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ラット摘出灌流心におけるドパミンの心筋内高エネルギー燐酸代謝に及ぼす影響

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原 著 〔東女医大誌 第57巻 第12号頁1676∼1685昭和62年12月〕

ラット摘出灌流心におけるドパミンの心筋内高エネルギー

燐酸代謝に及ぼす影響

東京女子医科大学 循環器内科学教室(主任

ウチダ タツロウ

内 田 達 郎

八沢総七郎教授) (受付 昭和62年8月21日)

The E鉦ect of Dopamine on Metabolism of High Energy Phosphate in the Perfused Rat Ilearts

Tatsuro UCHIDA

Department of Cardiology(Director:Prof. Koshichiro HIROSAWA)

Tokyo Women’s Medical College

The effect of dopamine(DOA)on metabolism of high energy phosphate(HEP)in the isolated Langendorff perfused rat hearts were investigated using high performance liquid chromatogra−

phy rnethod.

In untreated control rats, at normal perfusion pressure, HEP was well preserved in oxygenat−

ed(Po2>290mmHg)perfusion, but serially reduced with hypoxic perfusion(Po2<180mmHg). At low perfusion pressure, HEP gradually returned to normal only in highly oxygenated(Po2= 480mmHg)perfusion and serially reduced with hypoxic perfusion(Po2<290mmHg). In DOA−

treated rats, compared with untreated control rats, at normal perfusion pressure, HEP was

preserved only in highly oxygenated(Po2=480mmHg)hearts, but more reduced in hypoxia

perfused(Po2〈290mmHg)hearts. At low perfusion pressure, HEP was exhausted even in highly

oxygenated hearts(Po2=480mmHg).

DOA might be hazardous to ischemic or hypoxic myocardium because the increase of energy demand by DOA can exacervate HEP depletion in such n1εtabolically leopardized myocardium.

はじめに 近年,虚血性心疾患患者が心不全・心原性ショッ クに陥った際,ドパミン・ドブタミン等のカテコー

ルアミンを使用する機会が極めて多いが,カテ

コールアミンによる心仕事量の増加に伴う心筋酸 素消費量の増加は,心筋虚血を増悪することが予 想される.本研究では,Langendorff法によるラッ ト摘出灌流心を用いてドパミンの虚血心筋に及ぼ

す影響を検討した.Langendorff法による摘出灌

流心の高エネルギー燐酸代謝に関する報告は多い が,灌流開始後の高エネルギー燐酸ならびに心筋 内カテコールアミンの経時的変化を追跡したもの は数少ない.摘出灌流心という特殊な条件,すな わち神経性ならびに体液性因子の支配を受けない 摘出心臓標本での高エネルギー燐酸代謝や心筋内 カテコールアミンの経時的変化を把握しておくこ とは,この方法を用いた研究を進める上で極めて 重要である.本研究では,まずラット摘出灌流心 を用いて,心摘出直後から灌流開始後15分までの 高エネルギー燐酸の経時的変化を二流圧,灌流液

中の酸素分圧の2種の条件を様々に組み合わせた

下で検討した.すなわち低酸素状態(冠灌流量は 正常であるが,酸素の欠乏した状態)ならびに虚 血状態(酸素含量は正常であるが,冠灌流量の低 一1676一

(2)

下した状態)の心筋エネルギー代謝に及ぼす影響 を高エネルギー燐酸の測定から検討した。次に同 様の島流条件下で,ドパミンを灌流液中に持続的 に注入し,高エネルギー燐酸代謝の経時的変化を 追跡し,ドパミンの虚血心筋に及ぼす影響を検討 した. 実1験方法 1.摘出心灌坐法

30∼45週齢のウイスタ一系雄性ラット137匹を

用いた.実験は,表1の如く正常三流圧系,低灌

流圧系のそれぞれで,自流液の酸素分圧を変化さ せた条件下で行ない,心筋内アデニンヌクレオチ ドの変化を検討した. 灌流液はKrebs−Henseleit bicarbonate緩衝液

を用い,95%02群では95%02十5%CO2,50%02

群では50%02十45%N2十5%CO2,20%02群では

20%02十75%N2十5%CO2,0%02群では95%

N2十5%CO2の混合ガスで下流液を飽和した.

各々の条件での灌涙液の酸素分圧は,477.5±

11.1, 290.3±10.4, 177.2±14.3, 41.6±6.1

mmHgであった.

i頚椎を脱臼後,速やかに開胸し心臓を摘出し,

4℃に冷却した灌流液中で上行大動脈にエラス

ターを挿入固定した.さらに心尖部および右心房 に針電極を装着し,心拍数250/分,灌流事は37℃

で80cmもしくは20cm水柱圧で灌流を開始し,5

分間,15分間灌流したものについて測定試料を得

た.頚椎脱臼から灌流開始までの操作を3分∼4

分以内に行った. さらに正常灌流圧系,低廉流圧系の各々で,ラッ 表1 本研究における各実験条件 ①正常灌口写系 ドパミγ非投与群 95%02群 50%0、群 20%0,群 0%02群 (80crn水柱圧) 計50匹 17匹 9匹 10匹 14匹 ②低灌流圧系 (20cm水柱圧) ドパミン非投与群 95%0、群 50%02群 20%02群 0%02群 計38匹 8匹 10匹 8匹 12匹 ドパミン投与群 計19匹 95%02群 6匹 50%02群 7匹 0%02群 ドパミン投与群 95%02群 50%02群 6匹 計23匹 9匹 6匹 0%02群 8匹 ト各19匹,23匹を用い,95%02群,50%02群,0% 02群で灌流開始と同時に塩酸ドパミン(イノバン ⑧)をインフュージョンポンプを用い,3μg/minの 速度で注入し,心筋内アデニンヌクレオチドを検 討した. また,ベントバルビタール麻酔後に直ちに心摘 出をしたもの3匹,頚椎脱臼法により摘出した心

臓を4℃灌流雨中に4分間放置したもの4匹(灌

流開始時の値とした)についても,心筋内アデニ ンヌクレオチドを測定した. 2。生化学的検索法 灌流終了後直ちに液体窒素中に入れ,破砕,凍

結した心筋を心筋100mg当たり6%過塩素酸1ml

の割合で加え,氷水中でポリトロンホモジェナイ ザーで30秒間ホモジェナイズした.これを0℃, 3,000回転,10分間遠沈し上清の一部をカテコール アミン測定用試料とし,一部は10%炭酸水素カリ ウムで中和後,高エネルギー燐酸測定用試料とし た.一部の心筋は110℃の電気炉内に24時間放置し 乾燥重量:を求め,測定値を心筋1g乾燥重量当たり に換算して示した.

高エネルギー燐酸は高速液体クロマトグラ

フィー法により測定した1).カラムはTSK gel

DEAE2SW(25cm×4mm)を用い,15%CH3CN

を含む150mM燐酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)

で溶離した.アデノシン1燐酸(AMPと略),ア

デノシン2燐酸(ADPと略),アデノシン3燐酸

(ATPと略)の各々について吸光度から秤量し, クロマトコーダー11(システムイソスツルメンツ

コーポレーション)で記録された面積を1mM当

たりに換算し,実試料の定量に用いた.測定した AMP, ADP, ATPの総和を求め,総アデニンヌ

クレオチド(以下TANと略す)として示した.

クレアチニン燐酸(CPと略)はLohman反応を利

用し,反応後のATP量を上述の高速液体クロマ

トグラフィー法により測定した.

カテコールアミンは高速液体クロマトグラ

フィー法および電気化学検出器(ECD)を用いて 測定した2).カラムはODSカラム(BAS)を用い,

50μMEDTA,325μM SOS,500μMトリエチル

アミンおよび4.5%CH3CNを含む150mMクエン

1677一

(3)

酸緩衝液(pH=2.92)で溶離し, ECDでの反応を クロマトコーダー11に記録した. 3.電子顕微鏡による心筋内微細構造の検索 灌流終了後の心筋を6.5%glutal aldehydeで固 定後,1%OSIni㎜で二重固定し,アルコール溶液 で型の如く脱水し,Quetol 653に包埋した.その 後,超薄切片を作製し,酢酸鉛,酢酸ウランで染 色後,HV−12A型電子顕微鏡で観察した. 4.統計処理法

各回の有意差検定にはStudent’testを用い

た.測定結果はすべて平均値±標準偏差で示した. 結 .果 1.高エネルギー燐酸の経時的変化 ペソトパルビタール麻酔後,直ちに心摘出をし た群,頚椎脱臼後,種々の条件下で灌流した群の

高エネルギー燐酸の測定結果を図1∼8に示す.

AMP

μmol/g dry welght

20 15 10 5 20 15 10 P<0.01 ロ くむロの

、輝・

直後0 5「15’ ADP P禽01 王

王王

二王 L」 L」 Pく0.005P〈0.05 王 20 15 10 5 直後0 5「15「 ATP

王画

P占.01 40 30 20 10 直後0 5’15’ TAN 『≦蝉

轡王王

20 15 ロ L一」P<0・0510 Pく0.005 5 直後0 5’15’ P≦9・911

]Pく0.01 Pく0.005

軍 Pく

艪k

直後0 5「15’ ●ドパミン非投与群 Oドパミン投与群 図1 正常灌流圧系95%02群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化 CP AMP

μmol/g dry weight 20 15 10 5 P禽05 軍王 20 15 10

・王,

P置

直後0 王,薯。.。2 5’ 15’ ADP P黙01 王王二丁王王 20 ATP 40

瓶王1・・

10 5 直後0 5’15’ 20 響0 直後0 5’157 TAN 20

王王王杢凱

10 5 直後0 5’15’ P焦oo 【 P<0.005憲

P測05

/王

直後0 5’15’ 図2 ■ドパミン非投与群 σドパミン投与群 正常灌流圧系50%02群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化 一1678一

(4)

なお頚椎脱臼後,4分間灌流液中に放置した群を

灌流開始時の値として示した.

摘出直後のAMP, ADP, ATP, CPは各々

3.16±0.39, 8.89±1.00, 17.05±1.77, 11.17± 0.29μmol/g dry weightであったが,灌流開始時

にはCPは2.50±2.24μmol/g dry weightと著明

に低下し,ADPは11.21±0.49μmol/g dry

weightと増加したが, ATP, AMPには有意な変

化がなかった.

1)正常灌流圧系におけるアデニ.ンヌクレオチ

ドの経時的変化

95%02群(図1)のDOA非投与群では, ATP

は摘出直後17.05±1.77μmol/g dry weightで灌

流15分後まで有意な変化を示さなかったが,CP

は灌流開始時の2.5±2.24μmol/g dry weightか

ら5分後には23,11±1.57μmol/g dry weightと

摘出直後よりさらに高値を示した.AMP, ADPは

それぞれ灌流開始時の4.71±0.73,11.21±0.49

μmol/g dry weightから5分後に,2.55±0。52,

8.30±0.50μlnol/g dry weightと有意に減少し

た.一方,DOA投与群では5分後でAMP, ADP,

ATP, CPの各々がDOA非投与群に比べ高値を

示した.

50%02群(図2)のDOA非投与群は95%02・

DOA非投与群と類似した経時的変化を示した.

それに対しDOA投与群は95%02・DOA投与群と

は異なる変化を示した.すなおち,CPが灌流5分

後で,4.61±3.07μmol/g dry weightと極端に低 値を示し,15分後でも13.60±6,70μmol/g dry

weightと低値であった.また, AMPは5分後よ

AMP

μmol/g dry weight 20 15 10 5 P測005 20 15 10 王王

王 5

至 ADP Pく0.01 Pく0.001 「一 「一 王王

王 王

20

・王}

10 5 ATP Pく0.05

P<0.001

王 王 40 30 20 10 TAN 20

P餌01

王H 15

王1。

5 CP Pく0、005

1王

直後0 5’15「 直後0 5 ,5「 直後0 5’15’ 直後0 5’15’ 直後0 5’15’ 図3 正常沙流圧系20%02群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化

AMP

μmol/g dry weight

20 15 10 5 P≦9・12 王

lI

二王

至 Pく0.005

直後0 515’ 20 15 10 5 ADP P陥。亨 王 20 王王・ 1。 ,._王難・

ATP

∴王王樺

直後0 5「15‘

直後0 5『15’ 40 30 20 10 TAN

ρ「騨

王王王互 王至 P妃。。5 直後0 5F 15’ 20 15 10 5 CP P陣oo5 至 王二幅 直後0 5’15「 ●ドパミン非投与群 oドパミン投与群 図4 正常’灌流圧系0%02群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化 一ユ679一

(5)

り6.41±0.45μmol/g dry weightと増加してい た.ATPは有意の変化を示さなかった.

20%02群(図3)・DOA非投与群ではATPは

経時的に減少し,15分後には6.45±1.90μmol/g

dry weightと95%ならびに50%02・DOA非投与

群と比して明らかに低値であった.CPは灌流5

分後,15分後のいずれも低値であった.AMPは経

時的に増加したが,TANは灌流15分後に21.41±

1.76μmo1/g dry weightと5分後に比べて有意に

減少を示した.

0%02群(図4)ではDOA非投与群でATPは

20%02・DOA非投与群と同様に経時的に低下し,

CPも一流5分後,15分後には各々1.69±0.83,

1.01±0.93μmol/g dry weightと著明に減少し

た.AMPに関しては15分後に8.81±3.19μmol/g dry weightと有意の高値を示した. DOA投与群

では,ATPはDOA非投与群に比べ更に低値を示

し灌流5分後,15分後には各々8.72±1.51,1.33± 0.29μmol/g dry weightとなった. CPはDOA非 投与群と同様の低値を示した.

2)低一流圧系におけるアデニンヌクレオチド

の経時的変化

AMP

μmol/g dry weight 20 15 10 5 20 Pく0.02 1曽曹一曹I P〈0.01 「一一一! 15 杢 10 玲乏・…1

蚕IL王5

P<0・025」一Pヒ0.001 直後0 5’15’ ADP P倒01 王王王杢王1 直後0 5「15’ 20 ATP ::王王王王 5 P〈0.05 40

王 30 く

120

王 10 L一_l P<0.005 直後0 5’15’ TAN 20 王子王互角王朽 10 5 直後0 5’15’ P禽005 P瞥00菅 cP Pく0,001 董 王王至 直後0 5’1r ●ドパミン非投与群 Oドパミン投与群 図5 低灌流圧系95%02群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化

AMP

μmol/g dry we{ght

20 15 10 5 P測02 20 15 10 王杢王。

王 5

互 直後0 5’15’ ADP 20 ATP

∴1:糧

5 直後0 5’15’ 40 30 20 10 直後0 5’15’ TAN P陣005 20

王王㌔価

10 5 直後0 5715’ CP P陣005 箪 王互王王 直後0 5’15’ 図6 ●ドパミン非投与群 Oドパミン投与群 低灌流圧系50%0,群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化 一168G一

(6)

95%02群(図5)では,DOA非投与群で5分後

のATPは減少傾向にあり, CPば2.33±1.25

μmol/g dry weightと低値のままで, AMPは 6.86±0.92μmol/g dry weightと増加していた.

しかし15分後にはATPは15.29±0.68μmol/g

dry weight, CPは21.65±4.06μmol/g dry

weightと回復し,AMPも4.09±0.91μmol/g dry

weig壌に減少していた.一方, DOA投与群では灌 流15分後のATP, CPの回復を認めず, ATPは経

時的に減少し15分後では7.45±1。85μmol/g dry weight, CPは2.36±0.88μmo1/g dry wdghtと 低く,AMPは9.49±0.74μ1nol/g dry weightま で経時的に増加した.

50%02群(図6)ではDOA非投与群でATPは

経時的に減少しCPも低値のままで前述の95%

02群のような変化は示さなかった.一方,DOA投

μmoソg dry wt 20 15 10 5

AMP

P測001

王亙

亙 王 20 15 10 5 ADP P陣01

王王王王

20

価王土

10 5

与群はDOA非投与群の各時間帯のアデニンヌク

レオチド値と有意差を認めず,DOA投与の影響

がみられなかった.

20%,0%02群(図7,8)ではDOA非投与群

でATPは経時的に低下を示し, AMPが増加を

示した.0%02群のDOA投与群とDOA非投与群

間における各時間帯のアデニンヌクレオチド値は 前述の50%0、群と同様,有意差を認めなかった. 2.心筋ドパミンについて

摘出直後の心筋DOAは各々0.13±0.04μg/g

dry weightであるが,灌流開始時には,0.04± 0.004μg/gdry weightと明らかに低下していた. 灌流開始後は,灌流圧,灌流液酸素分圧を変化さ せても,明らかな傾向をもった変化は認められな かった.

DOA3μg/min投与群では,各群においてDOA

ATP 40 P〈0・005 30

王 20

10 TAN 20

王王国王15

10 5 P陣005 竃 CP 至 亙 直後0 5’15’ 直後0 5’15’ 直後0 5「15’ 直後0 5’15’ 直後0 5「15’ 図7 低灌流浪系20%02群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化

AMP

μmol/g dry wt 20 15 10 5 Pく0.025 「冒一一一i 王三王王

,毛

P<0.02 直後0 5’15’ 20 15 10 5 ADP Pく0.01P<0.05 「一一「 「曽一「 20 15

王噴王・

直後 0 5“15’ 5 ATP

王王王1 P冒.02 直後0 5’15’ 40 30 20 10 TAN 20

医王王至当P

P冒.。5 10 5 直後0 5’15’ CP P漕005 ■ 王至王 直後0 5「15’ 図8 ●ドパミン非投与群 Oドパミン投与群 低灌流圧系0%02群における心筋アデニンヌクレオチドの経時的変化 一1681一

(7)

は経時的に増加しており,15分後には摘出直後と

比べると39∼51倍,灌流開始時と比べると

125∼164倍に増加していた. 3.電子顕微鏡による心筋内微細構造の検索 正常灌流圧系95%02群の心筋電顕所見は,正常 構造を示しており,グリコーゲン穎粒も豊富に認 められた. 低灌流圧系95%02群(写真1)ではミトコンド

リアの極く一部にcristaeの破壊, matrix density

の淡明化を認めるが,なお多くのミトコンドリア は正常構造を示し,その他の細胞内小器官構造に も変化を認められなかった.

低直流圧系0%02群(写真2)では低温流派系

95%02群と比べ障害されるミトコンドリアの数

も増加していたが,A帯,1帯各種bandには異常

を認められなかった.グリコーゲン穎粒は低灌流

1胎鰐響’ 嚢竃欝

写真1 低温流圧系95%02群における灌流15分後の 電子顕微鏡像(×10,000)

晦ゴ鰍

晦講 マ

「 顯 写真2 低灌制圧系0%02群球面15分後の電子顕微 鏡像(×10,000) 麟.

騨購

難∴

瞥・:

触 .献・縢.

.儲輪叢懸懸認鵬 主泌灘 蜘議・ 写真3 低灌流圧系ドパミン投与95%02群灌流15分 後の電子顕微鏡像(×10,000) 写真4 低灌流圧系ドパミン投与0%02群灌流15分 後の電子顕微鏡像(×10,000) 圧系95%02群と比べ減少していた.

低灌流圧系95%02群(写真3)ならびに低灌流

圧系0%02群(写真4)にDOAを投与した場合に

も心筋内微小構造には,非投与群の所見と基本的 には変わらず,またmyo丘1amentにも異常を認め なかった. 考 察 ATP, CPなどの高エネルギー燐酸結合は,心筋 のミトコンドリアでの基質の酸化により生ずる自 由エネルギーを保存するとともに,心筋の収縮や

細胞内環境の維持などに必要な恒常的なエネル

ギー源でもある.摘出直後の心筋アデニンヌクレ オチド値については報告が見当たらないが,対照 正常値に関しては,ラット3)4》,モルモット5)6),ネ コ7)8),ウサギ9)10),イヌ11)12)等で検討されてきた. これらの値は測定方法,実験方法,動物の種類に 一1682一

(8)

よって異なるが,一般にCPはATPより高い結

果が得られている.本研究では,いわゆるin vivo でのコントロールとしてベントバルビタール麻酔 下で,出来る限り素早く心臓を摘出し,処理した

試料を用いたがCPは正常縮流圧系95%02群と

比べて少ない結果であり,またATPは17。05±

1,77μmo玉/g dry weight, CPは11.17±0。29

μmol/g dry weightとATPの方がCPよりも大

であった.in vivoでもこのような値であるのか,

麻酔・摘出などの手技による人為的な原因でCP

が消耗されたのかは不明である.しかし灌流開始

までの4分間でCPは2.50±2.24μmol/g dry

weightとさらに減少しているが, ATPに有意の

減少はなく,ATPと比べて代謝回転が極めて早

いと思われ,摘出直後とはいえin vivoの値より も低くなっている可能性が高いと考えられた.

Reimerら13)も摘出した犬心筋を氷水中に約1分

間放置しただけでCPは分解されたとしており,

摘出後から灌流開始までに認められる数回の拍動

にCPが分解されADPからATPが産生された

ためと考之られた. このような条件下で灌流を開始しているわけで あるが,心筋のエネルギー代謝過程(産生,保存, 利用)が,酸素の供給状態,エネルギー基質の供 給の状態,心筋自体のエネルギー需要の状態によ

りどのような変化をきたすのかを,まず,DOA非

投与群の実験から考察する.

正常灌流圧系では,95,50%02群と20,0%02

群では明らかに経過が異なった.すなおち,95,

50%02群では灌流15分後のATP・CPは各々

15.64∼16.04。20.56∼25。40μmol/g dry weight

であったが,20,0%0,群では各々4.93∼6.45・

1.01∼4.73μmol/g dry weightと極端に低値で,

CPの回復は抑制され, AMPの増加はあるが,

TANとしては減少していた.このことは,この実

験系では酸素分圧が290mmHg以上あれぽ好気的

にエネルギー代謝が営まれ,高エネルギー燐酸も

保存されるが,180mmHg以下ではエネルギー基

質の供給が十分でも酸素の不足によりエネルギー

代謝は障害されATP合成は低下し,さらにはア

デニンヌクレオチドも分解されると考えられる.

低灌流圧系95%O、群では正常配流圧系95%02

群と比べてATP・CP・AMPの回復が遅れるが15

分後には各々15.29±0.68・21.65±4.06。4.09± 0.91μmo1/g dry weightと正常灌流圧系95%02

群と殆ど同じ値を示した.しかし低灌流圧系50%

02群では15分後のATPは8.61±2.32μmol/g

dry weightと経時的に減少し, CPも3.51±2。17

μmol/g dry weightと生値を示した.このことは,

20cm水柱圧という忠心流でも,酸素分圧が480

mmHgと十分にあれぽ,回復が遅れるが正常に近

いエネルギー代謝まで復するものと考えられ,290

mmHgにな:ると, ATP合成が障害され初めて

ATP・CPの減少が著しくなることを示している.

次にDOAを投与した際の心筋アデニンヌクレ

オチドの変化について考察する.DOA 3μg/min

の持続注入により,心筋DOA含量はDOA非投

与群の39∼51倍に増加していた.実験に用いた

ラットは体重が約700g前後のものであり,今回の

実験で用いたDOA量は5μg/kg/minで全身性に

投与する量を冠灌流液に加えたことになる.この 量は心筋収縮力増強作用を示す範囲での投与量で あり,エネルギー代謝に及ぼす影響をみる上で, 適当な:量と考えた.

正常灌高圧系95%02群ではDOA投与による各

アデニンヌクレオチド値に対する影響は認めな

かったが,50%02群ではDOA非投与群と比べて

5分後のCPは4.61±3.07μmol/g dry weightと

極端に低下しており,酸素分圧低下時のDOA投

与は心筋CPの回復を遅らせることが本実験結果

より示された.0%02群ではATPは15分後には

1.33±0.29μmol/g dry weightとDOA非投与群

と比べて更に減少がより顕著で,DOAによるエ

ネルギー需要の増大による変化と考えられる.こ

のことは,酵素欠乏時のDOA投与は,高エネル

ギー燐酸をさらに低下させ,心筋収縮を停止ない

しは細胞死に至る時間を早めることが考えられ

る.

低灌流圧系95%02・DOA投与群ではATPは

7.45±1.85μmol/g dry weightまで経時的に減少 し,CPも2.36±0.88μmol/g dry welghtと回復

がなく,DOAによるエネルギー需要の増加に見

一1683一

(9)

合うエネルギー基質や酸素の供給が不足したため

と思われる.一方50,0%02群はDOAを加えても

有意の変化がなかった.これらの低酸素状態では

DOAによる収縮力増強作用が発現出来ないほど

に心筋収縮が抑制されているためと考えられる. このように心筋内アデニンヌクレオチドは直流 液の酸素分圧や灌流量によって大きく変化するこ とが明らかとなったが,形態学的にはミトコンド リアの軽微な障害にとどまっていた.このことは, 動物を用いた虚血実験14)が示すように,可逆性の 範囲の変化と考えられる.松田ら11)は,イヌを用い た冠動脈結紮実験で冠動脈結紮後15分後までは生 化学的にも形態学的にも可逆的であることを報告

している.またDOAによる心筋内アデニンヌク

レオチド,CPの変化を追跡した報告はみあたら

ないが,Stangelandら15)はネコの心臓を用い,冠

動脈結紮による虚血心筋に対するイソプロテレ

ノール(ISPと略)のアデニンヌクレオチド代謝に 及ぼす影響を検討している.それによると,ISPを

投与しても冠灌流量が正常であれぽATPは変化

が認められないのに対して,虚血領域ではISPに よりATPがさらに減少していた.また,極端に灌

流が低下している部位ではATPは正常領域の

10∼15%でISPによる変化が認められないこと

を報告しているが,今回のLangendorff法による 実験結果を裏付けるものである. 総 括 本研究で得られた結果を総括すると以下の通り である. 心筋内高工・ネルギー燐酸代謝についてLangen− dorff法によるラット摘出灌流心を用いて検討し た. 1.心臓を正常灌流圧(80cm水柱)で灌流する

と曲流液酸素分圧が290mlnHg以上あれば高エネ

ルギー燐酸は正常に保存されたが,180mmHg以

下になると経時的に減少した. 2.心臓を低灌筆圧(20cm水柱)で墨流すると

直流液酸:素分圧が290mmHg以下で,高エネル

ギー燐酸は経時的に減少した.

3.心臓を正常読流圧・灌流液酸素分圧480

mmHgで灌流し,ドパミンを投与した場合,高エ

ネルギー燐酸は保存されるが,290mmHg以下で

は,ドパミン非投与群よりもさらに即値を示した. 4.心臓を低灌流言で面出し,ドパミンを投与し

た場合,灌流感酸素分圧が480mmHgと高くても

高エネルギー燐酸は外型を示した.

5.低酸素あるいは低二流状態に陥った心筋に

ドパミンを投与することは,高エネルギー燐酸を さらに消耗させることが明らかとなった. 本稿を終わるにあたり,御指導,御校閲を賜りまし た広沢弘七郎教授ならびに直接御指導頂きました金 子 昇博士に深甚なる謝意を捧げるとともに,実験に 際し,御許可を賜りました高尾篤良心研所長,ならび に種々の御助言を頂きました東京都医療短期大学須 田治彦教授に深謝申し上げます.また本研究に際し御 協力頂きました本学第1病理学教室武石 詞教授,豊 田智里助教授ならびに本学生化学教室松田隆子博士 に深謝申し上げます.また動物実験に際し,いろいろ と御協力頂きました本学循環器内科学教室員の皆様, 心臓血圧研究所動物実験室の皆様ならびに小堺優子 技師に深く感謝致します. 文 献

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参照

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