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表現系ダンスにおける「共通に学ばせたい内容」に関する一考察 : 学習者側がどのように受け止めたのかに着目して

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表現系ダンスにおける「共通に学ばせたい内容」に

関する一考察 : 学習者側がどのように受け止めた

のかに着目して

著者

安江 美保

雑誌名

ノートルダム清心女子大学紀要. 人間生活学・児童

学・食品栄養学編

45

1

ページ

94-112

発行年

2021

URL

http://id.nii.ac.jp/1560/00000478/

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Ⅰ はじめに  平成 29 年告示の新学習指導要領では, 小学校,中学校,高校を通して,体育科の 目標に「豊かなスポーツライフを実現する ための資質・能力を育成する」ことが明確 に示された。「豊かなスポーツライフの実 現」のためには,「1人1人の児童・生徒 と運動とのより良い関係」が何よりも優先 されなくてはならない。身体を動かす機会 が激減している現代社会において,子ども たちの運動に対する好き・嫌いの二極化は 益々進んでいる。体育の授業において,ど れだけ運動好きな子どもを育てていける か,その責任は重い。  「体育」は,個々の運動技能の差が常に

表現系ダンスにおける「共通に学ばせたい内容」に

関する一考察

―学習者側がどのように受け止めたのかに着目して―

安江 美保

Common Desired Learning Contents in Expressive Dance:

An Examination of How Content is Received by Learners

Miho Y

asue

       

キーワード:表現系ダンス,指導内容,学習者,自由記述 ※ 本学人間生活学部児童学科

 In this study, we focused on the impressions of students who had taken a course entitled “Basics of Expression With Various Themes,” which is an expressive dance class, to consider the ways in which students received the content that their instructors wanted them to learn. As a result, it was found that the shared learning of “exaggerated movements while remaining conscious of changes in the speed and twisting of the trunk” as well as “continuous movement involving the four forms, featuring changes with opposing movements” enabled students to experience the enjoyment and allure of expressive dance.

 Moreover, it was found that because the four contents teaching the basic elements of expressive dance— “Let’s dance to the rhythm!”, “Dance-off!”, “Mirror world”, and “Expression using newspapers” —were arranged in an easy-to-follow order and featured points in common that were repeated in every lesson, some students felt more secure in the skills that they had gained.

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露呈される教科であり,「個人差をできる 限りなくしていかなくてはならない」とい う囚われを持ちやすい。そのため,「技能 を高めてから運動を楽しむ」という発想の 授業になりやすく,技能を高めるためだけ の活動によって,運動嫌いな子どもが逆 に増えてしまうという危険性をはらんでい る。「運動の楽しさ」は,技能が高まった 先にあるのではなく,誰にとっても今持っ ている力で最初から味わうことのできるも のでなければならない。「運動を楽しみな がら技能も高まっていく授業」が強く求め られている。そして,こうした「個人差」 の問題を,逆に「違い」として積極的に生 かしていけるのが,「表現運動系及びダン ス領域」である。 Ⅱ 研究の背景 1.遠心型モデルとしての表現系ダンスの 学び  細江(2008)は,体育科の学習モデルを 「求心型」と「遠心型」に分類し,「求心型 モデルは,器械運動など形があるものを学 習していく,技を上手にできるようになる 学習のことを指し,それに対して遠心型モ デルは,『今,ここ』を大切にしながら外 に向かって創り出していく学習で,自分ら しさをその学習内容に埋め込みやすい性格 を持っている。戦後まもなくダンス教育の 大転換は,アメリカから導入されたものだ が,遠心型学習として最もふさわしいモデ ルになってきたのではないか」と述べてい る。  必修期(小学校1年〜中学校2年)の表 現運動系及びダンス領域は,「表現・創作 ダンス」(以下「表現系ダンス」),「リズム ダンス・現代的なリズムのダンス」(以下「リ ズム系ダンス」),「フォークダンス」の3 つの内容から構成されている。中でも表現 系ダンスは,取り上げた題材やテーマから 思い浮かべた「表したいイメージ」と,そ れを「どのように表すか」が個々によって 異なるゴールフリーな学習に特徴があり, 細江が分類している「遠心型モデル」の典 型と捉えることができる。  表現系ダンスの特性(面白さや魅力)は, 「表したいイメージを,自由に動きを工夫 して踊り表現する」(学校体育実技指導資 料第9集,2013,文科省)と捉えることが でき,児童・生徒同士や教師との身体的コ ミュニケーションを通して,創造的で個性 的な学びを実現することができる。  こうしたダンス学習の特徴は,体育の学 習に存在している技能の「個人差」を「違 い」として生かしていくことができ,特に 運動の苦手な児童・生徒がダンスの学習の 面白さに目覚めて,身体を動かすことが好 きになるケースが少なくないと思われる。  表したいイメージを動きを工夫して自由 に表現するために,「どのような学習形態 がふさわしいのか」,「何を共通に学べば自 由に踊ることができるようになるのか」等 をもっと分かりやすく示すことができれ ば,表現系ダンスの実践が今よりも取り組 み易くなり,その良さが実践を通して広 がっていくと思われる。そうした基盤とな る実践的な研究のさらなる充実が求められ ている。 2.多様なテーマからの即興表現  表現系ダンスの楽しみ方には,「即興表 現」と「作品創作」の2つがある。(学校 体育実技指導資料第9集,2013,文科省)  小学校学習指導要領解説(2017)では,「ひ と流れの動きで即興的に踊ること」と「簡 単なひとまとまりの動きにして踊ること」 という言い方で示されている。そして解説 の中で,「ひと流れの動きで即興的に踊る こと」とは,「題材から捉えた動きを基に, 表したい感じを中心として動きを誇張した

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り,変化を付けたりして,メリハリ(緩急・ 強弱)のある『ひと流れの動き』にして表 現すること」と説明されている。(下線は 本研究者)  村田(2011)は即興表現の魅力を,「予 期しなかった偶然の出来事が他者とのコ ミュニケーションの中で起こり,ともに踊 る仲間と共感し合えるところにもある。1 人で踊る時には予想しなかった動きを発 見したり,他者がしかけてくる偶然のアク ションに反応したりするおもしろさであ る」と述べている。「今,ここ」で感じた ことや思い浮かべたイメージからスタート する即興表現は,「動きの面白さに惹かれ て夢中になっていく中で表現の技能が磨か れていく」そのプロセス自体に面白さや魅 力があると捉えられる。  そうした即興表現で身に付く・発揮され るスキルとはどのような力なのか,また, 即興表現の学習でどのような内容を取り上 げることが初心者でも分かりやすいのだろ うか。  即興表現で身に付く・発揮されるスキル として細川ら(2008)は,舞踊家の即興表 現におけるクリエーション・スキルを実験 等から分析し,その時,その場で身体で反 応する力である「身体イメージ能力」と, 動きを選び構成する能力である「表現的動 きを創出する能力」が重要であることを明 らかにしている。(下線は本研究者)  また,初心者にも分かりやすい典型教材 として村田(2015)は,初心者でも表現系 ダンスの技能となる「誇張と変化のある連 続(ひと流れの動き)」を把握しやすい内 容として「対決」「追跡」「新聞紙」「音楽 を手がかりに」を単元の前半で学ぶ授業の 構想を提案している。(下線は本研究者) 中でも「対決」と「新聞紙」を表現系ダン スの典型教材として推奨している。  以上のことから,本研究における表現系 ダンスの実践にあたり,共通に学ばせたい 内容として「動きの誇張」「変化とメリハ リのあるひと流れの動き」を,即興表現で 身に付く能力として「その時,その場で身 体で反応する力」「動きを選び構成する能 力」を,何を取り上げるかについて「対決」 「追跡」「新聞紙」「音楽を手がかりに」を 参考としていく。 Ⅲ 研究目的  必修期の表現運動系及びダンス領域に位 置づく「表現系ダンス」は,「今,ここ」 を大切にしながら外に向かって創り出して いく「遠心型モデル」としての特徴を持つ。 「豊かなスポーツライフの実現」に向けて, 子どもと運動との関係がより一層重要視さ れていく中で,仲間との身体的コミュニ ケーションを通して自分らしさを存分に発 揮していける「表現系ダンス」の学びは, 今後益々重要になっていくと思われる。  その一方で,「表したいイメージ」とそ れを「どのように表すか」が個々によって 異なるゴールフリーの学習であるため,何 を共通に学ばせていくのかが分かりにくい 面をもつ。  そこで本研究では,表現系ダンスの指導 法を中心に学ぶ「身体表現の指導法」の授 業での大学生の感想から,共通に学ばせた い内容を「どのように受け止めたのか」の 傾向を探ることを通して,表現系ダンスに おける「共通に学ばせたい内容」を検証す ることを研究の目的とする。 Ⅳ  研究方法 1.研究対象  ノートルダム清心女子大学人間生活学部 児童学科,保育士課程の必修科目「身体表 現の指導法a」(女子 37 人),「身体表現の 指導法b」(女子 40 人)において,本研究 者が授業者となって指導した。この授業は,

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多様なテーマからの表現系ダンスの実技を 中心に,身体表現の意義,活動の展開の仕 方,指導のポイント等を学ぶ授業である。 2.授業実施期間  Aクラスが令和元年 10 月2日〜 10 月 23 日,Bクラスが 10 月3日〜 10 月 24 日の 間に,同大学の体育館にて実施。全 16 回 の内の初回から第4回の授業を研究の対象 とする。 3.授業の概要  「身体表現の指導法」の授業は,同じ内 容を2クラスに分けて全 16 回ずつ実施し ている。指導法の授業であるため,指導計 画案の作成について等,実技以外の内容も 含まれるが,表1は実技の内容のみを示し ている。  第1回〜第 14 回の実技の内容は,「多様 やテーマによる表現・基礎編」「多様やテー マによる表現・応用編」「作品創作,発表会」 の3段階から構成されている。  本研究は表現系ダンスにおける「共通し て学ばせたい内容」に着目しているため, 「多様やテーマによる表現・基礎編」の4 回の授業の内容を研究対象とし,4回の授 業を通しての「共通に学ばせたい内容」に ついて考察していく。  表2は,多様なテーマによる表現・基礎 編の主な展開である。取り上げたテーマや ねらいは異なるが,授業の展開では,「ほ ぐしの活動」「教師主導で大事なポイント をつかむ」「学生主体で楽しさをひろげる」 「見せ合い・まとめ」の4つを共通に位置 づけている。 4.分析方法  身体表現の指導法a,身体表現の指導法 bの授業では,毎回の授業後に授業記録(活 動の流れとポイント)と感想を書いている。 表1 身体表現の指導法の授業計画 段階 実技の主な内容 オリエンテーション 1 表現・基礎編 よる 多様なテーマに 【リズムに乗る・くずす】リズムに乗って踊ろう 2 対決!【対立する動き】 3 ミラーの世界【対応する動き】 4 【多様な質感,動きの極限化】新聞紙を使った表現 5 多様なテーマによる 表現・応用編 日常生活をダンスに! 【日常生活の動きを誇張して】 6 【いきものの特徴を捉えて】いきものランド 7 忍者参上!【対立,対極の動き】 8 ジャングル探検(1) 9 ジャングル探検(2) 10 〜 14 作品創作 発表会 グルーピング オリジナルダンス創作,中間 発表 合同発表会 15 作品鑑賞会,まとめ 表2 多様やテーマによる表現・基礎編の 主な展開 回 ねらい 主な活動の流れ 1 リ ズ ム に 乗 っ て 踊 ろう 【リズムに 乗 る・ く ずす】 1. 教師のリードで 2 人組で 踊る 2. リズムの乗り方くずし方 をつかむ(教師主導) 3. 2人組,リーダーを変え ながら踊る(学生主体) 2 対決!(2 人の戦い, 追いつ追 われつ) 【 対 立 す る動き】 1. リズムに乗って 2. 対決のポイントをつかむ (教師主導) 3. 2人組で好きな戦いを思 いつくまま即興的に踊る (学生主体) 4. 見せ合い 3 ミラーの 世界 【 対 応 す る動き】 1. リズムに乗って 2. ミラーの世界のポイント をつかむ(教師主導) 3. 2人組,4人組でミラー の世界を思いつくまま即 興的に踊る(学生主体) 4.見せ合い 4 新 聞 紙 を 使 っ た 表 現 【多様な質 感, 動 き の極限化】 1.リズムに乗って 2. 新聞紙と遊ぶ(教師主導) 3. 新聞紙を使った表現のポ イントをつかむ(教師主 導) 4. 2人組,4人組で新聞紙 を使った表現を行う(学 生主体) 5.見せ合い

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第1回〜第4回までのAクラス 37 名,B クラス 40 名の感想の自由記述全てを,文 章のまとまりごとに分けてデータ化した。  また,初回の「私とダンスとの関係」の 全員の自由記述と,初回にダンスが「嫌い・ 大嫌い」と記述した学生8人が,最終回の 「講義を通して学んだこと」の内容にどの ような記述をしているかに着目した。考察 の観点を以下に示す。 〇 初回の講義で書いた「私とダンスとの 関係」から,学生のダンスに対する意 識の傾向について考察する。 〇 第1回〜第4回の感想を「教材の魅力・ ポイントとなる知識」「気づき・実感」 「難しさ・課題」の3つの視点から抽出, 分類し,指導者側が表現系ダンスにお いて共通に学ばせたかったことを,ど のように受け止めたのかを考察する。 〇 ダンスが嫌いだった学生の「講義を通 して学んだこと」の記述から,ダンス に対する見方や考え方がどう変わった のかを考察する。 Ⅴ 結果及び考察 1.ダンスに対する意識の傾向  表3,表4は,オリエンテーションの時 に記述した「私とダンス」から,ダンスに 対する好嫌と,型のないダンスが苦手と記 述していた人数を示したものである。  Aクラスは,大好き,好き,少し好きを 合わせて 24 人で全体の 65%,どちらとも 言えないが 10 人で全体の 27%,嫌い,大 嫌いが3人で全体の8%だった。一方Bク ラスは,大好き,好き,少し好きを合わせ て 23 人で全体の 57%,どちらとも言えな いが 12 人で全体の 30%,嫌い,大嫌いが 5人で全体の 13%だった。  ダンスを好きと記述していたのは,両ク ラス共に6割前後となっている。ここには 示していないが,その主な理由として「ダ ンスを習っていた。ダンスのサークルに 入っている」「運動会や体育祭でのダンス が楽しかった」「ダンスの授業が楽しかっ た」等があげられる。ダンスを嫌いと記述 していたのは,両クラス共に 10%前後と なっている。主な理由としては,「動きを 覚えられず型のあるダンスが苦手」「上手 く踊れない」「動きを笑われた」等があげ られる。  どちらとも言えないは両クラスとも 30%前後であり,その理由として特に多 かったのは「型のあるダンスは好きだが, 自由に踊ることは苦手」というものだった。 この理由を記述していたのが,Aクラスで 46%,Bクラスで 23%と,AクラスがB 表 4 実技前におけるBクラスのダンスに 対する意識 人数(%) 型のないダ ンスが苦手 (人) 大好き 2(5%) 0 好き 14(35%) 3 少し好き 7(17%) 1 どちらとも言えない 12(30%) 3 嫌い 5(13%) 2 大嫌い 0(0%) 0 計 40 9(23%) 表 3 実技前におけるAクラスのダンスに 対する意識 人数(%) 型のないダ ンスが苦手 (人) 大好き 2(6%) 0 好き 13(35%) 4 少し好き 9(24%) 4 どちらとも言えない 10(27%) 8 嫌い 2(5%) 1 大嫌い 1(3%) 0 計 37 17(46%)

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クラスの2倍の割合であり,Aクラスの方 が型のないダンスへの苦手意識が強いこと が分かる。また,興味深いのは,「型のな いダンスが苦手」という学生が,ダンスの 好き嫌いに関係なく全体的に散らばって見 られたことである。   中 村(2009) は, 平 成 19,20,21,24 年度に中学校の教員へ調査から,男女必修 化に伴うダンス授業の変容を明らかにして いる。その調査では,「男女共に履修率は 上がっているものの,現代的なリズムのダ ンスの採択が多く,指導経験のある女性教 員が担当するクラス以外では創作ダンスの 採択率は低い」という結果とともに,「現 代的なリズムのダンスの内容として動きの 創作学習ではなく,既成の動きの習得学習 を取り入れていた学校も少なくなく,学習 内容の質が十分確保されているとはいえな い」という結果が報告されている。  本学の学生においては,ダンスに対して 好意的に捉えている学生が多かったもの の,ダンスが好きな理由に「型のあるダン スを覚えて踊るのは好き」「みんなと動き を揃えて踊るのは好き」などの理由が多い こと,ダンスが嫌いな理由に「ダンスを覚 えるのが苦手」「難しいダンスをやらされ るのが嫌だった」などの理由が少なくない ことから,学生たちがこれまで受けてきた ダンスの授業で「型のあるダンス」の実践 が多い傾向にあったのではないかと推察さ れる。 2.第1回「リズムに乗って踊ろう」  第1回の「リズムに乗って踊ろう」で学 生に提示した課題と主な活動の流れは以下 の通りである。 【課題】 弾みや後打ちのロックのリズムの特徴を 捉えて,全身でリズムに乗ったり,4つ のくずしを生かして変化をつけたりして 踊ろう。 【主な活動の流れ】 1.教師のリードで2人組で踊る 2. リズムの乗り方崩し方をつかみなが らロックのリズムに乗って踊る。 (教師主導) 3. 2人組でリーダーを変えながらロッ クのリズムに乗って踊る。 (学生主体)  最初にリラクゼーションとストレッチを 行った後に,1の「2人組で踊る活動」に 入った。この活動は,教師も一緒に踊りな がら,2人組で様々な関わり方のできる動 きをテンポ良く体験させることで,日常の 自分を忘れさせ,何にでも変身できそうな 非日常の体に導くことをねらっている。  2の「リズムへの乗り方とくずし方」を 教師主導でつかむ活動では,体幹部(おへ そ)を中心に全身で弾みながらリズムに 乗ったりくずしたりして踊る楽しさを実感 させることをねらっている。リズムに乗る 際には,体幹部(おへそ)を意識しやすい ように,体のひねりや後打ちのアクセント を強調した動きを多く取り入れるようにし た。リズムをくずす際には,村田(2012) が推奨している「4つのくずし」を取り入 れた。具体的には,素早く,ゆっくり,ス トップ等でリズムや速さを変化させる「リ ズムのくずし」,方向や場の使い方を変化 させる「空間のくずし」,ねじったり,回っ たり,跳んだりして体の状態を変化させる 「体のくずし」,離れたりくっついたり,反 対にしたり,くぐり抜けたりして1人では できない動きを取り入れる「人間関係のく ずし」である。  このように「リズムへの乗り方とくずし 方」を学ぶことによって,3の「2人組,リー ダーを変えながらロックのリズムに乗って

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踊る」活動で,学生が主体となって自由に 踊ることを楽しむことができるようになっ ていくと考えた。  表5は,「リズムに乗って踊ろう」での 学生の感想から抜粋した主な学びの内容の 一覧である。学生がこの授業で何を学んだ のか,Aクラス,Bクラス合わせて見てい く。  「教材の魅力・ポイントとなる知識」の ところでは,まず,共通に学ばせたい「お へそでリズムに乗ること」と「4つのくず し」についての記述に着目したい。「おへ そからリズムに乗らないとリズムに乗って いるとは言えない」「おへそでリズムに乗っ ていると柔軟に踊れる感覚がある」「おへ そを使ってリズムを取ることでリズムに 乗っている感じがした」から,おへそでリ ズムに乗る感覚をつかんでいることが分か る。また,「同じ動きばかりだと飽きてく るが,4つのくずしを入れると飽きないと 知った」「くずしを入れるだけで,踊りに 変化が生まれて大きく動けた」「ゆっくり 動いたり,速く動いたり,自分のオリジナ ルで動くうちに新しい発見があり個性にあ ふれていた」から,4つのくずしを取り入 れることで,踊りに変化をつけて続けて踊 ることができ,個性があふれるオリジナル な踊りになっていることを捉えている。  そして,「本当に簡単な,跳ぶ,走る, スキップなどで楽しくリズムに乗ることが できる」「型のないダンスは誰でも楽しく 行うことができる」「動きに正解はなく自 由にのびのびと踊ることができる」から, 「リズムに乗って踊ろう」という教材の価 値を捉えていると考えられる。これらの学 びの実感は,「気づき・実感」での記述の 内容からも読み取ることができる。  その一方で,「難しさ・課題」を捉えて いる学生もいる。「おへそからリズムに乗 ることが出来ているのかよく分からなかっ た」「リズムを崩すことは初めてで上手く 出来なかった」「先生を見ながら踊ること は楽しくできたが,自分で動きを引き出す ことがとても難しかった」「好きな動きを 覚えていても,その場になると咄嗟に何も 出てこない」「自分でリズムに乗って自由 に踊ることは難しいと感じた」などの記述 から,リズムに乗って自由に踊ることへの 戸惑いが見られる。これまでこうした学習 の経験が少なかったことが考えられ,表3, 表4で「型のないダンスは苦手」という学 生が,Aクラスに 46%,Bクラスに 23% いたこととも関連していると思われる。  「リズムに乗って踊ろう」の教材では,「体 幹部の使い方」や「4つのくずし」という 表現系ダンスの基礎的な内容とも関連して くるため,第2回以降の授業では「ほぐし の活動」として毎時間最初に位置づけてい る。毎時間行っていく中で,戸惑いがあっ た学生も,活動に慣れ,リズムに乗る感覚 や楽しさが分かっていくのではないかと考 える。 3.第2回「対決!」  第2回の「対決!」で学生に提示した課 題と主な活動の流れは以下の通りである。 【課題】対決の特徴的な動きを捉えて, 体をひねったり,速さに変化をつけたり して,変化とメリハリのあるひと流れの 動きで踊ろう。 【主な活動の流れ】 1. 2人組でリーダーを変えながらロッ クのリズムに乗って踊る。 2. 対決のポイントをつかみながら踊る。 (教師主導) 3. 2人組で好きな戦いを思いつくまま 即興的に踊る。    (学生主体) 4.見せ合って感想を伝え合う。

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表5 第1時「リズムに乗って踊ろう」学生の感想から抜粋した主な学びの内容

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 1の「2人組,リーダーを変えながらロッ クのリズムに乗って踊る」活動は,第1回 の「リズムに乗って踊ろう」の最後に行っ た活動と同じものである。最初は教師の動 きを即座に真似ながら,体幹部(おへそ) で後打ちのリズムに乗って全身で弾むこと を思い出し,その続きに2人組でリーダー を変えながら自由に踊る活動に入る。この 活動は,毎時間の導入に位置づけ,心と体 をほぐすとともに,体幹部(おへそ)を意 識しながら自由に踊る力を確かなものにし ていくことをねらっている。「慣れること」 が確かな力に繫がると考える。  2の「対決のポイントをつかみながら踊 る」活動では,教師と代表学生との示範や, 教師対学生全員とで実際に動いてみること を通して,「体をひねって動きを誇張する」 「素早く,ストップ,超スローで速さに変 化をつける」「床を使って動きを連続させ る」の3つの重点ポイントを意識できるよ うに指導した。  このように「対決」の動きのポイントを 学ぶことによって,3の「2人組で好きな 戦いを思いつくまま即興的に踊る」活動 で,学生が主体となって,表したい対決の イメージを思いつくまま即興的に踊って楽 しむことができるようになっていくと考え た。  表6は,「対決!」での学生の感想から 抜粋した主な学びの内容の一覧である。学 生がこの授業で何を学んだのか,Aクラス, Bクラス合わせて見ていく。  「教材の魅力・ポイントとなる知識」の 所では,まず,共通に学ばせたい「動きの 誇張,変化とメリハリ」についての記述に 着目したい。「体をねじる,動きを誇張す ることで戦いの表現が豊かになる」「パン チしたり,されたり,転んだり,倒れたり するときに,体をねじると良い動きになる ことがよく分かった」「超スローにするに は通常時より誇張した方が,動きも分かり やすく面白かった」「対決では,動きをデ フォルメすること,動と静のメリハリをつ けた動きを連続させることが大切だと分 かった」から,動きを誇張することと,速 さの変化でも誇張が必要なこと,動と静に よってメリハリがつくことを捉えているこ とが分かる。また,「前回学んだ4つのく ずしを意識して動くと,より良く表現でき た」から,リズム系ダンスで学んだ「4つ のくずし」が,「表現系ダンス」でも使え ることを実感していることが分かる。  そして,「動きにメリハリをつけること で,よりダンスらしくなる」「追いつ追わ れつは,メリハリの動きの基本となると感 じた」「今まで苦手な創作ダンスだったが, ストップや超スローを取り入れることでダ ンスがつくられていった」「自由に体をね じったり,スピードの変化であったり,床 を使ったりして動くのは難しいが,対決と いう表現法によって取り入れやすくなるこ とを身をもって体感することができた」か ら,対決という教材が,「動きの誇張,変 化とメリハリ」という表現系ダンスの基礎 となる内容を学びやすい教材であることを 捉えていると思われる。これらの学びの実 感は,「気づき・実感」での記述の内容か らも読み取ることができる。  その一方で,「難しさ・課題」を捉えて いる学生もいる。「本当に殴られるのでは ないため,どのタイミングで殴られた表情 をしたり,床に転んだりすればよいのか分 からなかった」「実際にやってみると、全 然戦っているように見えなかったり、意外 と誇張できなかったりして難しいことに気 付いた」「追いつ追われつでは、パッと止 まれなかったり、長い距離走ってしまった りして,追われている感を出すのが難し かった」「スローモーションの動きは,簡 単にできるようで,意外に難しかった。常

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表6 第2時「対決!」学生の感想から抜粋した主な学びの内容

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に意識していないと動きが速くなってし まったり,現実っぽく戻ってしまったりす る」から,相手の動きを良く見て「あうん の呼吸」で対立した動きを楽しむところま で至らなかった学生もいたことが分かる。 ただ,超スローは常に意識していないとで きない,以外と誇張が難しい,ピタッと止 まれなかった,どのタイミングで反応した らいいか分からない等,具体的な課題を捉 えることができているとも考えられる。「対 決」で学んだことは,この授業以降の「忍 者の戦い」や「いきものの戦い」に生かす ことができ,繰り返し学ぶ機会があること で,対決の表現の仕方をより確かなものに していくことができるのではないかと考え る。 4.第3回「ミラーの世界」  第3回の「ミラーの世界」で学生に提示 した課題と主な活動の流れは以下の通りで ある。 【課題】 「自分」と「自分の動きをとことん真似 るもう一人の自分」とのミラーの世界を, 変化とメリハリのあるひと流れの動きで 踊ろう。 【主な活動の流れ】 1. 2人組でリーダーを変えながらロッ クのリズムに乗って踊る。 2. ミラーの世界のポイントをつかみな がら踊る。      (教師主導) 3. 2人組,4人組でミラーの世界を思 いつくまま即興的に踊る。(学生主体) 4.見せ合って感想を伝え合う。  1の「2人組,リーダーを変えながらロッ クのリズムに乗って踊る」活動は,毎時間 の導入に位置づけ,心と体をほぐすととも に,体幹部(おへそ)を意識しながら自由 に踊る力を確かなものにしていくことをね らっている。「慣れること」が確かな力に 繫がると考える。  2の「ミラーの世界のポイントをつかみ ながら踊る」活動では,教師対学生全員が 向き合い,教師が発信者となってミラーの 世界の示範を行った。その際,意味不明な 動きや日常生活の中の動きを支離滅裂で連 続した動きにして行い,「動きの誇張」「変 化とメリハリのある連続した動き」「4つ のくずし」の3つの重点ポイントを意識で きるように指導した。「ミラーの世界」の 表現を楽しむには,説明的な動きにならな いことが特に重要であることを強調した。  このように「ミラーの世界」の動きのポ イントを学ぶことによって,3の「2人組, 4人組でミラーの世界を思いつくまま即興 的に踊る」活動で,学生が主体となって表 したいミラーの世界のイメージを即興的に 踊って楽しむことができるようになってい くと考えた。  表7は,「ミラーの世界」での学生の感 想から抜粋した主な学びの内容の一覧であ る。学生がこの授業で何を学んだのか,A クラス,Bクラス合わせて見ていく。  「教材の魅力・ポイントとなる知識」の ところでは,「ミラーの世界は,変化とメ リハリ,動きの誇張・強調,この2点が重 要だということが分かった」「空間を大き く使うことや、動きを誇張することも、前 回から繋がっているポイントだ」「今まで 学んできたくずしや動きのメリハリ、誇張 を取り入れることでより表現の幅が広がっ た」から,ミラーの世界においても,「動 きの誇張,変化とメリハリ」が重要なポイ ントであることを捉えていることが分か る。また,「ミラーの世界では4つの崩し を意識することで、より相手をハッとさせ ることが出来ることが分かった」「体を使っ て表現する時には、どの活動でも4つの 崩しやねじり、床の使用、すばやく、超ス

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表7 第3時「ミラーの世界」学生の感想から抜粋した主な学びの内容

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ローの動きが基盤になる」「ミラーでも4 つの崩しが重要であると思った」「今まで の授業で学んだ『4つのくずし』や『変化 とメリハリ,動きの誇張』などのポイント は,様々な動きの中で,共通して重要なポ イントであると踊ってみて感じることがで きた」から,ミラーの世界においても4つ のくずしが重要なポイントとなっているこ とを捉えていることが分かる。  そして,「どこか不完全で非日常的なミ ラーの世界は動きを発信するリーダー側も 動きを真似する側もとても面白かった」「動 きを誇張して非日常の動きが多く出る,2 人が同じ動きや表情で動くなど,少しト リッキーな空間であったと感じる」「4つ の崩しや体のねじり,スローや素早い動き に,今回は『意外性』のある相手がハッと する動きを多く入れて動いた」から,「ミ ラーの世界」が,「トリッキーな世界」「非 日常の世界」「意外性のある動き」などの 魅力を持つ教材と捉えていると考えられ る。これらの学びの実感は,「気づき・実感」 での記述の内容からも読み取ることができ る。  その一方で,「難しさ・課題」を捉えて いる学生もいる。「どんな動きをしたらい いかをとても考えてしまって、同じような 動きしか出来なかった」「相手の動きをじっ くり見て,パッと真似をするのは難しいな と思った」「床や空間を最大限に使い、表 現するのは発想力もメリハリも必要だった ので難しかった」「ミラーの世界で,自分 にしかできない独自性のある動きがあまり できなかった」から,前回の対決とは異な る難しさを実感していることが分かる。「対 決」では,相手と対立したり対応したりす る動きの中で変化のあるひと流れの動きを 創り出しやすい特徴があったが,「ミラー の世界」では,リーダーとなった者が,自 分の力で「変化のあるひと流れの動き」を 創り出していくことになる。相手を困らせ てやろう,ハッとさせてやろうと面白がっ て取り組むことができればいいが,真面目 に考えてしまうほど,同じような動きに なってしまうことが考えられる。「遊び心」 を持って取り組むことも重要なポイントと なると思われる。 5.第4回「新聞紙を使った表現」  第4回の「新聞紙を使った表現」で学生 に提示した課題と主な活動の流れは以下の 通りである。 【課題】 新聞紙の多様な質感の動きを捉えて,全 身の動きで動きを誇張し,変化とメリハ リのあるひと流れの動きで踊ろう。 【主な活動の流れ】 1.リズムに乗って踊る。 2.新聞紙と遊ぶ(教師主導) 3. 新聞紙を使った表現のポイントをつ かみながら踊る。   (教師主導) 4. 2人組,4人組で「操る・なる」を 変えながら,新聞紙を使った表現を 即興的に踊る。(学生主体) 5.見せ合って感想を伝え合う。  1の「2人組,リーダーを変えながらロッ クのリズムに乗って踊る」活動は,毎時間 の導入に位置づけ,心と体をほぐすととも に,体幹部(おへそ)を意識しながら自由 に踊る力を確かなものにしていくことをね らっている。「慣れること」が確かな力に 繫がると考える。  2の「新聞紙と遊ぶ」では,新聞紙を持っ て走ったり,お腹につけて走ったり,投げ 上げた新聞紙が落ちてくるギリギリをくぐ り抜けたり,落ちてくる新聞紙を体のどこ かで受け止めたりして新聞紙で遊びなが ら、新聞紙のヒラヒラした感じや,様々に 形状を変えられる等,新聞紙の質感を捉え

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ることができるようにする。  3の「新聞紙を使った表現のポイントを つかみながら踊る」活動では,学生を座っ た状態で集合させ,教師が人型に破いた新 聞紙を操りながら言葉でリードし,その動 きを真似させる。腕や足,首などの体の部 分を,変化をつけながら動かし,1つの部 位を動かすと全体も連動して動いているこ とを強調して新聞紙になりきることを促 す。  次に1枚の新聞紙を操りながら同じよう に真似をさせる。新聞紙を張る,揺らす, ねじる,くしゃくしゃにする,とばす,な ど,可塑性に富んだ新聞紙の特徴を生かし て,多様な質感の動き,対極の動きを引き 出すことができるように指導する。このと きの教師の新聞紙の操り方は,その後の活 動で学生自身が新聞紙を操る活動場面に大 きく影響してくるところである。新聞紙の 動きを誇張し,繰り返しや対極の動き等に よって変化とメリハリのある動きを意識で きるように指導した。  このように「新聞紙を使った表現」の動 きのポイントを学ぶことによって,4の「2 人組,4人組で「操る・なる」を変えなが ら新聞紙を使った表現を踊る」活動で,学 生が主体となって表したい新聞紙を使った 表現の世界のイメージを思いつくまま即興 的に踊って楽しむことができるようになっ ていくと考えた。  表8は,「新聞紙を使った表現」での学 生の感想から抜粋した主な学びの内容の一 覧である。学生がこの授業で何を学んだの か,Aクラス,Bクラス合わせて見ていく。  「教材の魅力・ポイントとなる知識」で は,「新聞紙になりきるのは、力を抜いたり、 速く動いたり、ジャンプしたりと動きにメ リハリが必要だと感じた。その時も4つの 崩しを意識して取り組むことができた」「特 に空間のくずしがダイナミックな表現に大 きくつながるのではないかと思った」「4 つの崩しを意識しながら動くことで,より 深く表現できるようになり,初回から今ま で更にこれからの活動での学びが,ずっと 続いていくんだなと思った」から,新聞紙 を使った表現においても,変化とメリハリ, 4つのくずしが重要なポイントであること を捉えていることが分かる。  そして,「新聞紙になりきってみると、 できない動きや見たこともない動きをする ため、自分でも想像がつかない動きになっ た」「折られたり、丸められたり、破られ たり、人間の体では難しいようなことも表 現できた」「新聞紙の不規則な動きを真似 ることで、今までイメージができなかった おもしろい動きを発見することができた」 「自分ができる動きをするだけでなく,で きない動きをやろうとすることで,自然と 想像もつかない動きになると感じた」「手 の先からつま先までそれぞれバラバラに 使った表現は,今までで一番体全体を使い, 4つのくずしが意識しやすくて,指導する 側からは,すごく伝えやすいものだと思っ た」から,「新聞紙を使った表現」が,「で きない動きをやろうとするところに自然と 想像もつかない動きが生まれる」「今まで イメージできなかった面白い動きを発見で きる」「全身を使って4つのくずしを学べ る」などの魅力を持つ教材であることを捉 えていると考えられる。  その一方で,「難しさ・課題」を捉えて いる学生もいる。「今までのテーマの中で 1番難しく感じた」「新聞紙の軽さを,重 い身体の人間で表現するのは難しいなと 思った」「投げられて、ゆっくり落ちてきて、 どこかが折られていたり、浮いていたり、 想像できない動きをするのが難しかった」 「着地するときにヒラヒラしながら落ちて きたり,足が揺れたりするのを,どう身体 で表現すればいいのか分からなかった」

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表8 第4時「新聞紙を使った表現」学生の感想から抜粋した主な学びの内容

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 「新聞紙になりきるよりも新聞紙を操る 方が難しく感じた」から,新聞紙の動きの 形状や質感を直感的に想像して自分の身体 のイメージに繋ぐところが特に難しかった のではないかと思われる。このことは,細 川ら(2008)の研究で明らかにされた,そ の時,その場で身体で反応する力である「身 体イメージ能力」との関連から考えること ができる。ずっと見て踊ることができない 新聞紙の動きを,リードするものの言葉が けから想像し,それをその時,その場で身 体で反応する「身体イメージ能力」を発揮 することになる。新聞紙を使った表現は, 新聞紙の動きのイメージを想像して,それ を瞬時に自分の体の動きにしていくところ が難しいと思われる。このように考えてい くと,「対決」「ミラーの世界」「新聞紙」 という教材の順番は,動きをイメージしや すい順になっていると考えられ,「新聞紙」 が一番難しかったという学生の受け止めも 無理はないと考えられる。  また,「思ったより緩急をつけて新聞紙 を操ることができず,新聞紙で遊ぶ時にも う少し感覚をつかんでおくことが大切だ」 という指摘から,2の「新聞紙と遊ぶ」活 動の内容を,さらに新聞紙の多様な質感を 十分に感じ取れるような内容に工夫してい く必要があると思われる。 6.ダンスが嫌いだった8人の学生の「講 義を通して学んだこと」  全ての学生について「講義を通して学ん だこと」を,初回に書いた「私とダンス」 の内容と比較したいと考えたが,紙面の都 合上,ここでは,初回に「ダンスが嫌い又 は大嫌い」と書いた8人の学生について見 ていく。表9は,「ダンスが嫌い・大嫌い」 の学生の「講義を通して学んだこと」を抜 粋した一覧である。初回に書いた「ダンス と私」の内容も抜粋している。  8人の学生の記述から,表現系ダンスの 面白さや魅力に関する言葉を抜粋していく と,A 11 は「身体表現では何者にもなれ る」「身体表現の世界には正解はなく,だ からこそ楽しい」,A 23 は「何よりダンス をすることが好きになったことが一番成長 した部分」,A 33 は「授業でテーマは変わ るが,『動きを捉えること』『動きを誇張す ること』『変化のあるひと流れの動きで踊 ること』は決して変わらないのだと気づい た」,B 12 は,「授業を通して,本当の『表 現』とは何かを学ぶことができた」,B 23 は「恥ずかしさを感じずに思いきり動いて いると,踊るのがとても楽しいことに気づ くことができた」,B 34 は「動き一つで様々 な表現の仕方があることを学んだ」,B 39 は「我を忘れて踊ってみようと思い全力で 踊ってみると,大嫌いだったダンスが楽し くなってきた」,B 41 は「大きく動き,視 点が定まらないくらい思いっきり踊ること で,周囲の目が気にならなくなり,恥ずか しくなく楽しく踊ることができると分かっ た」等と述べている。これらの記述から, ダンスが嫌い・大嫌いだった学生たちは, 「こうすれば表現系ダンスを楽しむことが できる」という知識を得て,それを毎回の 授業で活用・応用していく中で,ダンスに 対する見方や考え方が変わっていったので はないかと考えられる。  なお,今回の研究では,Aクラス(37 人) とBクラス(40 人)を比較する視点から の分析は行っていない。実技前のダンスに 対する意識では,Aクラスの方が型のない ダンスへの苦手意識が強い傾向にあり,実 技の前半では,Aクラスの方がBクラス に比べて,全体的に動きがやや硬い印象が あった。ところが,実技が後半に入ってく ると,その違いをほとんど感じなくなり, 最終段階のオリジナルダンス創作において も,大きな差は見られなかった。このこと

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は,授業者の主観であり,学生の感想や動 きをクラス別に分析した結果ではないこと を申し添えておく。 Ⅵ まとめ  本研究では,表現系ダンスの授業におけ る「リズムに乗って踊ろう」「対決!」「ミ ラーの世界」「新聞紙を使った表現」の学 生の感想に着目し,指導者側が「学ばせた い内容」をどのように受け止めたのかを検 討した。本研究で明らかとなったことを, 以下の3点にまとめる。 〇「リズムに乗って踊ろう」では,「おへ そ(体幹部)を中心にリズムに乗る」「4 つのくずしで変化を付けて踊る」ことを, 「対決!」では,「体をひねって動きを誇張 する」「素早く,ストップ,超スローで速 さに変化をつける」「床を使って動きを連 続させる」ことを,「ミラーの世界」では, 「動きの誇張」「変化とメリハリのある連続 した動き」「4つのくずし」「説明的になら ない」ことを,「新聞紙を使った表現」では, 「体を極限まで使う」「新聞紙の様々な動き の質感を捉える」「移動を入れて動きを連 続させる」ことを学んだ学生は,リズムに 乗って自由に踊ったり,表したいイメージ を自由に踊ったりすることができるように なり,その楽しさを実感することができた。 〇難しさや課題を捉えた学生の記述内容か ら,「リズムに乗って踊ろう」「対決!」「ミ ラーの世界」「新聞紙を使った表現」は, 学習内容が易しい順に並んでいると捉える ことができた。 〇表現系ダンスで共通に学ばせたい主な内 容は,「体幹部のひねりや速さの変化を意 識した動きの誇張」「4つのくずしを生か し,対極の動きをもつ変化とメリハリのあ る連続した動き」であることが確かめられ た。 謝辞  本研究にあたり,授業記録の提供に協力 してくれた身体表現の指導法aクラス,身 体表現の指導法bクラスの学生達に感謝い たします。 引用・参考文献 1)相場了(2010)小学校表現運動の学習 指導 今を生きる子どもたち,pp20-29, アイオーエム. 2)細江文利(2008)今,学校体育は - 変わるもの変わらないもの-,女子体育 vol.50-1,pp6-17,(社)日本女子体育連盟. 3)細江文利(2010)ダンスの学び-「何 を」と「いかに」のパラダイム-,女子 体育 vol.52-3,pp10-13,(社)日本女子 体育連盟. 4)細川江利子・寺山由美・羽岡佳子(2007) 舞踊におけるクリエーション・スキルに 関する研究-現代舞踊家による即興表現 から作品創作への展開を事例として-, Research Journal of JAPEW Vol.24, pp.41-54. 5)中村恭子(2009)中学校体育の男女必 修化に伴うダンス授業の変容-平成 19 年度,20 年度,21 年度および 24 年度の 年次推移から-,(社)日本女子体育連 盟学術研究第 26 号,pp.1-16. 6)村田芳子(2015)多様なテーマからの 即興表現-表現への「その気スイッチ」 と「本気スイッチ」-,女子体育 vol.57-8・9,pp50-55,(公社)日本女子体育連盟. 7)村田芳子(2011)ダンスの特性と学習 指導,舞踊学講義,pp132-141,大修館 書店. 8)村田芳子(2014)踊りは文化!踊るも 文化!-踊る楽しさと身体表現の魅力,

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今こそ面白い表現運動の授業を!-,動 きの「感じ」と「気づき」を大切にした 表現運動の授業づくり,pp2-3,教育出版. 9)文部科学省(2013)学校体育実技指導 資料第9集 表現運動系及びダンス指導 の手引き,pp2-9,東洋館出版. 10)文部科学省(2017)小学校学習指導要 領(平成 29 年告示)解説体育編,東洋 館出版. 11)碓井節子・内山明子・殿谷成子(2012) 中学校・高等学校のダンス教育 動く見 つける創る,pp41-49, 60-69,晩成書房. 12)鈴木直樹(2014)動きの「感じ」と「気 づき」を大切にした体育授業-運動の意 味生成過程に着目して-,動きの「感じ」 と「気づき」を大切にした表現運動の授 業づくり,pp4-11,教育出版. 13)寺山由美・細川江利子(2011)表現・ 創作ダンスの学習における「即興表現」 の指導とその捉え方-実践を続けてき た4人の教諭に着目して-,Research Journal of JAPEW Vol.27,pp.21-38. 14)山崎朱音(2013)ダンス授業実践に向 けた実技研修の在り方-静岡県内中学校 教員のダンス授業の実施状況の把握を通 して-,静岡大学教育学部附属教育実践 総合センター紀要 21 号,pp73-81. 15)安江美保(2016)表現運動の指導者に 求められる資質についての一考察 -1 人の指導者の成長の転機に着目して-, Research Journal of JAPEW Vol.32, pp.17-33. 要旨  本研究では,表現系ダンスの授業の一部 分である「多様なテーマによる表現・基礎 編」を受講した学生の感想に着目し,学生 が,指導者側の「学ばせたい内容」をどの ように受け止めたのかを考察した。その結 果,「体幹部のひねりや速さの変化を意識 した動きの誇張」と「4つのくずしを生か し,対極の動きをもつ変化とメリハリのあ る連続した動き」を共通に学ぶことで,表 現系ダンスの面白さや魅力に触れることが できることが確かめられた。  また,表現系ダンスの基礎編として実践 した「リズムに乗って踊ろう」「対決!」「ミ ラーの世界」「新聞紙を使った表現」の4 つの内容が,易しい順になっていることと, この4つの内容に繰り返し出てきた共通の ポイントがあったことにより,より確かな 力を身に付けていったことを実感している 学生が,一定数いたことが確かめられた。

参照

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