エンタープライズアーキテクチャフレームワーク調整法の提案
山本修一郎
名古屋大学大学院情報学研究科 愛知県名古屋市千種区不老町
A Tailoring Approach on Enterprise Architecture Framework
Shuichiro Yamamoto
Nagoya University Graduate School of Informatics
Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya Aichi Japan
概要
エンタープライズアーキテクチャフレームワーク(EAF)では企業状況に応じた調整が必要になる.たとえ ば,代表的な EAF である TOGAF では初期工程でアーキテクチャ開発手法(ADM)を調整することになってい るが,具体的な調整法が明らかではなかった.
本稿では,EAF を調整する方法を提案し,デジタル変革に対する TOGAF の調整例を示す.
Abstract
The tailoring of Enterprise Architecture Frameworks is necessary to adapt situations of enterprises. For example, the typical EAF of TOGAF recommends to tailor ADM (Architecture Development Method) in the preliminary phase. However, the specific tailoring method is not clear in TOGAF.
In this paper, we propose a tailoring approach on EAF. We also show a tailoring example of TOGAF to adapt towards the digital transformation.
1. はじめに
代表的なEAFであるTOGAF[1]では,フレームワー クの調整(テーラリング)について,ADM(Architecture Development Method)の初期フェーズで,用語,プロ セス,成果物を組織に応じて調整(Tailoring)すること ができると述べている.しかし,具体的なADMの調 整法については説明していないため,TOGAFは重量 級のEAFで導入が困難であるという誤解があった. 本稿では,EAFの調整法を提案しTOGAFに基づく デジタル変革(DX)フレームワークを構成できるこ とを示す. 以下では,まず2節で関連研究について述べ,3節で 提案手法を説明する.次いで,4節で提案手法をDXに 適用する.5節で有効性について議論する.最後に6節 でまとめと今後の課題を述べる.2. 関連研究
2.1 EA フレームワークの調整 Bhaide とRao[2]は,TOGAFをEPC業界のDXのフレ ームワークに採用できることを示した. 彼らは,EA における企業をデジタルビジネスエコシステムに拡 張する必要があることを指摘した.また,DXにEAを 採用するための課題も明らかにしている.たとえば, 基盤EA(Foundational EA)と先端EA(Vanguard EA)から なる2相方式(two-stream approach)を用いて,技術と 市場の急速な変化がもたらす潜在的な機会を失わな いようにしながら,現行プロジェクトと将来プロジ ェクトのギャップを解消する方法を提案している. Grunwald ら[3]がDXに向けたEAフレームワー クの調整法を提案している.まず,ビジネスとオ ペレーティングモデルを明確化する.次いで,ビ ジネス能力を識別してデジタル化対応を評価する ことにより,反復的に変革ロードマップを構築す る.TOGAFの調整結果を表1にまとめる.Grunwald らは各工程について,①目的,②タスク,③入力, ④出力,⑤TOGAF工程を定義している.これらの 工 程 で 作 成 す る 成 果 物 の 表 現 モ デ ル に ArchiMate[4]を使用している.表1 DX への TOGAF の調整 工程 説明 TOGAF 1 アーキテクチャ原則と 将来ビジネスオペレー ティングモデルを作成 初期,アーキテクチ ャビジョン ビジネスアーキテク チャ 2 必要な変革プロジェクトを定義 機会とソリューション 3 現行ビジネス能力,現 行ビジネス,情報シス テム,テクノロジーア ーキテクチャを定義 ビジネス,情報シス テム,テクノロジー アーキテクチャ 4 将来ビジネス能力,将 来ビジネス,情報シス テム,テクノロジーア ーキテクチャを定義 ビジネス,情報シス テム,テクノロジー アーキテクチャ 5 変革ロードマップ,移 行計画,変革ガバナン スを定義 機会とソリューショ ン 移行計画 6 将来アーキテクチャを 変更管理,変革ガバナ ンスを実施 実装ガバナンス 変更管理 また,MamkaitisとHelfert[5]が,EAFの資源を調整 する方法を提案している. 2.2 適応型 EA
Wilkinson [6]は,Adaptive EnterpriseでITを成功させ るために必要なガバナンス,組織,および技術の側面 を提案した.適応型EAを,適応型エンタープライズ を実現する手段として定義した.また,1)アドホッ ク,2)個別化,3)ドキュメンテーション,4)部門, および5)制度化の5つのレベルに基づいて,適応型企 業の成熟度を測定している.さらに,モジュール性, 簡素化,統合,標準化の4つのアーキテクチャ原則を 提示した. Korhonenら[7]はEAの研究をエンタープライズIT アーキテクト(EITA),エンタープライズインテグレ ーション(EI),およびエンタープライズエコロジカ ルアダプテーション(EEA)に分類している[9].ま た,3つのEAレベルとして,エコシステムアーキテク チャ,ソーシャルテクノロジー,テクノロジーアーキ テクチャを提案した. EEAレベルでは,EAはビジネ スエコシステム,産業,市場,および大規模な社会と 連携して進化する.この連携は,外部環境,パートナ ーなどとの自由なやり取りに構造的に組み込まれる. さらに,Korhonen らは,エンタープライズ戦略EAと EEAの2つのレベルで,DXのデジタル機能の側面を 比較した.デジタル機能では,ビジネスのデジタル化, 作業のデジタル化,コラボレーションと接続,顧客エ ンゲージメント,情報と技術の管理,および資源活用 から構成している. 彼らは,潜在的にEAは適応能力を持つけれども, エ ン タ ー プ ラ イ ズ エ コ ロ ジ カ ル 適 応 (Enterprise Ecological Adaptation)の観点からEA概念を再構築す べきだと指摘している.具体的にはSIDAサイクルに 従って,DXでは企業の適応性を向上するためにEAの 範囲を企業連携まで拡大すべきだとして,その役割 も以下のように拡張すべきだと提案している. 監視:連携企業のビジネスと技術情報をリアルタ イム提供 解釈:予測分析に基づく企業変革の策定 判断:EA原則に基づく分散意思決定 実行:独立要素からなる疎結合デジタルビジネス エコシステム
Wagterら[8]がDYA(Dynamic Enterprise Architecture) を提案している.DYAは理論モデルと作業モデルか ら構成されている. 理論モデルには,企業全体を表 す外側ループと企業が開発運用するITを表す内側ル ープがある. 企業は,利害関係者に価値を提供する ように,ビジョン,戦略,および目標を策定する. DYAの作業モデルでは,戦略的対話,建築サービス, およびアーキテクチャを使用した(または使用しな い)開発の3つのプロセスを定義する.DYA作業モデ ルには,ガバナンス,DYAプロセス,およびビジネ ス,情報,技術アーキテクチャに基づく動的アーキテ クチャが含まれる. Bucklら[9]は状況に適応するEAマネジメント手法 SAEAMを提案している.SAEAMでは企業ゴールと 組織環境に基づいて対立するEA要素をNexusと呼ぶ 意思決定理論により統合する適応プロセスを提供し ている.この適応プロセスでは条件に応じて適切な EA手法を選択するために,Y軸に手法,X軸に条件を 配置するフィッティング行列を定義して行列要素を 評価することができる.また,SAEAMでは,環境適 応する生物進化モデルVSM(Viable System Model)を 用いてガバナンス,協調コミュニケーション,オペレ ーション管理,資源管理,将来計画にEAマネジメン ト活動を分類している.
GillがAECA(Adaptive Cloud Enterprise Architecture) を提案した[10].AECAは,Adaptive Enterprise Service System(AESS)メタモデルを定義している.AESSに は,3つのレベルのサービス,機能,およびエンター プライズが含まれている.AESSライフサイクル管理 機能には,採用,定義,運用,管理,およびサポート 機能が含まれている.Gill Frameworkは,AESSを定義 するメタフレームワークである. ACEAでは,表現 言語が不足しているため,EAモデリング言語として ArchiMateを使用することを推奨している. AECAの 適応能力成熟度モデル(ACMM)は,幼児期,初期, 移行,定義済み,管理済み,適応の6つのレベルで構 成されている.
Zimmerman[11,12,13] は Digital Enterprise Architectureのための参照アーキテクチャとして, Enterprise Services Architecture Reference Cube(ESARC) を提案している.ESARCには,1)アーキテクチャ マネジメントの次元,2)アーキテクチャガバナンス の次元,3)テクノロジーアーキテクチャとオペレー ションアーキテクチャの次元がある.アーキテクチ ャマネジメントでは情報システムアーキテクチャと セキュリティアーキテクチャを管理する.アーキテ クチャガバナンスでは,ビジネス情報アーキテクチ ャとクラウドサービスアーキテクチャを扱う. 増田[14]らは,適応型統合デジタルアーキテクチャ フレームワーク(AIDAF)を提案した. AIDAFでは, 迅速性,応答性,柔軟性,シンプルさ,学習の観点か ら,EAFの適応性が定性的に比較している.彼らは, 適応概念項目を用いてEAFを客観的に評価している. AIDAFにはプロセスとガバナンスの概念があるが, 機能とモデル,および生態系の概念はない.
Van de Wetering [15]は,EAの動的機能のコンポー ネントを分析機能,モビリティ,および変換機能に分
類した.変換機能の意味は,再構築性,適応性,およ び予期しないイベントへの応答である. 2.3 DX と EA の関係 DXとEAの関係について,Blumbergらが,DXに先 進的に取り組み企業とそうでない企業のEAの活用 度を比較している[16] .この結果によれば,プロジ ェクト価値への貢献(49%:25%),ITの統合・標準化 (90%:63%),ビジネスプロセス価値(60%:37%),ケイ パビリティ活用(80%:38%),スタッフ教育(90%:44%) となっており,DX先進企業がよりEAを活用している ことが分かる.ここで,カッコ内の数字は(DX先進 企業によるEAの活用率:一般企業のEA活用率)であ る.DX先進企業がEAを活用することでDXを推進で きる理由は,EAの目的が,ビジネス変革であるため である.DXの目的は,企業をデジタル企業に変革す ることであり,現状を変革してあるべき企業を実現 するという変革手法である点で親和性が高いためで ある.このように,海外では,EAを活用することが 盛んである.一方,日本では,EAフレームワークに ついての最新情報が知られていないため,以下のよ うな状況である.すなわち,EAの目的は,組織全体 を階層構造にして効率化することであり,ITシステ ム全体を一気に最適化していくために,ウォータフ ォール型で開発する.このようなEAは廃れているか ら,DXには向かない[17]. 上述したように,世界のEA理解は,まったく逆で ある.すなわち,EAの目的はITシステムを全体最適 化することではなく,ビジネスを変革することであ る.EAでは,ビジネス価値を生むITシステムから段 階的に実現していくので,EAはアジャイル開発と親 和性が高い.したがって,ビジネス変革を実現するこ とによりDXを推進することができる.たとえば, TOGAFでは,DXへの効果として,①変革・オペレ ーションコストの低減②デジタルケイパビリティ による拡張③環境へのエンタープライズ要素の導 入④相互運用性の向上⑤システム管理の容易化⑥ビ ジネス・基盤変革ニーズに対応する変革領域の分析 ⑦ステークホルダ要求の識別⑧対応するビューの開 発による関心事の対立解消を列挙している. なお,EAフレームワークでDXについて言及してい るのはTOGAFだけである.この理由は,2018年に9.2 版が発表されたためである.実際,TOGでは,DXの た め の 知 識 体 系 と し てDPBoK(Digital Practitioner Body of Knowledge)[18]を2018年に公開しており,積 極的にDXについての議論を進めている. 2.4 DX 推進指標 DX推進指標[19]はDX推進とITシステム構築の枠 組みについて,定性指標と定量指標を定義している. 筆者は,企業組織におけるアーキテクチャをゴール と対応付けて記述できるArchiMateを用いることに より, DX推進指標を構成する諸活動を分析する方 法を提案した[20].また,DX推進指標にある事業へ の落し込みについての質問「ビジネスモデルや業務 プロセス,働き方等をどのように変革するか,戦略と ロードマップが明確になっているか」では,証跡例と して,バランススコアカードを挙げている.このため, 経営視点,顧客・社員視点,業務プロセスとDX要求 をArchiMate で 作 成 で き る D-BSC(Digital Balanced
Scorecard)を提案した[20].
3. EA 調整法の提案
以下では,図1に示す対象領域の記述に基づいて EAFを調整する方法を提案する. EAFを適用しようとする対象領域の記述には,組 織などの主体,主体が遂行すべき活動,活動によっ て参照され,作成される成果物が含まれると仮定す る.この仮定は,DX推進指標のような組織やITシ ステム変革についての記述では成立すると考えられ る.この仮定の下では,対象領域記述の用語を主 体,活動,成果物に分類できることは明らかであ る. また,EAFには,EAの開発プロセス,EA成果物 としてのコンテンツ,ならびにEA手法が含まれ る.このため,EAFの調整では,対象領域の主体, 活動,成果物に適合するように,プロセス,コンテ ンツ,手法を調整する.具体的には,以下を実施す る. 識別した主体に相当するEA組織を特定する 識別した活動を遂行するEAプロセスを特定する 識別した成果物に相当するEAコンテンツを特定 する.このとき,EAコンテンツはEAプロセスに対 応しているので,EA工程ごとのコンテンツとして 分類できる.また,EAコンテンツによる成果物の 表現法を特定する. このように,特定したEA要素を対象領域に適応 するように再利用する.この際に,必要があれば用 語やその内容を対象領域に合わせて修正する. 図1 EAF 調整手順4. DX 推進指標への適用例
4.1 DX 推進指標 DX推進指標では,経営の在り方とITシステム構 築に分けて推進指標を定義している. 以下では,DX推進指標の記述に基づいて,用語 を抽出して,主体,活動,成果物に分類する.この 結果を表2に示す.ここで,TOGAF欄のA, B, C, D, E, F, G, HはADMの工程名である.それぞれ,P)初 期,A)アーキテクチャビジョン,B)ビジネスアーキ テクチャ,C)情報システムアーキテクチャ,D)テク ノロジーアーキテクチャ,E)機会とソリューショ プロセスの調整 コンテンツの調整 用語の識別 主体の識別 活動の識別 成果物の識別 主体が対応 する工程 工程内活動 工程内成果物 手法の調整 組織の調整 モデルの調整 活動の調整 対象領域の記述ン,F)移行計画,G)実装ガバナンス, H)変更管理で ある.なお,表2の最右欄の数字は調整対象用語の 分類を示す番号である. 表2から,DX推進指標の成果物が,アーキテクチャ ビジョン,ビジネスアーキテクチャ,情報システムア ーキテクチャ,テクノロジーアーキテクチャ,変革ロ ードマップに対応することが分かる.また,プロセス については経営変革(ビジョン実現,企業文化改革), 事業変革(顧客価値創出),IT変革(IT資産分析,IT システム刷新)についてのDX推進用語がTOGAF工程 に対応していることが分かる.さらに,主体について も,DXガバナンス体制と価値創出判断などがTOGAF のG,Hに対応することが分かる. 表2 DX 推進指標の分析 分類 TOGAF 推進指標用語 T 成果 物 A ビジョン,顧客価値創出ビジ ョン,ビジネス危機感,経 営・事業・IT のゴール,DX 推進ゴール,ビジネスモデ ル,データ活用,データ生 成・利用連携,標準化・共通 化 1 B 業務プロセス, IT のビジネス 価値,顧客価値創出システム,サ プライチェーンエコシステ ム,連携体制,外部連携 2 C, D 環境変化対応,変化対応シス テム,共通プラットフォーム, データ・セキュリティ基盤 3 F 戦略ロードマップ IT 投資計画 4 プロ セス E, F,G ビジョン実現 企業文化改革 5 B 顧客価値創出,KPI 6 C, D IT 資産分析 IT システム刷新 7 主体 G 企業文化変革組織 DX 実行管理体制,横断的判 断体制 DX 事業企画・完成責任 8 H 経営判断 投資判断, IT 創出価値判断 9 P,A, F DX 実行人材育成 技術・業務人材の融合 協創人材 IT 企画・要求定義人材 10 表3 EA 手法と DX 用語の対応関係 調整分類 利用可能な EA 手法の候補 1 モチベーションモデル 2 ビジネスアーキテクチャ,モチベーションモデル 3 ケイパビリティマップ,ケイパビリティイ ンクリメント 4 統合情報基盤アーキテクチャ セキュリティアーキテクチャ 5 ケイパビリティベース計画,ギャップ分析 6 ケイパビリティベース計画,ギャップ分析 7 ケイパビリティベース計画,ギャップ分析 8 アーキテクチャ委員会 9 アーキテクチャガバナンス 10 ケイパビリティフレームワーク 上述したDX推進指標用語の関係を図2に示す. 図2 DX推進指標用語の関係 4.2 DX 推進手法 上述した結果から,TOGAFを用いてDX推進手法を 構成した例を図3に示す. 図3 DX推進手法とDXリポジトリ まず準備段階でDX人材を確保する.次いで,経営 変革定義でビジョン,顧客価値創出ビジョン,ビジネス危 機感,経営ゴールを定義する.さらに,事業変革定義 では,ビジネスモデル,顧客価値創出システム,事業 ゴール,サプライチェーンエコシステム,業務プロセ スを定義する.IT変革定義では,ITのビジネス価値, 変化対応システム,IT投資計画,ITゴール,共通プラ ットフォーム,データ生成・利用連携,データ・セキ ュリティ基盤を定義する. 最後に,DX実装管理で,DX推進ゴール,DX事業 企画・完成責任,DX戦略ロードマップを定義して, DXを実装するとともにIT創出価値を判断する. ここで,DX実装管理の結果を経営変革,事業変革, IT変革にフィードバックすることにより,反復的か つ迅速にDXを遂行することができる. また,DX推進手法の各工程とTOGAFのADM工程 の関係は次のとおりである.すなわち,準備:P,経 営変革定義:A,事業変革定義:B,IT変革定義:C,D,E, DX実装管理: F,G,Hである. 企業文化変革組織 DX実行管理体制 DX事業企画・完成責任 連携体制 外部連携 横断的判断体制 ビジョン 顧客価値創出ビジョン ビジネス危機感 経営・事業・ITのゴール ビジネスモデル 業務プロセス 戦略ロードマップ サプライチェーンエコシステム DX推進ゴール DX実行人材育成 技術・業務人材の融合 協創人材 IT企画・要求定義人材 ビジョン実現 企業文化改革 顧客価値創出 IT資産分析 ITシステム刷新 経営判断 投資判断 IT創出価値判断 ITのビジネス価値 顧客価値創出システム IT投資計画 KPI データ活用 環境変化対応 変化対応システム 共通プラットフォーム 標準化・共通化 データ生成・利用連携 データ・セキュリティ基盤 組織 ケイパビリティフレームワーク 成果物 情報システムアーキテクチャ ビジネスアーキテクチャ プロセス 経営 準備 経営変革定義 事業変革定義 IT変革定義 DX実装管理 DX事業企画・完成責任 戦略ロードマップ、DX推進ゴール 経営判断、DX投資判断、 IT創出価値判断 ITのビジネス価値 変化対応システム IT投資計画 ITゴール 共通プラットフォーム データ生成・利用連携 データ・セキュリティ基盤 ビジネスモデル 顧客価値創出システム 事業ゴール サプライチェーンエコシステム 業務プロセス ビジョン 顧客価値創出ビジョン ビジネス危機感 経営ゴール DX実行人材育成 技術・業務人材の融合 協創人材 IT企画・要求定義人材 DXリポジトリ
5. 議論
5.1 有効性 本稿では,対象領域で求められる要求記述の主体・ 活動・成果物を分析することによりEAF を調整する 手法を提案した.この調整手法の有効性を確認する ために,DX 推進指標を分析することによって, TOGAF を調整できることを明らかにした.この結果, DX 推進指標から DX 推進手法を実際に構成できる ことが判明した. 以上から,提案手法が有効であることを確認した. また,DX 推進指標は企業が具備すべき DX 特性に ついての質問の集まりではある.本稿で示したよう に,DX 推進指標を構成する用語関係から DX 推進指 標が示唆する企業共通の DX 構造を導くことができ る.この共通 DX 構造を具体化することで企業に固 有のDX 構造を作成できる.つまり,企業共通 DX 構 造はDX 参照アーキテクチャになっているといえる. DX 推進指標と企業共通 DX 構造,企業固有 DX 構 造の関係を図示すると,図4のとおりである. 図4 企業共通DX 構造 5.2 適用性 4 節では,DX 推進指標に対して,主体,活動,成 果物を分析することで,EAF を調整できることを明 らかにした.実は,この3種類の要素は,ArchiMate の受動構造,振舞い,能動構造からなるアスペクトに 対応している.また,成果物のうちで,ゴールや原則 は,ArchiMate のモチベーション要素に対応する.し たがってDX 推進手法と DX リポジトリを ArchiMate で表現できる.ArchiMate で DX 構造を図式化するこ とでDX をより効率的に推進できる可能性がある. 上述したアスペクトは,主語,動詞,目的語に対応 していることから,DX 推進指標だけでなく目標とす る変革がどのような内容であっても,分析できる可 能性が高い.したがって,本手法は DX 推進指標に 限定していないことから,多様な企業変革のために EAF を調整する際に適用できる可能性がある. 5.3 新規性 これまで,EAF を調整した結果についての報告 はあるが,EAF の調整法を用語分析に基づいて手 順化した提案はなかった.主体,活動,成果物を分 析することにより,変革要求を記述した文書から 系統的にEAF を調整できることを明らかにした点 に,本稿の新規性がある.また,TOGAF の調整方 法を具体化することにより,DX 専用の軽量な EAF としてDX 推進手法と DX コンテンツリポジトリ からなるDX フレームワークを明らかにした.DX 推進手法の特化した DX 推進手法はこれまでに提 案されていない.この点でも本稿の新規性がある と思われる. 5.4 限界 本稿では,DX 推進指標の定性指標について提案手 法を適用した.DX 推進指標以外についても提案手法 を適用して有効性を明らかにする必要がある. また,今回構成した DX 推進手法では,ビジネス ケイパビリティやケイパビリティベース計画などの EA 手法の調整,ビジネスモデルやビジネスプロセス の表現手法については割愛した.たとえば,エンタ ープライズアーキテクチャの図式言語 ArchiMate でDX を可視化する手法を提案できる[22].表4で 示したように,DX 推進策と EA 手法の間には多く の関係がある.これらの関係の明確化と具体的な利 用方法についても,今後検討する必要がある.また, 本稿では,準備,経営変革定義,事業変革定義,IT 変 革定義,DX 実装管理の各工程の具体的な内容を定義 していない.今後,各工程の目的,手順,入力成果物, 出力成果物,完了基準,留意点などを詳細化する必要 がある.さらに,図 3 で示した DX リポジトリの情 報項目を格納するためのメタモデルを具体化してい ない. EAF として TOGAF を本稿では採用したが,上述 したように多くの EAF があることから,TOGAF 以 外のEAF に対しても本稿の調整法が適用できること を確認する必要がある. 表4 DX 推進策と EA 手法 DX 推進策 EA 手法 ビジネスとIT の整合性を 説明するために,ビジネ スゴール,デジタルビジ ネスモデル,デジタルビ ジネスプロセスとDX 要 求を対応付ける手法とし てDX 戦略マップを定義 ビジネスゴール ビジネスモデル ビュウポイント ビジネスプロセス モチベーションモデル アセスメント デジタルケイパビリティ マップに基づいてビジネ ス価値を創出するデジタ ル化対象ビジネスを定義 し優先順位を判断 ケイパビリティマップ ビジネスプロセス CBP (Capability Based Planning) CI (Capability Increment) 将来アーキテクチャと現 行アーキテクチャのギャ ップ分析によりDX ビジ ョンとDX 戦略ロードマ ップを定義 参照アーキテクチャ ギャップ分析 変革ロードマップ アーキテクチャビジョン ビジネスとデジタル技術 を整合させるデジタルビ ジネスエコシステムを定 義DX 原則と DX 委員会 によって業務とデジタル 技術を統制するDX ガバ ナンスを遂行 アーキテクチャドメイン モチベーションモデル アーキテクチャ原則 アーキテクチャ委員会 アーキテクチャガバナン ス 上述したように,DX 推進指標は,DX 推進手法へ の要求を質問形式で記述した文書であると考えるこ とができる.このように,手法への要求記述を本手法 で分析することにより,DX 以外の要求に対する EA の調整を実現できる.また,必ずしも要求記述がない 企業固有DX構造 企業共通DX構造 DX推進指標 共通経営変革 共通事業変革 共通IT変革 経営変革指標 事業変革指標 IT変革指標 個別経営変革 個別事業変革 個別IT変革 示唆 具体化 指標 一般化場合でも,図1 に示したように,主体,活動,成果物 を識別できれば,EAF を調整できることは明らかで ある. しかし,本稿では,調整結果として具体化したDX 推進手法を他の既存の DX 推進手法と比較評価して いない.また,調整した DX 手法を事例に適用して ない.
6. おわりに
本稿では,EAF に対する調整法を提案した.また, DX 推進指標に提案手法を適用することにより,DX のために TOGAF を調整した DX 推進手法を構成で きることを明らかにした. これにより,EAF の調整に対する本手法の有効性 を明らかにした. 今後,多様なEAF に対して,提案手法を適用する ことにより,有効性を確認していく予定である.また, DX 推進指標以外の企業変革要求にも本手法を適用 して有効性を確認する必要がある.参考文献
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