新潟県
蚊媒介感染症対策対応指針
平成28年4月
新潟県福祉保健部
目次 第1 指針の基本的事項 ・・・・・・・・・・・ 1 1 指針策定の趣旨 2 指針の性格 3 指針の見直し 第2 基本方針 ・・・・・・・・・・・ 1 1 発生段階の考え方 2 各機関の役割と連携 第3 発生段階における対策及び推進体制 ・・・・・・・・・・・ 3 1 県内未発生時の対策 (1)対策推進体制 (2)発生動向調査の体制整備 (3)患者の早期発見・医療体制の推進 (4)蚊の対策 (5)輸入感染症例への対応 (6)住民への予防方法の普及啓発 2 県内発生時の対策 (1)対策推進体制 (2)住民への情報提供及び注意喚起の実施 (3)発生動向調査の体制の強化 (4)医療体制の推進 (5)蚊の対策
第1 指針の基本的事項 1 指針策定の趣旨 国際的な人の移動の活性化に伴い、国内での感染があまり見られない感染症につい て、海外から持ち込まれる事例が増加している。デング熱などの蚊が媒介する感染症 (以下「蚊媒介感染症」という。)についても、海外で感染した患者の国内での発生 が継続的に報告されている。 我が国においては、平成 26 年8月、デング熱に国内で感染した患者が、昭和 17 年 から 20 年までの間にかけて報告されて以来、約 70 年ぶりに報告された。 現在、デング熱については、ワクチンや特異的な治療法は存在せず、ワクチンも実 用化に向けた研究開発が進められている段階であり、また、デング出血熱と呼ばれる 重篤な症状を呈する場合がある。 また、ジカウイルス感染症及びチクングニア熱は、現時点では国内感染症例が報告 されていない。しかしながら、デング熱、ジカウイルス感染症及びチクングニア熱に ついては、いずれも日本国内に広く分布するヒトスジシマカが媒介することが知られ ている。また、平成 27 年には、インド、台湾等でデング熱の流行が、ブラジルを始 めとする中南米地域でジカウイルス感染症の流行が報告されており、いずれも海外で 蚊媒介感染症にかかった者が帰国又は入国する例(以下「輸入感染症例」という。) が増加傾向にあることから、輸入感染症例を起点として国内での感染が拡大する可能 性が常に存在する。 蚊媒介感染症のまん延防止のためには、平常時から感染症を媒介する蚊(以下「媒 介蚊」という。)の対策を行うこと、国内において蚊媒介感染症が媒介蚊から人に感 染した症例を迅速に把握すること、発生時に的確な媒介蚊の対策を行うこと、蚊媒介 感染症の患者に適切な医療を提供することが重要である。 本指針では、デング熱、ジカウイルス感染症及びチクングニア熱を、重点的に対策 を講じる必要がある蚊媒介感染症に位置づけ、これらの感染症の媒介蚊であるヒトス ジシマカが発生する地域における対策を講じることにより、その発生の予防とまん延 の防止を図ることを主たる目的とする。 なお、これら以外の蚊媒介感染症(ウエストナイル熱、黄熱、西部ウマ脳炎、東部 ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎、マラリア、野兎病、リフトバレー熱等) についても、共通する対策は必要に応じて講じるものとする。 2 指針の性格 本指針は、「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」(平成 27 年4月 28 日付け 厚生労働省告示第 260 号)で都道府県等が整備することとされている行動計画等とし て策定するものである。 3 指針の見直し 本指針は、国指針及び蚊媒介感染症の予防・治療等に関する最新の科学的知見、本 指針に基づく取組の進捗状況等を勘案して、適宜改正するものとする。
第2 基本方針 1 発生段階の考え方 発生段階を「県内未発生時」、「県内発生時」の2段階とし、発生段階ごとにとるべ き対策を想定する。 (1) 県内未発生時 次の両方を満たす場合をいう。 ア 県内で国内感染症例(患者)が発生していない段階 イ 県内で蚊媒介感染症の病原体を持った蚊が発見されていない段階 (2) 県内発生時 次のいずれかの段階とする。 ア 県内で国内感染症例(患者)が発生した段階 イ 県内で蚊媒介感染症の病原体を持った蚊が発見された段階 2 各機関の役割と連携 (1) 県 ア 福祉保健部健康対策課 県全域における総合的対策の企画及び調整を行う。 また、住民への普及啓発及び情報提供を行う。 イ 福祉保健部生活衛生課 住民への普及啓発等を行う。 ウ 保健環境科学研究所 病原体の同定・解析、蚊の生息状況の解析等の高度な検査及び調査・研究を 実施する。また、蚊の調査の中心的役割を担う。 エ 保健所 患者発生時の積極的疫学調査や保健指導を実施する。 また、地域における蚊媒介感染症対策の中心的役割を担う。 (2)新潟市 ア 新潟市保健所 新潟市における総合的対策の企画及び調整を行い、住民への普及啓発並びに、 患者発生時における積極的疫学調査等を実施する。また、蚊の調査・抑制・駆 除について実施・対応する。 イ 新潟市衛生環境研究所 新潟市における病原体の同定・解析、蚊の生息状況の解析等の高度な検査及 び調査・研究を実施する。 (3)市町村(新潟市を除く。) 住民への普及啓発を行う。 蚊発生抑制・駆除の実施等の対策を推進する。 (4)新潟検疫所 検疫法に基づき、政令に従い新潟県内の海港及び空港において蚊の調査を行う。
(5)医療機関 発生段階を踏まえ、的確な診断、迅速な発生届を提出するとともに症状に応じ た医療を提供する。 患者に対し、蚊を媒介して感染拡大のリスクがある期間(以下「ウイルス血症 期」という。)中の防蚊対策や献血の回避の重要性に関する指導等を実施する。 (6)施設・場所等の管理者(以下「管理者」という。) 利用者への注意喚起、蚊の発生抑制・駆除を行う。 推定感染地となった場合の施設の利用制限等を行う。 第3 発生段階における対策及び推進体制 1 県内未発生時の対策 (1) 対策推進体制 ア 新潟県・新潟市新たな感染症対策専門委員会の開催 県は、蚊媒介感染症等の新たな感染症への対策を的確かつ円滑に推進するた め、医師、法律家等による専門委員会を設置し、同対策に係る事項について専 門的な観点から検討する。 イ 関係者との情報共有・会議の開催 県は、関係者と情報共有を図るとともに、対策について検討する。 (2) 発生動向調査の体制整備 ア 総合的な分析 県は、蚊媒介感染症の発生動向及び蚊の調査・検査について、厚生労働省新 潟検疫所及び新潟市と連携して実施する。 県及び新潟市は、医師の届出による患者情報の他、患者の検体から検出され た病原体に関する情報及び定点モニタリングによる媒介蚊の増減などの情報も 含め、総合的に分析を行うこととする。 イ 病原体・遺伝子検査体制の整備 県保健環境科学研究所及び新潟市衛生環境研究所は、輸入感染症例及び国内 感染症例のいずれにおいても、提出された全ての検体について、可能な限り病 原体の遺伝子検査を実施し、病原体の血清型等を解析するとともに、必要に応 じて病原体の遺伝子配列を解析することができるよう体制を整備する。 ウ 国際的発生動向及び県外の発生動向の把握 県は、国際的な蚊媒介感染症の発生及び流行の状況を常時把握し、必要に応 じて、住民、特に海外へ渡航する者に注意喚起を行う。 併せて、県内の旅行者が県外で蚊媒介感染症の病原体に感染する場合も想定 されることから、県外の状況も常時把握に努める。 新潟検疫所において蚊媒介感染症の病原体が検出された場合は、新潟検疫所 は、速やかに関係者へ情報提供を行う。
(3)患者の早期発見・医療体制の推進 県は、新潟県医師会等関係機関と連携して次の対応を行う。 ア 「蚊媒介感染症の診療ガイドライン」(以下「診療ガイドライン」という。) 等の普及 イ 関連情報の提供 ウ 専門医療機関との連携体制の整備 (4)蚊の対策 県及び新潟市は、蚊の捕集を行い、調査(定点モニタリング)を実施する。 調査箇所の選定にあたっては、発生リスクを考慮し、地域及び調査箇所数は別 途指定する。 また、新潟検疫所は検疫法に基づき、政令に従い海港及び空港の蚊の調査を実 施する。 (5)輸入感染症例への対応 保健所(県、新潟市)は、輸入感染症例について、媒介蚊の活動が活発な時期 かどうか、周辺の媒介蚊の発生状況に留意しつつ、当該者の国内での蚊の刺咬歴 等の確認を行うとともに、医療機関と連携し、蚊媒介感染症と診断された患者に 対して、血液中に病原体が多く含まれるウイルス血症期に蚊に刺されないよう、 防蚊対策や献血の回避の重要性に関する指導を行うこととする。 (6)住民への予防方法の普及啓発 県及び新潟市は、蚊媒介感染症の発生状況、症状及び媒介蚊対策等について、 次の方法等により関係機関と連携し普及啓発を行う。 ア ホームページ・新潟県感染症情報(週報)等による情報提供(流行状況、症 状、予防法等) イ 講習会・セミナー等の実施 2 県内発生時の対策 (1) 対策推進体制 ア 連絡会議等の開催 県は、県内において国内感染症例発生を確認した際には、庁内関係部局を中 心とした連絡会議等を開催する。(必要に応じて、新潟市や専門家等を参集する。) 同会議では、蚊媒介感染症の対策の検討や、実施した対策の有効性等に関す る評価を行う。 (2) 住民への情報提供及び注意喚起の実施 県及び新潟市は、市町村、都道府県、保健所設置市及び国等と迅速に情報共有 を行うとともに、必要に応じ住民等への情報提供及び注意喚起を実施する。 (3) 発生動向調査の体制の強化 県及び新潟市は、県内発生時においては、県内未発生時から行っている総合的 な分析、積極的疫学調査及び病原体・遺伝子検査体制等の発生動向調査の体制に ついて、関係機関等に依頼するなどして強化する。
(4)医療提供体制の推進 ア 新たな診療情報等の提供 県及び新潟市は、県内で患者が発生した段階で、診療ガイドライン等を改め て県内医療機関に周知する。 また、蚊媒介感染症の国内外での発生・流行状況に関する情報、輸入感染症 例及び国内感染症例の疫学情報、媒介蚊や蚊媒介感染症の診断・治療に関する 知見、医療機関内での防蚊対策の実施方法等新たな診療情報等を積極的に提供 するものとする。 イ 専門医療機関との連携体制の強化 医師が蚊媒介感染症を疑う症例については、必要に応じて、診断に加えて適 切な治療が可能な医療機関に相談、または患者を紹介することが求められる。 特に重症化サインが認められ、入院治療が必要となる場合には、専門医療機 関につなげる連携体制の強化を図るため、県及び新潟市は必要な調整を行うも のとする。 (5)蚊の対策 ア 国内感染症例への対応の基本的事項 ・事例の公表にあたっては、関係自治体と連携するとともに、厚生労働省との 協議を行った上で実施する。 ・ヒトスジシマカの密度調査や必要な清掃・駆除等に当たっては、管理者、市 町村、他の都道府県等の関係者と連携することが重要である。 ・清掃・駆除等については、国が策定した「デング熱・チクングニア熱等蚊媒 介感染症の対応・対策の手引き」(以下「手引き」という。)等を活用し、対 策を講じる。 ・ヒトスジシマカの発生時調査や積極的疫学調査の実施に当たっては、国立感 染症研究所の担当部に適宜相談する。 ・調査にあたる職員は、個人的防御を行い、必要に応じて忌避剤を使用する等 感染防止対策を徹底する。 イ 国内感染症例への対応の手順 県及び新潟市は、手引き等を活用し、次のステップにより対策を講じる。 ステップ1:症例に対する積極的疫学調査の実施 医療機関から県内感染症例(患者)の発生を探知した保健所(県、新潟市) は、速やかに県福祉保健部健康対策課及び患者居住地を管轄する保健所に連 絡する。 患者居住地を管轄する保健所は、手引きにある調査票により積極的疫学調 査を実施する。 ステップ2:リスクのある同行者と同居者に関する積極的疫学調査の実施 患者居住地を管轄する保健所は、手引きにある健康観察票によりリスクの ある同行者と同居者の健康観察を実施する。
ステップ3:推定感染地についての検討 保健所(県、新潟市)は、患者の行動範囲や蚊に刺された場所等を把握し、 感染地を推定する。 ステップ4:推定感染地に対する対応の検討 推定感染地について、蚊の調査を行う場合は保健所が管理者への説明を実 施し、管理者の同意を得る。その上で、状況に応じて県保健所・県保健環境 科学研究所又は新潟市保健所・新潟市衛生環境研究所は蚊の発生状況の調査 及び捕集した蚊のウイルス検査を実施する。 管理者は市町村及び保健所(県、新潟市)と連携し、必要に応じて(一社) 新潟県ペストコントロール協会の協力を得て、蚊の駆除を実施する。 また、県又は新潟市は、管理者等や市町村と連携して、一定の区域の立入 制限等を含む媒介蚊対策を実施する。 ステップ5:ウイルス血症期の滞在地に対する対応 患者からウイルス血症期に蚊に刺されたとの訴えがあった場合は、ステッ プ4同様に対応を検討し、保健所(県、新潟市)、管理者等及び市町村が連 携し、その場所のリスク評価を行った上で、必要に応じて蚊の対策を実施す る。 ステップ6:終息の確認 推定感染地に関する症例の最後の発症日の後、50 日程度を経過した時点も しくは蚊の発生が確認されなくなる時期(概ね 10 月末)をもって、当該感 染地に関する事例は終息したものとする。