はじめに
ビジネスにおけるデータ解析の重要性はますます高まりつつあります。それを支えているのが近 年のパソコンやインターネットの発達です。道具は調い,データは再入力することなく,手軽に利 用できるようになってきました。このように,企業におけるデータ解析の環境はますますよくなっ ています。 しかし,豊富なデータから,意思決定に役立つ情報をいかにすれば抽出できるのか,といった点 の知識の普及においては,まだまだこれからの感があります。 この本は,統計の専門知識がない一般のビジネスパーソンや大学生向けに,経営データ解析の基 本を Excel の操作とともに学ぶための手引書として執筆させて頂きました。大学の講義のみなら ず,独学によっても,様々なビジネス・データから意味ある情報を正しく抽出するための知識を学 んで頂くことができます。 世の中には Excel を用いて統計解析を学ぶ本はたくさん出ています。しかし,自然科学分野で生 まれ発達してきた統計学では,ビジネス実践との間に埋めがたいギャップがあるのが現実です。す なわち,データの側面,手法の側面,利用者(マネジメント)の側面の 3 つの面で,統計解析の理 論と現実のビジネス実践の間にギャップがあります。そのため,通常の統計手法では,ビジネス実 践の場では十分に役に立たないケースが少なからずあります。本書は,そのギャップをいかに超え るかという点で筆者なり工夫をしています。 本書の構成を大きく分けると, 第 1 部 経営データ解析入門編 (第 1 章) 第 2 部 ビジネス・データ編 (第 2 章) 第 3 部 初期的データ解析手法編 (第 3 章∼第 8 章) 第 4 部 応用的データ解析手法編 (第 9 章∼第 11 章) 第 5 部 マネジメント編 (第 12 章) このような内容を構想するに当たっては,私がこれまで行ってきた一連の経営統計学の研究から 得た知識がベースになっています。3 つの側面でのギャップを超えるための結論は,「適用がやさ しくて,大体でよいのでなるべく早く結果が出て,データの質の悪さにあまり影響されない解析手 法」が望ましいということです。そして,このことを基軸にして本書を構成しました。 経済学者のジョン・メイナード・ケインズは次のようにいっています。 "I'd rather be vaguely right than precisely wrong." (私は,正確に誤るよりは漠然と正しくありたい) まさに,これが本書のスタンスです。具体的には,質のよくないデータを前提として,やさしい手法を用いて,そこからざっくりとし た形で情報を抽出するのが,ビジネス実践におけるポイントであると認識し,統計学以前のテクニ ックとして,データ自体やその加工に注力し,推測統計手法よりも記述統計手法のウェイトを高め
ています。 それにあわせて,Excel を大いに駆使しています。アンケート集計では,実践に不可欠ながら, 他の書籍ではあまり扱われていない複数回答の処理やそのクロス集計の方法まで説明しています。 散布図では層別散布図,散布図の戦術的な利用方法も扱っています。 折れ線グラフでは,点のプロットのテクニック,これによって従来見えなかった情報が読み取れ るようになります。その他,ノンパラメトリック手法や多変量解析,数量化理論の Excel による実 施方法についても可能な限り扱いました。さらに,経営データ論や経営データ解析のマネジメント などにもそれぞれ章を立てて扱っています。経営データ解析の手法を実践的に使うためには,踏ま えておきたい必須の知識です。 また,本書で説明や例,練習問題で使っているデータは,十分ではありませんがかなりの部分, 現実のデータを利用しています。実際のデータを用いることによって,学習に臨場感が生まれてく ることを狙っています。また,データ自体にも関心をもってもらえると幸いです。 本書の執筆に際しては,わが国の研究書はもちろん,アメリカ・ヨーロッパ・インドなどの経営 統計学の研究書や教科書,Excel を使って学ぶ経営統計学のテキストなど,幅広く検討させて頂き ました。そして,それらから多くのものを得ることができました。これらの過程で得られた重要な 事項は,本書にちりばめられています。参照させて頂いたり利用させて頂いた内容は本書の至ると ころに及びます。その都度,脚注に明記し,感謝の意を表すとともに,学習者への更なる学習の手 引きとしてさせて頂いております。 本書は,データ解析を学びたいと思っている人が自学自習できるように,できるだけ詳しく記述 することを心がけています。読者の皆さんは,この 1 冊でかなりの知識を学ぶことができるように なっています。本書を座右に,Excel を使いながら,学ぶことによって,経営データを解析する基 礎,いい換えると経営データ解析のいくつかの型やテクニックを理解することができます。それら を学習やビジネスの実践の中で利用していくことによって,それらを自らに染み込ませ,さらに, より応用的な利用方法を編み出すことができるようになります。 本書に使用しているデータは CD―ROM の形で添付しています。入力の手間は掛かりません。本 書を読みながら,Excel を使って例や練習問題を解いて下さい。そして,それらを参考に,あなた の目前のデータを 1 つだけでも解析してみましょう。何か必ず新しい発見ができるはずです。この ようにすることによって,あなた自身の経営データ解析のスキルも一歩一歩高められていきます。 なお,本書を教科書として利用される際には,時間数以上の内容を扱っているので,指導される 先生の御判断で,内容を選択してお使い頂ければ幸いです。トピックをとばしとばし使って頂いて も対応できるよう作製しています。 読者の方々が,この本を通じて経営データ解析をマスターされ,さらに新たな境地を切り拓かれ んことを心より願っています。 平成 18 年(2006)7 月