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援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み ― 援助要請スキルトレーニングの効果検証 ―

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Academic year: 2021

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(1)Title. 援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み ― 援助要請ス キルトレーニングの効果検証 ―. Author(s). 本田, 真大; 新井, 邦二郎; 石隈, 利紀. Citation. 学校臨床心理学研究 : 北海道教育大学大学院教育学研究科学校臨床心理 学専攻研究紀要, 17: 11-21. Issue Date. 2020-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11303. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み ― 援助要請スキルトレーニングの効果検証 ― 本田 真大*・新井邦二郎**・石隈 利紀**. Effects of the Behavioral Intervention for Functional Help-Seeking: Focused on Help-Seeking Skills. 要 約 本研究の目的は援助要請の機能性向上を目標とした介入法の効果を検証することである。援助評価へ の心理教育と援助要請スキルとソーシャルサポート提供スキルへのソーシャルスキルトレーニングによ る介入プログラムを作成し,大学院生,高校生,中学生を対象に実施した。介入の結果,援助要請スキ ル,ソーシャルサポート提供スキル,被援助志向性に一定の介入効果が認められた。本研究の結果から, 効果測定の尺度,研究計画,介入法の改良に関する課題が議論された。. 問題と目的. 性(ニーズがあっても自ら援助を求めないこと) , 過剰性(援助を求めすぎること),非機能性(援. 1.援助要請の機能性に関する研究. 助を求めるが結果が好ましくないこと) ,という. 援助要請とは「情動的または行動的問題を解決. 3つに集約される(本田・水野,2017) 。そして,. する目的でメンタルヘルスサービスや他のフォー. 過少性に対しては援助要請を促進することで,過. マルまたはインフォーマルなサポート資源に援助. 剰性に対しては援助要請を抑制することで最適な. を求めること」と定義され(Srebnik, Cause, &. 状態をめざすことが介入の目標となり,非機能性. Baydar, 1996) ,援助要請に対する肯定的・否定. に対しては援助要請の質を向上する個人と環境へ. 的 な 態 度(attitude) , 意 図(intention) ,意志. の働きかけによって機能的な状態をめざすことが. (willingness) ,行動(behavior)などの側面か. 介入の目標となる。つまり,援助要請への介入の. ら研究されている(本田・新井・石隈,2011) 。. 目標は援助要請の最適性(最適な援助要請行動). 援助要請研究からは自殺企図やいじめ被害など重. と機能性(機能的な援助要請行動)を高めること. 大な問題を抱え,精神的健康状態が悪化している. である(本田・水野,2017)。このような援助要. 者が適切な援助資源に接近しやすくなるための有. 請への介入は近年,援助要請に焦点を当てたカウ. 益な知見が期待できる。. ンセリング(本田・水野,2017)と呼ばれている。. 援助要請研究において,援助要請の問題は過少. 援助要請の非機能性について,従来の研究では. *. Masahiro HONDA:北海道教育大学函館校. **. Kunijiro ARAI, Toshinori ISHIKUMA:東京成徳大学. キーワード:援助要請スキル,ソーシャルサポート提供スキル,被援助志向性,援助要請に焦点を当てたカウ ンセリング,認知行動療法. 11.

(3) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). 援助要請行動を多く行うことは将来の適応を必ず. しかし,これら3点を包括した介入方法は現在作. しも予測するとは限らないことが示されている. 成されていない。そこで本研究では介入方法開発. ( 例 え ば,Lieberman & Mullan, 1978; Millman,. の最初の試みとして,援助要請スキルへの介入を. 2001; Rickwood, 1995; Trusty & Harris, 1999) 。. 中心としたプログラムを作成する。. しかし,これらの研究は援助要請行動の実行され. 援助要請スキルはソーシャルスキルの一つであ. た量に注目しており,援助要請行動後の過程が詳. り,集団社会的スキル訓練(ソーシャルスキル教. 細には検討されていなかった。そこで本田・新. 育)によって介入可能であると考えられる。また,. 井・石隈(2015)は援助要請行動後の過程を詳細. 本田他(2010)は社会的問題解決訓練(D’Zurilla,. に検討し,援助要請行動から適応感に至るプロセ. 1986/1995)を参考に具体的な介入方法を提案し. スモデルを実証している。このモデルによれば,. ている。また,集団社会的スキル訓練(ソーシャ. 援助要請行動後の個人の適応に影響すると考えら. ルスキル教育)の中では社会的問題解決は「問題. れるのは悩みの経験の多さ,援助要請スキル,他. 解決スキル」として実施されている(相川・佐藤,. 者からの援助(実行されたサポート) ,援助評価,. 2006) 。本研究では本田他(2010)で提案されて. の4つである。援助要請スキル(本田・新井・石. いる方法を参考に集団社会的スキル訓練による介. 隈,2010)が高いほど他者から得られる援助が多. 入を実施する。. いなど,機能的な援助要請行動であることが明ら. 実行されたサポートは援助要請相手が行うもの. かになっている。また,他者からの援助(実行さ. であり,援助要請相手に介入するためには援助要. れたサポート)は援助要請相手の要因であり援助. 請者と同じ生活を営む集団(学級など)を対象と. 要請スキルのみによって規定されるものではない。 する必要がある。よって,本研究では集団対象に そして,援助評価(本田・石隈,2008)とは援助. 介入を行うプログラムの開発をめざす。介入に当. 要請行動後の認知であり, 「問題状況の改善」 , 「他. たって以下の2点に留意する。第一に,実行され. 者からの支えの知覚」という認知が高いほど約1. たサポートの内容は本田他(2015)のモデルで扱. か月後の適応状態が良く, 「対処の混乱」 , 「他者. われたHouse(1981)の4種類のサポート(情緒的,. への依存」という認知が高いほど約1か月後の適. 評価的,情報的,道具的)を含めることである。. 応状態が悪化することが明らかになっている(本. 第二に,実行されたサポートは援助要請相手によ. 田・新井,2008) 。. る行動であるため,援助要請スキルと同様にソー シャルスキルの点から捉え,集団社会的スキル訓. 2.援助要請の機能性を高めるための介入法. 練を行う点である。. 援助要請の態度・行動に対するランダム化比較. 最後に援助評価は適応感と関連する認知的要因. 試験(RCT)のメタ分析を行ったGulliver, Griffiths,. であるため,介入の最初に心理教育によって援助. Christensen, & Brewer(2012)によれば,援助. 評価の機能を説明し,肯定的な援助評価ができる. 要請態度にはある程度の変容が認められるものの, ことが望ましい点を伝えることとする。 援助要請行動の変容には効果は弱いものの,認知. 以上の3点を含めた包括的な介入を行うにあた. 行動療法と個人の症状のフィードバックを組み合. り,最初に本田他(2015)のモデルと援助評価の. わせた介入のみに有効性が確認されている。そこ. 心理教育を行い,次に肯定的な援助評価につなが. で本研究では本田他(2015)のモデルに基づき,. りやすい具体的な援助方法として実行されたサ. 援助要請の機能性を向上するための認知行動療法. ポートを扱い,最後にそのような援助(実行され. の技法を用いた介入プログラムを作成しその効果. たサポート)を得るための援助要請スキルのト. を検証する。本田他(2015)のモデルから,援助. レーニングを行う,という順に介入プログラムを. 要請の機能性を高めるためには援助要請スキルを. 構成する。なお,本介入法は専門家への援助要請. 高めること,実行されたサポートを高めること,. ではなく非専門家(主に友人)への援助要請を想. そして,援助を受けた後に肯定的な援助評価がで. 定しているが,状況によっては専門家への援助要. きるようになること,という3点が重要である。. 請が望ましいことがあり,専門家(カウンセラー 12.

(4) 援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み. など)への援助要請では(クライエントなどの). なされており,両者の単相関係数はr=.48(p<.01). 援助要請スキルの高さは大きな問題にはならない. であったと報告されている(本田他,2010)。先. と考えられる。したがって,プログラムの最後に. 行研究においても遂行の程度を尋ねる方法も用い. この点(深刻な状況では援助要請スキルにこだわ. られており(本田他,2015;本田,2019),本研. らず専門家に援助を求めるとよいこと)に言及す. 究では本田他(2015)のモデルに沿って介入法を. ることとした。加えて,深刻な状況での援助要請, 構成しているため,本田他(2015)と同じく遂行 友人に相談されたときに大人につなぐ(大人に相. の程度を測定し,効果の評価を行う。. 談するように勧める)ことの重要性にも言及する. 実行されたサポートの測定は,本田・新井・石. こととした。本研究で作成したプログラムの特徴. 隈(2008)の援助要請行動時に実行されたサポー. は,集団成員が相互に援助要請スキルとソーシャ. ト尺度から介入に含まれるHouse(1981)の4種. ルサポート提供スキルを学習することを促し,主. 類のサポートがすべて含まれるように項目を抽出. に非専門家(友人など)への援助要請を行う状況. し,効果検証に用いることとする1)。. においてよりよく支えあうことをめざすものであ. これらの他に,援助要請の最適性向上(過少性. り, 「支えあいの心理学」と命名した。プログラ. の改善)を目標とした介入の先行研究で標的とな. ムの構成と概要をTable 1に示した。. る(水野,2014),援助要請に対する認知である 被 援 助 志 向 性 も 使 用 す る。 本 研 究 で は 本 田 他. 3.援助要請の機能性の効果の測定. (2011)の友人に対する被援助志向性尺度を用い. 本研究では主に援助要請スキルと実行されたサ. る。. ポートへの介入を行うため,これら2点への効果 を 測 定 す る。 援 助 要 請 ス キ ル の 測 定 は 本 田 他. 4.本研究の目的. (2010)の援助要請スキル尺度を用いるが,援助. 以上より本研究では援助要請の機能性向上を目. 要請スキル尺度はスキル獲得の程度( 「できる」 ). 標とした介入法の効果を検証することである。検. と遂行の程度( 「している」 )の2種類の尋ね方が. 証に当たり,大学院生(研究Ⅰ),中学生(研究Ⅱ). Table 1 介入プログラム「支えあいの心理学」の構成要素と概要 構成要素. 1. タイトル. 相談すると元気になる?. 2. 助け上手になろう. 3. 助けられ上手になろう. 4. おわりに. 中心的概念. 援助評価. ソーシャル サポート 提供スキル. 介入方法. 概 要. 心理教育. 悩みを相談しても,いつも元気になれるとは限らない。 相談した結果として自分に起こることを,相談した後 の考え(援助評価)の点から考える。相談した後に元 気になるためには,「元気になる考え方」ができるよ うな相談の仕方・され方が大切であることを理解する。. 集団社会的 スキル訓練. 他者を助けるときには2つのサポート,すなわち「気 持ちのサポート」(情緒的サポート・評価的サポート), 「物と力のサポート」(道具的サポート,情報的サポー ト)があることを学び,ペアになって練習する。自分 がしてほしいサポートは一人ひとり違うことを理解す る。. 援助要請 スキル. 他者から自分がしてほしいサポートを得るためには相 集団社会的 談の仕方にポイントがあること(援助要請スキル)を スキル訓練 学び,ポイントに沿って援助要請スキルのワークシー トを埋めていく。ペアになって練習する。. 二次予防. 第1に,いじめ被害や自殺といった深刻な悩みを抱え る人ほど援助を求めない傾向にあることを伝え,日頃 から他者に上手に援助要請していることが危機時に活 きてくることを理解する。第2に,友達に相談された 悩みが自分一人では抱えられないとき,大人に相談す ることを勧めるように伝える。第3に,本当につらい 時はスキルのポイントを踏まえずとも大人に相談して 良いことを伝える。. 心理教育. 13.

(5) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). を対象に効果を検証するとともに,既存のソー. うことで相手にどれくらい負担がかかるかを伝え. シャルスキル教育と組み合わせた実施による効果. る」,「自分が何に困っているかを自分の中で整理. を高校生(研究Ⅲ)を対象に検証する。. する」,「自分の気持ちを言葉や身振り,表情など. . で表現する」,「その相手に何をしてほしいかを分. 研究Ⅰ. かりやすく伝える」,「助けてもらえたら自分がど んな気持ちになるかを伝える」 )であった。5件. 目 的. 法(「1:あてはまらない」「2:ややあてはまら. 大学院生を対象に援助要請の機能性を高める介. ない」「3:どちらともいえない」「4:ややあて. 入法の効果を検証することを目的とする。. はまる」「5:あてはまる」)で回答が求められた。 ⑵ ソーシャルサポート提供スキル 本田他(2008)の援助要請時に受けた援助尺度. 方 法. 28項目から,回答者の負担を考慮して8項目を抜. 1.介入対象者. 「あなたが友人に悩みを相談されたときに 対象者はすべて成人であり,研究趣旨を説明し, 粋し, 本人の同意の下で希望者を募って実施された。臨. 以下のことをどの程度していますか?あてはまる. 床心理学・発達臨床心理学を専攻する大学院生19. 数字一つに○をつけて下さい。友人に悩みを相談. 名(男性5名,女性14名)を対象とした。参加者. されたことのない人は,もし相談されたとしたら. の日程調整の結果,2グループ(GroupA:女性. どうするか想像してお答えください。 」という教. 5名,平均年齢24.2+0.84歳,GroupB:男性5名, 示文を作成した。使用した項目は,情緒的サポー 女性9名,平均年齢24.4+2.96歳,女性1名は遅. トに関する2項目( 「友人に起こったうれしいこ. れて参加)で実施した。. とを自分のことのように喜ぶ」,「友人が失敗した. 2.介入実施者. ことを一生けんめいはげます」),情報的サポート. 本介入法の開発者である第1著者が実施した。. ( 「友人なりに努力したことに気づいて,それを. 3.介入の概要. 言う」,「友人がしていることで直した方がよいと. 2つのグループごとに,大学内の一室に集まっ. ころを言う」),道具的サポート(「友人が必要と. て実施した。pre調査を実施した後, 第1セッショ. している物や場所を貸す」,「友人が失敗したこと. ン(50分)を行った。10分の休憩の後に第2セッ. に対して,友人と一緒に行動して,助ける」),情. ション(50分)を実施し,post調査を行った。そ. 報的サポート( 「友人が自分の悩みとうまくつき. の後,follow-up調査を介入7~10日後に個別に. あうために,どうしたらよいか教える」,「友人の. 実施した。. 悩みに関わる周囲の状況について教える」)であっ. 4.効果測定の指標. た。5件法(「1:まったくしないと思う」「2:. ⑴ 援助要請スキル. あまりしないと思う」 「3:どちらともいえない」. 本田他(2010)の援助要請スキル尺度から,回. 「4:ある程度すると思う」 「5:十分すると思. 答者の負担を考慮して,尺度の項目内容が偏らな. う」)で回答が求められた。. いように9項目を抜粋し,本田他(2015)と同様. ⑶ 被援助志向性. にスキルの遂行の程度を尋ねるように修正して使. 本田他(2011)の友人に対する特性被援助志向. 用した。使用した項目は,適切な援助者の選択に. 性尺度を使用した。本研究では13項目について,. 関する2項目( 「自分のことを真剣に助けてくれ. 他の尺度と回答方法を揃えて,5件法(「1:あ. そうな相手を何人か思い浮かべる」 , 「誰かの助け. てはまらない」「2:ややあてはまらない」「3:. が必要なとき,よい援助をくれそうな相手を選. どちらともいえない」 「4:ややあてはまる」 「5:. ぶ」 ) ,援助要請の方法に関する1項目( 「困った. あてはまる」)で回答が求められた。また,下位. ときの助けの求め方や頼み方を何通りか考える」 ) , 尺 度 名 を 近 年 の 援 助 要 請 研 究 の 動 向( 本 田, 相手に伝える内容に関する6項目( 「なぜその相. 2015)を踏まえ,「被援助に対する肯定的態度」. 手に助けてほしいのかを説明する」 , 「助けてもら. を「被援助に対する期待感」,「被援助に対する懸 14.

(6) 援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み. 念や抵抗感の低さ」を逆転項目として処理せずに. ソーシャルサポート提供スキルトレーニングの時. 「被援助に対する抵抗感」として得点化した。. 間を増やすためにセッション数を増やすことを検 討する必要があろう。. 結果と考察. 被援助志向性に関して,介入の中で直接扱った. 2つのグループのデータを総合し,遅れて参加. 2つのスキルは介入によって向上する可能性があ. した1名を除いた18名(男性5名,女性13名)の. ることに対して,これらのスキルを日常生活で使. データを用いた。分析は,時期(pre, post, follow-. 用し,普段生活する集団成員(介入対象者)同士. up)を要因とする一要因被験者内分散分析の結果, がスキルを学んでいると実感することによって, 「援助要請スキル」得点はpreからpostにかけて. 援助を求める・受けることに対する抵抗感が次第. 上昇が認められ,被援助志向性の下位尺度である. に低減されていくと考えられる。つまり,本プロ. 「被援助に対する抵抗感」得点はPreからfollow-. グラムの中で日常的な人間関係における援助・被. upに か け て 低 下 す る こ と が 明 ら か に な っ た。. 援助の行動が獲得され,それらを使用することで. 「ソーシャルサポート提供スキル」得点は有意傾. 被援助に対する認知が変容していくと示唆される。. 向が見られたが,多重比較では有意な結果は得ら. 研究Ⅱ. れなかった。被援助志向性の下位尺度の「被援助 に対する期待感」得点には変化が見られなかった. 目 的. (Table 2) 。. プログラムではソーシャルサポート提供スキル, 中学生を対象に援助要請の機能性を高める介入 援助要請スキルを標的とした集団ソーシャルスキ. 法の効果を検証することを目的とする。. ルトレーニングを行っており,援助要請スキルの 方 法. 向上はこの点の有効性が示されたと考えられる。 ソーシャルサポート提供スキルには明確な向上は. 1.介入対象者. 認められなかったが,これは援助要請スキルの内. 関東の私立女子中学校の3年生2学級86名を対. 容には45分を割り当てたのに対して,ソーシャル. 象とした。なお,研究実施に当たっては学校長に. サポート提供スキルの内容には20分ほどしか当て. 研究趣旨を説明し,授業の一環として実施する許. られなかったこと,すなわち,介入の中での内容. 可を得た。生徒に対しては授業としての参加を求. や練習が少なかったことが得点の上昇に至らな. められたが,調査への回答は自由意志で行われた。. かった理由の一つに挙げられる。本プログラムは. 2.介入実施者. 中学校・高等学校で不適応の予防的介入法として. 本介入法の開発者である第1著者が実施した。. 実施していくことを想定したため,学校現場で実. 3.介入の概要. 施可能な50分のセッション2回分の時間枠で作成. 学級集団を対象とし,各学級の教室において実. されている。今後の効果研究の知見を踏まえて,. 施した。介入の約1週間前にpre調査を実施した後,. Table 2 大学院生の全対象者への介入の効果(N=18) 援助要請スキル ソーシャルサポート提供スキル 被援助に対する期待感 被援助に対する抵抗感. pre. post. follow-up. M. 3.71. 3.93. 3.93. SD.  .49.  .50.  .59. M. 3.76. 3.88. 3.92. SD.  .31.  .44.  .44. M. 3.85. 3.88. 3.94. SD.  .69.  .69.  .59. M. 2.46. 2.33. 2.23. SD.  .66.  .64.  .77. partial η2. F値. .18. 3.67. .14. 2.68†. .06. 1.07. .25. 5.60** **. 15. 多重比較. *. pre<post†. pre>follow-up*. p<.01,*p<.05,†p<.10..

(7) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). 第1セッション(50分)を行った。10分の休憩の. 結果と考察. 後に第2セッション(50分)を実施し,介入の約. pre,postの両方に欠損値がなかったデータ61. 1週間後にpost調査を行った。. 名を対象に分析を行った。時期を要因とした分散. 4.効果測定の指標. 分析の結果, 「ソーシャルサポート提供スキル」. ⑴ 援助要請スキル. と被援助志向性の下位尺度である「被援助に対す. 本田他(2010)の援助要請スキル尺度を,本田. る期待感」に有意傾向が認められ,介入後に得点. 他(2015)と同様にスキルの遂行の程度を尋ねる. が上昇する(被援助に対する期待感が高まる)傾. ように修正して使用した。17項目4件法( 「1:. 向が示された(Table 3)。また,preの「援助要. あてはまらない」 「2:ややあてはまらない」 「3:. 請スキル」得点の下位10位までの対象者(13名) ,. ややあてはまる」 「4:あてはまる」 )で回答が求. preの「ソーシャルサポート提供スキル」の下位. められた。. 10位までの対象者(12名)の各スキルへの介入効. ⑵ サポート提供スキル. 果を検討したところ,いずれも有意傾向が認めら. 研究Ⅰと同じ項目を用いて, 4件法( 「1:まっ. れ, 介 入 後 に 得 点 が 上 昇 す る 傾 向 が 示 さ れ た. たくしないと思う」 「2:あまりしないと思う」. (Table 4)。被援助志向性の下位尺度である「被. 「3:ある程度すると思う」 「4:十分すると思. 援助に対する抵抗感」には有意な得点の差は認め. う」)で回答が求められた。. られなかった。. ⑶ 被援助志向性. 援助要請スキルは介入前にスキルが低い生徒に. 本田他(2011)の友人に対する特性被援助志向. 有意傾向であるが上昇が認められ,研究Ⅰの結果. 性 尺 度 を 使 用 し た。 本 研 究 で は13項 目 4 件 法. と同様であった。ソーシャルサポート提供スキル. (「1:あてはまらない」 「2:ややあてはまらな. には先行研究では効果が見られなかったが,本研. い」 「3:ややあてはまる」 「4:あてはまる」). 究では全対象者と介入前にスキルが低い生徒の両. で回答が求められた。. 方に有意傾向であるが得点の上昇が確認された。 有意傾向であるものの,中学生を対象とした本研. Table 3 中学生の全対象者への介入の効果(N=61) 援助要請スキル ソーシャルサポート提供スキル 被援助に対する期待感 被援助に対する抵抗感. pre. post. M. 2.84. 2.82. SD.  .46.  .45. M. 3.03. 3.09. SD.  .45.  .43. M. 2.96. 3.03. SD.  .63.  .71. M. 1.95. 1.94. SD.  .69.  .68. partial η2. F値. .00. .20. .06. 3.49†. .06. 3.47†. .00. .05 †. p<.10.. Table 4 中学生の介入前のスキル下位群への介入の効果 pre. post. 援助要請スキル. M. 2.19. 2.41. (n=13). SD.  .17.  .42. ソーシャルサポート提供スキル. M. 2.42. 2.60. (n=12). SD.  .26.  .32. partial η2. F値. .26. 4.20†. .28. 4.30† †. 16. p<.10..

(8) 援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み. 究において効果がある可能性が示唆されることか. キル,断るスキルはいずれも相川・佐藤(2006). ら,対象者の発達段階によってスキルへのニーズ. の内容が用いられた。なお,本実践での生徒同士. などが異なり,そのような要因が介入効果に影響. のロールプレイでは設定された場面におけるスキ. を与えた可能性(本田・大島・新井,2009)がある。. ルを用紙に記入し,その用紙を生徒同士で交換し. 援助要請に関する認知である被援助志向性への. て返事を書いて返却する際に読み合う方法(本田,. 効果は, 「被援助に対する期待感」は有意傾向で. 2010)が行われた。. あるが介入後に上昇する可能性が示された。 「被. 4.効果測定の指標. 援助に対する期待感」は中学生の被援助志向性に. ⑴ 援助要請スキル. 対する水野(2014)の介入研究でも変容が認めら. 研究Ⅰで使用された9項目の中から本田他. れており,変容しやすい可能性がある。また, 「被. (2015)で用いられた項目と対応するように, 「自. 援助に対する抵抗感」には変容が認められなかっ. 分のことを真剣に助けてくれそうな友達を何人か. たが,研究Ⅰでは介入の約1週間後の時点での改. 思い浮かべる」,「困ったときの助けの求め方や頼. 善が認められている。これらの認知の変容は援助. み方を何通りか考える」,「自分が何に困っている. 評価への心理教育のみでは不十分であり,日常的. かを自分の中で整理する」,「その友達に何をして. に援助要請スキル,ソーシャルサポート提供スキ. ほしいかを分かりやすく伝える」の4項目を使用. ルを使用することを通して,しばらくの期間を開. し,5件法で回答が求められた。. けた後に変容が促される可能性があろう。. ⑵ サポート提供スキル 研究Ⅰで使用した8項目の中から本田他(2015). 研究Ⅲ. で用いられた項目と対応するように, 「友達が必 要としている物や場所を貸す」,「友達の悩みに関. 目 的. わる周囲の状況について教える」,「友達が失敗し. 高校生を対象に介入法の中心部分であるソー. たことを一生けんめいはげます」,「友達がしてい. シャルサポート提供スキルトレーニング,援助要. ることで直した方がよいところを言う」の4項目. 請スキルトレーニングを実施し,その効果を検討. を使用し,5件法で回答が求められた。. する。 結果と考察 方 法. pre,postの両方に欠損値なく回答が得られた. 1.介入対象者. 男子20名,女子16名のデータを分析対象とした。. 関東の公立高等学校の2年生45名を対象とした。 全対象者のデータを用いて時期を要因とする一要 なお,研究実施に当たっては学校長に研究趣旨を. 因被験者内分散分析を実施した結果,いずれの尺. 説明し,授業の一環として実施する許可を得た。. 度の合計得点にも有意な差は認められなかった. 生徒に対しては授業としての参加を求められたが, (Table 5)。そこで,pre調査の各尺度の合計得 調査への回答は自由意志で行われた。. 点の下位10位までの生徒をスキル下位群として抽. 2.介入実施者. 出し,同様の分析を行った。その結果,ソーシャ. 本介入法の開発者である第1著者が実施した。. ルサポート提供スキル得点には有意な変化は認め. 3.介入の概要. られなかったが,援助要請スキル得点には得点が. 学級ごとに授業時間に実施された。X年12月末. 上昇する傾向がみられた(Table 6)。. にpre調査を実施し,X+1年1月~ X+1年3. 研究Ⅰでは援助要請スキルに向上が認められて. 月にかけて質問するスキル(第1回) ,ソーシャ. おり,本研究からは援助要請スキルの低い高校生. ルサポート提供スキル(第2回) ,援助要請スキ. に関しては同様の結果が得られたと考えられる。. ル(第3回) ,謝るスキル(第4回) ,断るスキル. ソーシャルサポート提供スキルに向上がみられな. (第5回) ,が実施され,第5回実施約1週間後. かった点は研究Ⅰと同様であり,トレーニングに. にpost調査が行われた。質問するスキル,謝るス. かける時間や方法,ホームワークなどを検討する 17.

(9) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度) Table 5 高校生の全対象者への介入の効果(N=24) 援助要請スキル ソーシャルサポート提供スキル. M. pre 3.41. post 3.58. SD.  .90.  .81. M. 3.53. 3.62. SD.  .90.  .95. partial η2. F値. .04. .88. .01. .33. Table 6 高校生の介入前のスキル下位群への介入の効果 pre. post. 援助要請スキル. M. 2.77. 3.21. (n=13) ソーシャルサポート提供スキル (n=11). SD M SD.  .55 2.82  .69.  .59 3.09  .96. partial η2. F値. .21. 3.21†. .07. .75. p<.10.. †. 担等を考慮したため,同じ尺度項目を用いること. 余地があろう。. ができなかった。今後は本研究の結果を踏まえて. 総合的考察. 介入法を改良し,信頼性と妥当性がよりよく支持 された尺度を用いて効果を検証する必要がある。. 1.本研究のまとめ. 第二に,統制群を設定できていない点である。介. 本研究の目的は援助要請の機能性向上を目標と. 入実施の都合上統制群の設定が難しいとはいえ,. した介入法の効果検証であった。本研究の結果,. 介入効果のより厳密な検証には不可欠である。第. 大学院生,高校生,中学生を対象とした介入法が. 三に,本研究では必ずしも十分な介入効果が認め. 作成され,援助要請スキルとソーシャルサポート. られたとは言えず,介入法を改良して効果を検証. 提供スキルに対して若干の効果が認められた。し. することも考慮すべきである。また,本研究では. かし,主として介入前のスキルの程度が低い者に. 十分な介入を行っていないソーシャルサポート提. 対する効果が示されるにとどまっており,十分な. 供スキル,援助評価に対する介入方法の開発も今. 効果が得られたとは言えず,更なる検証が必要で. 後の課題である。. ある。. これらの限界と課題があるとはいえ,本研究で. また,直接介入していない被援助志向性につい. はこれまでに実施されていない援助要請の非機能. ては介入からしばらく時間が経過した後に変容す. 性の緩和(機能性の向上)を目標とした介入法を. る可能性が示唆されており,日常生活上でソー. 開発しその効果検証を試みた点に意義があろう。. シャルサポート提供スキルと援助要請スキルが般. 援助要請への介入に関する先行研究の大部分は過. 化し援助・被援助の循環を経験することで援助要. 少性の改善(援助要請の促進)を目標とするもの. 請に関する認知である被援助志向性が変容する可. であり(本田・水野,2017),本研究を契機に援. 能性が示唆された。この点においても他のソー. 助要請の非機能性の緩和(援助要請の機能性の向. シャルスキルトレーニングと同様に般化を促進す. 上)を目標とする介入研究が増加することが期待. ることが重要であると言えよう。. される。. 引用文献. 2.本研究の限界と課題 本研究の限界と課題を3点述べる。第一に,本 研究では大学院生,中学生,高校生を対象とした. 相川充・佐藤正二(編)(2006).実践!ソーシャ. 研究の実施に当たって,介入の時間や回答者の負. ルスキル教育 中学校 図書文化 18.

(10) 援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み. 会的スキル訓練の効果―ターゲット・スキルの. Gulliver, A., Griffiths, K. M., Christensen, H., & Brewer, J. L. 2012 A systematic review of. 自己評定,教師評定,仲間評定を用いた検討― . help-seeking interventions for depression,. 教育心理学研究,57,336-348. House, J. S. (1981). Work stress and social. anxiety and general psychological distress.. support. Reading; Addison-Wesley.. BMC Psychiatry, 12: 81.. Lieberman, M. A.& Mullan, J. T. (1978). Dose. URL http://www.biomedcentral.com/1471-. help help? The adaptive consequences of. 244X/ 12/81(2012年10月11日閲覧) 本田真大(2010).携帯メールをキーワードとし. obtaining help from professionals and social. たSSTリハーサルの方法 月刊学校教育相談,. networks. American Journal of Community Psychology, 6, 499-517.. 24,22-25.. Millman, E. J. (2001). The mental health and. 本田真大(2015) .幼児期,児童期,青年期の援 助要請研究における発達的観点の展望と課題 . biosocial context of help-seeking in. 北海道教育大学紀要(教育科学編) ,65(2),. longitudinal perspective: the midtown. 45-54.. longitudinal study, 1954 to 1974. American Journal of Orthopsychiatry, 71, 450-456.. 本田真大(2019) .援助要請の認知行動的特徴,. 水野治久(2014) .子どもと教師のための「チー. 自尊感情と精神的健康の関連 学校臨床心理学. ム援助」の進め方 金子書房. 研究(北海道教育大学大学院学校臨床心理専攻. Rickwood, D. J. (1995). The effectiveness of. 紀要) ,16,3-10. 本田真大・新井邦二郎(2008) .中学生の悩みの. seeking help for coping with personal. 経験,援助要請行動,援助評価が学校適応に与. problems in late adolescence. Journal of Youth and Adolescence, 24, 685-703.. える影響 学校心理学研究,8,49-58. 本田真大・新井邦二郎・石隈利紀(2008) .中学. Srebnik, D., Cause, A. M. & Baydar, N. (1996).. 生の悩みの深刻さ,援助要請時に受けた援助,. Help-seeking pathways for children and. 受けた援助の期待との一致,援助評価と学校適. Adolescents. Journal of Emotional and. 応の関連の検討 筑波大学心理学研究,36,. Behavioral Disorders, 4, 210-220. Trusty, J. & Harris, M. B. C. (1999). Lost talent:. 57-66.. predictors of the stability of educational. 本田真大・新井邦二郎・石隈利紀(2010) .援助 要請スキル尺度の作成 学校心理学研究,10,. expectations across adolescence. Journal of. 33-40.. Adolescent Research, 14, 359-382.. 本田真大・新井邦二郎・石隈利紀(2011) .中学. D’Zurilla, T. D. (1986). Problem-solving therapy:. 生の友人,教師,家族に対する被援助志向性尺. A social competence approach to clinical. 度の作成 カウンセリング研究,44,254-263.. ontervention.(トーマスD. ズリラ 丸山晋(監. 本田真大・新井邦二郎・石隈利紀(2015) .援助. 訳)中田洋二郎・椎谷淳二・杉山圭子(訳). 要請行動から適応感に至るプロセスモデルの構. (1995) .問題解決療法 臨床的介入への社会的. 築 カウンセリング研究,48,65-74.. コンピテンス・アプローチ 金剛出版). 本田真大・石隈利紀(2008) .中学生の援助に対. 付 記. する評価尺度(援助評価尺度)の作成 学校心 理学研究,8,29-40. 本田真大・水野治久(2017) .援助要請に焦点を. 本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費. 当てたカウンセリングに関する理論的検討 カ. (20・196)の助成を得て行われた。. ウンセリング研究,50,23-31. 本田真大・大島由之・新井邦二郎(2009) .不適 応状態にある中学生に対する学級単位の集団社 19.

(11) 学校臨床心理学研究 第17号(2019年度). 謝 辞 本研究にご協力頂きました生徒と学生の皆様, 教職員等関係者の皆様に感謝申し上げます。. 注 1)本論文執筆時にはソーシャルサポート提供ス キル尺度が作成されているが(本田真大(2019) . 中学生のソーシャルサポート提供スキル尺度の 作成 日本学校心理士会年報,11,65-72.) , 本研究実施時には作成されていなかったため, この尺度を使用していなかった。. 20.

(12) 援助要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の試み. SUMMARY Effects of the Behavioral Intervention for Functional Help-Seeking: Focused on Help-Seeking Skills Masahiro HONDA*, Kunijiro ARAI**, Toshinori ISHIKUMA** (*Department of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education) (**Tokyo Seitoku University) The purpose of this study is to examine the intervention to promote functional help-seeking. This program includes group social skills training and psychoeducation. The participants were 18 university students, 61 junior high school students, and 36 high school students. The questionnaire was completed two times(pre and post). The results of ANOVA showed significant tendencies. The scores of“help-seeking skills,” “providing social support skills,”and“help-seeking preferences”were increased. The effects and limits of this program, the problem about scales to evaluation, and the research design are discussed.. Key words : h  elp-seeking skill, providing social support skill, help-seeking preference, help-seeking focused counseling, cognitive-behavioral therapy. 21.

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参照

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