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<論文>1990年代の日本における企業統治改革の基盤作りと提言 利用統計を見る

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作りと提言

著者

平田 光弘

著者別名

Hirata Mitsuhiro

雑誌名

経営論集

51

ページ

81-106

発行年

2000-03-15

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00005568/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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1990年代の日本における企業統治改革の基盤作りと提言

平 田 光 弘 1.はじめに 2.日本における企業統治問題の背景 3.1990年代の日本における企業統治改革の基盤作り  a 最低資本金制度の導入  b 監査役制度の改正  c 株主代表訴訟制度の改正  d 自己株式取得規制の緩和  e 持ち株会社の解禁  f ストック・オプション制度の導入  g 利益供与禁止の強化 4.1990年代の日本における企業統治改革の提言  a 自由民主党の提言  b 経済団体連合会の提言  c 日本監査役協会の提言  d 社会経済生産性本部の提言  e 経済同友会の提言  f 日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラムの提言 5.終わりに 1.はじめに 企業統治(コーポレート・ガバナンス)問題は、1990年代に入って、世界的にホットな関心を呼 び、わけても市場経済先進国では、それが盛んに議論されている。いま市場経済先進国についてこ れを見ると、企業統治問題は、第一に、企業不祥事への対処をめぐって議論が行われている。企業 不祥事の再発を防止するには、経営監視・牽制の仕組みはどうあるべきかが問われている。換言す れば、違法経営の遵法(適法)経営化が模索されているのである。第二は、企業競争力の強化をめ ぐる議論である。企業競争力を高めるには、いかなる経営意思決定の仕組みと、いかなる経営監 視・牽制の仕組みとが望ましいかが論じられている。そこでは、非効率経営の効率経営化が模索さ れているのである。 日本においても、これら二つの企業統治問題が問われ、論じられているが、近年の議論の重点は、

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企業不祥事とガバナンス問題(コンプライアンス問題)から企業競争力とガバナンス問題(狭義の ガバナンス問題)へ次第に移りつつある、と言ってよいであろう1) 企業統治問題をめぐる議論がこのように進展するなかで、日本においても、企業統治改革の実践 に向けたさまざまな基盤作りと提言とが試みられている。本稿では、1990年代の日本において、そ うした企業統治改革の実践に向けての基盤作りと提言とがどのようになされてきたかを明らかにす ることにしたい。 2.日本における企業統治問題の背景 日本における企業統治問題の背景については、論者によってさまざまな要因が挙げられている2) それらは、およそつぎの八つの要因にまとめることができよう。  a.所有と経営が人格的に分離した大企業において、株主が経営から疎外され、株主の利益が十 分に保護されてこなかったこと、  b.企業はさまざまな利害関係者を含む社会的存在であり、利害関係者の影響力の調和を考慮に 入れた検討が不可欠になったこと、  c.バブル経済の崩壊により、銀行・証券・事業会社等の不祥事が相次いで顕在化したこと、  d.バブル経済崩壊後の企業業績の低迷が株主等の利害関係者に不利益を与えていること、  e.内外の機関投資家が「物言う株主」として目覚め、経営者は株主重視の経営を行わざるを得 なくなったこと、  f.株主代表訴訟手続きの簡素化により、経営者は株主を意識しつつ、経営失敗のリスクを最少 にしようとする考え方が広まったこと、  g.低成長下の企業にとって、従来以上に機動的な経営や事業転換を行う必要性が高まっている こと、  h.企業のグローバル化の進展により、日本的経営の効率性が問われていること。 以上の要因のうち、日本に特有の要因をなすものは、c,d,f,g,hであり、a,b,eは、 日本のみならず、市場経済先進国に共通の要因をなすものである。以下において、これらの要因が 企業統治問題の背景をなす意味を考えてみよう。 まず、要因aは、企業統治問題の発端が所有と経営の分離にあることを明示し、それを基盤とす る経営者支配の形成を可能にした点で、重要な意味をもつ。つぎに、要因bは、企業は誰のものか、 企業は誰のために運営されるべきかという企業統治の根本問題を提起し、そして1980年代に利害関 係者論や企業と社会論を根拠づけた点で、重要な意味をもつ。さらに、要因eは、内外の機関投資 家への株式所有の集中が進むにつれて、機関投資家が発言する株主として目覚め、強大な株主パ

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ワーを発揮し、経営者の企業運営に対する監視・牽制力を行使しつつある事態を浮彫りにした点で、 重要な意味をもつ。 それら三つの要因は、以上のような意味において、市場経済先進国の企業統治問題の背景に深く 関わっているのである。これに対して、つぎの五つの要因は、以下のような意味において、日本の 企業統治問題の背景に深く関わっている。 まず、要因cは、1990年代に頻発した企業不祥事を引き金として、コンプライアンス問題を提起 し、これをめぐる議論を活発にした点で、重要な意味をもつ。さらに、要因cは、要因d,f,g, hと互いに作用し合って、企業不祥事や経営破綻が日本の企業統治制度に固有の問題であるとの認 識を人びとに植えつけた点で、重要な意味をもつ。また、要因d,f,g,hは相俟って、平成不 況下の業績悪化と企業競争力の低下を契機として、狭義のガバナンス問題を提起し、これをめぐる 議論を喚起した点で、重要な意味をもつ。最後に、要因hは、要因c,dと相俟って、日本の経営 者に少なからぬ衝撃を与え、自信を喪失させ、企業統治における最重要の問題が経営者問題である ことを人びとに感知させた点で、重要な意味をもつ。 3.1990年代の日本における企業統治改革の制度的基盤作り バブル経済崩壊後の日本では、1990年代に入って株式会社の法改正が相次いで行われ、企業統治 改革の制度的基盤作りが着々と進められた。その重要な法改正を列挙すれば、つぎの通りである3) a.最低資本金制度の導入(1990年) b.監査役制度の改正(1993年) c.株主代表訴訟制度の改正(1993年) d.自己株式取得規制の緩和(1994,97,98,99年) e.持ち株会社の解禁(1997,98,99年) f.ストック・オプション制度の導入(1997,98,99年) g.利益供与禁止の強化(1997年) 以上七つの法改正のうち、企業不祥事がその引き金になったものはb,c,gであり、これに対 して、a,d,e,fは、従来から改善・導入の必要が指摘されながら、なかなか実行されず、よ うやく法改正にこぎつけたものである。以下では、それぞれが法改正をみるに至った経緯を明らか にしよう。 a.最低資本金制度の導入 日本の株式会社に初めて最低資本金制度(会社の資本の額を1,000万円以上とする制度)が導入

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されたのは、1990年のことであった(施行は1991年4月1日)。 それまでは、7人以上の発起人がそれぞれ1株以上を引き受ければ、誰でも株式会社を設立する ことができた(1982年10月1日以前はわずか3,500円以上、それ以後は35万円以上の資本金で設立 できた)。さらに、税負担は個人企業よりも法人企業の方が軽くなり、株式会社の方が他の会社形 態(有限会社、合名会社および合資会社)よりも社会的に立派に見えるので、小規模企業までが株 式会社形態を選ぶようになった。こうして株式会社形態の濫用が進んだのである。このような株式 会社形態の濫用を防止することが、最低資本金制度導入の一つの目的とされた。もう一つの目的は、 有限責任のため、会社が保持しなければならない財産の額の基準となる資本の最低額を定めて、会 社債権者を保護することであった。 1990年6月当時、日本には1,009,817社の株式会社(会社総数の51.8%)があり、そのうち、資本 金1,000万円未満の株式会社は649,350社(株式会社数の64.3%)に達した。1996年3月31日に最低 資本金制度の適用猶予期間が満了したが、最低資本金未達成により解散したものとみなされた会社 (その多くは休眠会社)は約 11万社もあったといわれる。1998年現在、株式会社は1,099,706社 (会社総数の45.2%)あるが、資本金1,000万円未満の株式会社はわずか18,941社(株式会社数の 1.7%)にまで激減し、逆に資本金1,000万円以上1億円未満の株式会社は1,047,080社(株式会社 数の95.2%)にまで激増している。そこに、はっきりと最低資本金制度導入の効果が現れている (表1,表2参照)。 表1 日本の会社数(形態別) (会社数、%) 形 態 1980 1985 1990 1995 1996 1997 1998 株式会社 767,087 ( 55.1) 868,955 ( 53.8) 1,009,817 ( 51.8) 1,123,876 ( 48.0) 1,123,034 ( 47.3) 1,100,428 ( 45.7) 1,099,706 ( 45.2) 有限会社 584,294 ( 41.9) 704,099 ( 43.6) 903.236 ( 46.3) 1,183,130 ( 50.5) 1,219,215 ( 51.3) 1,271,198 ( 52.8) 1,297,633 ( 53.3) 合名会社 6,912 ( 0.5) 6,471 ( 0.4) 6,817 ( 0.3) 6,823 ( 0.3) 5,724 ( 0.2) 8,290 ( 0.3) 6,300 ( 0.3) 合資会社 ( 2.5)34,623 ( 2.2)35,049 ( 1.5)29,520 ( 0.3)29.569 ( 1.1)26,485 ( 1.1)26,356 ( 1.2)29,656 合  計 1,392,916 (100.0) 1,614,574 (100.0) 1,949,390 (100.0) 2,343,398 (100.0) 2,374,458 (100.0) 2,406,272 (100.0) 2,433,295 (100.0) 出所:国税庁企画課編『税務統計から見た法人企業の実態』各年版より作成。

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表2 日本の株式会社数(資本金別) (会社数、%) 資本金 1980 1985 1990 1995 1996 1997 1998 1000万円未満 557,372 ( 72.7) 597,686 ( 68.8) 649,350 ( 64.3) 487,733 ( 43.4) 319,957 ( 28.5) 61,815 ( 5.6) 18,941 ( 1.7) 1億円未満 194,150 ( 25.3) 252,548 ( 29.1) 335,831 ( 33.3) 604,977 ( 53.8) 771,100 ( 68.7) 1,005,817 ( 91.4) 1,047,080 ( 95.2) 10億円未満 13,356 ( 1.7) 16,003 ( 1.8) 20,939 ( 2.1) 25,687 ( 2.3) 26,212 ( 2.3) 26,834 ( 2.4) 27,436 ( 2.5) 10億円以上 2,209 ( 0.3) 2,718 ( 0.3) 3,697 ( 0.4) 5,479 ( 0.5) 5,765 ( 0.5) 5,962 ( 0.5) 6,249 ( 0.6) 合 計 767,087 (100.0) 868,955 (100.0) 1,009,817 (100.0) 1,123,876 (100.0) 1,123,034 (100.0) 1,100,428 (100.0) 1,099,706 (100.0) 出所:表1に同じ。 b.監査役制度の改正 日本の監査役制度は、100有余年の長い歴史を有している。その間、監査役の職務や権限はしば しば変わり、縮小されたり、拡大されたりした。監査役は、取締役の職務の執行を監査する株式会 社の必置の機関であり、その職務は一般に会計監査と業務監査からなる。しかし、制度と現実の乖 離は大きく、監査役制度は機能していないとの批判が強く、また、監査役は「閑散役」であると揶 揄する声も高かった。 特に1990年代に入ってから、企業不祥事が続発し、監査役制度は名目的存在にすぎず、全く機能 していないことが明らかになった。この制度によって会社の不正行為が未然に防止されることは一 度もなかったのである。その理由としては、代表取締役(社長や会長)が監査役を事実上選任・解 任していること、監査役は社内の昇進制度の一つの処遇ポストとして扱われていること、監査の専 門家と言える者がほとんどいないこと等が挙げられる。 1974年以来、大中会社では会計監査および業務監査が(大会社ではさらに会計監査人による会計 監査も)、小会社では会計監査のみが行われ、監査役の任期は2年であったが、1993年の商法改正 により、監査役の任期は3年に伸長した。さらに、同年の商法特例法改正により、大会社について は、監査役の員数が2人以上から3人以上に増員され、うち1人以上は社外監査役とし、さらに実 効性のある監査を実現するために、監査役会が導入され、監査役制度の一層の充実が図られた(表 3参照)。

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表3 日本の株式会社における機関の機能分化 商   法 株 主 総 会 取  締  役  (会) 監 査 役(会) 明治32年 (1899) 最高かつ万能の機関   商 法 ま た は 定 款 に 定 め る 事 項、その他のあらゆる事項に ついて決議する権限を有する  (例)取締役・監査役の     選任 ・解任     決算の承認 各自代表の原則 選任条件は株主であること 株主総会が決議により業務執行を拘 束できる 任期は3年 員数は3人以上 会計監査及び業務監査 選任条件は株主であること 任期は1年 員数は1人以上 明治44年改正 (1911) 各自代表の原則 た だ し 、 定 款 ま た は 総 会 の 決 議 を もって代表取締役を定めることが認 められる 任期は2年 昭和13年改正 (1938) 権限の拡大  取締役に対する監督を強化 各自代表の原則 ただし、取締役の互選によっても代 表取締役を定めることが認められる 選任条件は株主であることを問わな い 選任条件は株主であることを 問わない 昭和25年改正 (1950) 最高の機関だが、万能の機関で はない 権限の縮小  商法または定款に定める事項 に限って決議する権限を有す る 各自代表の原則を排す 取締役を取締役会と代表取締役に分 化 任期は2年 権限の拡大(改正前までは新株・ 社 債の発行は株主総会の決議事項) ・取締役会が業務執行に関する意思 決定を行う ・取締役会が代表取締役を選任する ・代表取締役が業務執行と会社代表 とを行う ・取締役会が代表取締役の業務執行 を監督する ・株主による取締役の監査権限の強 化(代表訴訟提起権 ・違法行為差 止権・帳簿閲覧権・取締役解任請 求 権 な ど の 共 益 権 を 株 主 に 認 め る) 会計監査のみ 地位の強化( 解 任 は 株 主 総 会 の特別決議を要する) 任期は1年 上場会社に対する証券取引法 による公認会計士の会計監査 と全面的に重複 昭和49年改正 (1974) ・営業報告書を含むすべての計 算書類の承認 (財産目録も昭 和37年改正以前は承認事項で あった。さらに本改正で作成 すべき書類でなくなった) 大中会社については、会計監 査及び業務監査 小会社については、会計監査 のみ 任期は2年 昭和49年商法 特例法(1974) 大会社における会計監査人の選任 ・ 解任権 大会社については、監査役及 び会計監査人による会計監査 を要する 昭和56年改正 (1981) ・株主の提案権を認める ・取締役 ・監査役の株主総会に おける説明義務を認める ・総会屋排除規定を設ける ・営業報告書は報告事項、それ 以外の計算書類は承認事項と する ・取締役会が代表取締役の業務執行 を監督する旨を明文化 ・代表取締役は取締役会へ業務執行 に関する報告義務を負う ・各取締役の取締役会招集権が保障 される ・ 大 中 会 社 で は 取 締 役 の 法 令・定款違反行為を報告す るための取締役会招集権が 与えられる ・取締役の報酬と監査役の報 酬を区別して定める 昭和56年商法 特例法改正 (1981) ・大会社における会計監査人の 選任・解任権を得る ( 改 正 前 までは取締役会がもつ) ・大会社については、監査役 を2人以上とし、常勤監査 役(1人以上)を強制し、 監査体制の強化をはかる ・大会社については、会計監 査人による会計監査を要す る 平成5年改正 (1993) 株主の代表訴訟の容易化 株主の帳簿閲覧権の強化 任期は3年 平成5年商法 特例法改正 (1993) 大会社については、員数を3 人以上とし、社外監査役を強 制し、さらに監査役会を法定 し、監査体制の一層の強化を はかる 大会社とは、資本の額が5億円以上または負債総額が200億円以上の株式会社をいう。       (筆者作成) 中会社とは、資本の額が1億円を超え5億円未満で、かつ負債総額が200億円未満の株式会社をいう。 小会社とは、資本の額が1億円以下で、かつ負債総額が200億円未満の株式会社をいう。

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従来の日本の監査役の主な機能は、経営の違法性のチェック(英米のそれは、経営の不正行為や 経営の妥当性のチェック)にあったから、大会社への社外監査役制度や監査役会の導入は、経営 チェック機構の改善の第一歩になったと言ってよい。それにもかかわらず、監査役は経営にとって 取締役と両論をなすとの考えは依然として薄く、その地位・機能は尊重されていない。監査役の独 立性も確保されていない。 さらに、取締役の職務執行に対する監督強化を意図して、大会社に導入された監査役会や社外監 査役制度も、実際には、法の期待する通りになっていない。 c.株主代表訴訟制度の改正 取締役の会社に対する責任は、本来、会社自身が追及すべきものである。しかし、社内では、取 締役間に緊密な関係が存在する場合が多いので、会社がそのような責任を追及しないことが十分に 考えられる。そのため、個々の株主が会社に代わって会社のために取締役の責任を追及することが 認められている。これが株主代表訴訟制度である。 この制度は、1950年の商法改正により、米国の制度にならって導入されたが、日本ではわずかし か利用されなかった(1950−92年間の利用例はわずか31件)。なぜなら、株主代表訴訟を提起しよ うとする株主の負担と手間があまりにも大きく、仮に原告株主が勝訴しても、損害賠償額は株主に ではなく、会社に支払われたからである。しかし、1993年の商法改正により、訴訟費用は、損害賠 償請求額に関係なく、一律8,200円に定額化された。その結果、提訴件数の増加、請求金額の高額 化、大会社の取締役を被告とする訴訟の増加、市民運動型の事件の増加等が見られるようになった。 事実、株主代表訴訟制度は、取締役の違法行為追及の手段として活発に利用され、バブル経済崩 壊期と重なって、提訴件数は一時急増したが、その後は安定している4)。そこに、この制度の取締 役に対する監視・牽制機能を見いだし、評価する見方もある。しかし、経済界には、この制度の改 正を求める声が高い。株主の株式取得の時期、株主の保有株数等の原告適格の見直し、会社の訴訟 参加・訴訟支援の容認、取締役の損害賠償負担の軽減、経営判断原則の確立等がそれである。 最近の提訴で目立つのは、利益供与事件である。これは半ば慣例化しており、刑事事件として有 罪判決が下りると、和解として決着を付けるケースが多い。また、最近注目されるのは、会社によ る提訴の動きである。刑事事件等の場合には、違法行為をした役員が会社に損害賠償をするのは当 然だという考え方が定着してきたことや、経営破綻の場合には、法的にけじめを付けるべきだとい う考え方が強まってきたことが、その背景にある。

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d.自己株式取得規制の緩和 自己株式の取得とは、会社が自社の株式を有償で取得することをいい、1938年の商法改正により、 それまでの絶対禁止から原則禁止、例外許容に改められた。以後、例外許容の範囲が拡大され、 1994年の商法改正前には、①株式の消却(資本減少に伴う消却、利益消却、償還株式の消却)、 ② 合併、③営業全部の譲受け、④会社の権利の実行、⑤株主からの株式の買取請求による買受け、⑥ 発行済み株式総数の20分の1以内の自己株式の質受けが、例外的に認められた。 自己株式の取得が原則的に禁止されたのは、①これを自由に認めると、株主に出資を払い戻した のと同じ結果になり、資本充実の原則に反し、また、会社の資産の健全性を損なうこと、②会社が 株価操作をし、あるいは内部情報を利用して自己株式の投機取引を行い、株主・投資家の利益を害 すること、③自己株式の取得の方法、対価のいかんによっては、特定の株主を優遇する結果になり、 株主平等の原則に反すること、④現経営陣が自らの地位を保持するために利用する可能性があるこ と等の理由からである。 1994年の商法改正により、さらに、⑦使用人に譲渡するための取得、⑧閉鎖会社の売渡請求によ る買受け、⑨閉鎖会社の株主の相続の場合の買受けが認められた。その背景としては、①長年にわ たって経済界から粘り強く自己株式取得規制の緩和を求める要望があったこと、②1992年春以降の 急激な株価の下落および経済の落ち込みのなかで、日本政府の経済対策に自己株式取得規制の見直 しが盛り込まれたこと等が挙げられる。さらに、その規制緩和に際しては、つぎのような措置が講 じられた。①資本充実の原則との抵触を回避するため、自己株式の取得財源は、配当可能利益の範 囲内とする、②株主平等の原則との抵触を回避するため、自己株式の取得方法は、公開株式につい ては、市場取引、店頭取引および公開買付けに限る、③経営者の会社支配を排除するために、自己 株式の取得数を制限し、具体的には、使用人に譲渡するための自己株式の取得数は、発行済み株式 総数の100分の3以内、閉鎖会社の自己株式の取得数は、発行済み株式総数の5分の1以内とする、 ④株価操作およびインサイダー取引の防止は、証券取引法の運用および改正で対処することがそれ である。 自己株式取得規制の緩和は、その後も続き、1997年の商法改正により、取締役も自己株式を取得 できることになった。また、自己株式の取得数も、発行済み株式総数の10分の1以内に引き上げら れた。さらに、1997年には、議員立法により、株式消却特例法が創設され、利益による株式消却が 可能になった。株式消却は、その後、資本準備金(1998年の株式消却特例法改正)、再評価差額金 (1999年の土地再評価法改正)によっても可能になった。

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e.持ち株会社の解禁 1947年に独占禁止法が制定されて以来、日本では、50年もの長きにわたって、財閥を復活させな いために、純粋持ち株会社が禁止されてきた。高度成長期を通じて急増したグループ企業の経営問 題に直面した経済界は、1970年代から、持ち株会社の解禁を強く求めてきた。1997年6月、その解 禁がようやく実現した背景には、バブル経済崩壊後、企業の再編成や事業の再構築には、持ち株会 社が必要という議論が高まったこと、さらに、不良債権処理に苦しみ、国際競争から立ち遅れた金 融機関からも、金融持ち株会社解禁の声が高まったことがある。こうした声の高まりのなかで、公 正取引委員会は、1995年12月当時、部分解禁に踏み切る方針であった。しかし、自民党や行政改革 委員会の猛反対にあい、わずか1カ月足らずで、全面自由化に転じていたのだった。 1997年12月17日に施行された改正独占禁止法により、持ち株会社は、事業支配力が過度に集中す る場合5)を除いて、解禁された。金融持ち株会社も、同年12月5日に成立し、12月12日に公布され た「持株会社の設立等の禁止の解除に伴う金融関係法律の整備等に関する法律」と「銀行持株会社 の創設のための銀行等に係る合併手続の特例等に関する法律」とにより、解禁された。 企業にとっては、①持ち株会社化によって、グループの統一的な意思決定のもとに、各事業会社 の自主性を活かした効率的な組織運営が可能になる、②グループ全体の戦略機能を持ち株会社に集 約することにより、戦略的意思決定の迅速化が可能になる、③各事業部門を持ち株会社傘下の子会 社とすることにより、事業部門の売却や買収が容易になる等の利点がある。 目下、持ち株会社化を円滑に進めるための手段整備の必要から、法制審議会商法部会を中心にし て、法整備が行われている。その一つは、合併・株式保有等に関する企業結合規制の合理化に関わ るものである。これについては、「独占禁止法の一部を改正する法律案要綱」が成立(1998年5月22 日)、施行(1999年1月1日)され、届出対象範囲の縮減、審査手続きの簡素化等が図られた。二 つ目は、完全親子会社関係を創設するための株式交換制度および株式移転制度の導入である。これ らの制度は、「商法等の一部を改正する法律案要綱」の成立(1999年8月9日)、施行(同年10月1 日)により、利用可能になった。もう一つは、会社分割法制の創設等に関わるものであり、すでに 1999年7月7日の商法部会において、その中間試案がとりまとめられ、2000年には成立・施行の予 定である。 f.ストック・オプション制度の導入 ストック・オプション制度は、会社が取締役や使用人に対し、あらかじめ定められた価格で自社 の株式を購入できる権利を与える制度である。権利行使期間は10年以内であり、取得できる株式数 は、発行済み株式総数の10分の1以内である。株価がこの権利行使価格を上回る水準まで上がった

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とき、権利を行使して手に入れた株を売却すれば、値上がり分が報酬になる。この制度が導入され たのは、①自社の業績向上に対する取締役・使用人の士気の高揚に役立つこと、②株主の利益と取 締役・使用人の利益を一致させ、株主重視の経営を一層定着させるのに役立つこと、③自己株式方 式によるストック・オプションに加えて、新株引受権方式によるストック・オプションが認められ たことから、資金力のないベンチャー企業の人材確保にも資することが期待されているからである。 この制度の導入のための商法改正が、議員立法の形で 1997年5月に成立し、自己株式型ストッ ク・オプションが6月1日、新株引受権型ストック・オプションは10月1日、それぞれ施行された。 1998年4月には、租税特別措置法の一部改正により、ストック・オプションの行使による株式の取 得にかかる経済的利益の非課税制度が導入された。このような流れのなかで、すでに170社を超え る公開会社が、定款変更の手続きを終え、一部の会社では、ストック・オプションの付与が実施さ れている6)。さらに、1999年8月には、ストック・オプション制度の拡充を含む産業活力再生特別 措置法が成立し、10月1日施行された。その結果、子会社の取締役や使用人に対しても、親会社の ストック・オプションが付与されることになった。 ストック・オプション制度を導入すれば、企業に活力がよみがえり、株式市場への好影響が期待 されている。しかし、この制度の本家である米国でも、「お手盛り」のストック・オプションで、 法外な報酬を得ようとする経営者が跡を絶たないといわれている。特に取締役会や株主総会の チェックが不十分な日本の現状では、経営者や使用人が「お手盛り」的に利用しかねないとの懸念 も出ている。 g.利益供与禁止の強化 日本には、総会屋と呼ばれる、外国に類例のない特殊株主がいる。総会屋は「幾つかの会社の株 を少しずつ持って、それぞれの株主総会に出席し、その席で嫌がらせをしたり、議事進行に協力し て、会社から金を取ったりすることを常習としている者」である。こうした総会屋は、1975年から 1981年にかけて、5,200人から6,300人もいた。その多くは、暴力団と直接または間接につながりを 持つ者であった7)。彼らの存在が、日本の株主総会の運営を著しくゆがめていた。 1981年の商法改正により、会社は何人に対しても株主の権利行使に関して、財産上の利益を供与 することが禁じられた。この商法改正以来、18年が経ち、警察当局の取締り、摘発が強化されてき たにもかかわらず、総会屋への利益供与事件が毎年のように発生し(利益供与を受ける総会屋に とっては、「6月以下の懲役または30万円以下の罰金」程度の刑では、抑止力にはならないとの指 摘が、81年の改正当時からなされていた。)、そのたびに企業と総会屋(あるいは暴力団)との癒着 が社会の批判を浴びてきた。こうした利益供与事件は、年を追って巨額化し、悪質化する傾向が見

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られた。 警察庁の調査によると、1996年末当時、約1,000人の総会屋(グループ総会屋は35グループで250 人、単独総会屋は750人)がおり、利益供与の対象は、株主総会のみならず、企業の危機管理全般 に及んでいた。また、利益供与の方法も、金品の供与や接待にとどまらず、情報誌の購読要求、広 告掲載要求、賛助金要求、下請参入要求等の不当要求にまで及んでいた。 この種の事件が起こるたびに、「会社が株主総会を平穏に、短時間に終わらせようとするのが問 題である」「暴力団の資金源となっている総会屋と絶縁すべきである」「企業は総会屋に対して毅然 とした態度で臨むべきである」といった批判がなされる。 1997年3月に発覚した野村證券および第一勧業銀行の利益供与事件は、経営トップの指令のもと に総会屋との癒着を続けてきた組織ぐるみの商法違反であり、瞠目に値する大事件となった。その 後も大手企業の利益供与事件が相次いで摘発され、これを受けて、法務省は、商法の罰則規定を強 化・整備する方針を固め、商法等の一部を改正する法律を国会に提出した。同改正案は、同年11月 28日に成立し、12月23日から施行された。改正商法は、利益供与罪・受供与罪の法定刑が「6月以 下の懲役または30万円以下の罰金」から「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」へ引き上げ られたほか、これと同じ法定刑が科される利益供与要求罪が新設され、さらに、威迫を伴う利益受 供与罪・利益供与要求罪には「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」が科される厳しい内容 となった8)9) 4.1990年代の日本における企業統治改革の提言 1990年代の日本では、前節で詳述したように、株式会社の法改正を通じて、企業統治改革の制度 的基盤作りが進められてきた。これと並行して、企業統治問題をめぐる議論も、活発に展開されて きた。こうした状況のなかで、日本の企業統治改革に関して、各種機関から、さまざまな提言が試 みられている。それらの提言は、つぎの二つに大別することができよう。 A 健全な遵法経営を主眼とする提言  1.自由民主党の提言:同法務部会商法小委員会「コーポレート・ガバナンスに関する商法等改 正試案骨子」(1997年9月)、「企業統治に関する商法等の改 正案骨子」(1998年6月)および 「企業統治に関する商法等の改正案要綱」(1999年4月)  2.経済団体連合会の提言:同コーポレート・ガバナンス特別委員会「コーポレート・ガバナン スのあり方に関する緊急提言」(1997年9月)  3.日本監査役協会の提言:同監査制度委員会「コーポレート・ガバナンスと監査役」(1996 年 9月)および「社外監査役の機能強化のために」(1997年9月)

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 4.社会経済生産性本部の提言:同生産性研究所「日本型コーポレート・ガバナンス構築に向け てのトップマネジメント機能の課題」(1998年6月) B 競争力ある効率経営を主眼とする提言  1.経済同友会の提言:同「第12回企業白書」(1996年5月)および「第14回企業白書」(1999年2月)  2.日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラムの提言:同コーポレート・ガヴァナンス原則 策定委員会 「コーポレート・ガヴァナンス原則 :新しい日本型企業統治を考える(中間報 告)」(1997年10月)および「コーポレート・ガヴァナンス原則:新しい日本型企業統治を考え る(最終報告)」(1998年5月) 以下、それらの提言を概観しよう。 a.自由民主党の提言 自由民主党法務部会商法小委員会は、1993年の商法改正後も企業不祥事が跡を絶たず、同改正は 中途半端に終わったのではないかとの問題意識から、1997年9月、「コーポレート・ガバナンスに 関する商法等改正試案骨子」を公表した。同改正試案骨子は、企業統治の基本原則を株主主権・株 主利益の最大化に求め、監査役の独立性の確保と株主代表訴訟の見直しとから構成されていた。 まず、監査役の独立性の確保については、①監査役会と取締役会は、株主総会に対して、それぞ れ独立の説明責任を負う、②代表取締役は少なくとも年6回、経営状況について、監査役会に対す る説明責任を負う、③監査役会は取締役会の同意を得て、監査体制について、株主総会に提案でき る、④監査役の任期は4年、人数は3人以上、その過半数は社外監査役とする、⑤取締役会は、株 主総会に対する監査役の選任提案に際し、監査役会の同意を必要とすること等が考えられていた。 つぎに、株主代表訴訟の見直しについては、①株主代表訴訟を提起できる者は、訴訟の原因と なった行為があった時の株主とする、②会社は、一定の場合には被告取締役に補助参加できる、③ 監査役の考慮期間は60日とする、④取締役の応訴費用について、会社による立替えを認める、⑤株 主代表訴訟における和解を認め、所要の法的整備を行うこと等が考えられていた。 以上の改正試案骨子は、広く各界の意見聴取の後、検討が加えられ、1998年6月、「企業統治に 関する商法等の改正案骨子」としてまとめられた。同改正案骨子は、株主重視の姿勢をより鮮明に し、米国の企業社会に範を求め、米国の社外取締役の位置にわが国の監査役を置き、監査と訴訟の 機能をほぼ全面的に監査役会に委ねようとするものであった。しかし、同改正案骨子は、1997年の 改正試案骨子に比べて、かなり縮減された。ところが、同改正案骨子についても、同様の検討がさ らに加えられ、1999年4月、「企業統治に関する商法等の改正案要綱」として公表された。同改正 案要綱は、株主重視の姿勢といい、改正事項といい、基本的には1998年の改正案骨子と同じである、

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と言ってよい。 まず、監査役の独立性の確保については、①大中会社の取締役は、3カ月に1回以上、業務執行 状況を監査役(会)に報告しなければならない、②大会社の監査役は、3人以上で、その半数以上 は、会社または子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者でなければならない、③ 監査役の任期は4年とする、④大会社の取締役は、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出す るには、監査役会の同意を得なければならない等が示されている。 つぎに、株主代表訴訟の見直しについては、①取締役または監査役の会社に対する損害賠償責任 は、株主総会の特別決議により、それぞれの報酬の2年分を限度として、軽減することができる、 ②会社は、定款をもって、取締役会の決議により、取締役または監査役の報酬の2年分を限度とし て、取締役または監査役の会社に対する損害賠償責任を軽減することができる旨を定めることがで きる、③会社は、取締役または監査役を被告とする株主代表訴訟の被告を補助するため、監査役 (会)の全員の同意を得て、その訴訟に参加することができる、④取締役または監査役の会社に対 する責任の原因となる行為があることを知って株式を取得した株主は、株主代表訴訟を提起するこ とができない、⑤監査役の考慮期間は60日とすること等が示されている。 以上の内容からなる改革案要綱は、いずれ法案として国会に提出される予定と伝えられるが、そ のままの形で立法の実現を図るには、問題点が多すぎるとの意見も出ている。 b.経済団体連合会の提言 経済団体連合会コーポレート・ガバナンス特別委員会は、監査体制の強化および株主代表訴訟制 度の見直しを柱とする「コーポレート・ガバナンスのあり方に関する緊急提言」を、1997年9月、 取りまとめた。同特別委員会がこの二つを緊急提言の柱としたのは、相次ぐ企業不祥事に対処する には、この二つが最も現実的で効果的であると判断したからである。 まず、監査体制の強化については、緊急提言は、①社外監査役の要件を厳格にし、過去に会社ま たは子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者とする、②社外監査役の員数を増員 し、全監査役の半数以上とする、③監査役の選任議案の株主総会への提出は、監査役会の同意を経 て、取締役会が行う、④監査役が任期途中で辞任する場合には、監査役会が株主総会でその理由を 説明する義務を負う、⑤会計士監査の充実のため、監査役監査との連携強化、監査法人内の関与社 員の交替、他の会計士による監査の事後的審査を行うことを求めている。 つぎに、株主代表訴訟制度の見直しについては、緊急提言は、①原告の適格を、訴訟の原因とな る行為の時点で株式を保有していた者に限る、②監査役会が全会一致で認めた場合には、会社の被 告取締役への訴訟参加・支援を認める、③全会一致による監査役会の申立てに基づき、裁判所が訴

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訟を却下できるよう制度整備を行う、④監査役の熟慮期間を30日から60日に延長する、⑤取締役の 会社に対する損害賠償責任につき、定款で責任額の上限を規定できるようにする、⑥経営判断の原 則を法律の規定に明記すること等を求めている。 さらに、緊急提言は、制度改革を実効あるものとする上で欠かせない企業の自主的対応として、 ①各社で企業行動指針を策定し、その徹底に努める、②取締役会を活性化するための方策を検討す る、③監査役の求めにより主要役員会への出席を認めることを訴えている。 c.日本監査役協会の提言 日本監査役協会監査制度委員会では、かねてより日本におけるコーポレート・ガバナンスのあり 方を、監査役の立場から検討してきたが、二度の実態調査結果を踏まえ、1996年9月にまず、 「コーポレート・ガバナンスと監査役」において、監査役監査制度に関する問題提起を行った。つ いで1997年9月、同委員会は、「社外監査役の機能強化のために」において、社外監査役の機能強 化に関する提言を試みている。 まず、監査役監査制度に関する問題提起から見ていこう。第1は、監査役会機能の向上に関わる 問題提起であり、①監査役監査の中心的役割を担う常勤監査役は、監査役会を実質的な情報・意見 交換の場とすることに努め、一層情報の提供と共有化に留意すべきである、②株主総会に提案され る監査役候補者については、少なくとも事前の同意権を監査役会に与えることを要望したい、③監 査役会の組織的監査機能を高めるために、監査役相互の監視義務の強化を含めて、監査役会の監査 権限を拡充し、監査役の独任制との再調整を図る必要がある、と。第2は、社外監査役の機能強化 に関わる問題提起であり、④監査役会の機能をより強化し、その中立性を確保するために、少なく とも大規模会社または大会社においては、社外監査役の員数を2名以上とする制度改正を検討し、 その際、常勤監査役を減員してはならない、⑤社外監査役の主な役割は、監査役会等への出席を通 じて、重要な意思決定の過程や業務の執行状況をチェックすることにあり、監査役会をリードする 意気込みを期待したい、と。第3は、経営トップの理解と協力に関わる問題提起であり、⑥監査役 監査を機能させるために、社長や業務担当取締役との懇談を通じて、コミュニケーションを高めて いくことが必要である、⑦監査役は、情報入手のため、実質的な意思決定機関である常務会等に積 極的に出席すべきである、⑧監査役監査を実効あらしめるために、経営トップに対し、監査役ス タッフの増強を要請したい、と。第4は、その他に関わる問題提起であり、⑨形骸化しているとい われる取締役会の監督機能のあり方については、経営判断の原則、株主代表訴訟等との関連を含め、 さらに検討がなされるべきである、⑩監査水準の向上を図るため、日本監査役協会が制定した「監 査役監査基準」の法制化について、法曹関係者に検討してほしい、と。

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つぎに、社外監査役の機能強化のための提言を見よう。第1は、法的整備に関わる提言であり、 ①社外監査役候補者は、代表取締役が監査役会の同意を得て推薦する、②社外監査役の任期中の辞 任についても、監査役会の同意を必要とする、③大規模会社の社外監査役の員数を2名以上とし、 これに付帯して、常勤監査役を減員することがあってはならない、④当該会社出身社員、従業員の 社外監査役就任を可及的に制限すべきである、と。第2は、社外監査役制度運用上の重要課題に関 わる提言であり、⑤社外監査役体制強化のあまり、監査機能が空洞化するような事態を招かないた めに、常勤監査役は一層の研鑚に努め、社外監査役との緊密な情報共有化を進め、監査の品質確 保・向上を図るべきである、⑥④の資格要件を充たす社外監査役を手当するために、社外監査役の 適正な人材育成・確保に真剣に取り組むべきである、⑦監査役の独立性・公正性・第三者性の見地 から、社外監査役の兼任(子会社を除く)やグループ企業間持ち合いを制限すべきである、と。 最後に、監査制度委員会は、以上のような機能強化を通じて、社外監査役が「企業不祥事の未然 防止」「企業倫理重視」「社会的目線での企業監視」「経営トップへの率直な進言」等に意を注いで くれることを、経営トップも期待している、と強調する。 d.社会経済生産性本部の提言 社会経済生産性本部生産性研究所は、1998年6月、「トップマネジメント機能の革新とコーポ レート・ガバナンス」に関する調査結果を基にして、「日本型コーポレート・ガバナンス構築に向 けてのトップマネジメント機能の課題」と題する調査報告を発表した。同生産性研究所は、そのな かで、経済同友会や経済団体連合会の提言に見られるような法的制度の整備や外部からの監査・監 視機能強化も重要であるが、「基本的にはそれぞれの企業において企業倫理の確立や経営の健全性 確保という見地から実効性のあるコーポレート・ガバナンスの仕組みを自主的に検討・改革してい くことが望ましい」として、真にグローバル・スタンダードな企業統治、すなわち国際的にみて理 解可能な、透明性が高く健全な統治制度を作りあげていくことが日本企業に求められている、と強 調する。それは、利害関係者との緊張感のある協力関係によって可能になるのであり、そのために は、何よりもまず、企業内部の経営監視機能の回復・強化と、これが円滑に機能するような経営 トップの企業風土づくりが重要である、という。こうした認識のもとに、同生産性研究所は、つぎ のような提言を行う。 第1の提言は、経営トップのあるべき行動様式に関わるものであり、①経営トップは情報開示を 積極的に進め、風通しの良い企業風土を作る必要がある、②経営トップの執行責任を明確にするた め、経営トップの業績評価の仕組みを作り、併せて役員報酬制度を整備する必要がある、と。第2 の提言は、取締役会の経営意思決定・監視機能の回復・強化に関わるものであり、③取締役会の員

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数は、実質的に議論可能な人数へ削減する必要がある、④取締役会の若返りを図るため、役員の定 年制・任期制を積極的に導入すべきである、⑤取締役会を活性化するため、取締役会の経営意思決 定・監視機能と業務執行機能とを分離し、取締役の員数削減に合わせて経営意思決定・監視機能の 強化を図るべきである、⑥取締役会の活性化・透明性を高めるため、社外取締役や外部有識者によ る経営諮問委員会等との連携を図る必要がある、と。第3の提言は、労働組合・中間管理職層の内 部監視機能の強化に関わるものであり、⑦経営の透明性を高めるために、労使協議制の充実、労働 組合幹部や従業員代表の社内監査役入りにより、労働組合の内部監視機能を強化すべきである、⑧ 中間管理職層の経営参加への期待も大きいので、中間管理職層が内部監視機能を発揮できるよう環 境整備を行う必要がある、と。 e.経済同友会の提言 経済同友会は、すでに「第11回企業白書」(1994年1月)において、日本は明治維新、第二次世 界大戦に次ぐ第三の転換期にあり、新しい日本の経営システムの構築が求められているという認識 のもとに、日本の経営システムの見直しの必要性を訴えていた。 「第12回企業白書」(1996年5月)は、これを踏まえ、日本企業の経営システム、特にその意思 決定・チェックシステムの根幹をなす取締役会および監査役会のあり方について、経営者の立場か ら見て実現可能と思われる提言を試みている。その提言に当たって、同白書は、自己責任を基本に、 さまざまな利害関係者との間で調和・創造・信頼につながる緊張関係を保ちながら、互いに切磋琢 磨していくことが、これからの企業統治であるとし、各利害関係者の「個」を尊重し、透明性・公 正性を重視した経営を行っていくことを基本的視点に置いて、取締役(会)および監査役(会)の 現状を、つぎのように指摘する。 まず、取締役(会)については、①企業規模の拡大につれて取締役の人数が数十名に増大し、実 質的な議論ができない、②取締役の大部分は社内昇格者であり、社長等との上下関係が先行して、 発言が十分になされない傾向がある、③取締役のほとんどが執行役員であり、担当部門の利益・保 身を優先しがちである、④株主の意向を代表して経営方針を決定し、執行状況を監督するという色 合いが弱い、⑤重要案件はすべて常務会等で一定の結論を得ているため、取締役会での審議は形式 的なものにならざるを得ない、といったことを背景に、(イ)取締役会の多くは、単なる決裁機関の 機能しか果たしていない。また、(ロ)取締役は事実上代表取締役によって任免されているために、 代表取締役の職務執行を監督する機能も、取締役にあまり期待できない。さらに、(ハ)株主代表訴 訟を恐れて、取締役の間に過剰反応が生じ、それが迅速な経営判断の障害になっている、と。 つぎに、監査役(会)については、(イ)監査役は経営にとって取締役と両輪をなすとの認識が一

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般に希薄であり、その地位・機能が尊重されているとは言い難い。また、(ロ)監査役は実質的に社 長あるいは取締役によって選定されるケースが多く、独立性が十分確保されていない。さらに、 (ハ)大会社に監督機能の強化を意図して導入された監査役会および社外監査役制度は、法の期待す る通りになっていない、と。 企業白書は、以上のような現状認識のもとに、意思決定・チェック機関としての取締役会の活性 化およびチェック機関としての監査役(会)の強化について、つぎのように提言する。 まず、取締役会の活性化策としては、①企業の将来を左右する基本戦略・路線に関して議論を尽 くすために、戦略決定機能と業務執行機能とを分離し、戦略決定機能を強化する、②取締役会を真 の論議・審議・決定ができる場とするために、取締役会の人数を見直す、また、経営者の一員とし て議論に加わるために、投資戦略、人事戦略等の横断的な委員会を活用する、③経営トップの暴走 を防ぐために、取締役間で経営情報を共有し、経営状況について共通認識を持つ、④1割以上の社 外取締役を導入し、彼らの経験と知見を活かし、自律的ガバナンス機能を高めることを検討すべき である、と。 つぎに、監査役(会)の強化策としては、①大中会社における業務監査の範囲を、適法性監査に とどまらず、妥当性監査まで広げ、経営層に対して日頃から率直な助言をする、②監査役は取締役 と対をなす経営の重要な柱の一つであり、それにふさわしい人材を獲得する、③社内の人間による 一元的なチェック体制を打破するために、経営トップ経験者などを登用する、④情報アクセスの自 由、トップとの対話、監査役室スタッフの充実等を通じて、監査環境を整備し、社内での監査役に 対する理解を深める、⑤大会社については、監査役候補者の選任に際し、監査役会の同意を必要と する等、組織としての監査役会の機能をより高めることを検討すべきである、と。 最後に、企業白書は、経営者が変革の主体として、企業家精神に則ったリーダーシップを発揮し、 日本企業の経営システムの早急な再構築に踏み切るべきである、と結ぶ。その経営構造改革におい て、経済同友会が日本の企業と経営者に期待するのは、市場主義に基づいた企業行動、すなわち資 本効率重視経営の確立なのである。 それから約3年後の1999年2月、経済同友会は、「第14回企業白書」を発表し、そのなかで、改 めて資本効率重視経営の確立を強調する。そして、これこそが企業競争力の向上を可能にし、その 鍵を経営者が握っているとして、つぎのような提言を速やかに実行すべきであるという。①企業収 益の確保と向上を使命とする経営者は、企業業績に対して責任を負い、自らの出処進退は企業業績 によるべきである、②この成果主義を経営者は自覚し、自らの改革を決断して、まず改革を始める べきである、③役員の報酬は在任中の業績評価を重視し、短期決済型とすべきである、④役員の評 価・報酬の決定メカニズムを明確にし、透明性を高めるべきである、⑤早期選抜と抜擢により経営

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者を育成し、外部からも経営者を積極的に登用すべきである、と。 f.日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラムの提言 日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラムのコーポレート・ガヴァナンス原則策定委員会は、 1997年10月、「コーポレート・ガヴァナンス原則:新しい日本型企業統治を考える」と題する中間 報告を発表し、そして1998年5月には、その最終報告を公表した。最終報告は、中間報告と基本的 に同じ考え方に立ち、これを再整理し、一層充実させた内容になっている。以下では、この最終報 告によって、その提言を見ていくことにしよう。 同原則策定委員会は、最終報告において、アカウンタビリティとディスクロージャー、取締役 (会)、監査役(会)および株主総会について、より良い企業統治実現のためのコーポレート・ ガ バナンス原則を策定した。それらの原則は、原則A(可及的速やかに実行すべき原則)と原則B (21世紀の早い段階での実現をめざしつつ、世界の市場環境に照らしながら修正を加える必要のあ る原則、ないし大幅な法律改正を要する原則)の二段階からなっている。それらの原則は、「 株 主 とその長期的利益を代理する取締役の機能に軸を据えた企業統治システムを通して、すべてのステ イクホルダーへの便益の実現を図るための日本型枠組みを具体的に提示すること」を目指しており、 16条よりなる(表4参照)。 16条の原則のうち、まず、原則1A−4Aは、アカウンタビリティとディスクロージャーに関わ る原則であり、取締役会に対して、株主を始めとする利害関係者への積極的な情報提供を促すため の指針として提示されている。つぎに、原則5A−10Bは、取締役(会)に関わる原則であり、特 に原則5A−7Aは、取締役会改革の第一歩として提示されている。また、原則8Bは、今後の取 締役会のあり方を志向する原則として提示されており、社外取締役市場の創設や経営者市場の流動 化の促進が予定されている。さらに、原則11A−13Bは、監査役(会)に関わる原則であり、特に 原則11Aは、監査役(会)改革の第一歩として提示されている。また、原則13Bは、取締役会に監 査機能を一元化し、その監査を、独立した(純粋に株主の立場を取りうる)社外取締役の中心的機 能とする体制の確立を目指して提示されている。最後に、原則14A−16Bは、株主総会に関わる原 則であり、特に原則14A、15Aは、株主総会改革の第一歩として提示されている。また、原則16B は、「利益処分案」と「役員報酬の決定」を取締役会事項とし、株主総会の簡素化(株主への十分 かつ適時の情報提供を前提とした上での簡素化)を目指して提示されている。 日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラムは、その後、コーポレート・ガヴァナンス原則策 定委員会の活動を引き継ぐ日本コーポレート・ガヴァナンス委員会を発足させ、提言したさきの原 則の実施状況を点検し、本原則をより良い企業行動指針にしていく、新たな活動に着手している。

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表4 コーポレート・ガヴァナンス原則 アカウンタビリティとディスクロージャー A目標 【原則1A】   取締役会は、株主に対して有用かつ信頼できる情報提供を適時行なうために、経営者に株主及び取締役会 に対するアカウンタビリティの自覚と実践を求めるとともに、内部管理に基づく情報システムの構築と、 シェアホルダー・リレーションズの体制を確立し維持していく責任を有する。 【原則2A】   取締役会はリスク管理を徹底し、事故、訴訟、買収・合併、業績不振など、株主の利益に重大な影響を与 えると判断した情報は、ネガティブなものも含めて、速やかに公表しなくてはならない。 【原則3A】   取締役会は、経営内容の国際比較を可能にするために、現在検討中の国際会計基準が確定し次第、早急に 連結決算や時価会計など、それに準拠した決算報告を開始する。さらに、可能な限り速やかに四半期決算 を導入すべきである。 【原則4A】   取締役会は、株主の利益を代表する代理人であると同時に、各ステイクホルダーの利害を調整するという 重大な社会的使命と責任を負っている。各ステイクホルダーに対しては、たとえばポリシー・ステートメ ントや環境報告書の公表など、それぞれの関心に適った情報提供を積極的に行なうべきである。 取締役と取締役会 A目標 【原則5A】   取締役会に、企業と直接の利害関係のない、独立した社外取締役を選任する。社外取締役に情報提供を充 実するための支援体制を確立、強化する。 【原則6A】   取締役会の構成員数は、十分な議論を尽くし、的確かつ迅速な意思決定を行うことが可能な人数とする。 【原則7A】   取締役会と執行役員会を分離することで、企業の意思決定機関と業務執行機関の区別を明確にする。 B目標 【原則8B】   取締役会は、執行役員を兼務する社内取締役と、企業と直接利害関係のない、独立した社外取締役から構 成され、社外取締役がその過半数を占めるものとする。 【原則9B】   取締役会の機能をより有効に発揮せしめるために内部機関として委員会を設ける。取締役指名、経営者報 酬、企業統治のための各種委員会を設置する。各委員会は社外取締役が過半数を占めるものとし、委員長 は社外取締役がその任にあたる。 【原則10B】   統治機構の最高責任者としての取締役会の主宰者と、業務執行の最高責任者である執行役員会の主宰者の 業務は、区別されるべきである。もしも、その業務の兼務が必要な場合には、株主に対してその理由が説 明されなければならない。

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監査役と監査役会 A目標 【原則11A】   監査役会の構成員として複数の独立した監査役(社外監査役)を登用し、社内監査役との間で適切に活動 の分担を図ることで、監査の独立性と質の充実を図る。   監査の独立性を確保する観点から、監査役の選任にあたっては監査役会の同意を必要とする。同時に、現 行の社外監査役に対するいわゆる「5年ルール」は廃止する。 【原則12A】   監査役が監査を行なうために求める報告や調査の対象には、広く取締役の行なった意思決定に関わる行為 が含まれるものとする。 B目標 【原則13B】   独立した取締役(社外取締役)が取締役会の多数を占めるようになった時点で、取締役会の内部機関とし て、監査委員会を設置する。この委員会は、社外取締役のみにより構成され、取締役会が行なう業務執行 の監視のうち、特にリスク管理の点に重点をおいて取締役会を補佐することを目的とする。 株主総会 A目標 【原則14A】   株主総会は、アカウンタビリティの観点から、株主と取締役会との意見交換の幅を広げる場として有効 活用する。   株主総会の開催日は、現在の同日開催集中の現状を考慮し、見識ある行動を望む。 【原則15A】   株主総会とは別に、大株主に対してより詳細な説明会を公開で開催する。 B目標 【原則16B】   株主総会の決議事項は経営の根幹に係わるものに限定する。 注:本原則の見方   本原則は、より良い企業統治実現のために、二段階方式を採用した。   法律改正を伴う一部原則を除き、可及的速やかに実行すべき原則を、A目標として【原則A】と表記し た。   21世紀の早い段階での実現をめざしつつ、世界の市場環境に照らしながら修正を加える必要のある原則、 ないし大幅な法律改正を要する原則を、B目標として【原則B】と表記した。 出所:日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラム    コーポレート・ガヴァナンス原則策定委員会    『コーポレート・ガヴァナンス原則:新しい日本型企業統治を考える(最終報告)』1998年5月26日

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5.終わりに 前節で概観した企業統治改革に関する各種団体の提言は、つぎの四つに大別することができるで あろう。 第1は、経営トップの行動様式に関わる提言である(経済同友会、社会経済生産性本部、日本 コーポレート・ガヴァナンス・フォーラム、自民党、経団連)。ここでは、①株主重視の経営、② 資本効率重視の経営、③風通しのよい企業風土、④アカウンタビリティ(説明責任)・ディスク ロージャー(情報開示)、⑤成果主義による経営者・役員の評価と報酬、⑥早期選抜と抜擢による 経営者の育成、外部からの経営者の登用、⑦中間管理職層・労働組合等による内部牽制、⑧株主代 表訴訟の見直し等が提言されている。 第2は、取締役会の改革に関わる提言である(経済同友会、社会経済生産性本部、日本コーポ レート・ガヴァナンス・フォーラム)。ここでは、①経営意思決定・監視機能と業務執行機能との 分離、②経営意思決定・監視機能の強化、③十分な議論をし、的確かつ迅速な意思決定が可能な人 数への減員、④社外取締役の登用、⑤役員の定年制・任期制の導入、⑥各種委員会の設置、⑦取締 役間の情報共有等が提言されている。 第3は、大会社に重点を置いた監査体制の強化に関わる提言である(自民党、経団連、経済同友 会、日本監査役協会、日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラム)。ここでは、①取締役によ る監査役会への年4回以上の業務執行状況報告、社外監査役の増員と「5年ルール」要件の廃止、 任期の伸長(3年→4年)、監査役会に対する監査役候補者の同意権の付与による監査役の独立性 の確保、②常勤監査役と社外監査役との緊密な活動と情報共有、監査対象の拡大と監査権限の拡充 による監査の質の充実、③社外監査役の増員(1人以上→2人以上)、経営トップ経験者の社外監 査役への登用、社外監査役の兼任の制限による社外監査役の機能強化、④監査役スタッフの増員に よる監査環境の整備、⑤監査役の常務会等への出席による情報収集に対する経営トップの理解と協 力、⑥監査役監査との連携強化、監査法人内の関与社員の交替、他の会計士による監査の事後的審 査を通じての会計士監査の充実、⑦取締役会の内部機関としての監査委員会の設置による監査役制 度の廃止の可能性等が提言されている10) 第4は、株主総会の改革に関わる提言である(日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラム)。 ここでは、①株主と取締役会との意見交換の場を重視した総会運営、②総会開催日の同日開催傾向 の分散化、③大株主に対する公開説明会の開催、④総会決議事項の経営根幹事項への限定等が提言 されている。 以上にみた企業統治改革に向けての基盤作りや提言と並行して、さらに、企業による自主的な企 業統治改革も着々と進められつつある。その1つは、ソニーが先鞭をつけた経営機構改革である。

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ソニーは、1997年6月、デジタル技術の急速な発展に伴うエレクトロニクス産業の構造変革に対応 するために、一連の経営機構・組織改革の一環として、取締役会改革と執行役員制導入を実行した。 これは、取締役会の役割をグループ全体の経営方針決定と監督と定め、その役割を十分果たしうる ように、取締役の陣容と取締役会の運用を見直すことを目的とする改革であった。取締役は、グ ループ全体の企業価値の向上と全体最適の実現に専心する役割を担い、他方、個々の事業・業務遂 行の責任を全うする役割は、執行役員が担うことになった。その結果、取締役の人数は、38人から 10人(うち3人は社外取締役)に減少し、執行役員に27人(うち9人は新任、7人の社内取締役は 兼任)が就任し、執行役員会議が発足した。同時に、経営会議(取締役会と同じ役割を担い、社内 取締役7人で構成)およびマネジメント・コミッティ(ソニー並びにソニーグループの戦略・計画 の立案およびカンパニー等の権限範囲を超える事項の決裁を行い、経営会議メンバー6人と執行役 員3人の計9人で構成)の役割・運用も見直された。1998年5月には、取締役会委員会として、報 酬委員会と指名委員会が新設された(図1参照)11) 図1 ソニーグループの経営機関 出所:西村 茂「ソニーグループの経営機構改革:取締役会改革と執行役員制    導入」『取締役の法務』55、1998年10月、26頁を一部修正。 こうしたソニーの経営機構改革が呼び水になって、東芝を始めとする多くの企業で、同様の経営 機構改革、わけても執行役員制度の導入が実施または検討されている(表5参照)。しかし、その 多くにあっては、執行役員制度が、ソニーの場合と異なって、「過剰重役」解消の切り札として導 入される傾向が強いように思われる12)13)

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表5 主な執行役員制度の導入状況 (商法上取締役数のカッコ内は執行役員兼務) 専任執行役員 企業名 導入時期 商法上取締 役数(人) 専任執行役 員数(人) 就任時退職 金支払い 報酬体系 指名権者 ソ ニ ー 97/6 9( 7) 31 なし  年俸制 専門組織 東京エレクトロン 98/4 9( 5) 22 なし  年俸制 そ の 他 島 津 製 作 所 98/6 19( 0) 5 なし  年俸制 社  長 オ リ ッ ク ス 98/6 17(17) 3 あり  年俸制 そ の 他 武 田 薬 品 工 業 98/6 16( 0) 10 なし  年俸制で  はない そ の 他 富士写真フイルム 98/6 15(15) 17 なし  年俸制で  はない そ の 他 東 芝 98/6 12(10) 20 なし  年俸制 社  長 ア イ ワ 98/6 10(10) 12 なし  年俸制 そ の 他 中 外 製 薬 98/6 10( 9) 15 なし  年俸制 社  長 堀 場 製 作 所 98/6 7( 0) 3 なし  年俸制で  はない 社  長 ロ イ ヤ ル 98/7 6( 4) 7 なし  年俸制 そ の 他 松 下 電 工 98/12 25(13) 40 なし  年俸制で  はない 専門組織 富 士 ゼ ロ ッ ク ス 99/3 14( 2) 25 あり  年俸制 社  長 サ ッ ポ ロ ビ ー ル 99/3 11(10) 14 なし  年俸制 専門組織 オ ン ワ ー ド 樫 山 99/3 9( 0) 25 あり  年俸制で  はない そ の 他 日 本 N C R 99/3 4( 0) 11 あり  年俸制 社  長 神 戸 製 鋼 所 99/4 38(30) 4 あり  年俸制 社  長 穴 吹 工 務 店 99/4 20(13) 4 なし  年俸制 専門組織 カ ル ピ ス 99/4 14( 0) 5 なし  年俸制で  はない 専門組織 伊 藤 忠 商 事 99/6 29( 0) 13 あり  年俸制で  はない 社  長 日 商 岩 井 99/6 10( 0) 22 あり  年俸制 専門組織 オ ム ロ ン 99/7 7( 6) 25 なし  年俸制 専門組織 (注)①人数は99年4月1日現在②取締役のうち執行役員兼務者ゼロでも、取締役に部門長兼務者がいるケー スもある③伊藤忠商事、日商岩井、オムロンの3社は現時点では制度を導入していないため、内容は 変わる可能性もある(これら3社については、制度導入後、筆者が電話で確認した)。 出所:日経産業新聞1999年4月13日付を一部修正。 いまや、意思決定の迅速化と日常業務の効率化を狙った経営機構改革、なかんずく取締役会改革 は、戦略策定機能と業務執行機能との分離という第1段階の改革から、企業外部からの監視機能の 強化という第2段階の改革へ入りつつある、と言ってよい。有力企業が、相次いで社外取締役制度 の導入に乗り出しているからである14) 二つ目は、監査体制の強化である。これについては、すでに見たように、多くの具体的提言がな されている。なかでも社外監査役(非常勤の社外監査役、いわゆる純粋社外監査役)への期待が一

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