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中山間地域におけるマルチコプタによる防除作業の作業能率分析

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農作業研究(Japanese Journal of Farm Work Research)55(2):71∼77, 2020

中山間地域におけるマルチコプタによる防除作業の作業能率分析

孫 雯莉・奥野林太郎・高橋英博

農研機構西日本農業研究センター

Assessment of Pesticide Spray Operation Using a Multicopter in Hilly and Mountainous Areas Wenli SUN, Rintaro OKUNO and Hidehiro TAKAHASHI

Western Region Agricultural Research Center, NARO

 本研究では,広島県東広島市の集落営農法人が実施する防除作業を調査し,マルチコプタと従 来のブームスプレーヤによる防除作業を比較して,中山間地域におけるマルチコプタの活用効果 を明らかにした.具体的には,圃場面積による作業能率の変化を解明した.これとともに,マル チコプタでの資材の補給や圃場間移動などを含む作業全体の時間の計測結果から防除作業の流れ 図を作成し,実際にブームスプレーヤで作業した圃場群を対象に,マルチコプタで作業した場合 の時間を推定して比較した.その結果,マルチコプタによる防除ではブームスプレーヤと比較し て圃場作業量が約 3 倍大きかった.そして,ブームスプレーヤと比べ,マルチコプタの 1 ha あ たり圃場作業時間は圃場面積による影響が比較的小さかった.同一圃場群を対象とした比較では, マルチコプタによる作業時間はブームスプレーヤより 55%短縮できると推定された.マルチコ プタによる防除はブームスプレーヤに比べて単に作業能率が高いだけでなく,小面積の圃場でも 作業能率の低下抑制が見込める点において,中山間地域に適していると考えられる. キーワード:作業能率,中山間地域,防除作業,マルチコプタ

研究報文

2019年 6 月 19 日受付 2020年 2 月 14 日受理 Corresponding author 孫 雯莉 Wenli SUN 〒 721-8514 広島県福山市西深津町 6-12-1

6-12-1 Nishifukatsu-cho, Fukuyama-shi, Hiroshima, Japan E-mail : [email protected]

1.緒言

中山間地域の集落営農法人では傾斜地に立地し た小面積の多筆圃場で営農を行っており,土地が 集積されて経営面積が大きくなっても,大型機械 を用いた作業の効率化が進まない. 近年,農業分野で小型の無人航空機であるマル チコプタが農薬散布機として急速に普及しつつあ る.2018 年には日本国内で水稲を中心にマルチ コプタによる農薬散布面積が約 2.7 万 ha であり, 2016年の散布面積 684 ha の約 40 倍になっている (農林水産省 2019).また,農水省は,2022 年度 までに土地利用型作物や畑作,露地野菜などのマ ルチコプタによる農薬散布面積を延べ 100 万 ha に拡大するという数値目標を示している.今後, 小面積圃場や傾斜地などでのマルチコプタの利用 拡大も期待されている. マルチコプタによる農薬散布の防除効果につい ては,イネ出穂期の病害防除やダイズ紫斑病防除 で,空中散布機の主流である無人ヘリコプタと 同等との報告がある(高橋・藤井 2017,新山ら 2018,藤井ら 2018).また,その大きさや機動性 から中山間地域に適した機械といわれているが, その明確な根拠は示されていない. 本研究では,広島県東広島市の集落営農法人が 実施する防除作業を調査し,マルチコプタと従来 のブームスプレーヤによる防除作業を比較して, 中山間地域におけるマルチコプタの活用効果を明 らかにすることを目的とした.具体的には,まず マルチコプタとブームスプレーヤの圃場面積によ

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農作業研究 第 55 巻 第 2 号 る作業能率の変化を解析した.また,両者を 1 日 あたりの作業時間で比較した.この比較に際して は,それぞれの調査時の圃場の大きさや圃場の配 置が異なるため,実際にブームスプレーヤで作業 した圃場群を対象に,マルチコプタで作業した場 合の作業時間を推定して比較した.

2.材料および方法

1)調査対象地域 調査は広島県東広島市の農事組合法人 A,B で 実施した.A 法人ではマルチコプタによる農薬散 布作業の調査,B 法人ではブームスプレーヤによ る農薬散布作業の調査を行った. A法人,B 法人は共に,地区内の圃場が集積さ れているが,小面積多筆の圃場で生産を行う典型 的な中山間地域の経営体である.A 法人は,水稲 を中心に 28 ha の水張面積で生産を行っており, 平均的な圃場面積は約 0.2 ha である.2017 年 4 月より A 法人は水稲や麦での防除作業に対しマ ルチコプタによる農薬散布を始めている.B 法人 は,水稲を中心に 88 ha の水張面積で生産を行っ ており,平均的な圃場面積は約 0.1 ha である. 2)調査項目 一般に農業機械の作業能率は圃場作業量で示さ れる(農作業学会編 1999).圃場作業量 C(ha/h) は次式によって示される. C = AT (1) ここで,A は圃場面積(ha),T は圃場作業時 間(h)であり,実際の散布作業時間,旋回時間, 圃場内の移動時間からなる.本研究では,圃場作 業量をもってマルチコプタとブームスプレーヤの 作業能率を比較した. 1日の圃場作業量 Cd(ha/d)は次式で表される. Cd = C×Td×r×m (2) ここで,Td は 1 日の作業時間(h/d),r は実 作業率(圃場作業時間と作業全体の拘束時間の比 率),m は機械台数である. 作業全体の拘束時間には,圃場作業時間以外に, 圃場外の作業機運搬移動時間,資材補給時間,洗 浄作業時間および待機時間などがあり,これらの 項目も計測の対象とした.各項目の詳細を表 1 に 示す. 3)作業調査方法 マルチコプタの防除作業時間は,A 法人におい て 2017 年と 2018 年にそれぞれ 1 日の調査を行っ た.防除した圃場数は 2017 年が 25 筆,2018 年 が 28 筆であった.防除作業全体をビデオ撮影し, その映像から圃場作業時間,圃場外の作業機運搬 表 1  作業時間の分類 19 B ) 通 し 表 1 作 業 時 間 の 分 類 5 1 0 1 5 マルチコプタ ブームスプレーヤ プロペラ回転開始→散布開始→散布停 止→プロペラ回転停止 圃場に前輪軸中央が入る→散布 開始→散布停止→後輪軸中央が 圃場から出る 隣接圃場間移動:飛行状態で移動 長距離圃場間移動:トラックに機材積 込開始→次の圃場にトラックから機材 積み下ろし終了 マルチコプタのタンクとノズル,およ び薬液補給の時使用した容器の洗浄 ブームスプレーヤのタンクとノ ズル,軽トラックに載せたタン ク,ホースの洗浄 機材積卸終了→電池交換・薬液補給開 始,機材積卸終了→プロペラ回転開 始,プロペラ回転停止→電池交換・薬 液補給開始,プロペラ回転停止→機材 積込開始など 給水所到着→給水開始,給水終 了→移動開始,作業終了→帰途 につくなど 圃場外に後輪軸中央が出る→次 の圃場に前輪軸中央が入る 資材補充時間 電池交換・薬液と水補給開始→電池交換・薬液と水補給終了 洗浄作業時間 待機時間 圃場作業時間 圃場外移動時間 軽トラックに機材積 軽トラックから機材

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孫ら:中山間地域におけるマルチコプタによる防除作業の作業能率分析 移動時間,および電池交換・薬液と水補給時間な どを計測した.ブームスプレーヤによる防除作 業時間は,B 法人において 2018 年に 14 筆,2019 年に 20 筆の圃場を同様に計測した.なお B 法人 での 2018 年の調査圃場の面積は最大で 0.13 ha で あり,A 法人でのマルチコプタの作業圃場の面積 と比べて小さな圃場ばかりであった.このため, 2019年には平均面積約 0.16 ha となる B 法人とし ては大きめの圃場での防除作業を調査した.調査 圃場と作業員の詳細を表 2 に示す.マルチコプ タによる防除作業では,オペレータが 1 人と補助 員が 2 人の計 3 人の組作業であった.このとき 補助員 1 人は圃場端で飛行位置を指示し,もう 1 人は主として資材補給作業や電池の充電および軽 トラックの運転を行った.マルチコプタの電池は 11セット(1 セット 2 本)使用し,作業開始時に 満充電の状態にしておき,作業中も軽トラックの 荷台に積んだ発電機で充電を行うことで運用時間 を拡大していた.ブームスプレーヤによる防除作 業では,オペレータが 1 人と補助員が 1 人の計 2 人の組作業で,補助員は主として資材の運搬と補 給作業を担当した. 使用機材の詳細を表 3 に示す.マルチコプタの 散布幅は最大 4 m,防除時の設定は 2 年間とも飛 行速度が 15 km/h,農薬吐出量が 0.8 L/10 a であっ た.ブームスプレーヤの散布幅は最大 7.8 m,防 除時の設定は吐出量が 100 L/10 a,圃場内の走行 速度が 2∼3 km/h であった. 圃場外移動については,マルチコプタでは隣接 圃場へは飛行しながら移動し,長距離を移動する 場合には軽トラックに載せて移動した.ブームス プレーヤでは,いずれも自走により移動したが圃 場付近と一般道路の走行時で移動速度が異なるた め,距離が 100 m 以内の場合は隣接圃場間の移 動とし,100 m 以上の場合は長距離移動とした. また,圃場の形状や圃場外移動距離については, 現地の航空写真データや地図データを地理情報シ ステム QGIS(旧称 Quantum GIS,フリー・アン ド・オープンソース・ソフトウェア)に取り込み, QGISの機能を用いて圃場外移動距離,圃場長辺 短辺の計測や圃場面積の補正を行った. 4)同一圃場群でのブームスプレーヤの作業時間 との比較 マルチコプタとブームスプレーヤの作業時間 は,それぞれの調査時の圃場群の面積や配置が異 なるため単純に比較できない.このため,2018 年に B 法人においてブームスプレーヤで作業し た圃場 14 筆を対象に,マルチコプタで散布作業 した場合を想定して,格納庫出発から格納庫に戻 るまでの作業時間を推定した. 推定には,まず A 法人でのマルチコプタの防 除作業手順を基に作業の流れ図(図 1)を作成し た.次に,散布速度,作業幅,行程間の旋回時 間,短距離での圃場間移動時間,長距離移動速 度,資材補給時間,作業間の待機時間などについ て,2018 年の A 法人での調査結果を基に作業工 程ごとの作業時間や速度を各作業の平均値により 定めた.最後に,これらの数値を用い,前述の流 れ図に沿ってマルチコプタでの 1 日の作業を組 み立て,作業時間を推定した.なお,圃場作業時 表 2  分析対象の圃場と作業員の概況 20 A ) 一 段 表 2 分 析 対 象 の 圃 場 と 作 業 員 の 概 況 5 1 0 1 5 2017 2018 2018 2019 25 28 14 20 総面積 2. 39 4. 66 1. 00 3. 14 平均面積 0. 10 0. 17 0. 08 0. 16 最大値 0. 19 0. 27 0. 13 0. 24 最小値 0. 04 0. 04 0. 04 0. 04 作業員 オペレータ 1人 補助員 2人 オペレータ 1人補助員 1人 マルチコプタ ブームスプレーヤ 年次 圃場筆数 圃 場 面 積 (ha) 表 3  使用機材の仕様諸元 21 A ) 一 段 表 3 使 用 機 材 の 仕 様 諸 元 5 マルチコプタ ブームスプレーヤ 機種名 エンルート社 AC940-D 丸山製作所 BSA-500 寸法(mm) 全幅×全長× 全高 1005×880×503 2155×3965×2295 機体重量 (kg) 6 1060 タンク容量 (L) 5 500 散布幅 (m) 最大4 最大7.8 速度 (km/h) 10 ・ 15 ・ 20 移動走行時散布時 0~4 0~11 散布量 (L/10a) 0.8 100

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農作業研究 第 55 巻 第 2 号 間は作業対象圃場の面積・形状によって異なるの で,圃場別に求めた.まず,作業の行程数と旋回 回数は,圃場幅(短辺最大値)を作業幅で除し, 端数が生じる場合は切り上げることで求めた.次 に,各行程の散布時間は,QGIS を用いて圃場図 を基に各行程の長さを計測して,散布速度に乗じ ることで求めた.マルチコプタによる防除時の電 池交換回数に関係する一回当たりの飛行時間の上 限は,2018 年の実績を参考にして設定した.圃 場外移動時間については,2018 年に B 法人にお いてブームスプレーヤが実際に作業した時の移動 経路を利用し,マルチコプタ運搬時の移動速度を 基に計算した.

3.結果および考察

1)圃場作業量 圃場内の作業能率について,マルチコプタと ブームスプレーヤの圃場作業量の計測結果を表 4 に示す.2018年のマルチコプタの圃場作業量は2.4 ha / hであり,2017 年の 1.4 ha/h に比べ作業能率 が向上していた.これは A 法人がマルチコプタ による防除作業を始めたのが 2017 年からであり, 経験に基づく運用改善の結果と考えられる.具体 的には,圃場内散布作業は 2 年間で同じ速度で あったが,2017 年の旋回時間は平均 16 秒であっ たのに対し,2018 年では作業者の熟練により平 均 3 秒に短縮されたことが挙げられる.ブームス プレーヤの圃場作業量は,2018 年と 2019 年でそ れぞれ 0.7 ha/h,0.9 ha/h,旋回時間はそれぞれ 平均で 20 秒,29 秒であった.圃場作業量の大き い 2019 年で旋回時間が長いことから,2 年間の 圃場作業量の差異は圃場面積などの条件が要因と 考えられる.また,マルチコプタとブームスプレー ヤの圃場作業量を比較すると,2018 年のマルチ コプタの圃場作業量は 2018 年および 2019 年の ブームスプレーヤの約 3 倍であった.1 日の圃場 作業量で比べると,2018 年のマルチコプタの圃 場作業量は 2018 年のブームスプレーヤの 3.3 倍, 2019年のブームスプレーヤの 2.0 倍で,マルチコ プタの圃場内の作業能率が総じて高いという結果 であった. 各圃場の 1 ha あたり圃場作業時間と圃場の面 積の散布図を図 2 に示す.圃場毎のデータを見る と,ブームスプレーヤでの 2018 年各圃場の 1 ha あたり圃場作業時間は平均 1.49 h/ha であった. 表 4  作業能率 22 A ) 一 段 表 4 作 業 能 率 5 年次 2017 2018 2018 2019 面積(ha) 2.39 4.66 1.00 3.14 圃場作業時間(h) 1.72 1.90 1.47 3.66 圃場作業量(ha/h) 1.4 2.4 0.7 0.9 作業全体時間(h) 5.38 4.96 3.55 6.77 実作業率 0.3 0.4 0.4 0.5 1日の圃場作業量(ha/d) 3.6 7.5 2.3 3.8 注:1日の作業時間は8時間として1日の圃場作業量を計算した マルチコプタ ブームスプレーヤ 図 1  マルチコプタによる農薬散布作業の流れ 格納庫から出発 圃場での機材積卸終了 電池交換:薬 液補給を行う 電池交換:薬液補給 電池交換:薬液補給 隣接圃場を散布 機材積み込み開始 洗浄作業 終了 プロペラの回転開始 圃場内散布 プロペラ回転停止 連続して隣接 圃場を散布 電池交換:薬 液補給を行う 次の圃場へ移動

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孫ら:中山間地域におけるマルチコプタによる防除作業の作業能率分析 動時の平均速度では 1.2 倍と速かった.特に隣接 圃場移動の場合,マルチコプタは飛行状態で移動 するため,圃場間高低差があっても最短距離で迅 速に移動していた.  (2)電池交換・薬液と水補給 2018年のブームスプレーヤでは,全作業時間 中に薬液と水の補給を 3 回,オペレータと補助 員 1 人が共同で作業を行っていた.1 回目は給水 所でブームスプレーヤのタンク(500 L)に薬液 と水の補給で 396 秒を要した.ほかの 2 回は軽 トラックに載せた 300 L のタンクからブームスプ レーヤにポンプで水を補給し,同時に薬液の補給 も行った.2 回の作業はそれぞれ 210 秒,240 秒 を要した.ブームスプレーヤの散布面積あたりの 薬液と水補給時間は 0.23 h/ha であった. これに対して,2018 年のマルチコプタでは, 全作業時間中に電池交換・薬液補給を 22 回行っ ていた.この作業は基本的にオペレータと補助員 1人が行っていた.ただし,この 2 人は電池交換 と薬液補給をそれぞれ単独で作業する場合と,2 人が協力して作業する場合があった.単独で作業 する場合には,電池交換の時間は平均で 72 秒, 薬液補給の時間は平均で 96 秒であった.協力し て作業する場合,電池交換・薬液補給の時間は平 均で 102 秒であった.マルチコプタの散布面積あ たりの電池交換・薬液補給の時間は 0.13 h/ha で, ブームスプレーヤより短かった.  (3)洗浄作業 マルチコプタ,ブームスプレーヤともに,ノズ ルの目詰まりを防止する目的などの理由で,機械 の使用後には速やかに洗浄する必要がある.2018 年のマルチコプタによる散布作業後のタンク(5 L)とノズル,および薬液補給時用容器の洗浄作 業時間は 490 秒であった.2018 年のブームスプ 2019年は 2018 年より広い圃場が主で,各圃場の 1 haあたり圃場作業時間は平均 1.16 h/ha であり, 2年間各圃場の 1 ha あたり圃場作業時間は平均 1.30 h / haであった.マルチコプタでの 2018 年各 圃場の 1 ha あたり圃場作業時間は平均 0.42 h/ha で,ブームスプレーヤの 2 年間の平均値と比べ 32%と短かった.また,ブームスプレーヤでの 2 年間のデータを総じて見ると,面積が小さい圃場 では極端に作業能率が低下し,1 ha あたり圃場作 業時間は圃場面積が小さくなるに従い長くなる傾 向があり,両者の相関係数 R は –0.65 と 1%水準 で負の有意な相関が認められた.マルチコプタの 場合には,両者に有意な相関は認められなかった が,圃場面積が小さくなるに従い 1 ha あたりの 圃場作業時間が増加する傾向があった.しかし, 2017年と 2018 年のマルチコプタでのデータの 近似直線の係数はそれぞれ –1.80,–0.51 であり, ブームスプレーヤの係数 –3.35 に比べ圃場面積の 減少による 1 ha あたりの圃場作業時間の増加が 小さかった. 2)圃場外作業の比較  (1)圃場外移動 圃場外移動に関して,隣接圃場間の移動時間と 長距離移動時の平均速度を計測した結果を表 5 に 示す.マルチコプタはブームスプレーヤと比較し て,隣接圃場間の移動時間では 36%,長距離移 表 5  圃場外作業の比較 23 A ) 一 段 表 5 圃 場 外 作 業 の 比 較 5 1 0 1 5 マルチコプタ ブームスプレーヤ 年次 2018 2018 隣接圃場間移動時間(s) 14 39 長距離移動移動速度(m/s) 2.3 1.9 電池交換・薬液と水補給時 間/散布面積(h/ha) 0.13 0.23 洗浄作業時間(s) 490 3600 図 2  圃場別の 1 ha あたり圃場作業時間と圃場 面積の関係 圃場面積(ha) 1 ha あたり圃場作業時間( h/h a) 2018マルチコプタ 2018ブームスプレーヤ 2017マルチコプタ 2019ブームスプレーヤ 2018マルチコプタ 2018, 2019ブームスプレーヤ 2017マルチコプタ

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農作業研究 第 55 巻 第 2 号 レーヤの散布作業後のブームスプレーヤのタンク (500 L)とノズル,軽トラックに載せたタンク(300 L),ホースの洗浄作業時間が 3600 秒であり,マ ルチコプタの洗浄作業時間の約 7 倍であった. 3)同一圃場群でのブームスプレーヤの作業時間 との比較 マルチコプタの作業時間の推定に使用した係数 を表 6 に示す.推定に際して,マルチコプタの飛 行時間は 2018 年の実績の平均値 336 秒 / 回を参 考にして,360 秒 / 回以内に制限して,作業を組 み立てた. 作業時間の比較を図 3 に示す.対象圃場 14 筆 をマルチコプタで散布作業する場合の 1 日全作業 時間は 1.59 時間と推定された.ブームスプレー ヤでの実作業時間 3.55 時間と比較して 55%の短 縮が見込まれる.個別に作業時間をみると,待機 時間以外はマルチコプタの作業時間が短かった. 圃場作業時間はマルチコプタでは 0.54 時間で, ブームスプレーヤの 1.46 時間と比較して 63%の 短縮が見込まれる.マルチコプタで待機時間が長 いのは,電池交換・薬液補給や機材積み込み・積 み下ろしを頻繁に行う必要があるためと考えられ る.また,組み作業の人数を考慮すると,ブーム スプレーヤでは 2 人の作業時間の合計値は 7.10 人時,マルチコプタでは 3 人の作業時間の合計値 は 4.77 人時となり,マルチコプタはブームスプ レーヤに比べ 33%の作業時間の削減が見込まれ る.

4.おわりに

以上のように,マルチコプタによる防除では ブームスプレーヤと比較して圃場作業量が約 3 倍 大きいことが示された.1 ha あたり圃場作業時間 は,ブームスプレーヤでは圃場面積が小さくなる に従い顕著に長くなる傾向にあったが,マルチコ プタではその影響は比較的小さかった.圃場外の 作業時間についても,隣接圃場間の移動時間,圃 場間の長距離移動時の平均速度は,マルチコプタ の方が速かった.また,同一圃場群を対象にして ブームスプレーヤと推定したマルチコプタの作業 時間を比較した結果では,マルチコプタの作業時 間はブームスプレーヤより 55%の短縮が見込ま れ,組作業の人数を考慮した作業時間の合計値で もブームスプレーヤより 33%の短縮が見込まれ た.総じて,小面積の圃場ほど,圃場間の移動が 多いほど,作業能率の低下抑制がより見込める点 において,マルチコプタによる農薬散布作業は中 表 6  マルチコプタの作業時間の推定に利用した 諸数値 24 A ) 一 段 表 6 マ ル チ コ プ タ の 作 業 時 間 の 推 定 に 利 用 し た 諸 数 値 5 1 0 1 5 時間・速度 102 490 14 2.3 機材積卸終了→電池交換・薬液補給開始 18 機材積卸終了→プロペラ回転開始 90 電池交換・薬液補給終了→プロペラ回転開始 42 プロペラ回転開始→圃場内散布開始 27 圃場内散布停止→プロペラ回転停止 39 プロペラ回転停止→電池交換・薬液補給開始 14 電池交換・薬液補給終了→機材積込開始 8 プロペラ回転停止→機材積込開始 111 待 機 時 間 (s) 項目 電池交換・薬液と水補給(s) 洗浄作業(s) 隣接圃場移動(s) 長距離移動(m/s) 図 3  ブームスプレーヤとマルチコプタの作業時 間の比較 ブームスプレーヤの実際の 作業時間 マルチコプタの推定の 作業時間 洗浄作業時間 電池交換・薬液と水補給時間 待機時間 圃場作業時間 圃場外移動時間 時間(h)

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孫ら:中山間地域におけるマルチコプタによる防除作業の作業能率分析

Abstract

In this study, we investigated the pesticide spray operations of multicopter in hilly and mountainous areas of Hiroshima. By comparing the work efficiency of the multicopter and boom sprayer, we aim to explore the time benefits of utilizing the multicopter in hilly and mountainous areas. First, we studied how the work efficiency of multicopter and boom sprayer were affected by the size of the fields. Second, by modeling the workflow of the multicopter and calculating the time of each step in the workflow, we estimated the total time taken by the multicopter to perform the same activity in the same fields where the boom sprayer was used. By comparing the time consumptions, we had the following results: (1) work efficiency in the fields was approximately three times higher when using the multicopter compared with that of the boom sprayer. The work efficiency was lower in the smaller fields for both multicopter and boom sprayer, but the efficiency of the multicopter was relatively higher;(2) 55% less time was needed when using the multicopter compared with the boom sprayer. Based on the results of this study, pesticide spray operations by using the multicopter is more desirable in hilly and mountainous areas.

Key Words

hilly and mountainous areas, multicopter, pesticide spray operations, work efficiency

山間地域に適した防除作業法と考えられる.

謝辞

本研究の調査を協力していただいた法人の皆 様,ご指導・ご助言を頂きました皆様,一緒に調 査に行った皆様に,この場を借りて厚く御礼を申 し上げる.本研究は生研支援センター「革新的技 術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェク ト)」の支援を受けて行ったものである.

引用文献

藤井直哉・松田英樹・新山徳光(2018):産業用 マルチローターを利用したダイズ紫斑病の防 除, 北日本病虫研報 69;20-24. 新山徳光・藤井直哉・松田英樹(2018):小型マ ルチローターを用いた農薬散布の水稲病害虫 に対する防除効果, 北日本病虫研報 69 ; 98-104. 農林水産省(2019):平成 30 年度, 平成 28 年度 都道府県別無人マルチローターによる空中散 布の実施状況, http://www.maff.go.jp/j/syouan/ syokubo/gaicyu/g_kouku_zigyo/(2019 年 5 月 31 日閲覧). 日本農作業学会 (編集) (1999):農作業学, 農林統 計協会, 東京, pp.37-39. 高橋良知・藤井直哉(2017):イネ出穂期の病害 虫防除におけるマルチローター利用の実用 性, 北日本病虫研報 68;134-139.

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