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ポリマ材料を用いた導波路型光スイッチに関する研究

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Academic year: 2021

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第1章 緒言

1.1 研究背景

近年のインターネットの爆発的な普及やオンラインコンテンツなどの大容量化によ って、2025 年のネットワーク機器の電力消費が 2006 年時点の 13 倍になるとの予測[1] があり、深刻なエネルギー問題が懸念されている。そこで、光デバイスの低電力化、高 性能化が強く求められている。 本研究室では光スイッチング技術についての研究を行ってきた。今日の光通信技術で は光信号はネットワーク経路の切り替えの時などに一度電気信号に変換し、また光信号 に戻すといった処理を行う必要があるが、光スイッチング技術はこの信号処理を光のま ま行うことが可能であり、消費電力の削減と光通信のさらなる高速化を実現できる。 今回の研究では、導波路に用いる材料を光ファイバの材料として広く使われている石 英に代わり、熱光学効果に優れ、安価で加工がしやすいポリマ材料の1つであるPMMA (Poly Methyl Methacrylate)を用いた。これにより、光スイッチの小型化、低消費電力 化が期待できる。

また、この研究では光スイッチに作製にPBW(Proton Beam Writing)を用いて導波 路の描画を行った。PBW とはプロトンビームを用いた微細加工技術であり、PMMA にビームを照射することで照射部の屈折率が上昇するという特徴を有している。この特 徴を利用することにより、マスクレスな導波路の作製が可能である。

このPMMA と PBW を利用した導波路型光スイッチの作製を目標として、マッハツ ェンダー型の光スイッチの作製と評価を行った。

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1.2 研究の目的と概要

光スイッチの種類としては大きく分けて、機械式、MEMS、導波路型の 3 つが挙げら れる。機械式は光ファイバを電磁アクチュエータで駆動し、別の光ファイバに切り替え る方式や、レンズで拡大した光ビームをミラーやプリズムの動きで切り替える方式であ る。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スイッチは空間を伝搬する光ビームに 対してマイクロマシン技術を用いてミクロンサイズのミラーやシャッターを挿入して 光の行路を変える光スイッチである。 もう1 つの導波路型光スイッチは本研究で扱う光スイッチであり、その中でも熱光学 効果を利用したTO(Thermo-Optic effect)型光スイッチの作製を行った。 導波路型の光スイッチは他に電気光学効果を利用したLiNbO3などの誘電体光スイッ チや半導体光スイッチなどが存在している[2]。 本研究では導波路にポリマ材料の1 つである PMMA を使用してマッハツェンダー干 渉計(MZI)型の光スイッチの作製を目指した。これはポリマ材料の持つ熱光学効果を利 用してON・OFF を実行する仕組みである。 また、ポリマ材料は石英系よりも熱光学効果が大きいためより少ない消費電力でスイ ッチの動作を行うことが可能である。 導波路部分の作製はPMMA に加速した水素原子(H+)を照射することで屈折率が上昇 する性質(材料改質)に注目し、PBW を用いて光導波路の描画を行っている。 最終的な目標は波長1.55 μm 帯においてシングルモード導波路を作製し、ON 時と OFF 時で 30dB 以上の消光比を持ち、45mW 以下の消費電力で動作する光スイッチを 実現することである。この消光比は高密度波長分割多重通信 (DWDM : Dense Wavelength-Division Multiplexing)システム内で使用するために必要な条件である[3]。 また、消費電力においても平面型の石英系光スイッチ一素子当たりの電力は0.1~ 0.2W、研究レベルでは 45mW[4]となっており、これを超える低消費電力化を目指した。

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1.3 光スイッチの概要

本研究での作製を目指した光スイッチを図1.1 に示す。基板には Si 基板を使用し、 その上にポリマ材料であるPMMA(Poly Methyl Methacrylate)を製膜する。これがコ ア層となる。PBW によってマッハツェンダー型の導波路を描画したのち、上部クラッ ド層(PMMA)を成膜する。導波路コアに沿って Ti ヒータと Al 電極を積載する。

今回試料の評価を行うに当たり、光源はレーザーダイオードを使用した。出力は 100mA で波長は 1.55μm となっている。

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1.3.1 光スイッチの原理

今回採用したマッハツェンダー型導波路は光の位相差を利用することで光スイッチ ング動作を実現している。ここではその動作原理について述べる。 ON 状態の動作イメージを図 1.3-2 に示す。導波路に入射した光は分岐部分にて等分 され、同位相のままコアを通り、導波路の合流部手前にて偶モードが励振される。そし て合流部に入ると2 つの山が 1 つになり、2 モード導波路の基本モード(0 次モード)に 変換される。この時、導波路の分岐部分と合流部分は対称形であり、合流部の長さは波 長や導波路幅に比べて数百から数千倍と、十分に大きいこととする[5]。 図1.3-2 ON 状態の動作イメージ

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OFF 状態のイメージを図 1.3-3 に示す。光を OFF にするためには、Ti ヒータに電流 を流して位相制御部にジュール熱を発生させる必要がある。これにより熱が位相制御部 の下部に走るコア部分に伝わり、熱光学効果によりPMMA の屈折率は低下し、位相制 御部における光の位相速度が速まる。 そして、逆位相となった周波数の等しいコヒーレント光が合流部手前にさしかかると、 奇モードが励振される。そして2 つの導波路の間隔が合流部にて零になると 2 モード導 波路の1 次導波路に変換されるので、シングルモード導波路になる過程で放射され、出 射端には光は現れない[5]。 図1.3-3 OFF 状態の動作イメージ

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1.4 本論文の構成

本論文の構成は以下のとおりである。 第1 章は緒言である。 第2 章は PBW 技術による光導波路の作製と評価について述べる。 第3 章は導波路型光スイッチの作製と評価について述べる。 第4 章は結言である。

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第2章 PBW 技術による光導波路の作製と評価

2.1 はじめに

1997 年ごろより、国立シンガポール大学イオンビーム応用センターにて次世代型 微細加工技術としてPBW(Proton Beam Writing)技術の研究が進められてきた。この 技術はビームにプロトン(H+)を用いることで電子ビームに比べ低散乱での照射が可能 であり、つまりは高い直進性を有しており、また、化学反応収率が良好なため、少ない 照射量で露光でき、加工効率は電子ビームの数十倍以上となっている。さらに、加速エ ネルギーにより侵入深さの制御も可能でありフレキシブルでマスクレスな加工が可能 といった特徴が挙げられる[6]。 図2.1-1 プロトンビームと電子ビームのビーム散乱[6] このプロトンビームをポリマ材料であるPMMA に照射することで PMMA 中の主鎖が 切断され、圧縮効果が起こり、密度が増し、その部分で屈折率が上昇する[4]。そこで、 この屈折率上昇効果を用いて導波路作製を試みた。 本章ではMZ 型光スイッチ作製への足がかりとして直線導波路、Y 分岐導波路、MZ 型導波路と段階を踏んで導波路の作製を行った。

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2.2 試料の作製方法

2.2.1 PBW(Proton Beam Writing)について

本研究では日本原子力研究開発機関(JAEA)のイオン照射実験施設「TIARA」内の装 置を使用して試料の作製を行った。施設内の加速器のモニタリングの様子を図2.2-1 に 示す。 図2.2-1 加速器のモニタリングの様子 図2.2-1 はイオン照射実験施設「TIARA」内の 3 つの装置のモニタリングの様子である。 左からタンデム加速器、イオン注入装置、シングルエンド加速器を表している。 本研究で使用した加速器、3MV シングルエンド加速器は図 2.2-1 中の右の加速器で ある。

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3MV シングルエンド加速器の外観と内部構造を以下に示す[7]。 図2.2-2 3MV シングルエンド加速器[7] 図2.2-3 シングルエンド加速器の内部構造[7] 上図のシングルエンド加速器の中にはRF イオン源を加速器圧力タンク内の高電圧タ ーミナルに内蔵している。このRF イオン源でプロトン(H+)が生成され加速管を通って プロトンビームが放出される。

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加速器で高エネルギー化されたイオンビームは、図2.2-4 の電磁石によって運動量分 析される。磁場によって曲げられる力はどの同位体でも同じなのに対し、遠心力は重さ によって異なることを利用して同位体ごとに進路を分けることが出来る。加速器によっ てイオンは非常に高速になっており、曲げるためにより大きな磁場が必要となるため図 2.2-4 のような電磁石が必要である。 図2.2-4 分析電磁石 加速器によって加速されたプロトンビームはビームラインのなかの電磁界レンズに よって集束されビームを形成し、試料へと照射される。この一連の様子を図2.2-5 に示 す。 図2.2-5 ビーム集束行程[7]

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このビームラインの外観を図2.2-6、図 2.2-7 に示す。 図2.2-6 ビームラインとチャンバー[7] 図 2.2-7 ビームライン(対物スリット) 図2.2-8 はチャンバーの蓋を開けた様子である。カーボンテープで試料をホルダに貼 り付け(図 2.2-9)、ホルダをこのチャンバー内にセットし、プロトンビームの照射を行 う。図2.2-9 はホルダに試料を 2 つ貼り付けた状態である。これはビームを照射するス テージのスケール上では一度に試料2 枚までの描画が可能なためである。 また、ホルダに貼り付けられた試料を剥がす際には、ホルダと試料の隙間にエタノー ルを、ピンセットなどを利用して極少量流し込み、カーボンテープの粘着力を低下させ るなどすると、簡単にホルダから試料を剥がすことが可能である。 図2.2-8 チャンバーの蓋を開けた様子

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図2.2-9 ホルダに貼り付けた試料の様子 シングルエンド加速器の仕様と主なビーム性能は、以下の通りである。 シングルエンド加速器の仕様 昇電圧方式・・・・・・・バランス型シェンケル 加速電圧・・・・・ ・・0.4~3MV(連続可変) 電圧安定度 ・・・・・・・・・・・ ±1.0×10-5 加速粒子 ・・・・・・・・・・・・・H,D,He,e- イオン源 ・・・・・・・・・・・・RF イオン源 主なビーム性能 加速粒子 エネルギー(MeV) 水素 0.4 ~ 3 重水素 0.4 ~ 3 ヘリウム 0.4 ~ 3 電子 0.4 ~ 3

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2.2.2 PMMA(Poly Methyl Methacrylate)について

本研究では導波路の素材にPMMA を用いた。ポリマ材料の一つである PMMA はア クリル樹脂とも呼ばれ、複雑な形状に加工が可能で、耐候性に優れているという特徴を 持っている。その構造式を図2.2-9 に示す。 PMMA にプロトンビームを照射すると、主鎖が切断されて、圧縮効果により密度が 増す。その結果屈折率が上昇するといったPMMA の屈折率上昇効果[9]を用いて導波路 の作製を行った。図2.2-10 はそのイメージである。 図2.2-9 PMMA 構造式 図2.2-10 プロトンビーム照射イメージ 図2.2-10 のように、PMMA の n1部分をクラッド、プロトンビームを照射したn2部 分をコアとした光導波路の作製が可能である。

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PMMA の屈折率は 1.485 である(メトリコン社製プリズムカプラ Modes2010/M を使 用して測定)。図 2.2-11 は PMMA へのプロトンビーム侵入深さと屈折率変化の関係を 表したグラフである。図2.2-11 を参考にして、コア部の屈折率は 1.488 と見積もった。 図2.2-11 PMMA へのプロトンビーム侵入深さと屈折率変化[8]

2.2.4 導波路作製工程

図2.2-12 に作製工程を示す。 図2.2-12 導波路作製工程

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(1) 基板には Si(シリコン)基板を使用 し、その上に RF(Radio Frequency:高周波) マグネトロンスパッタリング装置(ULVAC:SH350-SE)を使い SiO2を成膜する。 これが下部クラッド層となる。スパッタ条件は以下のとおりである。 スパッタ条件 プリスパッタ 5[min] メインスパッタ 922[min] 電力 200[W] ガス流量 Ar:10[sccm]

(2) SiO2の下部クラッド層の上にPMMA のコア層を成膜する。PMMA の成膜にはス

ピンコーターを使用し、厚さは10μmとする。スピンコートの性質上 1 回で10μmの 均一な膜厚の試料を作製することが難しいため、なるべく均一なPMMA 層を成膜 するために2 回に分けて行った。成膜条件は以下のとおりである。 PMMA 製膜条件(5μm) スピンコート 1300[rpm] × 30[s] ベーキング 120℃ × 2[min] スピンコーターにより5μm厚となった PMMA 膜をドライオーブンに入れベークを 行う。この工程を2 回行うことにより10μm厚の PMMA 層を成膜することができ る。 (3) プロトンビームを照射し、導波路コアを描画する。 (4) 上部クラッド層を PMMA で成膜する。膜厚はコア層と同じ10μmである。

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2.3 近視野像の評価方法

2.3.1 導波光の近視野像の評価方法について

導波光の近視野像の評価には以下の図2.3-1 のような測定系を用いた。 図 2.3-1 近視野像の測定系 カメラ制御装置は浜松ホトニクス製カメラコントローラ C2741 を使用した。ITV カ メラは浜松ホトニクス製カメラC2741-03 を使用した。 光源にはsantec 製マルチモジュール波長可変光源 MSL-2100 を使用した。 まず、FC コネクタを用いて、波長1.55μmのレーザ光を試料の導波路に入射する。(FC コネクタは試料に近づける側の接続端子部を外し、ワイヤーストリッパーで光ファイバ を剥き出しにしてある。) その後、出射した導波光を顕微鏡により拡大し、ITV カメラ にて観測した。

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2.3.2 シングルモード導波路について

本研究ではシングルモード導波路の作製を目指している。シングルモード導波路とは 光導波路における、光の伝搬モードが単一の状態(基本モード)で伝搬する導波路の事を 指し、複数のモードに分散して伝搬する状態(高次モード)の導波路はマルチモード導波 路と呼ぶ。 シングルモードはモード分散を起こさないため、マルチモードに比べて光の伝送損失 が小さく、伝搬速度が速い[9]。 シングルモードとマルチモードはコアとクラッドの 屈折率の差や、コア自体の大きさによって決まる。一般的には、シングルモード導波路 の屈折率差は0.3%、コアのサイズは 10μm 角程度である。 このシングルモード導波路とマルチモード導波路を見分けるために、励振条件の変更 を行い、近視野像の評価を行った。励振条件の変更とは光ファイバの先端を導波路のコ アから動かすことを指し、この状態で観測された光のスポットが1 つであればシングル モード、2 つ以上に分かれているスポットが見えればマルチモードであるという方法で 評価を行った。図2.3-2 に評価の方法を示した。 図2.3-2 シングルモードの見分け方

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2.4 光導波路試料の作製と評価

本節では、まず導波路幅の異なる直線導波路を複数本描画し、シングルモード導波路 となるコア径を求めた(図 2.4-1)。次に Y 型分岐導波路を作製して近視野像の評価を行 い、分岐した導波光やプロトンビーム照射条件に問題が無いかを調べた。このY 型分 岐導波路の概略図を図2.4-2 に示す。さらにマッハツェンダー干渉計型の導波路を描画 し、導波光の近視野像の評価を行った。このマッハツェンダー型導波路の概略図を図 2.4-3 に示す。 図2.4-1 直線導波路 図2.4-2 Y 型分岐導波路 図2.4-3 マッハツェンダー型導波路

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2.4.1 直線導波路の作製

直線導波路に関する内容は一部を本研究室の過去の論文[10]から引用する。はじめに、 前項で述べた導波路の作製工程を用いて以下のような試料を作製した。 図2.4-4 導波路詳細 ※1 メトリコン社製プリズムカプラModes2010/M を使用して測定 (測定波長 1548nm、TE モード) ※2 [6]参考 上図 2.4-4 に示した導波路のコア幅 w を 4μm , 6μm , 8μm , 10μm , 12μm , 14μm , 16μm の 6 つの条件で描画を行った。図 2.4-5 はその概略図である。 図2.4-5 直線導波路試料のイメージ

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また、プロトンビーム照射条件を決めるため、試料を2 つ作製しドーズ量を 100nC/mm2200nC/mm2とした。以下に詳細な条件を記す。 直線導波路試料A 照射エネルギー 1.7MeV ドーズ量 100 nC/mm2 導波路幅 4 , 6 , 8 , 10 , 12 , 14 , 16 μm 導波路長 15mm ビーム電流 ~60pA 照射時間 1750 sec/sample 直線導波路試料B 照射エネルギー 1.7MeV ドーズ量 200 nC/mm2 導波路幅 4 , 6 , 8 , 10 , 12 , 14 , 16 μm 導波路長 15mm ビーム電流 ~120pA 照射時間 1750 sec/sample 図2.4-6 は光学顕微鏡で撮影したそれぞれの直線導波路の表面の様子である。 直線導波路試料A 直線導波路試料 B 図2.4-6 直線導波路試料表面観察

100nm

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2.4.2 試料基板のカットについて

近視野像の評価を行う前に、光ファイバからの光結合及び出射光の観察を容易にする ために、基板のカット(へき開)を行って導波路の端面出しを行った。 図2.4-7 はそのイメージである。図 2.4-8 は基板カットの手順である。図 2.4-9 はカ ット後の試料を光学顕微鏡で撮影した様子である。 図2.4-7 基板カットのイメージ 基板カットの手順を図2.4-8 に示す 図2.4-8 試料基板のカット

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図2.4-9 より、綺麗にカットが行えたことが分かる。また、端まで導波路コアが達し ていることも確認できる。

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2.4.3 直線導波路の評価

近視野像の評価結果を以下に示す。 表2.4-1 直線導波路試料 A(ドーズ量 100nC/mm2) 評価結果 導波路幅 [μm] 励振条件変更前 励振条件変更後 モード 4 シングル 6 シングル 8 シングル 10 マルチ 12 シングル 14 マルチ 16 マルチ

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表2.4-2 直線導波路試料 B(ドーズ量 200nC/mm2) 評価結果 導波路幅 [μm] 励振条件変更前 励振条件変更後 モード 4 シングル 6 シングル 8 シングル 10 マルチ 12 マルチ 14 マルチ 16 マルチ 上記の結果より、ドーズ量100nC/mm2の時は12μm でシングルモードとなっており、 ドーズ量200nC/mm2の時は8μm までの導波路がシングルモードとなっているため、 ドーズ量が多くなることで、シングルモード導波路となる導波路幅は狭まることが分か った。また導波光の大きさが10μm 程度でありシングルモード光ファイバとの整合性も 良好といえる。

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2.4.4 Y 型分岐導波路の設計

Y 分岐導波路を作製し、導波特性の評価を行った。それにより分岐後に導波光が見え るのか、またその分岐後の導波光の強度分布を調べ、プロトンビームの照射条件に問題 がないか確かめた。図2.4-10 は Y 型分岐導波路の設計図である。 図2.4-10 Y 型分岐導波路設計図 (上図:直線で構成されたY 分岐導波路、下図:正弦関数を用いた曲線導波路) 素子長15mmの導波路を、プロトンビームを用いて描画を行った。分岐角度θは2°で あり、分岐後の2 本の導波路間の距離は310μmである。これは片方の導波路に熱を加え る時に、もう片方の導波路に熱が干渉しない程度に導波路間を離す必要があるためであ る[11]。また、前節の直線型導波路の結果を参考にして、コア幅 8μm、ドーズ量 100nC/mm2の条件で導波路の描画を行うこととした。 また、描画方法に関して、直線部分、Y 分岐部分、直線部分の 3 つの工程に分けて行 った。 図2.4-11 Y 分岐導波路描画工程

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2.4.5 Y 型分岐導波路の作製

図2.4-12 に Y 分岐導波路構造を示す。 図2.4-12 Y 分岐導波路 導波光が確認できた試料に関して照射条件を示す。Y 分岐導波路①の照射条件を表 2.4-3 に、Y 分岐導波路②、③、④、⑤に関しては表 2.4-4 に示す。また、Y 分岐導波 路①、②、③の試料は図2.4-10 の上図の直線で構成された Y 分岐導波路を、Y 分岐導 波路④、⑤の試料が図2.4-10 で示した下部の曲がり導波路構造を適用している。この 2 つの導波路構造はシミュレーション結果[11]より、曲がり導波路の方が低損失で導波で きると考えてられている。 表2.4-3 照射条件 A 照射エネルギー 1.7[MeV] ドーズ量 100 [nC/mm2] 導波路幅 8[μm](設定値) ビーム電流 ~10[pA] 描画回数 10 回 描画方法

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表2.4-4 照射条件 B 照射エネルギー 1.7[MeV] ドーズ量 100 [nC/mm2] 導波路幅 8[μm](設定値) ビーム電流 ~10[pA] 描画回数 10 回(5 往復) 描画方法

2.4.6 光学顕微鏡による表面観察

導波路形成後の試料表面を、光学顕微鏡を用いて観察した。図2.4-13~図 2.4-17 に 示す。なお、表面観察は上クラッド成膜前に行った。 図2.4-13 Y 分岐導波路① 表面観察画像 図2.4-14 Y 分岐導波路② 表面観察画像 100μm

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図2.4-15 Y 分岐導波路③ 表面観察画像 図2.4-16 Y 分岐導波路④ 表面観察画像 図2.4-17 Y 分岐導波路⑤ 表面観察画像 表面観察の結果ビーム照射部分でPMMA 圧縮効果による変化を確認することができ た。Y 分岐導波路①とそれ以外では表 2.4-3, 2.4-4 に示すように描画方法が異なる。こ れは、プロトンビーム照射後の不安定さを補うもので、ビームを往復させることで照射 時のムラを減らそうとしたものである。 図 2.4-14 の表面観察結果より、直線導波路部分で、30μm 程度の導波路の欠損があ ることが確認できた。 図2.4-16 の表面観察結果より、片方の導波路上に気泡のようなものが確認できた。 100μm

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2.4.7

Y 型分岐導波路の近視野像観察結果

表2.4-5 に結果を示す。 表2.4-5 Y 分岐導波路近視野像 励振条件変更前 励振条件変更後 Y 分岐導波路① Y 分岐導波路② Y 分岐導波路③ Y 分岐導波路④ Y 分岐導波路⑤ 図2.4-13 のY 分岐導波路②の表面観察結果より、直線導波路部分で、30μm 程度の導 波路の欠損があることが確認できたが、表2.4-5 のY 分岐導波路②近視野像観測結果よ り、導波光を確認できたことから、この程度の欠陥は問題とはならないということが考 えられる。 表2.4-5 のY 分岐導波路④近視野像観測結果では、一つの導波光しか確認することが できなかった。これは、図 2.4-15 の Y 分岐導波路④の表面観察結果より導波路上に気 泡があることから、その導波路では導波光の確認ができなかったと考えられる。導波路 の成膜時には気泡を作らないように注意が必要である。

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Y 分岐導波路③の試料についてY 分岐後の導波光の強度比を測定した。図 2.4-18 にそ の結果を示す。測定系は図2.3-1 を用いて、顕微鏡と ITV カメラ間の距離を取ることで 像を拡大している。 図2.4-18 光の強度分布 測定の結果、2 つの導波光の強度ピーク比は 1:0.96 となり、Y 分岐に問題が無いこと が確認できた。 ここまで、照射時のビーム電流は10pA で、導波路形成に照射回数を 10 回で行って きた。しかし、この方法は一つの試料を作り上げるのに時間が掛かるので、ビーム電流 を上げて重ね描き回数を減らしても問題なく導波するのかどうか調べた 。条件として 以下の表2.4-6 に示す。 表2.4-6 照射条件の変更 ビーム電流(pA) 描画回数 Sample 8 10 10 Sample 9 50 2 Sample 10 100 1

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図2.4-19 から図 2.4-24 にそれぞれの条件での、光学顕微鏡による表面観察画像、照 射部のAFM(原子間力顕微鏡)画像、近視野像の評価を以下に示す。

図2.4-19 Sample 8 (10pA-10 回照射) 表面観察画像

図2.4-20 Sample 8 (10pA-10 回照射) AFM 画像

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図2.4-22 Sample 9 (50pA-2 回照射) AFM 画像

図2.4-23 Sample 10 (100pA-1 回照射) 表面観察画像

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図2.4-25 Sample 8(10pA-10 回) 近視野像 図 2.4-26 Sample 8 励振条件変更

図2.4-27 Sample 9(50pA-2 回) 近視野像 図 2.4-28 Sample 9 励振条件変更

図2.4-29 Sample 10 (100pA-1 回)近視野像 図 2.4-30 Sample 10 励振条件変更 図2.4-19、図 2.4-21、図 2.4-23 から照射回数が増える(ビーム電流は小)方が照射 回数少ない(ビーム電流大)ときよりも、よりくっきりと導波路を確認することができ た。図2.4-23 の 100pA を 1 回照射した際の表面観察画像にはむらが目立った。また、 図2.4-20、図 2.4-22、図 2.4-24 から照射回数が減るにつれて照射が荒くなっているの が確認できる。

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図2.4-25 から図 2.4-30 の近視野像の結果より、励振条件を変化後、高次モードは観 測されず基本モードのみが観測されたため、全ての条件でシングルモード導波路を確認 することができたと考えられる 。 この結果から、ビーム電流を上げて重ね描き回数を減らしても問題なく導波すること が確認できた。しかし、今回の結果のみで判断するのはまだ早いと考える。今回は導波 の際の損失評価まで至らなかった。照射回数が減るにつれて照射が荒くなっていること から、損失が増すのではないかと考えられる。そこで今後は導波の際の損失の評価を行 うことで、より最適な照射条件を決定するのが望ましいと考えられる。

2.4.8 マッハツェンダー型導波路の作製

上記の2 つの導波路の評価を経て、マッハツェンダー型導波路の作製を行った。 図2.4-31 にマッハツェンダー型導波路の概要を示す。また、マッハツェンダー型導 波路の作製は、Y 型分岐導波路を二回逆向きに描画することで、1 つのマッハツェンダ ー型導波路とした(図 2.4-32)。 図2.4-31 マッハツェンダー型導波路の概要 図2.4-32 マッハツェンダー型導波路描画方法

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プロトンビーム照射条件は以下のとおりである。 表2.4-7 プロトンビーム照射条件 ビーム径 1.1[𝜇𝑚𝜙](~1.1[𝜇𝑚] × 1.1[𝜇𝑚]) エネルギー 1.7[𝑀𝑒𝑉] ドーズ量 100[𝑛𝐶/𝑚𝑚2] 導波路幅 8[μm] ビーム電流 50[pA] 描画回数 2 回(1 往復) 描画方法 図2.4-33 は、実際に作製した試料をデジタルカメラで直接撮影した写真である。 図2.4-33 からは確認できないが、導波路は肉眼でも確認することが可能である。 図2.3-34 はマッハツェンダー型導波路試料の概略図である。 図2.4-33 MZI 型導波路試料 図 2.4-34 MZI 型導波路概略図

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また、光学顕微鏡を使用して試料表面の観察を行った。撮影した導波路を図2.4-35 と図2.4-36 に示す。図 2.4-35 と図 2.4-36 はそれぞれ直線部分と分岐部分である。 図2.4-35 光学顕微鏡を用いて撮影した導波路の直線部分 図2.4-36 光学顕微鏡を用いて撮影した導波路の分岐部分 上図より、導波路がきれいに描画できていることが確認できる。 また図2.4-35 は 2 つの Y 分岐が重なる、マッハツェンダー型導波路の中心部分である。 近視野像の評価を行う前にへき開を行う必要があるが、マッハツェンダー型導波路の 場合、位相制御部の装荷を行った後に、もう一度へき開を行う必要があるため、2 度の へき開ができるよう導波路の直線部分に余裕を持たせてへき開する必要がある。

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2.4.9 マッハツェンダー型導波路の近視野像の評価

導波光の近視野像の評価の結果を図2.4-37、図 2.4-38、図 2.4-39、図 2.4-40 に示す。 図2.4-37 は確認した導波光の強度プロファイルの結果である。図 2.4-38 は励振条件 変更後の導波光のプロファイル結果である。図2.4-39 と図 2.4-40 はそれぞれの拡大図 である。 図2.4-37 導波光の近視野像 図 2.4-38 励振条件変更後 図2.4-39 近視野像拡大図 図 2.4-40 励振条件変更後拡大図

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以上の観察結果より、導波光を確認することができた。また、励振条件変更後にも高 次モードは見られなかった。よって、マッハツェンダー型のシングルモード導波路の作 製に成功したと言える。 また、パワーメータを用いてマッハツェンダー型導波路の導波光の強度を求めた。パ ワーメータは安藤電気株式会社製、光マルチメータAQ2140 を使用した。図 2.4-41 の ような測定系を使用した。 図2.4-41 光強度の測定系 その結果、試料へ入射する前の光強度が3300nW、試料から出射した光強度が 150nW となり、その強度比は13.4dB となった。つまり、今回作製した試料の光損失は 13.4dB となる。 本研究室の過去の論文[11]を参考にすると、同様の PBW 条件で作製した PMMA 製 の直線光導波路素子の結合損失と伝搬損失は 結合損失:5.4dB 伝搬損失:1.6dB/mm となっている。今回作製したマッハツ ェンダー型光導波路の素子長は35mm であるため、全体の損失は上記のデータを用い ると61.4dB 以上の損失が出る計算になるが、今回の光強度の評価においては測定系を 改善したこともあり、損失を少なくできたと考えることができる。 [11]より、結合損失 5.4dB を参考にしてこのマッハツェンダー型光導波路の伝搬損失

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を求めると、伝搬損失は0.38dB/mm となる。文献[12]を参考にすると伝搬損失は 632.8nm 帯の波長に対しては0.14±0.02dB/mm という報告があり、今回の値と比較すると 2 分の 1 以下の値となっている。この文献は1.55μm の波長に対する文献ではないため比較すること は難しいが、導波路構造の違い、入射端の状態、あるいは照射条件において文献ではドー ズ量を50nC/mm2としている点などが損失の差に影響する可能性があると考えられる。

2.5 まとめ

この章ではPBW 技術を利用してマッハツェンダー型光導波路の作製を目指し、3 段 階の工程を経て、光導波路の評価を行った。まずPMMA を用いた直線導波路を作製し、 近視野像を観測した。その結果、コア幅8μm 以下でシングルモード導波路となるとい う条件を見つけ出した。 次に、Y 型分岐導波路を作製し、その分岐後の導波光の確認と強度比を調べ、1:0.96 という強度比を得ることができ、導波路としての機能に問題が無いことを確認した。最 後にマッハツェンダー型導波路を作製し、波長1.55μmにて導波光を確認できた。その 近視野像を評価したところ、シングルモード導波路であることを確認した。 さらに、パワーメータを用いて、マッハツェンダー型の光導波路素子の伝搬損失を求 め、その値は0.51dB/mm となったが。文献[12]と比較すると、損失が大きいことが分 かった。 以上の結果をもって、マッハツェンダー型のシングルモード光導波路の作製に成功し たと言えるが、測定系のさらなる改善や、PBW 条件を見直すことで、光強度の損失を より抑える必要があるといえる。

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3 章 導波路型光スイッチの作製と評価

3.1 はじめに

前章において、マッハツェンダー型の光導波路の作製に成功した。これを用いて本章 では位相制御部を作製、装荷し、導波路型の光スイッチの作製を目指した。 本研究において作製を目指したマッハツェンダー型の導波路型光スイッチの位相シ フタであるチタン(Ti)ヒータとアルミニウム(Al)電極部についての設計、及び作製条件 については本研究室の過去の研究[13]である感光性ポリシランを用いた光スイッチの 作製を参考にしており、その研究ではPBW を利用してはいないものの、マッハツェン ダー型の光スイッチの作製を目指しており、導波路の設計をほぼ同様に行っているため、 問題なく動作するものと考え、位相シフタの作製を行った。

3.2 光スイッチの概要

図3.2-1 導波路型光スイッチ概要 本項では、図3.2-1 に示すような光スイッチの作製を目指した。基板はシリコンを使用 した。その上にRF スパッタリング法を用いて SiO2の下部クラッド層を成膜した。コ ア層としてPMMA を成膜し、導波路の描画を行った。さらに上部クラッド層として PMMA を成膜した。次に、位相制御部の作製を行った。位相制御部はチタン(Ti)による ヒータ部(位相シフタ部)とアルミニウム(Al)による電極部の 2 つのパーツから成る。

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3.3 位相シフタの設計

極低消費電力化のための設計として、薄膜ヒータから導波路を経由して放散する熱 (QW)の熱抵抗を高めることに努力が払われてきた[14]。図 3-3 より、加熱した薄膜ヒー タから導波路を経由して基板に熱QWが流れる。一方電極部においても熱の良導体から なり、そこを通る熱が放散することは容易に想像できる。これらの熱をQEとする。図 3.3-1 は片方の電極からの放熱を表しているため、1/2 と記載した。現実の導波路型光 スイッチの動作条件、パッケージ形状を考えると、薄膜ヒータからの熱の放散様式は熱 伝導が主で、対流や放射による項は無視できる[14]。 図 3.3-1 位相シフタと伝熱のイメージ 電源から供給された電力は薄膜ヒータにおいてジュール熱Q に変換される。Q の一 部は薄膜ヒータ直下の光導波路を貫通して基板に流れ(QW)残りは電極等を経由して周 囲に放散する(QE)。薄膜ヒータで発生するジュール熱 Q により薄膜ヒータは温度 THと なる。THの値は、電熱計算でよく用いられる等価な電気回路として考えられ、電気抵 抗の並列接続の計算と同様にして

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𝑇𝐻 = 1𝑄 𝑄𝑊+ 1 𝑄𝐸 + 𝑇𝐴 (1) で与えられる[15]。ここで TAは周囲温度である。(1)式より、少ない電力で高い THを得 るためには光導波路の熱抵抗RWだけでなく、電極等の熱抵抗REを大きくすることが 必要なことが理解できる。先に述べたように、QEは薄膜ヒータの温度THに比例し、大 きくなることが分かる。したがって位相シフタは低温で動作するようにした方が低消費 電力化に有利である[14]。 よって本研究ではこれらの条件を満たすべく、ヒータ材料にTi を、電極に Al を用いて 位相シフタの設計、作製を行った。 ヒータの幅はエッチングの段階におけるサイドエッジを考慮し、1μm 余分にとって、 11μm としている。厚さ 0.1μm、長さ 2.5mm でコア直上にできるように位置を合わせ た。Al 電極も同様に幅 11μm、厚さ 0.3μm である。取り回しは図 2-2.7 に示すよう、 ヒータとの接続部からコアの直上に500μm 沿わせた後、コアと直角に曲げ、コアから 100μm 離した後ボンディング用のパッドを設けた。パッドは 100μm 角とし、厚さは電 極と同じく0.3μm である。 コアの直上を500μm にわたり電極を引き回したのは、導波路加熱をヒータだけでな くヒータによって温まった電極も使うためである。これはヒータから電極に流れ出す熱 の有効利用である[14]。 図3.3-2 位相シフタの設計

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3.4 位相シフタの作製

エッチングの関係上、先にTi ヒータを作製し、その後に Al 電極の作製を行った。Ti 及びAl はいずれも抵抗加熱式の真空蒸着法で蒸着させる。

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3.4.1 Ti ヒータの作製

以下にTi ヒータ作製方法を示す。 1. 真空蒸着装置にて Ti を蒸着した。 2. スピンコーターにてレジスト(TSMR8900)を塗布し、【条件:回転数(rpm×秒) 1st 800×3―2nd 1000×20―3rd 5000×2】ドライオーブンにてプリベーク【条件: 70℃-2 分】を行った。 3. 試料にフォトマスクを被せ、マスクアライナーで位置を合わせ 1.4 秒間の紫外線 露光を行った。 4. NMD3 現像液を用いて現像をおこなった。 5. フッ酸(BHF110)を用いて Ti 薄膜をエッチングした。 6. UV ランプを用いて 1 分間露光し、NMD3 現像液を用いてレジストを剥離した。 このような工程でTi ヒータ完成となる。作製工程図を図 3.4-3 に示す。 図3.4-3 Ti ヒータ作製工程

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図3.4-4 Ti エッチング後、試料表面顕微鏡観察結果 Ti 蒸着後、試料にひび割れが発生してしまう事象が多発した。Ti 蒸着時のひび割れ を防ぐことはその後の作業工程に大きく影響してくるので非常に重要である。そこでひ び割れを抑える方法を以下に記述する。 ①ガリウム塗布 試料と試料ホルダ(蓄熱ブロック)との間にガリウムを塗布することで放熱を促す。こ の時ガリウムは試料の大きさと同じくらい試料ホルダに塗りつけて耐熱テープで試料 をしっかりと密着させる。 ②試料とTi フィラメントの位置 試料が Ti フィラメントの真上にくるように設置されているとひび割れの発生率が高 いことが分かった。これもTi フィラメントからの熱が原因であると思われるが、試料 を設置する場所も検討する必要がある。 ③蒸着時間、電流 Ti は水晶振動子により膜厚を制御しており、900Hz 下がるまで蒸着するのだがこの とき一度に900Hz 下げてしまうのではなく数回に分けて行うことで試料への蓄熱を抑 えている。現在行っている方法としては Ti フィラメントに流れる電流は 16A とし、 300Hz ごとに区切り行っている。この時、蒸着時間が 10 分以内であるとひび割れの発 生を大幅に抑えられている。しかし、電流と蒸着時間に関してはまだ最適な条件がある と思われるので今後も調査をしていく必要がある。

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④試料の冷却 試料の冷却も重要であり、以前は蒸着後の冷却はベルジャー内で1 時間程度放置して いたが、冷却が足りずにひび割れも発生してしまうことも少なくなかった。そこで、 300Hz 蒸着が終わったら一度ベルジャーを開け、試料を取り出すことで冷却を行って いる。 またTi エッチングの際に、レジストも同時に剥がれてしまい、ヒータ部分が残らず、 無くなってしまうといった事も多々あり、フッ酸に浸してからTi が溶け出すまでの時 間が試料ごとに異なり、再現性の高い条件を見つけることが困難であった。これを改善 するために、攪拌機を使い、フッ酸を撹拌し温度を統一する。または、Ti の蒸着の改 善も考える必要がある。本研究で利用した真空蒸着法に代わり、電子ビーム蒸着を試す 方法である。電子ビーム蒸着法ならば、蒸着中に試料に熱を加えることが無いので、 PMMA に対するダメージを抑えることが可能であると考えられる。

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3.4.2 Al 電極の作製

Ti ヒータ作製後、Al 電極を作製する。以下に作製工程を示す。 1. 真空蒸着装置を用いて Al を蒸着した。 2. スピンコーターにてレジスト(TSMR8900)を塗布した。回転数は Ti ヒータ作製 時と同じである。ドライオーブンにてプリベーク(70℃-2 分)を行った。 3. 試料にフォトマスクを被せ、Ti ヒータの部分にマスクアライナーで位置を合わ せて1.4 秒間の紫外線露光を行った。 4. NMD3 現像液を用いて現像した。 5. 燐酸:硝酸:純水を 20:1:1 の割合で混合した液に Al を 2 分~4 分浸し、エ ッチングを行った。 6. UV ランプを用いて 1 分間露光し、NMD3 現像液を用いてレジストを剥離した。 このような工程でAl 電極完成となる。作製工程図を図 3.4-5 に示す。 図3.4-5 Al 電極作製工程

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図3.4-6 Al エッチング後、試料表面顕微鏡観察結果

Al のエッチングでは Ti エッチングと異なり、ほとんどの試料でエッチングが成功し た。Al エッチングに使用した酸の混合液は、フッ酸と違い、下部クラッド層である SiO2

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3.5 測定系と導波光の評価方法について

以下のような測定系を使用して、近視野像の評価を行った。 図3.5-1 光スイッチ測定系 測定に用いた光ファイバはFC コネクタの片方の接続端子部を外し、被覆をワイヤー ストリッパーで剥いで使用した(図 3.5-1)。カメラ制御装置は浜松ホトニクス製カメラ コントローラ C2741 を使用した。ITV カメラは浜松ホトニクス製カメラ C2741-03 を 使用した。 光源にはsantec 製マルチモジュール波長可変光源 MSL-2100 を使用した。 定電流源から位相シフタに電流を流し、ヒータに熱を発生させる。これにより変化す る導波光の近視野像をパソコン上で観察、評価する。この時、プローブ間電圧V1およ び抵抗間電圧V2をテスタで測定する。V2を抵抗値(1kΩ)で割ると Ti に流れる電流 I が 求められ、これをV1と掛けることでヒータ間の電力値W を求めることができる。そし て、ヒータ間電力値W と光強度の関係のグラフを作成した。

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3.6 スイッチング特性評価結果

近視野像の評価結果を図3.6-1 に示す。 (a) ON 状態 (b) OFF 状態 図3.6-1 近視野像 図3.6-1 より、(a)が位相シフタに電流を流していない状態の近視野像の様子である。 導波光がはっきりと確認でき、ON 状態であることが分かる。(b)は位相シフタに電流を 流した状態である。電流を流す前と比べると、導波光が確認できず、OFF 状態である ことが分かる。 以上より光スイッチング動作の確認に成功したと言える。

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図3.6-2 にスイッチング特性のグラフを示す。 図3.6-2 スイッチング特性 スイッチング特性では消光比9.0dB 消費電力 43.9mW という結果が得られた。本研 究の目標値は消光比では30dB[3]、消費電力 45mW[4]であるので消光比を改善する必 要がある。また、理想的なスイッチング特性のグラフはsin 波のような波形を描くと想 定していたが、今回の評価では波形にはならなかった。原因として考えられるのは光強 度の評価方法である。今回の評価結果はパソコンに表示される画像を保存し、その画像 を画像処理ソフト「bmp2csv」を用いて数値化し、それぞれの強度の最大値を探すこと で行った。その結果、実際に得られる光強度とパソコン上から読み取っている光強度に ついて直線性が保障されていないため、真の消光比が測定できていないと考えられる。 これは、導波光の強度を、光パワーメータ等を用いて直接測定することで解決できると 考えられる。

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3.7 まとめ

この章ではマッハツェンダー型の光スイッチの作製、主に位相シフタ部の作製と、光 スイッチとしてのスイッチング動作、スイッチング特性についての評価を行った。 まず、位相シフタのメインのパーツであるTi ヒータの作製を行った。しかし、Ti と いう加工が困難な金属を用いたせいか、蒸着やエッチングが一筋縄ではいかず、安定し た作製条件を見つけることはできなかった。次に、Al 電極の作製を行った。こちらは 安定した成功率で、ほぼ失敗なく電極の作製を行うことができた。 位相シフタの完成後はスイッチング動作、及びスイッチング特性の評価を行った。 その結果スイッチング動作の確認に成功し、消費電力43.9mW の素子を作製すること ができたが、ON 時と OFF 時の消光比が目標としていた値である 30dB にとどかなか った。消光比の改善のために、近視野像の評価方法の改善や、Ti エッチング条件の改 善、特定が必要だと考えられる。

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4 章 結言

本研究ではポリマ材料の1 つである PMMA にプロトンビームを照射して導波路を作 製するPBW 法に着目し、波長1.55μm帯で機能する導波路型の光スイッチを作製するこ とを目標として、マッハツェンダー型光スイッチの作製と評価を行った。 過去の研究でPBW 法により作製した直線導波路の評価を行っていたため、今回の研 究ではその続きであるY 型分岐導波路と完成形であるマッハツェンダー形導波路の作 製と評価を行った。Y 型分岐導波路では、直線導波路の結果により設定したプロトンビ ームの照射条件で、導波光を確認することができ、励振条件を変更した状態でも基本モ ードの導波光を確認することができた。これによりY 型分岐導波路において、シング ルモード導波路が作製できたことが分かる。そしてこのY 型分岐導波路を 2 つ逆向き に描画することで作製したマッハツェンダー型導波路でも基本モードの導波光を確認 することができた。よってマッハツェンダー型導波路において、シングルモード導波路 の作製に成功したと言える。 次に、位相シフタの作製をするため、真空蒸着装置を用いてTi ヒータと Al 電極の装 荷を行った。完成した光スイッチのON 時と OFF 時の光の消光比を調べ、電力消費量 を求めて光スイッチとして機能するかどうかを検討した結果、スイッチング特性は消光 比9.0dB 消費電力 43.9mW であった。消光比が良くない理由として Ti 蒸着時に発生す る試料のひび割れと測定系の2 つが考えられる。今後、Ti 蒸着時に試料への蓄熱を抑 えること、また、光強度の評価にパワーメータを用いることで改善されると思われる。

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謝辞

本研究を行うに当たり、研究環境の提供と丁寧且つ的確な助言で終始お世話になりま した三浦健太准教授に心よりの感謝を申し上げます。 本論文の作成に当たり、お忙しい中審査をしてくださった、花泉修教授に感謝いたし ます。また、様々な場面で多数のご助言、ご指導を頂き心より感謝いたします。 本論文の作成に当たり、お忙しい中審査をしてくださった、高田和正教授に心よりの 感謝を申し上げます。 PBW 技術を使用した光デバイスの共同研究を行うにあたり、お忙しい中試料の作製、 及び装置をお借りさせていただいた日本原子力研究開発機構の神谷富裕氏、石井保行氏、 佐藤隆博氏、江夏昌志氏、大久保猛氏、加田渉氏、山崎明義氏、横山彰人氏に心より感 謝致します。 本研究内外で多数のご助言、ご指導を頂いた、佐々木友之助教に心より感謝致します。 本研究を行うに当たり研究環境の提供、また、多数のご助言を頂いた技術専門職員の 野口克也氏に心より感謝致します。 この研究を行うに当たり共に研究を行い、また、多くのご指導を頂いた本研究室の OB である Jaspal Parganram Bange 氏、上原政人氏、桐生弘武氏、大塚啓祐氏に心よ り感謝いたします。 日々の研究を行うにあたり、共に研究を行ってくださった修士1 年の久保田篤志氏、 学部4 年の和田拓也氏に心より感謝いたします。 本研究を行うに当たり、様々な場面でご助力いただき研究室での生活を有意義な物に していただいた同研究室の先輩方と同期の皆様、後輩の皆様に、心より感謝致します。 本研究は多くの方々のご指導とご厚意の上に行われたものであり、この項を借りまし て、改めて関係者諸氏に感謝とお礼の気持ちを申し上げます。

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参考文献

[1] 経済産業省資料「グリーン IT イニシアチブ」2007 年 12 月 [2] 森の里ホームズ http://mh.rgr.jp/mh.htm [3] 武藤真三「超高速フォトニックネットワーク用光スイッチデバイスにかかわる研 究開発」 SCOPE 第2回成果発表会 予稿集 [4] NTT 技術ジャーナル 2005.5 http://www.ntt.co.jp/journal/0505/files/jn200505012.pdf [5] 國分泰雄「光波工学」共立出版 1999 [6] 芝浦工業大学フレキシブル微細加工研究センター http://www.cfm.ae.shibaura-it.ac.jp/index.html [7] イオン照射研究施設 TIARA イオン加速器管理課 HP http://www.taka.jaea.go.jp/tiara/662/662j/index/index_j.htm [8] I. Rajta et al., Nucl. Instr. And Meth. B 260, 400 (2007) [9] 末松安晴・伊賀健一 “光ファイバ通信入門”(改訂 4 版) ISBN4-274-20198-8 オーム社 [10] 桐生弘武“ポリマ材料を用いた光機能性デバイスの作製および評価に関する研究” 平成21 年度 群馬大学卒業論文 [11] 上原政人“ポリマ材料を用いた光スイッチに関する研究”2011 年群馬大学大学院 修士学位論文

[12] T.C. Sum et al., Jounal of Lightwave Technology, Vol, 24, NO. 10, October 2006 [13] 町田裕貴“ポリマー及び液晶材料を用いた光機能性デバイスの設計と作製に関

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[14] TECHNICAL REPORT OF IEICE. OPE2004-220(2005-02) [15] 一色尚次、北山直方「伝熱工学」森北出版、1971

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付録

BPM 法によるシミュレーション結果

分岐角度2θ=1°、曲率半径 R=17cm、オフセット 0.15μm の曲がり導波路で構成されたMZ 型導波路 (a) MZ 型導波路の半分のレイアウト図 (b) MZ 型導波路全体の MZ 型導波路全体の x–z 平面上の界分布|E(x,z)| (縦軸の単位はAmplitude、x 及び z 軸の単位は μm)(全体の損失 0.1542 dB)

図 1.3-1  光スイッチ概略図
図 2.4-9 より、綺麗にカットが行えたことが分かる。また、端まで導波路コアが達し
図 2.4-19    Sample 8 (10pA-10 回照射)  表面観察画像
図 2.4-22    Sample 9 (50pA-2 回照射)  AFM 画像
+5

参照

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