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保育環境としての「木」の可能性 : 養成校学生の幼少期の木の遊び経験と現在の資質能力との関連に着目して

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Academic year: 2021

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1.問題と目的 (1)子どもの遊びと保育者の遊び経験の変容  幼児教育は環境を通した教育であり、その環 境には、物的、人的、自然など様々なものが含 まれている。つまり、子どもを取り巻くすべて がその育ちに関わる環境そのものであると言え よう。子どもは、多様な環境の中で、遊びを通 して心身共に成長していくのである。  平成30年度に改訂される、幼稚園教育要領、 保育所保育指針、幼保連携型認定こども園 教 育・保育要領(2017)には、「幼児期の終わり までに育ってほしい姿」として「(1)健康な心 と体、(2)自立心、(3)協同性、(4)道徳性・ 規範意識の芽生え、(5)社会生活との関わり、 (6)思考力の芽生え、(7)自然との関わり・ 生命尊重、(8)数量や図形、標識や文字への関 心・感覚、(9)言葉による伝え合い、(10)豊か な感性と表現」の10項目が示されている。こ れらの姿について、幼児教育部会とりまとめ (2016)では、「幼児教育は環境を通して行う ものであり、とりわけ幼児の自発的な活動とし ての遊びを通して、これらの姿が育っていくこ とに留意する必要がある」と述べている。つま り、保育者は子どもと関わるうえで、この10項 目を意識して環境を整えていく必要があるので ある。  子どもを取り巻く環境は、社会情勢に応じて 変化してきた。河崎(2008)は、歴史的な視点 から子どもの遊びの変容について時代背景と共 にまとめ、「生活と遊びの中で『自然体験』の 減少と人工ファンタジーの増大は表裏の変動と いってよい」と述べ、今後は保育において多様 で創造的な実践が求められるとしている。  また、仙田(2014)は、子どもの遊びを取り 巻く環境の変化に触れ、遊びを構成する要素と して、「あそび時間、あそび空間、あそび集団、 あそび方法」という4つの要素を挙げている。 これらはすべて関連しており、社会構造や文化 構造、都市構造が影響を与えているとし、時代 と共に変化していくことから、この4つが悪化 の循環をしないようにする必要があるとしてい る。  さらに仙田は、遊びは伝承していく場が必要 であり、「あそび方法」は交流を通して伝承さ れていくとも述べている。保育現場で言えば、 保育者は遊びの伝承者としての役割も担ってい ると言えるのではないだろうか。しかし、遊び の経験がなければ十分に伝承することもできな い。伝承される遊びが少なくなれば、その結果、 遊びは貧困化し、子どもたちの自発的な遊びを 発展させるような関わりも希薄になっていく可 能性があるのではないだろうか。  保育現場において、保育者は重要な人的環境 であり、子どもが周囲の様々な環境と関わる際 に必要な存在でもある。これらを踏まえて、保 育の専門家としての素地を養成の段階で育んで いかなければならないと考えられる。しかし現 在、養成校に在籍する学生の中には、子どもの 幼年児童教育研究 第30号 2018 − 1 −

保育環境としての「木」の可能性

─ 養成校学生の幼少期の木の遊び経験と現在の資質能力との関連に着目して ─

川口めぐみ・明石英子・石野秀明

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頃あまり遊びに没頭したことがなく、遊びと言 っても外で遊ぶのではなく、テレビゲームなど を多くしてきたという学生も少なくない。  戸塚(2008)は、メディア環境の移り変わり と、子どもが日常で触れるインターネットやゲ ームなどメディアの仮想世界が子どもに与えた 影響を「メディアっ子ホムンクルス」と名付け て戯画化している。現在の子どもの身近な環境 には、当たり前のようにメディアが存在し、子 どもの遊び環境にも影響を与えていることが窺 える。  吉野ら(2011)は、大学生の児童期の記憶に 残っている自然遊びをアンケート調査し、活動 場所等についても検討した。その結果、遊びに 関しては、ドッジボールや野球、鬼ごっこなど が多く、最も夢中になった遊びには自然体験が あまり挙げられなかったとして、遊び場や自然 体験の場を考えていく必要があると述べている。 また、鎌田(2005)は、保育者を目指す学生の 子どもの頃の遊びの実態調査を行い、時間、空 間、仲間の3つの間について検討した。その中 で、テレビやゲームの遊びが増加している一方、 外遊びでは公園や校庭で遊ぶものの、山や川な どの自然遊びが減少している実態を明らかにし、 遊び空間が激変している様子がとらえられると している。  上述のように、子どもの遊びは時代と共に変 化してきた。こうした変化に伴い、保育者自身 の遊び経験も変容し、子どもの遊びへの関わり などにも影響していくのではないかと考えられ る。 (2)子どもの遊び環境としての自然とその意義  現在、都市化などの社会の変化によって、子 どもの遊び環境も大きく変化している。また、 様々な社会情勢から危険を回避する傾向もあり、 子どもが身近にある自然の中で存分に遊べるよ うな環境は減少してきているのではないだろう か。  子どもの遊び環境について、先行研究でも特 に多いのが、自然に関わる研究である。身近な 環境の中でも自然は重要視されている傾向があ り、子どもの育ちに様々な影響を与えると考え られる。  仙田(2014)は、子どもの遊び環境を6つの 原空間で示し、「その重要度において、自然、 オープン、道という三スペースが中心的な空間 で、アジト、アナーキー、遊具という三つのス ペースが従の空間である。子どもたちがこのど れをも豊富にもつことは難しい。しかし少なく とも三つぐらいのスペースを十分にもっている ことが必要ではないか」と、戦後からの遊び環 境の変化も踏まえて述べている。さらに、仙田 は自然遊びについて虫遊びや草花遊びを例とし て挙げ、「小さな雑草も単に雑草としてしかみ ないのか、あそぶことができる素材としてみる ことができるのか、その差は大きい」とも述べ ている。  また、保育現場での自然体験の現状として、 石倉(2008)は、幼稚園内の自然と関わる幼児 の実態を調査している。自然物(草花や石、水 など)に関わる子どもの事例について検討し、 「環境が保証されていることが子どもの感性を 豊かに育む要因となっていると思われる。感じ る経験を保証された環境は対象の性質をとらえ る力を生み出し、その子なりの感性を育むので はないだろうか」と述べている。そして、自然 については、「その多様な種類や性質、変化の 様子から、感じる経験の可能性をふんだんに内 在している材であり、どこから何を感じてもい いように扉が開かれている材ともいえる」とし ている。つまり、保育現場においても自然遊び は子どもの豊かな育ちにとって重要なものであ − 2 −

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幼年児童教育研究 第30号 − 3 − ると考えられる。  中坪ら(2011)は、森の幼稚園の保育実践を 通して、素朴な自然環境と子どもの関わりから、 自然環境は、保育者や幼児にどのような行為を もたらすのかということについてアフォーダン スの視点から検討している。一例として、子ど もが自然の木(細木)を揺らしたり、奪い合っ たりする遊びの事例を挙げている。子どもは、 その木(細木)を通して周囲と関わり合い、遊 びが継続されていく姿から、単純な行為である が、多様なバリエーションがあって展開してい くとして、ありのままの素朴である自然が様々 な行為をもたらし、遊びを豊かなものとしてい ると考察している。また、「環境構成が困難な 自然環境の下では、環境を『構成する』ことよ りも、様々な側面から『捉え直す』ことが重要 となってくるのである」と述べている。  これらの研究から、自然環境の捉え方ひとつ で、子どもの自然との関わりがいかようにも変 わっていくことが推察される。自然遊びの中で は、様々な子どもの育ちが期待されよう。つま り、自然環境の中で、保育者が子どもにどのよ うな経験を保証するのかが、その育ちに影響を 及ぼす可能性があると言えるのではないだろう か。  山本(2012)は、大学生を対象に子どもの頃 の自然体験と社会的スキルとの関連性を調査し た。その結果、幼少期の自然体験と成長後の社 会性に関連性がみられたとし、「社会性は、キ ャンプのような非日常の自然体験ばかりでなく、 自然を媒介とした友達や家族との日常的な関わ りの中でも育まれたと考えられる」と述べてい る。こうした子どもの育ちへの影響も踏まえた うえで、保育現場において、子どもの自然遊び をどう捉え、普段の日常生活の中に取り入れて いくのかを検討する必要があるのではないだろ うか。 (3)目的  そこで本研究では、身近な自然環境の中でも 特に「木」に着目し、「木」に関わる遊び経験 の意義について考察する。  「木」に着目したのは、中坪ら(2011)が指 摘するように、それが、子どもが自然と関わる 遊びを豊かにする環境だと言えるからである。 木は、木枝、葉、花、実など遊びの素材の宝庫 である。また、自然スペースとしてはもちろん のこと、アジトスペース、アナーキースペース など、多様な機能を有する空間でもある。さら に、関わり方によっては、落下などの怪我もあ ることから、安全確保のため、今後、保育環境 として子どもから遠ざけられる危惧も禁じ得な い。木の可能性を探ることは、重要であろうと 考える。一方で、木の遊び経験を測定する尺度 は、見当たらない。本研究では、木の遊び経験 について、項目を作成し、その構造を明らかに する。  また、「木」との関わりがもたらす効果につ いても検討する。本研究では、保育者養成校の 学生を対象に、幼少期の木の遊び経験の量と、 現在備えている資質能力との関連をみる。この 際、現代の保育動向を踏まえ、「幼児期の終わ りまでに育ってほしい姿」に着目し、その延長 線上で、「将来保育者として備えておくべき基 本的な資質能力」について項目を作成し、測定 を試みる。  以上の調査結果を踏まえ、保育環境としての 「木」の可能性について探ることを目的とする。 2.方法 (1)調査期間 2017年10月~11月 (2)調査方法 質問紙調査 (3)調査対象者

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− 4 − 国立A大学   1年次生 20名   3年次生 17名 私立B大学   3年次生 69名 私立C短期大学 2年次生 82名 私立D専門学校 2年次生 99名        計287名 (4)調査内容  質問紙項目の内容は、大きく分けて①属性、 ②幼少期の木の遊びについての質問、③②の木 の遊びをどの程度必要だと思うか、④「幼児期 の終わりまでに育ってほしい姿」10項目を元に 現在の自分を評価、である。質問項目は先行研 究および幼稚園教育要領等から作成した。学生 の資質を測るにあたり、本研究では「幼児期の 終わりまでに育ってほしい姿」を主として項目 を検討した。その中で「(8)数量や図形、標識 や文字への関心・感覚」に関しては、本研究の 対象者が大学生、短大生、専門学生であること を踏まえ、既に公教育の中で育っているものと 判断し除外した。  なお、質問項目の妥当性については、心 理学の専門家と保育経験者で検討した。得 られたデータは、因子分析及び相関分析を 用い、Excel2016及び統計用処理ソフトSPSS statistics 24.0で分析を行った。 3.結果と考察 (1)幼少期の「木の遊び経験尺度」について の因子構造の検討  まずは、木の遊び経験尺度27項目について 項目分析を行った。「たくさん経験した」を 4、「少し経験した」を3、「あまり経験してい - 4 - 25 項目全ての因子負荷量が、.40 以上の負荷量を 示したため、因子を構成する項目とした。結果は Table 2 に示す。 Table 1 幼少期の木の遊び経験尺度の記述統計量 第1因子を構成する項目には、「花びらや木の 葉や実を使って、ジュースや食べ物をつくり、ま まごとやレストランごっこをする」、「花びらや 木の葉、実を使って、様々な衣装やアクセサリー、 お面などをつくり、お店屋さんごっこをする」な ど、木という素材を活用して展開する遊びで構成 していることから、「素材を生かした遊び」と命 名した。第2 因子は、「木に登る」、「木から飛 び降りる」など木そのものを使って身体を活発に 動かす遊びで構成していることから、「活動的な 遊び」と命名した。第3 因子は、「木に触れたり、 もたれたりしながら、ひとりでじっとそばにい る」、「木の幹に自分なりのマークをつける」な ど、木に触れることによって自分を満足させよう としている遊びで構成していることから、「自己 充足的な遊び」と命名した。第4 因子は、「見つ けた木の葉や花、実の美しさ、枝の大きさや長さ を競う」、「木の実や枝を投げて飛距離を競う」 から、木を使って長さや飛距離を競う遊びで構成 されていることから「競う遊び」と命名した。各 因子の α 係数は、第 1 因子が.871、第 2 因子 が、.883、第 3 因子が、.762、第 4 因子が.743 で あり、尺度としての信頼性は確保できた。 平均値 標準偏差 1. きれいな木の葉や花、実を集める 3.459 .707 2. 木の周りにいる虫をたくさん捕まえる 2.897 1.004 3. 落ち葉を集めて放り投げたり、寝転がったりもぐったりする。 2.726 1.000 4. 花びらや木の葉や実を使って、ジュースや食べ物をつくり、ままごとやレストランごっこをする 3.352 .854 5. 木を自分たちの基地にして、キャラクターやヒーローごっこをする 2.833 1.064 6. 花びらや木の葉、実を使って、様々な衣装やアクセサリー、お面などをつくり、お店屋さんごっこをする 3.000 .930 7. 花びらや木の葉で、様々な色の色水をつくったり、混ぜて色の変化を楽しんだりする 3.025 1.016 8. 木の枝で地面に絵や文字をかく 3.584 .737 9. 木の葉や花、実をそのまま髪や服などにつけて装う 2.662 1.005 10. 木に登る 2.886 1.096 11. 木から飛び降りる 2.747 1.097 12. 木の枝にぶら下がる 2.694 1.118 13. 木の枝や実を使って戦いごっこをする 2.452 1.045 14. 見つけた木の葉や花、実の美しさ、枝の大きさや長さを競う 2.423 1.001 15. 木の実や枝を投げて飛距離を競う 2.349 1.024 16. きれいな木の葉や花、実を飾る 2.836 .934 17. 木や花の様子をじっと眺める 2.626 .948 18. 木や花に親しみを感じて水をあげる 3.007 .894 19. 木の花の蜜を吸う 3.178 .984 20. 木の実を食べる 2.445 1.111 21. 木の実を材料にしたお菓子やジュースを大人と一緒に作って、食べたり飲んだりする 1.918 .988 22. かくれんぼや鬼ごっこで木の上や後ろに隠れる 3.509 .728 23. 木の周りで、他の人を入れずに、気の合う友だちだけで集まって遊ぶ 2.488 .979 24. 木に触れたり、もたれたりしながら、ひとりでじっとそばにいる 2.050 .966 25. 木の幹に自分なりのマークをつける 1.868 .934 26. 木の枝を折ったり皮を剥いだりする 2.762 1.019 27. 木の葉や花、実をちぎる 3.263 .825

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幼年児童教育研究 第30号 − 5 − ない」を2、「全く経験していない」を1とし て得点化した。項目毎の平均値、標準偏差は Table1に示す通りである。次に、尺度につい ての構成要素を確認するために27項目全てを用 いて因子分析(主因子法、バリマックス回転) を実施した。  その結果、固定値1以上の因子が4つ認めら れた。因子負荷量は、.40以上を基準としたが、 「かくれんぼや鬼ごっこで木の上や後ろに隠れ る」、「木の実を材料にしたお菓子やジュース を大人と一緒に作って、食べたり飲んだりす る」の2つの項目については、基準を満たさな かったため、分析から外し、再度因子分析を 行った。結果は、25項目全ての因子負荷量が、 .40以上の負荷量を示したため、因子を構成す る項目とした。結果はTable2に示す。  第1因子を構成する項目には、「花びらや木 の葉や実を使って、ジュースや食べ物をつくり、 ままごとやレストランごっこをする」、「花び らや木の葉、実を使って、様々な衣装やアクセ サリー、お面などをつくり、お店屋さんごっこ をする」など、木という素材を活用して展開す る遊びで構成していることから、「素材を生か した遊び」と命名した。第2因子は、「木に登 る」、「木から飛び降りる」など木そのものを 使って身体を活発に動かす遊びで構成している ことから、「活動的な遊び」と命名した。第3 因子は、「木に触れたり、もたれたりしながら、 ひとりでじっとそばにいる」、「木の幹に自分 なりのマークをつける」など、木に触れること によって自分を満足させようとしている遊びで 構成していることから、「自己充足的な遊び」 と命名した。第4因子は、「見つけた木の葉や 花、実の美しさ、枝の大きさや長さを競う」、 「木の実や枝を投げて飛距離を競う」から、木 を使って長さや飛距離を競う遊びで構成されて

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− 6 − いることから「競う遊び」と命名した。各因子 のα係数は、第1因子が.871、第2因子が、.883、 第3因子が、.762、第4因子が.743であり、尺度 としての信頼性は確保できた。 (2)学生の「基本的な資質能力尺度」につい ての因子構造の検討  学生が現在備えている基本的な資質能力尺度 21項目について項目分析を行った。「できる」 を4、「少しできる」を3、「あまりできな い」を2、「全くできない」を1として得点化し た。項目毎の平均値、標準偏差はTable3に示 す通りである。次に、尺度についての構成要素 を確認するために21項目全てを用いて、因子分 析(主因子法、バリマックス回転)を実施した。  その結果、固定値1以上の因子が4つ認めら れた。因子負荷量は、.40以上を基準としたが、 「日々の生活の中で、美しいものや心動かす出 来事に触れたとき、素直に感動することができ る」、「音楽やダンス、映画、絵画造形など、 演じたりつくったりして表現することを楽しむ ことができる」の2つの項目については、基準 を満たさなかったため、分析から外し、再度因 子分析を行った。結果は、19項目全ての因子負 荷量が、.40以上の負荷量を示したため、因子 を構成する項目とした。結果はTable4に示す。  第1因子を構成する項目には、「他者との関 わりを通して、相手の思いや考え、良さを理解 し、一緒に楽しんで物事を進めることができ る」、「授業や部活、アルバイト、ボランティ ア等で自己発揮し、自分の役割を自覚して、責 任感をもって行動することができる」などか ら「自立性・協同性」と命名した。第2因子は、 「公共のものを大切にし、ルールやマナーを守 って生活できる」、「相手の気持ちを理解し大 切にしたり、相手の立場から自分の行動を振り 返ったりして、思いやりを持って行動すること ができる」などから「社会性・公共性」と命名 した。第3因子は、「他者の考えを聞き、自分 の考えと比較しながら、より良いものにしよ うとすることができる」、「身の回りや社会で - 6 - はの自然に触れたり、自然物を取り入れた遊び を楽しんだりすることができる」、「自然の大 きさや不思議さ、怖さなどを感じ、好奇心や探 究心を持って調べ、その知識を生活に生かすこ とができる」など自然に興味を持ったり触れた りする経験や体験活動で構成されていること から「自然体験活動力」と命名した。各因子の α 係数は、第 1 因子が.849、第 2 因子が、.779、 第3 因子が、.754、第 4 因子が.743 であり、尺 度としての信頼性は確保できた。 Table 3 学生の基本的な資質能力尺度の記述統計量 Table 4 学生の基本的な資質能力尺度の因子分析結果 平均値 標準偏差 1. 身の回りや社会で起きている様々な出来事に対して興味関心を持ち、調べたり考えをめぐらせたりすることができる 2.901 .686 2. 他者の考えを聞き、自分の考えと比較しながら、より良いものにしようとすることができる 3.123 .720 3. 新たに気づいたことや身に付けたことについて振り返り、別の場面で応用することができる 2.972 .688 4. 日常生活に潜む危険に注意を払うと共に、病気や怪我、災害時等の対応の仕方を知り、安全に生活することができる 3.014 .733 5. 衣食住にわたって適切な生活習慣を身に付け、健康なリズムで生活できる 2.947 .828 6. 体を動かす心地よさや共に力を合わせる楽しさを感じながら、運動することができる 3.197 .791 7. 動植物に対して、命あるものとしていたわり大切にする気持ちを持って関わることができる 3.475 .690 8. 季節の変化に応じて、その時期ならではの自然に触れたり、自然物を取り入れた遊びを楽しんだりすることができる 3.109 .774 9. 自然の大きさや不思議さ、怖さなどを感じ、好奇心や探究心を持って調べ、その知識を生活に生かすことができる 2.827 .758 10. たとえ困難なことがあっても、自分なりに創意工夫をして、最後まで諦めずにやり遂げることができる 3.113 .739 11. 家族や友人、先生など周囲の人に親しみを持ち、支え合って生活を送ることができる 3.451 .619 12. 授業や部活、アルバイト、ボランティア等で自己発揮し、自分の役割を自覚して、責任感をもって行動することができる 3.451 .619 13. 他者との関わりを通して、相手の思いや考え、良さを理解し、一緒に楽しんで物事を進めることができる 3.419 .627 14. 仲間同士で共通の目標を見出し、それに向かって一人一人が考えを出し合い、工夫し、協力して活動を行うことができる 3.264 .701 15. 身近な人だけではなく様々な人々と交流する中で、多様な見方や価値観に気付くと共に、自分の生き方に目を向けることができる 3.208 .695 16. 善悪の判断ができ、物事に対する考えを持って、自分で判断して行動することができる 3.366 .656 17. 相手の気持ちを理解し大切にしたり、相手の立場から自分の行動を振り返ったりして、思いやりを持って行動することができる 3.412 .631 18. 公共のものを大切にし、ルールやマナーを守って生活できる 3.556 .629 19. 日々の生活の中で、美しいものや心動かす出来事に触れたとき、素直に感動することができる 3.486 .675 20. 音楽やダンス、映画、絵画造形など、演じたりつくったりして表現することを楽しむことができる 3.225 .774 21. 自分の感じたことや考えたことを、言葉で表現し伝え合うことができる 3.208 .700 F1 F2 F3 F4 13. 他者との関わりを通して、相手の思いや考え、良さを理解し、一緒に楽しんで物事を進めることができる .696 .281 .201 .105 11. 家族や友人、先生など周囲の人に親しみを持ち、支え合って生活を送ることができる。 .589 .233 .140 .129 14. 仲間同士で共通の目標を見出し、それに向かって一人一人が考えを出し合い、工夫し、協力して活動を行うことができる .580 .184 .306 .161 12. 授業や部活、アルバイト、ボランティア等で自己発揮し、自分の役割を自覚して、責任感をもって行動することができる .545 .263 .253 .119 21. 自分の感じたことや考えたことを、言葉で表現し伝え合うことができる .522 .097 .193 .250 15. 身近な人だけではなく様々な人々と交流する中で、多様な見方や価値観に気付くと共に、自分の生き方に目を向けることができる .487 .288 .351 .299 10. たとえ困難なことがあっても、自分なりに創意工夫をして、最後まで諦めずにやり遂げることができる .409 .335 .405 .097 18. 公共のものを大切にし、ルールやマナーを守って生活できる .184 .748 .120 .203 16. 善悪の判断ができ、物事に対する考えを持って、自分で判断して行動することができる .349 .583 .309 .087 17. 相手の気持ちを理解し大切にしたり、相手の立場から自分の行動を振り返ったりして、思いやりを持って行動することができる .385 .482 .256 .145 4. 日常生活に潜む危険に注意を払うと共に、病気や怪我、災害時等の対応の仕方を知り、安全に生活することができる .194 .453 .251 .200 5. 衣食住にわたって適切な生活習慣を身に付け、健康なリズムで生活できる .195 .417 .134 .192 2. 他者の考えを聞き、自分の考えと比較しながら、より良いものにしようとすることができる .245 .248 .687 .117 3. 新たに気づいたことや身に付けたことについて振り返り、別の場面で応用することができる .263 .203 .670 .168 1. 身の回りや社会で起きている様々な出来事に対して興味関心を持ち、調べたり考えをめぐらせたりすることができる .233 .112 .478 .174 8. 季節の変化に応じて、その時期ならではの自然に触れたり、自然物を取り入れた遊びを楽しんだりすることができる .113 .193 .145 .792 9. 自然の大きさや不思議さ、怖さなどを感じ、好奇心や探究心を持って調べ、その知識を生活に生かすことができる .168 .069 .380 .569 7. 動植物に対して、命あるものとしていたわり大切にする気持ちを持って関わることができる .185 .452 .072 .477 6. 体を動かす心地よさや共に力を合わせる楽しさを感じながら、運動することができる .203 .256 .064 .438 固有値 7.405 1.421 1.214 1.056 因子負荷量 F1: 自立性・協同性(α=.849) F2: 社会性・公共性(α=.779) F3: 思考力(α=.754) F4: 自然体験活動力(α=.743)

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幼年児童教育研究 第30号 − 7 − 起きている様々な出来事に対して興味関心を持 ち、調べたり考えをめぐらせたりすることがで きる」などから「思考力」と命名した。第4因 子は、「季節の変化に応じて、その時期ならで はの自然に触れたり、自然物を取り入れた遊び を楽しんだりすることができる」、「自然の大 きさや不思議さ、怖さなどを感じ、好奇心や探 究心を持って調べ、その知識を生活に生かすこ とができる」など自然に興味を持ったり触れた りする経験や体験活動で構成されていることか ら「自然体験活動力」と命名した。各因子のα 係数は、第1因子が.849、第2因子が、.779、第3 因子が、.754、第4因子が.743であり、尺度とし ての信頼性は確保できた。 (3)フェイスシートと学生の「基本的な資質 能力」との関連  回答者である学生から、幼少期の通園所の自 然の豊かさ、居住地の自然の豊かさ、自然で遊 んだ経験量についてそれぞれ回答を得た。自然 の豊かさについては「とても豊か」を4、「ど ちらかといえば豊か」を3、「どちらかといえ ば豊かではない」を2、「全く豊かではない」 を1として、経験量については「たくさんあ る」を4、「まぁまぁある」を3、「あまりな い」を2、「全くない」を1として得点化した。 それらの項目ごとの得点について、学生の「基 本的な資質能力」である4因子と関連があるの かどうかを検討するため、相関分析を試みた。 結果は、Table5に示す。  相関分析の結果、通園所の自然の豊かさと、 学生の資質能力4因子との間にどれも有意な相 関は認められなかった。すなわち、学生が幼少 期に通園していた幼稚園や保育所の自然の豊か さの量と、現在学生が備えている基本的な資質 能力との間に関連は認められなかった。  幼少期の居住地の自然の豊かさと基本的 な資質能力4因子については、「自然体験活 動力」因子との間に、有意な弱い正の相関 (r=.182,p<.01)が認められた。すなわち、居 住地の豊かさの程度と、基本的な資質能力の一 - 6 - はの自然に触れたり、自然物を取り入れた遊び を楽しんだりすることができる」、「自然の大 きさや不思議さ、怖さなどを感じ、好奇心や探 究心を持って調べ、その知識を生活に生かすこ とができる」など自然に興味を持ったり触れた りする経験や体験活動で構成されていること から「自然体験活動力」と命名した。各因子の α 係数は、第 1 因子が.849、第 2 因子が、.779、 第3 因子が、.754、第 4 因子が.743 であり、尺 度としての信頼性は確保できた。 Table 3 学生の基本的な資質能力尺度の記述統計量 Table 4 学生の基本的な資質能力尺度の因子分析結果 平均値 標準偏差 1. 身の回りや社会で起きている様々な出来事に対して興味関心を持ち、調べたり考えをめぐらせたりすることができる 2.901 .686 2. 他者の考えを聞き、自分の考えと比較しながら、より良いものにしようとすることができる 3.123 .720 3. 新たに気づいたことや身に付けたことについて振り返り、別の場面で応用することができる 2.972 .688 4. 日常生活に潜む危険に注意を払うと共に、病気や怪我、災害時等の対応の仕方を知り、安全に生活することができる 3.014 .733 5. 衣食住にわたって適切な生活習慣を身に付け、健康なリズムで生活できる 2.947 .828 6. 体を動かす心地よさや共に力を合わせる楽しさを感じながら、運動することができる 3.197 .791 7. 動植物に対して、命あるものとしていたわり大切にする気持ちを持って関わることができる 3.475 .690 8. 季節の変化に応じて、その時期ならではの自然に触れたり、自然物を取り入れた遊びを楽しんだりすることができる 3.109 .774 9. 自然の大きさや不思議さ、怖さなどを感じ、好奇心や探究心を持って調べ、その知識を生活に生かすことができる 2.827 .758 10. たとえ困難なことがあっても、自分なりに創意工夫をして、最後まで諦めずにやり遂げることができる 3.113 .739 11. 家族や友人、先生など周囲の人に親しみを持ち、支え合って生活を送ることができる 3.451 .619 12. 授業や部活、アルバイト、ボランティア等で自己発揮し、自分の役割を自覚して、責任感をもって行動することができる 3.451 .619 13. 他者との関わりを通して、相手の思いや考え、良さを理解し、一緒に楽しんで物事を進めることができる 3.419 .627 14. 仲間同士で共通の目標を見出し、それに向かって一人一人が考えを出し合い、工夫し、協力して活動を行うことができる 3.264 .701 15. 身近な人だけではなく様々な人々と交流する中で、多様な見方や価値観に気付くと共に、自分の生き方に目を向けることができる 3.208 .695 16. 善悪の判断ができ、物事に対する考えを持って、自分で判断して行動することができる 3.366 .656 17. 相手の気持ちを理解し大切にしたり、相手の立場から自分の行動を振り返ったりして、思いやりを持って行動することができる 3.412 .631 18. 公共のものを大切にし、ルールやマナーを守って生活できる 3.556 .629 19. 日々の生活の中で、美しいものや心動かす出来事に触れたとき、素直に感動することができる 3.486 .675 20. 音楽やダンス、映画、絵画造形など、演じたりつくったりして表現することを楽しむことができる 3.225 .774 21. 自分の感じたことや考えたことを、言葉で表現し伝え合うことができる 3.208 .700 F1 F2 F3 F4 13. 他者との関わりを通して、相手の思いや考え、良さを理解し、一緒に楽しんで物事を進めることができる .696 .281 .201 .105 11. 家族や友人、先生など周囲の人に親しみを持ち、支え合って生活を送ることができる。 .589 .233 .140 .129 14. 仲間同士で共通の目標を見出し、それに向かって一人一人が考えを出し合い、工夫し、協力して活動を行うことができる .580 .184 .306 .161 12. 授業や部活、アルバイト、ボランティア等で自己発揮し、自分の役割を自覚して、責任感をもって行動することができる .545 .263 .253 .119 21. 自分の感じたことや考えたことを、言葉で表現し伝え合うことができる .522 .097 .193 .250 15. 身近な人だけではなく様々な人々と交流する中で、多様な見方や価値観に気付くと共に、自分の生き方に目を向けることができる .487 .288 .351 .299 10. たとえ困難なことがあっても、自分なりに創意工夫をして、最後まで諦めずにやり遂げることができる .409 .335 .405 .097 18. 公共のものを大切にし、ルールやマナーを守って生活できる .184 .748 .120 .203 16. 善悪の判断ができ、物事に対する考えを持って、自分で判断して行動することができる .349 .583 .309 .087 17. 相手の気持ちを理解し大切にしたり、相手の立場から自分の行動を振り返ったりして、思いやりを持って行動することができる .385 .482 .256 .145 4. 日常生活に潜む危険に注意を払うと共に、病気や怪我、災害時等の対応の仕方を知り、安全に生活することができる .194 .453 .251 .200 5. 衣食住にわたって適切な生活習慣を身に付け、健康なリズムで生活できる .195 .417 .134 .192 2. 他者の考えを聞き、自分の考えと比較しながら、より良いものにしようとすることができる .245 .248 .687 .117 3. 新たに気づいたことや身に付けたことについて振り返り、別の場面で応用することができる .263 .203 .670 .168 1. 身の回りや社会で起きている様々な出来事に対して興味関心を持ち、調べたり考えをめぐらせたりすることができる .233 .112 .478 .174 8. 季節の変化に応じて、その時期ならではの自然に触れたり、自然物を取り入れた遊びを楽しんだりすることができる .113 .193 .145 .792 9. 自然の大きさや不思議さ、怖さなどを感じ、好奇心や探究心を持って調べ、その知識を生活に生かすことができる .168 .069 .380 .569 7. 動植物に対して、命あるものとしていたわり大切にする気持ちを持って関わることができる .185 .452 .072 .477 6. 体を動かす心地よさや共に力を合わせる楽しさを感じながら、運動することができる .203 .256 .064 .438 固有値 7.405 1.421 1.214 1.056 因子負荷量 F1: 自立性・協同性(α=.849) F2: 社会性・公共性(α=.779) F3: 思考力(α=.754) F4: 自然体験活動力(α=.743)

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保育環境としての「木」の可能性 − 8 − つである自然体験活動力との間の関係性が示唆 されたと言えるであろう。  幼少期の自然で遊んだ経験量と基本的な資質 能力4因子については、「自然体験」因子との 間に、有意な弱い正の相関(r=.229,p<.01)が 認められた。すなわち、幼少期に自然で遊んだ 経験が多いと、学生の自然体験活動力の資質能 力も高くなる傾向があると考えられる。 (4)「木の遊び経験」と「基本的な資質能力」 との関連  次に、学生の幼少期の木の遊びの経験と、学 生が現在備えている基本的な資質能力との間に 関連があるのかどうかを検討した。「木の遊び の経験」4因子と「学生の資質能力」4因子にお いて、それぞれの因子に含まれる項目の得点の 平均値を算出し、相関係数を算出した。結果は、 Table6に示す。   相 関 分 析 の 結 果 、 素 材 を 生 か し た 遊 び は 、 「 学 生 の 資 質 能 力 」 の 4 因 子 全 て に お いて有意な弱い正の相関(自立性・協同性 (r=.254,p<.01)、社会性・公共性(r=.208,p<.01)、 思考力(r=.331,p<.01)、自然体験活動力 (r=.317,p<.01)が認められた。すなわち、幼 少期に木の素材を生かしたごっこ遊びなどをた くさん経験した学生は、自立性や社会性、思考 力や自然体験活動力の資質能力が高くなる傾向 があると考えられる。  活動的な遊びは、思考力(r=.206,p<.01)と 自然体験活動力(r=.322,p<.001)で、有意な弱 い正の相関が見られた。すなわち、幼少期に木 登りや木を使った戦いごっこなど活動的な遊び を多く経験した学生は、思考力や自然体験活動 力の資質能力が高くなる傾向があると考えられ る。  自己充足的な遊びは、思考力(r=.260,p<.01) と自然体験活動力(r=.237,p<.01)で、有意な 弱い正の相関が認められた。幼少期に木に触れ たり持たれたり自己充足的な遊びを好んで経験 した学生は、活動的な遊びと同様、思考力や自 然体験活動力の資質能力が高くなる傾向がある と考えられる。  競う遊びは、自立性・協同性(r=.145,p<.05)、 社 会 性 ・ 公 共 性 ( r = . 1 6 0 , p < . 0 1 ) 、 思 考 力 ( r = . 2 5 2 , p < . 0 1 ) 、 自 然 体 験 活 動 力 (r=.325,p<.01)と、程度の違いはあるが、有 意な弱い正の相関が認められた。幼少期に木の 枝の長さや木の実の数を競う遊びをたくさん経 験すると、思考力や自然体験活動力の資質能力 は高くなる傾向があると考えられる。一方、自 立性と社会性の資質能力との間には弱いながら も関係性があることが示唆された。 4.総合考察  本研究では、木の遊び経験尺度を作成するこ - 7 - 回答者である学生から、幼少期の通園所の自 然の豊かさ、居住地の自然の豊かさ、自然で遊 んだ経験量についてそれぞれ回答を得た。自然 の豊かさについては「とても豊か」を4、「ど ちらかといえば豊か」を3、「どちらかといえ ば豊かではない」を2、「全く豊かではない」 を1 として、経験量については「たくさんある」 を4、「まぁまぁある」を 3、「あまりない」を 2、「全くない」を 1 として得点化した。それ らの項目ごとの得点について、学生の「基本的 な資質能力」である4 因子と関連があるのかど うかを検討するため、相関分析を試みた。結果 は、Table 5 に示す。 相関分析の結果、通園所の自然の豊かさと、 学生の資質能力4 因子との間にどれも有意な相 かさの量と、現在学生が備えている基本的な資 質能力との間に関連は認められなかった。 幼少期の居住地の自然の豊かさと基本的な 資質能力4 因子については、「自然体験活動力」 因 子 と の 間 に 、 有 意 な 弱 い 正 の 相 関 (r=.182,p<.01) が認められた。すなわち、居 住地の豊かさの程度と、基本的な資質能力の一 つである自然体験活動力との間の関係性が示 唆されたと言えるであろう。 幼少期の自然で遊んだ経験量と基本的な資 質能力4 因子については、「自然体験」因子と の間に、有意な弱い正の相関(r=.229,p<.01)が 認められた。すなわち、幼少期に自然で遊んだ 経験が多いと、学生の自然体験活動力の資質能 力も高くなる傾向があると考えられる。 Table 5 フェイスシートと学生の「基本的な資質能力」との相関 (4)「木の遊び経験」と「基本的な資質能力」との 関連 次に、学生の幼少期の木の遊びの経験と、学生 が現在備えている基本的な資質能力との間に関 連があるのかどうかを検討した。「木の遊びの経 験」4 因子と「学生の資質能力」4 因子において、 それぞれの因子に含まれる項目の得点の平均値 を算出し、相関係数を算出した。結果は、Table 6 に示す。 相関分析の結果、素材を生かした遊びは、「学 生の資質能力」の4 因子全てにおいて有意な弱い 正の相関(自立性・協同性(r=.254,p<.01)、社会性 ・公共性(r=.208,p<.01)、思考力(r=.331,p<.01)、 自然体験活動力(r=.317,p<.01)が認められた。す なわち、幼少期に木の素材を生かしたごっこ遊び などをたくさん経験した学生は、自立性や社会 性、思考力や自然体験活動力の資質能力が高くな る傾向があると考えられる。 活動的な遊びは、思考力(r=.206,p<.01)と自 然体験活動力(r=.322,p<.001)で、有意な弱い正 の相関が見られた。すなわち、幼少期に木登りや 木を使った戦いごっこなど活動的な遊びを多く 経験した学生は、思考力や自然体験活動力の資質 能力が高くなる傾向があると考えられる。 通園所の 自然の豊かさ 居住地の 自然の豊かさ 自然で遊んだ 経験量 自立性・ 協同性 社会性・ 公共性 思考力 自然体験 活動力 通園所の自然の豊かさ .439 .306 -.039 .041 -.058 .053 居住地の自然の豊かさ .515 -.029 .049 .069 .182** 自然で遊んだ経験量 .027 .05 .112 .229** 自立性・協同性 .653 .615 .526 社会性・公共性 .532 .539 思考力 .454 自然体験活動力 注) **p<.01 *p<.05

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幼年児童教育研究 第30号 − 9 − と、「木」との関わりがもたらす効果について 検討し、保育環境としての「木」の可能性につ いて探ることを目的とした。  まず、木の遊びの経験尺度の作成については、 独自で作成した木の遊びの経験尺度項目につい て因子分析を行った結果、「素材を生かした遊 び」、「活動的な遊び」、「自己充足的な遊 び」、「競う遊び」の4因子から構成されてい ることが示された。この尺度については、α係 数の値から一定の信頼性・妥当性を備えている と言えるのではないだろうか。  次に「木」との関わりがもたらす効果につい て結果をまとめる。本研究では、保育者養成校 の学生を対象に、幼少期の様々な「木」との関 わりによって、現在学生が備えている基本的な 資質能力との関連から効果を検討した。基本的 な資質能力については、「幼児期の終わりまで に育ってほしい姿」を参考に項目尺度を作成 し、因子分析の結果から、「自立性・協同性」、 「社会性・公共性」、「思考力」、「自然体験 活動力」の4因子が抽出された。  通園所の自然の豊かさ、居住地の自然の豊か さ、自然で遊んだ経験量と基本的な資質能力と の関連性は、ほとんど見られなかった。その中 でも、幼少時に自然で遊んだ経験と学生の自然 体験活動力には関連があることが明らかとなっ た。鎌田(2005)の研究では、山や川などの自 然遊びが減少している実態が明らかとなってい るが、子どもの頃の様々な自然との触れ合いや 遊びの経験が多いと、学生の自然体験活動力も 多くなる傾向から考えると、将来保育者として、 子どもたちに自然の素晴らしさや自然を使った 遊びを伝えていかなければならない学生にとっ て、幼少時に自然と遊ぶ機会が多くあることは 貴重であると考えられる。  幼少期の木の遊びの経験と学生の基本的な資 質能力については、今回、様々な関連性が見え てきた。それぞれの関連性について、(1)素 材を生かした遊びと思考力の育ち、(2)保育 環境としての「木」の可能性、の2点から考察 する。 (1)素材を生かした遊びと思考力の育ち  素材を生かした遊びには、今回の項目でも挙 げたように「きれいな木の葉や花、実を集め る」「花びらや木の葉、実を使って、様々な衣 装やアクセサリー、お面などをつくり、お店屋 さんごっこをする」など、多種多様なものがあ る。このように素材そのものを生かして遊ぶた めには、創意工夫が必要となり、また、仲間と アイデアを出し合って遊びながらやりとりする 中で、協同性や社会性はもちろん、思考力もさ らに育つことが期待される。石倉(2008)も述 べているように、自然は多くの可能性を内在し ている材である。保育者自身が自然をどう見る - 8 - 自己充足的な遊びは、思考力(r=.260,p<.01) と自然体験活動力(r=.237,p<.01)で、有意な弱 い正の相関が認められた。幼少期に木に触れたり 持たれたり自己充足的な遊びを好んで経験した 学生は、活動的な遊びと同様、思考力や自然体験 活動力の資質能力が高くなる傾向があると考え られる。 競う遊びは、自立性・協同性(r=.145,p<.05)、 社 会 性 ・ 公 共 性 (r=.160,p<.01 ) 、 思 考 力 (r=.252,p<.01)、自然体験活動力(r=.325,p<.01) と、程度の違いはあるが、有意な弱い正の相関が 認められた。幼少期に木の枝の長さや木の実の数 を競う遊びをたくさん経験すると、思考力や自然 体験活動力の資質能力は高くなる傾向があると 考えられる。一方、自立性と社会性の資質能力と の間には弱いながらも関係性があることが示唆 された。 Table 6 幼少期の「木の遊び経験」と学生の「基本的な資質能力」との相関 4.総合考察 本研究では、木の遊び経験尺度を作成するこ と、「木」との関わりがもたらす効果について検 討し、保育環境としての「木」の可能性について 探ることを目的とした。 まず、木の遊びの経験尺度の作成については、 独自で作成した木の遊びの経験尺度項目につい て因子分析を行った結果、「素材を生かした遊 び」、「活動的な遊び」、「自己充足的な遊び」、 「競う遊び」の4 因子から構成されていることが 示された。この尺度については、α 係数の値から 一定の信頼性・妥当性を備えていると言えるので はないだろうか。 次に「木」との関わりがもたらす効果について 結果をまとめる。本研究では、保育者養成校の学 生を対象に、幼少期の様々な「木」との関わりに よって、現在学生が備えている基本的な資質能力 との関連から効果を検討した。基本的な資質能力 については、「幼児期の終わりまでに育ってほし い姿」を参考に項目尺度を作成し、因子分析の結 果から、「自立性・協同性」、「社会性・公共性」、 「思考力」、「自然体験活動力」の4 因子が抽出 された。 通園所の自然の豊かさ、居住地の自然の豊か さ、自然で遊んだ経験量と基本的な資質能力との 関連性は、ほとんど見られなかった。その中でも、 幼少時に自然で遊んだ経験と学生の自然体験活 動力には関連があることが明らかとなった。鎌田 (2005)の研究では、山や川などの自然遊びが減 少している実態が明らかとなっているが、子ども の頃の様々な自然との触れ合いや遊びの経験が 多いと、学生の自然体験活動力も多くなる傾向か ら考えると、将来保育者として、子どもたちに自 然の素晴らしさや自然を使った遊びを伝えてい かなければならない学生にとって、幼少時に自然 と遊ぶ機会が多くあることは貴重であると考え られる。 素材を 生かした遊び 活動的な 遊び 自己充足的な 遊び 競う遊び 自立性・ 協同性 社会性・ 公共性 思考力 自然体験 活動力 素材を生かした遊び .472** .567** .585** .254** .208** .331** .317** 活動的な遊び .532** .457** .116 .049 .206** .322** 自己充足的な遊び .579** .096 .108 .260** .237** 競う遊び .145* .160** .252** .325** 自立性・協同性 .653** .615** .526** 社会性・公共性 .532** .539** 思考力 .454** 自然体験活動力 注) **p<.01 *p<.05

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− 10 − のかが、子どもと自然との関わりを左右する可 能性があると言えよう。  他方、自立性・協同性および社会性・公共性 については素材を生かした遊び以外に関連が見 られないという結果が得られた。このことにつ いては、活動的な遊びや自己充足的な遊びは、 集団というよりも個が主体となることが多く、 競う遊びも、他者との関わりはあるものの、協 力して行うことが少ないという点が要因ではな いかと考えられる。  しかし、自然と関わって遊ぶ際には、どのよ うな遊び方であっても試行錯誤する必要があろ う。自然にある材の、人工物との違いやその魅 力は、ひとつとして同じものはないこと、また、 思い通りになることもあれば、ならないことも あるということにあるのではないだろうか。ア フォーダンスの視点に立って考えれば、今回 取り上げた「木」の大きさや形そのものが、遊 びの内容に影響を与えることも多くあるだろう。 また、木がもつ素材は、木枝、葉、花、実など、 子どもが遊びを豊かに展開していくうえで、魅 力的なものが多くある。その種類も豊富であり、 木は四季折々の姿を見せながら、その季節に合 った素材を子どもに提供してくれるのである。 子どもは、こうした様々な自然をどう自分の遊 びの中に取り入れていくかを考えることになる。 周囲から与えられる環境ではなく、そこにある 環境そのものと自ら関わる経験が、子どもの思 考力にプラスの影響を与えていると考えられる。 (2)保育環境としての「木」の可能性  今回、「木」に関わる遊びと、学生の資質能 力との関わりを検討した。子どもの頃に木と 様々な角度から関わると「幼児期の終わりまで に育ってほしい姿」で挙げられている項目との 関連がある可能性が見えてきた。例えば、木登 りや木の枝を使った戦いごっこなどの遊びは危 険とされることも多いが、「木」に関わる遊び の可能性を考えれば、なくしてしまうのではな く、安全を確保しつつ、どう遊ぶかを考えてい く方が、より幅広い育ちが期待できるのではな いだろうか。  また、素材を生かした遊びの多様性を考えれ ば、木がもつ素材の豊富さからも、子どもの遊 びに無限の展開が期待される。  子どもを取り巻く環境の中に、居住地でも通 園所でも木は多く存在している。今回のデータ からは、通園所の自然環境の影響力はあまり見 られなかったが、幼児期に多くを過ごす園庭に は、様々な木が植樹されている。地域差はあっ ても、園庭の木は意図的に植えられていること が多く、園の環境作りとして、どのような木を 選ぶのか、どこに植えるのかなど、計画的に環 境構成がなされているであろう。しかし、その 木を十分に生かしている現場はどれほどあるだ ろうか。  中坪ら(2011)は、幼児が木(細木)を揺ら す遊びを繰り返し行った姿について、一見単純 な行為が継続的に行われた原因は「木(細木) が返す行為への結果の豊富さである」と考察 している。そして、「通常は遊びのツールと 見なされない木(細木)が多様な行為を喚起 し、結果として遊びを豊かなものとしている」 と述べている。本研究では、細木のみではなく、 花や実、木の周囲の生き物(虫)にも着目し、 「木」という存在が、幼児期の遊びを豊かにす るために、いかに重要なものであるかが示唆さ れた。学生自身が、「木」に関わる遊びの重要 性をどう考えているかについては、今後の課題 として検討を重ね、「木」があることの意味と その可能性について深めていく必要があると考 える。  以上のことを踏まえて、我々は、今一度、木

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幼年児童教育研究 第30号 − 11 − の魅力と無限の可能性に気付き、子どもの遊び 環境を考えていく必要があるのではないだろう か。 5.今後の課題  今回の研究では、「木」に関わる遊びと資質 能力の関連性について考察した。しかし、通園 所の自然環境との関連はあまり見られなかった。 今後は、通園所の環境も踏まえ、学生自身が考 える「木」の重要性についても、さらに検討す る必要があろう。また、地域性や通園所の教 育・保育課程などの影響から、多種多様な園環 境がある中で、「木」の遊び環境としての存在 意義を保育者自身がどのように捉えているかに ついても検討し、保育環境としての「木」の可 能性について考えていく必要があると考える。  また、今回作成した項目に関しては、ある程 度の信頼性が得られたと言えよう。現在、環 境や幼児教育の質を評価する尺度としては、 アメリカ発祥のECERS-Rやイギリス発祥の STTEWなどが挙げられる。また、文部科学省 もこれらを元にしながら、現在日本の幼児教育 に則した評価スケールの作成を試みている。例 えば、ECERS-Rには、自然/科学という項目 があり、子どもが自然と関わる環境がどれだけ あるかなどを測ることができるようになってい る。しかし、これらは、保育環境や幼児教育全 体を評価するものである。また、評価指標の性 質上当然のことではあるが、そこでの遊びの様 相にまで踏み込んだ項目構成とはなっていない。 本研究では、「木」という自然環境に焦点を当 て、そこでの遊びの様相を織り込んでいる。今 後、さらに尺度の妥当性を測りながら、項目の 検討を重ねて精緻化を試み、改めて保育現場の 自然環境について探求していきたい。 引用文献 鎌田多惠子 2005 保育者を目指す学生資質の 実態 −遊び体験の視点より− 盛岡大学短 期大学部紀要15 p73-78 河崎道夫 2008 歴史的構成体としての子ども の遊びの変容 保育学研究46(1) p12-21 石倉卓子 2008 保育内容の指導法に関する一 考察 ~自然とかかわる保育環境を通して~ 富山短期大学紀要43(2) p1-10 文部科学省 2016 幼児教育部会における審議 の取りまとめ http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/ chukyo/chukyo3/057/sonota/1377007.htm 中坪史典 久原有貴 中西さやか 境愛一郎  山本隆春 林よし恵 松本信吾 日切慶子  落合さゆり 2011 アフォーダンスの視点か ら探る「森の幼稚園」カリキュラム −素朴 な自然環境は保育実践に何をもたらすのか− 広島大学 学部・附属学校共同研究機構研究 紀要39 p135-140 仙田満 2014 子どもと遊び −環境建築家の 眼− 岩波新書 戸塚滝登 2008 子どもの脳と仮想世界 教室 から見えるデジタルっ子の今 岩波書店 山本俊光 2012 幼少期の自然体験と大学生の 社会性との関係 −親の養育態度をふまえて− 日本環境教育学会 環境教育22(1) p14-24 吉野美沙樹 古谷勝則 鈴井薫美子 2011 大 学生に聞いた児童期の外遊び・自然体験と その活動場所 ランドスケープ研究74(5) p591-596

参照

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