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芸術の保存と継承

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Academic year: 2021

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47 Journal of the Society of Photography and Imaging of Japan, vol 83, p47-49(2020)

1.はじめに

本稿は,2019 年 11 月 29 日に開催された令和元年度写真 保存セミナーにて講演した内容に基づくものである. 美術は絵画,彫刻などの伝統的な分類を超えて,音楽や映 像,身体表現と融合し,様々な表現が存在する芸ア ー ト術へと領域 を広げている.それらは新たに開発され,見い出された素材 の脆弱さと,ものとしての単一性や独立性から空間性や時間 性を伴う体験への拡張により,収蔵や展示,保存や修復への 危機感が叫ばれ,芸ア ー ト術を形作ってきた欧州や北米はもとより, 東アジアおよび日本においてもいわゆる現代アートをどのよ うに保存し運用していくのかといった研究会が頻繁に開催さ れている.現代アートは特に保存や修復が困難であるらしい. 日本語では,保存と修復の語が伴って「保存修復」という 形で使用されることが多いが,保存とはオリジナルをできる 限りそのままの状態で保つことであり,そのために調査,診 断をおこない,取り扱いや環境を改善して劣化,損傷,消失, 流出を未然に防ぐように努める.修復(もしくは修理)とは, 傷んだ箇所や欠損した部分を中心に,洗浄,補強,接合,時 には復元をおこない,展示,保管することが可能な状態を保 つことである. 望まれているにもかかわらず保存が叶わないこともある が,形象や技術,素材や形態のみならず,そもそもが一時的 な,暫定的なあり方を志向した作者までもが保存することを 拒絶する振る舞いを見せる芸ア ー ト術には,そもそも保存や修復が 必要であるのだろうか. 前述の問いを出発点とし,日本における文化財保護の理念 や手法と比較しながら,現代の芸ア ー ト術における保存修復をめぐ る問題を考察する展覧会「芸ア ー ト術の保存・修復-未来への遺産」* を,平成 30 年(2018)10 月に東京藝術大学大学美術館にて 開催した.伝統的な模写や修理,新たな複製・復元技術のク *

令和 2 年 1 月 10 日受付・受理 Received and accepted 10th January, 2020 東京藝術大学

東京都台東区上野公園 12-8 Tokyo University of the Arts

12-8 Ueno Park, Taito-ku, TOKYO 110-8714 JAPAN 展覧会「芸ア ー ト術の保存・修復 -未来への遺産」 会 期:2018 年 10 月 2 日(火)- 10 月 18 日(木) 休館日:10 月 9 日(火),10 月 15 日(月) 開 館:午前 10 時-午後 5 時(入館は閉館の 30 分前まで) 会 場:東京藝術大学大学美術館 本館地下 2 階 展示室 2 観覧料:無料 主 催:芸術の保存・修復プロジェクト,東京藝術大学 COI 拠点 協 力: ソニービジネスソリューション株式会社,電子システム株式会社,株式会社日立製作所,metaPhorest(早稲田大学岩崎秀雄研究室), 東京藝術大学保存修復建造物研究室

特 集:画像保存  解 説

芸術の保存と継承

Art Conservation and Inheritance

平   諭一郎

Yuichiro T

aira

要 旨 「いま,ここ」にある芸術を未来に遺し伝える手段として,芸術そのものの保存や修復,複製や復元,再制作や再演,画 像や映像による記録がおこなわれる.それら芸術への介入行為を,日本における文化財保護の理念や手法と比較しながら 概観する.はたして,芸術は必ずしも保存しなければならないのだろうか.

Abstract As a means to inheritance art to the future, preservation and restoration of the art itself, duplication, reproduction,

replay, and recording with images and videos are performed. I will give an overview of these art interventions in comparison with the philosophy and methods of conservation for cultural property in Japan. Absolutely, does art have to be preserved?

キーワード:芸術,美術,文化財,保存,継承

Key words: Art, Fine arts, Cultural properties, Conservation, Inheritance

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日本写真学会誌 83 巻 1 号(2020 年,令 2) 48 ローン文化財や,作品の再制作といった視点から文化財や芸 術を捉えた同展の内容を振り返りながら,芸術の保存と継承 について述べる.

2.東京藝術大学と文化財保存

東京藝術大学の前身である東京美術学校において,岡倉覚 三(天心)校長は美術学校の入学試験として,また生徒のカ リキュラムとして絵画や彫刻の模写や模造を課していた.と 同時に,帝国博物館の理事および美術部長を務め,教員や生 徒を動員して帝国博物館の所蔵品を模写,模造する事業を推 進した.それは,美術の創造教育である意匠や技巧の学習と してだけでなく,文化財としてのもの自身や信仰,文化を継 承する文化財保存のための手段でもあった.同学は,寺社が 所蔵する宝物の模写や模造事業をはじめ,1949 年の法隆寺 金堂火災により焼損した壁画の再現事業においても教員を作 業に従事させ,日本の文化財保存の中心を担ってきた.現在, 同学大学院には模写や模造および修理を学ぶ保存修復と,文 化財や修復材料の分析を学ぶ保存科学からなる文化財保存学 専攻が設けられ,大学(大学美術館)の収蔵品を保存し活用 する循環が生まれている. 東京藝術大学の収蔵品は,学生の教育資料として蒐集した 研究会 開催日 研究会 主催 会場 2004 年 12 月 4 日 デュシャンと現代美術の保存・修復をめぐって 国立国際美術館 国立国際美術館 2014 年 3 月 1 日 現代美術をコレクションするとは? 国立国際美術館 国立国際美術館 2014 年 3 月 23 日 現代美術の保存と修復――何を,いかに,どこまで 京都大学 京都大学 2015 年 12 月 5 日 過去の現在の未来――アーティスト,学芸員,研究者 が考える現代美術の保存と修復―― 京都市立芸術大学芸術資源研究センター,国立国際美術館 国立国際美術館 2016 年 2 月 14 日 ワークショップ「メディアアートの生と転生――保存 修復とアーカイブの諸問題を中心に――」 京都市立芸術大学芸術資源研究センター 元・崇仁小学校 2016 年 3 月 18 日 近現代美術の保存・修復における課題と展望 寺田倉庫,東京藝術大学 東京藝術大学 2016 年 9 月 18 日 現代美術の保存と修復 あいちトリエンナーレ実行委員会 名古屋市美術館 2016 年 9 月 22 日 現代芸術における保存と修復 学術振興会科学研究費 基盤研究 A(代表者 岡田温司) 京都大学 2017 年 3 月 20 日 アーティストが語る現代美術の保存と修復 学術振興会科学研究費 基盤研究 A(代表者 岡田温司) 京都大学 2017 年 6 月 17 日 『臭気』の現代美術 制作・展示・保存・修復のケース スタディ 東海大学創造科学技術研究機構 東海大学 2017 年 11 月 23 日 過去の現在の未来 2 キュレーションとコンサベーショ ン その原理と倫理 京都市立芸術大学 芸術資源研究センター,國府理「水中エンジン」 再制作プロジェクト実行委員会, 兵庫県立美術館 兵庫県立美術館 2017 年 12 月 16 日 「複合媒材」の保存と修復を考える 金沢 21 世紀美術館 金沢 21 世紀美術館 2017 年 12 月 20 日 再演,再制作,再展示 岐阜おおがきビエンナーレ 2017 情報科学芸術大学院大学 2017 年 12 月 23 日 美術館と現代美術 展示/保存 福岡市美術館,科学研究費(基盤 研究 A)「現代美術の保存と修復」福岡アジア美術館 2018 年 9 月 28 日 宇佐美圭司《きずな》から出発して 東京大学 東京大学 2018 年 11 月 11 日 事物の権利,作品の生 美術評論家連盟 東京藝術大学 2018 年 11 月 18 日 勅使河原蒼風の時代──近現代美術の保存・修復・再 制作をめぐって 東海大学創造科学技術研究機構 東海大学 2019 年 3 月 18 日 現代美術の再制作/再構築 保存修復の観点から 日本学術振興会科学研究費(基盤 研究 A)「現代美術の保存と修復」 (代表:岡田温司) 京都大学 展覧会 会期 展覧会 主催 会場 2018 年 7 月 21 日 〜10 月 28 日 メディアアートの輪廻転生 山口市,公益財団法人山口市文化振興財団 [YCAM]山 口 情 報 芸 術 セ ン タ ー 2018 年 10 月 2 日 〜10 月 18 日 芸術の保存・修復 ―未来への遺産 芸術の保存・修復プロジェクト,東京藝術大学 COI 拠点 東京藝術大学大学美術館 2019 年 04 月 24 日 〜6 月 23 日 タイムライン―時間に触れるためのいくつかの方法― 京都大学総合博物館 京都大学総合博物館 日本で開催された近現代美術の保存,修復に関する研究会・展覧会一覧 写真学会83_1-解説-平.indd 48 2020/02/29 14:30:56

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平 諭一郎  芸術の保存と継承 49 文化財や美術品だけではない.東京美術学校の頃より生徒(お よび学生)が制作する平常制作,卒業制作,自画像を蒐集し ており,その数はおよそ 1 万点に及ぶ.現在でも優秀卒業制 作品や自画像が大学に買上げられ,毎年約 140 点もの芸ア ー ト術が 大学美術館へと収蔵され続けている. 1984 年,ヴィデオテープをメディアとする卒業制作およ び自画像が初めて収蔵され,ブラウン管テレビ,磁気テープ, 磁気ディスク,光磁気ディスク,光ディスク,半導体メモリ …といった新たに登場したメディアを用いた作品を次々と収 蔵,その数は 100 点を超えた.デジタル記録媒体をはじめ合 成樹脂や混合素材を用いた卒業制作や自画像はもはや当たり 前になりつつある現在,それらは日本画や油彩画,彫刻や工 芸など,どの分類に沿った保存方法が適用されるのか.また, 文化遺産保護の憲章とも並走しながら欧州を中心に発展し, 伝統的な素材や技法の使用による,可逆性や判別性といった 有形文化財の近代修復理念は適用可能なのか.いまだ日本の 美術館では収蔵が少ないパフォーマンスやプロジェクト型の 作品のみならず,バイオメディア,人工知能を用いた芸ア ー ト術の 収蔵も遠い未来ではなく,はたして,そのような芸ア ー ト術をわれ われ(美術館や博物館だけでなく)はどのように扱い,次世 代に伝えていくのだろうか.

3.芸術の保存と継承

芸ア ー ト術は,そもそも複製や再現,再制作や再演,画像や映像 による記録がおこなわれることが多い.芸ア ー ト術そのものの保存 や修復だけでなく,「いま,ここ」にある芸ア ー ト術を未来に遺し 伝える手段としてのそれら介入行為は,千年以上も続く文化 財保存の手続きや態度と何が異なり,何を変えていかなけれ ばならないのだろうか. 日本では,古代より宝物を収蔵する施設の環境を整え,定 期的に現状確認をおこない,傷んだ箇所を修繕し,ときには 屋根の葺き替えや彩色の塗り直しのように復元をおこなう直 接的な保存行為によって,ものを現代まで伝え遺してきた. また,模本や写本の制作,移築や出開帳による活用と勧進を 促す間接的な保存行為や,名跡の襲名という人を媒体とした 移行をおこなうなど,様々な方法でものとしての文化財だけ でなく,技術や感覚をも継承し伝えてきた. 宗教の教典や文学のように古くは人の手で書き写され,オ リジナルが遺っていなくとも,後に木版や活版によってより 多くの人に共有されていたからこそ現代まで伝わっている例 もある.オリジナルそれ自身の保存が優先されることは揺る ぎないが,果たしてそれは文化財や美術,芸ア ー ト術を後世に伝え る唯一の方法なのだろうか. まずは明日へ,その先にある次の世へと儀式的な営みを遺 し伝え続けてきた人類にとって,芸ア ー ト術を継承する手段として, その保存や修復があるべきであろう.

謝 辞

本研究は JSPS 科研費 JP19H01221,JP19K21608 の助成を 受けたものである.

参 考 文 献

本論は下記の拙稿をもとにしたものである. 平諭一郎「同一性の臨界 ―文化財と芸術の保存・修復」『芸術の保 存・修復 -未来への遺産』,p.18-57,2019 年 平諭一郎「保存・修復の歴史において現代はそんなに特別か」国 立国際美術館ニュース 234 号,p.4-5,2019 年 写真学会83_1-解説-平.indd 49 2020/02/29 14:30:56

参照

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