完了報告書(3年目/最終)
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(2) <研究の背景と目的> 暮らしの保健室や日本看護協会によるまちの保健室事業等で代表されるように、住民の 身近なところで気軽に健康・生活の相談ができる場所があることの有用性は実証されてい る。全国各地にも地域密着型の相談室の活動が拡大し続けている。 各地域のニーズに基づいた相談室としていくために、そこでどんな方法を用いるのが有 用か、福井のまちの実際のニーズを調査し、福井型のモデルケースとなれるよう 3 年かけ て相談室のあり方を模索してきた。今後永くこのまちの人々子どもから高齢者までが住み 慣れたまちでより自分らしく暮らすことをサポートできる場所となるよう取り組むことを 目的とし、2013 年 7 月相談室開設。 1 年目は、まずは相談室を開設し、地域のニーズを探りながら様々な世代へのアプロー チを試してきた。2 年目には近隣コミュニティとの繋がりを強化した活動により、地域住 民によるボランティア協力が得られたり、近隣の高齢者の利用が増えたりと、運営面・利 用面での変化も出てきている。3 年目の活動としては、住み慣れた場所で相談室を上手く 活用し、地域の方々が生活圏域で利用していくために、地域でこのような相談室が他にも 拡がっていくことを目標に活動した。. <研究方法> 地域の人に寄り添う場所づくり、 アウトリーチ、 地域との繋がりづくりの3つの柱とし、 相談室における活動を展開。 1)寄り添う場所づくり ■開設場所:福井市中心部、福井駅前に開設。商店街の空き店舗を利用。 営業時間:1 年目:月∼金 10:00∼15:00、2 年目:月・水木金 12:00∼17:00、火のみ 10:00∼17:00、3 年目:月∼金 12:00∼17:00 に営業時間を変更。 ■その他:医療・介護の相談だけでなく、どこへ相談したらよいのか分からないことや、 本人だけでなく家族の相談なども受けられるようにした。健康相談の他、血圧などの健康 チェックや、ひとやすみなどでも利用できることを呼びかけ、気軽に入りやすい場所づく りに努めた。また、利用者としてだけでなく、ボランティア・協力者としてこの活動に参 加する人達の居場所としての機能も重視した。 ■ボランティアとの連携:2015 年 1 月から 1 名、2015 年 7 月より 1 名、地域住民によ るボランティアスタッフが定期介入。ボランティアスタッフとの共有・連携を重要視し、 月 2 回の定期的なミーティングを開催した。.
(3) ■スタッフのスキル向上:常駐するスタッフとして看護師を中心に、栄養士・薬剤師・介 護福祉士、ボランティアスタッフを配置。各スタッフの視点で地域ニーズについて意見交 換し、それぞれの対応能力向上や必要な情報収集を目標に、勉強会や他の相談室視察・研 修会への参加等を強化した。各スタッフの得意な分野をさらに伸ばせるよう、少人数でそ れぞれの研修に参加し、定期的なミーティングの中で、研修での学びを共有する機会を持 った。. 2)アウトリーチ 地域の人々が、健康課題について考えたり取り組んだりするきっかけを作ることを目的 に、地域へ出向く活動を行った。 ■ 近隣の自治体を中心とした出張活動 出張健康相談会、健康講座、救護班、ワークショップなどの形で活動。地域住民に向けた 健康情報の発信を試みた。 ■ 近隣コミュニティへの巡回 イベント的にではなく、普段の活動として、来室者の少ない時間帯などに、近隣の高齢者 が集まるコミュニティカフェや商店街の店主、よろず茶屋などに巡回・出張する活動を継 続した。日常的に顔の見える関係を構築できるよう試みた。. 3)繋がりづくり 今後も相談室を継続していくために、相談における連携強化や相談室の担い手の育成など を目的に、繋がりづくりに取り組んだ。 ■ 関わる人を拡げる活動 出張活動や日々の活動で、訪れる人々にボランティア等の活動協力を呼びかけた。地域住 民の持っている特技に注目することや、介護予防の視点で地域のキーパーソンに声かけを 行った。 ■ 学生サークル支援 2014 年5月より、多学科・多世代交流を軸とした学びの場として活動したいという医学 生に、サークルの設立・運営に関するアドバイザーとして介入。 「まちづくり」の視点で地 域を支える様々な分野の人々と繋がることを目的とし、イベントや勉強会・交流会を開催 しながら活動の方向性を模索。2016 年5月より、学生たちによる相談室開所日を持ち、 より幅広い世代で利用されることや多世代交流が進むことを期待した。.
(4) ■ 行政・関係機関との繋がりづくり 活動の実績や、新事業の情報収集などを積極的に行い、相談室を継続していくための支援 や仕組みに繋がる情報交換を行った。 ■ 他の相談室との連携 同じように地域で相談室を作りたいという個人・団体と連携した。相談室開室における支 援として、こちらの活動の情報提供や助言・スタッフ交流を行った。また、開室後もスタ ッフ間の意見交換・交流を図った。. <結果・考察> 1) 寄り添う場所づくり 開設から 3 年の間に、何度か営業時間の変更を重ねてきた。開設時はどうしたら相談者 が利用しやすいかを意識して手探りしてきたが、 「相談室」は、いざという時だけでなく日 常的に利用しやすい場所であることが大切であり、利用者は「相談がある人」に限らず、 「地域での助け合いの暮らし」に関心がある人すべてであると考える。ここを運営するス タッフ、ボランティア、活動を気にかける近隣住民などすべての人にとって、意味のある 場所となれるよう意識し、3 年目の活動に取り組んだ。 ■利用状況 3 年目の延べ利用者数は 1513 人であった。主な利用目的について、3 年間を比較する と、2 年目 3 年目の利用種別の各割合は類似しており、相談室開設 2 年目より、地域住民 への周知効果が見られ活動が定着したと考える。 相談は約 3 割程度であり、利用する人の約半数はちょっとひとやすみに気軽に立ち寄って いる。 (図1) ひとやすみにふらっと立ち寄った人は、相談室のスタッフやボランティア、他の来室者と の会話を楽しむ人もいれば、資料や書籍を手にとって静かに過ごす人もいる。 まず最初に相談をという人の方が少なく、ひとやすみしながら会話する中で専門職や誰か に聞いて欲しい話題へと移行していく場合が多い。相談室を地域に開かれた場所とし、こ こを訪れる人と顔なじみの関係を作っていくことが重要であると考える。.
(5) 利用種別 26%. 6%6%. 2%6%. 30%. 32%. 6% 15%. 21%. 2013年度. 50%. 8%. 35% 46% 11%. 2014年度. 2015年度. 相談・チェック 見学 ひとやすみ 取材・打ち合わせ その他. 図1 利用種別 年代別に利用者数をみると、学生から高齢者まで幅広い年代の人が利用しているが、主 な利用目的(図1)同様、2∼3年目は利用者の割合も類似し、特に高齢者の利用割合が 高かった。 (図2) これは、2 年目より力を入れて行った、近隣コミュニティ巡回の効果と考える。近隣の高 齢者の集まる場所(コミュニティカフェやよろづ茶屋等)に時々出向き、関係づくりをし ていく中で、出会った高齢者やその知り合いなどの利用に繋がっていった。関係ができて くると次第に、高齢者は相談・ひとやすみで利用するだけでなく、相談室花壇の手入れや 農作物の差し入れ、他の訪れる人の話を聞くなど、様々な形でこの活動を支援もしてくだ さる方も増えてきた。正式に「ボランティア」として活動するのではないが、このように 相談室の運営に関わる住民の存在意義は大きく、私たち専門職が得意な専門知識で地域貢 献をしようとするのと同様に、相談室では関わる人すべてが自分の得意な分野で誰かの力 になりたいと願い、それを発揮することで地域での助け合いが可能になると感じている。.
(6) 図2 年代別利用者数. 枝豆やサツマイモの差し入れ。地域の方とともに収穫作業をしながら交流。. ■ 相談内容 相談および健康チェックについて、3 年目は 376 件であった。その内容は身体的なもの から心理・社会的なものまで幅広く、また、それぞれが複雑に関連している。図3は、主 な相談だったものについて分野を選択し集計している。.
(7) 相談内容 からだ こころ 暮らし 連携・サービス 0. 40. 80. 120. 160. 200. 240. 0. 40. 80. 120. 160. 200. 240. 2014.11∼2015.7. からだ こころ 暮らし 連携・サービス. 2015.8∼2016.7. 図3 相談内容 相談内容としては、 「からだ」 「暮らし」の割合が高い。利用する年代は、図2に示した ように、高齢者が最も多く、次いで 20∼30 代の若年層だったが、相談内容は世代間での 違いはなく、どの世代においても、 「健康」に関する話題を切り口にし、そこから「病気や 障害」をどうするのかではなく、それも含めて「暮らし」にどう向き合うのかをともに考 える場面が多かった。 また、若年層の利用者の多くは、精神疾患を持つ人であった。症状の波に関する相談もあ るが、将来設計や就学・就労といった暮らしに関する話題も多く、相談室側の、他機関と の連携や情報収集も特に必要となっていった。その際、私たちスタッフだけでなく、利用 者とともに情報を集めたり連携先を訪問したりと、共同で進めていくよう心がけ、利用者 主体で解決に向かっていけるよう意識して関わった。. ■ 対応 相談に対しての対応は、 「傾聴」の割合が増えている。 (図4) 2 年目の報告書においても述べているが、 「助言」 「連携」の割合が低めであり、各スタ ッフの知識やスキル・持っている繋がりも含めて対応力を向上させていくための取り組み を強化していくことを課題としてきた。 今年度は、各スタッフの得意な分野をさらに伸ばせるよう、少人数でそれぞれの研修に参.
(8) 加し、定期的なミーティングの中で、研修での学びを共有する機会を持った。中でも特に、 「がん相談支援」 「精神疾患を持つ人の地域活動」 「生活習慣・食支援」に力を入れて、各 スタッフが研修等に参加し、学びを共有した。これらは、 「暮らし」に重点をおくなかで、 来室者による相談対応において、スタッフ達が特に必要だと感じた分野である。 各スタッフのそれぞれの強みを大切にすることで、来室者に必要な情報・対応が可能にな っていった。多職種が当番制で相談室を開けているので、相談内容によっては専門スタッ フが対応するのが良いと判断し別の曜日に改めて訪れることを進めることもした。この対 応でよかったのだろうかと戸惑った時も、スタッフ間での強みを活かしたフィードバック も習慣化していき、相談室に出るスタッフのモチベーション維持にも効果が出てきたと感 じている。 また、研修だけでなく、地域で様々な取り組みをしている施設の見学にも力を入れた。実 際に見学し、その施設のスタッフと交流することで、相談者への情報提供もより具体的に なったと実感している。 みんなの保健室では、 「傾聴」を通して来室者が自分で解決方法を見つけたり、意志決定 したりしていくことを大切にしてきた。しかし、 「連携」の割合が伸びていないことについ ては、私たちスタッフが連携先と顔の見える関係を築き、自分達の目で確認してきた具体 的な情報を相談者に提供することで、相談者自身が自分のタイミングで次の窓口へ出向い たり、選択したりすることも多く、スタッフが直接介入する機会は最小限となっているか らだと考える。また、こちらから繋ぐ連携だけでなく、地域の様々な機関から相談室へ繋 がれることも増えてきている。 例えば、急性期病院で癌で亡くなった患者の家族のグリーフケアを病棟看護師より当相談 室へ引き継がれたり、地域の精神疾患を持つ人の就労支援施設より利用者の生活リズムづ くりのために活用できる場所として紹介されたりと、様々な場所から繋がれてきている。 地域の相談室は、専門的な支援と生活を繋ぐ役割があり、この相談室ですべてを解決する のではなく、本人の持っている力を活かし自身で選択できるよう、少しの助言と見守りで 伴走していくスタンスなのではないかと考える。.
(9) 対応内容 19%. 13% 4%. 22%. 8%. 23%. 61%. 51% 2014.11∼2015.7. 2015.8∼2016.7. 助言 傾聴 連携 その他 図4 対応内容 2) アウトリーチ 近隣自治体を中心とした出張活動が年間行事として定着し、3 年間で毎年連携すること ができるようになった。単発の出会いではなく、恒例行事に参加していくことで近隣住民 との交流も深まっていると実感している。近隣自治体だけなく、その他の出張依頼も積極 的に受け、県内外様々なところに出向いた出張活動の周知効果は大きく、行政との共催イ ベントも定着してきた。 (表1) 任意団体である当相談室が、行政との共催イベントに参加することで、地域住民の安心感 も得られるようになり、日常での利用促進にも繋がったと思われる。また、当相談室のス タッフも行政の専門スタッフ(保健師や栄養士等)との交流も持て、相談室での対応に迷 ったときや専門情報をもっと得たいときにも、連携することが増えて来た。行政との連携 は、相談室を運営する側にも、利用する側にもメリットがあると感じている。 私たちの出張活動は、 相談だけでなく、 テーマを設けたワークショップや健康チェック、 健康講座の他、救護班など様々な形で展開してきた。3 年間を通して感じているのは、イ ベント型の出張活動は出会いの場に過ぎず、地域の日常に溶け込んで馴染みの関係を築い ていくためのひとつのツールだと考える。 「相談」や「健康チェック」が健康不安が大きい人が関心を寄せる傾向があるため、利用 する人の幅は狭まりやすい。出前講座に関しても「認知症」や「ロコモティブシンドロー ム」など、病気や障害に関する依頼を受けることが多いが、医療機関ではなくまちなかに 開設した相談室であるからこそ、もっと暮らしに近い話題をテーマを用いて地域の日常に 溶け込もうと試みた。テーマとしては「食事」 「排泄」などに力を入れることで、対象も子 どもから高齢者までより幅広くなることを実感した。.
(10) 目の前にある不安・困難を解消するために相談室を利用するだけでなく、毎日を丁寧に過 ごすために自分達にできることを見つけていくことを皆さんと考える機会として、今後も 開催していきたいと考えている。 表1 出張活動実績. 出張活動のスタイルは様々。子どもから高齢者まで幅広く対象に。 3) 繋がりづくり 今後も相談室を継続していくために、自分達が情報・知識や連携先を増やすことの他、 同じように地域で相談室を作りたいという個人・団体との情報提供・交流を積極的に図っ た。 (表 2) その結果、県内に3つの相談室が今年度新たに開設に至った。また、さらに1つの団体は.
(11) 来年度を目標に開設準備中である。 3 年前に当団体が県内で初めて地域に相談室を開設したところ、近隣住民だけでなく、 遠方から訪れる方もいた。暮らしに寄り添った相談室となるには、やはり利用する人の暮 らしに近い場所が理想である。集計結果を見ると、当相談室における利用者数は前年度よ りやや減少しており、当相談室を訪れた人に対して、その人の住まいに近い場所の別の相 談室を紹介したケースも増えている。近くにあることで馴染みの関係も築きやすく、気軽 に利用もしやすくなると考えられる。 新規開設に当たっては、どのような相談が多いか、どう対応するのか、どんな情報を持 っておくべきか、どんな連携事例があるか、どのように運営を継続していくか等、運営側 も皆何らかの不安を抱いていることが多かった。それに対して、当相談室はこの3年間の 経験をもとに情報提供し、開設後も意見交換しながら交流を図っている。次年度には、共 同で出張活動も予定している。 新設された相談室はそれぞれ得意とする分野が異なり、地域の相談室同士で互いに交流・ 意見交換していくことができるのは当相談室にとっても心強く、それぞれが強みを活かし た活動が広がっていくことが今後期待される。 表2 開設支援実績. 新たに開設された各相談室の様子。 地域特性に合わせ、 その雰囲気も活動の内容も様々。.
(12) <まとめ> 今後永くこのまちの人々子どもから高齢者までが住み慣れたまちでより自分らしく暮ら すことをサポートできる場所となるよう取り組むことを目的とし、2013 年 7 月相談室開 設し、3 年間活動してきた。 まずは開設するところから始まり手探りの連続であったが、訪れる人や相談ケースから学 ぶことは大変多く、徐々に連携先の拡大、運営を継続するにあたって必要な資源集めと活 動の幅が広がっていった。また地域住民との繋がりを大事にし、積極的に赴く活動を重ね ることで、馴染みの関係も築き始めている。馴染みの関係を築き、よく話ができる(きけ る)場所であることが、地域の相談室としてとても重要だと感じる。 最後に課題としては、運営継続のためのビジネスモデルと、データ集計・評価のあり方 がある。 運営継続のビジネスモデルとしては、医療の敷居をさげた無料の相談室単体では継続は困 難である。行政によるバックアップや他の助成、NPO法人化なども視野に入れて情報収 集や繋がりづくりもしてきたが、現時点ではまだビジネスモデルが確立できていない。今 後は、栄養ケアとしての飲食提供や訪問看護などで運営をカバーしていくことを検討して いきたいと考えている。 データ集計・評価のあり方としては、 地域の方々を巻き込んだ相談室となっていくことで、 居場所機能を持つことやボランティアによる相談室活動への参加によって、どこまでが利 用者か、どこまでが相談か等の境目がつけにくく、利用状況をデータ化することが難しか った。利用者であり且つ担い手であることは、 「地域の相談室」が地域包括ケアシステムに おける仕組みのひとつとして可能性があることを示すと考えられるが、この仕組みをどの ように評価するかは、今の自分にはまだ分からない。2025 年に向けて急激に全国に広が るこの相談室活動が、ともに繋がって、指標とする共通の何かを持ち、それを形にしてい けるとよいのではないかと考える。そして今後も他の相談室とも連携し、お互いの強みを 活かしながら、専門職として地域住民との伴走をしていきたい。. 公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成による.
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