• 検索結果がありません。

沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 : 「1枚の絵」の議論を通じて「戦争の本質」を考える

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 : 「1枚の絵」の議論を通じて「戦争の本質」を考える"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 : 「1枚の絵」の議論を通じて 「戦争の本質」を考える. Author(s). 川上, 慶祐; 廣田, 健. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第48号: 29-39. Issue Date. 2016-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8227. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第48号(平成28年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.48(2016):29-40. 沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 ―「1枚の絵」の議論を通じて「戦争の本質」を考える― 川 上 慶 祐1・廣 田 健2 1 2. 北海道教育大学大学院 教育学研究科. 北海道教育大学釧路校 教育理論・計画研究室. The development of peace education teaching materials was the theme of the Battle of Okinawa Looking at the "essence of war" through a discussion of one of the pictures KAWAKAMI Keisuke1, HIROTA Takeshi2 1 2. Hokkaido University of Education Graduate School of Education. Hokkaido University of Education Educational theory and planning laboratory. 要旨 戦後71年が経過し,戦争体験者の高齢化が進むとともに,児童への戦争体験の継承が課題となっている。児童にとって 戦争は遠い過去のことであり,身近に感じられないというよりは「想像しがたい」という現状があり,多くの児童の戦争 イメージはゲームや映画の中の戦闘シーンにすり替わっている。本稿では,現代の児童にとって「遠い」ものとなってし まった戦争を「身近」にとらえることができる平和教育教材を開発し,それを活用した授業の有効性について述べる。そ の際, 題材として沖縄戦の様子を描いた「一枚の絵」を取り上げ,その議論の中で児童が「戦争の本質」について気づき, 考えることができる授業案を提案する。沖縄戦を取り上げる意図としては,島全体が戦場となっていることを踏まえ,① 一般住民の多様な戦闘参加があったこと。②被害と加害の実相がとらえやすいこと,③軍隊と住民の関係性がよく表れて いることの3つを挙げる。1枚の絵を取り上げる意図とその効果としては,①児童にかかる心的な負荷を調整しやすいこ と,②視覚的にとらえやすいこと,③議論が深まりやすいことの3点を挙げる。以上の観点から本稿では,まず平和教育 の定義と課題について簡単に述べた後, 沖縄戦を題材とすることで見えてくる戦争の本質について要素化し,その上で「1 枚の絵」の議論を通じて戦争を身近に考えられる学習の有効性について論じる。. Ⅰ.はじめに. ティを持って自分事としてとらえることが,現代の児童の. 「平和教育とは,平和の創造を目的とする教育である」. 状況に照らし合わせたときに重要だと考える。そこで本稿. (『現代教育史事典』東京書籍)と定義される。戦後日本. では,戦争のリアリティを考えさせる題材として沖縄戦を. の平和教育は,日本が起こした戦争の歴史,特にアジア・. 取り上げ,1枚の絵の議論を通して,戦争と平和について. 1. 太平洋戦争の中で起こったこと を題材として,戦争体験. 考える授業案を構想した。以下に題材として沖縄戦を選ん. を主な題材として反戦・反核・軍縮を目指すことが平和教. だ理由と,求めたい平和教育の姿と授業案作成にあたって. 2. 育の課題とされてきた 。. 配慮すべき事項を述べた上で,絵の選定理由と,そこから. 戦後71年が経過し,戦争体験者の高齢化が進むととも. 垣間見える戦争の本質を要素化し,それを用いた授業案に. に,児童への戦争体験の継承が課題となっている。児童に. ついて提案したい。. とっての戦争は遠い過去のことであり, 「身近に感じられ ない」というよりは「想像しがたい」という状況があるだ. Ⅱ.沖縄戦を題材とする理由. ろう3。こうした現状を踏まえると, 「過去」の戦争を「今」. 沖縄戦は,太平洋戦争の中でも近代の戦争の中でも, 「特. の児童にどのように教えるかということが,平和教育の課. 殊な戦い」として位置づけられるだろう。それは, 「島全. 題となっている4。. 体が戦場となり,日本軍とアメリカ軍との戦いに多くの住. 筆者は,児童にとって「遠い」戦争を「身近」にリアリ. 民が巻き込まれた」という点にある。児童が戦争について. - 29 -.

(3) 川 上 慶 祐・廣 田 健 身近にそしてリアリティを持って考えられるようにするた. このことからは,一般住民の犠牲がこれほどまでに多く. め,筆者が最も着目したのが,児童と同じ立場である「一. なった1つの理由が戦闘参加にあることが明らかになる。. 般住民」に,戦争がどのような被害や影響をもたらしたか. また,戦闘参加の実態とその過程を見る中で,これまでの. という点である。そこで,まず沖縄戦の概要について述べ. 平和な日常生活や生活集団が,ある時戦争色に染められて. た後,沖縄戦が一般住民に与えた被害や影響が顕著に表れ. いくという側面を見ることができる。学徒隊を例に取れ. ている箇所を3点取り上げ,それらが筆者の目指すリアリ. ば,これまで一緒に勉強していた学友や先生がそのまま,. ティのある平和学習にどのように効果をもたらすかを以下. 野戦病院での負傷した日本兵の看護にあたるため動員され. に述べていく。. た。このことからも明らかなように,これまでの生活集団 の構成員にこそ変化はないが,置かれている状況が「平和」. 1.沖縄戦概要. から「戦争」へと著しく変化している。その中で学徒たち. 沖縄戦は,1945年3月23日から,日本軍の組織的抵抗が. は,親しい友人の死に対する感情が薄れていったり,他人. 終了した6月19日,軍司令官の自決6月23日を経て,アメ. に対しての思いやりを持つ余裕が無くなってしまったりす. リカ軍の作戦終了宣言が発せられた7月2日をもって一応. ることは,戦争がもたらした人の心に対する負の影響だろ. の終了を遂げるが,降伏調印式が公式に行われたのは9月. う。戦争が人々の生活や心身にどのような影響を及ぼした. 7日でのことである。3月23日慶良間諸島に上陸したアメ. のかということも含みながら,これまでと変わらない生活. リカ軍は,沖縄本島上陸に先駆けて足場を築き,4月1日. 集団が,ある時から戦争に染められていったという点に児. に本島中部より上陸を開始した。混乱状態に陥った住民は. 童が気づき,着目することができれば,戦争はより身近に. 「捕虜になることは恥だ」という皇民化教育の意識の下で. 感じやすいものになると考える。. 「集団自決5」も多発した。 アメリカ軍は,首里城の地下に築かれた第32軍司令部壕. ⑵ 被害と加害の実相が見えやすいこと. を目指して,日本軍と激しい戦闘を繰り広げ,戦線が南下. 沖縄戦は「地上戦」であることから,人間と人間が直接. するにつれて住民も南部に追いやられていった。やがて司. 的に戦ったという点で「殺し殺される」という被害と加害. 令部壕がアメリカ軍によって包囲されようとしたとき,持. の側面が見えやすい。しかもそこに,一般住民が戦闘に参. 久戦の方針がより顕著に表れ,摩文仁への撤退を決め(南. 加しているというⅡ-1で述べた要素を付与することで,. 部撤退)戦闘はさらに長期化,泥沼化する要因となった。. さらにリアリティを感じさせる題材となり得るだろう。. 南部撤退によって,日本軍とアメリカ軍の戦闘に多くの. この点に着目したのは,児童の戦争イメージが,ゲーム. 住民が巻き込まれていった。本島南部に多く存在する自然. の戦闘シーンや,映画などにすり替わっているのではない. 洞窟である「ガマ」を日本軍が戦闘に利用するとして住民. かと考えるためである。また,犠牲者数の多さが戦争の悲. を追い出したり,スパイ容疑をかけて住民を虐殺したりす. 惨さに単純に結びついてしまうことを避けるという点にお. る例が数多く起こった。. いても,具体的に人々がどのような状況の中で戦争に巻き. 6月23日,摩文仁で司令官の牛島満中将と長勇参謀長の. 込まれ,犠牲になったのかを考えさせることが,戦争の実. 自決をもって,日本軍の組織的な戦闘は集結した。しかし. 相を児童にとらえさせる1つの重要な要素になると考え. 司令官が戦闘継続を指示しながらも自決を図ったことで,. る。. 戦闘責任者のいなくなった沖縄戦は終わりのない戦闘に変 化し,戦闘はさらに泥沼化した。. ⑶ 日本軍と一般住民の関係性が見えやすいこと. 9月7日,ようやく降伏調印式が行われ,戦闘は正式に. 沖縄戦を考える上で,日本軍と一般住民との関係は外せ. 終結した。沖縄戦の犠牲者数は20万人を超えるが,その約. ない。沖縄戦の教訓は,現代の私たちに軍隊の本質を考え. 半数は一般住民の犠牲者である6。. させるものとなっているという点にも着目したい。それは 仲間であるはずの日本軍が,極限状態の中では必ずしも住. 2.沖縄戦が一般住民に与えた被害や影響. 民を守るために行動するものではないのではないかという. ⑴ 一般住民の多様な戦闘参加があったこと. 点である。. 沖縄戦は「国家総動員体制の極地」と言われるように,. 沖縄戦の中では,日本軍による住民の虐殺や,住民をガ. 一般住民が様々な形で「根こそぎ動員」された。沖縄守備. マから追い出すなどの事例が多くの証言を読み解いていく. にあたった第32軍は,沖縄に飛行場を建設したり,陣地壕. 中で見えてくる。このことから,一般的には味方だと思わ. を建設したりする際,その作業に住民を徴用している。ま. れている日本軍が,守られるはずである住民を虐殺した. た,ひめゆり学徒隊などで知られる「学徒隊」や,現地. り,危険な状況に追い込んだりしている。この原因には様々. 召集中心の補助兵である「防衛隊」などとして一般住民を. な要素が関わっているが,1つには沖縄人に対する「2等. 召集するなど,多くが軍隊の補助等の目的で沖縄戦に関与. 国民」としての差別意識が根底にあるだろう7。. し,動員させられた。. こうした中で,日本軍は同族意識を持って沖縄人を扱っ. - 30 -.

(4) 沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 たわけではなく,別民族(植民地の民族とも)としての認. うよりも想像しがたいものになっている。これを踏まえれ. 識を持っていたことが,結果として「住民を守らない」こ. ば,児童が戦争を学習する際には,戦争を身近にかつ想像. とにつながったのではないか。. しやすくする工夫が必要である。. こうした可能性に児童が気づくことも,戦争と平和を考. 竹内は,戦争を身近に感じさせる上で戦争体験者の語り. える上で重要な視点になってくると考える。. を題材とすることを述べているが,一方で体験の継承が難 しくなっていることを指摘している。そこで,児童の身近. Ⅲ.求めたい平和教育の姿と教材作成上の留意点. にある「モノ」から学ぶ工夫が意味を持っていると述べて. これまで, 児童にとって「遠い」戦争を身近にリアリティ. いる9。. を持って考えられるだろう題材として,沖縄戦から垣間見. 渡辺明(小学校教師)は,地域の兵士の墓碑調べを実. える3つの要素を示してきた。しかし単に,児童に対して. 践した。戦死場所と年齢を読み取らせ,それを地図に. これらの要素を直接的に提示し,戦争の悲惨さや愚かさを. 記していくと,戦場がアジア太平洋全域にわたってい. 訴えかけるだけでは,効果的な平和教育を展開することは. ること,若い戦死者が多いことが見えてくる。(中略). 難しいと考える。ややもすると,かえって児童の意欲を半. 過去の,しかも遠い地での戦争が,自分たちの日常の. 減させ,平和教育自体への嫌悪感を高めるものになってし. 場とつながっていることに気づいた経験は,のちの歴. まう可能性がある。そのため,児童に対してどのように平. 史や地理の学習が進んだときに活かされる。. 和教育を行うかという学習上の配慮が極めて重要であると. 以上のことから竹内は,身近なものを通して過去の戦争. 考える。そこで,筆者が求めたい平和教育の姿と,学習構. と自分の接点に気づかせる学習が,平和教育の実践として. 想上の留意点を以下に述べていきたい。. しばしば用いられるとともに,効果的であるとしている。 また,ここ竹内が示した事例は小学校3年生を対象とした. 1.戦争の本質について考えることができる学習. ものであり,児童の発達段階を考慮すると,体験者の語り. 本稿において,筆者が沖縄戦に着目した大きな理由とし. を通して戦争の惨状を伝えるより,ものを通して想像させ. て「殺し殺される」という被害と加害の実相が見えやすい. ることが小学校段階においてはより一層効果的であると述. ことを挙げた。これは児童の戦争イメージが,ゲームの戦. べている。. 闘シーンや,映画などにすり替わっているのではないかと. このように,児童にとって「遠い戦争」が「身近」に感. いう観点から, 「戦争はカッコいいものではない」という. じられるようにするためには,過去の出来事が,自分にど. 実相を児童がとらえることのできる学習を構想すること. のようにつながりを持っているかということが明らかにな. が,平和を希求する態度の育成につながると考えたためで. る題材を選定する必要があると考える。具体的には,題材. ある。戦争の実相を考えることができる題材として,筆者. としたもの自体や,当時の人と自分との共通点を明らかに. は一般住民の体験に注目する。. するということである。以上を踏まえて,筆者が平和教育. 山口剛史は,平和教育の中で,戦争体験を聞き取りなが. の中で大切にしたい「身近さ」とは,年月的なものや距離. ら戦争の実相について深めていく学習方法が重視されてき. 的な身近さではなく,境遇や年齢的な「身近さ」である。. たと述べている。そこには聞く者に戦場の光景をリアルに. これを意識した学習を展開することで,過去の出来事であ. 想像させ,戦争の悲惨さを伝える力があったことや,1人1. る戦争を,自分たちの立場や年齢に置き換えて考えやすく. 人の人間の意識や命,身体にどのようなことがおこるのか. なり,戦争をよりリアルに想像しやすく,考えやすくなる. ということを学ぶことができるという点で,戦争体験を聞. のではないだろうかと考える。. き取ることは意義深い学習活動だと述べている 。 8. 上記を踏まえて筆者は,学習の中で「住民が体験した戦. 3.学習者に負荷がかかりすぎない学習. 争」の様子に着目することを重視した。これは直接的な戦. 平和教育の手法として一般的にイメージされるのが,戦. 争体験の聞き取りではないが,戦争体験者の残した証言や. 争の悲惨さや残虐さを強調するあまり,ショッキングな写. 絵,手記など,あらゆるものを通しても,間接的な聞き取. 真や映像,絵などを中心に展開される学習だろう。こうし. りが可能であると考える。とりわけ,児童と同じ立場であ. た学習を繰り返すことは,児童の中に「平和学習=怖いも. る住民の体験した戦争を扱うことで, 「どのようなことが. の」というイメージが構築することにつながり,かえっ. 起こったのか」が見えやすくなり,同じ住民の立場という. て平和学習自体に嫌悪感を持ったり,考えること自体を放. ことからも,より戦争を「身近」にとらえやすくなるので. 棄してしまったりする可能性を孕んでいる。こうした点か. はないかと考える。. ら,児童の心にかかる負荷の程度を調整した学習を展開し ていく必要がある。. 2.「身近さ」を追及する学習. 筆者の構想する平和学習実践の中では,戦争の持つ被害. 戦争体験者の減少等による「体験の継承」が課題となっ. と加害の実相である「殺し殺される」に着目することから,. ているとともに,児童にとって戦争は身近ではない,とい. より一層児童の心にかかる負荷のバランスを考え,発達段. - 31 -.

(5) 川 上 慶 祐・廣 田 健 階も考慮しながら,映像や写真よりも,絵などを中心に学. に触れさせることが効果的だと考えている。ここでいう 「戦. 習を展開することに留意する。. 争の悲惨さ」とは,単純に残虐でショッキングな様子を写 真や映像で見せたり,児童に一種のトラウマのような感情. 4.平和な日常がある日突然壊れてしまう様子がわかる学 習. を抱かせたりすることで感じられる「表面的な悲惨さ」で はない。先にも述べたように,戦争が児童にとって「身近. 戦争の対義語として平和が位置づけられるとすれば,児. な」ものにならなければ,平和を希求する態度を育てるこ. 童にとっては平和な日常は当たり前であり,こうした当た. とはできない。そこで筆者は,多くの体験者の語りの中に. り前こそが,戦争を遠くのものに感じさせる1つの要因に. 垣間見える次の3つの視点が戦争の「本質的な悲惨さ」で. なっている10。筆者は,戦争を学ぶ中で,悲惨な様子を印. あると考える。. 象づけることが平和を希求する態度を育てることにつなが. ①身近な人が死ぬこと。. るとは考えていない。戦争の恐ろしさは,平和な日常の中. ②他人の事を思いやって行動する気持ちがなくなるこ と。. にこそ迫っており,この日常生活や生活集団がそのまま,. ③平和な日常が戦争によって壊されてしまうこと。. 戦争一色に染まり,気づけば戦争の渦中にいたという状態 に陥ることでもあると考える。つまり戦争の恐ろしさは,. こうした「戦争の悲惨さ」の視点を,学習を進めていく. 平和な日常を突然壊してしまうところにあると考える。. 上で基本的な授業の構成要素として取り入れたい。児童が. そこで筆者は,普段生活している生活集団がそのまま戦. 境遇的に身近さを感じられるような題材を,一般住民の体. 争色に染められてしまうという部分に着目したいと考えて. 験を記録したものの中から選定し,体験者の立場に立って. いる。例えば,ひめゆり学徒隊の場合には,楽しく平和に. 考えさせることで児童の発言に揺さぶりをかけ,「平和が. 学校生活を送っていた女学生たちが,沖縄戦で学校の先生. いい」という感想を持てるようはたらきかけていきたい。. や学友含め,すべての人々が戦場に看護要員として動員さ れていた。こうした題材を扱うことにも,普段学校生活を 送っている児童の日常と重なる部分があることから境遇的 な身近さを感じさせることができ,よりリアリティを感じ ることができるものになり得るのではないかと考える。 5.結論に至るまでのプロセスを重視し「戦争の悲惨さ」 に着目する学習 児童は,平和教育を繰り返し受ける中で, 「戦争はいけ ないこと」という不動の結論を形成していく傾向があるの ではないか11。こうした 「平和教育=戦争はいけないこと」 という結論の見える学習は学習者にとっては「押しつけ」 とも感じられ, 「戦争は悲惨だからいけないこと」という 概念を記号的に形成することにつながる可能性があると考 える。筆者はこの点に関して,児童が学習の成果として得 るべき「戦争はいけないこと」という考え方が,単に記号 的に平和学習と結びつくことのないように留意する必要が あると考える。山内は,平和教育のあらゆる実践を通じて 獲得されるべき概念は「平和の実現が望ましい」と言うこ とであり,児童の中に無自覚に存在しているこの結論に揺 さぶりをかけ,この結論に到達した根拠を明確にし,認識 を深化させていくことこそが,本来の平和教育の目的に適 う方法なのではないかと述べている12。 このように, 児童が「過去の戦争」を学んでいく中で, 「平 和がいい」という感想を持つことができるような学習過程 を設定し,その感情に揺さぶりをかけることが児童の中に 無意識に存在している結論に対する説得力につながり,平 和を希求する態度を育てることができるだろうと考えてい る。 筆者はこの学習過程の設定において, 「戦争の悲惨さ」. - 32 -.

(6) 沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 ①. ④. ②. ⑥ ③. ⑤ 〔図1〕新里浩さんの描いた沖縄戦の絵. Ⅳ.「1枚の絵」を通して「戦争の本質」を考える授業の. た。絵の中央に描かれている「トンボ」と呼ばれた米. 構想. 軍機が上空を旋回すると,直後には必ず沖合の軍艦が. 1.1枚の絵から見えてくる要素. 放つ艦砲射撃の砲弾が雨のように降り注いだ。新里さ. 前節を踏まえ,筆者の構想する平和教育を具体的にどの. んたち家族は横たわる遺体の間を逃げ惑ったという。. ような題材を通じて行うかという点で展開していきたい。. 絵の右端には刀を振り上げた日本兵が描かれている。. そこで,児童にとって戦争が身近にそしてリアリティを. 昭和20年6月。命からがらたどりついた糸満市山城の. 持って考えられる題材として,沖縄戦体験者である新里浩. 壕での出来事だ。 新里さんの父は「中に入れて欲しい」. 13. さん(沖縄戦当時6歳)が描いた「1枚の絵 」 〔図1〕. と壕の中の日本兵に懇願した。しかし,刀を抜いた日. の議論を通じた授業を構想した。. 本兵の言葉は「出て行かないと殺す」新里さんたち家. 筆者が新里さんの絵を通じて本題材を展開する理由とし. 族は再び砲弾の雨の中に放り出された。「日本兵とい. て,①沖縄戦の様子が時系列で描かれていること。②日本. うのは当然住民を守るためにいるのだと信じていた。. 軍と住民の関係が顕著に表れていること。③一般住民の見. 極限状態になるとどんな人間でもああなるのか」 。後. た戦争が描かれていること。④沖縄戦の実相がトータルに. ろは米軍の砲撃,前には抜刀する日本兵。両国の軍隊. 描かれていること。以上の4点を挙げる。その中では,児. の狭間で逃げ場を失い,生命の危機にさらされ続けな. 童の発達段階を考慮して,悲惨さだけを強調し児童に平和. くてはならなかった。. 教育実践への嫌悪感を抱かせないよう,絵を用いたものに. この絵は,1枚で「沖縄戦」をトータルに表していると. した。このように学習者への負荷の面に配慮しながら,④. 考える。中でも傍線部に明らかなように,日本軍と一般住. で挙げた沖縄戦から見える「戦争の本質」に児童が触れる. 民の関係性を新里氏自身が明確にとらえており,絵にもこ. ことのできる題材としても, この絵が適切であると考える。. の場面がセリフつきで描かれている。このことからも分か. 以下に,絵についての概要を述べた上で,絵の中に描か. るように,沖縄戦の中では軍隊行動が住民の行動指標に. れている沖縄戦の実相を示す場面を抜き出してその場面を. なっている部分が大きく,軍隊と一般住民の関係性を明確. 筆者なりに考察したものを示す。その後,本題材を用いた. にとらえることは,住民の体験した戦争を語る上で重要な. 授業案を提起し,その展開について述べていく。. 視点である。 これを踏まえた上で,この1枚の絵に垣間見えるだろう. 2.絵を用いた授業案の提案. 沖縄戦の実相を,1つ1つ描かれた様子を切り取って筆者. ⑴ 絵についての概要. なりの見解を示す。. 新里氏に対してNHK沖縄放送局の池田誠一氏が行った 取材記から, この絵に対する解説を引用したものを示す(傍. ⑵ 絵の全体像と描かれている場面について この絵は,那覇市首里~南風原町~糸満への避難の様子. 14. 線部分は筆者) 。 当時6歳だった新里浩さん(66)は,昭和20年3月末. を表している。時系列に沿って新里氏が見た光景が描かれ. に,家族とともに那覇市首里の自宅を出て沖縄本島南. ており,絵の左から右へ時間が経過しているものととらえ. 部へ避難した様子を2枚の絵 に描いた。1枚目の絵. た。つまり絵の左側は避難の始まり(首里),絵の中心は. の大きさは2メートル以上。3ヶ月にわたる命がけの. 避難の途中(南風原),そして右側はたどり着いた壕(糸満). 逃避行の体験は,小さな紙に収めることはできなかっ. を描いたものだろう。以下場面ごとに,この絵に描かれて. 15. - 33 -.

(7) 川 上 慶 祐・廣 田 健 いる場面について見解を述べていく。. 米軍の艦艇だと思われる。右側の艦艇は艦砲射撃 を放っている。沖縄戦では,米軍の艦艇が本島周辺 を取り囲み,こうして艦砲射撃を浴びせ続けていた。 [4] と合わせて,地上にいることがいかに危険だっ たかを考えさせる描写であり,このことから,住民 は安全な場所を求めてガマに身を隠そうとすること もごく自然な判断だということを想像する上で効果 的な描写となるだろう。. [4]. 機銃掃射. 艦砲射撃. [1]. この場面では,米軍の艦載機からの機銃掃射で住 民が犠牲になっている様子が描かれている。[1] と 合わせて沖縄戦においては,海からも空からも米軍 の猛攻が加えられ,地上にいることがいかに危険 だったかということが視覚的にとらえられやすいだ ろう。 荷物を持っていることから,ここには避難民の様 子が描かれており,南風原町付近で新里さんが見た 様子と思われる。多くの証言の中から読み取れるよ うに,避難民と日本軍,そしておびただしい数の遺 体の間をぬって逃げている様子であろう。また,こ こで道路らしき茶色の線が途切れているのは,この 後あてもなく戦場を彷徨し,道なき道を通って避難 していったことを表しているのではないか。. [5]. 軍民一体の戦闘. 避難民の様子. [2]. 右下のこの部分には,帽子を被り,その亡骸の横 に銃のようなものが落ちていることから,兵隊の死 が描かれている。この絵が時系列に基づいて描かれ ているとすれば,この部分が糸満市付近での戦場の 様子を描いているのではないか。. [6]. 壕・ガマからの追い出し・提供2. 壕・ガマからの追い出し・提供1. [3]. この部分が,沖縄戦の特徴と言える出来事を示し ている。背景には沖縄特有の亀甲墓が描かれ,その 前に生活用品が描かれている。沖縄の人々は先祖の 墓に身を隠しながら,避難生活を送っていた。そこ へ,日本軍がやって来て「軍が使うから君たちは出 て行け」と言う。この場面からは,住民は当然守ら れる存在だろうと思うことにかかわって軍隊行動の 意外性について訴える場面となっている。. - 34 -. この場面は,本島南部の避難に関わって沖縄戦の 特徴である日本軍の壕(ガマ)からの追い出しと, 住民虐殺の様子が垣間見える部分である。ようやく 見つけた壕の入口で,戦闘作戦の邪魔になるとして 懇願する住民に向けて日本刀を振りかざす日本軍の 様子が描かれている。このことから,[3] と合わせ て極限状態の中では,軍隊が必ずしも住民を守るた めに行動するわけではないという姿を垣間見ること ができるだろう。.

(8) 沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 以上の6場面を,Ⅱ-2で述べた「沖縄戦が一般住民に. 馬丸-さようなら沖縄』17のラストシーンを想起させ,主. 与えた被害や影響」の3つの要素に照らし合わせて考える. 人公きよしが,対馬丸の沈没の後那覇に帰ってきたところ. と,いかにこの1枚に沖縄戦の実相が集合しているかが分. で,大規模な空襲があり,那覇の街が燃えたシーンで物語. かる。例えば絵の解説[3]と[6]の場面に描かれているよう. が終結するシーンを想起させる。その後,映画でも描かれ. に,この描写場面からは日本軍と一般住民の関係性が明確. ていたように,日本がアメリカとの戦争をしていることに. に見てとれる(Ⅱ-2-⑶) 。[1]と[4]と[5]の場面に着目す. も触れ,問題を提示する。問題はあえて一部分を隠してお. れば,地上にいることがいかに危険だったかを考える指標. き,この後の授業でその隠しておいた部分に迫っていくこ. となり,それ故に住民の行動が[3]と[6]の場面につながって. とを告げ,児童の課題意識を明確化したい。. いったことも想像しやすいだろう。その際, 壕の提供([3]) とガマからの追い出し([6])の場面は,日本軍が戦闘を続. ② 展開①-絵の気になる部分や疑問を挙げる. けるために一般住民が場を提供させられた(提供した)様. まず新里浩さんの絵を提示し,この絵が沖縄戦当時のこ. 子を描いているものであり,これは一種の戦闘協力として. とを思い出して描かれていること,左から右へ時間を追っ. とらえることもできるであろう(Ⅱ-2-⑴) 。さらに,[1]. て描かれていることを説明する。その後,児童に絵の中か. と[4]と[5]の場面では, 「地上戦」 の実相が描かれている。 「殺. ら気になる部分と疑問に感じた部分について,「なぜそう. し殺される」という被害と加害の側面が直接的に描かれて. 考えたのか」を踏まえながら児童に予想を持たせたい。. いるわけではないが,この後の学習で被害と加害の側面に 着目した題材を取り扱う際に,想像が容易にできる1つの 要素として位置付くだろう(Ⅱ-2-⑵) 。 これらの点に児童が議論を通す中で気づき,疑問を抱く ような展開を図ることで,児童の中の戦争のイメージに揺 さぶりをかけ,同時に「戦争の本質」を考える題材として 活きるものとなるだろうと考える。 3.授業案について 新里浩さんの絵を用いることで,子どもたちが沖縄戦を 通して戦争の本質を考えることのできるであろう要素はこ れまでに述べてきたとおりである。そこで本項では,具体 的にどのようにこの絵を用いて授業を展開するかという授 業例をⅡとⅢに述べてきた視点を反映させた形で提案した い。 ⑴ 対象と位置づけ 対象は小学校第6学年の児童である。本題材は,児童が 戦争と平和について考える1つのきっかけとして,導入段 階での使用を考えている。また,教育課程上の関連では, 総合的な学習の時間に位置づけて展開したい16。 〔図2〕 が新里氏の絵を用いた本時案である。 ⑵ 本時案について 本時の目標として, 「1枚の絵の議論を通じて,沖縄戦 の特徴について気づき,想像することができる」を設定し た。本題材が,戦争と平和を考える授業の全体構想の中で の最初のきっかけとなり得るためには,まず沖縄戦の実相 とも言える要素に児童が自ら発見し,疑問を抱かせること が重要であると考えた。そのため,より多様な意見が出や すいようにしたい。 ① 導入-問題把握 まず問題把握の段階で,前時までに見ていたアニメ『対. - 35 -.

(9) 川 上 慶 祐・廣 田 健. 〔図2〕本時案. - 36 -.

(10) 沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 ③ 展開②-議論の中で疑問を深める. る。ここでは,日本軍が一般的には住民を守るために行動. 展開①で挙げた自分の疑問と他者の疑問をすり合わせ,. するだろうという児童の一般的なイメージを,教師が「ア. その議論を通じて児童の思考に揺さぶりをかけることを目. メリカ兵か日本兵か」と問いかける中で揺さぶりをかける. 指す。その際具体的に,以下の点に着目した児童の発言を. ことで,児童にとって遠くイメージしにくい戦争の中で起. 中心に取り上げ,展開していきたい。. こった出来事を視覚的に捉えながら,考えられるきっかけ となり得るのではないだろうか。. a)一般住民の死者が多いことに関する発言. また,この点は,沖縄戦から見える一般住民に与えた影. 児童の中には, 「あちらこちらで人が死んでいる」とい. 響を考える上でも必要になってくる視点である。体験者に. う死傷者の多さに着目する発言や, 「兵隊の服を着ていな. とっては,少なからず日本軍の存在が住民の行動指標にも. い人がたくさん死んでいる」という犠牲者自体に着目する. 関わっている部分があると考える。児童が日本軍の発言や. 発言が出てくることが予想される。前者は,沖縄戦の犠牲. 行動に着目し,違和感を覚えたということは,きっと同じ. 者がまず多かったととらえることができている発言であ. 状況下で沖縄戦当時に新里さん自身が感じた違和感と通じ. る。後者は,前者の発言を踏まえつつも,その犠牲者が具. る部分があるだろう。つまりこの場面についての児童の練. 体的にどのような人々であるか(兵隊の死者数よりも一般. り合いは,児童が新里さんとの「境遇的な身近さ」を感じ. 住民の死者数の方が多いということ)を感覚的にとらえて. ている姿であると考えることができるだろう。. いる姿であると考えられる。まずこの点に着目している児 童の発言を取り上げながら,沖縄戦の中では特に一般住民. ④ 思考の整理とまとめ. の犠牲者数が多かったという1つの要素についてとらえさ. このようにある程度気づきと疑問についての練り合いを. せ,そこに沖合の軍艦からの艦砲射撃や,艦載機の攻撃が. 行った後,絵の理解を深める意図も合わせて絵についての. かかわっていることも,絵の内容への児童の気づきから関. 取材記や社会科の教科書等を用いて,事実としての沖縄戦. 係づけて展開していきたい。. の概要をつかませたい。その後,さらに気になることを挙 げさせ,次時以降に児童の疑問が持続できるようにする。. b)日本軍と一般住民の関係性に関する発言. 特に本稿で取り上げた題材と授業案は,児童が戦争と平. 「兵隊が怖い顔をしている」 「住民が兵隊に指示されてい. 和について考える学習の導入段階を想定したものであり,. る」「兵隊はなぜ出ていけと言っているのだろう」などの. 本平和教育を実施することにより戦争の本質をとらえるこ. ように,日本軍と一般住民の関係性に関する気づきや疑問. とができるよう,それにつながる「気づき」を意識化でき. が児童の複数名から挙がってくることが予想される。この. る形を目指したい。本時案を経て児童が挙げた「気づいた. 発言からは,兵隊の見た目や行動の様子をとらえる中で,. こと」「疑問に思ったこと」に沿う形でその後の学習内容. 住民との関係についての概念をとらえている姿だと考える. を設定し,題材を適切に選定する中で,児童の「気づき」. ことができる。さらに児童からは,この絵に描かれている. と「戦争の本質」を結びつけていけるような働きかけを心. 兵隊が「アメリカ兵なのか日本兵なのかわからない」とい. がけたい。こうした観点から,最後に取材記や教科書等か. う以下のようなやりとりが挙げられることも予想される。. ら分かった点を踏まえ,子どもたちが絵の中から発見し た気づきや疑問が,沖縄戦の一要素になっていることを伝. C:兵隊はなぜ「出て行け」と言ったのかな。. え,多様な「まとめ」を保証したい。. C:アメリカの兵隊だからじゃないかな。 C:でもアメリカの兵隊だったら,敵だから殺すんじゃ ないかな。 T:ここに描かれている兵隊は,アメリカ兵かな,それ とも日本兵かな。どちらだろう。. Ⅴ.おわりに -課題と今後 本稿では,児童にとって「遠い」戦争を「身近」にリア リティを持って考えられる効果的な平和教育として,沖縄 戦の様子を描いた1枚の絵を通して「戦争の本質」を児童. C:日本兵だと思うな。だってセリフが日本語で書かれ. がとらえることのできる教材の作成とその授業案を提起し た。その際,沖縄戦を題材とする中で見えてくる①一般. ているから。 C:でも日本兵だったら,新里さんをあぶない目にあわ せないで守るんじゃないかな。. 住民が戦争に巻き込まれている点と,②日本軍と住民との 関係性の点に着目し,やや極端に要素化した上で, 「1枚 の絵」が訴えかけてくる戦争とを結びつけ,教材としての. 〔凡例〕C:児童 T:教師. 検討を行った。その上で,絵をもとに児童が議論し,気づ きや疑問を共有して練り合いを行っていく中で,戦争を身. 児童は, 仮にこの兵隊がアメリカ兵であれば 「出て行け」. 近に感じ,やがては本質につながる考えを持つことのでき. という発言は納得できるが,仮に日本兵の発言であれば違. る効果的な平和教育の授業について授業案とともに提起し. 和感を覚えるという趣旨のやり取りを大切にしたいと考え. た。. - 37 -.

(11) 川 上 慶 祐・廣 田 健 本題材と授業案に関しては,まだまだ構想段階であり,. 後も,実際に小学校段階の児童に対して題材の持つ持ち味. 本案が児童の学びにふさわしいものになり得るかは,教材. を生かした効果的な平和教育の授業の構想を進めていきた. 研究の視点や平和教育に必要な要素,沖縄戦を題材とする. い。. 中で見えてくる要素等の様々な観点からの吟味が必要であ る。また, 筆者が構想する平和教育に照らし合わせたとき, この実践の方向性が妥当なものとして位置づけられるかと いう観点からも,さらに検討を重ねていきたいと思う。児 童にとって「遠い」戦争を「身近」にとらえることの難し さを打開するための一例として, 「年齢的」 「境遇的」な身 近さに着目し,題材の選定,教材の開発を進めてきた。今. 1. 伊藤武彦「平和教育の国際的動向」 『季刊人間と教育』5号(労働旬報社),74頁。. 2. 竹内久顕編著『平和教育を問いなおす』 (法律文化社)2011年,7 ~ 10頁参照。. 3. 竹内は,平和教育が自分の問題として「身近に」感じられない理由として,過去の戦争と現代の戦争の乖離を指摘して いる。子どもたちの学んできた戦争と,今日の戦争とには「リアルさ」の点でズレが生じており,子どもたちが実感で きる「戦争」がゲームや娯楽映画・漫画などであることを踏まえると,「リアルさ」がないはずの今日の戦争の方が子 どもたちの実感に近いため,過去の戦争と今日の戦争の認識のズレは,いっそう拡大すると述べる。また,こうした考 え方を竹内は, 平和教育の「4つの乖離」として指摘している。「4つの乖離」とは,①過去の戦争と現代の戦争の乖離, ②遠くの暴力(戦争・飢餓・抑圧など)と身近な暴力の乖離,③平和創造の理念(平和憲法)と現実の乖離,④これま での平和教育と新しい平和教育の乖離である。竹内,前掲書,7~ 10頁参照。. 4. 竹内,前掲書,105頁。. 5. 集団自決は沖縄戦の特徴の1つである。ここには軍民一体となって戦うという思想が反映されており,多くの住民が「捕 虜になることは恥」であり, 捕虜になれば「男は戦車の下敷きになって殺され,女は強姦されて殺される」という間違っ た認識を日本軍が住民に伝えたことが, 住民が心理的にも物理的にも「もはやこれまで」と追い詰められた要因である。 また,集団自決は日本軍が強制したという見方と,強制はなかったという2つの議論がある。筆者は,集団自決の起こっ た場所には日本軍の存在があったことを踏まえ,日本軍の存在や軍命が少なくとも住民行動の1つの指標になったとの 見方を持っている。. 6. 県援護課がまとめた推定数では,本土出身兵6万5908人,沖縄出身軍人軍属2万8228人,戦闘参加者5万5246人,一般住 民3万8754人,米軍1万2520人,計20万656人となっている 。このうち,沖縄出身軍人軍属の中には,防衛隊や学徒隊, 男女義勇隊に動員された住民が含まれていること,また戦闘参加者は,援護法の適応を受けた一般住民のことである。 これらと戦闘に動員されていない一般住民を合わせると,住民の犠牲は15万人を超えると推定されている。大城将保 『沖 縄戦 民衆の目でとらえる[戦争] 』 (高文研)1995年,71頁参照。. 7. 琉球処分後から,沖縄は日本になってから日がまだ浅く国民性にはまだまだ劣っているという認識があったため,戦時 体制の強化として様々な古くからの沖縄的風習を日本風に改めることが重点的に進められた。しかしながら「日本と沖 縄は違う」 「沖縄人は二等国民」という見えない差別意識は払拭できなかった。これは,沖縄戦ができるだけ「時間稼 ぎの持久戦(捨て石作戦) 」になった要因の1つとも言えるだろう。. 8. 山口剛史他「離島における平和教育教材開発研究Ⅰ-戦争遺跡“西表島船浮・対馬要塞跡”の実態調査から見る教材の 可能性」2007年3月,琉球大学教育実践総合センター紀要,第14号参照。また,沖縄の場合,こうした戦争体験の継承 目的とともに「史資料が日米両軍の記録のみであり,沖縄住民がどのように戦火を生き残ったのか,どのような住民犠 牲があったのかを,当時の資料から見ることはできな」かったことが体験を聞き取ることが重視されたことが理由とし て挙げられる。. 9. 竹内,前掲書,111頁参照。. 10. 竹内は,平和教育が自分の問題として「身近」に感じられない理由として,過去の戦争と現在の戦争の乖離を指摘して いる。児童にとっての戦争はゲームや娯楽映画・漫画であることを踏まえると「リアルさ」がなく,学習者がイメージ を持ちにくい。それゆえ身近に感じられない側面が強い。竹内,前掲書,7~ 10頁参照。. 11. 山内規嗣「大学生の回想にみる平和教育実践の諸問題」広島大学大学院教育学研究科学習開発学講座,2007年,105 ~. - 38 -.

(12) 沖縄戦を題材とした平和教育教材の開発 106頁参照。 12. 同上。. 13. NHK沖縄放送局編『沖縄戦の絵 地上戦 命の記録』(NHK出版)2006年,24 ~ 25頁。. 14. NHK沖縄放送局編,前掲書,86頁。. 15. 新里氏の絵は2枚あり,1枚目が本題材で用いた絵,2枚目が壕を追い出された直後に起きた母親の死を描いた絵であ る。. 16. 本稿は,筆者川上の卒業論文において作成した沖縄の歴史・文化を総合的に学ぶ「うちなー学」(総合的な学習の時間 全70時間)の一部分を取り上げ,加筆・修正を加えたものである。「うちなー学」は修学旅行(2泊3日)で沖縄を訪れ ることを想定し, その事前学習として行うことを前提に構想した。この事前学習は大きく分けて2部構成になっており, 前半は沖縄の伝統や文化と反映の歴史を中心とした「でーじ美ら島沖縄」(30時間)。後半に沖縄戦を題材とした平和教 育を展開する「いくさゆー沖縄」 (40時間)を位置づけた。特に本稿で論じた「1枚の絵の議論を通じて戦争の本質を考 える」授業は,後半の「いくさゆー沖縄」で展開する5つの観点からなる授業のうちの1つである。5つの観点はそれ ぞれ①小学生の身に起こった戦争で疎開船対馬丸の悲劇を描いたアニメーション『対馬丸~さようなら沖縄~』を見て, 感想を述べる授業。②一般住民への戦争の被害や,住民と軍隊の関係性について考える本稿で示した授業。③ガマの中 で起こった「集団自決」に着目し,体験者の手記から集団自決の実相について考える授業。④ひめゆり学徒隊の1人の 手記から,戦闘参加を考える授業。⑤戦争マラリアによって犠牲になった波照間島の子どもたちを題材として,直接的 ではない戦争の犠牲について考える授業。川上慶祐『沖縄戦を題材とした平和教育-「戦争の本質」を考える学習プロ グラムの開発と課題-』2015年。. 17. 大城立裕原作・対馬丸制作委員会制作『対馬丸~さようなら沖縄~』1982年。. - 39 -.

(13)

参照

関連したドキュメント

かであろう。まさに UMIZ の活動がそれを担ってい るのである(幼児保育教育の “UMIZ for KIDS” による 3

理系の人の発想はなかなかするどいです。「建築

市場を拡大していくことを求めているはずであ るので、1だけではなく、2、3、4の戦略も

この見方とは異なり,飯田隆は,「絵とその絵

現実感のもてる問題場面からスタートし,問題 場面を自らの考えや表現を用いて表し,教師の

共通点が多い 2 。そのようなことを考えあわせ ると、リードの因果論は結局、・ヒュームの因果

はありますが、これまでの 40 人から 35

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば