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日本臨床麻酔学会 vol.36

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Academic year: 2021

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が得られていなかった.また,DNAR 指示作成に おいて,患者本人の意思が尊重されてこなかったと いう実情もあった.  しかし,終末期医療における意思決定プロセスに おいて,CPR の差し控えに関する DNAR 指示のみ が特別ということはなく,DNAR 指示も「終末期 医療の倫理」の基礎に沿って行われるべきものであ る.すなわち,「終末期医療の倫理」の基礎とは, 医学的視点(治療の無益性,終末期の評価),倫理的 視点(本人意思,家族の代理判断,手続きの中立性・ 透明性),法的視点との整合性などに十分配慮がな されたものである必要がある. Ⅱ DNAR 指示に関する倫理的論点  DNAR 指示によって,ほかの生命維持治療まで Ⅰ 臨床現場における DNAR 指示実践の混乱  日本では「延命治療の差し控え・中止」について はマスコミの話題にもしばしばあがり,倫理的に大 きな問題となり議論が沸き起こってきた.ところが, DNAR 指示(Do Not Attempt Resuscitation)につい ては,DNAR の捉え方が,医療者個人個人で異なっ ており,DNAR 指示によって CPR(cardiopulmonary resuscitation;心肺蘇生術)以外の生命維持治療, 例えば人工呼吸器・心臓マッサージ・気管挿管・ア ンビューバッグ・人工透析・昇圧剤・抗生剤投与・ 経管栄養・補液・検査・利尿薬・抗不整脈薬などと いったさまざまな生命維持治療も制限されてしま い,実質的な延命治療の差し控え・中止となってし まっている可能性があったが,十分なコンセンサス 日本臨床麻酔学会第 35 回大会招待講演 日臨麻会誌 Vol.36 No.3, 308 〜 312, 2016

日本臨床倫理学会による「POLST(DNAR 指示

を含む

)作成指針」

作成の経緯と今後の展望

箕岡真子

*1 〜 3 [要旨]多くの病院で日常的に DNAR 指示(= Do Not Attempt Resuscitation)が出されている.

しかし,患者の自己決定権の尊重が不十分であったり,また,DNAR 指示の解釈が医療者個人個 人で異なり,DNAR 指示によって CPR 以外の生命維持治療も制限されてしまい,実質的な延命治 療の差し控え・中止となってしまっている可能性がある.そこで,このような DNAR 指示実践に おける混乱を改善するために,日本臨床倫理学会はワーキンググループを発足させ,日本中の医療 機関で使用可能な DNAR 指示の作成指針の雛形を発表した.当指針は【基本姿勢】【書式】【ガイ ダンス】よりなり,CPR 以外の他の医療処置に関する具体的指示も含んだ POLST = Physician Orders for Life Sustaining Treatment という形式を採用することにし,正式名称は「POLST (DNAR 指示を含む)作成指針」とした. キーワード: DNAR 指示,POLST,自己決定,事前指示,代理判断 著者連絡先 箕岡真子 〒 252-0242 神奈川県相模原市中央区横山 3-10-5 箕岡医院 * 1日本臨床倫理学会総務担当理事 * 2東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野客員研究員 * 3箕岡医院院長

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もが差し控えられているケースだけでなく,医療者 と家族だけで決定しているケース,すでに本人が意 思表明できないケースなど,医療現場の現状からあ がってきた DNAR 指示に関する倫理的論点には以 下がある. ① DNAR 指示は,誰が決めるのか? ② DNAR 指示は,いつ出すのか? ③ DNAR 指示によって,差し控えられたり,中止 される医療的処置の内容とは? ④ DNAR 指示を出すための適切なプロセスとはど のようなものか? ⑤ DNAR 指示後の適切な医療ケアとは? Ⅲ 「POLST(DNAR 指示を含む)作成指針」 『「生命を脅かす疾患」に直面している患者の 医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による 指示書』  そこで,日本臨床倫理学会は,このような DNAR 指示実践に関する混乱を改善するためにワーキング グループを発足させ, 基本姿勢 書式 ガイダ ンス を発表した.  DNAR 指示によって制限される医療的処置の内 容が,各医療者によって異なり,医療現場に混乱が 見られていたため,終末期の患者においては,CPR 以外の他の医療処置の内容についても具体的に十分 に考慮する必要があるという趣旨のもと,CPR 以 外の他の医療処置に関する具体的指示も含んだ POLST = Physician Orders for Life Sustaining Treatment という形式を採用することにし,正式名 称は「POLST(DNAR 指示を含む)作成指針」とした.  また,包括的定義のできない「終末期の患者」と いう文言は使用せず,「生命を脅かす疾患に直面し ている患者」に変更された. 1. 基本姿勢  日本臨床倫理学会の臨床実践に対する基本理念と して,患者の自律(Autonomy)を尊重することによ って医療の適切な意思決定プロセスを確保し,より よい医療者 - 患者関係を築くことがあげられる.し たがって倫理の観点から医療の質の向上を図るとと もに,医療現場の現状に即して,実際に現場で使え る指針を作成することを目指した.DNAR 指示に よって提供される医療の質を落としてはならない が,それは「その患者にとって」「その時点で」「最 もふさわしい医療ケア」を患者と共に考え,緩和ケ ア的アプローチを含めて提供することを意味する. 本指針は,DNAR 指示を医療者と患者・家族の両 者の協働作業(プロセス)として捉え,そのうえで, そのプロセスが公正であるための方策について提言 をしている. 2. 書式 ◦ 最初のページは,医師のサイン,および患者(代 理判断者)のサインからなる.   POLST(DNAR 指示)は,医師による正式な医療 指示(Physician s Order)であり,患者の願望で ある事前指示(Patient s Instruction)と混同しな いように注意が必要である. ◦ セクション A;心肺停止の場合;心肺蘇生術 (CPR)について一つを選ぶ  □  すべての心肺蘇生術を実施してください Resuscitate(Full Code)  □  心肺蘇生術を実施しないでください Do Not Attempt Resuscitation ◦ セクション B;心肺停止の状態ではない場合; 【生命を脅かす疾患に直面しているが,CPA の状 態ではない(脈拍が触知したり,呼吸をしている) 場合;一つを選ぶ】  □  苦痛緩和を最優先とする医療処置(a);緩和 ケア的処置(Comfort Measures)  □  非侵襲的医療処置(b);心臓モニタリングお よび投薬(経口・経静脈)処置等  □  侵襲的医療も含む医療処置 Full Treatment (c);気管内挿管・人工呼吸器,除細動等 ◦セクション C;その他の医療処置   人工的水分栄養補給

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  抗菌薬および血液製剤   人工透析 ◦セクション D;患者による事前指示 ◦セクション E;変更・更新(確認)した日 3. ガイダンス  倫理的に適切な意思決定プロセスを踏んで「書式」 を記入するために,以下の 6 章からなるチェックリ スト付きのガイダンスが作成された. 1. POLST(DNAR 指示を含む)作成に際して,患者 本人・家族(関係者)および医療ケアチーム内で 十分なコミュニケーションがなされています か? 2. 今後の医療について,患者本人の意思は尊重さ れていますか?  □ 患者の自己決定することができる「意思能力」 の有無の確認  □ 患者に意思能力があれば,医師は,原則として 患者の意向を尊重する  □ 治療方針や CPA の可能性について事前および 作成後に患者と話し合う 3. 患者本人が意思表明できない場合の代理判断; 家族および近親者の考えを尊重していますか? 【代理判断者について】  □ 家族等は,代理判断者として適切ですか?   * 代理判断者は,患者の性格・価値観・人生観 等について十分に知り,その意思を的確に推 定することができますか?   * 代理判断者は,患者の病状・治療内容・予後 等について,十分な情報と正確な認識をもっ ていますか?   * 代理判断者の意思表示は,患者の立場に立っ たうえで,真摯な考慮に基づいたものです か? 【代理判断の内容の適切性について】  □ 家族等(代理判断者)は,患者のかつての願望(事 前指示)を尊重していますか?  □ 家族等(代理判断者)は,患者の意思を適切に推 定していますか?  □ 家族等(代理判断者)は,患者の最善の利益につ いて配慮していますか?  □ 家族等(代理判断者)は,患者と利益相反はあり ませんか?  □ 家族等(関係者)内で,意見の相違はありません か?  □ 医師は,家族等の代理判断者の考え方や意向(家 族自身の願望)も十分聴取し,可能な限り尊重 します.しかし「家族等の願望」は,「患者本 人の願望」を上回るものではありません. 4.POLST(DNAR 指示を含む)に関する医学的事項 5. POLST(DNAR 指示を含む)指示作成の手続きに ついて 6. POLST(DNAR 指示を含む)後の配慮(緩和ケア の重要性等) Ⅳ 倫理的に適切な意思決定プロセス,および アドバンスケアプラニング(AdvanceCare Planning)の重要性  米国と異なり,法的根拠となる DNAR 法がない 日本における DNAR 指示を,倫理的により適切に 実践するためには,臨床に従事する一人一人が,適 切なプロセスで終末期医療の意思決定をするよう考 えていかなければならない.  そのためには,本人の意向や価値観を事前に把握 し,それに沿って医療ケアプランを立てるアドバン スケアプラニング(Advance Care Planning)が,今 後重要となってくる.  終末期医療に関するさまざまな倫理的問題(ジレ ンマ)は,今後,これらの問題を,社会全体,すな わち 患者・家族 医療 介護 で事前に考えて おくことによって,(すべてではないが)かなりの部 分を解決することができるように思われる.具体的 には, 患者 サイドでは事前指示の普及, 医療 サイドでは,病院だけでなく在宅医療においても DNAR 指示(POLST)を倫理的に適切なプロセスで

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本姿勢 ガイダンス 書式 を通じて,日本中の 医療機関で使用することができる基本的枠組みを示 している.細部は,各医療機関の実情に応じて,改 変・追加可能である.日本臨床倫理学会のホームペ ージからダウンロードできるので,ぜひ,利用してい ただきたい*(http://www.j-ethics.jp/workinggroup. htm). * 誌面の都合上,本稿の書式・ガイダンスは抜粋であ るので,全文はホームページを参照してください. 参考文献 1) 箕岡真子:私の四つのお願い─医療のための事前指示 書─.ワールドプランニング,東京,2011 2) 箕岡真子:蘇生不要指示のゆくえ─医療者のための DNAR の倫理─.ワールドプランニング,東京,2012 3) 箕岡真子:正しい看取りの意思確認.ワールドプラン ニング,東京,2015 作成すること, 介護 サイドでは「看取りの意思 確認書」を倫理的に適切な手続きで作成することで ある.すなわち,Advance Care Planning の重要性 =対話・コミュニケーションの重要性ともいえる.  このような Advance Care Planning のためのツ ールとして,本稿の日本臨床倫理学会ワーキンググ ループによる DNAR 指示(POLST)に関する指針だ けでなく,Advance Care Planning 3 部作として, 患者 サイドでは事前指示書『私の四つのお願い』, 医療 サイドでは『蘇生不要指示のゆくえ─医療 者のための DNAR の倫理─』, 介護 サイドでは 適切な「看取りの意思確認書」を作成するために『正 しい看取りの意思確認』を提案してきた.  実際,それぞれの医療機関の状況により,必要と される POLST(DNAR 指示を含む)書式・指針は微妙 に異なってくると思われるが,日本臨床倫理学会に よる「POLST(DNAR 指示を含む)作成指針」は, 基

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Japanese Version of POLST(DNAR)by Japan Association for Clinical Ethics: Ethics for End of Life Care

Masako MINOOKA *1 Executive Director of Japan Association for Clinical Ethics *2 Department of Biomedical Ethics, University of Tokyo, Graduate School of Medicine *3 Minooka Clinic  The Japan Association for Clinical Ethics(JACE)organized a working group on DNAR order to dis-cuss the ethics of the decision making process and issued a Japanese version of POLST(DNAR)in March, 2015.  Until recently, consensus regarding DNAR was lacking, with different interpretations among differ-ent individual physicians. As a result, various life-sustaining medical treatments other than CPR were withdrawn or withheld.  The Japanese version of POLST(DNAR)has 3 parts:1. Basal Concept, 2. Guidance(with check sheets), and 3. Form.  Regarding ‘guidance’, the following six reference points are considered relevant:Chap.1. Communi-cation with patient, family members and medical staffs;Chap.2. Autonomy:respect for pa-tient’s wishes and values;Chap.3. Substituted judgment:respect for family member’s opinions and ethically adequate process of proxy consent;Chap.4. Medical matters in consideration of POLST (DNAR);Chap.5. Procedual justice of decision making on POLST(DNAR);Chap.6. Consideration for the patient and family members after POLST(DNAR)is made.  To reduce and resolve ethical dilemmas relating to end-of-life care, Advance Care Planning is pro-posed as being of paramount importance. To this end, we advocate the implementation of ethically appropriate POLST(DNAR). Key Words : DNAR order, POLST, Autonomy, Advance directive, Proxy(surrogate)judgment The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia Vol.36 No.3, 2016

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