Promotions 社製,小型無線多機能セン. 持する。特に頭位の変化が生じる場合には体性感覚より前庭. サ TSND121)を設置し,ヘッドバンドで固定した。コンピュー. 覚が活動する。その前庭機能の中でも前庭動眼反射(vestibulo-. タ画面上には先行研究に基づいて静止視力の 0.2 logMAR 大き. occular reflex;以下,VOR)は,頭部運動時にこの方向と反対. い値を用いた. に眼球運動を行うことで網膜像のずれを防ぎ,姿勢を制御する. 態で頸部の左右回旋運動を行い,画面上に表示される E の方. ための視覚情報入力に重要な役割を担う。しかし,脳卒中患者. 向を示すように指示した。頸部回旋運動は検査者によって他動. の VOR と歩行能力との関係性を明らかにした論文は我々が検. 的に実施し,徐々に速度を上げた。頸部回旋運動速度の上昇に. 索する限り散見されない。本研究の目的は脳卒中患者の VOR. 伴い,画面上に示される E の方向を認識できなくなった時点. が直線歩行や応用歩行に及ぼす影響を調査することとした。. で終了とした。解析は SyncRecordT(ATR-Promotions 社製). 対象と方法. を使用し,左右方向の頸部回旋運動に対する角速度を算出し,.  対象は画像所見および臨床所見によって脳神経外科医および. 計測した最大回旋速度の平均を実効値とした。サンプリングレ. 神経内科医が脳梗塞,脳出血と診断された患者とした。本研究. イトは 1 kHz とした。. の適応基準は当院の回復期病棟入院患者で歩行能力が監視以上.  DGI は Shumway-Cook らが考案し 4),歩行中の速度や方向. で可能であり,かつ,動作に対する指示理解が可能な 41 名と. 変化,上下左右への視線移動,障害物回避などを要求する 8 つ. した。除外基準は視覚,前庭覚に対して機能障害を認められる. の課題から構成される。各課題に生じた変化に対する修正能力. 患者とした。本研究の対象は,除外基準に抵触しなかった患者. や適応能力を検査者の観察に基づいて評価する尺度である。こ. 39 名とした。対象の基本特性は表 1 に示す。なお,本研究は. の評価法は脳卒中患者において高い信頼性と妥当性が得られて. 佐賀大学医学部倫理委員会の承認を得て実施し,すべての対象. おり,臨床現場で用いるうえで特別なトレーニングが必要ない. 者には研究を行う前に目的,方法,リスクについて文章,口頭. こと,評価に要する時間が少ないこと,多重課題遂行時の処理. による説明を十分に行い,署名により同意を得られた者を対象. 能力を評価する尺度として内容的妥当性があることが示されて. とした。. いる。.  本研究は VOR を評価するために Gaze Stabilization Test(以.  統計解析は,本研究で行った GST と歩行能力を示す各変数. 下,GST)を計測し,歩行能力については 10 m 最大歩行速度,. の関係性は Pearson の積率相関分析を行い,さらに,GST を. Timed Up and Go test(以下,TUG),Dynamic Gait Index(以. 従属変数,10 m 歩行速度,TUG,DGI を独立変数としたステッ. 3). 。これらの条件で対象者は,画面を注視した状.

(2) 脳卒中片麻痺患者の VOR が歩行能力に及ぼす影響. 177. 象とした脳卒中患者でも同様の結果が得られた。DGI は二重課 題処理能力を必要とする応用動作の評価であり,脳卒中患者の GST が応用動作に影響を及ぼす可能性がある。DGI は頸部運動 や頭位の変化を伴う動作を評価することが多く,姿勢を制御す るために前庭覚が貢献している。そのため,前庭機能のひとつ である VOR が反映される GST と高い相関関係を示したと考え られる。一方,GST の疾患特異性について,前庭機能障害患者 では VOR の機能障害が直接,歩行能力を低下させる要因と示 唆されている 5)。本研究の対象者は前庭機能の直接的な障害が ないにもかかわらず,GST が脳卒中患者でも応用動作に関与す る可能性がある。さらに,GST と DGI を組み合わせた評価では, 転倒に対して非常に高い感度,特異度が示されている 6)。VOR 図 1 Gaze Stabilization Test と Dynamic Gait Index の関係. は応用動作に対して非常に重要な役割を担い,転倒を防止する ための姿勢安定性に寄与することが考えられる。  重回帰分析を用いて GST に影響を及ぼす因子を解析した結. プワイズ重回帰分析を行った。. 果,TUG と DGI が選択された。このふたつの歩行能力評価に. 結  果. 共通するのは,頭部運動を伴いながら移動することである。方.  対象者の基本特性および各計測結果は表 1 に示す。本研. 向転換や頸部運動は,これらの動作に先行して眼球運動が生じ. 究の脳卒中患者は GST が 84.1 ± 26.0 deg/sec であった。一. る。この眼球運動は VOR と密接な関係が認められるため,本. 方,GST と歩行能力の相関関係は 10 m 歩行速度が r = 0.375,. 研究の結果が得られたと考えられる。. TUG が r = ‒ 0.202,DGI が r = 0.649 と な り,DGI は 有 意 な.   本 研 究 は GST を 行 う 際 に 常 時, 視 力 表 を 提 示 し て お り,. 相関を認めた(p < 0.001)。GST と DGI の関係は図 1 に示す。. VOR だけでなく追跡眼球運動の機能が混在した可能性があ. ステップワイズ重回帰分析の結果,GST に影響する独立変数. る。今後は,表示した視力表の最小認識時間を確立したうえで. として TUG(p = 0.009)と DGI(p < 0.001)が選択された。. VOR が身体能力に及ぼす影響を調査していく必要がある。. 得 ら れ た 回 帰 式 は,GST = 26.192 + 3.203 × DGI + 0.51 ×. 文  献. 2 TUG(自由度調整済み決定係数(R* )は 0.496)であった。. 考  察  本研究は脳卒中片麻痺患者における VOR が歩行能力に及 ぼす影響を検証した。その結果,脳卒中片麻痺患者の GST は 84.1 ± 26.0 deg/sec で あ っ た。GST に つ い て, 先 行 研 究 では Goebel ら 3) は,健常者が 147.40 deg/sec と示しており, Whitney ら 5)は,高齢健常者が 124.4 deg/sec と報告している。 GST は VOR を評価するための代表的な方法である。このこと から脳卒中患者の VOR 機能が健常高齢者より低下している可 能性がある。さらに,これらの患者は脳損傷による直接的な前 庭機能の低下だけでなく,脳卒中の発症によって転倒恐怖心が 強くなることも影響すると考えられる。健常高齢者では GST と転倒恐怖心との関係性が示されており 6),脳卒中患者も様々 な機能障害から転倒に対する恐怖心が強くなることで,自ら動 作速度を制限して前庭覚の活動を低下させる可能性がある。  歩行能力について,先行研究では健常高齢者における GST と DGI の有意な正の相関関係が認められており 6),本研究で対. 1)Jørgensen L, Engstad T, et al.: Higher incidence of falls in long-term stroke survivors than in population controls: depressive symptoms predict falls after stroke. Stroke. 2002; 33: 542‒547. 2)Bonan IV, Marquer A, et al.: Sensory reweighting in controls and stroke patients. Clin Neurophysiol. 2013; 24(4): 713‒722. 3)Goebel JA, Tungsiripat N, et al.: Gaze stabilization test: a new clinical test of unilateral vesitibular dysfunction. Otol Neurotol. 2007; 28: 68‒73. 4)Shumway-Cook A, Woollacott MH: Motor Control: translating research into clinical practice. 4th ed, Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2012, pp. 415‒473. 5)Whitney SL, Marchetti GF, et al.: Gaze stabilization and gait performance in vestibular dysfunction. Gait Posture. 2009; 29: 194‒198. 6)Honaker JA, Lee C, et al.: Clinical use of the gaze stabilization test for screening falling risk in communitydwelling older adults. Otol Neurotol. 2013; 34: 729‒735..

(3)

図 1 Gaze Stabilization Test と Dynamic Gait Index の関係

参照

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