熱帯産果実非可食部の抗酸化性とクッキーへの応用
坂 裕 子
Abstract
Total polyphenol content and antioxidative activity of the non-edible parts;i.e., seeds and peel,of three tropical fruits (mango,avocado and starfruit)and apple were analyzed and compared with those of the edible parts. Antioxidative activity was evaluated based on the ability of the fruit extracts (seed,peel and pulp)to scavenge the DPPH radical. The non-edible parts of the tropical fruits tested were found to have significant antioxidant activities. Among them,the DPPH radical scavenging assay showed the mango seed extract to have the highest antioxidant potential. The DPPH radical scavenging ability of these extracts was closely correlated with their total polyphenol content. Crude mango seed polyphenols were used in cookies to investigate their applicability to food preservation. The cookies were left for 50 days at 50℃ for peroxide value (POV) determination. The oxidation of cookies containing the seed polyphenols was significantly suppressed to 90% of that of control cookies baked without polyphenols. The non-edible parts of the tropical fruits (especially, mango seeds) may thus serve as a significant source of antiox-idants. 1.はじめに 近年、食品による疾病予防の観点から、植物性食 品に含まれる機能性成 が注目され、特に、野菜や 果実の抗酸化性について研究が行われている 。 これまでに、抗酸化性を有する果実として、ブド ウ、リンゴなどの報告がある 。近年、熱帯産果 実の需要も増え、特に、マンゴー、アボカドなど は一般のマーケットでも入手しやすい。熱帯産果 実の可食部(果実部)の抗酸化性やポリフェノー ル含量の報告はあるが 、一般的には廃棄される 非可食部(種子部・外果皮部)の報告は少ない 。 そこで、本研究では、廃棄物利用の一環として、 普段棄ててしまう部位に着目し、近年、需要が増 しつつある3種の熱帯産果実(マンゴー、アボカ ド、スターフルーツ)の非可食部の抗酸化性およ びポリフェノール含量をそれらの可食部と比較す ることを目的とした。なお、比較として青森産の リンゴを用いた。抗酸化性は DPPH ラジカル消 去活性で評価した。さらに、未利用資源であるマ ンゴー種子の有効利用の観点から種子に含まれる ポリフェノールの加工食品への検討も行った。 2.実験方法 1)実験材料 試料として3種類の熱帯産果実、フィリピン産 マンゴー(Mangifera indica L.,Anacardiaceae)、 メキシコ 産 ア ボ カ ド(Persea americana Mill., Lauraceae)、沖縄産スターフルーツ(Averrhoa carambola L.,Oxalidaceae)および青森産リンゴ (Malus domestica.,Rosaceae)をいずれも札幌市 内のマーケットより購入した。これらの果実はそ れぞれ3∼4個 用し、果実部、種子部、外果皮 部に け、刻んだものを直ちに凍結乾燥(−50℃、 72時間)し、 用まで−20℃で保存した。 2)試料調製 凍結乾燥した試料をフードミルで 砕後、0.1g ずつ 量し、20mL の 80%エタノールを加え、恒 温槽で撹拌しながら 30℃で 24時間抽出した。ろ 過後、ろ液を 80%エタノールでメスアップして、 抽出液とした。各エタノール抽出試料を3連調製 し、以下の操作により DPPH ラジカル消去活性、 ポリフェノール含量を測定した。 藤女子大学紀要,第 48号,第Ⅱ部:97-101.平成 23年. Bull. Fuji Women s University, No.48, Ser. II:97-101. 2011.
Yuuko MATSUSAKA 藤女子大学人間生活学部食物栄養学科
3) DPPHラジカル消去活性と ポリフェノー ル含量 DPPH ラジカル消去活性の測定は福沢ら の 方法に従った。すなわち、試料を添加したエタノー ル溶液 2mL、0.1M の酢酸 緩 衝 液(pH 5.5)2 mL、0.5mM の DPPH エタノール溶液 1mL を 混合した後、30 間反応後、減少した DPPH 量を 日立 光光度計 U-2001型を用いて 517nm の吸 光度を測定した。試料溶液の代わりにエタノール 溶液を加えたものをコントロールとして調製した。 ラジカル消去活性(%)の算出は次の式に従った。 DPPH ラジカル消去活性(%)=100−(サンプ ルの吸光度/コントロールの吸光度×100) 予め標準物質の Trolox で検量線を作成して定 量し、Trolox(μmol/乾燥重量 1g)量に換算して 示した。測定はいずれも3反復行い、その平 値 と標準偏差を示した。 ポリフェノール含量は、Folin-Denis法 で測 定した。すなわち、一定濃度に希釈した試料溶液 1mL に Folin-Denis試薬(2倍希釈液)1mL を加 え混合し、3 後に 10%炭酸ナトリウム溶液 1 mL 加えて混合し、1時間静置後、760nm におけ る吸光度を測定した。予め標準物質の没食子酸で 検量線を作成して定量し、没食子酸量(mg/乾燥重 量 1g)に換算して示した。測定はいずれも3反復 行い、その平 値と標準偏差を示した。 4)ポリフェノールの抽出・粗精製 ポリフェノールの抽出は伊藤らの方法を一部改 変して用いた 。すなわち、マンゴー種子および果 実それぞれ 40g を 80%エタノールで2回抽出し、 得られた各ろ液を減圧濃縮した。この濃縮物をメ タクリル系合成吸着剤(DIAION HP2MB)カラ ム(φ1.5×30cm)に通して、150mL の蒸留水で 洗浄後、80%エタノール 300mL でポリフェノー ルを溶出し、減圧濃縮した。得られた抽出物をクッ キー添加用試料とした。 5) クッキーの作製およびポリフェノール添加に よる脂質過酸化抑性能の測定 クッキーの作製は磯部らの方法を一部改変して 用いた 。薄力 135g、バター105g、砂糖 60g に マンゴー抽出物ポリフェノールをそれぞれ全重量 の 0.28%添加し、160℃で 14 間焼き上げた。そ の後、クッキーを 50℃で 50日間保存し、10日毎 に過酸化物価(POV)を測定した。すなわち、作 成したクッキー 45g(約3枚)を乳鉢で 砕し、 共栓三角フラスコに入れ、ジエチルエーテルを加 え、時々振り混ぜながら1時間静置して油脂の抽 出を行った。その後、ろ紙(No.2)を用いてろ過 し、ろ液に無水硫酸ナトリウム 2g を加え、5 間 放置して脱水後、再び同じろ紙でろ過した。その 後、ろ液に窒素ガスを通じてジエチルエーテルを 完 全 に 除 去 し て 得 ら れ た も の を 過 酸 化 物 価 (POV)の測定試料とした。この脂質試料 0.5g を 精 し、衛生試験法に従い、3反復で滴定を行っ て各サンプルの過酸化物価(POV)を求めた 。 結果は平 値で示した。なお、ポリフェノール無 添加(Blank)およびコントロールとして α−トコ フェロール(0.01%)添加(V.E)クッキーも同様 に作製した。 3.結果と 察 1) DPPHラジカル消去活性と ポリフェノー ル含量 析した4種の果実の DPPH ラジカル消去活 性の結果を Fig.1に示した。熱帯産果実はいずれ も、可食部に比べて、非可食部で高いラジカル消 去活性を示した。その中でも特にマンゴ種子の活 性は 1966μmol/g と高く、次いで、アボカド外果 皮部(681μmol/g)、マンゴー外果皮部(554μmol/ g)、アボカド種子部(408μmol/g)と続いた。リ
Fig.1 DPPH radical scavenging activity of fruits extract.
ンゴの外果皮部の活性は低値であった。Abdalla らも、マンゴーの種子部の抗酸化性が高いと報告 している 。また、アボカド外果皮部についても、 用いた抽出溶媒は今回とは異なるが、抗酸化性が 高いとの報告があり 、本実験の結果と一致した。 一方、 析した熱帯産果実の可食部のラジカル消 去活性は低く、2.4μmol/g∼24.7μmol/g の範囲 であり、リンゴは 9.2μmol/g であった。 抗酸化性に寄与する大部 はポリフェノール化 合物と えられているので、次に、4種の果実の 部位別のポリフェノール含量を測定し、抗酸化性 との関連を検討した。没食子酸当量に換算したポ リフェノール含量の結果を Fig.2に示した。乾燥 重量 1g 中の ポリフェノール量はマンゴー種子 が 179mg で最も多く、次いで、アボカド外果皮部 で 139mg、アボカド種子部、マンゴー外果皮部で それぞれ 75mg、65mg となり、抗酸化性の高い非 可食部でポリフェノー含量も多くなった。須田ら はマンゴーについて、マンゴーの外果皮および種 子のポリフェノール含量は果実の5倍以上である と述べている 。今回の結果では、マンゴー種子部 のポリフェノール含量は果実部の 10倍以上の値 となり、抽出溶媒の違いもあるが、いずれにして も、マンゴー非可食部にはポリフェノール含量が 多いことが明らかとなった。熱帯産果実の非可食 部ではスターフルーツの外果皮部が 30mg で最 も少なかったが、りんごの外果皮部(10.8mg)の 約3倍多く含まれていた。可食部のポリフェノー ル量は 2.6mg∼8.3mg の範囲であった。今回、比 較に用いたリンゴのポリフェノールは注目されて おり、抗酸化性の他に脂質代謝改善作用など様々 な生理機能が報告されている 。一方、 析に用 いた熱帯産果実はリンゴに比べて、ポリフェノー ル含量および抗酸化活性も数倍高いという結果が 得られたが、機能性などの報告は少ない 。熱帯産 植物は強い紫外線のもとで、自身を守るためによ り多くの防御物質を合成していると推定されてお り、未知の活性成 が含まれている可能性があ る 。どの成 が抗酸化性により寄与しているか は、さらに検討が必要である。 次に、非可食部および可食部をあわせた DPPH ラジカル消去活性と ポリフェノール含量の相関 関係を Fig.3に示した。その結果、正の相関(相関 係数 R =0.86)が得られた。リンゴも含めて、 DPPH ラジカル消去活性はポリフェノール含量 に比例して高くなった。図には示していないが、 非可食部のみの相関はさらに高く(相関係数 R = 0.92)、可食部に比べ、非可食部で相関が高くなる ことが示唆された。 Soong らは、マンゴー種子抽出物は加熱でも安 定であると報告している 。そこで、食品加工への 応用を目的として、比較的脂質含量が多く保存期 間の長いクッキーにマンゴー種子ポリフェノール を添加し、酸化抑制効果についても検討した。
Fig.2 Total polyphenol content of fruits extract.
Fig.3 Correlation of DPPH radical scavenging activity and total polyphenol content.
2) マンゴーポリフェノールのクッキーへの添加 マンゴーの種子部および果肉部から得られた粗 ポリフェノールの収量は、それぞれ 4.6g/100g、 0.28g/100g で、種子部には果肉部の約 16倍のポ リフェノール成 が含まれていた。実験方法に示 した要領でクッキーを作製し、焼成当日(0日) から 10日毎に 50日まで、POV を測定した結果を Fig.4に示した。クッキーの POV 値はいずれも 30日までは大きな変化はなく、40日目に無添加 (Blank)および果実(Pulp)添加クッキーで高く なり、測定最終日の 50日目に顕著に変動した。無 添加クッキーおよび果実クッキーの POV 値はそ れぞれ 127meq/kg、72meq/kg となり、食品衛生 法施行規則に定められている油脂食品利用として の下限値、30meq/kg を大幅に超えた。一方、種 子(Seed)ポリフェノール添加クッキーの POV 値 は、50日目でも 11meq/kg であり、無添加クッ キーに対して酸化を 91%抑制した。この値はコン トロールとして用いた α-トコフェロールに匹敵 した。磯部らは、フェイジョアポリフェノール添 加クッキーは、50℃、28日目で 65%の抑制と報告 している 。モデルクッキーを作製する場合、一般 にはラードを用いるが、今回は実際に食すること を 慮してバターを 用した。保存設定温度 50℃ にも拘らず全てのクッキーで 30日まで POV 値 が低値であったのはクッキー作製に用いたバター に含まれるカロテンなどの抗酸化物質にも起因し ていると えられる。マンゴー種子抽出ポリフェ ノールクッキーが 50℃、50日間の保存期間中、 POV 値を抑制したのはマンゴー種子に存在する ポリフェノールの寄与が大きいと えられる。 いずれにしてもマンゴー種子はポリフェノール 含量も多く抗酸化能も高いので、このことが、クッ キーの脂質酸化を抑制したと えられる。マン ゴー種子抽出物は加熱によっても安定なので食品 加工にも利用できることが明らかとなった。廃棄 物利用の観点からも抗酸化素材としての有効性が 示唆された。 4.要約 3種類の熱帯産果実(マンゴー、アボカド、ス ターフルーツ)およびリンゴの非可食部(種子部、 外果皮部)の ポリフェノール含量と抗酸化能を それらの可食部(果実部)と比較した。 1) 析した熱帯産果実の非可食部は可食部に比 べて高い抗酸化能を示し、特にマンゴー種子部 で高い DPPH ラジカル消去活性が認められた。 2) マンゴー種子のポリフェノール含量は最も多 く、乾燥重量 1g 当たり 179mg 没食子酸当量で あった。また、 ポリフェノール含量と DPPH ラジカル消去活性との間に高い相関が見られた。 3) 食品加工への応用を目的として、マンゴーか ら粗精製したポリフェノールをクッキーに添加 し、過酸化物価(POV)を調べた。50℃で 50日 経過後のマンゴー種子部ポリフェノール添加 クッキーの酸化 は、無 添 加 クッキーに 比 べ て 90%抑制され、コントロールとして用いた α-トコフェロールと同等の抑制能を示した。 5.謝辞 本論文をまとめるにあたり、御指導、御助言を 頂きました、北海道大学大学院農学研究院の川端 潤教授に心から深謝いたします。 また、この研究にあたって、クッキーの作製お よびポリフェノール添加による脂質酸化抑制能の 実験にご協力頂きました卒業ゼミ(2009年度)の 皆様にも心より感謝いたします。 なお、本研究の一部は 2009年度、藤女子大学特 別助成金の援助を受けました。
Fig.4 Effect of the mango polyphenols on the peroxidation of oil in cookies.
参 文献
1) 津志田藤二郎, 鈴木雅博, 黒木柾吉, 各種野菜類 の抗酸化性の評価および数種の抗酸化成 の同 定, 日本食品工業学会誌, 41, 611-618(1994). 2) Sun,J.,Chu,Y-F.,Wu,X., and Liu, R. H.,
Antioxidant and antiproliferative activities common fruits. J. Agric. Food Chem., 50, 7449-7454 (2002).
3 ) Yilmaz, Y., and T oledo, R. T ., M ajor flavonoids in grape seeds and skins:Antiox-idant capacity of catechin, epicatechin, and gallic acid.J. Agric. Food Chem.,52,255-260. (2004).
4) Wolfe,K.,Wu,X.,and Liu. R. H., Antiox-idant activity of apple peels. J. Agric. Food Chem. 51, 609-614 (2003).
5) Someya, S., Yoshiki, Y., and Okubo, K. Antioxidant compounds from bananas(Musa-Cavendish). Food Chem., 79, 351-354. (2002). 6) Leong,L.P.,and Shui,G., An investigation
of antioxidant capacity of fruits in Singapore markets. Food Chem., 76, 69-75 (2002). 7) Soong, Y-Y., and Barlow, P. J., Antioxidant
activity and phenolic content of selected fruit seeds. Food Chem., 88, 411-417 (2004). 8) 福澤 治,寺尾純二,脂質過酸化実験法,(廣川書
店, 東京)pp.79-80(1990).
9) Kumazawa, S., Taniguchi, M., Suzuki, Y., Shimura, M., Kwon, M-S., and Nakayama, T., Antioxidant activity of polyphenols in carob pods.J. Agric. Food Chem.,50,373-377 (2002).
10)伊藤三郎, 尾友明, 飯伏雄二, グアバに含まれ るポリフェノールの消長とその特性, 日本園芸 学雑誌, 56, 107-113(1987).
11)磯部由香,加瀬友美子,成田美代,小宮孝志,フェ イジョア(Feijoa Sellowiana Berg)から抽出
したポリフェノールの抗酸化性とクッキーへの 応用, 日本家政学会誌, 55, 799-804(2004). 12) 玉川浩司, 小林敏樹, 飯塚崇 , 池田彰男, 小池 肇, 長沼慶太, 小宮山美弘, 大麦ポリフェノール 抽出物の抗酸化能と食品への応用, 日本食品保 蔵科学会誌, 25, 271-276(1999). 13) Abdalla,A.E.M.,Darwish,S.M.,Ayad,E.H. E.,and El-Hamahmy,R.M.,Egyptian mango by-product 2. Antioxidant and antimicrobial activities of extract and oil from mango seed kernel. Food Chem., 103, 1141-1152 (2007). 14) 能勢征子,藤野直子,植物性食品の抗酸化能及び アボカド果皮の抗酸化性物質, 日本食品科学工 学会誌, 29, 507-512(1982). 15) 須田郁夫,沖智之,西場洋一,比屋根理恵,宮重俊 一,沖縄県産果実類・野菜類のポリフェノール含 量とラジカル消去活性, 日本食品科学工学会誌, 52, 462-471(2005). 16) Leontowicz,M .,Gorinstein,S.,Leontowicz, H.,Krzeminski,R.,Lojek,A.,Katrich,E.,Ciz, M ., Haruenkit, R., and Trakhtenberg, S., Apple and pear peel and pulp and their influ-ence on plasma lipids and antioxidant poten-tials in rats fed cholesterol-containing diets. J. Agric. Food Chem., 51, 5780-5785 (2003). 17) Akazome, Y., Kanda, T., and Ikeda, M .,
Serum cholesterol-lowering effect of apple polyphenols in healthy subjects. J. Oleo Sci., 54, 143-151 (2005).
18) Engels,C.,Zhao,Y-Y.,Gaenzle,M.,Schieber, A.,Knoedler,M.,and Carle,R.,Antimicrobial activity of gallotannins isolated from mango (Mangifera indica L.)kernels. J. Agric. Food Chem., 57, 7712-7718 (2009).
19) 大東肇,がん予防に期待される(亜)熱帯東南ア ジアの食材とその活性成 , 日本農芸化学会誌, 76, 460-462(2002).