カール大帝とフランク王国
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(2) カール大帝とフランク王国. 九 七 三、 原 著 一 九 六 八 〉、 ロ ベ ー ル・ フ ォ ル ツ〈 大 島 誠 編 訳 〉. 二〇一〇)は同じ著者の博士論文に基づく研究書で、当然叙述 れている。フランク君主を(現代の)どの国の言葉で表記すべ. る「シャルルマーニュ」 、「ペパン」といった人名表記が用いら. 状況については、大黒俊二『ヨーロッパの中世 声と文字』 (岩. が、ほかの邦語文献では読むことのできないカロリング後期に. 般読者もはいり込みやすいテーマを扱った書物だが、記述は中. と家門意識をさかのぼる』 (八坂書房、二〇一八)である。一. 波書店、二〇〇八)は研究書以外で最新の研究動向を踏まえた. その点、佐藤彰一『ヨーロッパの中世 中世世界とは何か』 (岩. ものであり、最新の研究動向が踏まえられているわけではない。. ただし、前段であげた概説書類はすべて前世紀に刊行された. 1. 54. 援用されており、「世界システムの中のカール大帝」などの野 心的な記述がみられるため、最低限の予備知識をもったうえで 手にとるべき書物である。 以上を除くと、カール大帝に関する邦語で読める文献は半世. 極 め て 少 数 で あ る 現 状 で は、 い ず れ も 価 値 を 失 っ て は い な い. 津田 拓郎. 「カール大帝とフランク王国」はヨーロッパにおいては比較 ( ジ ョ ゼ フ・ カ ル メ ッ ト〈 川 俣 晃 自 訳 〉『 シ ャ ル ル マ ー ニ ュ』. 紀以上前の書物の邦訳三点を数えるのみであるが、邦語文献が. 的ポピュラーなテーマであるが、邦語文献の数は極めて少ない。 〈文庫クセジュ、白水社、一九五五、原著一九五一〉、J・ブウ. ). とくに「カール大帝」に限定するのであれば、邦人の手による サール〈井上泰男訳〉『シャルルマーニュの時代』〈平凡社、一. (. カール大帝の. ─. 〈ヨーロッパ〉 』 (講談社選書メチエ、講談社、二〇〇一)以前 『 ド キ ュ メ ン タ リ ー・ フ ラ ン ス 史 シ ャ ル ル マ ー ニ ュ の 戴 冠 』. 書物は、五十嵐修『地上の夢キリスト教帝国. には存在していなかった。本書はカール大帝時代のさまざまな 〈白水社、一九八六、原著一九六四〉 )。 さて、フランク王国を学ぶ際に注意したいのが、人名の表記. トピックを幅広く扱ったもので、予備知識のない読者への配慮 も行き届いたわかりやすい説明が施されており、カールに興味 である。いま言及した翻訳三点においては、ドイツ語式の表記. の密度や難易度はあがるが、丁寧な説明と読みやすい文体ゆえ きかという問題について、全員が納得するような答えを出すの. である「カール大帝」や「ピピン」ではなく、フランス語によ. に、専門外の研究者や一般読者にも十分通読可能なものである。 は困難であり、読者は、同一君主が書籍ごとに異なる表記で示. カール大帝期の王権と国家』 (知泉書館、. を も っ た 者 が ま ず 始 め に 手 に と る べ き 文 献 で あ る。 五 十 嵐 修. ─. 初学者にもわかりやすい内容の五十嵐と好対照をなすのが、. されている可能性を念頭におく必要がある。当時の複雑な言語. 『王国・教会・帝国. ヨーロッパの父』 (世界史リブレッ. ─. ト人二九、山川出版社、二〇一三)である。最新の研究が多数. 史」 〈岩波書店〉 )であるが、それら以外では佐藤彰一・早川良. 佐 藤 彰 一『 カ ー ル 大 帝. 波書店、二〇一〇)の第一章~第二章が詳細を教えてくれる。. 弥編著『西欧中世史 上. 継承と創造』 (ミネルヴァ書房、一. 本書の著者は中世後半のイタリアを専門としているが、フラン. 九九五)が、教科書と専門論文の橋渡しの役目をはたしてくれ る。また、キリスト教史の各種概説書にもフランク時代の記述. ─. ク王国に関する記述も最新の研究動向を踏まえた信頼できるも のである。. 関する情報量の多さゆえに、半田元夫・今野國雄『キリスト教. が含まれている。ここではそのすべてを列挙することは控える. カール「大帝」 、ルイ「敬虔帝」 、シャルル「禿頭王」といった. ところで、カロリング朝の君主の多くは現代の書物において、. あだ名を付して表記されることが多い。カロリング朝において. 史Ⅰ. 宗教改革以前』(世界宗教史叢書、山川出版社、一九. は、カール(シャルル)やルイ(ルートヴィヒ)といった名前. 七七)は依然として高い価値を有している。一九七三年の概説. ─. の君主が繰り返し登場するため、あだ名が人物同定において極. 書 の 抄 訳 で は あ る が、 オ イ ゲ ン・ エ ー ヴ ィ ヒ( 瀬 原 義 生 訳 ). ). めて重要な役割をはたしているのである。こうしたあだ名がい. 『カロリング帝国とキリスト教会』(文理閣、二〇一七)からも、. 世貴族の家門意識にまでおよぶ学術的なもので、たんなる雑学. カロリング後期について多くを学ぶことができる。. 本ではない。歴史学者が先行研究や史料に向き合う姿も詳細に. 記述を読むことができる数少ない書物にあたる。本書の射程は. ヨーロッパ王侯貴族の名づけ. (. つ、なんのために成立したのかという問題を扱っているのが、. ─. 描かれていて、歴史学の営みの一端も知ることができる。. 時間的・空間的に西欧初期中世をはるかにこえており、高度な. を本格的に学びたい者にとっては挑戦する価値がある一冊であ. フランク王国に関する記述も多数盛り込まれており、この時代. 「カール大帝」時代に限定することなく、カロリング朝フラ. 』. 内容が含まれることもあって容易に通読できるものではないが、. 説 や 講 座(「 世 界 歴 史 大 系 」 〈 山 川 出 版 社 〉 の『 ド イ ツ 史. ンク王国を幅広く学ぶ者が手にとるべきは、やはり定評ある概. 岡地稔『あだ名で読む中世史. 2. 読書案内 カール大帝とフランク王国. 55. 1. 〈一九九七〉・ 『フランス史 』 〈一九九五〉や「岩波講座世界歴 1.
(3) 物』(中公新書、中央公論新社、二〇一六)にも、フランク時. る。同じ著者の『贖罪のヨーロッパ. を描いた本書の後半部分は、この時代の社会史・心性史に関心. 訂)や聖遺物奉遷などを通じて信徒掌握をはかる司教たちの姿. ュ』 (創文社、二〇一四)もある。とくに、聖人伝の作成(改. 中世修道院の祈りと書. 代に関する記述が豊富に含まれており、贖罪制度、修道院経済 をもつ者全員が興味深く読むことができるだろう。一般信徒へ. 九八九)もあり、同じ著者・訳者の『中世の生活文化誌. 観の変遷』(白水社、一九九九、原著一九九四)も同様のトピ ており、そこには一三世紀の編者による注釈も施されているた. 所領明細帳(八九三年成立)は、一三世紀の写本でのみ伝来し. 最後に史料の翻訳について。エインハルドゥス/ノトケルス. 56. ─. や当時の学知のありかたなど、扱われるトピックも幅広く、修 の教育については、ピエール・リシェ(岩村清太訳)『ヨーロ ッパ成立期の学校教育と教養』 (知泉書館、二〇〇二、原著一. 朝フランク王国に関しても宗教的心性を扱う研究成果がいくつ ロリング期の生活世界』 (東洋館出版社、一九九二、原著一九. 二〇世紀末には社会史・心性史の興隆のなかで、カロリング. 道院に関心をもつ者以外にとっても有益である。. か刊行されている。この時代は一般に西欧のキリスト教化が進 七 三 ) も 刊 行 さ れ て い る。 フ ィ リ ッ プ・ ヴ ォ ル フ( 渡 邊 昌 美 中世知識人群像』(白水社、二. カ. んだ時代としても知られているが、異教的慣習がすべて消滅し 訳) 『ヨーロッパの知的覚醒. ─. たわけではなく、一般信徒のあいだには異教的な思考様式や慣 〇〇〇、原著一九六八)の第一部はいわゆる「カロリング・ル. 甦るプリュム修道院所領明細. 報を邦語で学ぶことができる点で貴重な書物である。. ─. 行が根強く残り続けていたことがしばしば指摘されている。こ ネサンス」を詳細に扱っている。このテーマに関する基本的情. 亡霊の社会史』 (弘文堂、一九八九)やルドー・J・. うしたトピックを扱うものとしては、阿部謹也『西洋中世の罪. ─. と罰. ─. 帳』 (岩波書店、二〇〇三)は、明細帳研究の世界的権威であ. 森本芳樹『中世農民の世界. る著者による唯一の一般向け書籍。本書が扱うプリュム修道院. R・ミリス編著(武内信一訳) 『異教的中世』 (新評論、二〇〇. ヨーロッパ封建社会における死生. ─. 二、原著一九九一)がある。パトリック・ギアリ(杉崎泰一郎. ックを扱うが、内容は研究書に近く、一定の予備知識を要する。 め、この写本をそのまま九世紀の史料として用いることはでき. 訳)『死者と生きる中世. 新しい研究書としては、司教主導で進められた民衆教化(一般. 写本のどの部分が九世紀の史料として使用可能なのかについて、. ない。著者は写本や注釈の成立状況を綿密に分析することで、. カロリング時代のオルレアンとリエージ. 信徒への宗教教育)を考察した多田哲『ヨーロッパ中世の民衆. ─. 教化と聖人崇敬. (國原吉之助訳註) 『 カ ロ ル ス 大 帝 伝 』( 筑 摩 書 房、 一 九 八 八 ). さ」をもった(しかし学術的な厳密さを欠いた)「新説」が好. た。史料論的考察は一般向けの書物では省略されることが多い. は、カロリング期に成立したカール大帝の伝記。信頼できる訳. 極めて丹念に考察をかさねていく。こうした作業は一般に「史. が、本書ではむしろ史料論が叙述の中心を占めている。著者の. 者による仕事だが、註は最小限であり初学者の利用は困難であ. まれる状況に対する警鐘として読むべき書物である。. 巧みな史料論を通じて、読者は初期中世研究の最前線にふれる. 料論」と呼ばれ、初期中世研究においては極めて重視されてき. ことができるだろう。. ニタルトの歴史四巻』(知泉書館、二〇一六)は九世紀前. る。 ニ タ ル ト( 岩 村 清 太 訳 )『 カ ロ リ ン グ 帝 国 の 統 一 と 分 割. ─. 半の内戦の時代を描いたもの。ドゥオダ(岩村清太訳)『母が. 伝説の伝記』 (三. マックス・ケルナー/クラウス・ヘルバース(藤崎衛/エリ. ─. 元社、二〇一五、原著二〇一〇)は、カロリング期に女性であ. 子に与うる遺訓の書. ック・シッケタンツ訳) 『女教皇ヨハンナ. ることを隠しながら教皇となり、悲劇的な最期を遂げたとされ. 〇一〇)は貴族女性が息子に遺した宗教・道徳に関する「手引. ドゥオダの『手引書』』 (知泉書館、二. るヨハンナに関する伝説を扱った書籍。本書の背景には、ドイ. 書」 。いずれも時代背景やほかの同時代史料を学んだうえで手. ─. ツで四〇〇万部をこえる大ベストセラーとなり、映画化もされ. にとるべきである。. (つだ たくろう/北海道教育大学教育学部准教授). ) 一部の書物は「○○~世」といった表記も用いているが、書籍ごと にナンバリング方針に揺れがあり混乱を招いている。. 二〇〇六)のみを紹介しておく。. 納修訳)『メロヴィング朝』(文庫クセジュ、白水社、二〇〇九、原著. (. . (. ) 本稿では、雑誌論文は取り上げず、メロヴィング期に関する書物も 対象外とした。メロヴィング期についてはレジーヌ・ル・ジャン(加. ▼注. た歴史小説、ドナ・W・クロス(阪田由美子訳) 『女教皇ヨハ ンナ』(上・下、草思社、二〇〇五、原著一九九六)の存在が ある。クロスはあとがきで、カロリング期に女教皇が実在した ことは確実であるとの主張を展開しているが、ケルナーとヘル バースは、歴史学においては女教皇実在説が完全に否定されて いることを示し、クロスがあげる証拠をすべて否定したうえで、 一三世紀頃に成立した女教皇伝説がその後どのように受け継が れ、変容していったのかを明らかにしていく。専門家による地 道 で 地 味 な 成 果 よ り も、 圧 倒 的 な「 お も し ろ さ 」 と「 心 地 よ. 1. 読書案内 カール大帝とフランク王国. 57. 2.
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