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大型湖に対する温暖化影響評価について

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Academic year: 2021

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大型湖に対する温暖化影響評価について

永田 俊(東大・海洋研) 我が国最大の淡水湖である琵琶湖は、世界有数の 古代型湖沼であり、その形成時期は約400 万年前と 推定されている。大きく発達した沖合や深底部(最 大水深 104 m)と、それを取り囲む複雑な湖岸は、 広大で豊かな生息環境を提供し、多様な生物の共存 を可能にしている。58 種の固有種を含め、1200 種 もの動植物種が記載されている湖は、我が国はいう におよばず世界的にも貴重であり、まさに、淡水生 物多様性の宝庫ということができる。近年、この多 様な生物群集にとっての「生命維持装置」ともいう べき、冬季「全循環」が、温暖化の影響によって不 活性化し始めている可能性が指摘されている。全循 環とは、冬季に湖面や湖岸の冷却によって冷やされ た高密度の表層水が沈み込むことで湖水の上下混合 (対流)が起こり、それによって湖の全深度に溶存 酸素が供給される物理現象である。温暖化(冷却不 足)による全循環の欠損や不全は、深底部の低酸素 化や無酸素化をひきおこし、そこに生息する生物の 絶滅につながる危険がある。また、溶存酸素濃度の 低下とともに還元的になった湖底堆積物からリン (栄養塩類)が溶出し、急激な水質悪化が引き起こ される可能性もある。 温暖化が生態系や水質に与える悪影響は、世界の 湖において顕在化している(IPCC 第四次報告書)。 中央ヨーロッパの大型湖沼では、気候変動と関連し た水温上昇や、全循環パターンの変動が観測されて いる。また、2003 年の熱波襲来に際して湖の循環が 停滞し、低酸素化が引き起こされたという報告があ る。中国の雲南省にある深湖フーシェン湖では、近 年になって底層の無酸素化が進んでいることが懸念 されている。また、アフリカのタンガニーカ湖では、 温暖化による水温成層の強化が、鉛直混合による深 層から表層への栄養塩の供給を低下させ、それが、 一次生産と魚類の生産の著しい低下につながってい ると報告されている。つまり、異常気象や温暖化が 大型湖の生態系に深刻な打撃を与え、水質悪化がお こる可能性は、世界的に大きな懸念事項になりはじ めており、これは深刻な地球規模の環境問題として とらえる必要がある。 集水域の土地利用や人間活動の変化が引き起こす、 地域性の強い環境擾乱(富栄養化や汚染)と異なり、 温暖化影響は、世界中の湖の境界条件が一斉に変化 するという点に著しい特徴がある。全世界的にみれ ば、年二回循環湖が年一回循環湖へと移行し、年一 回循環湖が部分循環湖へ移行する、といった、循環 パターンの一方向的な変化傾向として一般化できる と指摘する研究者もいる。琵琶湖の例で述べたよう に、このような循環パターンの変化は、湖の生態系 の成立条件(物理場)の根本的な変化を意味してお り、これは、生物間の相互作用や生物多様性に対し て重大なダメージを与える可能性がある。したがっ て、生態系影響評価のためのモデルを構築し、被害 の程度を予測するとともに、影響メカニズムの理解 を深め、有効な緩和策を立案することが喫緊の課題 であろう。しかし、温暖化の生態系影響は、個々の 湖に固有の複雑なフィードバックを介して現れるた め、生態系応答の普遍的なパターンを抽出すること は必ずしも容易ではない。本講演では、環境省の地 球環境研究総合推進費(Fa-084)の支援により実施 されている研究課題「温暖化が大型淡水湖の循環と 生態系に及ぼす影響評価に関する研究」の進捗状況 を紹介し、温暖化影響を踏まえた、長期・広域的観 測研究の在り方について考察を加える。

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