大同大学紀要 第48 巻(2012)
室内におい環境評価における簡易評価手法の検討
Investigation of simplifying method measuring indoor odor environment
竹村明久
* 光田恵* 福井秀彰**
Akihisa Takemura, Megumi Mitsuda, Hideaki Fukui
Summary
In this paper, two investigations are contained, those are relating to problems of evaluating indoor odor environment. Firstly, in order to reduce number of subjects for measuring acceptability, which is the important index to judge the indoor odor environment, it was investigated that the percentage of persons dissatisfied (PPD) was estimated from the hedonics evaluation. 60 subjects sniffed two odors, n-butanol and alpha-pinene, and evaluated odor intensity, hedonics and acceptability. Estimation of acceptability based on intensity and hedonics was conducted. Consequently, it would be possible to apply estimation of acceptability from hedonics with high accuracy. Secondly, intervals of words of intensity scales were compared between two scales. These results would achieve the simple measurement used less number of subjects, and the utilization of previous odor intensity data those were stored by various researchers.
キーワード:臭気,主観評価尺度,評価手法
Keywords:Odor, Sensory evaluation scale, Evaluation method
1.はじめに 2005 年に日本建築学会規準1)が刊行され、室内のに おい環境についても目が向けられるようになり、少し ずつ環境改善に進んでいる現状にある。しかし、まだ 様々な問題を内包した上での環境測定、対策を強いら れているという一面もある。 一つの大きな問題として、容認性測定手法が挙げら れる。同規準で最重要指標として用いられる容認性は、 においの許容の可否を二者択一の設問で問い、非許容 者数を全数で除した割合である非容認率として表され る。同規準では、非容認率 20%を環境の許容限度と定 め、におい環境の是非の判断のために、60 名以上によ る非容認率測定を行う様に指定されている。一方で、 実務現場からは、測定時の60 名の確保が非常に困難で ある点が問題として挙げられているため、精度は保持 しながら、より少数の被験者に基づく測定手法の確立 が求められている現状にある。竹村ら2)は、シミュレ ーションに基づく非容認率評価のパネル数と精度との 関係を検討しており、十分な精度を確保した上での許 容限度の測定のためには、多数パネルが必要であるこ とを明らかにしており、単純に被験者数を減員する方 向での測定法の簡易化は困難と考えられる。そこで、 本報では、二者択一式の設問ではない、においの快・ 不快度評価から非容認率を推定する手法の活用の可能 性について検討した(検討 1)。快・不快度は、日本建築 学会規準で 6 名以上 3 回の評価でよいとされているた め、非容認率測定と比較して被験者数の少数化が図れ るのみならず、同規準における一部臭気で示されてい る、臭気強度から非容認率を推定する場合に比べて、 * 大同大学情報学部総合情報学科かおりデザイン専攻 ** 大同大学大学院工学研究科
においの種類によって「快・不快度-非容認率」関係 が影響を受けにくいことが予測され、におい種に依ら ない規準値の設定が見込める。 二点目に挙げる問題は、既往研究データの活用が困 難な現状にある点である。過去、様々な研究者・機関 で得られてきたにおい測定データは、それぞれの表現 用語が配された尺度を用いて測定されてきた経緯上、 単純に比較できない現状にある。におい評価を伴わな い、被験者の言語認識のみに限った上での各尺度の換 算表については、竹村ら3)が発表しているが、検臭を 伴う場合には認識通りの尺度の使われ方がなされてい るか不明である。また、表現用語間隔を把握すること によって、本来は順序尺度であるにおいの主観評価を 間隔尺度相当として取り扱える可能性もある。そこで、 本報告では二種類の臭気強度尺度について、60 名のデ ータを基にした表現用語間隔の比較を行った。(検討 2) 2.実験概要 2.1 提示した臭気試料 欧州で体臭の対照試料とされてきた4)n-butanol と、 既往研究5)のデータから、濃度によっては不快とはな らない可能性が予測されたα-pinene の二種とした。こ れらとは別に、イソ吉草酸も検討の俎上に載せたが、 取扱い上の困難さゆえに不採用とした。 n-butanol は、水溶液の体積濃度で濃度管理を行い、 図1 に示す様に、試料採取袋(容量 10L,PET 製)に純水 で適宜希釈した水溶液を封入し、密栓後によく撹拌し たヘッドスペースの臭気を別の試料採取袋に移して提 示試料とした。α-ピネンは、試薬を試料採取袋の中に 注入し、完全に揮発するのを待ち、袋内の臭気の濃度 を検知管で確認して原臭とし、原臭を注射器で提示試 料用の試料採取袋に適宜設定濃度となる様に注入した。 それぞれの設定濃度は、表1 の通り各臭気とも 5 段階 とした。尚、n-butanol は、水溶液による濃度管理を行 ったため、濃度表記は水中濃度とした。また、希釈に 用いる無臭空気は、図 2 の様な無臭空気供給装置を使 用した。 2.2 パネル パネルは60 名(18~22 歳,平均 19.5 歳,男性 31 名, 女性29 名)を採用した。また、パネルには適切な報酬を 支払った。 2.3 評価尺度 図 3 の評価尺度を用いて被験者に評価を行わせた。 臭気強度については、環境省告示の臭気強度尺度(以 後、環境省尺度と表記)と、大阪大学の研究で使用さ れてきた尺度(以後、阪大尺度と表記)の 2 種類を、 検討 2 のために用意した。被験者は、表 2 に示す臭気 強度、快・不快度、容認性に関する 2 種類の評価尺度 セットを、同日で両セットについて連続して評価した。 但し、評価順の影響を考慮して、セットの経験順序条 件が同人数となる様に調整した。 2.4 実験手順 表 1 に示した計 10 濃度条件の提示試料を、順不同、 2 分間隔で被験者に提示し、評価を得た。実験室は、本 学実験室であり、実験時の環境は、実験開始時と終了 時に、パネルの着席した付近の机上で温湿度測定(お 表 2 提示尺度条件 表 1 濃度条件 図 3 評価尺度 図 2 無臭空気供給装置 図 1 n-butanol 臭気の 捕集方法
んどとり Jr. RTR-53A:T&D 製)、実験開始時の机上 面照度測定(IM-2D:TOPCON 製)および実験開始時 の騒音レベル測定(音響振動測定器 NL-42EX:リオン 製)について行い、表 3 に示す通りであった。尚、パ ネルには臭気の内容について知らせず、検臭臭気に健 康影響はないことが確認されている旨のみを説明した。 3.臭気強度、および快・不快度に基づく許容限度の推 定(検討 1) 快・不快度と非容認率の関係の検討に先立ち、精度 の比較のために、臭気強度から非容認率を推定する場 合についても検討した。 3.1 臭気強度と非容認率との関係 図 4 に、臭気強度と非容認率との関係を示す。上段 が環境省尺度の評価、下段が阪大尺度の評価を示し、 横軸は臭気強度、縦軸は容認性評価における、非許容 者数を全被験者数で除した割合である非容認率である。 全ての図で臭気強度が高いほど非容認率も高い傾向を 示しているが、「無臭」と「やっと感知できる」や、「無 臭」と「弱い」では非容認率が非常に低く横ばいの傾 向にある。これらの尺度表現用語にあたる強さのにお い評価に対しては、「受け入れられない」評価はほとん ど見られず、より強い尺度表現用語にあたるにおい評 価では、非容認率が高くなることがわかる。 3.2 快・不快度と非容認率との関係 図 5 に、快・不快度と非容認率との関係を示す。上 段が環境省尺度と同時に行った快・不快度評価、下段 が阪大尺度と同時に行った快・不快度評価を示し、横 軸は快・不快度、縦軸は非容認率である。若干のばら つきは見られるものの、全体を通して、不快側の表現 用語では非容認率が非常に高く、快側の表現用語では 非容認率は非常に低い傾向にある。とりわけ、n-butanol、 α-pinene とも、「やや不快」付近で急激に非容認率が低 くなる傾向が見られ、臭気種に依らず似た傾向が見ら れる。 図 4 臭気強度と非容認率との関係 表 3 実験実施時の室環境の状況
3.3 許容限度の推定 表4 は、図 4 と図 5 を基に算出した許容限度に対応 する臭気強度評価および快・不快度評価を示す。算出 には、許容限度を超える前後の表現用語に対応する非 容認率間に、線形関係を仮定して按分する方法で行っ た。 臭気強度について見ると、許容限度は環境省尺度で は「やっと感知できる」と「何のにおいであるかがわ かる弱い」の間に、阪大尺度では「弱い」と「らくに 感 知 で き る 」 の 間 に あ っ た 。 ま た 、 環 境 省 尺 度 の n-butanol とα-pinene とを比較すると、0.16 の差、阪大 尺度の両臭気を比較すると、0.51 の差異が見られた。 日本建築学会の臭気強度規準値で類似する値が示され ているが、生ごみ臭が 1.4(環境省尺度)、コンクリー ト臭が2.1(阪大、表 4 に示す値の読み方に換算後)な ど、においの種類による差異が大きい傾向にある。一 方で、本実験より得られた値は、においの種類による 差異は比較的小さかったと言える。 快・不快度について見ると、いずれも許容限度は「や や不快」と「快でも不快でもない」の間にあった。臭 気種間で比較すると、セットA では 0.03、セット B で は 0.10 の差異となり、臭気強度で得られた両臭気間の 差異よりも小さいことがわかる。これより、快・不快 度に基づく許容限度の推定は、臭気種に依らず 1 つの 値で設定できる可能性が示された。 4.臭気強度尺度の表現用語間隔に関する比較(検討 2) 図 3 に示す環境省尺度と阪大尺度の表現用語間隔に ついて、竹村ら6)の提案した最大相関係数法を用いて 算出し、両者を比較した。 最大相関係数法は、においの濃度の対数と臭気強度 評価とがWeber-Fechner 則に従うと仮定した場合に、両 者の線形関係性を最も高くする表現用語間隔が、検臭 時のパネルに認識された間隔であると考える手法であ る。 図6 に、2 種の臭気強度尺度の表現用語間隔を示す。 横軸は尺度表現用語であり、縦軸は最大相関係数法に より算出した間隔値を示す。各臭気強度尺度に対して、 α-pinene および n-butanol の評価を基に算出した間隔値 図 6 臭気強度尺度の表現用語間隔 図 5 快・不快度と非容認率との関係 表 4 許容限度に対応する臭気強度および快・不快度 (1) セット A (2) セット B ※表内数値は、上記の表現用語にあたる。 ◇臭気強度(環境省) ◇臭気強度(阪大) ◇快・不快度
を併記した。環境省尺度は、両臭気から得られた値と も同様な等間隔性の高い傾向を示した。「強い」にあた る間隔値に若干差異は見られるものの、本実験におけ るパネルは、環境省尺度に対して非常に高い等間隔性 をもって使用していることがわかる。一方で、阪大尺 度では高い等間隔性は見られず、n-butanol では「無臭」 と「弱い」が同程度として使用されており、α-pinene では「若干強い」、「強い」、「強烈な」の 3 語が同程度 として使用されていることがわかる。一般的には、環 境省尺度の表現用語は、「やっと感知できる(検知閾 値)」と「何のにおいであるかがわかる弱い(認知閾値)」 との間隔と、「強い」と「強烈な」との間隔が同一では ないとの指摘があるが、本研究結果では反して高い等 間隔性を示した。これは、パネルの大半が環境省尺度 を使用する頻度の高い学生であり、等間隔であるかの ように並べられた 6 個の表現用語を日常的に見慣れて いたことが原因であったのではないかと推察する。こ のようなパネルが実験に参加する場合には、環境省尺 度で得た評価は間隔尺度相当とできる可能性があり、 パラメトリックな分析手法の適用によって、より簡易 な分析を行うことができる。 5.まとめ 本報では、室内におい環境評価手法の簡易化を目標 に、2 種の検討を実施した。検討 1 として、従来より少 人数で測定できる快・不快度を用いて許容限度を推定 する手法の検討であり、従来の臭気強度から推定する 手法と比較して、においの種類による許容限度相当の 値の差異が小さいことを確認した。また、検討 2 とし て、2 種の臭気強度尺度の表現用語間隔の比較を実施し、 本実験に採用したパネル特有の性質である可能性はあ るものの、環境省臭気強度尺度で得たにおいの主観評 価を間隔尺度相当と見なせることを明らかにした。い ずれも、これまでのにおい環境評価手法の簡易化につ ながる可能性がある。 本研究は、平成23年度研究援助金によるものであ る。 参考文献 1)日本建築学会:室内の臭気に関する対策・維持管理 規 準 ・ 同 解 説 , 日 本 建 築 学 会 環 境 基 準 AIJES-A003-2005,2005 2)竹村明久, 山中俊夫, 相良和伸, 甲谷寿史, 桃井良 尚:臭気の官能試験におけるパネル評価の信頼性と 統計的特性,日本建築学会環境系論文集,第77 巻 第 673 号 pp.153-159,2012.3 3)竹村明久, 相良和伸, 山中俊夫, 甲谷寿史, 藤本徹: においの強さ・快適性に関する各種の言語評定尺度 における表現用語間隔の比較,日本建築学会環境系 論文集,第74 巻 第 638 号,pp.495-500,2009.4 4)例えば J.Piggot and R. Harper : RATIO SCALES AND
CATEGORY SCALES OF ODOUR INTENSITY, Chemical Senses and Flavor 1, pp.307-316, 1975
5)竹村明久:においの容認性評価における実験経験回 数と設問表現が評価に及ぼす影響,日本建築学会大 会学術講演梗概集 D-2,pp.587-588,2011 6)竹村明久, 山中俊夫, 相良和伸, 甲谷寿史, 桃井良 尚:中年齢層被験者の表現用語間隔及び臭気提示を 伴う場合の表現用語間隔に関する検討 においの強 さ・快適性に関する各種の言語評定尺度における表 現用語間隔の比較(その2),日本建築学会環境系論 文集,第75 巻 第 648 号 pp.189-196,2010.2