氏 名 新藤 裕治 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 看護学 ) 学 位 記 番 号 医工博甲第422号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第 1 項該当 専 攻 名 ヒューマンヘルスケア学専攻 学 位 論 文 題 名 脳卒中患者の社会復帰に向けた回復力促進のための看護の展開 と課題-看護師への信頼の影響―
Nursing care for promoting resilience toward social recovery in the stroke patients-Effect on patients’trust of nurses-
論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 相原正男 委 員 教 授 田辺文憲 委 員 教 授 浅川和美 委 員 准教授 坂本文子 委 員 講 師 金丸和也 委 員 非常勤講師 中村美和子
学位論文内容の要旨
【目 的】 脳卒中患者の急性期から回復期における回復力(身体機能・日常生活動作・意欲)の変化と看護 師への信頼との関係を分析し,脳卒中患者の回復力を促進するための看護の展開と課題を見出す. 【方 法】 1. 調査対象 脳卒中発症しA 病院(急性期病院)脳神経外科病棟入院治療後,回復期リハビリテーション 病院(以下,回復期病院)に転院した患者12 名 2. 調査内容 1)基本属性:年齢,性別,疾患名,病巣部位,再発の有無,家族構成,結婚歴,職業の有無, 趣味の有無,急性期病院在院日数,改訂版長谷川式簡易知能評価 2)身体機能:脳卒中機能障害評価(SIAS)22 項目 4 段階評価(上下肢麻痺のみ 6 段階評価), 得点が高い程,機能障害がないことを示す.3)日常生活動作:Functional Independence Measure(FIM)18 項目を千野(2012)の文献 から詳細にした40 項目 4 段階評価,得点が高い程,自立していることを示す. 4)意欲:やる気スコア14 項目 4 段階評価,得点が高い程,意欲が高いことを示す.
5)看護師への信頼:患者信頼スケール下位尺度4 項目・全 28 項目 4 段階評価,得点が高い程, 信頼が高いことを示す.
3. 調査手順 急性期病院退院前(Ⅰ期)回復期病院転院1 週間後(Ⅱ期),回復期病院転院 1 か月後(Ⅲ期) の3 回調査を実施した.基本属性・身体機能・看護師への信頼は調査者により,日常生活動作・ 意欲は,入院前の生活状況や現在の症状・日常生活動作・意欲を経時的に記載できる「生活記 録」を作成し,項目毎に患者と担当看護師が両者で一緒に話し合い評価した. 4. 分析 基本属性は単純集計を行った.回復力のⅠ期~Ⅲ期における変化は,Wilcoxon の符号付き順 位和検定(Bonferroni 法による多重比較)を用いた.患者群の回復力における各期の関係性は, Sperman の順位相関係数を用いた.看護師へ信頼のⅠ期~Ⅲ期における変化は,下位尺度は反 復測定分散分析(多重比較),細項目はWilcoxon の符号付き順位和検定(Bonferroni 法による 多重比較)を用いた.患者群の回復力と看護師への信頼の関係性は,Sperman の順位相関係数 を用いた.有意水準はp<0.05 とした. 5. 倫理的配慮 本調査は,山梨大学医学部倫理審査委員会による承認(No.1040)を得た.調査対象者に,本 研究の目的,調査内容を口頭と文書により説明し,同意を得て実施した. 【結 果・考 察】
患者の身体機能の変化では,合計得点がⅠ期Me=72.5 ,Ⅱ期 Me=74.5,Ⅲ期 Me=76.0 であり, Ⅰ期と比較しⅢ期が有意に高値であった.日常生活動作は,「浴槽への移動」がⅠ期Me=3.5 であ り,その他はⅠ期~Ⅲ期Me=4.0 と高値であった.意欲は,「何かに興味を持っていることがある」 はⅠ期Me=2.0・Ⅱ期 Me=3.0・Ⅲ期 Me=2.5 と各期で低値であった.回復力における各期の関係 性は,Ⅰ期では「毎日張り切ってすごしている」と「咀嚼し飲み込む」(rs=0.622 p<0.05)他 4 項目に有意な正相関があったが,Ⅲ期は「上肢近位(膝・口)」(rs=0.638 p<0.05)や「15m の 車いすでの移動」(rs=0.638 p<0.05)など 24 項目に有意な正相関があり,回復期に移行する中 で身体機能・日常生活動作と意欲において関連する項目が多くなった. 回復力の変化に伴う看護師への信頼の変化は,日常生活動作ではⅠ期「ふたを開ける」と「看 護師の話を聞いて目からうろこが落ちたような気がした」(rs=0.629 p<0.05)やⅡ期に「ベッド から椅子への移動」と「病棟の看護師は誰でも私のことや私の世話についてよく知っている」 (rs=-0.839 p<0.001)など,急性期・回復期直後に関連しており,急性期から回復期直後にお ける患者の日常生活動作や活動状況を把握し,患者を信頼する関わりが環境への適応に影響する と考えられる. 意欲では急性期から回復期にかけて有意な関連があったが,Ⅲ期に「自分自身にやる気がない と思う」と「看護師は私の好みや意見を取り入れながら世話をしてくれる」(rs=‐0.611 p<0.05) 他 6 項目など有意な負相関があることから,看護師は社会復帰に向けて意欲のない患者自身が自 己の能力を引き出せるよう主体的存在と認める態度や自己肯定しつつ社会復帰していく姿を見守 ることが重要であることが示唆された.また,Ⅱ期に「毎日張り切って過ごしている」と「ナー スコールを押すとすぐに対応してくれる」(rs=0.795 p<0.001)他 14 項目と有意な正相関がある ことから,患者から信頼されるよう一貫して患者を尊重し,関心を持ち,患者に信用され安心感 を与えることができる関わりが重要であることが示唆された.
【結 論】 脳卒中患者が急性期から回復期において回復力を促進していくためには,身体機能回復のみな らず,意欲の向上とそれを支える医療者の関りが重要である.その過程の中で,回復期では意欲 のない患者自身が自己の能力を引き出せるよう主体的存在と認める態度や,自己肯定しつつ社会 復帰していく姿を見守ること,新しい情報を提供して自ら学習することで安心感を得ることが社 会復帰に向けて重要である.また,患者自身が回復促進できるよう,早期から急性期リハビリテ ーションの必要性や回復期病院での専門的なリハビリテーションが可能であることなど情報提供 していく体制づくりと,看護師個々人が日々の関わりにおいて信頼されるよう一貫して患者を尊 重し,関心を持ち信用し,安心感を与える関わりが重要である.
論文審査結果の要旨
I. 本論文の要旨 脳卒中患者の急性期から回復期における回復力(身体機能・日常生活動作・意欲)の変化と看護 師への信頼との関係を分析し,脳卒中患者の回復力を促進するための看護の展開と課題を見出すこ とを目的に, 急性期病院入院治療後,回復期リハビリテーション病院に転院した患者 12 名を対象 とした. 急性期院退院前, 回復期病院転院 1 週間後,回復期病院転院 1 か月後の 3 回調査を実施し た.方法は, 基本属性・身体機能・看護師への信頼は調査者により,日常生活動作・意欲は,入院 前の生活状況や現在の症状・日常生活動作・意欲を経時的に記載できる「生活記録」を作成し,項 目毎に患者と担当看護師が両者で一緒に話し合い評価した.研究結果から, 急性期から回復期にお ける患者の日常生活動作や活動状況を把握し,患者を信頼する関わりが環境への適応に影響すると 考えられた,看護師は社会復帰に向けて意欲のない患者自身が自己の能力を引き出せるよう主体的 存在と認める態度や自己肯定しつつ社会復帰していく姿を見守ることが重要であることが示唆さ れた. II. 本研究の争点と新しい視点と意義について 本研究では, 機能分化し早期に転院していく脳卒中診療体制における環境下で脳卒中患者がいか に早期に回復し社会復帰していくかが争点として挙げられる. 本研究において身体機能や日常生活 動作だけでなく心理面である意欲を含めた患者の回復過程の変化を明らかにし, 関わる看護師への 信頼という看護の基盤となる視点に着眼し影響を分析したことにより, 脳卒中患者の各期に応じた 回復力に影響する看護師の関わりが明らかになった点が新たな視点である.脳卒中患者の急性期から 回復期における意欲・身体機能・日常生活動作の変化と看護師への信頼の影響を分析することにより, 信頼が基盤となる継続した看護を提供することが可能となり,ひいては患者の回復力を促進すること につながることを明らかにしたことが本研究の意義である. III. 実験及びデータの信頼性 分析に用いた脳卒中機能障害評価、日常生活動作, やる気スコア, 看護信頼スケールは, いずれも信頼性, 妥当性は検証されていた. 分析に用いた統計手法も妥当と考えられた. IV. 本研究を探究していくための今後の課題について
本研究は12 名であり発症部位や障害の程度, 日常生活動作の回復率や意欲の回復率による回復力 と看護師への信頼の影響の特徴を見出すことは限界があった. 今後は、対象数を増やし, 各期におけ る看護師の役割を明らかにする必要がある.