はじめに 近年,遺伝性ジストニアの原因遺伝子がつぎつぎと解明さ れている.以前は大家系を集めての連鎖解析・ポジショナー ルクローニングがおこなわれていたが,最近では次世代シー クエンサーをもちいてのエクソーム解析やバイオインフォマ ティックスの活用により小家系あるいは孤発例であっても原 因遺伝子の特定が可能になりつつある.フィリピン人に多い DYT3/XDP-TAF1を除けば,遺伝性ジストニアでは画像・病理 所見が乏しく,症候学的な診断に留まることが多い.また, 遺伝性ジストニアでは浸透率の変化により無症候性キャリア が存在することが珍しくなく,孤発例と思われるばあいも多 いのが特徴である.遺伝子診断は診断確定の一助となり,ま た今後,遺伝子型に基づき治療方法を決定する方向になると 考えられている.さらに遺伝子機能解析からジストニアの病 態生理を解明する糸口になる可能性がある.本総説では現在 判明しているジストニア遺伝子とその機能を中心に概説する. 現在報告されているジストニア遺伝子と歴史 Table 1に示す通り,現在,23 の遺伝子座(DYT1-13, 15-21, 23-25)が報告され,14のジストニア遺伝子が解明されている. 歴史的には,1994 年に DYT5-GCH1 が報告され,1997 年に は DYT1-TOR1A が報告された.その後,連鎖解析による遺伝 子座の報告が続いた.2000 年以降になると,DYT11-SGCE, DYT3/XDP-TAF1, DYT8-MR-1, DYT12-ATP1A3, DYT16-PRKRA, DYT18-GLUT1/SLC2A1, DYT6-THAP1が報告された1).そし て,最近,次世代オートシークエンサーを使った研究により DYT10-PRRT2, DYT23-CIZ1, DYT24-ANO3, DYT25-GNALが 発見された. ジストニア遺伝子の機能 これまで明らかになっているジストニアの病態を考える と,ジストニア遺伝子はドパミンをはじめとする神経伝達物 質代謝異常に関与している可能性が高いと予想されるが,実 際に発見されたジストニア遺伝子の中には予期しなかった機 能を持つものもある.おそらく遺伝子異常の結果生じる下流 の複雑な生化学・生理学的反応の結果ジストニアが生じると 考えられるが,その全貌が明らかになっているものはない. 現在,報告されたジストニア遺伝子機能を以下にまとめる. DYT1-TOR1A 最初,アシュケナジー・ユダヤ人(Ashkenazi Jews)家系 で報告された早発性で常染色体優性形式をとる一次性捻転ジ
総 説
ジストニア遺伝子とその機能解明
瓦井 俊孝
1)* 宮本 亮介
1)村上 永尚
1)宮崎 由道
1)小泉 英貴
1)佐光 亘
1)向井 洋平
2)佐藤 健太
1)松本 真一
3)坂本 崇
2)和泉 唯信
1)梶 龍兒
1) 要旨: 遺伝性ジストニアの原因遺伝子の特定ならびに機能解明はジストニアの病態解明に重要である.他の遺 伝性神経疾患でみられるように,同じ遺伝子変異を持っていても家系内・家系間で表現型の違いがみとめられる ことがある.遺伝性ジストニアにおいては,浸透率の変化の結果,無症候性キャリアもよくみられる.解明され たジストニア遺伝子の機能には,ドパミン代謝,転写因子,細胞骨格,ブドウ糖やナトリウム代謝に関係するも のなどがある.最近,脳深部刺激療法(deep brain stimulation; DBS)の効果が遺伝子型によりことなることも 報告されている.将来,遺伝子型に基づく治療法の選択がおこなわれるようになると思われる. (臨床神経 2013;53:419-429) Key words: ジストニア遺伝子,無症候性キャリア,浸透率の変化,DBS の効果 *Corresponding author: 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座臨床神経科学分野 〔〒 770-0042 徳島市蔵本 3 丁目 18 番地の 15〕 1)徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座臨床神経科学分野 2)独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院神経内科 3)神鋼病院神経内科 (受付日:2013 年 1 月 20 日)Table 1 Dystonia genes/loci according to the DYT nomenclature, presumed functions and clinical features.
疾患 OMIM 遺伝子 / 遺伝子座 機能 遺伝形式 臨床表現型 日本国内 での報告
DYT1 128100 TOR1A/9q34 AAA蛋白ファミリー 優性遺伝 発症平均年齢 10 歳前後,四肢で発症し全身に広がる あり
DYT2 224500 不明 劣性遺伝 DYT1と似て若年発症し全身型に移行する DYT3/XDP 314250 TAF1/Xq13.1 転写因子 伴性劣性遺伝 フィリピンのパナイ島出身者に多い,発症年齢 12~ 52 歳,半数の患者で後にパーキンソニスムを 呈する,自殺例が多い あり (フィリピン系 日本人男性) DYT4 128101 TUBB4/19p13.3-p13.2 Tubulin beta-4(微小管構成)
細胞骨格 優性遺伝 オーストラリアの一家系,ささやき発声障害,頭 頸部ジストニア,全身性ジストニアとなることも ある,眼瞼下垂,特徴的な顔貌・体格 なし DYT5 128230 GCH1/14q13 ドーパミン生合成の律速酵 素であるチロシン水酸化酵 素(TH)および TH の補酵 素テトラヒドロビオプテリ ンの生合成経路の律速酵素 ほとんどが優性遺伝であ るが,変異の部位により 劣性遺伝形式をとること あり レボドパ反応性ジストニア,発症年齢 10 歳以下, 下肢ジストニアで発症,著明な症状の日内変動を ともなう(夕方に症状悪化,睡眠で改善),低用 量のレボドパが著効する あり
DYT6 602629 THAP1/8p21-q22 転写因子 優性遺伝 平均発症年齢 16 歳,上肢・頭頸部よりジストニアが出現し全身に広がることが多い,DYT5 とこ
となり下肢のジストニアで発症することは少ない あり DYT7 602124 18p 優性遺伝 ドイツ人家系,平均発症年齢 43 歳,頸部ジストニアあるいは全身性ジストニア DYT8 118800 MR-1/2q35 解毒作用 優性遺伝 発作性非運動起源性ジスキネジア(paroxysmal nonkinesigenic dyskinesia; PNKD),幼小児期・青 年期に発症,突然のジストニア,舞踏運動,バリ スムス,アテトーゼ,数分から数時間続く,アル コールやカフェインにより誘発・悪化する なし DYT9 601042 不明 /1p21-p13.3 優性遺伝 ドイツ人家系,四肢ジストニア,構音障害,複視, 発作性舞踏・アテトーゼ,失調,ジスキネジア, 痙性対麻痺をともなうこともあり,発作は 20 分 前後続く DYT10 128200 PRRT2/16p11.2-q12.1 神経伝達物質の放出調整 優性遺伝 発 作 性 運 動 起 源 性 ジ ス キ ネ ジ ア(paroxysmal kinesigenic dyskinesia; PKD),日本人家系で発見さ れる,数秒から数分の短い発作時間,突然の予期 しない運動により誘発される,1 日 100 回位まで 発作が出現することもある あり DYT11 159900 SGCE/7q21.3 細胞骨格,中枢での働きは 不明 優性遺伝 / ゲノム刷り 込み現象 小児期発症,女性の方が男性より発症年齢若い, 頸部・上肢・体幹に出現,とくに斜頸,書痙が多い, ミオクローヌスは飲酒にて改善することがある あり
DYT12 128235 ATP1A3/19q13.31 ナトリウムポンプ 優性遺伝,de novo 変異 突然発症のパーキンソニスムをともなうジストニア,球症状,顔面・上肢の症状が下肢よりも強い, 症状は数分から 1 ヵ月ほど続くことあり
なし (韓国で報告あり) DYT13 607671 不明 /1p36.32-p36.13 優性遺伝 イタリア家系,発症平均年齢 15 歳,顔面・頸部あるいは上肢にジストニア出現,18 歳以降に他の
部位にも広がる
DYT15 607488 不明 /18p11 優性遺伝 カナダ家系,ミオクローヌス・ジストニア,上肢・体幹の痙攣様の動き(jerky movement) DYT16 612067 PRKRA/2q31.2 ストレス反応遺伝子 劣性遺伝 ブラジル家系,12 歳頃に歩行障害・下肢痛で発症,全身に広がる.口顔面ジストニア・しかめ面が特 徴的である なし DYT17 612406 不明 /20p11.2-q13.12 劣性遺伝 レバノン家系,10 代に斜頸・局所性捻転ジストニアで発症し全身に広がる DYT18 612126 GLUT1(SLC2A1)/1p34.2 グルコーストランスポー ター 優性遺伝 運動誘発性ジスキネジア・舞踏・アテトーゼ・バ リスムス,数分から 1 時間続く,小児期に発症, てんかん・片頭痛・精神発育遅滞・溶血性貧血を ともなうことあり なし DYT19 611031 不明 /16q13-q22.1 優性遺伝 発 作 性 運 動 起 源 性 ジ ス キ ネ ジ ア 2(paroxysmal kinesigenic dyskinesia; PKD2),発症年齢 7 ~ 13 歳, 1日に 1 ~ 20 回発作が起こり症状は数分で治まる, 23歳頃までに自然寛解する
DYT20 611147 不明 /2q31 優性遺伝 カナダ家系,発作性非運動起源性ジスキネジア 2 (paroxysmal nonkinesigenic dyskinesia; PNKD2), DYT8-MR-1と表現型が似る
DYT21 614588 不明 /2q14.3-q21.3 優性遺伝 スウェーデン人家系,13~50 歳発症,初発は顔面・頸部のジストニア,その後全身性もしくは多巣性 にジストニアが広がる
DYT23 614860 CIZ1/9q34 DNA合成・細胞周期の調整 優性遺伝 成人発症,頸部ジストニア なし
DYT24 615034 ANO3/11p14.2 Ca2+依存性 Cl
-チャネル 優性遺伝 英国家系,成人発症,頸部ジストニア,全身に広がることもある なし DYT25 615072 GNAL/18p11.21 嗅覚シグナル伝達,ドパミ
ストニア(primary torsion dystonia)である2).その後,非ユ ダヤ人家系でも報告された3).Oppenheim ジストニアとも呼 ばれ,ほとんどの例で 20 代以前に四肢より発症し,全身に 広がるパターンが多く,頭頸部からジストニアが始まる症例 は少ないとされる.ポジショナールクローニングにより TorsinA(TOR1A)遺伝子に 3 bp の GAG 欠失変異が発見さ れた4).欠失変異によりコドン 302 もしくは 303 のグルタミ ン酸残基が欠失する(delE302/303)が,他のアミノ酸配列 には影響がない.GAG 欠失変異は,アシュケナジー・ユダ ヤ人家系では 80%の一次性捻転ジストニア家系で発見され ており,他の人種のジストニア家系においても発見されてい る.GAG 欠失変異以外に,Ala288Gln, Phe205Ile といったミ スセンス変異が孤発例で見つかっている5)6).TorsinA は分子 シャペロンの機能を持つ AAA+ スーパーファミリー(細胞 内の多種の機能に関与する ATP 分解酵素)に属し膜貫通領 域をもつ膜蛋白質であり,脳ではニューロンのみに発現して いる7).神経細胞内では小胞体に内在しているが,変異があ れば核膜とより密接にかかわりを持つようになるとの報告が ある8).また,TorsinA に変異があると小胞体 - 核膜ネットワー クや細胞骨格に影響を与え,さらにシナプス小胞のリサイク ル,ドパミン放出,チロシン水酸化酵素活性にも影響をおよ ぼすと考えられている9)~12).興味深いことに,転写因子で ある DYT6-THAP1 が TOR1A 遺伝子のプロモーターに結合 し,転写制御をおこなっていることが明らかになった13)14). DYT1患者における機能画像解析や,遺伝子改変マウスを 使った実験で,基底核サーキット以外に小脳 - 視床 - 大脳皮 質をふくむ神経ネットワークの異常もジストニア発症に関係 があることが示されている15)~18). DYT3/XDP-TAF1 DYT3/XDPは X 染色体連鎖ジストニア・パーキンソニス ムでフィリピンのパナイ島に創始者がいると考えられてい る.転写因子 TFIID のコンポーネントの一つである TAF1 (TATA-binding protein-associated factor 1)のイントロンにお けるレトロトランスポゾン挿入が原因と考えられている. SVA(short interspersed nuclear element, variable number of tandem repeats, and Alu composite)レトロトランスポゾンの 挿入により神経細胞に特異的に発現している TAF1 転写産物 TA14_391が減少し,また,尾状核においてドパミン D2 受 容体の発現が低下する.ドパミン D2 受容体をはじめとする 種々の遺伝子の転写調整異常が神経変性ならびにジストニ ア・パーキンソニスムの病態に関与していることが示唆され ている19).神経細胞特異的に発現している N-TAF1 蛋白は, ラット線条体ではストリオゾームの核優位に発現しているこ とが判明している20).DYT3/XDP の発症年齢としては平均 して 30 代半ばであり,50 代までに浸透率 100%とされる. 局所性ジストニアが最初出現し,5 年以内に分節性あるいは 全身性ジストニアとなる.後に 50%の患者でパーキンソニ スムが出現し主要症状となる.DYT の中でも DYT3/XDP が ユニークなのは,画像検査や剖検脳で線条体の変性がみとめ られることである21).神経細胞,とくに中型有棘細胞の脱 落とアストロサイト増生がみとめられる.また,ストリオゾー ムの消失と比較的温存されたマトリックスがみとめられ,そ のバランスが崩れることが神経症状に関係しているのではな いかと考えられている22).遺伝子診断として,サザン解析 による SVA レトロトランスポゾン検出が当初おこなわれて いたが,long-range PCR 法による簡便な遺伝子診断法をわれ われは開発した23). DYT5-GCH1 1976年に瀬川らにより「日内変動をともなう遺伝性進行 性ジストニア」として報告された疾患で24),少量の L-dopa に より劇的に症状が改善することより後に Nygaard らによって 「L-Dopa 反応性ジストニア:dopa-responsive dystonia(DRD)」
としても報告された25).常染色体優性遺伝形式をとるが, 性によって浸透率が変わり,女性で症状が顕在化しやすい. 1994年に GTP cyclohydrolase 1(GCH1)が原因遺伝子とし て特定された26).GCH1 はドパミン合成に必要なチロシン水 酸化酵素の補酵素である tetrahydrobiopterin の律速段階の酵素 である.これまで 100 以上の変異が報告され,ナンセンス変 異,ミスセンス変異,スプライシング異常を呈する変異,大 欠失などが報告されている.典型的な症状として,小児期(平 均 6 歳)頃に四肢にジストニアが出現,睡眠により症状は改 善し,L-ドーパに劇的に反応する.その他の症状としては, 腕や体軸のジストニア,深部腱反射亢進,パーキンソニスム (動作緩慢,表情の乏しさ,姿勢反射障害)などがある27).頭 頸部(喉頭,口下顎)にもジストニアが生じることもある28). DYT4-TUBB4 2012年に常染色体優性遺伝形式をとるオーストラリアの 大家系において tubulin beta-4(TUBB4)遺伝子に変異がある ことが報告された29)30).他の常染色体優性遺伝形式をとるジ ストニアとことなり,浸透率が高いことが特徴である.臨床 徴候として,20 歳頃より間歇性の発声障害(ささやき発声 障害 whispering dysphonia)が出現,徐々に悪化し頭頸部ジス トニアや嚥下障害も出現,さらに全身性ジストニアとなるこ とがある.挺舌をくりかえすという不随意運動も出現するこ とがある.眼瞼下垂,痩せこけた顔貌,歯列の形成不全がみ とめられることがある.Hobby horse ataxic gait と表記される 木馬にまたがっているような失調性歩行がみとめられる. オーストラリアの大家系においてはミスセンス変異 Arg2Gly がみとめられ,別の家族歴のある痙攣性発声障害をともなう 分節性ジストニア症例では Ala271Thr というミスセンス変異 がみつかっている.TUBB4 は中枢神経に多く発現している. Arg2Glyヘテロ接合体患者のリンパ球,嗅粘膜,線維芽細胞 では変異をもつ TUBB4 の転写産物は野生型の TUBB4 より 発現量が低下していることが報告された. DYT6-THAP1
常染色体優性遺伝形式をとるジストニア家系(Amish-Mennonite,浸透率はおよそ 60%)で連鎖解析がおこなわれ, 第 8 番染色体のセントロメア付近に遺伝子座がマップされた31). 2009年,原因遺伝子として転写因子である THAP1(thanatos-associated protein domain-containing apoptosis-THAP1(thanatos-associated protein 1) が発見され報告された32).シングル変異の TOR1A とはこと なり,45 以上のヘテロ接合体変異がヨーロッパ,日本,ブ ラジルより報告されている(Fig. 1)33)~36).DYT6 ジストニア では 5 歳から 62 歳まで幅広い発症年齢の報告があり,平均 発症年齢 16 歳である.初発症状として,上肢(およそ 50%), 続いて頸部(およそ 25%)とされ,DYT1 とはことなり下肢 から発症することは少ない(4%)とされる.その後,半数 例において全身あるいは分節性にジストニアが広がる.2/3 以上の症例で発声障害が出現することも特徴である.一方, 局所性ジストニアにおいて THAP1 遺伝子に変異がみとめら れるのは 1%位であるといる報告されている.われわれが日 本人ジストニア患者 243 名を対象におこなった DYT6-THAP1 スクリーニングでは 3 名に変異がみとめられた(1.2%).そ のうち 1 人は家族歴があり全身性ジストニアを呈していた. 残り 2 人は書痙・痙性斜頸の組合せ(分節性)で,聞き取り 調査の範囲では家族歴はみとめられなかった(宮本ら,投稿 中).THAP1 は DNA 結合部位を N 末に,コイルドメインと 核内局在シグナルを C 末に持つ転写因子である.脳組織に おける THAP1 の機能に関しては不明なところが多い.最近, THAP1が TOR1A 遺伝子のプロモーターに結合し,TOR1A
の発現を抑制する作用があることが報告された.THAP1 に 変異があると結合が阻害され,発現抑制が減ることが示され た13)14).こうした実験結果は,DYT1 と DYT6 の病態が分子 レベルで繋がっていることを示唆しており,転写機能異常が ジストニアの病態に深く関与しているとして注目されてい る.また,DYT3/XDP の原因遺伝子である TAF1 の近傍にあ る O-GlcNAc transferase 遺伝子に THAP1 が結合していること も判明している37).現在,DYT6 において遺伝子型と臨床表 現型との関係は確立されていない.われわれが報告した DYT6家系においても,無症候性キャリアから DBS を施行 した全身性ジストニアまで幅広い臨床表現型が観察された (Fig. 2)36). DYT8-MR-1 発作性非運動起源性ジスキネジア(paroxysmal nonkinesigenic dyskinesia; PNKD)を呈する疾患で,常染色体優性遺伝形式 をとり,第 2 番染色体長腕 2q33-36 にマッピングされ DYT8 と命名された38).さらに myofribillogenesis regulator 1(MR-1) 遺伝子にミスセンス変異(Ala7Val, Ala9Val, Ala33Pro)が発 見され,原因遺伝子と考えられている39)40).MR-1 遺伝子よ り三つのアイソフォームの転写産物が作られる.そのうちの 一つが脳組織に特異的に発現している.アミノ酸配列は hydroxyacylglutathione hydrolaseに似ており,この酵素は酸化 ストレスの解毒作用(detoxify methylglyoxal)を持つことが知 Fig. 1 Constitution of DYT6-THAP1 protein and mutations reported.
DYT6-THAP1 is 213 amino acids in length and a highly conserved protein among the mammalian species. Mutations described in dystonia 6 so far are indicated. Mutations have not been clustered in some specific domain, but discovered elsewhere in the gene.
られている.MR-1 に変異があれば,解毒作用が不完全とな り,アルコールやカフェインを摂取すると酸化ストレスが多 くなり処理しきれなくなる可能性があり,その結果,発作が 誘発されるのではないかとの考えもある40).一方,変異に よりミトコンドリア内膜への挿入に影響が出る可能性も報告 されている41). DYT10-PRRT2 常染色体優性遺伝形式を呈する発作性運動起源性ジスキネ ジア(paroxysmal kinesigenic dyskinesia; PKD)日本人家系の 連鎖解析により第 16 番染色体 16p11.2-q12.1 にマップされ DYT10と命名された42).症状としては,数秒から数分の短 い発作時間で,頻度は 1 日に 100 回まで起こりえる.発作は ジストニアもしくは舞踏病運動であり,突然の予期しない運 動により誘発される.発症年齢は小児期から青年期であるが, 成 人 期 に 症 状 が 消 失 す る こ と も あ る.2011 年 に PRRT2 (proline-rich transmembrane protein 2)遺伝子が原因遺伝子 として報告された43)44).その後,連鎖解析でしらべられた日 本人家系においても同遺伝子に変異存在することが確認され ている45).DYT10-PRRT2 患者では,小児期の痙攣(infantile convulsions)を生じることがあり,PRRT2 が良性家族性小 児期痙攣(benign familial infantile seizures)の原因遺伝子で もあることが判明している46).われわれが経験した日本人 DYT10-PRRT2症例では,徒競走の際に足がもつれるという 症状を呈した.既往症として小児期に痙攣の既往が 1 度ある のみであった.その後の聞き取り調査で,母方に小児期に痙 攣を呈した親戚がいることが判明した.小児期に痙攣の既往 があることは,DYT10-PRRT2 の診断の手がかりになりうる (村上ら,投稿中).PRRT2 は主に大脳基底核に発現しており, また,中枢神経発達期に多く発現することが判明している. 基底核に発現し神経伝達物質放出の制御に関与している SNAP25とのタンパク質間相互作用(protein-protein interaction) が報告されている44).
DYT11-SGCE
DYT11は常染色体優性遺伝形式をとる北米のミオクロー
ヌス・ジストニア家系の連鎖解析により第 7 番染色体長腕 7q21に遺伝子座がマッピングされた47).そしてイプシロン サルコグリカン(sarcoglycan, epsilon; SGCE)遺伝子に変異
がみとめられ原因遺伝子と判明した48).これまで全世界か ら 50 以上の変異がみつかっている49).多くの変異は細胞外 ドメインに集中しており,機能の重要性が示唆されている (Fig. 3A, B).ゲノム刷り込み現象の影響により,多くのば あい,父親から変異を受け継いだ時に発症することが知られ ており,浸透率の変化の要因となっている50)51).サルコグリ カン遺伝子には,イプシロン以外にアルファ,ベータ,ガン マ,デルタ,ゼータといった種類があり,変異があれば肢帯 型筋ジストロフィーをおこすことが知られている52).大脳 における SGCE の機能についてはわかっていないことが多 い.培養細胞において臨床変異を導入させた遺伝子を発現さ せると,細胞内の蛋白輸送(protein trafficking)に影響をおよ ぼし,プロテオゾームにより分解(degradation)されてしま うことが示され,この過程は DYT1-TOR1A 遺伝子との結合 により増強されることも判明している53).ミオクローヌス・ ジストニアの症状として,小児期より生じる非常に速いミオ クローヌス(myoclonic jerks)とジストニアの組み合わせであ る.ミオクローヌスは,多くのばあい,頸部,体幹,上肢に 出現し,下肢に出現することは少ない.3 分の 2 の症例で, ジストニアは斜頸あるいは書痙として出現し,軽症であるこ とが多い.ミオクローヌスはアルコール摂取により軽快する ことがある.抑うつ,不安,パニック障害,強迫性障害など の精神症状もみとめられることがある49). DYT12-ATP1A3 臨床所見として,急性発症のジストニアに数時間から数週 間以内にパーキンソニスム(動作緩慢,姿勢反射障害)も併 発する.こうした症状は,発熱,出産,ランニング,飲酒な どによる肉体的・精神的ストレスが引き金となる.ジストニ アは頭側から足の方へと出現することが多く,球筋にもジス トニアが生じることが多い.発症年齢は 4 歳から 58 歳と幅 広いが,多くは 10 代もしくは 20 代で発症する54).突然変 異の報告もあり,家族歴での類症有無は参考にならないこと もある.多くのばあい,常染色体優性遺伝形式をとり,世代 を経るにしたがい浸透率は低くなる.Na+, K+-ATPase alpha 3 subunit遺伝子(ATP1A3)が原因遺伝子であることが同定 された.ATP1A3 はナトリウムポンプの触媒サブユニット (catalytic subunit)をコードしており,細胞膜の内外で Na+と K+を交換するために ATP 加水分解をおこす55).変異があれ ば,Na+調整がなくなることが培養細胞を使った実験で証明 されている.アジア人での変異報告もある56).
Fig. 2 Pedigree chart of a Japanese DYT6-family and type of dystonia. Solid symbols affected individuals, circles females, squares males, slashes deceased, arrow proband. *An asterisk indicates members carrying the mutation p.S130fs133X33)
DYT16-PRKRA
DYT16は常染色体劣性遺伝形式をとるジストニア・パー
キンソニスムであり,ホモ接合体マッピングにより第 2 番染 色体長腕 2q31 にマッピングされた.さらに PRKRA(protein kinase interferon-inducible double-stranded RNA-dependent activator)遺伝子が原因遺伝子として特定された57).最初に 報告されたブラジル家系では発症年齢は 2 ~ 18 歳で四肢に ジストニアが出現,その後全身に広がる.球筋にもジストニ アが出現し,痙攣性発声障害,構音障害,嚥下障害を呈する こともある.ドイツ人孤発例でヘテロ接合体フレームシフト 変異がみつかっているが58),ヘテロ接合体変異の発症にお ける影響に関しては,さらなる症例の蓄積が必要である. PRKRA遺伝子の働きに関して,細胞ストレス反応に関与し ているとの報告があるが57),それ以上の生化学的影響に関 してはよくわかっていない. DYT18-GLUT1/SLC2A1 臨 床 表 現 型 と し て, 発 作 性 運 動 誘 発 性 ジ ス キ ネ ジ ア Fig. 3 Mutations reported in DYT11-SGCE.
(A) Constitution of DYT11-SGCE protein, gene structure and mutations reported. DYT11-SGCE is 462 amino acids in length and a highly conserved protein among the mammalian species. Mutations described in dystonia 11 so far are indicated. Most mutations are localized to the extracellular domain of the protein. (B) Mutations have been identified at not only coding region but also exon/ intron boundaries.
(paroxysmal exercise-induced dyskinesia; PED)を呈する.常 染色体優性遺伝形式をとり,世代とともに浸透率が低くなる. 第 1 番染色体短腕 1p35-p31 に遺伝子座がマッピングされ, GLUT1/SLC2A1が原因遺伝子として報告された59).孤発例 の PED 症例でも変異が報告されている60).GLUT1/SLC2A1 は, 脳における糖輸送体であり,PED は脳細胞内での糖濃度の 低下によってひきおこされると考えられている.とくに長時 間,運動をおこなうとエネルギー消費量が増え,糖が不足し 症状が出現する機序が考えられている.ジストニア以外に舞 踏病アテトーシス,バリスムが運動後にみとめられることも ある.症状は数分から長くとも 1 時間続く.通常,小児期に 発症し,てんかん,片頭痛,発達遅延,溶血性貧血が併発す ることもある61). DYT23-CIZ1 2012年にアメリカ在住の白人の痙性斜頸家系において,
CIZ1(Cip1-interacting zinc finger protein 1)遺伝子に変異が
発見された.発症年齢は成人期であり,無症候性キャリアも 存在する.合計三つのミスセンス変異が発見され,変異を持 つ CIZ1 を培養細胞に発現させると野生型とはことなる細胞 内局在の変化がみとめられている.CIZ1 は脳に発現し DNA 合成や細胞周期の調整に関与している p21Cip1/Waf1とタンパク 質間相互作用を持つ62). DYT24-ANO3 2012年に常染色体優性遺伝形式をとる英国家系において
Ca2+-gated chloride channel(ANO3)遺伝子に三つのミスセ ンス変異がみつかった(Trp490Cys, Arg494Trp, Ser685Gly)63). 臨床徴候として振戦をともなう痙性斜頸(tremulous cervical dystonia)で,上肢のジストニア振戦をともなうこともある. また,咽頭にもジストニアがおよんだり,眼瞼痙攣もみとめ られることがある.さらに全身にジストニアが広がることも ある.発症年齢は 19 ~ 39 歳で 30 歳代発症が多い.ANO3 は線条体に多く発現している.
Fig. 4 Dystonia in a DYT6-THAP1 patient at pre and post GPi-DBS.
(A), (B) DYT6-THAP1 patient before GPi-DBS. A marked lateral shift of the neck is present in sitting position. Dyskinesia of the upper extremities and face become apparent with action. Speech is severely impaired and difficult to understand. While walking there is dystonia of the face, arms and trunk. His left arm is endorotated. (C), (D) The same patient after GPi-DBS. After reprogramming of DBS device and oral administration of zolpidem, partial improvement is observed in motor function and speech. Dystonia of the neck is still present but less severe compared to that observed before GPi-DBS.
DYT25-GNAL
ヨーロッパに先祖を持つ痙性斜頸家系において,GNAL (guanine nucleotide binding protein (G protein), alpha activating
activity polypeptide, olfactory type, Gaolf)に変異があること が 2012 年に報告された.第 18 番染色体短腕に存在しており, DYT7や DYT15 に連鎖する家系にも GNAL 変異が存在する かもしれないが,本稿執筆時点では確認の報告はおこなわれ ていない.GNAL は dopamine type 1 受容体に結合し b,g サブ ユニットとともにヘテロトリマーを形成している.そして嗅 覚シグナル伝達に重要な役割を果たしていることがわかって いる.線条体ではストリオゾームに多くふくまれ,線条体投 射神経細胞である中型有棘神経細胞(medium-sized spiny neuron)では直接路である dopamine type 1 受容体とカップ リングしている64).また,間接路である adenosine A2A 受容 体とも結合し,アデニル酸シクラーゼ type 5 を活性化する. 患者でみつかった変異によりヘテロトリマー形成異常や dopamine type 1受容体からのシグナル伝達に異常が生じるこ とが示された65).ドイツでみつかった GNAL 変異を持つ患 者では,嗅覚低下がみとめられた.しかし,日本国内でみつ かった GNAL に変異を持つ痙性斜頸患者では,嗅覚低下は みとめられなかった(Kumar ら,投稿中). DBS の効果と遺伝子型 ジストニアの治療には,トリヘキシフェニジル,クロナゼ パム,バクロフェン,ゾルピデムといった内服薬治療66)67), ボツリヌス毒素治療68),さらには脳深部刺激療法(deep brain stimulation; DBS)がある.DBS のターゲットとして,淡 蒼球内節(GPi)が選ばれることが多いが,DYT1 と DYT6 とでは効果および持続期間で差がみとめられることが報告さ れた.DYT6 の方が DYT1 より症状の改善が乏しく,効果持 続期間も短いとされている69).われわれの経験した DYT6 症例でも,GPi-DBS の効果は限定的であった.Fahn-Marsden rating scale(F-M scale)は GPi-DBS 施行前 55.5 点,施行後 は 21 点までの改善に留まっており,また術後 5 年で 58 点に 再増悪した(Fig. 4).一方,非常に激しいジストニアを呈す る DYT3/XDP-TAF1 において DBS が著効することがみとめ られている.徳島大学でフィリピン人患者に GPi-DBS を施 行した症例では F-M scale は 87 点から 18 点まで改善がみと められた(Fig. 5).これまで DYT3/XDP-TAF1 患者においては, 救命目的で GPi-DBS がおこなわれてきた70)~72).著効したと の報告はあるが,どのくらいの期間,効果持続するのか,後 期のパーキンソニスムへの影響などは不明である.今後,ジ ストニアの治療法決定や DBS 刺激部位の選択において,遺 伝子型に基づく治療効果の情報蓄積が必要である. おわりに ジストニアの病態解明のために脳機能画像解析,脳深部刺 激(DBS)手術での電気生理学的解析などがおこなわれてい る.また,他の神経疾患と同様,遺伝子異常からのアプロー チも病態解明には重要である.診断においては,浸透率の変 Fig. 5 Dystonia in a DYT3/XDP-TAF1 patient at pre and post GPi-DBS.
(A) DYT3/XDP-TAF1 patient before GPi-DBS. He was born in island of Panay in the Philippines. He suffers from laterocollis, antecollis and rotation of the chin to the left. Action dystonia of both arms is noted. Speech is also impaired by oromandibular dystonia and spasmodic dysphonia. Gait is disturbed by dystonia of the trunk, neck and legs. (B) The same patient after GPi-DBS. He can stand and walk without any assistance. The mobile dystonia in the hands is improved. (C) Good improvement in the oral and pharyngeal regions. His speech and food intake are also improved.
化により家族歴からは判断できないばあいや,心因性要素の オーバーレイしている症例では最初から遺伝性ジストニアを うたがうことは難しい.遺伝子型 - 表現型との対応が他の遺 伝性神経疾患とくらべさらに多様性を示すことや,また, DBSの治療効果が限定的であることもある.さらなる遺伝 子型と表現型との関連,遺伝子型と内服薬や DBS 効果との 関連などの情報蓄積により,将来,遺伝子型に基づく治療法 選択がおこなわれるものと考えられる. 謝辞:貴重な症例を紹介いただいた各施設の先生方,とくに杉山 華子先生・濱野利明先生(関西電力病院),Drs. Paul Matthew D. Pasco・Rosalia A. Teleg・Lillian V. Lee(Philippine Children’s Medical Center),Dr. Daisy Tabuena(West Visayas State University Medical Center, Philippine),Dr. Antonio Orlacchio(Laboratorio di Neurogenetica, CERC-IRCCS Santa Lucia, Rome, Italy, and Dipartimento di Medicina dei Sistemi, Universita di Roma “Tor Vergata”, Rome, Italy),そして遺伝子 解析に携わっていただきました太田悦朗先生・小幡文弥先生(北里 大学・医療衛生学部・医療検査学科・免疫学),Drs. Kishore Kumar・ Christine Klein(Institute of Neurogenetics, University of Luebeck, Luebeck, Germany)に深謝申し上げます.また DBS 手術の施行・フォ ローアップしていただきました後藤 惠先生・森垣龍馬先生・大北 真哉先生(徳島大学 HBS 脳神経外科)にも深謝します. ※本論文に関連し,開示すべき COI 状態にある企業,組織,団体 はいずれも有りません. 文 献
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72) Oyama G, Fernandez HH, Foote KD, et al. Differential response of dystonia and parkinsonism following globus pallidus internus deep brain stimulation in X-linked dystonia-parkinsonism (Lubag). Stereotact Funct Neurosurg 2010;88:329-333.
Abstract
Dystonia genes and elucidation of their roles in dystonia pathogenesis
Toshitaka Kawarai, M.D.
1), Ryosuke Miyamoto, M.D.
1), Nagahisa Murakami, M.D.
1),
Yoshimichi Miyazaki, M.D.
1), Hidetaka Koizumi, M.D.
1), Wataru Sako, M.D.
1),
Youhei Mukai, M.D.
2), Kenta Sato, M.D.
1), Shinichi Matsumoto, M.D.
3),
Takashi Sakamoto, M.D.
2), Yuishin Izumi, M.D.
1)and Ryuji Kaji, M.D.
1)1)Department of Clinical Neuroscience Institute of Health Biosciences, Graduate School of Medicine, University of Tokushima 2)Department of Neurology, National Institute of Neuroscience, National Center of Neurology and Psychiatry
3)Department of Neurology, Shinko Hospital