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学生による薬物乱用防止への取り組み

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宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第2号 2016年8月1日

学生による薬物乱用防止への取り組み

長谷川万由美

宇都宮大学教育学部

* 概要  地域福祉論の授業の中で、大学生による大学生を対象とした薬物乱用防止の取り組みを行政と連携して 行った。学生の発案により薬物乱用防止に関するメッセージを集めたビデオの作成および学生作成のちらし の配布に取り組んだ。作成したビデオやちらしの内容による啓発効果もあるが、それらを企画、実施する過 程における学生の学びや情報伝達にも意義があることがわかった。  キーワード:薬物乱用防止、地域福祉、コミュニティワーク

  長谷川万由美 *(HASEGAWA Mayumi): TITLE Keywords : 地域福祉、薬物乱用防止、コミュニ ティワーク  * 宇都宮大学教育学部(Utsunomiya Universiry, Department of Education) (連絡先:mayumit@cc.utsunomiya-u.ac.jp) 1.大学生に対する薬物乱用対策の現状  内閣府の薬物乱用対策推進会議は、2013年8月に、 第四次薬物乱用防止五か年戦略(以下「五か年戦略」 という。)を策定し、その中で「青少年、家庭及び 地域社会に対する啓発強化と規範意識向上による薬 物乱用未然防止の推進」を目標の一つに掲げている。 また、2014年7月には、危険ドラッグの乱用根絶の ための緊急対策を策定し、危険ドラッグの実態把握 の徹底と啓発強化等について推進している。  大学生に対しては前述の五か年戦略の中で「大学 等の学生に対する薬物乱用防止のため、大学等に対 し入学時のガイダンスの活用を促すとともに、その 際に活用できる啓発資料を作成するなど、啓発の強 化を図る」ことが盛り込まれており、2016年3月に は文部科学省、厚生労働省、警察庁、内閣府の連携 により、新たに大学生等を対象とした薬物乱用防止 のための啓発用パンフレット「薬物のない学生生活 のために∼薬物の危険は意外なほど身近に迫ってい ます∼」が作成された。  関西、関西学院、同志社、立命館の4大学が2015 年4月の新入生を対象として実施した調査結果によ れば、回答者の5.7%が薬物使用の現場を直接見た経 験があると回答し、薬物の入手については、6割の 学生が「少々苦労するが、何とか手に入る」または 「簡単に手に入る」と回答している(注1)。本学で も2013年に全学生に調査したところ、「薬物を身近 なものとして考えたことはない」という回答がほと んどであったが、「違法薬物を勧められたことがあ る」(1.4%、学内で0.2%)、「違法薬物を使用してい るという話を聞いたことがある」(3.0%、学内で0.2%) という結果となっている(注2)。このように大学生 にとって薬物乱用は全く縁がない世界ではなく、身 近な問題として考えていく必要があると思われる。 2.大学生を対象とした薬物乱用防止策の検討  パンフレットなどの配布を通した不特定多数を対 象とした薬物乱用防止活動は、学生に効率よく情 報を伝えるという点では必要な活動だが、学生一人 ひとりが薬物問題を自分のことと考え、乱用防止に 向けて行動することにはつながりにくい。小中高ま でのようにすべての児童・生徒に対して学級や学年 を通して授業の中で取り扱うということも大学では 難しいため、とりあげられても新入学生のオリエン テーションの一コマで終わってしまうことがほとん どではないだろうか。  このような問題意識から、宇都宮市保健所の協力 を得て学生が自ら乱用防止活動に取り組むための授 業を地域福祉論の中で展開した。

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3.大学生による薬物乱用防止取り組みに向けた授 業の展開 (1)「地域福祉論」での取り組みの検討  2015年4月に本学保健管理センター永井教授を通 じ、学生支援課へ宇都宮市で大学生が大学生を対象 とした薬物乱用防止キャンペーンを行いたいので協 力してほしいとの要請があった。学生支援課では学 生ボランティア支援室担当教員である筆者と相談の 上、筆者が担当する地域福祉論の中で、大学を一つ の地域(community)と考え、地域福祉論の中での コミュニティワークの実践として授業の中に位置づ けて、受講生に薬物乱用防止キャンペーンに取り組 んでもらうこととした。 (2)薬物乱用防止学生ボランティア養成講座の試行  6月に3回にわたり、薬物乱用防止学生ボランティ ア養成講座を想定して、地域福祉論の授業の中で以 下のような授業を実施した。 (3)学内での薬物乱用防止キャンペーンの実施  7月に入り、受講生38人を6グループに分け、各々 キャンペーン企画を立案し、各グループごとのプレ ゼンテーションに対する評価結果および前期内の実 施可能性を加味して2案に絞った。評価は「実行可 能性、波及性、切実性、内容のわかりやすさ、プレ ゼンテーションの進め方」の五項目で評価した。2 案を発案した学生が中心となって準備し、全受講生 が協力する形で「乱用防止メッセージビデオの作成」 と「スローガンの呼びかけとちらし配布」の2つの キャンペーンを実施することとした。 4.学生主体のキャンペーンの実施  次に、授業内で取り組んだキャンペーンの具体的 な内容について整理しておく。 (1)乱用防止メッセージビデオの作成  メッセージボードに乱用防止に向けたメッセージ を書いてもらったものを持っている写真を集め、そ れらをつないでビデオを作成した。  作成の手順としては、①学生が友人などに依頼し て、主旨を理解の上、薬物乱用防止についてのメッ セージを考えノートなどに書いてもらう、②その メッセージとともに写真を撮らせてもらう、③撮ら せて頂いた写真をつなげて薬物乱用防止を訴えるビ デオを作成するとした。受講生も含めた協力者は68 人にのぼった。  協力にあたっては、企画への協力の説明をしなが ら、学生から学生への薬物乱用防止に関する情報の 6/18 今回の取り組みに向けての事前学習 コミュニティワークとは何か(含む薬 物乱用防止キャンペーンの実例紹介、 政府作成ビデオ視聴、依存症等に関す る簡単な予備知識)担当 長谷川 6/25 学生ボランティア養成講座第一回 学生ボランティアの役割 担当 宇都 宮市保健所 7/2 学生ボランティア養成講座第二回 薬物のこわさのいろいろ(ゲスト・ スピーカー 警察、薬剤師、DARC) 表1 薬物乱用防止学生ボランティア養成講座 図1 協力者用ちらしでの薬物乱用に関する情報(注3)

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提供や啓発を行えるよう意図して、企画の趣旨を説 明するだけでなく、薬物乱用に関する情報を合わせ て掲載した協力依頼文書を用いた(図1参照)。  作成前には、同じようなメッセージばかりになっ てしまうのではないか、企画の意図が理解されず に協力者が少ないのではないかという心配があった が、実際には、様々なメッセージが様々なデザイン でまとめられており、非常にバラエティに富んだビ デオとなった(スライドの例について図2および図3、 メッセージについては表2を参照のこと)。 (2)ダメぜっ隊   薬物乱用防止のスローガンを掲げながら学生なら ではの視点を入れたちらしなどを生協の食堂などが 入っている建物(大学会館)前で配布した。  配布ちらしは、きれいに印刷されたものより、手 作り感があるものの方がかえって目をひきやすいの ではないか、文字が多いと読まれないのではないか という配慮から、図3 ∼ 5にあるように、手書きで 手作り感のあるちらしを作成し、最後に薬物乱用の 恐ろしさや身近な問題であることを伝えるグラフな どを掲載する内容とした。 図2 スライド作成例(1) 図3 スライド作成例(2) 表2 学生の考えたメッセージの例 図4 配布したパンフレットの表紙(左上)と 2 ∼ 5ページ目(右下) 図5 6 ∼ 7ページ目

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 実施当日は試験期間に入ってしまい、学生は思っ たほど多くなかったが、作成したちらしを配布した り、プラカードを持ちながら薬物乱用防止のスロー ガンを連呼したりしながら、薬物乱用防止のキャ ンペーンを実施した。注目を浴びやすいように大人 数で取り組んだが、学生からは「逆に大人数だと近 寄りがたい雰囲気が出てしまったので、自分から近 寄ろうと思える雰囲気や、配布されて受け取ろうと 思える方法をさらに考えていくべきだと実感した。」 などの反省も聞かれた。 (3)「地域福祉論」という授業での取り組み  今回は大学をコミュニティ =地域と見立てて、そ こでの課題が改善するようなコミュニティワークを 行う模擬的な実習という位置づけとして薬物乱用防 止に地域福祉論という授業の中で取り組んだ。その ため講義としては、コミュニティワークに必要な調 査技法、ボランティア活動とボランティアコーディ ネーションを学んだ上で、薬物乱用防止の取り組み についても企画立案、進行管理、役割分担を担うこ とを目的とした。このような準備と動機づけがあっ たために、短期間での企画と実施が可能になったと 思われる。また自分の大学=コミュニティという身 近な場を対象とすることで、学生たちの薬物乱用防 止に向けた関心もより一層高まった。 5.今後の課題  多くの大学で薬物乱用防止教育が行われている が、薬物乱用に関連する事件が自校で発生しななけ れば次第に簡便な方向に流され,薬物乱用防止教育 が形骸化していくことが懸念される(高橋・荒木田、 2013)。今回のような授業での取り組みを核として、 学生主体の薬物乱用防止に向けた活動は効果的な薬 物乱用防止教育の一つの方法と考えられる。  しかし、今後は、授業という枠を越えて、学内で の継続的な取り組みに発展させるにはどうしたらい いかということが課題として挙げられる。11月の本 学の大学祭、峰ヶ丘祭において、宇都宮市保健所と 薬物乱用防止のブースを設置し、ビデオを上映する とともに、授業で作成したちらしの配布も行ったが、 さらに継続していくためには、学生サークルなど自 主的に取り組むような学生の組織づくりも検討する 必要があるだろう。 謝辞 取り組みに際して宇都宮市保健所、宇都宮警 察、宇都宮市薬剤師会、NPO法人栃木DARC(Drug Addiction Rehabilitation Center)より多大なご協 力を頂きました。また、学内実施にあたって学生支 援課、永井保健管理センター所長、終章学センター 土崎研究員より協力を頂きました。ここに心よりの 謝意を表します。 注1 関西四大学学長(2015)より。 注2 平成25年度宇都宮大学学生生活実態調査報告 書より。 注3 イラスト・静岡県焼津警察署サイトより。 ( h t t p : / / w w w . p o l i c e . p r e f . s h i z u o k a . j p / k e i s a t u s h o / y a i z u / o s i r a s e / k e i j i / kikendoraggu2610.htm、平成28年3月30日確認) 参考文献 関西四大学学長(2015)『関西四大学「薬物に関す る意識調査」集計結果報告書』 高橋佐和子・荒木田美香子(2013)「大学における 薬物乱用防止教育の問題点とニーズ―大学担当 者を対象とした調査結果より―」『日健教誌』  第21巻第2号、115-124 平成28年 3月31日 受理 図6 大学会館前でのキャンペーンの様子

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