研究者と
AI、ロボットが協調しつつ進める新しい研究開発の姿
東京⼯業⼤学 ⼀杉太郎 [email protected]はじめに
研究開発の進め⽅に⼤変⾰を起こさねばならない。 我が国は少⼦⾼齢化が進み、⼈⼿不⾜が顕在化して いるうえ、働き⽅改⾰により、短時間で最⼤の成果 を出すことが強く求められている。現在の進め⽅、 つまり、⼈⼿のみで勘・コツ・経験に頼った研究の 進め⽅では、諸外国に後れを取るばかりだと強い危 機感を感じる。さらに、コロナ禍を契機に研究の進 め⽅に変化が⾒られる。したがって、全⾃動・遠隔 操作で⾃律的に実験を進め、研究者が培ってきた勘・ コツ・経験を上⼿に活⽤する研究体制の構築が急務 である。 そのような背景の中、ケモインフォマティクスや マテリアルインフォマティクス[1,2,3]に注⽬が集ま り、データ駆動型科学への変⾰が進められている。 ここで重要なことは、この変⾰により個々の研究開 発のスピードを上げるだけでは、⽬標までの道半ば であるということである。 ここで⽬標とする将来像は、化学や材料に関する ノウハウやデータを世界中の研究者と共有し、世界 から「頼られる」基盤を形成することである。つま り、世界中の研究者を集める⼤きな魅⼒を有する基 盤があり、世界の化学・材料研究の中⼼となるビジ ョンである。 すでに世界では、特定の基盤に研究者が「頼らざ るを得ない」状況が起きている。現に半導体ビジネ スでは、今やインテルでさえ、最先端の半導体製造 プロセスを諦め、TSMC やサムスンに製造を依頼す る状態である。つまり、それら半導体ファウンドリ にノウハウが集まり、もはや半導体プロセスは「彼 らに頼らざるを得ない」。このような状況では、たと えば、パソコンを購⼊する際、研究費の⼀部は海外 企業に流出してしまう。ただ、ここでの救いは、半 導体プロセスに必要な化学品や製造装置が⽇本から 輸出されているため、その研究費の⼀部が⽇本に戻 っているということである(図 1)。もし、化学や材料 研究の⼒が落ち、それらを輸出できない状況になっ た時のことを思うとぞっとする。 以上の半導体ビジネスで起きていることは、他の 化学・材料研究でも、当然、起きうる。そのような 基盤になりつつあるのがベルギーの imec である。も ともと半導体プロセスの研究をするために世界中か ら⼈が集まり、ノウハウが蓄積していた。昨今は半 導体以外のデバイスや材料について、世界中からこ こに研究者が集まり、技術⾰新とデータ共有が⾏わ れている。 ⼈が集まる理由は、他グループのノウハウやデー タも活⽤することができ、研究がはやく進むからで ある。そこでは、「⼈が集まる→技術が進む→ノウハ ウやデータが蓄積する→技術が進展する→⼈がさら に集まる」という正のスパイラルができている。 このように考えていくと、⽇本の強みである「化 学や材料に関する勘・コツ・経験」とケモインフォ マティクス、⼈⼯知能(AI)、そして、ロボット技術を 組み合わせて、「ノウハウやデータ」が⾃然に集まる 仕組み(図 1)を作ることが重要という結論になる。 そして、そこから新マテリアルのアイディアが創出 され、実際に材料合成を実現することが望まれる。 その仕組みを構築できれば、世界に対して⽇本が貢 献することができ、プレゼンス向上にもつながる。 本稿では、そのような仕組みをどのようにして作 り出すのかを議論していきたい。なお、本稿でロボ ットとは、繰り返し作業を⾏う機械と定義する。 図 1 歴史をひもとくと、imec や TSMC など、 実際にものづくりを継続的に続けたところが勝 つ。世界中の研究者が基盤を利⽤できるよう環 境を整備し、ハイスループット実験を⾏う。そう するとデータやノウハウが⾃然に集まり、マテ リアル予測技術が向上する。その際、ハイスルー プット実験はすべてデジタル化されているの で、失敗(ネガティブ)データも含めてすべて利⽤ 可能となる。これによりさらに予測能⼒が増し、 正のスパイラルとなる。そして、データフォーマ ット、計測機器フォーマット等を世界の研究者 と共に定め、使いやすい環境とする。Human-in-the-loop
の重要性
正のスパイラルを作り出す基盤(図 1)をどう構 築すれば良いのか。今後の研究開発の進め⽅につ いて、筆者のビジョンを述べる。 2020 年の現状を考える。研究者は課題設定、実 験、データ解析、学理構築まですべて担っている。 それらを AI やロボットを活⽤して進めようとし ても、現在、AI・ロボットと研究者の間は断絶して いると⾔っても良い。AI が⼈間にわかりやすい形 で本質を提⽰することは難しく、「創発」が⽣まれ にくい。また、マテリアルインフォマティクスが 複数個の候補物質を予想しても、それを迅速に確 認するロボット実験技術も存在しない。したがっ て、研究者、AI、ロボットの三者がつながってい ないのが実情である。そのため、マテリアル開発 に時間がかかる。 三者が強く連携してマテリアル開発を加速するた めに、マテリアルビッグデータを⽣み出すハイスル ープット実験と新マテリアル予測技術が鍵となる (図 1)。この⼆つを強化するために、AI とロボット を最⼤限活⽤する。そして、⾼度化した AI がビッグ データの本質を⼈間がわかりやすい形で提⽰し、⼈ 間の発想を刺激して研究者の「気づき」「ひらめき」 を⽣み出す。そして、即座にハイスループット実験 によって検証し、それを予測技術にフィードバック する。これらにより学理構築が進み、さらに⾼度な 新マテリアル予測が可能になる。このようにして、 ⼈間の研究者と AI、ロボットが協調する Human-in-the-loop が実現する(図2)。 これは夢物語なのだろうか。いや、今なら⽇本が リードしてこのビジョンを実現することができる だろう。製薬やバイオ関連では、海外で AI とロボ ットの活⽤例が急速に増えてきている[4,5,6,7]。しか し、マテリアル分野は、世界的に⾒てもプレーヤが いまだ極めて少ない。したがって、チャンスである。 このビジョンを実現する⽅策を、図 3 を⽤いて説 明する。新マテリアルや科学的原理・解法を発⾒す るには、科学的事象間の因果関係を解明して学理を 構築し、マテリアルの予測を可能とすることが必要 である。しかし、現状では、図 3 上段に⽰すように、 仮説に基づき、勘・コツ・経験と⼈⼿に頼り、実験 を⾏っている。このままでは研究を加速できない。 つまり、因果関係も分からないため、予測、設計に ⼤きな不確実性がある。 しかし、ロボットを活⽤したハイスループット 実験技術によって、多くの実験データを戦略的に 集めることができれば、データ駆動型研究に移⾏ でき、機械学習によって各事象間の相関関係や因果 関係を明らかにすることができる。これにより、 仮想空間上で実験系をシミュレートするデジタ ルツインを作る(図 3 中段)。これで格段に⾒通し がよくなるだろうが、これではまだ学理は構築で きないだろう。 ここで重要なことが、Human-in-the-loop である。 数理科学や説明できる AI、関数同定問題によって、 AI はビッグデータを⼈間に可読可能な形で提⽰す る。それにより研究者は発想を膨らますことができ る。その際、研究者が蓄積した勘・コツ・経験を活 ⽤して事象間の因果関係を解明して学理を構築し、 ⾼度なマテリアル予測技術を確⽴する(図 3 下段)。 ⼈間はコンセプト形成が得意であるので上位概念を 図2 研究の進め⽅についての未来像(Vision)形成すると共に、次なる課題⽬標を設定することが 期待される。 このような仕組みを確⽴すれば、唯⼀無⼆の基盤 として世界から研究者を惹きつける強みとなる。以 下、キーとなっているハイスループット実験とマ テリアル予測技術について議論を深める。 ハイスループット実験: データの収集・蓄積 ⼈間がデータを⼿で⼊⼒していることでは、まっ たく研究スピードは上がらず、データは集まらない。 ⼈間が⼊⼒するのはコスト(⾦銭的、時間的)がかか りすぎる。そして昨今、⼊⼿できるデータの種類は 増える⼀⽅であり、例えば実験パラメータのみでは なく、反応中における温度やガス圧の時間変化、画 像情報、⾳、匂いなど、マテリアル特性に影響を与 える実験データをも収集、蓄積しなければならない。 これらを⼈が⼊⼒するのは困難であり、抜本的な研 究の進め⽅の改⾰が必要となる。 そのために、AI とロボットを組み合わせた実験ス タイルの導⼊が急がれる。それらはすべてコンピュ ータで管理されているので、合成条件や評価結果、 合成中のプロセスデータ等をデータベースに登録す るコストは⾮常に低い。つまり、データを各所から かき集めるのではなく、基盤でデータを⾃ら作り出 すのである。 このような仕組みは、各装置をばらばらに購⼊し てスタンドアローンで置いておくことでは実現でき ない。実験室全体をシステムとして捉える発想が必 要である。そして、将来の実験室のあるべき姿は容 易に想像できる。 モビリティ(⾃動⾞)の世界で CASE という⾔葉が ある。Connected、Autonomous、Shared、Electric の概 念を⽰したもので、これをもとに将来の実験室像を 考える。実験室でも AI とロボットを活⽤し(図 2)、 合 成 や 評 価 を 担 う 各 実 験 装 置 を Connected 、 Autonomous(⾃動化、⾃律化)し、⼈間の知識・経験・ 勘を統合して、そのプラットフォームを share する。 その際、個々の合成、評価、判断を High-throughput 化し、ものづくり全体をスピードアップする。そし て、繰り返し作業から研究者を解放し、マテリアル 予測技術より研究者を刺激し、研究者が創造性を最 ⼤限発揮できる環境にする。 ハイスループット実験では、合成、評価、次の判 断というサイクルが⾃律的に進んでいき、⽬的に到 達するまで実験が進⾏する。これを closed-loop と呼 び(図 4)、世界で⾮常に急速に⽴ち上がりつつある [4,5,6,7,8]。⼈間の介⼊が必要なく、⼀週間でも⼆週 間でもノンストップで⾃律的に研究を進めることが 図 4 ⾃律的に新物質を探索する closed loop システム 筆者らはベイズ最適化とロボット を活⽤した⾃律物質合成システムを構築し た。⾃動的にサイクルが回り、マテリアル開 発が進む。ここで、合成装置や評価装置が協 調してシステムとして動作する。 このシステムに対し、「求める物性値を最⼤ 化せよ」と指令する。たとえば、「Li イオン伝 導度を最⼤化せよ」という指令である。する と、ベイズ最適化アルゴリズムにしたがって コンピュータは物質合成条件の指⽰を出す。 それに基づいて⾃動的に薄膜合成とイオン伝 導率測定を⾏い、成膜条件と物性値のデータ セットを作る。それをコンピュータに報告す ると、次の成膜条件をベイズ最適化で予測す る。このようにしてサイクルを回す。 図 3 新マテリアルと科学的原理・解法の発⾒に 向けた道筋。ハイスループット実験に多くのデ ータを活⽤してデータ駆動型研究を進める。そ して、事象間の相関関係や因果関係を明らかに して、デジタルツインとして構築する。さらに、 説明できる AI や関数同定問題によって、AI は ビッグデータを⼈間に可読可能な形で提⽰す る。それに刺激を受けた研究者が学理を構築す る。マテリアル研究者や技術者が持つ良質の知 識・経験・勘を統合すれば、唯⼀無⼆の AI シ ステムとなる。このようにして、⾼度なマテリ アル予測能⼒を獲得する。そして、ハイスルー プット実験で迅速に実証する。
可能となる。すでに筆者の研究室では、⼆つの実験 パラメータであるが、closed-loop で新マテリアル を合成することに成功している(図 5(a))[9,10]。具体 的には、⼆酸化チタン薄膜の電気抵抗を最⼩化した。 このような技術を使うと、合成プロセスのデータも 含めた、マテリアルビッグデータが⽣成できる。 ここにもう⼀つ概念を導⼊する。マテリアルドッ クと呼んでいるもので、⼀つの物質について複数の 物性を計測し、データベース化する(図 5(b))。つまり、 ⼈間ドックのように流れ作業的に物性計測を進める 仕組みである。計測をロボットに任せて⾃動化し、 かつ、最新の数理的⼿法を導⼊して計測時間を短縮 する。これにより、データ数を⾶躍的に増やすこと ができる。現在のマテリアルズインフォマティクス における課題の⼀つに、実験についてのビッグデー タが存在しないことが挙げられる。Closed loop 実験 では、物質合成の過程もすべてデジタルデータとす ることができ、素性の分かった試料をマテリアルド ックでデータ収集すれば、膨⼤なデータセットが⽣ 成でき、マテリアル予測精度を上げることができる。 このような研究環境構築にあたり、ロボットは⾼ 価なのでそのような研究スタイルは不可能だという 指摘を受ける。しかし、ロボット産業は⽇本の強み であり、安価になりつつある。たとえば、デンソー の cobotta というロボットは、⼆百万円以下の価格で 販売されている。⼈件費を考えると、⼤学でも導⼊ しうる⾦額に下がっている。全研究室をシステム化 すべきというわけではなく、基盤として導⼊し、シ ェアリングすることが考えられる(図1)。 ⾼度な新マテリアル予測技術: データの利活⽤ いったんデータの収集・蓄積が進むと正のスパイ ラルに⼊ることができる。その鍵が新マテリアル予 測技術であり、さらに、⼈間の研究者をインスパイ アする技術である。 AI 技術の進歩は著しい。説明可能な AI[11]や関数 同定問題(symbolic regression)等、⼈間の研究者に「気 づき」を与える AI も発展してきている。後者につい ては、ファインマン物理学の式を導出することに成 功したという報告もある[12]。さらに、数理科学の活 ⽤も⾮常に重要である[13,14,15]。 単に物性値のデータだけではなく、映像や⾳、匂 いまでもデータとして解析できるようにしなければ ならない。例えば、スパッタ成膜であれば、プラズ マの⾊やその形状まで学習して、それを予測に活か すことができるだろう。このような様々なデータを も扱うマテリアル予測技術の確⽴が期待される。 さらに、予測に向けて研究者が⾒通しを良くする ために、マテリアル空間の地図を作ることも重要と なろう。物性間の相関、あるいは、構造と物性の相 関等、さまざまな関係を⼈間に提⽰する可視化技術 の開発が必要である。
マテリアル×デジタル⼈材育成
本稿で説明した⾰新を進めるにあたり、⾮常に不 ⾜しているのが、「マテリアルの実験家・理論家であ りながら、情報科学やロボット(デジタル)をツール として⾃在に使いこなす⼈材」(マテリアル×デジタ ル⼈材)である。産業界からの要望も多く、そのよう な⼈材をいち早く育成する必要がある。 東京⼯業⼤学では⽂部科学省の卓越⼤学院プログ ラムのもと、物質・情報卓越教育院を⽴ち上げ、25 の企業とともに協同教育を進めている(図 6)。筆者は 本教育院の副教育院⻑を務めている。この教育院は 社員教育の場ともなっており、実際に学⽣と社会⼈ が机を並べ講義や演習を受講している。 このような⼈材について⾔及する時、特にアカデ ミアから頻繁に問われるのは、そのようなツールを、 中⾝の原理を知らずに使って良いのか、という点で ある。もちろん、原理が分かっていた⽅が良いが、 それを学ぶための労⼒との兼ね合いである。完全に 理解するには、⾼度な数学的知識が要求されるとい うこともあり、現段階では、中⾝の原理をある程度 知っていれば情報科学ツールとして使っていても良 いと考えている。我々が XRD や SEM を使う際、ど こまで深く知っているだろうか。根本原理の理解だ けでも⼗分有効活⽤できる。深く知る必要がある時 に学べば良い。したがって、困ったときに情報科学 図 5(a) 筆者らが開発したロボットと機械学習を 組み合わせた⾃律的な物質合成・評価装置(closed-loop 実験装置)の写真。⾃律的に⼆つの実験パラメ ータを調整し、最⼤の特性を有する新マテリアル を合成することに成功している。中央に搬送⽤ロ ボットアームが搭載され、⾃動薄膜合成装置や⾃ 動物性評価装置などの各種装置間での試料の受 け渡しが可能である。(b) マテリアルビッグデー タを⽣み出すシステム(マテリアルドック)。物質 合成ロボットで作製した試料について、様々な評 価・分析を⾏い、データを⾃動収集する。の専⾨家に質問できるレベルの知識でまずは⼗分で ある(もちろん教育院では原理までしっかり教えて いるが、どこまで学⽣さんらが理解して利⽤してい るかは不明である。筆者も実は超初⼼者レベルであ る)。実際、機械学習(ベイズ最適化やスパースモデリ ング、深層学習)を、あたかもワードやエクセルを扱 うのと同じように使いこなせる実験家が育っている という実感がある。 この議論で最も重要なことは、「どの問題にどのツ ールを適⽤すると効果が出るのか」という課題設定 の⽬を養うことである。私⾃⾝の経験では、課題設 定が良ければ、デジタルツールはマテリアル研究を ⼤きく加速できる。そして逆に、課題設定が悪けれ ば、情報科学は全く役に⽴たない。マテリアル×デ ジタル⼈材にとって、この課題設定能⼒を養うこと が⾮常に重要であると考えている。 これは座学だけでは学べない。そのために、1.座 学と同じだけの時間の演習、2.ラボローテーション (実験系の学⽣さんが情報系や計算のラボに短期滞 在して、研究を体験する)、3.物質・情報プラクティ ススクール(学⽣と教員が 6 週間企業内に滞在し、最 新の情報科学を使ってマテリアル企業の課題を解決 することを通じて学ぶ)を実施している。プラクティ ススクールは学⽣と教員が企業をコンサルティング すると⾔えるような成果例も出つつある。これらを 通じて、実践⼒を磨き、課題設定能⼒を養っている。 このようなマテリアル×デジタル⼈材が産業界に ⼊れば、研究開発だけではなく、⽣産技術、製品企 画、サービス構築等、社会のあらゆるファンクショ ンで活躍できることは確実である。それは、産業界 としての⽣産性⾰命につながる。
AI
、ロボットを活⽤する⽂化、流儀の醸成
以上より、「AI・ロボットを活⽤した新しい研究ス タイル」という⽂化の醸成が重要である。今、たと えば、⽇本化学会、応⽤物理学会、⽇本物理学会の 会員で、AI やロボットを活⽤して研究を進めている 研究者数はどの程度であろうか。いまだ極めて少な いというのが実感である。特にアカデミアでは、研 究から「精神修⾏」的要素を切り離し、過度な繰り 返し作業から研究者を解放して、より創造性が⾼い 仕事にシフトする必要があると感じている(図 7)。 先に述べたように、ロボットは⼈件費に⽐べて安 い時代である。技術が進歩し、ティーチングも⾮常 に簡単になっている。付加価値を⽣まない繰り返し 作業はロボット化していくべきであり、徐々に AI と ロボットに研究作業を任せていく⽂化を育てる必要 がある。その分、研究者は、より⾼度な合成法の考 案や、最先端機器による物性評価を⾏うなど、学理 の構築や実⽤化に向かう時間を増やすことができる。 ここで説明した⽅向性は⽂部科学省、経済産業省 が「マテリアル⾰新⼒強化に向けた準備会合」にお いて議論を進めている「マテリアル DX プラットフ ォーム」の⽅向性と合致するものである。産官学が ⼀体となり、「AI とロボットを活⽤した研究開発」 という⽂化を広めるマーケティング活動が重要であ る。これはマテリアルに限らず、あらゆる⾃然科学 研究において共通の課題であろう。 さらに、現在のコロナ禍を契機に、遠隔操作によ り実験を進める重要性がますます⾼まっている。本 本稿で述べたビジョンはそのような環境を実現する ものである。今後、在宅勤務ができない職業には優 秀な⼈材が集まらないことは必定である。実験室に 研究者を縛りつけていてはならない。本稿で提案し たシステムは当然、遠隔操作でき、家にいてもマテ リアル創製が進む世の中になるだろう。 図 6 東京⼯業⼤学 物質・情報卓越教育院の トップページ。マテリアル×デジタル⼈材を育 成している。 AI とロボットを導⼊しマテリアル開発を加 速するには、マテリアルに精通しつつ、情報科 学を使いこなす⼈材の育成が極めて重要であ る。本教育院では、企業の皆様と共に、新しい タイプのマテリアル研究者・技術者の育成を⾏ っている。現在、会員企業を募集中である。 図 7 より創造的な研究に取り組む時間を増やしたい。それが狙いである。おわりに
マテリアル開発のスピードを向上し、従来の延⻑ 線上にない新マテリアルを開発するには、研究者の 知識・経験・勘を⼈⼯知能(AI)とロボット技術と融合 させることが急務である。それにより、研究者はよ り⾼い創造性を発揮する。ここで重要なことは、単 に研究スピードを速めるというだけではなく、これ までの発想を超える⾰新的な学理やマテリアルを創 出する点である。 世界の動きは速い。マテリアルデータをめぐる覇 権争いが起き始めているといって良いだろう。ハイ スループット実験とマテリアル予測技術の両⽅を⼿ に⼊れたものがデファクトスタンダードを握り、デ ータ、知識、技術、富が集中する可能性がある。今、 正念場と⾔える。⽇本のマテリアルやプロセス技術 が優位なうちに、⼀歩でも先に進みたい。 マテリアル研究を通じて、ロボットと AI 技術を 磨くことは、他の産業基盤の強化に直結するだろう。 ⽵槍主義では、諸外国に勝つことはできない。政府、 産業界、学界が⼀丸となって基盤形成に取り組み、 そこから⽣まれる技術(マテリアル、ロボット技術、 AI 技術)を速やかに他産業に展開すべきであると考 える。すでにナノテクプラットフォームや放射光施 設などが⽇本に揃っており、それらを⼟台としてシ ステム化していくことにより、唯⼀無⼆の基盤を 築くことができるだろう。そして、それが外部資 ⾦のみで⾃⽴することも可能であろう。 本構想は 6 ページの紙⾯ではとても語りきれない。 構想の概要は東京⼯業⼤学の YouTube チャンネル 「まだ⾒ぬ災厄に向け、研究の進め⽅に変⾰を」 https://www.youtube.com/watch?v=B1vIJdjx7gE &feature=youtu.be で紹介されており、さらに、 「AI、ロボット、研究者が協働するデジタルラボラ トリ」 https://www.youtube.com/watch?v=VpcWW3ozar E&feature=youtu.be にて、詳細な説明や実験装置動作のアニメーション を視聴することができる。 研究者が創造性を最⼤限発揮し、ワクワクしなが ら研究に取り組む。その背中を⾒て、若い⽅々が研 究の楽しさに気づく。そして、多くの若者が夢を持 って科学探究や技術開発に取り組み、より良い社会 にしていく。これが本研究の狙いである。謝辞
本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究 推進事業(CREST、さきがけ)、未来社会創造事業の⽀ 援を受けて⾏われました。清⽔亮太⽒(東⼯⼤)、知京 豊裕⽒(NIMS)、⼩野寛太⽒(KEK)、⻑藤圭介⽒(東⼤)、 ⽜久祥孝⽒(オムロンサイニクスエックス)、岡島博 司⽒(トヨタ⾃動⾞)、安藤康伸⽒(産総研)との⽇頃の 議論にお礼申し上げます。 参考文献 [1] 実践 マテリアルズインフォマティクス、船津 公⼈、柴⼭ 翔⼆郎、近代科学社(2020). [2] マテリアルズ・インフォマティクス-材料開発の ための機械学習超⼊⾨-、岩崎 悠真、⽇刊⼯業 新聞社(2019). [3] 化学のための Python によるデータ解析・機械学 習⼊⾨、⾦⼦ 弘昌、オーム社(2019).[4] R. D. King et al., PNAS 116, 18142-18147 (2019). [5] B. P. MacLeod et al., Science Advances 6, eaaz8867
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[13] D. M. Packwood and T. Hitosugi, Nature Commun. 9, 2469 (2018).
[14] D. M. Packwood, P. Han, and T. Hitosugi, Nature Commun. 8, 14463 (2017).
[15] M. Kotani and S. Ikeda, Science and Technology of Advanced Materials 17, 253-259 (2016). ひとすぎ たろう HITOSUGI, Taro 固体物理と電気化学の交差点から、新物質や新物理現象の研究を進めている。最近は全固体電池や脳型メ モリに関する研究に注⼒している。それら研究を加速するために、⼈⼯知能やロボットを活⽤した研究開発 に取り組み、研究開発の進め⽅の変⾰を起こそうと努⼒している。 連絡先 〒152-8552 東京都⽬⿊区⼤岡⼭ 2-12-1 E4-9 東京⼯業⼤学 物質理⼯学院 応⽤化学系 電話 03-5734-2636