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経営多角化の基本原理
森俊 治
1 緒 言 今日,われわれが存在意義を認める創造的成果の生成された全過程には数多 くの連続的転換が含まれている。それは,けっして,ただ一度の飛躍によって 生まれたものではない。しかも,この転換は,無関係なものに対してではなく, り 関係あるものに変換されるという順序だった過程をふんでいる。 ここで:重要であるのは,順序だった過程をふんでいるという点である。本論 文は,経営多角化という経営行動による創造的成果の生成過程に支配的な基本 原理が上述の点にあることを確認しようとするものである。 そのためには,まず,ここにいうところの経営多角化の概念を明らかにして おかねばならないであろう。 ■ 経営多角化の概念 1 多角化の定義 1) 多角化の定義をめぐる諸見解 経営多角化の基本原理を究明するには,ここにいう多角化(diversification) の定義を明らかにし,その目的を考察し,そしてその形態を分析することによ って,多角化という経営行動を明確にしなければならない。 まず問題は定義であるが,ルメル、卜(R・P.Rumelt)は,今日においてもまだ, 多角化についての,広く一般に受け入れられるような定義は存在していない, 1) R.P. Crawford, The Techniques of’Creative Thinking, 1954, p. 20.2 彦根論叢 第249号 と論叢ている.わが国においても,rr多角化』という言葉は,それを聞くパ 3) の頭にかなり多様なイメー7ジを抱かせる言葉のようである」との見解もある。 こうした情況から,意識的に,その意味を限定せずに,この用語を使っている う と解される場合もある。 意識的な場合は,やむをえないが,無意識的に,定義不明確なままで多角化 を論ずることは許されない。論を進めるに当って,その論者がいうところの 「多角化」が何を意味するかを明らかにしておくことが議論の混乱を避けるた めに必要である。ルメルトもまた「多角化の明確な定義を欠くことは研究者に とっては問題であろう」としている。 同時にかれは「しかしこのことは,研究のためにはよい機会である」として つぎのように述べている。「研究者は,多角化に関する独自の概念を開発しな ければならないという負担を負うが,同時にまた,みずからの関心に合致する ?) ような概念を自由につくりあげることができるからである」と。 2) アンソフによる4つの成長ベクトル さて,多角化の定義ないし概念を開発するうえで,アンソフのつぎの図解 (第1図)は明白であり便宣であろう。これを基本にし,若干の修正を加えて筆 者が作成した第3図により論を進めていくこととする。 ① 市場浸透 企業は財務的な余裕がないというような理由から,②の商品開発などよりも, 2) Richard P, Rurnelt, Strategy, Structure, and Economic Performance, 1974, p. 9. 鳥羽欽一郎・山田正喜子・川辺信雄・熊沢 孝訳『多角化戦略と経済成果』1977年, 東洋経済新報社,13ページ。 3)吉原英樹・佐久間昭光・伊丹敬之・加護野忠男『日本企業の多角化戦略』(4刷) 1986年,日本経済新聞社,1ページ。 4)村松司叙氏は「われわれは本書で,多角化企業という言葉を,広い意味,換言すれ ば比較的ルーズな意味で使っていきたいと考える」(村松司叙『多角化企業論』1979 年,槙書店,3ページ)とされている。見られるごとく,それは多角化企業であって 多角化としているのではないが多角化を含んでのことであろう。「そこで,われわれ のいう多角化企業がどんなものかを示すために,まず経営多角化と製品多角化との区 別……に触れてみよう」(同上)との一脈のなかでのものである。 5)6)7)R.P, Rumelt, op. cit., p,9.訳書13ページ。
第1図 アンソフによる成長ベ クトルの構成要素 経営多角化の基本原理 3 第2図 アンソフによる出口と使命 (需要)のマトリックス Product Mission Present
New
Present Market Penetration Market developmentNew
Product development Diver− sification Product Mission PresentNew
Present Expansion一レ
H.1.Ansoff, 一Corporate Strategy: An Analytic Approach. to Business Policy for Growth and Expansion, 1965, p, 109 and p.128. 第3図、「商品と市場」戦略の 注1)私見においてはアンソフのいうmi・ マトリックス ssionという用語は採らず,端的に市場謙
現 在新規
現 在 。市場浸透
(ll)市場開発
新 規 @商品開発
@ 多 角 化 とする。 注2)各範疇の意味は下記のとおりである。 ① 市場浸透は,一現在の商品を現在の市 場にQ,C,D,S(Quality, Cost, Delibery およびSales P「omotion)の努力によ って浸透を図ること。 ② 商品開発は,新商品を開発し現市場 にもち込むこと。 ③ 市場開発は,新市場を開発.し現商品 をもち込むこと。 ④ 多角化は,新商品を新市場にも.ち込むこと。 注3) 「製品」といわず「商品」としたのは,製品は日本語の語感として物的製品 (physical product)を連想しやすいからである。商品のソフト化が進んでいる 今日商品の語が適切と考える。 ①の市場浸透に成長のベクトルを向けることが合理的な場合がある。商品開 発のための研究投資というものは必ず成功して超過利潤を保証ずる,とはかぎ らないからである。 もちろん,経営は本質的にダイナミックな存在であるから商品を固定化.し商 品開発など一切やらないなどというわけには,いかない。ワン、・マン・ビジネ スという最小規模の経営を考えてみ.よう。たとえば,.自宅を事務所と.して一人 でやっている経営コンサルタントの場合など,かれでなければ,というものを もたないかぎり,その存続はありえないであろう。それゆえ,ほとんどの業種,4 彦根論叢第249号
企業において何らかの商品開発努力が必要である。 問題は,そのための資金の量である。前述のごとき理由から,企業としては 失敗した場合のことと考えておかねばならない。それを考えたうえで,必要と する資金量の見地から②の商品開発に力を入れることは当面避け,①の市場浸 透にまず経営資源を配分することが適切な場合がある。そして,経営資金の蓄 積をえて,その後に②の商晶開発に成長のベクトルを振り向けるのが適切と考 える情況もある。 ①の市場浸透は,品質改善・品質維持・品質保証の徹底により顧客の支持を 獲得し,工学技術,IE・VA等の管理技術を駆使することによってコスト低減 を図り,納期を確守して顧客への責任を果し,アフター・サー・一ビ久のみならず 「前」「過程」「後」のきめ細かな顧客へのサービスを提供するとともに,積極 的なPR活動を推進するといったセールス・プロモーションの過程をふむこ とが考えられる。かくて資金蓄積を図ることによって始めて,「明日の経営の ための保険」としての新商品の研究開発への資金の供給が可能になるというよ うな場合もあるであろう。 ② 商品開発 多角化との関連において商品開発を論ずる前に,商品開発に関して以下の3 点について述べておきたい。本論文でいう多角化とは新商品を新市場へ進出さ せることであるから,新商品とは何かについての以下の3点は,④多角化の概 念規定の要素に含む。 (1>自社にとっての新商品かマーケットにとっての新商品か 筆者は,前記した理由から製品といわず商品というのであるが,引用上,原 著者の意味するところが,いわゆる新製品であるところがら,新製品の訳語を 当てることとずる。 a) ブーツの見解 「新製品とはその会社にとっての新しい製品(aproduct that is new to the company)であると指摘するのが賢明であると思われる。それは,どこか他の 会社で作られていたかも知れない。それにも,かかわらず,その製品が,その経営多角化の基本原理 5 会社にとって新しいという場合は,何時でも固有の問題は,その経営にとって 8) 新しいということであり,新製品として扱われねばならない」とするのがブー ツの見解である。
b)J−M社の見解
これに対しJ−M社(Johns−Manville CorPoration)のごときは「新製品とは・ 自己の企業にとって新しいだけではなく,マーケットにとって新.しい製品こそ 9) が新製品である」としている。 c) 私 見 この2つの見解は,どのように解すべきであろうか。後者の見解は,その業 界では,少くとも当時にあっては,世界トップの企業の発言であることに留意 しなければならない。.第二,第三あるいはそれ以下のレベルにある企業が,そ のような定義づけをしても飛翻しすぎることとなるであろう。 私見においては新製品の定義は企業によって違ってよいということである。 10) 当該企業が,みずから,その用語の定義を開発して使用することである。いう までもないことではあるが,社長,営業担当重役,研究所長等,企業内の人び との間の,この用語についてのコミュニケーションが必要である。 2) new or better goodsの研究開発 一般に,新製品という場合「完全に新しい製品」(entirely new product)だけ でなく現在製品(present product)の改良製品(improved product)をも含めてこ れを解することができる。シュムペーターがイノベイションのトップにあげて いる「新しい,すなわち消費者のあいだには未だ十分に知られていない財貨あ 8)Manage血ent Research Departmenti Booz, Allen&.Hamilton Inc。,“A Program for New Product Evolution”, in: T. L. Berg and A. Schuchman (ed), Product Strategy and Management, 1963, p. 341. 9)これは1964年4月,筆者がニュージャージーのマンビルにあるJohns−Manville Research Centerをチームで訪問した時の同社R&D担当Vice President, A. C. Smyth氏のNew Product Strategyと題する発表による。 10)なおこれについての私見の詳細は下記を参照せられたい。 拙著『研究開発管理論〔第五版〕』1981年,8ページ。6 彦根論叢 第249号 1 11) るいは新しい品質の財貨の製造」の新しい品質の財貨はここにいう改良製品に 当るであろう。 また品質管理(製品品質管理)の泰斗ファイゲンバウム(A.V, Feigenbaum)が 「新設計管理」(new design control)なる概念に関連して「新設計とは,もちろ 12) ん完全に新しい製品だけでなく現在製品の修正のための設計も含まれている」 としているのも,軌を等しくするものである。 このように,私見においても,新製品という用語を使用する場合は,改良製 品をも含めるものである。 (3)商品開発と製品開発 筆者は第3図において②を製品開発といわず商品開発とした。現代的企業の 売っているものはレビットがIMC(lnternational Minerals&Chemical Corpora. の tion)に関していっているような「非製品丁丁便益の総体」(whole cluster of non− product benefits)ともいうべきものである。そこでは利用法,訓練法なども含 まれている。訓練法のごときは労務管理技術をなすものであるから,商品の研 究開発概念には経営学的・経営管理技術的要素をも含むのである。 ③ 市場開発 ②と③のいずれが旧きか。これは業界事情,業界における自社の位置,企業 内部の諸条件等,全く情況による。商品開発費に対する市場開発費(market development cost)の程度,蓄積された各種のノウ・ハウ等もある。③の市場開 発については,たんなる一例にすぎないが,例をもって説明すれば,日本に最 も近い大陸・中国という市場開発を長い目で考えている経営者も多い。もちろ ん大企業にかぎらず中小企業においてもである。 新市場についても,自社にとっての新市場と業界にとっての新市場がある。 11) J.A. Schumpeter, Theorie der wirtschaftlichen Entwidklung,1926, S.100. 中山伊知郎・東畑精一共訳『経済発展の理論』岩波新書,1951年,166ページ。 12) AV. Feigenbaum, Quality Control:Principles, practice and administration, 1951,p.279. 13)T.Levitt, Innovation in Marketing,1962, P.40.小池和子訳『マーケティングの 革新』ダイヤモンド社,1963年,30ページ。
経営多角化の基本原理 7 上の例でいえば,同業他社はすでに中国に進出しているがわが社はまだ進出し ていないという日本企業の場合,また日本の業界では先陣を切ったが,すでに その時には,アメリカの同業者は中国に進出していたというような場合などが あろう。 宇宙船・地球号の時代であるから,業界にとってという場合,まずはグロー バルな視点から考えられるであろう。すなわち,世界中いかなる企業も開発し えなかった新市場をもって,新市場と定義する企業もあるであろう。新商品と 同様,各企業が,いかに定義することが自社の発展に有益であるかの視点から 自社の用語を開発し,使うことになると考えられる。 以上,第3図における①②③についての若干の考察を加えてきたが,いよい よ④に立ち入ることとなった。すなわち新商品の新市場への進出である。これ こそ,筆者のいう「多角化」である。アンソフの見解(第2図参照)もこれであ り,わが国においても「多角化とは,製品も市場も新しい分野に進出して成長 ら する方式をさしている」とする見解もある。 もとより新商品を現市場に導入することも,現商品を新市場に導入すること も,多角化の範疇に入れることもできるし,また,そのような定義もある。た とえば「多角化の範囲は,新しい市場に新しい製品または用役を提供すること から,新しい市場に現製品を拡大することまで含む」とする見解が見られる。 これは玉永一郎教授によるスタイナー(G,A. Steiner)教授の“Why and How to Diversity”とする研究の紹介であるが,筆者が今まで述べてきたところと 関連させるならば,④のみならず③をも含むということである。
④多角化
多角化という用語は,多角化の語をあてはめるほか,他の用語をもってして は適合しがたい領域に対して使用するのが適切である。第3図における②は 「商品開発」の名において,③は「市場開発」の名において論ずるこ、とができ る。④に対して多角化以外のより適切な用語が開発されるならば,それを採用 14) 占部都美『経営学辞典』429ページ。8 彦根論叢 ee ・249号 するのがよいであろう。現在のところ,それは無さそうである。 かくて,われわれの定義はつぎのとおりである。多角化とは新商品を新市場 15) へ進出される企業の発展過程・高度化過程である。多くの見解では,多角化は 企業の成長過程として把えられている。なるほど多角化は一見してそのように 見える。しかし成長は,その定義にもよるが売上高の増大等,量的な概念であ ろう。しかし企業が新商品を新市場に進出するのは,そのようなたんに量的な 概念のみではなく,経営の発展・高度化というがごとき質的な概念を核とする ものである。これについては経営多角化の経営的意義に関連して,後に述べる 機会がある。 筆者は今まで「多角化」について論じてきた。さらに進んで「経営の多角 化」について考察する。今日,多角化は他産業への多角化を中心に考えねばな らず,その場合において,一層,過去の蓄積を活かす,といった関係あるもの への順序立った過程をふむという本論文の主題が考察されねばならぬからであ る。 皿 経営多角化の意義 多角化は「同一産業内での多角化」と「多産業にわたる多角化」に大別する ことができる。たとえば,繊維産業という枠内での多角化と,もともと繊維産 業に属していた,また現在も繊維産業に属してはいるが,住宅産業その他の産 業にも進出している例はきわめて多い。 繊維産業のなかでの新商品・新市場への進出にかぎっての経営行動であって も,今まで述べてきた多角化の定義をあてはめることはできる。しかし今の現 実には,かつての石鹸メーカーが今日では石鹸の売上高は総売上高の2∼.3% にすぎず,情報産業の分野にまで多角化しているような例もある。 このような異種産業・他産業・多産業への多角化は,従来から当該企業が属 15)発展(高度化)なる表現は片岡教授の見解(片岡信之「資本主義工業経営と社会主 義工業経営」森俊治編著『現代工業経営学』有信堂,1986年,53ページ)に見られる。 適切であると思われるので,これを借用し,発展過程・高度化過程とした。
経営多角化の基本原理 9 していた同一産業内での多角化とは区別して考える必要がある。しかも複数産 業内での多角化が現代企業の多角化行動の主流である。従来から属していた同 一産業内でのそれをも含めて多産業にわたる新商品・新市場への進出がここに いう「経営多角化」である。 ペンm一ズ(E.T. Penrose)のいう多角化は多産業にわたる多角化であるが, 同時に「多角化は当該企業の専門化した既存産業分野の内側においても起こり うる」としている。 つまり多角化は産業のexisting areasとnew areasの双方に起こりうる わけである。今Elでは,、このうち後者が脚光を浴びており,これを中心にr/か つ前者をも含めて,それぞれの領域における新商品・新市場への多角化をもっ て経営多角化を理解しなければならない。 上記,2つのareasを意識的に区別することによって,より鮮明に,現代 的企業の経営多角化を理解することができる。この線引を行わず,ただたんに 新商品の新市場への進出というよりは,現実説明力をもちうるであろう。この ように考えてくると,多角化はやはり第3図の②③,つまり商品だけが新しい, 市場だけが新しい場合は含めず,これらは商品開発,市場開発の名において論 ずるのが適切であることが分ってくる。 商品も新しい,市場も新しい,という分野への進出が,こζにいう多角化で あるが乳商品が新しいといケことは商品開発が,市場が新しいということは市 場開発が,そこにはあるのであって,双方が新しいという多角化のなかに統合 されて,その下位概念として,商品開発もあり,市場開発もあるわけである。 したがって商品開発は同一産業たとえば繊維産業なら繊維産業のなかだけに あるのではなくして,異種産業たとえば住宅産業の領域への商品開発がある, と把えねばならない。ただその場合,繊維の市場から住宅の市場という新しい 市場への進出と結合するから,商品開発ではあるが,多角化のサブ概念として の商品開発の把え方でなければならない。市場開発についても同様である。 16) E. T.Penrose, The Theory of the Growth of the Firm, 1959, p. 109. 末松玄六『会社成長の理論』ダイヤモンド社,1962年,141ページ。
10 彦根論叢 第249号 このように,われわれは,多角化概念と商品開発概念・市場開発概念を関連 させて労えなければならない。とくに産業のexisting areasとnew areasを 区別し,現代的企業の場合は後者を中心に両者にわたって多角化行動が展開さ れる。前者においては,多角化とは区別された「商品のみが,市場のみが新し いという商品開発・市場開発」も展開され,後者においては,商品開発・市場 開発は,多角化の二要素のそれぞれの一要素として展開されることとなる。 多角化の概念をどのように規定するかは情況によって異なる。かつての繊維 産業はなやかなりし頃は繊維産業というexisting areaめなかでの新商品の新 市場への進出と考えてよかったであろう。多角化をどのように規定するかは, どのように規定するのが当該企業の発展に有益であるかの見地から各企業が自 社の定義を開発して使用するのが適切であること,新商品の場合と同様である。 同じ企業でも,時期により,情況によって定義が変ってくることには,その環 境情況,とくに産業の衰退という事態が大きく関与する。レビットもいうごと 17) く「成長産業でなかった産業はなかった」からである。 繊維産業か.ら住宅産業へ,石鹸という洗浄剤産業からブリッピー・ディスク などという情報産業へと,所属する産業も商品も市場も移り変っていく経営の コ コ 発展過程を,ここでは経営多角化と呼ぶ。 最初はexisting areasにおいて,ついでnew areasへ歩を進め,次第にご .のnew areasが主となりペンローズのいうexisting areasにおいても多角化 が起こりうるという過程を経て,かつてのexisting areasは捨てられていく という4つのステップをふむこととなろう。 筆者においては,多角化概念はアンソフによるものであり,経営多角化概念 はペンローズによるとともに,上述の第4のステップをも含めるものである。 経営のダイナミズムはcut offを決定的に重要な要素とするからである。 17) T.Levitt, op. cit. p.20. 18)玉永一郎『前掲書』20−27Ae 一一ジ。
経営多角化の基本原理 11 rv’ o営多角化の目的と形態 1 多角化の目的一余剰資源・副産物利用を目的とする見解の検討一 「ペンローズによると多角化とは既存の事業から不断に形成される余剰経営 19) 資源を有効に活用しようとする企業の成長行動であり」と村松司叙教授はその 見解をとりあげているが,玉永一郎教授はその著『経営多角化論』の序文.にお いて「経営の多角化活動はもともと研究開発の進展から出てくる副産物であ 2Dる」とされ,「…副産物利用の必要から多角化が生ずる」とされている。 たしかに余剰資源・副産物利用は多角化の重要な動機・目的であった。この ように過去形で示すのは,たしかに,かっては,こうした必要が多角化をもた らした。多角化日本一といわれる旭化成というような会社の歴史にも徹底した 副産物利用が見られる。したがって,上記の見解は,真実であったし,多角化 の主要な動機であった。また今日でも,これが理由で多角化が行われているこ とも事実である。 しかし今日では,その主要な目的・動機が変化している。現代企業の経営多 角化は,企業の環境適応・機会活用の戦略的行動である。経営戦略的というと とは機会活用的ということである。すなわち変化する環境のなかにビジネスの 機会を見出し,これを創造的に活用する経営行動が,経営の戦略的行動であり そのための経営多角化である。 現在10億の利益iを出している事業を考えると,現在の事業以外に50億の利益 が見込まれる事業が目前が発現すれば,10億の利益を生み出してい.る事業を捨 て,50億の事業に方向転換するといった戦略行動が経営多角化である。経営戦 略的ということは方向変換的ということであり,経営資源配分的というごとで ある。 戦略的計画と長期計画の違いは,長期計画が従来の延長線上で将来を考える 19)村松司叙『前掲書』3ページ。 20)同上,そこでは共通関連性がとりあげられているが,これは当然である。 21)玉永一郎『経営多角化論』千倉書房,1970年,1ページ。
12 彦根論叢i第249号 のに蛆して,戦略的計画は方向変換的であるという点にある。たとえば家電王 国という名をほしいままにした日本へ電機メーカーがアジアNICSの追い上 げという環境変化に適合するため民生用から産業用へといった高度技術商品へ と方向変換する「というがごときである。こうした方向変換のための多角化であ る。 以上のごとく,経営多角化は,環境変化活用的・方向変換的・経営資源配分 的といった経営の外部環境の変化に対する環境適応行動である。、 もちろん余剰資源・副産物利用のための多角化行動は前述のごとく今日にお いても必要である。けれども,かっての時代とは,この要素の位置づけが変化 しているといわねばならない。 玉永教授の所説によれば「戦前における経営の多角化は危険分散を主たる目 的として行われたものであった。」これは「停滞産業から脱出するために行う 多角化……戦後わが国における石炭産業にみ.られた多角化」とともに防衛的な 企業が生き伸びていくために行う多角化である。 これ以外に「廃物や副産物の有効利用……これは石油化学工業の発展を通じ ハて最も顕著に見られる現象で,……化学工業において不可欠の要因となってい る。土こういう物的資源の活用以外に,技術研究成果・入的資源・マーケティ ング能力の有効活用をあげている。 しかし同教授は,存続や安定のためよりも・積極的な企業成長のためのもの としての多角化を最も重要な要素とされており・筆者も全く同感である。また 「有利な条件をもって吸収合併のチャンスを利用することも企業成長のための 1つの多角化である。合併については必らずしも大規模のものである必要はな い。小規模でも戦略的に重要な特許をもつ場合…」を指摘され,今日,起こり つつあるM&A(Merger&Acquisition)をもあげておられる。
2内部開発とM&A
多角化を進めていこうとするとき,内部資源の活用をもっぱら考えてきたの が,従来の日本企業にみられた多くの形態であった。この場合,本業の周辺の 商品・市場への多角化でリスクが少く,成長期にあった日本経済のもとでの企経営多角化の基本原理 13 業の多角化形態としては適当でもあった。 しかし今日,成熟期に入った日本企業は従来の経営行動では通用しにくくな っている。 ことに前述のごとき多産業にわたる多角化には内部開発(intemal develop・ ment)だけでは困難な様相を見せ始めてきた。そこに2∼3年前から台頭レつ つあるのがM&Aすなわち買収と合併である。アメリカでは70年代前後か ら活発になってきた。すでにそれ以前の60年代始めの分析(B。oz, Allen& Hamilton lnc.)もある。 , r二 r:、e’ 経営多角化の方法として,主として内部開発によって他産業に多角化してい った企業,内部開発と併わせてM&Aによって他産業に参入していっ#企 業,そしてあたかもM&Aが本業のごときコングロマリット型企業の3者 は区別して考えられるべきであろう。
もとよりM&Aと多角化の関係は,M&Aは日本でもよくみられる銀
行の合併のように新商品を生み出したものでもなければ,本論文でいう新商品 ・新市場への多角化でもなかったといわれるものも多い。種々な.る理由に基づ くものではあるが,規模の拡大であって多角化につながるもくではない場合も 多い。つまりM&Aは多角化につながる場合とそうでない場合とがある, ということである。 3 経営多角化の諸形態 ’ 多角化の形態には各種のものがあるが,まずとりあげられるべきは垂直的 多角化(vertical diversification)と水平的多角化(horizontal diversification)であ る。 ヨ 前者は「同一製品の異る生産段階または販売段階に属するものの多角化」で ある。いわゆる川上,川下に多角化していく形態であり,「中間利潤の排除」 というメリットがある。 後者は「同一の生産段階に属するものの多角化をいうのであって……大型べ 22)23) 同上,34・36ページ。14 彦ネ良言命叢 第249号 アリングのメーカーが小型ベアリングメーカーを合併する場合,……綿紡績企 業が毛紡績や化合繊に進出し,また化合繊メーカーが次々と新しい合成繊維を 24) 手がける場合など,すべて水平的多角化である」とされているものである。 その他「ゴムという同一の原料から履物とタイヤという全く異った製品分野 に多角化している企業」があり,また各種産業においてみられるところである が,企業がその製品を製造するための設備を開発し,これを製晶として販売す ることが行われている。斜行的多角化(diagonal diversification)といわれてい るものである。 多角化の形態として見逃せないのは集中的多角化(concentric diversification) とコングぬマリット的多角化(conglomarate diversification)である。 前者は「高度の結合関連効果をもつ製品分野への多角化で…トランジスタテ レビのメーカーがマイクロテレビ,カラーテレビの分野に進出するごときであ 26) る」とされている。これに対し後者は「市場と生産分野のいずれに対しても, 27) ほとんど結合関連効果をもたない製品分野への多角化である。」「鐘淵紡績が… …化粧品,菓子,薬品などに…,ブリジストンタイヤは…自転車,製粉,液化 ガスなどに集成的多角化を行っている」などとされているものである。 この集成的多角化はconglomarate diversificationの訳語として問題はない が,結合関連効果がほとんどないという内容を表わすために筆老はコングロマ リット的多角化ということにしている。 V 経営多角化の本質 われわれはすでに経営多角化の意義を明らかにし,その形態をたずねた。そ こで問題は,本論文の主題をなす「順序立った過程をふむ」という課題へのと りくみである。 「飛び地的多角化」という言葉があるが,論点は距離という点にあるであろ 24)同上,34・36ページ。 25) 占部都美『経営形態論』森山書店,1957年,382ページ。玉露一郎『前掲書』38ペ ージ参照。 26)27)28)玉永一郎,同上,39ページ。
経営多角化の基本原理 15 う。アンソフがレビットのマネジメント・マィオピァ批判論を批判したのもこ の点にあった。 レビットの鉄道企業の近視眼への批判はつぎのごときものであった。「鉄道 は,自分の産業を輸送事業(transportation business)として考えるよりも鉄道 事業(railroad business)として規定したために顧客を他にゆずってしまったの である。鉄道が自分の産業に誤った定義を与えた理由は,彼らが輸送志向的 (transportation oriented)ではなく鉄道志向的(railroad orinted)であったからで あり,顧客志向的(customer oriented)であるかわりに製品志向的(product 29) oriented)であったからだ」とするものであった。 この批判は,それ自体,的中しているといえるであろう。鉄道企業にとって 列車を動かすこと自体は事業の目的ではなく手段である。その事業目的は,あ くまでも旅客や貨物を輸送することなのであるから,より速くより安全に,そ してより快適に入を,そして貨物を運ぶ手段が創出されたなら,利用者は何ら 鉄道という形態にとらわれる理由はないわけだからである。 ところが,これに対するアンソフの批判はつぎのようであった。「鉄道会社 は長距離トラック輸送業を行うべきか……タクシー業やレンタカー事業につい てはどうであろうか,これらもやはり輸送業である。だが一見したところ鉄道 会社とあまり共通性がなさそうである。鉄道会社の技術,施設,経験といった ものが,これらの分野に貢献するかどうかを知ることはむつかしい!l.と。 この批判は一応あたってはいるが,あげている例は,アンソフの視点のおき 方を説得するのに余り適切とはいえないようだ。「距離」という点についてい えば,ここにあげている事業はやろうと思えばやれないことはない。 それよりもレビットのいうつぎの事例で考えてみればよい。「古典的な事例 に馬車のむちを製造する業者があった。どれほど,その製品を.改良したところ で死の判決を回避することにはならなかった。もしこの業者達が,自分達の仕 29) T.Levitt, oP. cit., PP,34−40.訳書43−40ページ。 30)H・1・ Ansoff・Corporate Strategy,1965, P・ IQ5.広田寿亮訳『企業戦略論』1969年 130−1ページ。
16 彦根論叢第249号 事を『馬車のむちを作る仕事』と考えずに『輸送業』に属するものと考えてい 31) たとするならば,たぶん生き残っていただろう」としている。 輸送業に属するものとして彼らは鉄道や自動車やあるいは飛行機をやるべき か。資本,技術等々とても出来ることではないように思われる。 復眼で問題をみるべきである。ニーズとシーズ,外部環境の変化と企業内部 に蓄積された強みを生かすことの双方を考えることが企業にとって必要である。 多角化を考える場合,商品と市場だけを考えるのでは適切ではない。開発と か買収とかの面で積み上げられたマネジメント・シナジーを考えるべきである。 買収・合併に豊富な経験をもつ企業であるならば,商品や市場に未経験であっ ても,成功する可能性がある。蓄積された強味を生かせるからである。 技術という場合,企業には少くとも工学技術と経営技術の2つがある。工学 技術的な意味での技術的関連はほとんどないにしても,プランニングの力の蓄 積,多角化の経験といった経営技術の活用があるのだ。商品と市場とマネジメ 第4図 よい結果 疑わしい 128の買収した会社に対する 経営者の評価 売却あるいは解散