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記録を残し、公開することの意味 旧優生保護法、ハンセン病の記録を題材に考える

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Academic year: 2021

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薄井 達雄

Tatsuo USUI 要 旨 旧優生保護法下におけるいわゆる強制不妊手術については、当事者からの提訴などもあり、その補償問題が大 きな社会問題になっている。そこで問題になったのが、当事者をどのように特定するのかという点である。本人 同意の必要がない強制不妊手術は、都道府県に設置される優生保護審査会でその適否を決定することになってい たので、その関係資料が残されていれば特定は可能なはずである。しかし実際は、文書の保存期間が満了したな どの理由で廃棄されたため、残存率は低い。その事情は、筆者の勤務していた神奈川県立公文書館でも同様であ るが、現在の公文書の選別基準に照らせば法定の審査会の会議記録は当然残すべきものであり、当時の文書管理 が不十分であったことは否めない。 国公立の組織アーカイブズ機関は、様々な形で親機関から文書の移管を受けて歴史的に重要な公文書を保管、 整理、提供しているが、それぞれ評価選別のルールを設け客観的で公正な選別ができるよう努力している。その 本分に徹して、残すべきものは確実に残し、個人情報等真にやむを得ない情報以外は閲覧に供することで、過去 の行政施策遂行状況の検証や今回の例のような被害者の救済の一助にもなるよう努めるべきと考える。

The so-called forced sterilisation operation under the now-defunct Eugenic Protection Act triggered a host of lawsuits by the affected persons, and the compensation issue became a major social problem. In this case, the crucial question was how to identify the persons concerned. Eugenic protection examination committees had been set up in prefectures to decide whether forced sterilisation operations should be performed or not, which means that identification of the affected persons was possible from the related documents. However, few of the documents are now available, because most of them were discarded after the expiry of the preservation period. The circumstances are the same at Kanagawa Prefectural Archives, where I worked previously, but under the current evaluation standards for official documents, the meeting records of the legal examination committees should have been preserved. It cannot be denied that the document management system of those days was insufficient.

The public archives receive documents from governmental offices in various forms, and are responsible for the preservation, organisation, and provision of historically important documents. They also establish the evaluation rule for official documents, and strive to ensure a clear and objective evaluation. I believe that the public archives should remain true to their mission and preserve vital documents. They should facilitate the review of past administrative procedures and help victims as in this case by offering information, except personal information.

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はじめに

本稿は、去る 4 月 21 日に学習院大学で開催された日本アーカイブズ学会 2019 年度大会の企画 研究会(テーマ「社会が求めるアーカイブズ」)の[報告 2]として筆者が当日報告した内容を 基に作成したものである。 まず、最初に筆者の立場を明確にしておきたい。筆者は、大学卒業後神奈川県庁に入庁し、そ の後一度辞職して自治省(当時、現「総務省」)及び経済企画庁(当時、現「内閣府」の一部) に 12 年間勤務した後、再び神奈川県庁に戻った者である。その間、県(地方行政)では、防災 消防、税務、県議会、福祉、環境、自治省(国家行政)では、消防、税務、国民経済計算(経済 企画庁)、国際協力関係など様々な分野の行政事務を経験した。とりわけ、自治省在職中には、 地方税法や消防組織法の改正に際し、内閣法制局の法令審査に立ち会ったり、税制改正項目を議 論する税制調査会に随行するなど、県にいてはなかなかできない貴重な体験を味わうとともに、 学生時代に学んだ行政法や地方自治論などを実地に学習する機会ともなり、行政マンとしてのや りがいを感じることができた。所管する法案が国会で審議されるときには、連日連夜答弁作成に 忙殺され、連夜のタクシー帰宅になるなど、体力的にはシビアな職場ではあったが、当時は 30 代の若さで乗り切ったことも今となっては良い思い出である。 一方、筆者の個人的関心事項は、一貫して歴史分野にあり、県庁でもどこか関連する部署で仕 事がしたいと考えていた。筆者が新卒で神奈川県に採用されたときには、未だ公文書館は設立さ れていなかった。採用の翌年度(昭和 58 年度)に、都道府県レベルでは全国初の「情報公開条 例」が制定され、神奈川県はこの分野での先進的な自治体として注目を集めていた。しかしほど なく筆者は神奈川県を離れてしまい、平成 5 年 11 月に神奈川県立公文書館が設立されたときに は県職員ではなかったので、その設立についての詳しい経緯を知らずにいた。 平成 8 年に県に復帰後、歴史的公文書や古文書を管理している公文書館の業務内容を知り、是 非一度勤務したいとの希望を持ち、毎年提出する意向申告の異動希望先に挙げていたが、一向に 実現する気配はなかった。仕方がないので公文書館主催の古文書解読講座に参加したり、公文書 館を会場に毎月開かれる古文書会に入会したりして古文書解読能力を身につけるよう努力しなが ら機会を待っていた。 そのような折も折、県の庁内公募制度で、待ちに待っていた公文書館の募集が出たので、早速 応募したところ、幸いにして採用された。そして公文書館に配属後は、公文書の収集、選別、整 理、利用という一連の流れに携わることは勿論、主に古文書を対象とした歴史資料所在調査や資 料の寄贈・寄託、アーカイブズ講座、実習生の受け入れなど幅広い事務を担当することができ た。 公文書館での勤務は、実務を重ねるにつれ、公文書館に所蔵されている資料の豊富さ、多様さ に圧倒されるように感じる一方で、日々新たな発見があり大変充実したものであった。また、 アーカイブズ学に関する最新の知見を得る一助になればと日本アーカイブズ学会に入会し、そこ

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で登録アーキビストの制度を知った。勤務年数が要件となる 5 年を超えた段階で認定申請したと ころ、審査の結果資格を認定していただくことができたのは望外の幸運であった。 以上やや冗長に述べてきたが、上記の経歴からわかるように、筆者は研究者ではなく所詮一介 の行政職員に過ぎない。せいぜいがアマチュア・アーキビストであり、本来ならば学会の企画研 究会で報告するような高度な学識を持っているわけではない。しかし、熱心なお誘いをいただ き、公文書の作成、収集、選別、整理、利用の第一線の現場を知る者として、浅学非才をも顧み ず報告させていただいた顛末を以下に記そうと思う。 なお、筆者は、定年まであと 1 年というところにもかかわらず、本報告を行う直前の 4 月 1 日 付けで公文書館から他の部署に異動した。せっかく学会登録アーキビストとして認定していただ きながら誠に不本意であり、断腸の思いである。また、本稿の中で意見にわたる部分について は、すべて筆者の私見であり、筆者の属する機関の公式見解ではないことを予めお断りしておき たい。

1 旧優生保護法を巡る最近の動き

この報告の依頼を受けた時には、筆者は神奈川県立公文書館の職員であり、所蔵資料のうち旧 優生保護法及びハンセン病に関するものを二本柱にして報告しようと考えていた。しかし、旧優 生保護法の下で強制不妊手術を受けた方々への被害救済問題がマスコミ等で取り上げられ、社会 的に耳目を集める問題としてクローズアップされていたので、前者に重点を置くことにし、後者 については簡単に触れるだけにとどめることにした。 平成 30(2018)年 1 月 30 日、旧優生保護法の下で強制不妊手術を受けた宮城県在住の 60 代 女性が、国家賠償法に基づく国家賠償を求める訴えを仙台地方裁判所に提起した。原告の女性 は、15 歳だった昭和 47(1972)年に旧優生保護法第 4 条に規定される「遺伝性精神薄弱」を理 由に手術をされたが、その診断も疑わしい点があるという。この提訴をきっかけに、関連する報 道が新聞等で相次いだ1) それを受け、超党派の国会議員による「優生保護法下における強制不妊手術について考える議 員連盟」、「与党旧優生保護法に関するワーキングチーム」、「全国優生保護法被害弁護団」などが 設立され、被害者救済と支援に向けた様々な動きが活発化する。そこで浮かび上がってきたの が、補償の対象となるべき被害者をどのようにして特定するのか、という問題である。 旧優生保護法下の強制不妊手術の一つは、第 4 条に規定する「別表に掲げる疾患」2)に罹患し た者を医師が確認し、その患者に対して「その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが 公益上必要である」と認めるときは、その患者の優生手術の適否に関する審査を都道府県優生保 護委員会(その後、「委員会」から「審査会」に改称されている)に申請することができる、と されていた。そして法定の一連の手続き3)を経て優生手術が決定した場合には、本人の同意がな くとも手術が実施できることとされていた。

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戦後間もない昭和 23(1948)年に議員立法で制定された旧優生保護法は、昭和 27(1952)年 に大改正が行われ、「精神病患者等に対する優生手術」として第 12 条が新設された。同条では、 「遺伝性のもの以外の精神病又は精神薄弱に罹っている者」について、昭和 25(1950)年に公 布された精神衛生法(後に「精神保健法」に改称)に規定する保護義務者の同意を得て医師が優 生手術を申請し、都道府県優生保護審査会による適否の審査を経て優生手術が実施されることに なっていた。このように、法第 4 条及び第 12 条は、本人の同意を必要としない強制的な不妊手 術を規定した条文であり、一般的に「強制不妊手術」といった場合には、これら法第 4 条及び第 12条に基づく優生手術を指している。 このように強制不妊手術を実施するに適するかどうかの判断は、各都道府県に設置される優生 保護審査会に委ねられていた。したがって、各都道府県が作成した審査会関係資料の中に、補償 の対象となるべき被害者を特定する際の有力な情報があるに違いないということで、その資料の 残存状況が大きな社会的関心事項になった。 ここでもまた、「被害者救済のためのアーカイブズ」という側面が注目されたといえよう。か つてのハンセン病患者、各種の薬剤使用による被害者救済の例のようにである。 その後、超党派の国会議員による「優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連 盟」、「与党旧優生保護法に関するワーキングチーム」が中心となって、いわゆる「強制不妊救済 法」4)が制定され、本人または遺族等の申請に基づく被害認定、一時金 320 万円の支払いが始 まっているところである。国家賠償を求める裁判の行方は、現時点では見通すことができない状 況である。

2 旧優生保護法関連資料の現状

(1)都道府県に関連資料がある理由 強制不妊手術が実施されるにあたって、その適否を審査する優生保護審査会は、法の規定によ り都道府県に設置されるものであるから、各都道府県では、審査会の委員の人選、委嘱などの人 事関係の文書、審査会の審議記録をはじめとする審査会に関係する一群の文書が作成されていた ことは間違いないであろう。 また、強制不妊手術とは別に、旧優生保護法第 3 条5)では、本人の同意を前提として、審査会 を通さず医師の認定だけで実施できる優生手術も規定されていた。そして、旧優生保護法施行規 則では、第 3 条、第 4 条及び第 12 条の規定による優生手術を実施した医師は、個別の手術に関 する「優生手術実施報告票」を、毎月まとめて都道府県知事に提出することを義務付けていた。 この報告票には、手術を受けた人の氏名、該当条項(何条何項の要件に該当するのか)、居住地、 手術実施月日、性別、年齢、手術を受けた理由、手術の術式が記入されることになっていた。 さらに、強制不妊手術である法第 4 条及び第 12 条による優生手術については、医師による優 生手術の申請、優生保護審査会からの審査結果の通知、優生手術を実施する医師の通知に関する

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事項を、旧優生保護法施行規則に定められた様式で作成することとされていた。この様式には優 生手術を受けた人の住所、氏名、生年月日、性別を記入する欄が設けられていた。 各都道府県では、医師から提出された「優生手術実施報告票」を取りまとめて「優生手術月報」 及び「優生手術年報」を作成して国(厚生大臣、当時)に報告することとされていた。この報告 が、国の「優生保護統計報告」の元データになるが、都道府県からの報告事項には、優生手術を 受けた人の個人情報はなく、項目別の集計結果だけが報告される仕組みになっていた。ただし、 法 4 条に基づく優生手術の適否に関して都道府県優生保護審査会の判定について、手術を受ける 側が再審査を求めた場合には、国が所管する中央優生保護審査会が再審査に当たるので、そのよ うな場合には国に記録が残されることもあり得る(未だそのような記録は発見に至っていない)。 上記のように、旧優生保護法施行規則に定める手続きからすれば、各都道府県で集計した「優 生手術実施報告票」が残されていれば、強制性の有無にかかわらず優生手術を受けた人が特定で きるはずである。しかしながら、神奈川県には残されていないし、他都道府県でも発見されたと いう例は報告されていないようである。 また、旧優生保護法第 11 条の規定により、強制不妊手術に要する費用は、国庫の負担とされ ており、都道府県を経由して支出されることになっていたので、予算、決算等経費支出関係の文 書も作成されていたはずである。 このように、都道府県が法律に基づく事務として処理する以上、必ず関連する文書が作成され るものである。 (2)関連資料の行方 旧優生保護法が施行されていた昭和 23(1948)年から平成 8(1996)年までの 50 年弱という 短くない期間を通じて、年代、地域によってかなりの変動はあるものの、各都道府県では関連文 書が作成されていたはずである。では、これらの文書は今どこかに残されているのか、あるいは もうなくなってしまっているのであろうか。 各都道府県では、それぞれが行政文書の取扱いについて統一的なルールを定めているのが一般 的である。国レベルでは、公文書管理法の制定により、従来各省庁の文書管理規則等でバラバラ に管理されていた体制が一新され、レコードスケジュールの導入、国立公文書館等への移管な ど、統一的な管理手法が確立された。もちろん、昨今の公文書管理を巡る様々な問題の発生は、 法律一本作れば理想的な公文書管理ができるというわけではなく、法の趣旨を実現させるために は、その運用に当たり不断の努力が必要なことを教えている。 行政文書の管理は、自治事務に属することから、そのやり方は地方自治体によって千差万別で ある。公文書管理法が規制するのは国の機関とそれに準ずるべき法人の文書であり、地方自治体 には、公文書管理法の趣旨を尊重する努力義務があるに過ぎない6)。都道府県の中にも、公文書 管理条例を新たに制定したり、制定の検討を行っているところもある。しかし、現時点では条例

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化している方が少数派で、多くの都道府県では、文書管理規則等の名称を持つ規則、規程に基づ く文書管理を行っている。 神奈川県においては、公文書館が設置された平成 5(1993)年に、新たに制定された神奈川県 立公文書館条例において、県の各機関は保存期間が満了した文書を公文書館に引き渡す義務、公 文書館長の権限で、歴史的に重要な文書を「歴史的公文書」として選別し、それ以外の文書を確 実に廃棄する体制が確立された。それに合わせる形で県の文書管理規定も改正され、文書の保存 期間の見直し(それまであった「永年保存」を廃止し、最長でも 30 年保存とし、確実に公文書 館に引き渡すことにした)や、本庁機関が作成した長期保存文書(保存期間が 10 年及び 30 年の 文書)を公文書館内に設けられた中間保管庫(2 号書庫)に引き継ぐことなどが規定された。こ のように神奈川県においては、県機関が作成した行政文書は保存期間満了後公文書館に引き渡さ れ、公文書館では引き渡された行政文書が歴史的に重要なものであるかどうか、選別基準に基づ き現物を確認しながら判断し、選別されたものを歴史的公文書として公文書館資料に加え、永久 に保存するとともに閲覧等の利用に供することとしているのである。 したがって、公文書館設立後であれば、旧優生保護法を所管する部署(現在では、健康医療局 保健医療部がん・疾病対策課が該当する)が作成した文書は、保存期間が満了すればすべて公文 書館に引き渡されることになる。神奈川県で最後に強制不妊手術が実施されたのは昭和 58 (1983)年のことであるが、残念ながら、この時の関連文書が公文書館に引き渡された形跡を確 認することができなかった。もし引渡しを受けていたとすれば、強制不妊手術の適否を決定する 優生保護審査会は、法律に基づき県に設置される審査会なので、「神奈川県立公文書館公文書等 選別のための細目基準」7)(以下「細目基準」という)の項番 7「議会、各種委員会、審議会、主 要会議等の審議経過及び結果に関する公文書等」の(2)「法律または条例の定めるところにより 設置された審議会、協議会、審査会等」に該当する。その場合の選別基準は、「正規の開催分を すべて収集する」と明記されているので、確実に保存されていたはずである。ただし、医師から 提出された「優生手術実施報告票」の個票は、都道府県でこれらを集計し、国に提出するための 基礎データであるので、もし公文書館に引き渡されたとしても、選別されて保存される可能性は 低いと思われる。それは、細目基準の項番 9「調査、統計及び研究に関する公文書等」(1)「統 計」では、収集すべき文書として、「ア 結果報告書(行政刊行物として刊行されたものを除く)」 「イ 指定統計等結果が報告書としてまとめられ公表される統計以外のうち、臨時的又は独自に 実施された統計で重要な内容のものに係る公文書等」とされており、結果報告書や臨時的又は独 自に実施された重要統計以外は廃棄されてもおかしくないからである。

3 神奈川県における現状

神奈川県における旧優生保護法関連の資料の残存状況はどうなっているのであろうか。厚生労 働省からの「旧優生保護法に関連した資料等の保管状況等調査の実施について」の依頼(平成 30

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区 分 件 数 男 女 計 本人同意必要 旧法第 3 条によるもの(第 1 項第 4号及び第 5 号を除く) 16件 191 件 207 件 本人同意不要 旧法第 4 条によるもの 35件 158 件 193 件 旧法第 12 条によるもの 41件 228 件 269 件 計 76件 386 件 462 件 (表 1)神奈川県における優生手術の実施件数 年 S24 S25 S26 S27 S28 S29 S30 S31 S32 S33 S34 件数 14 7 14 20 21 6 10 13 9 8 15 S35 S36 S37 S38 S39 S40 S41 S42 S43 S44 S45 S46 19 37 36 36 44 37 24 17 21 12 13 5 S47 S48 S49 S50 S51 S52 S53 S54 S55 S56 S57 S58 12 1 0 1 1 0 1 1 2 1 3 1 (表 2)神奈川県における優生手術(本人同意不要)の年度別実施件数 年 4 月 25 日付け)に基づき、公文書館所蔵資料を含め、県が保管する関連資料の調査を実施し、 同省に報告しているので、この報告によって現状を紹介する8) (1)「省令様式等の保有」 693 件 これは、旧優生保護法施行規則に定める様式のことであり、例えば、「優生手術申請書」、「優 生手術適否決定通知書」、「健康診断書」等の様式が該当する。 (2)「優生手術関連の件数、個人が特定できる情報」 優生手術の実施件数は、県の「衛生統計年報」及び予算・決算関係書類等から判明したところ によれば、(表 1)のとおりである。 そして、本人の同意が不要の 462 件について、年度別の実施状況は(表 2)のとおりである。 表 2 からわかるように、本人同意が不要とされる強制不妊手術は、昭和 24 年から昭和 58 年ま で 35 年間にわたって実施されてきた。また、表 1 からわかるように、性別内訳は、男性 76 件 (16.5%)、女性 386 件(83.5%)で、根拠条文別内訳は、第 4 条 193 件(41.8%)、第 12 条 269 件(58.2%)になっている。また、年齢別内訳は、20 歳未満 125 件(27.1%)、20 歳以上 333 件 (72.1%)、不明 4 件(0.9%)となっている。

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区 分 件 数 男 女 計 本人同意必要 旧法第 3 条によるもの(第 1 項第 4号及び第 5 号を除く) 0件 0件 0件 本人同意不要 旧法第 4 条によるもの 5件 14件 19件 旧法第 12 条によるもの 2件 34件 36件 計 7件 48件 55件 (表 3)優生手術実施件数のうち、個人が特定できる情報がある件数 優生手術実施件数のうち、個人が特定できる情報がある件数は、(表 3)のとおりである。 このように、個人が特定できる情報があるのは 55 件にとどまっており、462 件に対する判明 率は、わずかに 11.9% になっている。 (3)優生手術の費用の補助制度 旧優生保護法の下では、第 4 条の規定による強制不妊手術の実施に要する費用は、国庫が負担 することとされていた(第 11 条)。一方、第 12 条の規定による優生手術に要する費用について は、国庫負担の規定がなかった。そのため、神奈川県では、医療費の本人負担分を補助してその 普及を図るため、昭和 31(1956)年 8 月 3 日、「優生手術費補助規則」を制定し、手術を受ける 者の属する所帯収入によって全額または半額を補助することとした。この規則は昭和 45 (1970) 年 3 月 31 日にいったん廃止されたが、後継の補助制度として同年 4 月 1 日に、「優生手術援護費 支給要領」が制定された(廃止時期は不明)。 これらの補助制度の運用状況については、記録が一部しか残っていないため全貌はわからない が、少なくとも昭和 49(1974)年度までは予算執行が確認できた。補助件数の総数は不明なが ら、補助対象者が特定できる情報があったのは 28 件である。

4 公文書館所蔵の関連資料

(1)現状 神奈川県立公文書館で所蔵する資料は、①歴史的公文書(神奈川県の各機関から保存期間満了 後公文書館に引き渡され、選別基準に基づき歴史的に重要な資料として選別されたもの)、②古 文書・私文書、③図書・行政刊行物、④その他(広報課撮影写真、CD 類など)に大別される。 歴史的公文書のうち、主なものとして(表 4)のとおり 30 点の資料が確認できた。 これは、神奈川県立公文書館資料検索システムで、「優生保護」「優生手術」をキーワードとし て検索したものであり、「備考」欄に「〇」が付されているものは個人の特定につながる情報が 含まれているものである。 項番 11、18∼25 のように、優生保護審査会委員の任免など人事関係の資料は残存率が高いが、

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№ 資料名 内容(主なもの) 備考 1 昭和 34 年度 予算増減簿 優生保護費の増減簿 2 昭和 35 年度 予算増減簿 同上 3 優生保護法法規綴 昭和 23∼34 年に三崎保健所で収受した関連通達・通知綴 4 優生保護審査会人事関係書類 昭和 23∼35 年 委員推薦者の履歴等 5 優生保護審査会関係綴 昭和 37 年度 審査会資料 〇 6 昭和 38 年度 経費支出書 優生保護審査会、優生手術補助、家系調査経費支出伺い 7 人口動態関係綴 昭和 41 年度 優生保護統計 8 昭和 27 年 条例原本 優生保護審査会委員の報酬に関する条例 9 昭和 27 年 規則原本 優生保護法施行細則 10 昭和 25 年 例規関係書類 任意手術、人工妊娠中絶の保険給付 11 優生保護審査会関係書類 昭和 35∼48 年 検察庁・弁護士会委員の任 12 優生保護審査会記録 昭和 45 年度 審査会記録 〇 13 保健所指定書関係書類 昭和 40 年 優生保護相談所の設置承認申請 14 [医療関係登録証、指定証等] 優生保護法指定医師指定証 15 平成 5 年度 優生保護報告 足柄上保健所の優生統計の伺い 16 昭和 46 年度 優生保護相談 平塚保健所の優生結婚セミナー 17 昭和 57 年度 厚生常任委員会 優生保護法改正について要望 18 附属機関委員任免 昭和 43 年度 優生保護審査会委員 19 附属機関委員任免 昭和 48 年度 優生保護審査会委員 20 附属機関委員任免 昭和 50 年度 優生保護審査会委員 21 附属機関委員任免 昭和 51 年度 優生保護審査会委員 22 附属機関委員任免 昭和 54 年度 優生保護審査会委員 23 附属機関委員任免 昭和 55 年度 優生保護審査会委員 24 附属機関委員任免 昭和 56 年度 優生保護審査会委員 25 附属機関委員任免 昭和 57 年度 優生保護審査会委員 26 国庫補助金実績報告書綴 昭和 34・35 年度 優生手術実績報告書 〇 27 国庫補助金実績報告書 昭和 36 年度 優生手術実績報告書 〇 28 昭和 35 年 例規(統計関係) 平塚保健所の優生手術報告 29 昭和 36 年 例規例証統計関係 平塚保健所の優生手術実施報告書等閲覧申請に対する秘密保持に関する疑義 30 昭和 31 年 規則原本 優生手術費補助規則 (表 4)神奈川県立公文書館所蔵の旧優生保護法関係資料(歴史的公文書)

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優生保護審査会における審査経過など最も重要と考えられる情報が記載されるべき優生保護審査 会記録は、項番 5(昭和 37 年度、図 1∼図 6)及び項番 12(昭和 45 年度)の 2 件だけしか残さ れていない。上述の通り、神奈川県では、本人同意が不要とされる強制不妊手術は、昭和 24 年 から昭和 58 年まで 35 年間にわたって実施されてきたので、残存率は 5.7% である。 また、県独自の補助制度に関する資料としては、項番 30 に「優生手術費補助規則」全文が記 載されているが、これは制定時の規則条文の原本であり、施行後の補助実績などは含まれていな い。そのほか、項番 3 の資料は、旧優生保護法が施行されたときに出された関連通達等の綴りで 非常に重要なものであるが、これは県の出先機関である三崎保健所の資料である。項番 15、16 もいずれも出先機関の資料である。これらは、本庁所管課の資料が残されていないため貴重なも のになっているが、本庁所管課の資料が保存されていないことが問題であるともいえる。 図 3 検診録(個人情報マスキング処理) 図 1 表紙部分 図 2 優生手術申請書 (個人情報マスキング処理) 図 5 優生手術適否決定通知書 (個人情報マスキング処理) 図 6 優生手術を行う医師への通知 (個人情報マスキング処理) 図 4 家系図(個人情報マスキング処理)

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ただし、表 4 記載の 30 件以外にも、本庁所管課の各年の監査資料など、関連予算の執行状況 を確認できる資料はある。 (2)問題点 上述の通り、一番の問題点は、現在であれば細目基準に照らして保存されるべき資料のごく一 部しか残っていないことである。優生保護審査会資料の残存率の低さがそれを最も雄弁に物語っ ている。 では、その理由は何であろうか。筆者は、次のようなことではないかと考えている。 ①平成 5(1993)年 11 月の公文書館開館前までは、保存期間が満了した文書を公文書館に引き 渡す義務がなく、廃棄されやすい状況にあったこと。 ②公文書館の前身である県立文化資料館は、県立図書館の分館の位置づけで教育委員会所管で あったため、各機関で廃棄決定された文書の中から保存すべき文書を短期間でいわば「拾って くる」ような状況にあったこと。 ③公文書館の開館により保存期間「永年」区分がなくなり、最長でも「30 年保存」とされたも のの、それ以前に有期の保存期間の文書であれば廃棄された可能性が高いこと。

5 公文書館所蔵資料公開に当たっての論点

このように、公文書館で保存している資料は、神奈川県における旧優生保護法の施行状況の 全貌を跡付けるには不十分なものであるが、一部でも残されている貴重な資料は、できるだけ広 く公開されることが望まれる。 公文書館所蔵の歴史的公文書は原則として公開であるが、例外的に、個人情報等が含まれてい る資料は、必要最小限の期間は非公開にできるとされている。これは、時の経過の考え方によ り、個人情報であっても時間の経過によって徐々に減少する秘密保持の利益を、公開することに よる情報価値が上回るようになることから、アーカイブズの世界では広く認められているもので ある。 旧優生保護法の下での強制不妊手術の対象は、遺伝的疾患、精神性疾患などを有する者とされ ており、これらは最もセンシティブな情報に該当する。したがって、公開に慎重になるのは当然 だが、必要以上に閲覧制限範囲を拡大したくなる誘因になりがちである。

6 資料公開に関する審査請求案件

神奈川県立公文書館では、過去に一度だけ、閲覧制限に対する不服から審査請求が提起 されたことがある。それが優生保護審査会関係の資料であったので、その経緯を紹介した い。時系列では、次のような経過であった。

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(1)平成 11 年 7 月 7 日 閲覧申込み 対象資料「昭和 45 年度優生保護審議会記録」、「昭和 37 年度優生保護審査会関係綴」の 2 点 (2)平成 11 年 7 月 16 日 一部閲覧制限処分 ・閲覧可能部分…優生保護審査会開催通知起案文、審査会出席者名簿、優生手術適否決定通知 書様式 等 ・閲覧制限部分…優生手術申請に基づく家系調査から適否決定に至る神奈川県優生保護審査会 関係記録部分 (3)平成 11 年 9 月 5 日 審査請求の提起(審査請求人→神奈川県知事) (請求理由の要旨) ・個人の尊厳を無視した強制優生手術を、どのような状態(情報)をもって優生保護審査会が 公益上必要であると決定したのかを知りたい。 ・閲覧請求しているのは、審査会記録の全てではない。該当者の氏名、住所等個人が特定され るおそれのある部分を除いて閲覧させるべきである。 (4)平成 12 年 7 月 25 日 裁決(棄却) (審査庁の判断) ・処分庁が閲覧制限を行った部分は、個人の秘密、個人の私生活など他人に知られたくない個 人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものであるので、公文 書館条例施行規則第 4 条第 1 号9)に該当する。 ・また、旧優生保護法第 27 条に規定する守秘義務は、新法の附則でもなお従前の例によると の経過措置が置かれており、法令の定めにより公開することができない情報として公文書館 条例施行規則第 4 条第 7 号10)に該当する。 ・処分庁が閲覧制限を行った部分は、全体として法令の定めるところにより明らかに閲覧に供 することができない情報であり、個人に関する情報とそれ以外の情報とを閲覧を求める趣旨 を失わない程度に合理的に分離することは不可能である。 そして、この後、裁決を不服として処分の取消しを求める行政訴訟は提起されなかったため、 司法の場での判断は出ていないが、いま改めてこの時の閲覧制限のやり方を見直してみると、閲 覧制限情報が含まれている部分を「袋掛け」(図 7 参照)によって処理していることがわかる。 この方法では、少しでも閲覧制限情報が含まれるページがあれば前後を含めすべて見られなく なってしまうという問題がある。現在、これら 2 点の資料の閲覧制限処理は、原資料をコピーし たうえで個人が特定される部分だけをマスキング(実務上はマジックインクで塗りつぶす。図

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2∼図 6 参照)、さらにコピー、製本して閲覧 用の資料を作成している。それによって、閲 覧可能部分が大幅に拡大されている。

7 個人情報の不適切な開示事案

平 成 30(2018)年 5 月、公 文 書 館 所 蔵 の 2点の歴史的公文書 (「表 4」 の項番 26、27) に記載されていた強制不妊手術を受けた方 9名の氏名、性別、年齢、疾患名等の情報を マスキングせず開示するという事案が発生し た。これらは、いずれも国庫補助金関係綴で あり、旧優生保護法関係では優生手術事業実 績報告書が綴りこまれていたが、他の補助金関係文書も合わせて編綴されており、厚さはそれぞ れ 11.6 ㎝(1,295 ページ)、6.5 ㎝(855 ページ)もある。そのうえ、紙質やサイズの異なる用紙 が混在しており、非常にめくりにくい作りになっている。 公文書館における閲覧審査は、それまで閲覧請求の都度閲覧制限担当の職員が一人で行ってお り、一度審査をして閲覧制限情報が含まれていないことを確認した資料には「青シール」を貼付 し、次回以降の閲覧請求があった場合には、「審査済み」の扱いで直ちに利用に供することにし ていた。このような取扱いは、開館時には行われていなかったが、遅くとも平成 15(2003)年 頃までには実施されていた。今回の事案に係る 2 点の資料にもこの「青シール」が付いていたが、 最初に審査されたのがいつかは、記録をとっていなかったため特定できなかった。最初の閲覧審 査の時に見落としがあったと推定される。 この事案発生後、すぐに知事による記者会見が行われた。県議会本会議では、知事から「今回 の事案なども踏まえ、歴史的公文書の選別方法、公開基準等について、外部有識者の知見も採り 入れながら検証を行い、議会の意見も伺ったうえで、年度内に取りまとめ、業務の改善を図る」 との答弁がなされた。その答弁を受け、外部の有識者 5 名からなる「神奈川県立公文書館業務検 証委員会」が設置され、同年 8 月から翌年 1 月の間に 5 回の委員会を開催し、精力的な議論を行 い、2 月には報告書11)が提出された。報告書では、公文書館の業務等に関し現状分析を行い、業 務改善の提言が行われた。提言内容は、①歴史的公文書の評価選別、②歴史的公文書の閲覧審査 基準等、③人材育成と確保、④電子文書への対応、保存資料のデジタル化、⑤書庫の確保、中間 保管庫のあり方の多岐にわたるが、歴史的公文書の閲覧審査基準等については、次のような提言 がなされた。 ・県民の知る権利に基づいて情報公開制度が設けられていることを踏まえ、「公文書館におい て歴史的公文書を閲覧する権利」を公文書館条例又は条例施行規則に明記すべきである。 図 7 袋掛けによる閲覧制限

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・閲覧制限にかかる基準を審査基準として明確に位置づけ、有識者を交えて再検討し、パブ リックコメントを経て公開すべきである。その際、ICA 勧告の 30 年原則を基本としつつ、 今までの閲覧審査の実績の積み重ねを重視し、同館に適した基準とすべきであり、国立公文 書館や他都道府県の審査基準は参考としつつも、それらに過度にとらわれる必要はない。ま た、配慮すべき個人情報に十分留意する必要があるが、今まで同館が県民の知る権利を重視 し、公開に積極的であったことを踏まえ、過度に非公開の範囲を拡大することは厳に戒めな ければならない。 ・閲覧審査には慎重さも求められる。作成後 30 年以上経過の歴史的公文書を「速やかに」公 開してきた姿勢は維持しつつ、配慮すべき個人情報などについて十分な審査期間を確保すべ きである。そのため、条例施行規則を改正し、すべての歴史的公文書について、改めて閲覧 の諾否決定に要する日数の上限を定め、事務処理上の困難等による延長規定も整備すべきで ある。その際、現用文書の情報公開条例の日数を参考にするなど、県民にとってのわかりや すさも考慮すべきである。ただし、上限日数が設けられたことを、審査に時間をかけること が許されたものと曲解するようなことは、あってはならない。また、インターネットを通じ た閲覧申込など、利用者の利便性の向上も併せて工夫することで、総体としての県民サービ スの水準を落とさないよう、努めるべきである。 ・閲覧審査基準は、今後定期的に見直していくとともに、新たな制限事由を付加する場合や、 今まで公開していたものを非公開とする場合には、有識者の意見を聞く仕組みを設けるべき である。

8 ハンセン病関連資料について

ハンセン病に対する法制度も、同疾患に対する医学的知見の進歩に伴って変遷が見られた。ハ ンセン病に対する国の各種施策も、旧優生保護法同様、都道府県を通して実施されることが多 かったので、各都道府県には、相当量の関連資料が残されている。神奈川県立公文書館において も、ハンセン病関連資料も相当数保管しており、特に「無癩県運動」関連資料が多い。 そして、資料の保存・公開に関する論点は、旧優生保護法関連資料と共通する部分が多いの で、企画研究委員会では、最近問題になっている旧優生保護法関連資料を中心に報告した。

むすびに代えて

旧優生保護法による強制不妊手術や旧らい予防法による強制隔離政策は、いずれも今日の感覚 からすれば到底理解されるものではない。しかしながら、過去の政策を今日の視点から批判する ことは容易ではあるが、それだけでは何も生み出さないのでないだろうか。それぞれの法律が成 立した時の社会経済状況は、それを是としていたはずであり、当時の世論の動向も考慮するべき であろう。

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国公立の公文書館をはじめとする組織アーカイブズは、過去の政策の善悪を判断することが任 務ではなく、選別基準等客観的な基準にのっとり、残すべき文書を確実に残す立場に徹するべき であり、利用者に正確な判断材料を提供することが使命である。評価選別に当たっては、研究者 をはじめ資料閲覧者のニーズを参考にすることも有用ではないかと考えている。現在でも悩まし いのは、例えば児童虐待、家庭内暴力、生活保護などに関する県機関で作成した公文書が引き渡 されることである。これらの中には、将来当時の世相や社会状況を読み解く参考として歴史的価 値を持ちうる可能性もあるが、数が多くすべて保存する物理的余裕がないのである。サンプルと して特徴的なものだけを保存するなど工夫が求められると思う。 歴史的公文書など公文書館の資料の中心は一次資料であるので、一般の利用者がその内容を正 確に把握するためには、時代背景や制度の仕組みなどに関する情報が必要になることも多い。資 料の閲覧窓口で利用者の対応を行う公文書館の職員には、利用者からの質問に答えるなど適切な レファレンスが行えるよう、幅広く知識を蓄えるべく常に研鑽に努める必要がある。 以上、企画研究委員会における報告内容を基に加筆して本稿を作成したが、筆者が公文書館か ら異動してしまったため、不十分なものになってしまった点も多いと自覚している。読者諸賢の ご海容を乞う次第である。 1)一例を挙げると、平成 30(2018)年 2 月 20 日付け朝日新聞朝刊記事「不妊手術の強制 証拠次々」がある。 2)旧優生保護法第 4 条の規定によれば、強制不妊手術の対象となるのは、①遺伝性精神病(精神分裂病、躁鬱病、 真正癲癇)、②遺伝性精神薄弱(白痴、痴愚、魯鈍)、③強度かつ悪質な遺伝性精神変質症(著しい性欲異常等)、 ④強度かつ悪質な遺伝性病的性格(分裂病質等)、⑤強度かつ悪質な遺伝性身体疾患(遺伝性進行性舞踏病等)、 ⑥強度な遺伝性奇型(裂手、裂足等)とされていた。 3)旧優生保護法第 5 条の規定によれば、都道府県優生保護委員会は、申請を受けたときは、優生手術を受けるべ き者にその旨を通知し、手術の要件に該当するかを審査し、結果を申請者と手術を受けるべき者に通知すると 定めている。また、第 6 条から第 9 条では、審査結果に異議がある場合の再審査、意見の申出、裁判の提起の 手続きが規定されている。 4)「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(平成 31 年 4 月 24 日成 立・公布、平成 31 年法律第 14 号) 5)旧優生保護法第 3 条の規定によれば、任意の優生手術の対象となるのは、①本人又は配偶者が遺伝性精神変質 症、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有しているもの、②本人又は配偶者の四親等以内の血 族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神変質症、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又 は遺伝性奇形を有し、かつ、子孫にこれが遺伝する虞れのあるもの、③本人又は配偶者が癩疾患に罹り、かつ 子孫にこれが遺伝する虞れのあるもの、④妊娠又は分娩が、母体の生命に危険を及ぼす虞れのあるもの、⑤現 に数人の子を有し、かつ、分娩ごとに、母体の健康度を著しく低下する虞れのあるものとされていた。 6)「公文書等の管理に関する法律」第 34 条(地方公共団体の文書管理)では、「地方公共団体は、この法律の趣 旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めな ければならない」とされている。 7)平成 5 年神奈川県告示第 292 号「神奈川県立公文書館公文書等選別基準」は、選別される歴史的公文書として、

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①県民生活の推移が歴史的に跡付けられる公文書、②県行政の推移が歴史的に跡付けられる公文書、③昭和 20年以前に作成し、又は取得した公文書を挙げているが、その選別を適正に行うため、公文書の区分(26 区 分)により、細目基準を定めている。 8)神奈川県「旧優生保護法に関する調査結果について」(2018 年 6 月 29 日神奈川県記者発表資料)、http://www. pref.kanagawa.jp/docs/nf5/prs/r7590471.html、(参照 2019−08−31)を参照。 全国的状況については、厚生労働省「都道府県等における旧優生保護法関係資料等の保管状況調査」(2018 年 9 月 6 日公表)、https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01166.html、(参照 2019−08−31)を参照。 9)「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの又は特定の個人を識別する ことはできないが、閲覧に供することにより、個人の権利利益を害するおそれのあるもの」 10)「法令等の規定又は地方自治法第 245 条の 9 第 1 項の規定による基準その他県の機関等が法律上従う義務を有 する国の機関の指示により、閲覧に供することができないとされている情報」 11)神奈 川 県 立 公 文 書 館 業 務 検 証 委 員 会 報 告 書 は、神 奈 川 県 立 公 文 書 館 ホ ー ム ペ ー ジ、https://archives.pref. kanagawa.jp/www/contents/1549555313677/index.html、(参照 2019−08−31)を参照。

薄井 達雄

神奈川県庁、日本アーカイブズ学会登録アーキビスト

参照

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