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JICA研究所とアジア経済研究所 -- 出向先で考えたこと (特集 国際協力と研究者 -- 現場と研究室の間の深い河 -- 第I部 研究者と国際協力)

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Academic year: 2021

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(1)

JICA研究所とアジア経済研究所 -- 出向先で考えた

こと (特集 国際協力と研究者 -- 現場と研究室の

間の深い河 -- 第I部 研究者と国際協力)

著者

武内 進一

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

180

ページ

12-15

発行年

2010-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004418

(2)

  アジア経済研究所︵アジ研︶か ら J IC A︵国際協力機構︶研究 所に出向して一年余になる。 J I C A研究所は二〇〇八年一〇月の 新 J IC A誕生と同時に設立され た。新 J I C Aは、組織的には旧 J I C A と J BIC ︵日本国際協 力銀行︶の有償資金協力部門︵旧 海外経済協力基金︶が統合した開 発援助機関で、技術協力、有償資 金協力、そして従来外務省が実施 してきた無償資金協力の一部を一 元的に実施する。事業予算で世界 最大規模の開発援助機関となった 新 J IC Aに、研究所が設置され たわけである。   私は J I C A研究所の設立と同 時に客員研究員として週一回勤務 し、二〇〇九年四月からは、出向 という形で毎日通っている。出向 者の立場で、自分の役割、 J I C A研究所の機能、そしてアジ研と の違いについて、日々考えをめぐ らせてきた。本稿では、近年にお ける開発援助と学術研究の関係に ついて論じながら J I C A研究所 の性格を紹介した上で、政策的観 点からアジ研に何が要請されるの かを考えたい。

JICA研究所

クな

  JI C A 研 究 所 で の 私 の 仕 事 は 、 ﹁平和と開発﹂という領域に関連 する研究を行うことである。具体 的には、紛争影響国の国家建設と SSR ︵治安部門改革︶の関係に ついての研究プロジェクト、そし てアフリカにおける紛争予防に関 する研究プロジェクトに参加し 、 前者ではルワンダとコンゴ民主共 和国に関する事例研究、後者では ルワンダとブルンディの比較研究 を実施している。研究には、アジ 研と同じくアカデミックな水準が 求められる。研究手法や進め方は 異なるものの、学術的な研究を行 うという点では、アジ研も J I C A研究所も変わらない。   なぜ J I C Aが研究所を持ち 、 アカデミックな研究を実施するの だろうか。 アジ研の活動の根拠は、 組織の目的として﹁アジア地域等 の経済およびこれに関連する諸事 情について基礎的かつ総合的な調 査研究並びにその成果の普及を 行﹂うと定められている点にある ︵日本貿易振興機構法第三条︶ 。一 方 、 J I C A 研究所は 、﹁ 業務に 関連して必要な調査および研究を 行うこと﹂ ︵国際協力機構法第一 三条︶という設置法の条項を根拠 としている。つまり、 J I C A 研 究所は組織内研究所であって、 J IC A本体の活動に資することが 直接的な活動目的となる。その意 味で、そこでの研究と国際協力と の関係はよりストレートである。   なぜ J I C A研究所の研究がア カデミックでなければならないの か、むしろ日々の業務に直接役立 つプラクティカルな調査を実施す べきではないのか。この問いに対 する回答は多様であり得るが、私 が最も重要だと考えるのは、国際 環境の変化によって引き起こされ た要請である。冷戦終結に伴って 援助を取り巻く国際的な状況が変 わり、それが開発援助実施機関に おけるアカデミックな研究への要 請を高めた 。 J IC Aがアカデ ミックな研究機関を内部に設置し たことには、国際環境の変化に即 した歴史的な必然性があると私は 考えている。

DAC︱INCAF で の 議論   この国際的潮流は、例えば OE CD ︱ D A C︵経済協力開発機構 ・ 開発委員会︶の議論を見ていると よくわかる。 D A C は、先進国の 援助政策を議論する場であり、そ の帰趨は各国レベルの政策に影響 する。 D A C には、 INC A F︵ ﹁紛 争と脆弱性に関する国際ネット ワーク﹂ ︶という名称の下部組織 があり、紛争経験国や脆弱国家へ

ICA

研究所

経済研究所

︱出向先

えたこと

第Ⅰ 部 研究者と国際協力

(3)

JICA 研究所とアジア経済研究所

―出向先で考えたこと の援助政策について様々な角度か ら議論している。私は、昨年七月 INC A F の会議に出席する機会 を与えられ、それ以降も議論をあ る程度フォローしてきた。   INC A F で は 、﹁平和構築 ・ 国家建設・安全保障﹂ 、﹁脆弱国へ の資金協力﹂といった重要な課題 に関してタスクチームが置かれて いる。そこでは、年数回の会合で あるべき政策について議論し、各 種の文書がまとめられていく。こ うした作業では通常、まず資料的 性格のバックグラウンド ・ペー パーが示され、会合で議論がなさ れる。それを踏まえて草案が執筆 され、草案を叩き台として文書が 練られる。   文書の中には、 D A C の政策的 方向性を示す原則やガイドライン もあれば、 単なる報告書もあるが、 いかなる文書にせよ議論の過程で 草案がメンバー国に送付され、コ メントを求められる。その頻度は 相当に多い。 J I C Aや外務省で は、本部や在外の担当部局がこう した草案を読み、必要に応じてコ メントを返す。大部のペーパーを 迅速に読み、的確なコメントを返 すには、知力とともにかなりの体 力が必要だ。   D A C の議論では、アカデミッ クなインプットが大きな役割を果 たしている。二〇一〇年三月に刊 行された脆弱状況における国家の 正当性に関する報告書︵参考文献 ③︶を例に説明しよう。この報告 書は 、 I NC A F の ﹁平和構築 ・ 国家建設・安全保障﹂タスクチー ムがとりまとめたものだが、二〇 〇八年末から二〇〇九年の初めに 提出された二つのバックグラウン ド・ペーパー︵参考文献①②︶か ら議論が始まっている。これらは いずれも INC A F のメンバー国 が委嘱した成果物だが、著名な研 究者の手による学術的な内容のも のである。それらを統合する形で 草案が二〇〇九年八月に示され た。この草案は、タスクチームの 共同議長を務める DFID ︵英国 国際開発省︶と世界銀行の担当者 の名前でまとめられたもので、関 係各所に電子メールで送付され 、 コメントが求められた。 その後も、 何度かの会議での議論やメールで のコメント受付けを経て、報告書 の刊行に至った。報告書の謝辞を 読むと、メンバー国に加えて、研 究者からの指摘にも配慮した様子 がうかがえる。

●援助機関

学術研究

  D A C の議論をフォローしてい ると、アカデミックな知が政策形 成の前提となり、そこに深く関与 している現実が見えてくる。報告 書のバックグラウンド・ペーパー は、二本とも関連する研究成果を 的確に踏まえた高水準のものであ る 。 国 家 と 正 当 性 ︵ leg it imacy ︶ の関係は、いうまでもなく政治学 や社会学の中心課題の一つであ り、ウエーバーをはじめ膨大な研 究蓄積がある。これを平和構築や 脆弱国家という文脈で捉え直し 、 新 家 産 制︵ neo-patrimonialism ︶ をめぐる議論など近年の学術研究 を踏まえて再検討した内容であっ た。   ここには、アカデミック・サー クルと援助実務担当者との協働関 係を観察することができる。援助 実務の中で練り上げられた問題意 識がアカデミック・サークルに投 げかけられ、それに対して既存の 研究蓄積に立脚した答えがバック グラウンド・ペーパーとして提示 される。ペーパー自体は、学術論 文と違って、新しい主張をする類 のものではない。実務者からの問 いを受けて、アカデミックな立場 から何が言えるのかを論じたもの である。 実務者は、 提出されたバッ クグラウンド ・ ペーパーを咀嚼し、 自分たちの問題意識に対応させて 報告書の草案を作る。そこに実務 者、研究者から出された多種多様 なコメントを組み込んで、報告書 が完成するのである。   援助国の集まりである D A C の 議論は、当然ながら援助の実践面 に力点が置かれている 。つまり 、 ﹁どうすればよいのか ? ﹂という 問いが基本にある。しかし、そこ では対処すべき現象の原因究明 が 、議論の出発点になっている 。 換言すれば 、﹁どうなっているの か?﹂ 、﹁なぜそんなことが起こる のか?﹂という問いに対する答え である。私が出席した INC A F の会議でも、 DFID のメンバー などが、口癖のように﹁エビデン スに立脚した ︵ evidence based ︶ ﹂ 議論の必要性を主張していた。ア カデミックな証拠なくして議論し ても、説得力は持ち得ない。相手 を説得するために、学術的な背景 は必要不可欠と認識されている。   実務家と研究者の協働関係の背 景には、 D A C における激しい競 争︱援助政策をめぐる競争︱があ る。 D A C は、メンバー国が自ら の政策の妥当性についての主張を

(4)

D A C の議論に牽 ﹁アクラ ︵ 二〇〇八年︶といっ OD Aに 。 O D A は 、 国際的な公共財として、 OD Aに 保障政策に従属する状況が失わ れ、いわゆる戦略援助の必要性が 薄れたことを指摘できる。援助が 開発に役立たなくても、発展途上 国の政権担当者を惹きつける﹁ア メ﹂であればよかった時代は終焉 したのである 。こうした文脈で 、 援助政策をめぐる競争は激化し 、 OD Aへの監視圧力強化は世界共 通の現象となっている。   つまるところ、国際環境の変化 を受けて、援助政策をめぐる実践 と学術研究との関係が再定義され たわけである。各国の援助実施機 関は、政策の正当性を国の内外で 説 明 する必 要 に迫 られ 、 ア カ デ ミ ッ クな裏付けを求めるように なった。 J I C A研究所は、こう した流れの中で設立されたのであ る。

どうな

すれば

のか

  私はもともと、援助政策を専門 に研究してきたわけではない。ア ジ研での私の担当地域は、中部ア フリカフランス語圏諸国という 、 ある意味で日本と最も﹁関係がな い﹂国々であった。その地域を対 象として私が研究してきたテーマ は、当初は食糧作物の生産と流通 であり、ここ一〇年強は紛争問題 であった。人々が何を食べている か、 それがどこで作られ、 どうやっ て町に運ばれるか、あるいは、な ぜ人々が紛争へと動員されるの か、どうして民族対立が起こるの か、紛争の後で人々はどんなふう に暮らしているのか⋮。研究テー マは食糧作物から紛争問題へとシ フトしたが、 考えてきたのは、 ﹁ど うなっているのか?﹂ 、﹁なぜそん なことが起こるのか?﹂という問 いへの答えであった。   ﹁どうすればよいのか ? ﹂、 ﹁ ど んな政策を打つべきなのか?﹂と いう問いに関心がなかったわけで はない。しかし、 そうした問いは、 自分にとってあまりに難しく思え た。ある問題がどういうメカニズ ムで発生するのかを解明すること と、それを改善・解決する方策を 提言することとは、深く関係して いるとはいえ研究上は別のテーマ である。問題発生のメカニズム解 明だけで精一杯で、実践的課題に 取り組む余裕はなかなか持てな かった。   政策のツールに関する知識の欠 如も 、﹁どうすべきか ? ﹂という 実践的、政策的研究に踏み出せな かった大きな理由である。意味の ある政策提言を行うためには、ど のような政策手段があるのか、そ こにどんなメリットや制約がある のか、といった実践に関わる知識 が必要である。私は、中部アフリ カ諸国の政治経済に関する専門知 識はあっても、日本なり国際社会 なりが政策的関与のために有する ツールや、それを利用する際の制 約については、何も知らないに等 しかった。   基礎研究機関であるアジ研で は、政策に関心があっても、具体 的知識を獲得することはなかなか 難しい。政策に関する知において は、政策文書の内容以上に、それ を生み出す制度や人間に関する知 識が重要な意味を持つからであ る。この点、実務機関の内部にあ る J IC A研究所は、政策に関す る知を探究するために有利な位置 にある。   武力紛争が勃発したとき、国際 社会は様々な形で関与する。和平 交渉の仲介、 平和維持部隊の派遣、 多国籍軍の派遣、 DDR ︵武装解 除 ・ 動員解除 ・ 再 統合︶ 、SSR ︵治 安部門改革︶ 、選挙支援 、行財政 改革、 移行期正義、 経済復興など、 活動の種類は多く、関連する業務 の範囲は膨大である。 J I C A が

(5)

JICA 研究所とアジア経済研究所

―出向先で考えたこと 実施する政府開発援助はその一部 に過ぎないが、それでも前記諸活 動の多くに関わり、業務内容は多 岐にわたる。それぞれのイシュー に関して、どんな援助スキームが 用いられてきたか、そこにどんな 長所と短所があるのか、日本はど のような立場を取ってきたのかな ど、政策提言の前提として知って おかねばならないことは多いが 、 J I C A研究所ではこうした情報 は比較的簡単に入手できる。 J I C A事業は政策に直接関わるた め、 関連情報はきわめて豊富だし、 その道のプロから経験を聞けるか らである。こうした情報を消化し て研究成果にまとめるのは、無論 容易なことではないが 、自分に とって非常によい勉強の機会に なっている。

●JICA研究所

研の強

  フル出向の形で勤務して一年余 が過ぎたが、予想通り、実践に関 わる知識を習得し、消化すること は 容 易 で は な い 。﹁ ど う す べ き か?﹂という問いに答えることに は依然として苦労している。 ただ、 J I C A研究所では、同僚の実務 家から多くを学ぶことができる 。 彼らと意見交換をする中で意味の ある政策提言ができるかも知れな い、 という期待は持っている。 ﹁ど うすべきか ? ﹂という問いに向 かって、アカデミックな知識と実 践的な知識を練り合わせていくこ とが、 J I C A研究所の強みであ り、役割なのだと思う。   一方 、アジ研の強みは 、﹁ なぜ そんなことが起こるのか?﹂とい う問いにしっかり答えることにあ る。重要なのは、ある現象が起こ るメカニズムを解明し、それを高 度な学術レベルで ︵具体的には 、 国際的な水準で︶発信することで ある 。﹁なぜ起こるのか ? ﹂とい う 問 い の 答 え は 、﹁ ど う す べ き か?﹂という問いの答えに直接つ ながることも、つながらないこと もある。無理に ﹁どうすべきか?﹂ に答える必要はない 。﹁なぜ起こ るのか?﹂という問いに対してき ちんとした答えが提示できれば 、 それだけで政策担当者にとって重 要なインプットになるだろう。   アカデミックな研究に対する実 務機関からの需要は、様々なレベ ルで拡大している。エビデンスに 基づく提言を行うことはもちろん 重要だが、政策が働きかける対象 に関して、学術的な分析を加える ことも政策形成にとって重要であ る。脆弱国家にどのような政策を 取るべきかという問いもあれば 、 脆弱国家が生成するメカニズムは 何か、あるいは武力紛争の要因は 何かという問いもある。今日の政 策担当者や実務機関にとっては 、 双方の答えが﹁役に立つ﹂のであ る。   結局のところ、アジ研に求めら れているのは、高い水準の学術研 究を提供すること、そしてそれが 政策との関係でどのような意味を 持つのかを説明することである 。 そのために、学術研究を究める一 方で、政策担当者との対話を厭う べきではない 。アカデミックな バックグラウンド・ペーパーを書 いてくれという注文にきちんと応 じられるよう研究力を磨いておく ことが、アジ研の今後のために大 切だと思う。 ︵たけうち   しんいち/ J I C A 研 究所︶ ︽参考文献︾ ① Clements, K evin “ T radit ional, Charismat ic and Grounded Leg it imacy ” (Nov ember 2008, backg round paper commissioned by the Gov

ernment of the Federal

Republic of German y). ② Darbon, Dominique, Sev erine Bellina, Stein Sundstol Eriksen and Ole Jacob Sending “ The Leg it imacy of the State in Frag ile Situat ions ” ( January 2009, backg round paper commissioned by the Gov ernments of France and Norway) ③ O ECD-D A C (2010) ' , P aris.

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