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科学的進化概念形成を基軸とした理科カリキュラム開発とその授業実践に関する研究

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- 1 -

博 士 論 文

科学 的進 化 概念 形成 を 基軸 とし た 理科 カリ キ ュラ ム

開発 とそ の 授業 実践 に 関す る研 究

2020

兵庫教育大学大学院

連合学校教育学研究科

教科教育実践学専攻

(兵庫教育大学)

名 倉 昌 巳

(2)
(3)

- 3 -

目 次

序 章 問題の所在と研究の目的・方法

・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・8

第1節 問題の所在

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第1 項 学習 指導 要 領の 改 訂の 視 点か ら・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・ 8 第2 項 生物 多様 性 の視 点 から・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 第 3項 ア メリ カ の「 生命 科 学 教科 書」から・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 第4 項 科学 的進 化 概念 と 誤概 念 の視 点か ら・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

第2節 研究の目的と方法

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第 1項 研 究の 目 的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 第 2項 研 究の 方 法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

第3節 本論文の構成

・ ・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・ ・・・・ ・ 18 第1 項 第1 章:第 1 学 年「生 物 」領 域・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 「生 物の 観 察」 にお け る単 元 開発 第 2項 第 2章:第 1 学 年「 地 学」領 域・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 「地 層の 重 なり と過 去 の様 子 」に お ける 単元 開 発 第3 項 第3 章:第 2 学 年「生 物 」領 域・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 「生 物の 変 遷と 進化 」 にお け る単 元 開発 第4 項 第4 章:第 3 学 年「環 境 」領 域・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 「生 物と 環 境」 にお け る単 元 開発 第5 項 終 章: 本研 究 のま とめ と今 後の 課 題・・・・・・・・・・・・・・・19

註及び引用・参考文献

・・ ・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・・ ・ 20

第1章 中学校第 1 学年「生物」領域

「生物の観察」における単元開発

・・・ ・・・・ ・・・ ・ ・23

第1節 問題の所在

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

第2節 本章の目的

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

第3節 開発したカリキュラム

・・・ ・・・・ ・・・ ・・・・ ・ ・・・・・ 26

(4)

- 4 - 第1 項 「進 化 思考 」に よる カリ キ ュラ ム設 計 ・・・・・ ・・・・・・ ・・・・ 26 第2 項 開発 した 授 業計 画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

第4節 授業評価の方法

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 第1 項 課題 分析 に よる 授 業評 価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 第2 項 質問 紙調 査 によ る 授業 評 価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

第5節 結果と分析

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 第1 項 各課 題に よ る質 的 分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 第2 項 各課 題に よ る質 的 分析 の 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 第3 項 質問 紙調 査 によ る 分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

第6節 本章のまとめ

・ ・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・ ・・・・ ・ 42

註及び引用・参考文献

・・ ・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・・ ・ 43

第2章 中学校第 1 学年「地学」領域

「地層の重なりと過去の様子」における単元開発

・・・45

第1節 問題の所在

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45

第2節 本章の目的

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46

第3節 開発したカリキュラム

・・・ ・・・・ ・・・ ・・・・ ・ ・・・・・ 47 第1 項 「 逆向 き 設計 」論に「形 成 的 評価 」を加 味し た カリ キュ ラ ム設 計・・・・47 第2 項 開発 した 授 業計 画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49

第4節 授業評価の方法

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 第1 項 パフ ォー マ ンス 課 題に よ る授 業評 価・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 第2 項 質問 紙調 査 によ る 授業 評 価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54

第5節 結果と分析

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 第1 項 パフ ォー マ ンス 課 題に よ る分 析・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 第2 項 質問 紙調 査 によ る 分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

第6節 本章のまとめ

・ ・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・ ・・・・ ・ 60

(5)

- 5 -

註及び引用・参考文献

・・ ・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・・ ・ 61

第3章 中学校第 2 学年「生物」領域

「生物の変遷と進化」における単元開発

・・・・・・・・64

第1節 問題の所在

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64

第2節 本章の目的

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

第3節 開発したカリキュラム

・・・ ・・・・ ・・・ ・・・・ ・ ・・・・・ 67 第1 項 「 逆向 き 設計 」論に「 形 成 的評 価 」を 加 味し た カリ キュ ラ ム設 計・・・67 第2 項 開発 した 授 業計 画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68

第4節 授業評価の方法

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 第1 項 パフ ォー マ ンス 課 題に よ る授 業評 価・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 第2 項 質問 紙調 査 によ る 授業 評 価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71

第5節 結果と分析

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 第1 項 パフ ォー マ ンス 課 題に よ る分 析・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 第1 到 達人 数か ら みた パ フォ ー マン ス課 題 の評 価・分 析・・・・・・・・・73 第2 回 答事 例か ら みた パ フォ ー マン ス課 題 の評 価・分 析・・・・・・・・・74 第2 項 質問 紙調 査 によ る 分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74

第6節 本章のまとめ

・ ・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・ ・・・・ ・ 79

註及び引用・参考文献

・・ ・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・ ・・・ ・80

第4章 中学校第 3 学年「環境」領域

「生物と環境」における単元開発

・・・・・・・・・・・・82

第1節 問題の所在

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 第1 項 平成 29 年改 訂 学習 指導 要 領か らの 問 題提 起・・・・・・・・・・・・ 82 第2 項 科学 的進 化 概念・誤 概念 から の問 題 提起・・・・・・・・・・・・・・84

(6)

- 6 -

第2節 本章の目的

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85

第3節 開発したカリキュラム

・・・ ・・・・ ・・・ ・・・・ ・ ・・・・・ 85 第1 項 「 生 態系 の多 様 性」と「生 物進 化」を結 ぶ カリ キュ ラ ム設 計・・・・・85 第2 項 開発 した 授 業計 画 とル ー ブリ ック・パフ ォ ーマ ンス 評 価・・・・・・・85

第4節 授業評価の方法

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91 第1 項 対象 と期 間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91 第2 項 各課 題に よ る授 業 評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91 第3 項 質問 紙調 査 によ る 授業 評 価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92

第5節 結果と分析

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94 第1 項 各課 題に よ る授 業 評価・分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94 第1 【パ フォ ー マン ス課 題 ⑦ 】に お ける 評価・ 分 析・・・・・・・・・ ・・・94 第2 【課 題⑧ 】に おけ る ルー ブリ ッ ク 評 価・分 析・・・・・・・・ ・・ ・・・95 第2 項 質 問紙 調査 に よる 分 析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・97

第6節 本章のまとめ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100

註及び引用・参考文献

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・101

終 章 本研究のまとめと今後の課題

・・・・・・・・・103

第1節

研究の成果

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103 第1 項 各 章の 課題 分 析に よ る検 証 成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103 第2 項 質 問紙 調査 に よる 検 証成 果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105

第2節 4 つの単元開発からみたカリキュラム設計

・・・・・・・・・108 第1 項 各 章の 課題 分 析に よ る検 証 成果 から み たカ リキ ュ ラム 設 計・・・・・・・108 第2 項 質 問紙 調査 に よる 検 証成 果 から みた カ リキ ュラ ム 設計・・・・・・・・・109

第3節 カリキュラム開発に関する提言と今後の展望

・・・・・・・・110 第1 項 2 つの 検証 成 果か らみ た カリ キュ ラム 設 計に 関す る 提言・・・・・・・・110 第2 項 カ リキ ュラ ム 設計 に 関す る 提言 から 得 られ た本 研 究の 知 見と 問 題点 ・・112 第1 教 授・学 習過 程 にお ける カ リ キュ ラム 開 発か ら・・・・・・・・・・・・112 第2 「 生 物多 様性 」の理 解に 関 する カリ キュ ラ ム開 発か ら・・・・・・・・・113 第3 項 今 後の カリ キ ュラ ム 設計 に 関す る展 望・・・・・・・・・・・・・・・・114

(7)

- 7 -

註及び引用・参考文献

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・115

附 記

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116

(8)

- 8 -

序 章 問題の所在と研究の目的・方法

第1節 問題の所在

第1項 学習指導要領の改訂の視点から

生物の進化に関する学習は ,平成 20 年告示(現行)の中学校学習指導要 領で は第 2 学年 で扱われていたが,平成 29 年告示(新 )の中学校学習指導要 領では第 3 学年に移行するこ とになり,「(5)(イ) 遺伝の規則性と遺 伝子」の単元に続いて学 習するように 改訂された。 平成 20 年告示の現行学習指導 要領 では ,「(3)エ 生物の変遷と進化」の単元目標(第 2 学 年)には,「現 存の生物や化石の比 較な どを基に,現存の生物 が変化して生じ てきたもので あることを体のつくりと関連 付けてと らえること」と 記載されていた(文部科 学省,2008)。 しかし,平成 29 年告示の新学習指導要 領 では,「(5)(ウ)生物の種類の多様 性と進化」の 単元目標(第 3 学年)には,「現存の生物及び化石の比較などを通し て,現存 の多様な生物 は過去の生物が長い時間の経 過の中で 変化して生じてきたものであ ることを 体のつくりと 関連付けて理解すること」と記載 され ている(文部科学省,2017)。さらに新学習指導要領 では,探究の学習過程の例と して「生 命の連続性について,観察, 実験など を行い,その 結果や資料を分析して解釈し ,生物の 成長と殖え方,遺伝現象,生 物の種類 の多様性と進 化についての特徴や規則性を 見いだし て表現すること。また,探究 の過程を振 り返ること」 と付記されている。 どちらもほぼ同様のことを 述べ ている ようであるが,新学習指導 要領には「 多様な」と 「過去の生物が長い時間の経 過の中で 」という 文言と,「生物の種類の多様性 と進化につい ての特徴や規則性を見いだし て表現す る」という 探究学習に関する 附記が, 現行の学習指 導要領と異なっている 。つまり,新 学 習指導要領 の目標においては,「現存の 多様な生物は 過去の生物の進化の結果であ ること」を,「化石」を含めた学習の中で,探究 の過程を通じ て理解することが一層強調さ れている ように思われる。換言すれば , 移行期 間を含めた今 後の中学校第 3 学年のおける「(5)(ウ ) 生物の種類の多様性と進化」の学習においては, 「(5)(イ) 遺伝の規則性と遺伝子(第 3 学年)」の学習と関連付けて,「化石」が登場す る「(2)(イ) 地層の重なりと過去の 様子(第 1 学年)」の復習を含めた中で ,「生物多様 性」に関する体系的な科学的 概念が獲 得されるように改訂されたと 捉えるこ とができる 。 現行の中学校第 2 学年理科教科書(3 社:平成 28 年度採択率合計 93.1%)には,「類縁 関係」「相同器官」「中間化石 」などの 進化の証拠が記載され,進化 のしくみ についても読 み物として「自然選択説」に 触れ られ ていた 。しかし表1のように ,現行の 中学校理科 教 科書における「生物進化の定 義」は , 中学生向けに最小限の 基本的 な要素を 取り入れて熟 慮の上に定義されているが, 新学習指 導要領 における改訂の観点か ら見ると 不足している

(9)

- 9 - 表1 中学校第 2 学年理科教科書にお ける「生物進化の定義」 感が否めない。特に,以下の第 2 項で詳しく述べるが,「生物多様性」の時間 的視点 である 「現存の多様な生物は長大な 年月にわ たる進化の結果であること 」 は示され ているが,そ の教授・学習過程は明記され ていない 。これが第一の問題点である 。 したがって,今後は「生物多様性」に 関する体系的な理解を含 み,「進化」の プロセス が 系統的に把握でき,かつ科学 的な進化 概念の 形成をめざす理科カリ キュラム の開発が必要 となる。これが第一の問題点 に対する 回答である。 繰り返しになるが,平成 29 年告示の新学習指導要領における第 3 学年の目標 に,「現存 の生物及び化石の比較などを 通して, 現存の多様な生物は過去の生 物が長い 時間の経過の 中で変化して生じてきたもの であるこ とを体のつくりと関連付けて 理解する こと」という 目標が掲げられている。この ように第 3 学年においても「化石の比較」につ いて学習する ように改訂されたが,現行・ 新学習指 導要領 ともに,「化石」 を学 習するのは 第 1 学年の 「地学」領域 に配置されたままで ある 。また,現行 学習指導要領においては,「脊椎動物の 体のつくり」も「進化」も第 2 学年に配置されていた。一方 ,新学習指導 要領 に おいては , 「脊椎動物の体のつくり 」を学習する のは第 1 学年,「進化」を学習する のは 第 3 学年に移 行した。すなわち,それら 2 単元を履 修する学年が分断され,第 3 学年にお いて 「進化」 を「生物多様性 」の視点から体系的 に 学習する際に,第 1 学年での「地学 」領 域や「生物」 領域の学習を復習しながら学 習する 必 要性が生じる。これが第二の 問題点で ある。 したがって,このような履修学年 の問 題 から勘案して,「化石」と「脊椎動物 の体のつく り」を関連付けて考察するに は,第 1 学年の「(2)(イ) 地層の重なりと過去の様子」の 単元や,同じく第 1 学年の「(1)(イ) 生物の体の共通点と相違点」の単元においても, 「進化」の基本について触れ ることが 必要になってくると思われる 。 つまり , 今後は第 1 学年の「地学」領域や「生物」領域 に おいても,「進化」の 視点 を加味するこ とが重要にな ってくると思われる。これが 第二の問 題点に対する回答である。 平成 29 年告示の学習指導要領では「( イ)遺伝の規則性と遺伝子」 の後に,「(ウ)生物 の種類の多様性と進化」を扱 うように履 修順が改訂された ことも先に も述べた。すなわち, 中学校第 3 学年の「(5)生命の連続性 」の(大)単元において,「遺 伝の規則 性と遺伝子」 と「生物の種類の多様性と進 化」が同 じ学年に配置されたことにな る。 現行 では,第 2 学 年で「生物の変遷と進化」を 学んだ後 ,第 3 学年で「遺伝の規則性と遺伝子 」を履修して いた。今後も従来の ように ,「遺伝」と「進化」の 2 つの単元を並列的に並べ ,関連付けら れない学習で済まされるので あろうか。「進化(ダーウィニズムが主 流)」は微 小な変異が 啓 林 館 (塚田ら,2017) 生物は長い年月をかけて世代 を重ねる 間にしだいに変 化し,新しい生物が生じるこ と。 大日本図書 (有馬ら,2016)。 生物が長い時間をかけて変化 すること 。 東京書籍 (岡村ら,2016) 生物のからだの特徴が,長い 年月をか けて代を重ねる 間に変化すること。

(10)

- 10 - 「連続」的に起こるが,「遺 伝(メンデ リズム)」において変異は「 不連続」で あり,両者 は対立する概念である。そし て,この 2 つの対立概念は生物学史上に おいて統 合を果たし, 「進化の総合説(ネオ・ ダーウィニズ ム)」が成立することに なる(現代的総 合1 ))。当然 ながら,平成 29 年告示の学習指導要 領ではその経緯について扱う ことは明 記されていな い。しかしながら,学習指導 要領の「 内容の取扱い」の中には「進 化の証拠 とされる事柄 や進化の具体例について扱う こと・・ ・(中略)・・・また,遺伝子 に変化が 起きて形質が 変化することがあることにも 触れるこ と」と付記されている 。加えて ,「中学 校新学習指導 要領展開理科編」における「生物の 種 類の多様性と進化」単元の解説 の中に,「・・・遺伝 では,遺伝子が親から子に伝 えられる ことを学んだが,長い時間で 見ると遺 伝子に変化が 起きて形質が変化することに も触れる 。これらの学習を通して,現 存する多 様な生物は長 い時間の経過の中で変化して 生じ てき たものであることを理解させ ,生命の 歴史の長さを 認識させることにより・・・・・」とい う文言が見つかる(田 代,2017, p.85)。すなわち, 「進化」を学ぶ上で, 今後は「遺伝的 変異2 )」と関連付けた カリキュラム設 計が必要であ ると捉えることができる。こ れが第三 の問題点である。 したがって,中学校第 3 学年の理科において,「遺伝 」と「進化 」を同じ(大 )単元「生 命の連続性」で学ぶこ とになる中学生 が,「遺伝の規則性と 生物進化の結果 ,生物が多様化 したことを理解する」何らか の授業計画 を策定する必要がある 。換言 すれば ,「生 物多様性」 の本質を理解するためには, それに「 遺伝(の規則性)」と「進化 (のプロセ ス)」を 関連 付けた(統合した)カリキュ ラム設計 が移行期間を含めて今後,必 要になっ てくることは 必至であろう。これが第三の 問題点に 対する回答である。 新学習指導要領に準拠した 中学校理科 教科書( 2020 年採択予定)では,「遺 伝の規則性 と遺伝子」,「生物の種類の多 様性と進 化」,「 生物と環境」の 3 つの単元が 1 つの学年(第 3 学年)にまとめられること にな った 。つまり,それぞれ順に「遺 伝的多様 性」,「種多様 性」,「生態系の多様性」という 3 つのレベルの多様性の概念が,中 学校第 3 学年の1年間 で学べるように改訂された。 しかしな がら,このような「生物多様 性」 の 3 つのレベルを 解説する文言は新しい学習指 導要領 (「(7)(ア) 生物と環境」)には明記されていないた め,次期教科書においてもそ の ような 記載は望めない。すなわち, 生物は無 機環境も含め た「生態系」の中で,相互に 関連しな がら「進化(共進化)」しな がら,「種 多様性」を生 じさせてきたことが教科書に 記載され ,環境 問題を「進化」の時間 的視点 か ら記述される 可能性は皆無であろう。現 在,3 つのレ ベルの「生物多様性」の 保全が叫ばれ ているのは, 長大な 38 億年の年月をかけて「進化 」を遂げてきた約 150 万種類の生物が,数年単位の短 い期間に絶滅の危機にさらさ れている からである。これが第四の問 題点であ る。 したがって,「生物多様性(生 態系の多 様性)」の理解を図る上で,中 学校第 3 学年「生 物と環境」単元における「生物進化( 時間的視点)」で捉えたカリキュラ ム 設 計が必要にな ってくると思われる。これが 第四の問 題点に対する回答である。 以上の 4 つの問題点に鑑み,平成 29 年の中学校学習指導要領の改訂 から言え ることは, 今後の中学校第 3 学年においては,「生 物の種類 の多様性と進化 」の単元では「多様な現存 の生物は生物進化の結果であ ること」 を理解するカリキュラム,さ らに「遺 伝の規則性と 遺伝子」の単元では「遺伝的 変異」 で 「進化」と 関連付けたカリキ ュラム , 並びに「生物

(11)

- 11 - と環境」における単元では「 生態系の 多様性」と「進化」を結び付 けた カリ キュラム が必 要であると考えられる。ただ し,この よう に複合的な観点に立つカ リキュラ ム を,最終の 第 3 学年のみに集中して行う だけでな く,第 1 学年の「地学」領域の「地層 の重なりと過 去の様子」の単元や,「生物 」領域 の「 生物と観察」 の単元において も,「進化 」の基本的 な学習からスパイラルに積み 重ねてい く 計画を策定することが最適 であると 考えられる。 よって,本研究においては以 下の第 2 項から第 4 項を踏まえた上で,中学校 理科における 5 つの単元開発をめざし,本論文で は そのうち 4 つの単元開発(第 1~4 章)における実践 結果から,「科学的進化概念」 の形成過 程の分析によって その有効性 を検証し た 。

第2項 生物多様性の視点から

今日において同定可能な生物 の総数は 約 150 万種ともいわれているが,実際 に現存する 生物種はその 10~100 倍と推定されることが多い。およそ 30 数億年前のたった一つの原 始生命体より生命の起源が始 まり,各 地質時代の環境に適応し,各 自の遺伝 子を少しずつ 変化させ進化してきたことが ,現存の 「多様な生物」につながっ た とされて いる 。すなわ ち,「生物多様性」は 「生物 進化」の所 産であり,「種多様性」や「 遺伝 的(遺 伝子) 多様 性3 )」及び「生態系の多様性 」を包含 する概念で もあるというのが ,定説に なっている 。 本川(2015)は「生物多様性の大切さ」を理解する困難さについて述べ,その理解には 「生物を取り巻く環境や ,生物と環境 の関わり合いである生態系」,さらに「 遺伝子から生 態系まで,さまざまなレベルの生 物学 」の理解が必要であると指摘して いる 。特に,「生物 が進化によって生じた価値」,すな わち「生物多様性の価値」について論じて いる。そのた めには,初学年における各単 元から「 進化」に関する概念理解をス パイラル に 積み上げ, その思考の仕方をスモールス テップで 習得していく必要があると思 われる。 進化生物学者の三中(2010)によれば,多様性のパターンを解析する思考法には「分類 思考」と「系統樹思考」の 2 つがあり,その包括的な体系的思考が基 盤をなし,「進化思考: 三中の造語」が形成されて きたと主張 する。加えて,「分類 思考」は「分 類科 学」にその起 源があり,「類似性に基づく 分類を目指 す」分野であり,「系統樹思 考」は「古 因科学」に その起源があり,「歴史的因果を研 究す る」分野であると,ヒューウェル(William Whewell) やトール(Patrick Tort)の知見を引き合いに出して論じている(表 1)。換言すれば,「進 化思考」とは「ある対象物が たどって きた歴史のパターンを復元し ,それに 基づいて因果 的なプロセスを考察しようと する思考 法である」という。 この論考から,「分類思考」 はある時点 での「種」の同定を志向し,「系統樹思 考」はそ の「種」がたどってきた歴史 的な時間 経過を志向するアプローチで あると推 察される。ダ ーウィンが種・亜種・変種・品種は連 続し,「種」は個体差 の延長であると考 えたことから も(長谷川,2015),三中の論は支持される。つまり,先の第 1 項で述べた平成 29 年にお け る の 学 習 指 導 要 領 の 改 訂 に よ っ て , 生 物 学 の 中 心 概 念 で あ る 「 進 化 」 を , さ ら に は そ

(12)

- 12 - 表 1 「進化思考」の形成(三中, 2010,p107 より改変) ヒューウェル: 学問の分類体系 トール: 修辞学からみた推論様式 三中: 生物多様性の解析手法 分類科学: 体 系 植 物 学 な ど 類 似 度の研究分野 目 に 見 え る 表 面 的 な 類 似 性に基づくグループ分け 分類思考 進化思考 の形 成 古因科学: 地 質 学 な ど 歴 史 的 因 果の研究分野 断 片 的 な 知 見 か ら 全 体 的 ス ト ー リ ー を 復 元 す る 思 考 系統樹思考 の体系的思考である「進化思 考」を, 中学校における生物教育の中 核に据え てきたのでは ないかと解釈し得る。この論 拠として , 平成 29 年版の「学習指導要領解説理 科編」には, 理科における「見方・考え方」の記載 がある(文部科学省 ,2017b,p.12)。そこでは,「自 然界の事物・現象を,質的・ 量的な関 係や時間的・空間的な関係な どの科学 的な視点で捉 え,比較したり,関係付けた りするな どの科学的に探究する方法を 用いて考 えること」と 整理されている。特に,「生命」領域に おける理科の「見方」の例として,「多 様性」と「共 通性」の視点で捉えるという 文言があ る(同,p.11)。すべての生き物は「歴史の産物」で あり(長谷川,2015),何度も述べるが,「共通」な祖先から現存の「多様」な生物が出現 してきたのは「進化」の結果である。換言すれば,「生物多様性(空間的 視点 )」に は,「進 化(時間的視点)」がその根 底にある。 そして,すべての生物は「遺 伝」情報 を受け継ぎ, 複製することにより生命を維 持してき たという「共通性」を保持し ている。 そこで,本研究にお ける第 1 章では「(身近な)生物の観察 」の単元において ,中学校の 新入生が「生物多様性」を解 析する「 進化思考」の一端を垣間見る ような授 業 計画を策定 した。現行の平成 20 年告示中学校学習指導要領では「生物 の 変遷と進化 」の 単元は第 2 学 年に配置されている(第 3 章)。そのよ うな上級学年における学習( 平成 29 年告示の新学 習指導要領では第 3 学年「生物の種類 の多様性と進化」に移行)を経ること によって,「生 物多様性」の1つの概念であ る「種多 様性」が,「進化 (時間的視 点)」の結 果として生じ たことが理解されるであろう 。さらに ,第 4 章における第 3 学年「生物と環 境」の単元に おいては,「生態系の多様 性(空間的視 点)」と「進化(時 間的視点)」を結 び 付けた カリキ ュラムも開発した。加えて, 本論文に は掲載 が間に合わなかったが ,第 3 学年「遺伝の規 則性と遺伝子」の単元におい ては,「遺 伝的多様性(変異)」 によっ て「遺伝( 不連続説)」 と「進化(連続説)」を関連付け,その 相反する 2 つの理論を統合するカリキ ュラムもすで に開発を終え,その実践結果を分 析 し,学会誌にまとめたところであ る(名倉・松本,2020b)。 よって,これら中学校理科に おける 「 生物・ 地学・環境」の 3 領域における 5 つの単元 開発によって,中学生が「生物多様性 」の 3 つの概念と,「進化」のかかわ り について正し く理解できる全カリキュラム 開発が完 成することになる(第 1 章第 3 節図 1)。 この他,第 2 章では第 1 学年の「地学」領域「地層の重なりと過去 の様子」 の単元にお いて,「時間的視点 」である地史上の古 生物の変遷について,特 に「水中から陸 上への進化」 を取り上げることによって, 基本的な 進化のメカニズムに関する理 解 をねら った。なぜな

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- 13 - ら,先の第 1 節第 1 項でも述べたよう に,「化石」を中学校で最初に学習する のは,第 1 学 年(現行・新共に)の「地学」領域 で あるにもかかわらず,「脊椎動物 の体の 特徴」を学習 するのは現行第 2 学年・新第 1 学年であり,「生物の種類の 多様性と 進化 」に ついて学習す るのは現行第 2 学年・新第 3 学年であり,履修の時期にずれが生じ たからで ある。すなわ ち,「化石」と「脊椎動物の体 の特徴」を「進化」と 結び付けて考察するの は ,この第 1 学 年に配置された「地層の重な りと過去 の様子」 が最適であり,その ため第 2 章のようなカ リキュラム設計による単元開 発 を行っ た訳である。 本研究のように「生物多様性」の 3 つの概念と「進化(時間的視点)」を結び( 本章第 3 節図 1 及び,第 4 章第 1 節図 1),中学 校における「生物・地学・環境」領域 の 4 つの単元 カリキュラムを開発した例は ,我が国 のこれまでの実践研究では皆 無である と思われる。 そして,このような本論文に おける 試 みは,我が国の理科カリキュ ラム開発 に一つの指針 を与える研究になり得ると考 えられる 。

第3項 アメリカの「生命科学教科書」から

ドブ ジャ ンス キー が「 進化 に照 らさ な けれ ば, 生物 学は 何も 意味 をな さな い (Nothing in biology wakes sense except in the light of evolution )」という名言を唱えたことは有 名である(Dobzhansky, T. , 1973)。ドブジャンスキーは「遺伝学と種の起源」を 1937 年 に著し,メンデリズムとダーウィ ニズ ムを結び付け,「進化の総合説(ネオ・ダーウィニズ ム)」の成立(現代的総合 )に貢献した 学者の一人である(横山,2002)。現代生物学の体 系は「細胞・生理・発生・遺伝・生態 を縦糸」に,「 進化の視点を横糸 」とし て織り上げら れている。生物の多様性を「空間的」のみならず,「時間的」に把握する には「進化 」の考 え方が不可欠であり,アメ リカの 大学教 科書はこの論で統一されてい る(Urry, L. A., Cain, M. L., Wasserman, S. A, Minorsky, P. V., 2017;Singh-Cundy, A., Cain, M.L., Dusheck, J., 2012)。中でも,大学の初等生物学教科書として採用されている「Discover Biology(ケ イン生物学)」は, 全 6 部構成のうち第 4 部がすべて「進化」に当てられて おり ,他の各 部・各章でも進 化について触れて い る個 所が 以前から数多くあった(Cain, M.et al., 2005)。

加えて,ミドルスクール(日 本の小学 校 第 5 学年から中学校第 2 学年にあたる)の生命 科学教科書「Life Science: Life Over Time」でさえ,「進化のメカニズム」がダーウィンの 「自然 選択説 」に基 づい てわか り易く 説明さ れてい る。 具 体的 には ,Variation(変異), Adaptation(適応), Selection(選択)の主に 3 点が進化をもたらした要因であることが 明記されている(Trefil, J. et al. Eds., 2007)。言い換えれば,偶然の「 遺伝的変異」が時 代の環境に「適応」し,その 生存に有 利な変異が「選択」され,こ のプロセ スが 長い世代 を経て繰り返されることに よ って,「生 物進化 」が起こったこ とが解説されて いる。このよ うに正しく「生物進化」のメ カニズム を理解し,そのことによる「 科学的進 化 概念」形成 の重要性がうかがえる。

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- 14 - 高橋・磯崎(2014)は「BSCS(高校生物)」教科書の特色を,「進化」に焦点化して調査 し,「Connection(統合原理)」の具体例を 52 例導き出している。そのうち「遺伝に関する メンデルの理論は,遺伝的変 異がどの ように進化に導くことになる かを 説明 する方法 」に なること,つまり「メンデル 遺伝 の法 則」と「進化論」の関係の重 要性を指 摘している。 そ の 上で ,「 進 化 の 学習 は 現 実 的 な 問 い か けか ら 深 め て い くこ と が で き る 効 果 的 な教 材 で あり,科学の本質を指導 するよい機会 ともなりうる」と提言 し ている(高橋・磯崎,2014)。 そこで,本研究では ,上記のよう に生 物 学の中心概念 の1つである「進化(時 間 的視点)」 によって,中学校理科 第 2 分野におけ る「生物・地学・環境」領域 において ,上記の第 1 項及び第 2 項で述べた 5 つの単元を関 連付けるカリキュラム開発 を 提案した (本章第 3 節 図 1)。そのうち,本論 文においては 4 つの単元開発の有効性を ,その単元前・後における 科学的進化概念の形成過程か ら検証し た 。このような中学校理科に おける 4 つの単元を, 「進化」的視点を中心に据え て カリキ ュラム を設計し,単元開発を 実践した 先駆的な事例 は,少なくとも我が国の先行 研究には 見当たらないと思われる。

第4項 科学的進化概念と誤概念の視点から

現 代 進 化学 で は 否 定 さ れ てい る が ,「 一 生 の 間に 起 こ る 変 異 が 次世 代 に 伝 わ る 」 と す る 「ラマルク説(獲得形質の遺 伝)」の支 持者が中学生から大学生まで のどの段 階でも多く, 特に高校生物を学んだ後も保 持されや すい誤概念であるとする研究 報告 があ る(福井・鶴 岡,2001;森本・甲斐・藤森,2006;中井,2004)。また,小学校高学年 の児童が持つ中 心的な素朴進化理論は「 ラマルキズム(獲得形質の遺伝)」と「目的論的説 明(進化は本来 無目的)」であり ,この 2 つは少数なが ら大学生 も保持していたとい う調査報 告もある( 杉 本,2014)。 その他,「進化」は「成長」「変身」「発 達」「進歩」などと誤解され やすいとす る先行 授 業実践も数多く存在する(桐 生,2004;宮本,2008;正本・西野,2011)。 一方,一般社会に目を移す と,進化の 「進んでいる」という語が 「進歩」や 「優れてい る」と想起され,誤解・差別 ・偏見を 生む学習内容であるとする見 解もある (石川・森, 2002)。例えば,「自然選択」説は「自然淘汰」とも表現され,「生存競争」や「生存闘争」 さらには「弱肉強食」などと 解釈され ,社会進化論としばしば混同 されてき た。 我が国で は,「進化論」が社会 的生存 競争による 「優勝劣敗」として受容され た歴史が あり(渡辺, 1991),この延長線上には,「劣った遺伝子は淘汰」すべきとする「優生思想」が垣間見え る。DNA 鑑定や遺伝子スクリーニング が可能となった現在,「反社会的あ るい は暴力的な遺 伝子などという,生物学のレ ベルとは 対応関係のないありもしない 遺伝因子 を想定」し, 「人間の社会的行動を説明づ けようと する」近未来社会の到来が懸 念されて いる(米本 , 2004)。「弱肉強食」に代表されるような集団内の個体間の生存競争は「自然選択」の本質 ではない(颯田,2012)。科学的な進化概念の形成と,正確な生物進化のメカニズムの理解

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- 15 - が待たれる分野でもある。 先の第 3 項で述べたように「進化は生物学の中心概念」でありながら,上記の ような「誤 概念」を多く含み,その概念理解に課 題の多い分野であ る(長 谷川,2015)。それ故に,し ばしば「進化を教えることは難 しい」という指摘に もつながり(長谷 川,2004),過去の学 習指導要領では「進化」や「 遺伝」が 削減された時期も存在する( 名倉,2007)。 しかも「学校現場で生徒の 活動(実験 ・観察,課題研究や探究活 動など)を 通して進化 を取り扱うことは特に困難で あ り,特 に実験・観察による帰納推論 的な指導 は時間的にも 困難なものが多い」と指 摘され てきた(佐藤・大鹿,2005)。結果として,中学校における 「進化」の学習を効果的に進 める実験 は少なく,資料をもとに個々 の教師の 力量で進めら れることが 多い のが 実情であ る (森本 ,2009;西野・佐竹,2013)。このため,中学校に おける「進化」に関する授業 実践 事例 の蓄積は少なく,先行実践研 究も数え るほどしか存 在しない。しかもその多くは 単発的な ものに限られ,単元全体を線 で結ぶよ うな カリキュ ラム設計はほとんど存在しな い。 そこで,本研究においては, 中学校理 科における「生物・ 地学・環 境」領域 の 4 単元に わたる授業計画を,生物学の中心 概念 である「進化」で 統合することを試み,「科学的進化 概念」の形成や「誤概念」の 保持の様 相から,各単元開発の有効性 を検証し た。 本研究のように,中 学生の「科学 的進化 概念 」の形成過程や「誤概念 」の保持の 様相を, 「生物多様性」や「進化のメ カニズム 」の理解を踏まえたカリキュ ラム開発 と,その授業 実践によって明らかにし,新 たな 知見 を紡ぎ出すことは,我が国の 理科教育 ・生物教育に おいて,有用なカリキュラム 改善に関 する 提言に貢献するものと考 えられる 。

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第2節 研究の目的と方法

第1項 研究の目的

本研究の目的は,中学校理科 第 2 分野 「生物・地学・環境」3 領域 4 単元に わたる授業 計画において,生物学の中心概念 であ る「進化」的視点を導入することによ って,「生物多 様性(遺伝的多様性・種多様 性・生態 系の多様性)」の理解を促し,「科学的 進化概念 」の 形成過程における分析から, カリキュ ラム 開発した各単元の授業計 画の 有効 性を明らかに することである。 本研究における第1章~第 4 章にわたる各単元開発の目的を概観す ると, 以 下のように なる。 第 1 章(第 1 学年「生物 」領域:「生 物 の観察」単元 )では,中 学校の新入生 に「生物多 様性」の理解を促す ための手段として,「進化思考 」すなわち「分類思考 」と「 系統樹思考」 を柱においた授業計画を策定 した。す なわち,多様性の解析手法で ある「進 化思考」を導 入することによって,「科学的進化概念 」の形成過程における 分析から,開 発 した授業計画 の有効性を明らかにすること を目的と した。 第 2 章(第 1 学年「地学」領域:「地層の重なりと過去の様子」単元)で は,中学生に対 する「科学的進化概念 」形成に向けて,「水中から陸上への進出 」を例に,生 物進化の基本 的なしくみ(変異・適応・世 代性)を 理解させる 授業計画を開発し ,その有 効性を検証す ることを目的とした。 第 3 章(第 2 学年「生物」領域:「生物 の変遷と進化」単元) では,「 進化の総 合説」の 中心メカニズムである「自然 選択説」 に基づく仮説推論などを通し て,中学 生に科学的な 生物進化のしくみ(適応・遺 伝的変異 ・選択) を理解させること, すなわち 「科学的進化 概念」の形成をめざした単元 開発を行 い,その 有効性を検証するこ とを目的 とした。 第 4 章(第 3 学年「環境」領域:「生物 と環境」単元) では,「生態系 」の学習 (空間的 視点)において,過去の生物が「生物 進化」による「多様な生物種(種多様 性 )」に至った 経緯(時間的視点)を取り入 れた単元 開発を行い,その学習過程に おける中 学生の「生物 多様性」の理解,及び「科学 的進化概 念」の形成, 並びに「誤概念 」保持の 様相を検証す ることを目的とした。

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第2項 研究の方法

本 研 究 に お け る カ リ キ ュ ラ ム 設 計 の 中 心 理 論 は , ウ ィ ギ ン ズ ら の 「 逆 向 き 設 計 (Backward Design)」論用いた。「逆向き設計」とは,求められている結果 (goal)を明 確にし(第 1 段階),そのことを承認で きる証拠(課題や評価方法 )を決定し てから(第 2 段階),学習経験と指導を計画する(第 3 段階)という 3 段階で構成され,計画 の前に評価 の構想を行うという点が,従 来のカリ キュラム設計とは逆になって いるため にこう呼ばれ る ( 第 2 章 表 2 )。 す な わ ち ,「 到 達 目 標 (goal )」 を 明 示 し た 「 パ フ ォ ー マ ン ス 課 題 (performance tasks)」を生徒に提示し,「ルーブリック(rubric)」で評価する手法を導 入した単元開発を行った(Wiggins & McTighe, 2005)。

それに加えて,ブランスフォー ドらの 「学習環境(Learning Environment)」論の立場 から,「学習者中心(Learner-Centered)」の学習形態を重視し,何度も「到達目標」と「ル ーブリック」を参照しながら ,課題を 「再考・修正できる機会」を その教授 ・ 学習過程の 中に適切に組み込んだ。つま り,時宜 を得た 「生徒発表」・「相互評 価」・「自 己評価」・「教 師による評価」などの「形成 的評価(Formative Assessment)」の要素を加味し,その即 時的フィードバックを強化し た 授業計 画を設計した(Bransford, Brown & Cooking, 2000)。

そして,上記の 3 領域 4 単元にわたる単元開発による授業計画を, 上記の「 パフォーマ ンス課題」や「単元を貫く本 質的な問 い(essential questions)」の記述内容による分析, 並びに「ルーブリック評価」 による 分 析(以上,主に質的分析),「 科学的進 化概念・誤概 念」に関する「質問紙調査」 による統 計的分析 (主に量的分析)を 行い,こ れらを各単元 における授業評価として用い た。 つまり,4 つの単元開発における「生物 多様性」や「科学的進化のメカニズム(適応・遺 伝的変異・選択)の理解度」,「科学的 進化概念の形成」や「誤概念 の保持の 様相」など に おける分析結果からカリキュ ラム設計 した授業計画の有効性につい て検証し た。尚,各単 元における「授業評価」の具 体的方法 については ,各章における「 授業評価 の方法 」など に記したため,ここではその 詳細には 触れない。

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- 18 -

第3節 本論文の構成

本論文は,序章(本章)「 問題の所在と 研究の目的・方法 」を除き,5 つの章から成り立 っている。以下の第 1 項(第 1 章)から第 5 項(終章)において各 章を概観 し ,その構成 について簡単に述べる。

第1項 第1章:第 1 学年「生物」領域「生物の観察」における

単元開発

第1章では,中学校理科第 2 分野第 1 学年「生物」領域(「植物の生 活と種類 」大単元) において,「進化思考 」による「生物の 観察」についての単元開発 を行なった 。そして,そ の開発した授業計画を実践に よって検 証するため,「生物多様性」の理解 をめ ざすカリキュ ラム設計の有効性と「科学的 進化概念 」形成から論じた。

第2項 第2章:第 1 学年「地学」領域「地層の重なりと過去の

様子」における単元開発

第 2 章では,中学校理科第 2 分野第 1 学年「地学」領域(「大地の成り立 ちと 変化」大単 元)において,「形成 的評価」と「 逆向 き設計 」を組み合わせた「地層の重な りと過去の様 子」についての単元開発を行なっ た。そして,その開発した授業計画を 検証 するため ,「脊 椎動物の陸上進出」を取 り扱った「パ フォーマンス 課題」や,「形成的評価 」を加味したカ リキュラム設計の有効性,並 びに「科 学的進化概念 」の形成につい て論じ た 。

第3項 第3章:第 2 学年「生物」領域「生物の変遷と進化」に

おける単元開発

第 3 章では,中学校理科第 2 分野第 2 学年「生物」領域(「動物の生活と 生物 の変遷 」大 単元)において,第 2 章と同様に「逆 向き設計」論 を中心に据え, それに 「 形成的評価」 を加味した「生物の変遷と進 化」につ いての 単元開発を行った。そ して,そ の開発した授 業計画を実践によって検証す るため,「 キリンの首」の進化仮 説 を推論する「 パフォーマン ス課題」を含んだカリキュラ ム設計 の 有効性,並びに 上記の第 1 学年「地学 」領域を含ん だ中学校 2 学年 2 領域にわたる「科学 的進化概念」の形成と, 保持 されやす い 「誤概念」 の払拭について論じた。

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- 19 -

第4項 第4章:第 3 学年「環境」領域「生物と環境」における

単元開発

第 4 章では,中学校理科第 2 分野第 3 学年「環境」領域(「自然と人間」大単 元)におい て,「生態系の多様性」と「 生物進化」 を結ぶ 「生物と環境(自然界 のつり合 い)」につい ての単元開発を行った 。そして,そ の 開発した授業計画を実践によ って検証 するため,「ゾ ウの鼻」の進化仮説 を推 論する「パフ ォーマンス 課題」,及び「多様性を理解 する 課題」な どを組み込んだカリキュラム 設計の有 効性,並びに「科学的進化概念」の形 成過程と,「誤 概念」保持の様相について論 じた。

第5項 終 章:本研究のまとめと今後の課題

第 5 章では上記の 4 つの単元開発によ る実践研究における検証結果 を総括し , その研究 成果から中学校理科「 生物(地学)・環 境」領域におけるカリキュラム設 計 の あり方に関す る提言を行い,今後の理科カ リキュラ ム開発 についても論じた。 以上の第 1 章~第 4 章までの構成を図 に 示すと,図 1 のようになる。 図1は,先の本章第 1 節「問題の所在 」の第 2 項で述べた「生物多様性」の 3 つの構造 (遺伝的多様性・種多様性・生態系の 多様性)に基づき,平成 29 年告示の新学習指導要領 (新課程)を見据えながらも,現行の 学習指導要領(平成 20 年告示)に則した授業実践の 立場で,本論文の構成をモデ ル化して 示したものである。本論文に おいては ,現行の学習 指導要領の履修順(中学校第 1 学年~第 3 学年)に基づき,以下の 各第 1 章~第 4 章を構 成した。現行の学習指導要領 では,図 1 のように「遺伝的多様性」→「種多 様性」→「生 態系の多様性」とボトムアッ プ的に履 修するようにはな っていない 。しかし ,新学習指導 要領(新課程)にお ける 中学校第 3 学年においては,この履修順(「遺伝の規則 性と遺伝子」 →「生物の種類の多様性と進 化」→「 生物と環境」)になる ように改 訂されて いる 。 また,本論文においては, 図1の縦軸 である「空間的視点」のみ ならず,横 軸(横糸) である「時間的視点」,すな わち「進化 (進化思考)」の視点を基本 において授 業計画を設 計した。このような視点によ って ,中 学校理科における各単元のカ リキュラ ムを開発した 実践研究は,我が国には存在 しない。 以下の各章 における実践研究 では,各 種教材やパフ ォーマンス課題・本質的な課 題,形成 的評価などの評価方法 ・ルー ブリック ,観察・実習 方法など,それぞれについて オリジナ ルティが存在する。 しかしながら,特に本研究の 独自性は ,図 1 のような構造的視点を用いて, 中学校理科 における「生物」に関する各 単元を「 生物進化」で 全て統一したカ リキュラ ム開発を行っ た点にある。本章第 1 節第 3 項でも述べたように,アメリカの大学 教科書な どは生物各論 を「生物進化」で統一して編 纂されて いるが,日本の教科書では今 のところ 見当たらない し,さらにそのようなカリキ ュラムを 実践・検証した研究は我が国 では皆無 と思われる。

(20)

- 20 - 図1 「生物多様性」の3つ の構造( 空間的視点) からみた本論文 の構成 図 ( は 新課 程に お ける 履 修順 , は現 行 学習 指導 要 領に お ける 履修 順 を示 し, この 構造 図 は第 1 章 の 図 1, 及び 第 4 章 の 図 1 な ど を包 含す る もの で ある 。)

註及び引用・参考文献

1)生物学史上において,一般に「現代 的総合」の称するが,これについて「 ジュリアン・ ハクスレーは,1920 年代から,メンデ ル遺伝学とダーウィン進化論 との統合 を考えてい た。さらに,当時までに知られて いた 生物学領域の成果を動員し ,1942 年に『進化-現 代的総合(Evolution, the modern synthesis)』を発表した。進化の総合説の名称は,こ の著作名に由来する」という記述が あ る(溝口・松永,2005,p.90;横山,2002,p.88)。 ちなみに,「synthesis」は「総合」とも「統合」とも訳される。よって,本研究において はこの「現代的総合」を援 用して「遺 伝と進化の統合」を 図る単 元開発 もめ ざしたが, 本論文ではその実践検証結果 を記載し なかった(本章第 1 節第 2 項でも述べた)。尚,こ の場 合は 「単 元の 統合 」 を 「単 元の 総 合」 とは 表現 し て いな い ( 名倉 ・松 本 ,2020b)。 2)本研究において,「遺伝的 変異」や 「 生物多様性」をキーワード に各単元 開発における カリキュラム設計を行った論 拠として,「(前略)・・・総合説に基 づいて生物進 化を説明 すると次のようになる。生 物集団には 特定の方向に向かわない突 然変異や遺 伝子,染色

(21)

- 21 - 体の異常などから起こる遺 伝的変異が 存在する。この遺伝的変異 は自然選択 を受けて漸 進的進化が起こる。一つの 種の集団内 に生殖隔離が生じて複数の 種が形成さ れると考え る種分化から生物多様性が 生じる。こ の種分化が長い期間継続さ れて大進化 も起こる。 総合説は,生物進化の要因を説明する ものとして 1940 年代半ばに成立し,生 物学界に受 け入れられるようになった 」と記載さ れているためである(溝 口・松永,2005,p.91)。 ちなみに,「進化の総合説」は英訳 で「modern evolutionary synthesis」と表現され,上 記の註 1)の「現代的総合(the modern synthesis)」とほぼ同じ意味で用いられる。 3)1992 年にリオデジャネイロで開催さ れた「地球環境サミット」では,「生 物多 様性条約」 が採択された。この「生物多様性条約 」において,「生物多様性 はすべての 生 物の間の変 異性を指すものとし,種内 の多様性, 種間の多様性,および生態 系の多様性 を含むもの とする」と定義された 。この定義に則 り,「生物多様性は,生態系,種,遺伝 子といった 3 つのレベルで把握できる」という見 解が一般的である。しかしながら,3 つめの「遺伝 子レベルの多様性」に ついては ,「 種個 体群内における遺伝的な多様 性のこと である。自 然界では個体間でさまざま な遺伝的な 変異があり,決して均一で はない 。同 じ種であっ ても生息地域が異なると, さまざまな 形質に多少の変異があった り,また, 同じ生息域 にいても,個体によって形 態や遺伝的 形質に微妙な違いが見られ るのは普通 である 」と いう見識がある( 松本 ,2005,p.12)。本研究ではこの見識に基づき,「遺伝子(レベル の)多様性」よりも「遺伝的多様性」と いう用語を 用いる。特に,上記の註 2)で述べた ように,本研究では「遺伝 的変異」 と 「生物多様性」の関連性が 重要になる ため, 一般 的な「遺伝子多様性」よりも 「遺伝的 多様性」を用い ,以下の章も これに準 じた 。 有馬朗人ら(2016)『新版 理科の世界2』大日本図書.

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(22)

- 22 - 三中信宏(2010)『進化思考の世界-ヒトは森羅万象をどう体系化するか-』 NHK 出 版. 宮本俊彦(2008)「中等教育段階の生徒における生物進化に対する認識の現状と進化概念 形成への人類学学習の効果」『 日本人類 学会』第 116 巻,第 2 号,194-198. 溝口元・松永俊男(2005)『改訂新版 生物学の歴史』放送大学教育振興会. 文部科学省(2008)「平成 20 年告示 中学校学習指導要領」 文部科学省(2017)「平成 29 年告示 中学校学習指導要領」 文部省(1999)『中学校学習指導要領』 本川達雄(2015)『生物多様性-「私」から考える進化・遺伝・生態系-』中公新書. 森本弘一(2009)「体験活動を通して生物好きにする手立て」理科教育研究会編『新学習 指導要領に応える理科教育』 東洋館出 版社,160. 森本信也・甲斐初美・森藤義 孝(2006)「理科授業における学習者の科学概念変換に関す る一考察-中学生の進化に関 わる概念 変換を事例にして-」『理科教 育学研究 』第47 巻,第2 号,51-63. 名倉昌巳(2007)「進化教育の必要性についての一考察-特に戦後中学校理科教育の変遷 及び進化論・優生学に関する 時代思潮 を中心として-」 平成 18 年度放送大学大学院 文化科学研究科環境システム 科学群修 士論文. 名倉昌巳・松本伸示(2020b)「中学校『生命の連続性』における科学的進化概念の理解 をめざす単元開発-『遺伝の 規則性』 と『生物進化』を統合した学 習計画の 提案-」 『理科教育学研究』第 60 巻,第 3 号,589-601. 中井咲織(2004)「小学生でもすぐわかる進化の教え方-中等教育での発想の転換に向け て-」『遺伝』第58 巻,第 4 号,56-66. 西野秀昭・佐竹晃一(2013)「中学校理科生物領域における進化概念を取り入れた実践的 授業の構築」『福岡教育大学紀 要』第62 号,第 3 分冊,27-49. 岡村定矩ら(2016)『新編 新しい科学2』東京書籍. 佐藤崇之・大鹿聖公(2005)「教科書分析と教材研究から見た高等学校生物における進化 の単元に関する一考察」『広島 大学大学 院教育学研究科紀要』第2 部,第 54 号,17-24. 颯田陽子(2012)「進化生物学は何を教えるべきか」『遺伝』第 66 巻,第 3 号,289-293.

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Urry, L. A., Cain, M. L., Wasserman, S. A, Minorsky, P. V. (2017). Campbell Biology (11th Edition). 池内昌彦・伊藤元己・箸本春樹・道上達男(監訳)(2018)『キャンベ ル生物学(原書 11 版)』丸善出版. 横山輝雄(2002)『生物学の歴史-進化論の形成と展開-』放送大学教育振興会. 米本昌平(2004)「生命科学の世紀はどこへ向かうのか」米本昌平・松原洋子・橳島次 郎・市野川容孝『優生学と人 間社会』 講談社現代新書,238-275. 渡辺正雄(1991)「進化論への対応—日本的受容の諸段階-」『文化としての科学』丸善, 293-299.

Wiggins, G. & McTighe, J. (2005). Understanding by Design 2nd ed., ASCD. 西岡加名 惠(訳)(2012)『 理 解 を も た ら す カ リ キ ュ ラ ム 設 計 』 日 本 標 準 .

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第1章 中学校第 1 学年「生物」領域

「生物の観察」における単元開発

本章では,中学校第 1 学年における「 生物多様性」の理解と,その 多様性の 解析手法で ある「進化思考」の形 成過程を探るた め,「身近な植物」と してのタンポポの「分類」を手 始めに,雑種タンポポ出現に よる「多 様化」や,水中の小さな生物 の「系統 的分類」を事 例に,進化の入門編を意図し た カリキュ ラムを 開発し,その有効性に ついて検討 を加えた 。

第1節 問題の所在

現行(平成 20 年告示学習指導要領準拠 )の中学校第 1 学年理科教科書では,「 生命編」 の 最 初に 登 場 す る の は,「 自 然 の 中 に 生 命 の営 み を 見 つ け てみ よ う 」 と い う 小 単 元で あ る (塚田ら,2016)。平成 20 年告示(現行)の中学校学習指導要領を見ると,「 生物の観察」 の目標は「校庭や学校周辺の 生物の観 察を行い,いろいろな生物が 様々な場 所で生活して いることを見いだすとともに ,観察器 具の操作,観察記録の仕方な どの技能 を身に付け, 生物の調べ方の基礎を習得す ること」とある(文部科学省,2008)。換言すれば,いろいろ な環境に生息する「身近な生 物」や「 水中の小さな生物」を観察し ながら, 顕微鏡やルー ペの使い方・スケッチの仕方 など,観 察の基本的技能と,調べ方の 基礎を習 得することが この単元の目標と思われる 。ところが ,平成 29 年告示の学習指導要領では「 生物の観察と 分類」となり,「校庭や学校周辺の 生物 の観察を行い,いろい ろな生物が様々 な場所で生活 していることを見いだして理 解すると ともに,観察器具の操作,観 察記録の 仕方などの技 能を身に付ける」,加えて「いろいろな 生物を比較して見いだした共 通点や相 違点を基にし て分類できることを理解する・・・・」とある(文部科学省 ,2017)。新・旧共に類似した 内容であるが,新学習指導要 領では「 多様な生物種」が「多様な環 境」に生 息するのを見 つけるだけでなく,特に 生物種の「分 類」,すなわち「種多 様性」の理解に 力 点が置かれて いると思われる。中でも,中 学校第 1 学年における「種多様性」の 理解は, 次学年の単元 である「生物の種類の多様性 と進化」 へのステップアップには欠か せない観 点である。 しかしながら,都会の学校 では,校庭 などでの身近な 「生物の観 察」も通り 一遍で終え られることが多い。そこで, 中学校 へ 入学してきた生徒が 初めて観 察の仕方 を学ぶ授業と して,科学的な見方・考え方という観 点を踏まえた授業を展開した。さ らに ,平成 29 年告 示の学習指導要領には「科学 的に探究 する活動を通して,多様性に 気づくと ともに規則性 を見いだしたり課題を解決し たりする 力」,「生命を尊重する態度」 や「自然 環境の保全に 寄与する態度」という第 2 分野の最終 目標も掲げられている (文部 科学省,2017)。この ような最終目標と,科学的な 見方・考 え方を働かせた探究活動をめ ざすため に,中学校初 年度の理科入門編としてふさ わしい カ リキュラム 開発が望まれる。 これを第 1 の問題点に 挙げた。

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- 24 - 一方,今日において同定可能 な生物の 総数は約 150 万種ともいわれているが ,実際に現 存する生物種はその 10~100 倍と推定されることが多い。30 数億年前に一つ の原始生命体 より始まり,各地質時代の環 境に適応 し,各自の遺伝子を少しずつ 変化させ 進化してきた ことが,現存の「多様 な生物」につな がっている。すなわち,「生物多様性」は進化の所産 であり,「種多様性 」や「 遺伝 的(遺伝 子)多様性」及び「生態系 の多様性」を包含する概 念である。本川(2015)は「生物多様性の大切さ」を理解する困難さについて述べ,そ の 理解には「遺伝子から生態 系まで,さ まざまなレベルの生物学」,すなわち「 進化」や「遺 伝」などの習得が必要であると指 摘し ている。しかしながら,「進化」はこの ように生物学 の中心概念でありながら,誤 概念を多 く含み,その概念理解に課題 の多い分 野であり(長 谷川,2015),その教授には慎重さが必要である。そのため,初学年からスパイラルに進化 に関する概念理解と,その思 考の仕方 を習得していく必要があると 思われる 。これが第 2 の問題点である。 進化生物学者の三中(2010)によれば,多様性のパターンを解析する思考法には「分類 思考」と「系統樹思考」の 2 つがあり,その包括的な体系的思考が基 盤をなし,「進化思考: 三中の造語」が形成されて きたと主張 する。加えて,「分類 思考」は「分 類科 学」にその起 源があり,「類似性に基づく 分類を目指 す」分野であり,「系統樹思 考」は「古 因科学」に その起源があり,「歴史的因果を研 究す る」分野であると,ヒューウェル(William Whewell) やトール(Patrick Tort)の知見を引き合いに出して論じている(表 1)。換言すれば,「進 化思考」とは「ある対象物が たどって きた歴史のパターンを復元し ,それに 基づいて因果 的なプロセスを考察しようと する思考 法である」という。 この論考から,「分類思考」 はある時点 での「種」の同定を志向し,「系統樹思 考」はそ の「種」がたどってきた歴史 的な時間 経過を志向するアプローチで あると推 察される。ダ ーウィンが種・亜種・変種・品種は連 続し,「種」は個体差 の延長であると考 えたことから も(長谷川,2015),この論は支持される。この知見に依拠すれば,平成 29 年告示の学習 指導要領において,中学校第1学 年の 学習から「分類」を重視し,「生 物の種 類の多様性と 進化」を現行第 2 学年から第 3 学年に移行させた意義が類推できる 。つまり ,生物学の中 心概念である「進化」を,さ らにはそ の体系的思考である「進化思 考」を, 生物教育の中 核に据えてきたのではないか と解釈さ れる。その根拠 の1つとして ,ドブジ ャンスキーの 「 進 化 に 照 ら さ な け れ ば , 生 物 学 は 何 も 意 味 を な さ な い 」 と い う 名 言 か ら も 推 察 し う る (Dobzhansky, T. , 1973)。 そこで,本章(第 1 章)における実践 研究では,中学校第1学年の 序章「自 然の中に生 命の営みを見つけてみよう(小単元)」において,身近な「タ ンポポ」や「 水 中の小さな生 物」を対象に,生徒の興味・ 関心を持 続しながら「進化」のプロセ スを 学ぶ 入門編を企画 した。諸学問の根幹となる「 分類思考 」や「系統樹思考」を重視し た授業 を 展開すること によって,生徒の科学 的な思考を促進 しうると考えた訳である 。然るに,「タ ンポポは身近 な教材としては適しているが ,分類一 つをとりあげてみても学問的 に論議の ある材料であ る」という(山田 ,1988)。また,「集合花であり,標準的なつくりでないこと」「在来種と 外来種との競合の問題」など 教材とし ての問題点も指摘されている 。さらに ,近年ではD NA分析による「 3・4 倍体雑種の出現 による分類上の複雑さ 」も付け加わっ ている。これ

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- 25 - ら の 生物 教 材 と し て の問 題 点 は ,「 結 果 が 予測 で き な い テ ーマ は 思 考 力 や 想 像 力 を養 う 探 究学習に適している」という逆説に も なる( 山田,1986)。そこであえて,「在来種と外来 種,及びその雑種の遺伝的 特性」の問 題を取り上げ,「新たなタ ンポポ(雑種・変種)の出 現がどのように環境変化や変 異,遺伝 的多様性に関わっているのか 」という オープンエン ドな課題を提起して,生徒た ちが 「生 物多様性」を解析する「進化 思考」の 一端を垣間見 るような授業計画を提案した 。つまり ,先の 2 つの問題点を克服した上に,「 生物多様性」 の理解を含んだ単元カリキュ ラム を開 発した。 表 1 「進化思考」の形成(三中, 2010,p107 より改変) ヒューウェル (William Whewell): 学問の分類体系 トール (Patrick Tort): 修辞学からみた推論様式 三中 (Nobuhiro Minaka): 生物多様性の解析手法 分類科学: 体系植物学など類似度 の研究分野 目に見える表面的な類似性 に基づくグループ分け 分 類 思 考 進 化 思 考 : この 2 つを 包 括 し た 体 系的思考 古因科学: 地質学など歴史的因果 の研究分野 断片的な知見から全体的ス トーリーを復元する思考 系 統 樹 思 考

表 2    Wiggins & McTighe (2005)による「逆向き設計」の 3 段階
表 1  到達目標:中学校第 3 学年「生物・環境」領域

参照

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