水産業と情報処理:5.スマート水産データベースへの期待 -データ連携が実現する持続可能な水産業-
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(2) り,物流の制約があったりと,そう簡単な問題ではない.. 入事例も複数紹介されている.しかしながら,いずれ. ここ数年,水産関係者へのインタビューを繰り返すこと. の事例も独自にシステムが構築されており,異なるシ. で見えてきたことは,水産業においては生産と流通が. ステム間でのデータ連携は図られていない.漁業では,. 独立しており,驚くほどに情報が共有されていないとい. 30 年を超える経験があれば熟練の漁業者と呼ばれる.. うことである.. しかしながら,1 年を 1 つのサイクルと考えた場合には,. Capture に分類される漁業と,Culture に分類され. 熟練の漁業者であってもわずか 30 回の経験しか積ん. る養殖業を比較すると,世界では 1990 年頃から漁業. でいないことになる.また,水産資源の減少や海洋環. 生産量が飽和状態となっており,2013 年以降,養殖業. 境の変化に順応し持続可能な水産業を実践していくた. 生産量が漁業生産量を上回っている.一方,日本は. めには,経験に基づく感覚的な指標に加えて,データ. 漁業・養殖業生産量のうち約 4 分の 3 が漁業生産となっ. に基づく科学的な指標が不可欠になることから,地域. ている.自然を相手にしている以上,生産は少なから. や組織の枠を越えたデータ連携によるビッグデータの. ず不安定であり,また,漁業は養殖業に比べてさらに. 生成に取り組む必要がある.図 -2 は水産白書に掲載さ. 不安定となる傾向が強い.そのため,不安定な生産が. れているスマート水産業のイメージ図である.スマート. 不安定な流通を連鎖する構図となっている.日本の漁. 水産データベース(仮称)を公共のプラットフォームとし. 業生産量は 1984 年以降,減少傾向にあり,現時点. て整備することでデータ連携が実現しており,生産と. においては増加に転じる要素が見当たらないことから,. 流通が融合した新しい水産業が描かれている.. 水産業の持続性のためには生産と流通の融合による. 一方で,現実に目を向けると,プラットフォームを整. 無駄の削減が現実的な解法になる.水産関係者への. 備することとデータ連携が促進すること,言い換える. インタビューでは,少なくとも明日の水揚げが事前に分. と,仕組みを作ることと仕組みが機能することは必ず. かれば,生産が不安定であっても,生産と流通の各過. しも一致しない.特に,漁場形成の可視化や資源管理. 程において無駄の削減に取り組めることが分かった.. のためには漁船の位置情報と漁獲情報が必要となるが, 多くの場合これらの情報は漁業者にとって秘匿性の高. スマート水産データベース. い情報であり,部会などの限定された枠を越えた共有. 2018 年 5 月に閣議決定された水産白書では, 「ICT. タ連携を促進するための工夫が求められる.. の活用」が特集されており,簡易型海洋観測ブイの導. 漁船の位置情報や漁獲情報に比べて,海水温など. はなされていない.そのため,仕組みを機能させ,デー. の環境情報は秘匿性が低い情報である.筆者らの開 発したユビキタスブイが広く利用されている理由は大き く 2 つある.1 つは小型安価であること.もう1 つはサー. 50,000 生産量(トン). イカ. 40,000. スケトウダラ ホッケ. 30,000 20,000. 20. 0 20 3年 0 20 4年 0 20 5年 0 20 6年 0 20 7年 0 20 8年 0 20 9年 1 20 0年 11 20 年 1 20 2年 1 20 3年 1 20 4年 1 20 5年 1 20 6年 17 年. 0. ■図 -1 函館市における魚種別漁獲量の推移. 敷居となるイニシャルコスト,ランニングコストの低減に. サケ. 寄与しているが,特に後者はサーバの管理から解放さ. イワシ. れるという意味においても利用を後押ししている.実. サバ. 10,000. バを無償提供していることである.いずれも,導入の. マグロ. 際に,漁業者はスマートフォンから直接ユビキタスブイ. ブリ. にアクセスしているという感覚を持っており,サーバの 存在が隠ぺいされている.これにより,漁業協同組合 などの組織だけではなく,個人の漁業者でも気軽にユ. 5. スマート水産データベースへの期待─データ連携が実現する持続可能な水産業─ 情報処理 Vol.60 No.3 Mar. 2019. 223.
(3) 特集. Special Feature. ビキタスブイを導入することができている.なお,サー. らの取り組みである「北 海道留萌市におけるナマコ. バの無償提供にあたり,筆者らは研究目的でデータを. の資源管理」をはじめ,タブレットの導入事例も複. 利用することに加えてデータを公開することを条件とし. 数 紹介されている.近年は漁労 機 器である魚群 探. ており,漁業者は自身が所有するユビキタスブイの海. 知機や航海機器である GPS に加えて,情報機器で. 水温だけではなく,ほかの漁業者が所有するユビキ. あるタブレットが漁具の 1 つとして定着している.タ. タスブイの海水温も活用している.たとえば,自身の. ブレットの使われ方は大きく 2 通りに分けることがで. 漁場の海水温が 20℃の場合でも,周りが 19℃なのか,. きる.1 つは僚 船 の 航 跡や漁 場の海水 温など,IoT. 21℃なのかによって 20℃の意味が違ってくるためである.. の活用により得られたデータの 参 照である. もう. このように,環境情報については情報の共有による効. 1 つは,漁獲量や給餌量など,履歴の蓄積を目的とし. 果を漁業者は認知しており,国の研究機関や,各都道. たデータの入力である.. 府県の水産試験場などが所有する環境情報とあわせて,. なかでも,定置網漁業はタブレットの活用が進んで. 早い段階でスマート水産データベースへの統合が進む. いる.筆者らは,ユビキタスブイのセンサを海水温セン. ものと考えられる.. サから超音波センサに置き換えたユビキタス魚探を開 発した.通常の魚群探知機は本体と画面が一体となっ. 第 3 の漁具. ているが,ユビキタス魚探は本体と画面が分離してお. 出漁中に「 向こうは潮が速いな」 と僚 船 の 航 跡. を画面として 24 時間リアルタイムで音響画像を参照す. から漁 場の状 態を把 握する, 休憩中に「 去年はブ. ることができる.これにより,漁業者は操業前夜に音. リが何トン獲れたかな?」と過去の水揚げを参照す. 響画像を確認し,翌日の操業計画を立てている.とこ. る,タブレットがなかった 10 年前には想像すること. ろで,水揚げした魚は漁業協同組合に出荷され,卸売. のできなかった光 景である. 水 産白書には, 筆 者. 業者,仲卸業者を通じて消費者に届く.漁業協同組. り,本体を定置網漁場に浮かべることで,タブレット. 漁業者・養殖業者. 公的機関・試験研究機関. 資源調査・管理の連携. ・ICT機器を活用した漁場・養殖 場の海況のセンシング ・生産データの迅速な蓄積・送信. デ. ー. タ. の. 漁業・海洋データの効 率的な取得による 資源評価の精度向上, 資源評価対象種の拡大. 蓄. 積. データの入手. 保有する公的データ の提供 資源量. 気象・海況. 統計. 積. の蓄. 漁場水温 漁獲量. 漁場位置. 操業回数. スマート水産データベース(仮称). 標準情報コード の検討. 漁場環境. 手 の 入 ー タ デ. データの入手. 漁場環境の見える化と 漁場探索の効率化. 水産エコラベル認証取得に必要な データの収集,効率的な出力. タ デー. デ ー タ の 蓄 積. 市場・加工・流通 水揚データのリアルタイ 保有するデータの提供 ムの把握,水揚・選別・ 需要量・種 単価 市場内処理の迅速化. 生産と加工・流通の連携 生産コスト. 224. 情報処理 Vol.60 No.3 Mar. 2019 特集 水産業と情報処理. 仕入れ 消費. ■図 -2 スマート水産業の イメージ図(水産 庁提供).
(4) 合には各漁業者の物理的なメールボックスがあり,出. 全国の定置網漁業の経営体数は 4,119 である.定置. 荷した魚の種類と規格,数量,単価,金額が記された. 網漁業はほかの漁業とは異なり漁場が移動しないこと. 鮮魚荷受証が毎日届けられる.いまでも,鮮魚荷受証. から,理想的な定点観測網となる.前述のように水揚. は手書きの紙が中心であり,1 年間分の鮮魚荷受証は. げデータは全国の漁業協同組合の基幹システムに蓄積. 100 ミリメートルのパイプ式ファイル 1 冊に相当する.そ. されており,定置網漁業の水揚げデータがスマート水. のため,過去の水揚げの参照はきわめて労力を要する. 産データベースと連携すれば,アメダスでの気温や降. 作業となる.定置網漁業では 1 年を通じて多種多様な. 水量の可視化と同様に,魚種や漁獲量を可視化するこ. 魚が水揚げされるが,近年は各魚種の漁獲時期や漁. とができる.. 獲量の年変動が大きくなっており,過去の水揚げを参. スマート水産データベースによるデータ連携の目的は,. 照したいというニーズが高まっている.そこで,筆者ら. ビッグデータを生成することではなく,ビッグデータを. は漁業協同組合の基幹システムから夜間のバッチ処理. 活用することである.音響画像や写真を用いた魚種判. で鮮魚荷受証のデータを受け取り,タブレットで参照. 別,さらには,サクラの開花予想の等期日線図に相当. することのできるシステムを構築した(図 -3) .本棚を. するイカやブリの回遊予想の等期日線図など,情報処. 埋める数 10 冊のパイプ式ファイルが数ミリメートルのタ. 理の専門家にはデータ処理の自動化や水揚げの予測に. ブレット 1 台に置き換わり,検索機能やグラフ表示機. ついての研究と,研究成果の社会実装が期待されてい. 能により簡単に過去の水揚げを参照できるようになっ. る.予測の精度が向上し明日の水揚げが事前に分かる. た.定置網漁業では,明日の操業計画にはユビキタス. ようになれば,生産と流通の各過程における無駄の削. 魚探の音響画像が,向こう 1 週間の操業計画には過. 減が実現し,将来的には水揚げ前日に競が行われるよ. 去の水揚げが活用されている.. うになると考えている.. . 地域と組織の枠を越えたデータ連携を促進するた. 情報処理学会への期待. めには,データの共有による具体的な効果を示す必. 気象庁のアメダスの観測所数は 1,329 である.これ. セスするための API や機械学習のためのデータセット. に対し,農林水産省の 2013 年漁業センサスによると. を提供することにより,情報処理の専門家が研究に. 要がある.筆者は,スマート水産データベースにアク. 着手しやすい環境を整備することが不可欠であると建 言してきた.データ駆動型社会における持続可能な 水産業の実現に向けて,本会に対する社会的期待が 高まっている. (2018 年 11 月 12 日受付). ■和田雅昭(正会員) [email protected]. ■図 -3 タブレットでの過去の水揚げの参照. 北海道大学大学院水産科学研究科博士後期課程修了.博士(水産 科学).イカ釣りロボットのプログラマを経て,2005 年より現職. 情報化による持続可能な水産業に関する研究開発に従事.著書に「マ リン IT の出帆─舟に乗り海に出た研究者のお話」がある.. 5. スマート水産データベースへの期待─データ連携が実現する持続可能な水産業─ 情報処理 Vol.60 No.3 Mar. 2019. 225.
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