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大学と学生第543号大学メンタルヘルスにおける連携_広島大学(岡本 百合)-JASSO

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Academic year: 2021

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~

 

はじめに

大学生は、アイデンティティの確立、親からの自立とい った思春期青年期の課題にまさに直面する時期である。大 学入学に際して、実際に親から離れて一人暮らしを始める 学生も多い。また卒業後の職業選択が現実として迫ってく る。そういった中で、不適応をおこす学生も多い。さらに 思春期青年期は、統合失調症などの精神疾患が好発する時 期でもある。家族から離れ、ひきこもりがちの生活をして いる場合には、気づかれずに問題が深刻化している場合も 多い。 また、大学メンタルヘルス問題は、近年複雑多様化して おり、その理解と支援を行う上で、教職員の連携は重要な 鍵となる。メンタルヘルス問題を抱える学生の危機的状況 に遭遇することも少なくない。友人や教員が学生本人のこ とで相談を持ちかけて事例化する場合もある。メンタルヘ ルス問題の特殊性として、本人自身が問題として認識して いない場合もある。周囲と本人自身との認識のずれという リスクを追うことも多い。

 

 大学メンタルヘルスにおけるリスクマネジメン

トの考え方

リスクマネジメントとは、危機管理と拡大被害を抑制す

 

~リスクマネジメントの視点から~

  本

 

  百

  合

(広島大学保健管理センター   准教授)

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~ ることである。リスクの把握→リスクの分析→リスクへの 対応→対応の評価という問題解決のプロセスによる計画的 活動であり、スピードや柔軟性、統合性を発揮する組織管 理 が 成 功 の 鍵 と さ れ て い る ⑴ 。 メ ン タ ル ヘ ル ス の 緊 急 事 態 とは、まず、自傷他害の恐れがある場合があげられる。メ ンタル不全の早期発見、介入、重症度のアセスメントが必 要であり、早急に情報を正確に把握し、緊急性が高いとい う認識を持つことが重要である。大学の場においては、医 療スタッフだけが対応するわけではなく、 学生の担当教員、 学生支援担当の事務系職員等との連携が必要であり、共通 の理解と情報の把握が何よりも重要である。危機管理にお いては、治療的対応と管理的対応の両面が必要となってく る。われわれ医療スタッフが専門的視点から、重症度や危 険性のアセスメントを早急に行い、説明していくことが重 要である。 ま た、 メ ン タ ル ヘ ル ス 問 題 が 法 的 問 題 化 ⑵ す る こ と も 予 測しておく必要がある。学生が教職員の言動により精神的 負担を被った場合、さらに大学が学生に対して適切な処置 をとらなかったためにメンタルヘルス上の問題が発生した 場合、大学が責任を問われることもあろう。また、企業メ ンタルヘルスにおいて、従業員のメンタルヘルスの管理義 務があるように、大学においても、学生のメンタルヘルス を悪化させる環境を改善することや、学生のメンタルヘル ス上の問題が認められた際には、教職員が適切な治療をす す め る 配 慮 が 必 要 と な っ て く る。 つ ま り 大 学 に は、 「 安 全 配慮義務」 「健康配慮義務」 「教育研究環境配慮義務」があ ると考えられる。

 

リスクマネジメントの具体例

大学メンタルヘルスにおける危機管理としては、興奮な どの精神症状増悪時や自殺企図の危険等の危機介入(いわ ゆ る 精 神 医 学 的 緊 急 性 の 高 い も の )、 対 人 ト ラ ブ ル の 問 題 などがあげられる。以下に危機管理状況と対応について例 示する。   精神症状増悪時のリスクマネジメント   統合失調症の症状増悪時 例えば、 「周囲から悪口を言われている」 「夜中にアパー トでも嫌がらせをされる」といった幻覚妄想状態が増悪し た場合、隣人に怒鳴り込む、大声で叫ぶ、警察を呼ぶなど といったトラブルが発生することがある。また、周囲から

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~ の苦情が大学側への不満としてあらわれ、問題が複雑化す ることも多い。本人に病状の悪化の自覚がない場合が問題 となることが多い。 そういった場合は、図1のように教職員と保健管理スタ ッフが協力し、情報を共有した上で、重症度や緊急性のア セスメントを行い、家族と連携(正確な説明と協力を得る こ と )、 本 人 の 安 全 確 保( 入 院 な ど の 治 療 を 含 め た ) が 必 要となる。 自殺の危険性が高い場合 自殺の危険性が高い事例についても同様である。実際に 自殺企図を認めた場合は、リスクアセスメントが重要であ る。背景にある精神医学的問題、重症度、危険性、サポー ト体制の有無などの評価が必要なことは自明であるが、明 らかな企図がこれまでに認められない場合は、危険性が過 小評価されるおそれもあり、注意を要する。自殺リスク因 子と保護因子の程度を評価し、支援体制の程度を決定して いくことになる。医療機関受診や帰省、休学等に関して、 本人が抵抗を示し、周囲が無理にすすめることをためらう 場合もあるだろうが、受診・治療を受けなかった場合のリ スクを検討し、行動を決定していくことが重要である。 緊急事態 保健管理センター 面接、診療 重症度、緊急性の     アセスメント 担当教員 学生支援担当事務職員 家族 正確な説明 協力を得て安全確保 家族自身のサポート 危機対応チーム結成 情報の共有 正確なカルテ記載 フォロー体制について検討 危機管理 担当者 大学管理者 連携 報告 スーパーバイズ 医療機関 連絡、受け入れ確保 付き添い 必要時 関係者への フォロー 本人の 安全保護 警察 正確な情報収集 関係者の整理

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~   対人トラブルのリスクマネジメント 広汎性発達障害を背景とした対人トラブル 背景の広汎性発達障害も軽度であれば、多少のコミュニ ケーションの難しさや小さいトラブルはありながらも、大 きな問題とならないことも多々ある。しかしながら、研究 室配属になり、比較的小規模な組織で、チームとして研究 に取り組むといった状況になると、適応が困難となり、混 乱をきたす事例も少なくない。独特の行動パターンやこだ わりが、適応していく上での問題となり、熱心に指導しよ うとした教員や先輩との間で思わぬトラブルとなることも ある。時には些細な事柄を被害的に受け止め、重大な問題 としてとらえられてしまうこともあり、ハラスメント問題 に発展することもある。 そういった場合は、図2のように情報と問題の整理、緊 急性の評価、背景の精神症状や心理状況の理解が必要とな ってくる。対応の方法と一貫性も重要となるため、関係者 が共通認識をもつことが重要である。   相談トラブルのリスクマネジメント 保健管理センターといった相談機関にとどまらず、学生 支援窓口や学生支援担当教員への相談場面でも、トラブル

発生

対応チーム結成

問題の整理、緊急度の評価 正確な情報把握と共有 背景の理解:精神症状、心理状況 保健管理センター

担当教員、学科・学部長

学生支援担当事務職員

連携

相手側のフォロー等 周囲への影響評価と対応 情報開示と情報管理を考慮 医療機関 必要時 連携

家族

正確な説明と対応 本人の安定を図る 行動パターンの理解 対処方法は具体的に

警察

図2.対人トラブルのリスクマネジメント

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~ が発生することが近年増加している印象もある。 対人コミュニケーション能力が低く、相談したいことも 順序立てて説明できない、またはうまく表現できないため に相談に来談したにもかかわらず、拒否的または攻撃的な 態度に出てしまう学生もいる。また、精神的に不安定なた めに混乱をきたしており、冷静になれず、相手の言動に過 敏 に 反 応 し て し ま う 学 生 も い る。 「 相 談 に き た の に 相 手 に わ か っ て も ら え な い、 相 手 に さ れ な い 」「 困 っ て い る の に 何 も し て く れ な い の か 」 と 感 情 を エ ス カ レ ー ト し、 「 訴 え てやる」 といった状況になる可能性もある。他の人 (場所) ではこう言われた、向こうではこうしてくれたのに、とい った批判や要求を行い、援助者間の混乱を引き起こす場合 もある。 こういった場合も、図3のように関係者が話し合い、情 報の共有や対応や援助の方向性をそろえることが重要であ る。また、予想外に問題がこじれて大きくなる可能性もあ るため、大学組織としての危機管理としてとらえ、危機管 理担当者とも連携することが望ましい。   事件、事故後のマネジメント 不幸にも学生の自殺や事故、事件などの重大な出来事が 発生 問題の整理:「誰に、何を、どうして?」 正確な情報把握、関係者の整理 背景の理解:精神症状、心理状況 役割分担、組織として対応するところの整理 できること、できないことの整理 保健管理センター 担当教員 学生支援担当事務職員 危機管理 担当副学長 連携 報告 スーパーバイズ 対応チーム結成 家族 正確な説明と対応 必要時 関係者への フォロー

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~ あると、コミュニティ全体のリスクが増大する。重大な出 来事に対して、急性のストレス反応がおこることは自然の 経過であるが、対応を誤ると二次的な反応や悪循環が形成 され、 さらにリスクが増大する。事件事故が起こった場合、 まずリスク評価をチームで行う。 事件事故の重大性と性質、 おこった場所、関係者の規模、関係の種類などをもとに評 価していく。状況を過小評価すると初期対応が遅れ、反応 の悪循環が形成されやすいことは自明のことであるが、過 大評価し、過剰に反応しすぎるためにおこる悪影響も検討 していくことを忘れてはならない。組織防衛的になると過 剰に反応してしまうことも少なくない。現実にそった対応 が重要である。

 

メンタルヘルス支援における連携の考え方

大 学 生 の メ ン タ ル ヘ ル ス 問 題 が 複 雑 多 様 化 し て い る 現 在、メンタルヘルス問題を抱える学生に対して、教職員が 単独で支援していくのではなく、支援チームを組むことで 対処可能性が増大する。特に緊急性を要する場合や複雑困 難な事例を支援する場合は協力体制が必要であろう。 学生をとりまく支援者は教員、学生支援職員、精神科医 や心理職、看護職といったメンタルヘルススタッフ等、職 種は様々であり、それぞれのベースが異なっている。また 各職種が常に密に関わっているわけではない。緊急時にす ぐに連携を行う上での困難も予想される。相互の立場、考 え方を尊重し、積極的に協力しあうスタンスでなくてはな らない。相互の考え方をつきあわせた上で、援助の方向性 をそろえることが重要である。

 

メンタルヘルス支援チームについて

チームとして支援する場合、⑴メンバー編成、⑵正確な 情報伝達、⑶情報の共有、⑷役割分担、⑸管理・監視機能 が重要である。⑴のメンバー編成については、事例によっ てメンバーは異なって当然であり、多ければいいという問 題でもない。関係者全員となると情報保持や即時機能とし て逆にマイナスになることにも留意する。⑵正確な情報伝 達について、メンタルヘルスの緊急事態の場合、情報の量 と質が鍵となることが多い。情報を伝える人物(友人や家 族といった)の主観や感情が影響を及ぼすことにも注意が 必要である。正確な部分と、推測される部分とを明確に分 けて情報を整理していくことが重要と思われる。⑶の情報

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~ の共有について、関係者で情報を共有することは共通認識 を持つ上で重要であるが、同時に個人情報が不必要に漏れ てしまうリスクがあることに留意する。特に職務上個人情 報保持義務のある教職員以外の関係者について、どれだけ 情報を共有するかは、慎重に検討するべきである。⑷の役 割分担については、一人に比重がかかりすぎると機能しに くくなる場合が多いため、役割・責任の比重を調整してい くことが重要である。⑸の管理・監視機能については、常 にチームの動きを客観的にモニタリングし、フィードバッ クしていく機能を持っておくことが望ましい。

 

おわりに

メンタルヘルス問題に関しては、事例によって柔軟な対 応が必要であるものの、 行動を起こす基本的枠組みとして、 対応のフローチャートを作成することは有効であろう。緊 急 対 応 時 の 留 意 点 を 表 1 に ま と め た。 ま た、 〝 予 防 〟 の 視 点もふまえて、大学メンタルヘルス対策の推進方法につい て検討していくことが重要であると思われた。表2にその 一例として例示しているので参考していただければ幸いで ある。 1) 緊急事態であることの認識  緊急という認識のずれが生じやすいことに留意する。緊急度が高 いことを関係者に明確に伝える。 2) 予測される危険性の評価  予備的診断、重症度のアセスメント等医学的な評価等については、  教員や事務職員にもわかりやすく説明する。 3) 危機対応(チーム編成)  事例に応じて柔軟な対応が必要。治療的対応と管理的対応。 4) 関係者間による情報の共有、情報管理 5) 危機再発防止  事後対応も重要、環境等の調整、啓発活動のあり方の検討。 表1.緊急対応時のリスクマネジメントのポイント

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特集・メンタルヘルス②~相談体制・連携・協働~ なお、学生のメンタルヘルスとそれに伴う教員の役割や 心理的負担等を中心に記述したが、大学法人化により教職 員の負担も増大しており、教職員自身のメンタルヘルス問 題も重要である。教職員のメンタルヘルスが良好でなけれ ば、よい支援を行うのは難しい。教職員自身のメンタルヘ ル ス 問 題 に つ い て も 相 互 に 支 援 し あ う ス タ ン ス を 持 ち た い 。 文献 ⑴   高 梨 智 弘: リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト 入 門. 一 版. 東 京、 日 本 経 済 新聞社、一九九七 ⑵   今 野 順 夫: メ ン タ ル ヘ ル ス の 法 的 諸 問 題. メ ン タ ル ヘ ル ス 研 究協議会平成一五年度報告書.八―一一、 二〇〇四 マネジメントシステムの手順 対応するメンタルヘルス関連事項の例 1.学生教育活動方針 2.危険または有害要因の 低減  3.危機の予防、回避 4.危機対応 5.評価 6. 再発防止 メンタルヘルスの視点、支援の重要性を取り入れる 学生の教育環境、学生生活環境の評価と調査 教職員への啓発活動 地域や家族との連携強化など ハイリスクの学生に対する介入方法の検討 緊急性への意識、危機対応マネジメント方法の検討 危機対応記録、活動の定期的評価と検討 新たなリスクの洗い出し 事後のサポート、継続的支援のあり方検討 表2.大学におけるメンタルヘルス対策の推進方法

参照

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