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力学の概念的理解における問題系列の効果について

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Academic year: 2021

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力学の概念的理解における問題系列の効果について

The Effect of Problem Sequence on Learners’ Conceptual Understanding in

Mechanics

堀口 知也

1

東本 崇仁

2

平嶋 宗

3

Tomoya Horiguchi

1

, Takahito Toumoto

2

, and Tsukasa Hirashima

3

1

神戸大学大学院海事科学研究科

1

Graduate School of Maritime Sciences, Kobe University

2

東京工芸大学工学部コンピュータ応用学科

2

Faculty of Engineering, Tokyo Polytechnic University

3

広島大学大学院工学研究科

3

Department of Information Engineering, Hiroshima University

Abstract: The effect of problem sequence on students’ understanding in elementary mechanics is

empirically examined. We used two types of problem sequences: structure-blocked and surface-blocked. In the former, problems of which superficial features are different but solution is the same are adjacent, while in the latter, problems of which superficial feature is similar but solutions are different are adjacent. Our hypotheses were: (1) Students who learned with structure- blocked sequence show better performance in solving simple problems because it would train students how to apply a solution in various situations. (2) Students who learned with surface-blocked sequence show better performance in solving complex problems because it would give students an exercise in choosing appropriate solution depending on the situation. (3) The effect of surface-blocked sequence appears more clearly when students are aware of the structure of problems. The results of experiment suggested our hypotheses are true.

1. はじめに

科学教育の重要なゴールの一つは,所与の課題を 解くために必要十分なモデルを作成する能力を養う ことである.そのためには対象系の本質的な特徴を 同定し,それらの関係を定式化する必要がある.こ のような能力を習得することを,ここでは「領域の 概念的理解」と呼ぶ. しかし,通常の問題演習によってこのような理解 に到達することは一般に難しい.ある問題において 表面的に「理解」した解法を他の問題へ誤って適用 したり,同じ解法を適用できるはずの問題へ適用で きなかったりする学習者がしばしば見られ[1,8,9], 数多くの問題を経験しても容易に改善しない.初学 者はしばしば問題の表面的特徴(表層構造)にとら われた素朴な表象を生成するに留まり,その物理的 意味に基づく構造的特徴(深層構造)と結びついた 表象を生成することができないのである[2,5,6]. 従って,概念的理解に到達するためには,問題の 表面的特徴から,適切な原理・法則を適用可能な構 造的特徴を推論することを習得しなければならない. 通常,これは数多くの問題演習から学習者自身が帰 納的に行うのに任されており,そのような知識の習 得に成功する学習者は限られている[9].そこで,何 らかの明示的な支援が必要となる. その方法の一つは,演習における問題を適切に選 択・系列化することである.問題カテゴリ毎の正例, 負例,ニアミス(カテゴリ境界に近い例)を学習文 脈に応じて適切に経験することは,そのような知識 の帰納的習得を促進すると考えられる.数多くの問 題を様々な学習文脈に応じて系列化するためには, 計算機を用いた自動化が望ましい.そこで,各問題 をその表面的および構造的特徴によって適切に索引 付けしておくことが必要となる[3]. 筆者らは,物理の問題に対してそのような索引付 け を 行 う た め の 枠 組 み 「 制 約 の 意 味 論 」( SOC: Semantics of Constraints)を提案した[4].SOC は物理 の専門家のモデル作成過程に関する概念の体系であ り,モデルに含まれる制約の物理的意味や背後にあ る仮定を明示的に記述するためのガイドラインを提 供する.これによって,問題の表面的および構造的 特徴を計算機処理可能な形で記述することができ, 問題間の差異をも取り出すことが可能となる.現在, SOC に基づく適応的問題系列化機能の実装を行って いる. 本稿では,同機能を運用するための準備として, 人工知能学会研究会資料 SIG-ALST-B505-01

(2)

種々の問題系列が学習者に与える効果を予備的に検 証した結果を報告する.

2. 仮説と方法

2.1 関連研究

本研究では,2つのタイプの問題系列の効果を検 証する.1つは構造ブロック系列と呼ばれ,異なる 表層構造を持つが同一/類似の深層構造を持つ問題 が隣接するように配列されている.もう1つは表層 ブロック系列と呼ばれ,類似の表層構造を持つが異 なる深層構造を持つ問題が隣接するように配列され ている. Scheiter らは,算数の文章題を対象として,これら の系列が学習に与える効果を検証した[7].彼らは, 転移仮説,ニアミス仮説と呼ばれる 2 つの作業仮説 を設定した.前者によれば,表層ブロック系列では 現在の問題を解く手がかりとして前問を検索するも のの,それは不適切な解法を与えるため失敗しやす く,構造ブロック系列より効果が低い.一方,後者 によれば,表層ブロック系列では僅かな表面的差異 が大きな構造的差異(解法カテゴリの違い)に繋が るため本質的な差異が焦点化されやすく,構造ブロ ック系列よりも効果が高い.そして,問題の深層構 造に気づくことのできる学習者は現在の問題と構造 的に類似した問題を容易に(表面的差異に関わらず) 検索できるため構造ブロック系列において好成績を 示し(転移仮説支持),そうでない学習者は表層ブロ ック系列において好成績を示す(ニアミス仮説支持) ことを実験によって検証した. 算数の文章題における表層構造は「カバーストー リー」と呼ばれる問題状況である(例えば「二人の 技師が照明を修理している」「二人の配達人が異なる 出発点から互いへ向かって移動する」).また深層構 造は解法タイプであり(例えば「仕事算」「旅人算」), 問題はこれに基づいてカテゴリ化される.Scheiter らの問題系列では,属するカテゴリに典型的なカバ ーストーリーを持つ問題(例えば「二人の技師」状 況の仕事算,「二人の配達人」状況の旅人算)と,そ うでない問題(例えば「二人の技師」状況の旅人算, 「二人の配達人」状況の仕事算)とがあり,学習者 はカバーストーリーに惑わされずに適切な解法を同 定する必要があった.

2.2 仮説

一方,本研究で対象とする物理問題では事情が異 なる.表層構造となるのは対象系を構成する部品や その性質およびそれらの配置であり,僅かな状況の 違いが大きな構造的差異に繋がることは少ない(例 えば「滑らかな斜面」が「粗い斜面」に変わっても モデルが本質的には変わらないことも多い).解法の 大きな変化を生じるのは主として「クエリ」(通常, 計算対象となる物理量)であるが,予備調査による とこの違いに明示的に気づくことのできる学習者は ごく少数である.従って,物理問題においては表層 構造の類似は算数の文章題におけるニアミス仮説の ような正の影響は持たず,転移仮説における不適切 な検索による負の影響のみを持つと予想される.た だし,物理ではある解法(深層構造)に特定の対象 系(表層構造)が典型的に結びついていることはな いため,表層ブロック系列における不適切な検索の 影響は文章題の際よりも小さいと思われる.問題の 深層構造に気づくことのできる学習者にとっては, むしろ問題の表層構造に惑わされずに適切な原理を 選択・適用するための訓練になる可能性がある.ま た,同じ理由により,構造ブロック系列においては 深層構造への気づきの影響は相対的に小さくなり, むしろ(どの学習者にとっても)同一の原理を様々 な状況へ適用する訓練となるため,特定の解法を定 着させる効果があると考えられる. 以上の議論より,本研究では次の仮説を設定する. 仮説1 構造ブロック系列は,同一の原理を様々 な状況へ適用して解法を定着させるための学習に おいて表層ブロック系列よりも効果が高い.すな わち,一つの原理を適用して解ける比較的単純な 問題においては,前者は後者よりも学習効果が高 い. 仮説2 表層ブロック系列は,問題の表層構造に 惑わされずに適切な原理を選択・適用するための 学習において構造ブロック系列よりも効果が高い. すなわち,幾つかの原理を組み合わせる必要があ る複雑な問題においては,前者は後者よりも学習 効果が高い. 仮説3 表層ブロック系列の効果は,問題の深層 構造に気づくことのできる学習者においてより顕 著に現れる. 次節では,これらの仮説を検証するために実施し た実験及びその結果について述べる.

3. 実験と結果

3.1 実験計画

目的 上述の三つの仮説を検証することである. 被験者 大学学部生(理工系専攻)26 名. 道具 (1) 初歩的な力学問題のセット 2 組(問題セット 1,2).それぞれ,様々な表層構造・深層構造を持 つ問題 15 問からなり,共通の問題を持たない. (2) 問題セット1中の 11 問に関する解法の説明文 (標準解説).主として,所与の物理量から求めるべ き物理量を計算する過程を説明したもの.

(3)

(3) 標準説明と同じ問題 11 問について,制約の意 味論(SOC)[4]の概念体系に基づいて説明したもの (SOC 解説).問題を解くために必要なモデルの作 成過程および解の計算過程を詳細に説明している. また,その内 8 つの問題ペアについて,問題間の差 異を説明する.対象系に対してどのような力学原理 がなぜ・どのように適用されるかを,所与の条件や 仮定に結びつけて解説すると共に,条件や仮定が変 わったときモデルがどのように変化するかをも解説 する.このような説明が学習者の概念的理解を促進 することは,先行研究において実証済みである[4]. (4) 1つの力学原理(ニュートンの第二法則,エ ネルギー保存則,力のつり合いのいずれか1つ)を 適用して解ける 3 つの例題(基本問題).それぞれ, 標準的な解答例が付されている. (5) 9 つの力学問題を 2 通りに系列化したもの(表 層ブロック系列,構造ブロック系列).各問題は,基 本問題のいずれか1つの原理を適用して解くことが できる.各系列は,それぞれ 3 問からなる3つのブ ロックに分けられる.表層ブロック系列の各ブロッ クにおいては,類似の表面的特徴を持つが異なる原 理を用いて解く問題が隣接し,構造ブロック系列の 各ブロックにおいては,異なる表面的特徴を持つが 同一の原理を用いて解ける問題が隣接している. (6) 基本問題のいずれか2つの原理を組み合わせ て解く 3 つの問題(複合課題). 手順 まず,全被験者に問題セット1を個別に与え,こ れを「似ている」と思われる幾つかのカテゴリに分 類させた上で,各カテゴリにその特徴を表すラベル を付けさせた(分類課題1).このとき,問題を解か ないように注意を与えた.次に,同セットの内8問 を実際に解答させた(プレテスト).一週間後,被験 者を4つのグループに分け,A1 群,A2 群,B1 群, B2 群とした(それぞれ 6 名,6 名,7 名,7 名).A1 群と A2 群,B1 群と B2 群について,それぞれ群間 でプレテストの平均点が同等になるようにした.A1 群・A2 群の被験者に SOC 解説を,B1 群・B2 群の 被験者に標準解説を与えて学習させた(SOC 解説は 問題の深層構造への気づきを促進するが,標準解説 はそうでない).次いで,全被験者に基本問題を個別 に与えて学習させた後,A1 群・B1 群の被験者に表 層ブロック系列を,A2 群・B2 群の被験者に構造ブ ロック系列を与え,各 9 問を指定された順番に解答 させた(系列課題).その一週間後,全被験者に複合 課題を与えて解答させた.次いで,全被験者に問題 セット2を個別に与え,問題セット1の際と同様の 分類・ラベル付けを行わせた(分類課題2).最後に, 同セットの内8問を実際に解答させた(ポストテス ト). 測度 問題の深層構造への気づきの有無を,分類課題に おけるカテゴリの種類と度数(カテゴリに分類され た延べ問題数),および分類の所要時間によって測定 することができる[2].そこで,SOC 解説/標準解説 によって気づきがどのように変化したかを,分類課 題1,2の結果を比較することで確認する.比較的 単純な問題の解決能力をプレ・ポストテストおよび 系列課題の点数,複雑な問題の解決能力を複合課題 の点数によって測定する.問題系列の違いによる効 果を,A1 群と A2 群,B1 群と B2 群の各テスト・課 題の点数の違いによって評価する.

3.2 実験結果

分類課題1,2において作成されたカテゴリを表 1〜4に示す(上位度数のもののみ).表1,2より, 当初,ほぼ全ての被験者が問題を対象系の部品(斜 面,バネなど)や運動の形態(円運動,自由落下な ど)といった表面的特徴に基づいて分類しており, 問題の深層構造に気づいていないことがわかる.全 被験者が比較的短時間(13 分以内)で分類を終えて いることもこれを裏付けている(表面的特徴から構 造的特徴を推論するにはより長時間を要する).一方, 表3,4を見ると,標準解説を与えられた B1 群・ B2 群の被験者の多くが依然,表面的特徴に基づいて 分類しているのに対し,SOC 解説を与えられた A1 群・A2 群の被験者の多くは,問題解決に必要な力学 原理に基づいて分類しており,問題の深層構造に気 づいていることがわかる.B1 群・B2 群の全被験者 がやはり 13 分以内で分類を終えたのに対し,A1 群・A2 群の被験者はより長時間(9〜35 分)を費や したこともこれを裏付けている.これらのことから, B1 群・B2 群の被験者は実験の全期間を通して問題 の深層構造に気づいていなかったのに対し,A1 群・ A2 群の被験者は系列課題の前に気づきを得ていた ことが確認できる. プレ・ポストテスト,系列課題および複合課題に おける各群の平均点を表5に示す.前述の通り,プ レテストにおいて,A1 群と A2 群,B1 群と B2 群の それぞれの群間で平均点に有意差はない(t 検定,p > .10).ポストテストにおいては,A1 群は A2 群よ りも平均点が高く,また B1 群は B2 群よりも平均点 が高いものの,いずれも有意ではなかった(t 検定, p > .10).系列課題においても同様である.一方,複 合課題においては,A2 群は A1 群よりも平均点が高 く,また B2 群は B1 群よりも平均点が高かった.加 えて,A1 群と A2 群の間には有意差が見られた(t 検定,p < .05).B1 群と B2 群の間には有意差は見ら れなかった(t 検定,p > .10). 以上をまとめると次のようになる.構造ブロック 系列を用いた学習は,問題の深層構造への気づきの 有無に関わらず,系列課題およびポストテスト,つ まり比較的単純な問題において,表層ブロック系列 を用いた学習よりも高い効果を持つことが示唆され た.また,表層ブロック系列を用いた学習は,複合 課題,つまりより複雑な問題において,構造ブロッ

(4)

ク系列を用いた学習よりも高い効果を持つことが示 唆された.そして,表層ブロック系列の学習効果は, 学習者が問題の深層構造に気づいているときにより 明確に現れることが示された.これらのことは,2 節で掲げた3つの仮説が妥当であることを示唆して いると考える.すなわち,物理の問題演習において, 表1 分類課題1のカテゴリ(B1 群,B2 群) 表2 分類課題1のカテゴリ(A1 群,A2 群) 表4 分類課題2のカテゴリ(A1 群,A2 群) 表3 分類課題2のカテゴリ(B1 群,B2 群)

(5)

(1)構造ブロック系列は,同一の原理を様々な状況へ 適用して解法を定着することを促進するため,一つ の原理を適用して解ける比較的単純な問題において は,表層ブロック系列よりも効果が高い.また,(2) 表層ブロック系列は,状況に応じて適切な原理を選 択・適用することを促進するため,幾つかの原理を 組み合わせる必要がある複雑な問題においては,構 造ブロック系列よりも効果が高い.ただし,後者の 学習はより難しいため,その効果は問題の深層構造 への気づきに依存する.

4. おわりに

本稿では,問題演習を通した物理の概念的理解に おいて,問題系列が持つ効果を検証するための予備 的実験の結果を報告した.同実験では,算数の文章 題との相違に基づく考察によって3つの仮説を設定 し,その検証を試みた.実験の結果,それらは妥当 であることが示唆された.ただし,それぞれの条件 において有意差が見られたケースは限られており, 十分な検証となっているとは言いがたい.今後,被 験者数を増やすなどしてその成否をさらに確認して いく必要がある.

参考文献

[1] Bransford, J.D., Brown, A.L. and Cocking, R.R. (Eds.): How People Learn: Brain, Mind, Experience, and School, National Academy Press (2000).

[2] Chi, M.T.H., Feltovich, P.J. and Glaser, R.: Categorization and Representation of Physics Problems by Experts and Novices, Cognitive Science, 5, pp.121-152 (1981). [3] Hirashima, T., Niitsu, T., Hirose, K., Kashihara, A.,

Toyoda, J.: An indexing framework for adaptive arrangement of mechanics problems for ITS. IEICE Trans. Inf. Syst. E77-D(1), 9–26 (1994)

[4] Horiguchi, T., Toumoto, T. & Hirashima, T.: A Framework of Generating Explanation for Conceptual Understanding based on 'Semantics of Constraints,’ Research and Practice in Technology Enhanced Learning, Vol.10, Issue.1 (2015).

[5] Larkin, J.H.: The role of problem representation in physics, In Gentner, D. and Stevens, A.L. (Eds.) Mental

models, Hillsdale, N.J.: Lawrence Erlbaum Assocoates (1983).

[6] Larkin, J.H.: Understanding, problem representations, and skills in physics, In Chipman, S.F., Segel, J.W. and Glaser, R. (Eds.) Thinking and learning skills, Vol.2: Research and open questions, Hillsdale, N.J.: Lawrence Erlbaum Assocoates (1985).

[7] Scheiter, K. and Gerjets, P.: Sequence Effects in Solving Knowledge-Rich Problems:The Ambiguous Role of Surface Similarities, Proc. of CogSci2003, pp.1035-1040 (2003).

[8] VanLehn, K.: Analogy Events: How Examples are Used During Problem Solving, Cognitive Science, 22(3), pp.347-388 (1998).

[9] VanLehn, K. and van de Sande, B.: Acquiring conceptual expertise from modeling: The case of elementary physics, In Ericsson, K. A. (Ed.) The Development of Professional Performance: Toward Measurement of Expert Performance and Design of Optimal Learning Environments (Cambridge University Press), pp. 356-378 (2009).

参照

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