学校組織の実態と課題
Ⅱ
Ⅰ章の「学校評価の意義と概要」で述べたように,学校評価は 『学校経営・運営, 』 , 。 ビジョン を策定することにより 学校の組織的な実践と改善の営みをうながします しかし,実際の学校組織において,目標を定め,実践し,振り返り,改善を図る一連 の取組みが十分機能しているのでしょうか。あるいは教職員の十分な連携のもとに教 育活動に取組むことができているのでしょうか。 ここでは学校組織に関する教職員への意識調査をもとに学校組織を活性化する手が かりについて考察していきます。学校組織の特徴
1
学校の教育活動は,専門性に基づいた教職員の組織的な取組みによって成り立ってい ます。学校組織は,企業や官公庁など他の組織と異なる組織の特徴を持っているといわ れます。組織マネジメントの視点からみると,学校組織は ( )個業型組織,( )フラッ1 2 トでマトリックス型の組織,などといわれています。 (1) 個業型組織 学校で行われる教育活動は,教職員一人一人の力量に大きくかかっています。いった ん一つの校務(授業,学級運営,部活動など)を任されれば,そこに他の教職員が介在 することが難しく,教職員の個々の具体的な活動に収れんされる個業型の組織といえま す。個業型組織は教職員の専門性を発揮しやすいといえます。 しかし「学級王国」などといわれるように,学級や教科,学年など,自分の守備範囲 を尊重しすぎるあまり,学校に関する情報が全体に共有されず,教職員自身が学校全体 を意識することも少ないといわれます。また,外部の異質な見方・考え方を取り入れた り,組織自体や取組みを変えていこうという意識を持ったりする必要があまりないとい われてきました。 (2) フラットでマトリックス的な組織構造 学校は,一般の企業や官庁などのように,完全 に分業化された垂直型組織(ピラミッド型組織) と異なる組織構造になっています。学校は,おお まかには,管理職-校務分掌の主任-分掌の構成 員から成る比較的緩やかな上下関係で成り立って おり,いわゆるフラットな組織構造です。また格 子(マトリックス)のように,教職員が一人で「学 年 「校務分掌 「教科 「部活動 「委員会」など」 」 」 」 さまざまな組織に重複して所属することになりま す。 このような「フラット型 ・ マトリックス型」」 「 の組織では,参画重視の意志決定がなされ,新し い課題に柔軟に対応し,教職員どうしの創造的な 仕事がしやすいといわれます。 しかし,垂直型の組織構造のような効率性や迅 速性はあまりありません。一人で何役もの仕事を 抱えることになったり,人によって校務が偏り, 頻繁な会議などによって,多忙を極めることにな ってしまいます。 1学年 2学年 3学年 教 務 進 路 生 徒 指 導 厚 生 マトリックス型の学校組織の構造 よさ:機動性・柔軟性 課題:仕事の重複や偏り 教員一人 にかかる 仕事の 重複 教 頭 校 長 フラット型の学校組織の構造 よさ:参画重視の意志決定 課題:効率性の欠如 横のつながり・同僚性の重視 主 任 主 任 主 任 主 任学校組織の課題
2
(1) 学校組織について感じること~学校評価研修会での声 教職員は「学校組織」の実態と課題をどのようにとらえているのでしょうか。このこ とを明らかにするために,本チームでは,平成17年5月に県教育センターで行われた 「学校評価研修会 に参加された先生方に」 ,「学校組織について感じること・考えること」 について自由記述で回答してもらいました。この研修会は,福島県内の県立学校の学校 評価の実務担当者を対象にしたもので,教務部を中心として学校の中核を担う教職員が 多く集まりました。 次のグラフは回答を項目別の人数でまとめたものです。この調査結果から,学校組織 についてのさまざまな課題意識を,五つの視点からまとめました。学校組織について感じること・考えること
(102人回答)
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14
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9
9
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7
6
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3
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仕 事 の 偏 り 多 忙 感 従 来 の 組 織 の 検 証 ・ 見 直 し コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ 意 思 疎 通 の 難 し さ 組 織 の ス リ ム 化 業 務 の 負 担 の 増 大 教 職 員 の 問 題 意 識 ・ 意 欲 の 不 足 教 職 員 全 体 の 協 力 管 理 職 や 主 任 の リ ー ダ ー シ ッ プ 保 守 性 複 数 の 校 務 外 部 か ら の 刺 激 ・ 学 校 を 開 く 教 職 員 の 声 を 生 か せ な い ・ 意 見 が 言 え な い 雰 囲 気 連 携 の 不 足 情 報 の 共 有 化 が 必 要 学 校 全 体 の 目 標 ・ 一 つ の 方 向 性 組 織 間 の 調 整 役 の 存 在 会 議 の 精 選 そ の 他回
答
数
(
複
数
回
答
)
校務の増大と負担感・多忙感
その1
(仕事の偏り・多忙感・校務の増大・複数の校務) 最も回答が多かったのが,特定の教職員に仕事が集中したり,仕事が偏ったりする ことで不公平感が存在しているという声でした。一人の教職員が複数の校務分掌に所 属していることによる負担の増大や多忙感があるという声もありました。 学校において,教職員は「やらされ感」があると,どうしても仕事に対しての負担 感が増してしまいます。校務分掌そのものの見直しはもちろん,教職員の意欲が高め られるような方策が必要といえます。教職員の意思疎通と協力体制
その2
・教職員の協力) (コミュニケーションや意思疎通の難しさ 教職員どうしのコミュニケーションが図られず,他の教職員あるいは他の校務分掌 の考えや方針が伝わりにくいという声が多くありました。学校組織に求められること として,相互に思いやりや助け合う気持ち,フランクに話し合い,自由に意見を言え る雰囲気づくりを挙げた先生もいました。また協力や連携によって組織として前向き に取組む体制づくりやそのための目標設定の必要性を感じている先生もいました。 このことから,教職員がお互いを認めながら連携を深め,一つの目標に向かって取 組んでいけるような雰囲気づくりが必要であるといえます。校務や組織の見直し
その3
(従来の組織の検証や見直し・組織のスリム化) 分掌ごとの重み付けや,優先順位を考慮して従来の分掌組織を見直し,校務を精選 していくことが必要であるという声が非常に多くありました。また分掌組織のメンバ ーを刷新したり,偏りをなくしたりすることも必要であるという意見もありました。 また分掌組織ごとに何をやっているかわからないような「タコツボ」型の組織では なく,分掌相互に密接なかかわりを持たせるという意見も見られました。 このことから,前例踏襲的にそのまま積み重なった組織や慣例を見直し,無駄や重 複を排していくことが必要であるといえます。その4
教職員の意識改革
(教職員の問題意識や意欲の不足・保守性・外部からの刺激・ 開かれた学校) できないことを児童生徒や学校の予算のせいにせず,今あるもので何ができるのか 考え,常に質的向上を図ろうとする積極的な教職員の姿勢が大切だという声がありま した。 , , , また 保護者の意見を受け止めるなど 風通しを良くして学校への信頼を高めたり コスト意識や顧客意識など企業の経営を参考にしたりするなどの声もありました。 , ,「 」 「 」 教職員の意識の中に まだ 以前はこうだから とか 前の学校ではこうだから という保守的な考え方が残っているのではないでしょうか。反省したことを良い方向 に導く活力,失敗や批判もプラスに受け止め前進できるような,前向きで柔軟な意識 が教職員に求められているといえます。リーダーシップの重要さ
その5
(管理職のリーダーシップ・組織の調整役の存在) 管理職のリーダーシップの重要性を感じている先生が多くいました。何年か先を見 越した校長の経営方針と,一貫した教育目標をもとにした学校経営が必要だという声 もありました。また,教職員の声を受け止め,個々の教職員の実態に応じた指導や助 言,適正な校務分掌への人的配置に対する管理職の配慮などを望む声もありました。 , , , さらに 校務分掌の主任など 学校運営を長いスパンで見ることのできる教職員や 他の分掌組織をつなぐ調整役となる教職員の存在の必要性を挙げた先生もいました。 つまり,学校においては,管理職による学校運営の適切な方向付けや組織づくりと ともに,各分掌主任としてのミドル層による分掌運営が求められるといえます。学校組織に関する意識調査
3
(1) 調査の目的 「 」 , 2の調査結果のグラフ 学校組織について感じること・考えること で示したように 教職員は学校組織についてさまざまな課題があると感じていることがわかります。それ らを整理すると,「個人の意識」「教職員どうしの協力体制」「分掌配置や組織体系」「教 職員をまとめるリーダーシップの在り方」など,学校組織のさまざまな状況における課 題があることがわかります。そこで,本チームでは研究対象を多様な学校・年齢層に広げ,学校組織に関する教職 員の意識をアンケート調査によってとらえ,その課題を明らかにして組織を活性化して いく手がかりを得たいと考えました。 (2) 学校組織のとらえ方 この調査を進めるにあたって,学校組 織を右の図のように「教職員個人 「教」 職員相互 「分掌組織」からとらえまし」 た。また,学校組織が評価活動によって 学校改善を図ろうとする「学校評価のシ ステム」の機能についても調査すること にしました。 (3) 調査の観点 次の①~④の観点で調査を実施しました。 ① 教職員個人 学校組織を支えているのは,学校目標の実現を意識した教職員一人一人の教育実践 です。そのことから,教職員個人の教育活動の在り方と学校組織とのかかわりを,調 査の観点の一つ目とします。以下の調査内容を設定しました。 ○教職員の教育活動の振り返り,自分自身の取組みを改善していこうという意識は あるか。 ○教職員は組織の一員としてしての自覚や,学校全体を意識した教育活動をしてい るか。 ○校内において教職員個人の資質や能力を発揮できる場面が存在しているか。 ② 教職員相互 教育活動の多くは,教職員どうしの連携で行われます。そのことから,教職員どう しのかかわり合いや連携,協力関係の実態を,調査の観点の二つ目とします。以下の 調査内容を設定しました。 ○教職員は,他の教職員との連携をどの程度図っているか。 ○教職員どうしがコミュニケーションを十分図ったり,指導法などについて力量を 高め合ったりする雰囲気があるか。 ③ 分掌組織 学校全体として組織的な実践を行うために,分掌組織どうしのかかわりが大切にな ってきます。そのため,分掌組織の在り方や仕事量の適切性を三つ目の調査の観点と します。以下の調査内容を設定しました。 ○校内において分掌組織が適切に機能していると教職員は感じているか。 ○一人一人に課された仕事が過度の負担にならず,適材適所の分掌配置になってい ②教職 員相互 ③分掌 組織 ① 教職 員個 人 学校 組織 P(計画) D(実践) C(評価) A(改善) 外 部 外 部 図 学校組織のとらえ方 ④学校評価システム
るか。
④ 学校評価システム
学校は 日常の教育活動や学校運営において Plan 計画 ・Do 実践 ・Check 評, , ( ) ( ) ( 価 ・Action 改善 というマネジメントサイクルを機能させ) ( ) ,学校改善に生かされな ければなりません。そのために,学校評価システムの機能を調査の観点の四つ目とし ます。調査内容は次のとおりです。 ○学校は,外部からの声を積極的に取り入れたり,新しい課題に対応したりしよう としているか。 ○『学校経営・運営ビジョン』は,学校の実践に生かされているか。 (4) 「学校組織に関する意識調査」の概要 アンケート調査は,以下のような要領で進めました。 ○調査期間:平成17年8月~9月 ○調査対象:県立学校10校の教職員546名,うち491名が回答 (回収率89.9%) ○調査内容:①教職員個人,②教職員相互,③分掌組織,④学校評価システムの四つ の観点から,21の項目を設定 ○調査方法: 4(よく当てはまる) 3(やや当てはまる) 2(あまり当てはまら「 ない) 1(まったく当てはまらない 」の4件法) ○調査結果:回答の平均値と分散をもとに分析・考察 (なお,質問内容と各項目の 結果,年代別・男女別・学校規模別の結果は Ⅶ章資料編に掲載) (5) 結果の概要 の設問項目の内容と回答の平均値は,次ページの「設問ごとの平均」に提示しま 21 した。全質問項目の回答の平均は2.92でした。平均値が3.0を越えて高かったものと 以下の低かったものを以下に挙げます。 2.8 平均値の高低 (調査No.,調査内容,平均値) 調査の観点 高かった調査項目 低かった調査項目 ○「15 前年度の反省に基づい ●「17 ビジョンに基づく個人目 教職員個人 た個人の取組み (3.12)」 標 (2.80)」 ●「8 個人の取組みが学校全体 平均 2.91 」( ) に反映されるという意識 2.70 「10 教職員どうしの連携」 「2 力量の高め合い (2.80) 教職員相互 ○ ● 」 (3.09) 平均 2.95 該当なし ●「14 適切な仕事量 (2.66) 分掌組織 」 ●「5 (仕事や組織の)スクラッ プの動き (2.52) 平均 2.74 」 学校評価シ ○「19 学校評価の必要性」(3.26) 該当なし ステム ○「21外部評価を生かした取組 み (」 3.04) 「 」( ) 平均 3.03 ○ 13学校変革への意識 3.02
設問ごとの平均
3.26
3.04
3.02
2.97
2.94
2.94
2.96
2.83
2.66
2.52
3.09
2.98
2.94
2.80
3.12
3.02
2.98
2.88
2.84
2.80
2.70
2.00
2.50
3.00
3.50
19 学校の取り組みを評価することは,学校を改善していくために必要である。(学校 評価の必要性) 21 学校は,外部からの評価の結果を教育活動に生かすようにしている。(外部評価を 生かした学校の取り組み) 13 自分は,課題によっては,学校の実践の在り方を変える必要があると考えている。 (学校変革への意識) 3 学校は,教育施策上の新しい課題に適切に対応している。(新しい課題への対応) 16 『学校経営・運営ビジョン』は,学校の実態をよく表している。(学校の実態をふまえ たビジョン) 18 学校は学校評価の結果を次年度の『学校経営・運営ビジョン』を生かすようにして いる。(評価結果を生かしたビジョン) 6 自分の所属する組織は,他の組織と連携して教育活動に取り組んでいる。(組織の 連携) 4 校内の校務分掌は,それぞれ適切に機能している。(分掌の機能) 14 自分の校務分掌の業務量は,適切であり,負担にならない。(適切な仕事量) 5 学校は,不必要になったと思われる組織や取り組み,慣例などを適切に改廃しよう としている。(スクラップの動き) 10 自分は,他の教職員と連携して教育活動に取り組んでいる。(他の教職員との連 携) 9 自分は,他の教職員と教育活動について話をすることがよくある。(コミュニケーショ ン) 1 校内には,年齢や性別にかかわらず,誰もが自由に意見を言える雰囲気がある。 (発言できる雰囲気) 2 校内には,教職員が相互に力量を高め合おうとする雰囲気がある。(力量の高め合 い) 15 自分は,校務分掌に取り組む際,前年度の反省を生かすようにしている。(前年度 の反省を生かした個の取り組み) 11 自分は,学校全体を考えて教育活動に取り組んでいる。(学校全体への意識) 20 自分は,地域や保護者などの学校を取り巻く外部の存在を意識して教育活動を 行っている。(外部を意識した個人の取り組み) 7 教育活動の中で自分の個性や専門性を生かせるような場面がよくある。(個の能力 の発揮) 12 自分は,自らの教育活動を振り返り,課題を見出す機会を積極的に作っている。 (個人の教育活動の振り返り) 17 自らの教育上の目標を設定する際に,『学校経営・運営ビジョン』を考慮している。 (ビジョンを考慮した個の目標) 8 自分の取り組みは,校内の教育活動全体に生かされている。(個の取り組みの全体 性)設問内容
教
員
個
人
教
員
相
互
分
掌
組
織
学
校
評
価
シ
ス
テ
ム
(6) 調査結果と組織活性化の手がかり アンケート調査の結果をもとに,①教職員個人,②教職員相互,③分掌組織,④学校 評価システムの四つの観点から学校組織の課題を明らかにし,組織活性化の手がかりに ついて考察します。