• 検索結果がありません。

特集にあたって (特集 本の森への道案内)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "特集にあたって (特集 本の森への道案内)"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

特集にあたって (特集 本の森への道案内)

著者

湊 一樹

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

巻

240

ページ

2-3

発行年

2015-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003106

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.240(2015. 10)  

2

彼女の著書が名のある文学賞を立 て続けに受賞していることに加え て、読書好きの人たちの間でも高 い人気を誇っていることからも、 この点は明らかである。   では、これほどの神業的な芸当 が、なぜ可能だったのだろうか。 その最大の要因は、彼女がそれま でに尋常ならざる量の読書をして いたことにあるのではないだろう か。実際、米原万里の書いたもの を読むと、最も重要な「幹」の部 分は、膨大な読書から得られた確 固とした知識に裏打ちされている ことがよくわかる。その一方で、 思わず笑ってしまうようなエピソ ード(例えば、同時通訳の内幕や 自身の失敗談)やどぎつい下ネタ ( 例 え ば、 参 考 文 献 ② の 二 七 二 ~ 五ページ)といった目が行きがち な 部 分 と い う の は、 あ く ま で も 「枝葉」にすぎないのである。 ● 華 麗 な る ( ? ) 転 身 と 読 書   日本を代表するロシア語同時通 訳者として活躍するかたわら、作 家としても高い評価を受けていた 米原万里がこの世を去ったのは、 二〇〇六年五月のことであった。 作家デビューが四〇代半ばと比較 的遅かったうえに、二年半に及ぶ ガンとの闘病の末に五六歳という 若さで亡くなったこともあり、米 原が本格的に著述活動に取り組ん だ期間は、ほんの一〇年余りにす ぎなかった。   しかし、この短い間に生み出さ れた作品の数は驚くほど多く、軽 妙洒脱なエッセイ(例えば、参考 文献①~③)から自伝的要素を巧 みに取り入れたノンフィクション ( 参 考 文 献 ④ ) や 長 編 小 説( 参 考 文献⑤)に至るまで、その内容も 実に幅広い。そしてさらに、質の 高さもしっかりとともなっている。   おそらく、作品のなかに笑いの 要素をふんだんに盛り込でいるの は、単なるサービス精神からだけ ではないだろう。むしろ、学術論 文を書くように生真面目に筆を進 めてしまいがちな自身の性格や読 書によって培われた溢れんばかり の教養と知性をカモフラージュす るためなのではないだろうか。こ の見立てが当たっているかどうか は定かではないが、たいしたこと のない内容を高尚にみせようとす る書き手がたくさんいる(研究者 にもこういう手合いが実に多い) なかで、あえてその逆を行きなが ら、知的刺激に満ちた作品を書き 続けることのできた米原万里とい う作家が稀有な存在であったのは 確かである。 ● ス タ ー リ ン も す な る … …   幼少期から思春期にかけて、彼 女が浴びるように読書をしていた ことを示す数々のエピソードにつ いては、本人のエッセイに譲ると して、読書に対する異常なまでの 情熱は、長じてからもまったく変 わることがなかったようである。 そのことを何よりもはっきりと物 語っているのが、作家としてデビ ューした直後から亡くなる直前ま での間に彼女が書いた全書評を収 録 し た、 『 打 ち の め さ れ る よ う な す ご い 本 』( 参 考 文 献 ⑥ ) と 題 す る書評集である。   六〇〇ページ近くあるこの分厚 い本からは、読書人としての米原 万里の「大食いぶり」と「雑食ぶ り」を知ることができるだけでな く(ちなみに、実際の食事につい ても、彼女の食欲と食べるスピー ド は 凄 ま じ か っ た と か )、 む し ろ そ れ 以 上 に、 「 労 多 く し て 益 少 な し」の典型ともいえる書評の執筆 という仕事を心から楽しんでいた 様子がひしひしと伝わってくる。 彼女の手による書評を読んでいる うちに、紹介されている本を実際 に読んでみたくなったとしても、 何の不思議でもない。   最初で最後となったこの書評集 の巻末に収められている「文庫版 のための解説」のなかで作家の丸

●

特

 

●

集

本の森への道案内

 

特

集

に

あ

た

っ

て

湊

  一樹

[インド政治経済]

(3)

3

  アジ研ワールド・トレンド No.240(2015. 10) 谷才一は、派手好みの彼らしい表 現で、米原万里の本好きぶりを次 のように賞賛している。   「 何 し ろ 彼 女 は、 ス タ ー リ ン を き び し く 弾 劾 し た あ と で、 彼 が 『 激 務 の 合 間 に 一 日 五 百 頁 を 読 破 する読書家』であつたと書きつけ、 ほんのすこし、しぶしぶ、好意を 寄せるくらゐの読書人だつた。自 分と同じやうに本好きだと知ると 黙つてはゐられないのだ。いい人 ですね。かういふ人のいい感じも 私は好きだ。 」(参考文献⑥、五七 〇ページ) ● 本 の 森 へ の 道 案 内   丸谷は、この引用部分よりも少 し前の所で、書評家として米原が 優れている点を三つ挙げ、特に最 後の点を一段と強調している。   「 第 三 に、 一 冊 の 本 を 相 手 ど る のではなく、本の世界と取り組ん でゐる。   本といふのは単独の存在ではな い。何冊も何十冊も、いや、何万 冊も何十万冊もの本が群れをなし て宇宙を形成してゐる。たとへば 夏目漱石の『三四郎』なら、ヨー ロッパの教養小説の伝統(ゲーテ の『ウィルヘルム・マイスター』 とかフローベールの『感情教育』 とか)があつて、漱石がそれに親 しんでゐるから書くことができた。 その『三四郎』を読んで森鷗外が 刺 戟 さ れ て『 青 年 』 を 書 い た。 『 三 四 郎 』 や『 青 年 』 の せ い で 出 来た日本人作家の作品はあまりに も多くて、ここにあげきれない。 ( 中 略 ) 書 評 家 は 本 の 世 界 と 向 ひ 合ひ、この一大星雲とつきあはな ければならぬ。   米原万里はさういふ資格をきれ いにそして充分に持合せてゐる人 だつた。 」(参考文献⑥、五六八~ 九ページ)   本の世界というものがどのよう にして形成されているのかをとて もわかりやすく説明した一文であ る。この引用文のなかで、丸谷は 本の世界を「宇宙」や「星雲」に 例えているが、この特集では、あ えて本の世界を「森」に例えてみ ることにした。整備された遊歩道 に沿って着実に進んでいく(体系 的に読書をする)のもよいし、そ こから少し外れて、道なき道を自 ら切り開いていく(興味の赴くま まに濫読する)のもよいように、 森での散策(読書)には、人それ ぞれのいろいろな楽しみ方がある と思うからである。   「 森 」 と い う 表 現 に こ だ わ る の には、もうひとつ理由がある。薄 暗くて、静かで、ひんやりとして いて、書架に所狭しと本が並んで いる図書館のなかを歩いていると、 時として、鬱蒼とした森のなかに いるかのような錯覚に陥ることが あるからである。 *   *   *   今回の特集では、二〇名の選り すぐりの執筆者の方々に、大きな 影響を受けた本、お気に入りの本、 お薦めの本などを自由に挙げても らっている。実際に読んでいただ ければおわかりのとおり、期待に 違わぬ素晴らしい内容の書評が並 んでいる。みなさんの今後の読書 の指針として、是非ともご活用い ただきたい。   なお、専門分野、男女比(女性 八 名、 男 性 一 二 名 )、 所 属 先( 外 部 か ら 八 名、 ア ジ 研 内 か ら 一 二 名)などの面で大きな偏りが出な いよう執筆者の人選を行ったこと も影響しているのか、結果的には、 実に多種多様な本が紹介されてい る。また、執筆者間の調整などは 一切行っていないが、同じ本が複 数の執筆者によって取り上げられ ることもなかったという点を一言 付け加えておきたい。   最後に、みなさんの「本の森」 での散策に今回の特集が少しでも お役に立つことができれば、特集 の取りまとめ役として、これ以上 の喜びはない。   それでは、お気を付けて! ( み な と   か ず き / ア ジ ア 経 済 研 究所   南アジア研究グループ) 《参考文献》 ① 米原万里『不実な美女か貞淑な 醜 ブ 女 ス か』新潮文庫、一九九七年。 ② ―――『魔女の一ダース――正 義と常識に冷や水を浴びせる一 三章――』 新潮文庫、 二〇〇〇年。 ③ ――― 『ガセネッタ&シモネッ タ』文春文庫、二〇〇三年。 ④ ――― 『嘘つきアーニャの真っ 赤な真実』角川文庫、二〇〇四 年。 ⑤ ――― 『オリガ・モリソヴナの 反語法』集英社文庫、二〇〇五 年。 ⑥ ――― 『打ちのめされるような すごい本』文春文庫、二〇〇九 年。

参照

関連したドキュメント

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所/Institute of Developing Economies (IDE‑JETRO) .

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

国際図書館連盟の障害者の情報アクセスに関する取

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

21 世紀は中国の時代になる。投資家のジム・ロジャーズが自著 A Bull in China でこう強調したのは 2007 年のことであった。それから

〇七年版では︑農村部︑農民︑農 村雇用︑ 教育︑ 保健︑

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.