キーワード:難病、治療と仕事の両立支援、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、パー キンソン病 Ⅰ.はじめに 少子高齢化により15歳から65歳未満の生産年齢人口が減少しているわが国においては、働き 方改革を通じて、何らかの理由で働き方に制約がある方々の就業を促して、就業率(15歳以上 人口に占める就業者の割合)を上げることで、労働力の減少を補おうとしている。そのため、 一定の配慮があれば働ける人が退職してしまうのを予防すること、つまり治療と仕事の両立を 支援することは、就業率を向上させる対策の一つと位置付けられている1)。 このような状況は、難病患者の治療と仕事の両立支援(以下、両立支援)においても同様で ある。難病とは、発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病で あって、当該疾病に罹患することにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの、と定 義されている2)。難病対策の歴史は古く、1972年から医学研究事業として開始された。当初は 治療技術の開発が主であり、就労を含めた患者の生活の支援への関心は低かった。その後、治 療技術の進歩により多くの難病が慢性疾患化し、患者の QOL(Quality of Life、生活の質)も 改善してきたことから、治療だけではなく、就労を含めた患者の生活への支援のニーズも高ま ってきた。2003年には難病相談・支援センターが創設され、その支援対象に、患者の就労支援 江口 尚:産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学研究室 教授
江 口 尚
難病患者における治療と仕事の両立支援に関する研究の現状
Review for the Promotion of Health and Employment Support among Intractable Diseases Patients < 要 約 > 近年、難病患者の治療と仕事の両立支援(以下、両立支援)への関心が高まっている。本 稿では、難病患者における両立支援に関する国内外の研究の現状を把握することを目的と し、対象疾患を、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、パーキンソン病として、そ れらの疾患の就労に関する文献レビューを行った。その結果、海外では様々な介入研究が 行われているが、我が国においては介入研究がほとんど行われていないこと、就労に影響 する要因については共通の部分と疾患特異的な部分があることがわかった。
も含まれた。さらに、難病対策の議論が2012年から活発化し、2014年に「難病の患者に対する 医療等に関する法律」(難病法、平成26年法律第50号)2)が成立し、2015年1月に施行された。 2015年9月には難病法に基づく厚生労働大臣の基本的な方針「難病の患者に対する医療等の総 合的な推進を図るための基本的な方針」(平成27年厚生労働省告示第375号)が告示され、「難病 の患者が地域で安心して療養しながら暮らしを続けていくことができるよう、医療との連携を 基本としつつ福祉サービスの充実などを図るとともに、難病の患者が難病であることを安心し て開示し、治療と就労を両立できる環境を整備する。」と記載され、難病患者の就労支援は政策 的にも重要な課題と位置付けられた3-6)。さらに2020年3月には、「事業場における治療と仕事 の両立支援のためのガイドライン」の中に、難病に関する留意事項が設けられた7)。また、2013 年4月に施行された障害者総合支援法に基づく就労支援の対象にも難病が含まれた。 難病法では、現在(2021年3月1日時点)、333疾患が難病に指定されている。特定医療費(指 定難病)受給者証所持者に認定されている患者数は約89万人で、そのうち、20歳から69歳の就 労世代の患者数は55万人である。疾患毎の患者数は、潰瘍性大腸炎、パーキンソン病、全身性 エリテマトーデス(SLE)、クローン病といった数万人を超える疾患から、数人の疾患まで幅 広い。国内外では、個別の疾患について就労支援についての知見の蓄積が進んでいるが、それ らを体系的にまとめた研究は少ない。 そこで、本稿では、障害者職業総合センターがこれまで行ってきた難病患者の就労に関する 研究に加え、難病患者の中でも、比較的患者数の多い炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン 病)、多発性硬化症、パーキンソン病と、指定難病ではないが同じく患者数が多い関節リウマチ を取り上げ、それらの疾患の就労に関する研究の文献レビューを行い、難病患者の両立支援に ついての研究の現状について概説する。文献レビューにあたっては、Pubmed と医学中央雑誌 刊行会データベースを用いた。 Ⅱ.障害者職業総合センターでの研究 我が国での難病患者の就労に関する研究は、障害者職業総合センターの春名らを中心に進め られてきた。1998年に行われた調査研究では、就労経験者で病気の影響により退職した者は 47.7%、そのうち55.9%は無職のまま、就労経験者のうち配置転換によって就労継続していたも のは7.3% であった3)。退職した者の44.1% は再就職していたが、そのうち27.8% は再就職まで に2年以上かかっていた。病気の就労への影響は疾患によって大きく異なっていた。事業主へ の病名告知は70.2%、周囲で誰も病気について知らない状況は16.0%であった。事業主への病名 告知は正社員で最も高く75.0% であったが、パートやアルバイトでは50% 台と、雇用形態が病 名告知に影響していた。病名を告知していない理由の66.1% は「必要がないから」が最も多か ったが、「不当な扱いを受ける恐れがあるから」と回答した割合も26.1%あった。一方で、病名 告知者では「勤務状態等に配慮してもらえるようになった」と回答した割合が47.4% であり、 「病名を告知してよかった」とするものは53.7% であった。
2011年の調査研究では、難病患者の多くが、デスクワーク等の無理のない仕事で働いている 一方で、障害認定の有無にかかわらず、通院への配慮、デスクワーク等の無理のない仕事への 配置、休憩の取りやすさ、体調に合わせた柔軟な勤務体制等が得られない状況で働き、治療と 仕事の両立が困難となっている事例も多くあることが明らかになった4)。そのような結果を踏 まえて、本研究では、職場において本人が病気や必要な配慮について説明しにくい状況もあり、 効果的な雇用管理として、通院への配慮、仕事の進め方についての職場での良好なコミュニケー ション、病気の正しい理解、病気や障害があってもキャリアアップできる人事方針等の重要性 が指摘された。また、職業訓練の場としての地域の社会資源との連携の必要性についても指摘 された。 2015年の調査研究では、難病患者の症状と就労との関係について検討がなされた。その結果、 難病の症状の程度は、ある程度病気に応じて固定的な面もあるが、「全身的疲れやすさ等の体調 変動」を主とする症状が、病気の種類に横断的に難病に特徴的な就労困難性の原因となってい ること、また、これに対して、疲労回復や体調管理に適切な勤務時間や休日等のある無理なく 能力を発揮できる仕事の選択、及び、治療と仕事の両立のための職場での配慮等の促進等が、 効果的な就労支援であることが明らかとなった5)。 2018年の調査研究では、障害者雇用率の算定対象とならない難病患者の就労について、雇用 している事業主の実際の雇用管理ニーズを把握し、これまでの研究成果の蓄積を活用して、事 業主が難病のある者の雇用管理を効果的に実施できるようにするための雇用管理マニュアルが 開発された6)。 これまでの研究成果は、難病法の制定の際に広く活用された。また最近では、難病患者向け に「健康管理と職業生活の両立ワークブック(難病編)」も作成され、これまでの研究の知見の 活用、難病患者への還元が進められている8)。 Ⅲ.各疾患における研究の現状 1.炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病) 潰瘍性大腸炎とクローン病に分類される炎症性腸疾患は、令和元年度衛生行政報告例の特定 医療費(指定難病)受給者証所持者数ベースで、潰瘍性大腸炎が12.7万人、クローン病が4.4万 人であった。炎症性腸疾患においては、受給者証を申請しない患者も多くいるとされ、実際に は潰瘍性大腸炎が22万人、クローン病が7万人と推定され年々増加している。 炎症性腸疾患患者の就労に関する研究については、1989年に Drossman らが炎症性腸疾患の 患者のQOLについて報告したのが初めてであった9)。その研究で、①炎症性腸疾患患者は、身 体的な機能障害よりも、社会的、心理的に障害を感じることが多いこと、②クローン病患者は 潰瘍性大腸炎患者よりも、より心理的な障害を感じていること、③炎症性腸疾患の患者は、手 術の必要性やスタミナへの影響、オストメイトなどのボディーイメージに最も関心があること、 ④主治医が評価する疾患の状態よりも、その他の健康に関する自覚的な指標が機能の状態や患
者の関心が健康状態と社会資源の活用とより相関していることが報告された。 森瀬らは、潰瘍性大腸炎患者51名、クローン病患者42名の計93名の QOL について検討した。 その結果、炎症性腸疾患患者における QOL の評価は疾患の治療上極めて重要であることを示 した。その中で、仕事・家庭の不安については、潰瘍性大腸炎患者では活動期に比較して緩解 期では改善されたが、クローン病患者では緩解期においても仕事・家庭の不安が強くみられて いた10)。潰瘍性大腸炎患者とクローン病患者の QOL を比較した別の研究では、クローン病患 者よりも潰瘍性大腸炎患者のほうが、QOL がよかった11)。Ueno らは、日本人の炎症性腸疾患 患者172例(男性114例、女性55例、不明3例)を対象に、IMPACT調査質問票を用いて炎症性 腸疾患がQOLに及ぼす影響を調べ、潰瘍性大腸炎患者とクローン病患者の結果を比較した。直 近の再燃時に、患者の49.4% は炎症性腸疾患のため予定を変更しなければならなかった。さら に、患者の32.0% はパートタイム労働や在宅に移行するなどの調整が必要であった。患者の 35.5% は炎症性腸疾患が原因で失業したと感じていた。本研究の結果から、炎症性腸疾患患者 の生活・社会的活動は、炎症性腸疾患とその症状によって生じる QOL の悪化によって影響を 受けることが示された12)。 小野が行ったクローン病患者6名への面接調査では、クローン病患者は、再燃、緩解を繰り 返すため、学業や仕事を継続できなくなるのではないかという不安や体調を管理しながら働く ことの難しさを感じていた13)。具体的には、入退院を繰り返したことにより退職する等の経験 をし、仕事を辞めたことにより再就職が難しくなる、経済的に苦しくなる、親からの自立が妨 げられるなど様々な影響があると考えていた。病気に対する受け止めと自己管理の取り組みは、 個々の性格や生活環境等によって異なっていたが、現実を受け止め体調を管理しながら将来に 向かい努力していた。クローン病患者の就労支援を行う上では、それまでに様々な経験をして いることを理解する必要がある。 炎症性腸疾患患者の生活実態を調査した吉田の研究では、炎症性腸疾患患者のうち、就業者 106名の発病後の経過は、「病気の影響はあるが同じ仕事をしている」人が28.3% で最も多かっ たが、「病気のために退職」19.8%、「就職できない」14.2%、「転職した」13.2%、「仕事の内容 を変えた」9.4%など、合計すると56.6%が病気により仕事の継続に大きな影響を受けていた14)。 仕事の内容が炎症性腸疾患の発症に関係しているとの研究もある。Marriらのレビューでは、 炎症性腸疾患の発生がホワイトカラーに偏っているにもかかわらず、最近のデータは炎症性腸 疾患のリスク(室内または座位作業)がホワイトカラーに偏っていることが原因であって、ホ ワイトカラー作業そのものがリスクファクターではないといった議論が示された15)。クローン 病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患のメカニズムは十分に解明されていないが、遺伝的な素 因と環境の要因の相互作用により生じると考えられている。炎症性腸疾患の発症に関連する職 場の要因としては、化学的・生物学的要因、電離・非電離放射線、不規則な交代勤務、室内、 座業、仕事のストレスなどが考えられる。職種によって炎症性腸疾患の発症が異なると言われ ており、肉体労働は発症に抑制的に働くため、ホワイトカラーのほうが発症率が高くなってい
た16)。交代勤務と炎症性腸疾患の関係については睡眠障害が発症に影響している可能性があ る17)。 炎症性腸疾患に罹患した労働者の労働組合への参加率は低く、炎症性腸疾患の患者の多くは 同じ仕事を続けていること、炎症性腸疾患の患者の中で特に手術を受けている者については、 手術をしていない者と比較して病気休暇を取得する者が多いこと、多くの炎症性腸疾患の患者 は会社に対して病気のことを開示しており、職場での差別はほとんど受けていないこと、事業 主も炎症性腸疾患に罹患した労働者に対して不公正な取り扱いをすることはないこと、が示さ れた15)。手術の術式と就労との関係については、仕事の制限は、直腸温存術群で「なし」が82% とやや低値であったが、他の手術群では95% 前後と良好であった18)。各手術症例のうち直腸温 存術を除く3群で90% 以上が「なし」と回答し , 高度の制限のある症例はなかった。1,656名の スイスの炎症性腸疾患患者を対象とした、努力報酬不均衡やオーバーコミットメントの状況を 検討した研究では、女性で、高学歴のフルタイム勤務で、消化器症状以外の症状のある者には、 ストレスを多く抱えているリスクが高かった19)。また、炎症性腸疾患患者を対象にした就労継 続に関するベルギーで行われた介入プログラムActiv84worKのパイロット研究では、仕事に関 するストレス要因を取り除くことにより、患者の心理的な負担の軽減や、より働きやすくなっ たことを実感し、50% 以上が病気休暇を取得したものの、欠勤のコストの減少を認めた。この 研究は、テレワークや柔軟な勤務体系が炎症性腸疾患患者の労働環境を改善することを示し た20)。 Itoらは、就労する炎症性腸疾患患者の心理的ストレスやモチベーションに関する研究を行っ た21)。日本における仕事をしている炎症性腸疾患患者19人を対象とし、半構造化インタビュー の結果から無記名自記式質問紙を作成した。炎症性腸疾患患者の当事者団体の全国規模ネット ワーク組織である「IBDネットワーク」に加盟する会員3,794人を対象に質問紙郵送調査を実施 し、2,009人(回収率53.0%)から有効回答を得た。その結果、仕事をしている炎症性腸疾患患 者は、ある程度以上の負担度のある職場での困難を日常的に経験していた。その困難は、現職 者より退職後1年以内者のほうが多く経験し、負担度を高く評価していた。特に「仕事遂行と キャリアに影響する困難」と「体調と健康管理行動に影響する作業内容と業務上の配慮不足に 伴う困難」は、モチベーションや抑うつと強い負の関連があった。 那須らは、就業中または就業経験のある潰瘍性大腸炎患者219名を対象に、就業中の困難と QOLとの関係を明らかにするための質問紙調査を実施した22)。その結果、対象者の多くが抱え ている就業上の困難は、「職場の人たちから難治性で再燃する病気と理解されない」(41.4%)や 「病気が原因で昇進や出世が遅れる、期待できないと感じる」(38.6%)など、職場環境と関連し ていた。就業上の困難を有する対象者は、情緒の得点が低い(悪い)傾向があった。仕事や病 気について相談できる同じ病気を持つ友人がいる対象者は、情緒の得点が高かった。対象者に は、症状の軽減だけでなく、情緒面への配慮も必要であり、職場の上司・同僚の積極的な理解 や相談の必要性が示唆された。
炎症性腸疾患は慢性的で、しばしば患者の仕事を中断させる予期せぬ再燃とトラブルを特徴 としており、炎症性腸疾患患者が治療と仕事の両立をするためには職場での配慮が不可欠であ る。炎症性腸疾患に罹患する労働者に対して、産業保健における対処すべき具体的なアドバイ スとして、「定期的な通院の必要性」、「自己管理や環境調整」、「難病というレッテル」、「情報収 集・連携および相談先」のポイントが挙げられていた23)。最も多く求められる配慮は、トイレ へのアクセスのしやすさや、トイレ休憩と定期的な通院であった24)。別の研究では、症状が最 も悪化した時には少なくとも1つの配慮を受けていたとの報告もあった25)。さらに、女性で、 効果的な治療を受けていない、抑うつ症状がある場合には、2つ以上の配慮を必要とするため、 配慮を受けるのに困難を感じて、配慮を依頼できていなかった。炎症性腸疾患の患者はしばし ば配慮を必要とするが、多くは依頼しないまたは配慮を調整するのが難しいと感じている。そ のため、職場や上司は、炎症性腸疾患患者に対して、職場の配慮や、職場の配慮を要望するた めの実際の対応についての情報を提供する必要がある。 2.多発性硬化症 多発性硬化症は、令和元年度衛生行政報告例の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数ベー スで2.0万人であった。多発性硬化症は、欧米の白人に多く、北ヨーロッパでは人口10万人あた り100人程度の地域もあり、日本人と大きく有病率が異なる。多発性硬化症の患者を対象にした 職場での障害に関する調査票が開発されている26)。このように海外では、難病患者という点に おいては、多発性硬化症患者の就労に関する研究が多くあるため、本レビューで取り上げた。 ⑴ 就業者と非就業者の差の要因に関する研究 働いている患者と働いていない患者の違いは、多発性硬化症の症状や職場環境や経済的な状 況が大きく異なっていた。柔軟な働き方や経済的な補償が多発性硬化症の患者が就業を継続す るために重要である27)。 ノルウェー西部のある地域の多発性硬化症の患者全員を対象にした研究では、213人が参加 し、45% が仕事をしていた。再発完解型は二次進行型よりも就業している割合が高かった。発 症時期が若くて学歴のある患者は、罹病期間が短く、障害や疲労の程度もひどくないため仕事 をしていた。多発性硬化症の患者の生産性を改善するためには職場での環境調整や就業配慮が 大切である28)。 スイスの多発性硬化症の患者登録を用いた横断研究(541名、平均年齢48歳)では、現在仕事 をしている患者としていない患者を比較してその特徴を検討した。さらに、仕事をしている患 者を対象に、「この先2年間は今と同じ仕事を継続する」という質問項目を用いて、離職のリス クを予測した。現在仕事をしている患者は、仕事をしていない患者と比較して、年齢が若く、 男性が多く、職位が高く、健康に関連する QOL が高く、多発性硬化症に関する症状がより少 なかった。さらに、健康に関連する QOL と、仕事の資源(裁量度や職場の社会的支援)や仕
事の量のような職場の心理社会的要因は、患者が仕事の継続を見込む上で重要な要因であった。 このような結果から、仕事の資源が豊富な職場で働くことが、多発性硬化症の患者が仕事を継 続する上で大切であることが示された。このことは、事業主は、仕事の資源に着目した職場環 境の改善を行うことで、多発性硬化症の患者がより長く働けるようにすることができることを 示唆していた29)。 多発性硬化症を理由にした離職は、男性の方が女性よりも、高齢者のほうが若年者よりも多 かった。離職の一番の理由は、柔軟な働き方が不十分であることよりも、職場における不適切 な症状のコントロールのほうが多発性硬化症による退職に影響していた。失業に最も影響を与 えている症状は、疲労、運動に関連する症状、物をつかむことが難しい、認知機能障害が挙げ られていた。これらの結果は、多くの多発性硬化症の労働者は、効果的な症状のマネジメント の計画を立て、それに応じて職場で就業配慮を受け、症状が顕在化する前に、早い段階での診 断の事業主への報告が重要であることが示されていた30)。 イタリアで行われた多発性硬化症に罹患する労働者1,016名を対象とした横断研究では、同僚 の態度が就労の継続に悪い影響を与えていた(OR 0.65, 95%CI 0.57-0.76)。地域性(居住地が イタリア南部)、低学歴、家族との同居などの属性が、重労働と期間限定の契約ともに、仕事の 継続の障害となっていた。多発性硬化症をもちながら働く労働者の就労には同僚や上司、家族 など様々な関係者が関わるため、そのことが就労管理を難しくしていた31)。 Marck らは、オーストラリアで2012年と2015年に多発性硬化症の患者を対象にオンラインで 就労に関する調査を行い、転職の状況について検討した32)。1,276名が参加した。2012年から 2015年の2.5年間で、働いている者の割合は、61.4% から57.1% に低下した。25.5% は転職を経 験していた。ベースライン時の低学歴と障害の程度が重度の者ほど、フォローアップ時に失業 していた。多発性硬化症の患者のうち、62.0% の患者において多発性硬化症が就労に影響して おり、それは、低学歴と多発性硬化症の症状が進行している者ほど影響していた。多発性硬化 症の障害を理由に失業していた者は、メンタルヘルスに関する QOL が低下していた。これは、 多発性硬化症の患者において失業がメンタルヘルスに影響していることを示した初めての研究 であった。障害に関するサービス、職場での合理的な配慮、雇用の支援、差別に対する法律的 な保護が、多発性硬化症による離職のリスクの高い症状が進行している者、重度の障害や低い 学歴の者を支援することにつながる。別の研究では、多発性硬化症の患者において、仕事をし ている者はしていない者と比較して、スティグマに対する認識や抑うつ症状が低かった33)。 ⑵ 認知機能障害の就労への影響に関する研究 多発性硬化症の就労について、身体機能の影響を取り除いても、認知機能の障害が就労に影 響していた34)。 多発性硬化症の患者において、認知障害と精神症状の職場の開示への影響についての研究は 少ない。身体障害は開示に影響していたが、認知障害は開示に影響していなかった。職場への
病気の開示には身体障害の状況、就業配慮や勤続年数が関係していた。開示をした患者はより 多くの仕事上の問題や配慮を求めていた。開示の理由は、事業主との関係性、職場における移 動の問題など様々であった。認知障害は失業と関係しているにもかかわらず、病気の開示の意 思決定には影響していなかった。早期の病気の開示はその後適切な配慮が受けられるのであれ ば雇用を維持することに役立つかもしれない35)。 多発性硬化症の患者において、認知機能障害は就労する上で重要な要因である。しかし、認 知機能障害が仕事上のアウトカムや、認知機能障害と仕事上のアウトカムの関係に抑うつ症状 がどのように影響するのか明確ではない。したがって、この研究では、知覚的認知と実際の一 般的認知、見込み記憶機能との関係を検討した。参加者は111人で、Multiple Sclerosis Work Difficulties Questionnaire(MSWDQ)を使って、現在と過去の就労との関係を検討した。また、 実際の一般的な認知機能テストを行った。それらの結果は、認知機能障害は、多発性硬化症と 診断以降の失業や就業時間の短縮と関係していた。抑うつ症状は就業時間の短縮と関係してい たが、知覚的な認知機能障害と仕事のアウトカムの関係を認めなかった。この結果は、認知機 能障害や抑うつ症状のレベルの評価を職業リハビリテーションの際には行う必要があることを 示唆していた36)。 138人の仕事をしている多発性硬化症の患者と62人の健康人を比較した研究では、多発性硬化 症に罹患している労働者は、運動機能、言語記憶、処理速度に障害を抱えている場合、職場で のネガティブな出来事や配慮を受けていることをより多く報告していた。特に、ネガティブな 出来事を経験している者の中での比較では、健康な労働者と比較して、発語障害や認知障害の ある多発性硬化症に罹患した労働者の割合が高かった。働いている多発性硬化症の患者は、健 康な労働者と比較してネガティブな仕事上の出来事や配慮を経験していた。多発性硬化症に罹 患した労働者の中でも、認知機能や運動機能障害を持つ者がより失業のリスクにさらされてい た。職場において、この結果を念頭に置いた認知トレーニングや就業上の配慮が勧められる37)。 働いている多発性硬化症の患者は、運動、記憶、処理速度の障害が同時に生じると、失業に つながるようなネガティブな仕事上のイベントを報告する割合が高かった38)。 70名の多発性硬化症の患者と25名の健康な対照者を比較した3年間のフォローアップ研究で は、雇用条件が悪化した者の割合は、対照群が0%、多発性硬化症群が25.7%であった。雇用条 件に変化のなかった多発性硬化症の患者のうち、62.7% が少なくとも1つの就業上の配慮を受 けており、最も多かった配慮はフレックスタイム制であった。ベースライン時、雇用条件が悪 化した多発性硬化症の患者は、学歴が低く、誠実性が低く、より疲労が強く、注意 / 遂行機能 検査(Symbol Digit Modalities Test)、視空間的注意検査(Brief Visuospatial Memory Test)、 巧緻性のパフォーマンス評価の検査(Nine-Hole Peg Test)の認知、運動機能に関する検査結 果が、雇用条件が変わらなかった群と比較して悪かった。誠実性の高い多発性硬化症の患者は 職場の自分の状況を開示していた。誠実性の低い多発性硬化症の患者に対しては、フレックス タイム制の適用や、運動機能、認知機能に関するリハビリテーションが、雇用条件の悪化の予
防になると考えられた39)。 多発性硬化症の患者はより多くのストレスを感じており、性格とも関係している。職業のス トレスを受けやすい患者を特定することは、より効率的な介入につながる。20人の多発性硬化 症の患者を1年後にフォローアップしたところ、神経質(Neuroticism)と開放性(Openness) が統制の所在(Locus of control)に、誠実さ(Conscientiousness)がストレス対処(coping) に影響していた。多発性硬化症の患者のストレスに対して職場で介入する時には性格を考慮す ることの有用性が示唆された40)。 ⑶ 職業リハビリテーションの効果に関する研究 多発性硬化症の患者に対する職業リハビリテーションについてのエビデンスは一定しない。 臨床医は、職業リハビリテーションや、雇用を維持する上での障害を調整することを理解する 必要がある。積極的でタイミングの良い職業リハビリテーションプログラムには、仕事上の障 害や就業上の配慮、事業主の教育、幅広いコミュニティを含むべきである。仕事の内容に焦点 を当てた職業リハビリテーションを促進するような政策の推進が望まれる。今後さらなる研究 が望まれる41)。 多発性硬化症の患者は、慢性的で重度の障害のある者では失業率が高い。予期せぬ再発、身 体的、認知的な症状が失業に影響していた。失業は、疾患に特異的な要因と、職場環境や事業 主の姿勢といった文脈的なものとの相互作用である。この相互作用は、職の不安定性をもたら す。つまり、仕事の量と個人の能力のミスマッチが生じる。職業リハビリテーションサービス は、多発性硬化症の患者に対して、仕事を見つけたり、継続したりするうえでの職業的なアセ スメント、リハビリテーション、支援を提供する。そのようなサービスは多職種連携チームに よって、病気の職場への開示、就業配慮、心理的な支援、仕事のパフォーマンスの維持、事業 主との意思疎通、職場への復職支援に関する教育が提供された。役に立つ介入は早い段階での 開示、適切な職場の配慮、事業主への教育、障害のある労働者に対する公的な支援であった42)。 職業リハビリテーションを修了した多発性硬化症の患者19名に対してインタビュー調査を行 った。職業リハビリテーションの5つのインパクトを示した。①職場での自分の症状とその調 整、②不安を取り除く、③自分の勤務先の事業主を理解して影響を与える、④自分の失った自 信に対処する、⑤専門的な支援を得る。このように職業リハビリテーションによる介入の効果 を患者の視点からカテゴリー化できたことは、多発性硬化症の患者の就労支援を行う上で有用 であった43)。 ⑷ 病名の開示に関する研究 多発性硬化症の患者にとって、診断名を職場に伝えることは、上司や同僚から自分の能力へ の評価の低下につながるハイリスクな対応に思える。診断名を報告するプロセスにまつわる不 信感は多発性硬化症に罹患している労働者が、対応が遅くなり効果的に管理できなくなるまで、
症状を報告しないかもしれない。1,438名の多発性硬化症患者が参加した研究では、多発性硬化 症の状況を事業主に対して開示している者のほうが、より雇用を維持できていた44)。年齢、性 別、労働時間、障害の程度を調整しても、就労の継続に開示が影響していた。この研究は、初 めて病名を開示することの就労継続への良い効果を示したものであった。 多発性硬化症の女性の就労については、症状の重症度が雇用に影響をしているにもかかわら ず、職場環境の調整や事業主の理解、家事を任せられる人がいるようなサポーティブな家庭環 境などの非医療的な対応が、女性の仕事の能力に影響していることを明らかにした。病気のこ とを会社に報告することは、収入やアイデンティティとも関係することであり、そういったこ とが仕事のパフォーマンスにも影響していた45)。 多発性硬化症の患者の仕事に関する効力感を維持するために最も効果的な心理社会的な支援 をより理解することが、仕事を継続するための障害を減らすための有効な介入を検討するため に必要である。病気のことを開示した後に多発性硬化症の患者にとって効果のあるタイプの心 理社会的支援を同定することは、元の職位のまま仕事を続けるために必要である。特に、心理 的安全や仕事に対する効力感の役割への関心が高まっている。病気のことを開示した後に組織 の対応として大切なことは、能力ベースで対応すること(心理的安全が高いと仕事に対する効 力感が高まることにつながる)であり、障害ベースで対応すること(心理的安全が減じ、仕事 に対する効力感も低下する)は避けるべきである。組織の反応は、信頼や包摂的な意思決定、 労働者の能力ベースの対応により職場での心理的安全性が強化される。このことは、多発性硬 化症の患者が仕事に対する効力感を涵養し、離職意図を減弱することにも役立っていた46)。 ⑸ 就業上の配慮に関する研究 米国 National MS Society が746人の多発性硬化症に罹患した労働者を対象に就労に関する調 査を実施した47)。約25%が合理的配慮を求め、87.7%が要望した配慮を受けていた。進行性、認 知障害、多発性硬化症に関連する症状をより多く持つ多発性硬化症の労働者は、就業上の配慮 を受けていた。就業上の配慮が必要な多発性硬化症の労働者は、就業上の配慮を必要としない 労働者と比較して、仕事のマッチングがよりうまくいかないと答え、キャリア観が悲観的にな っていた。認知に関する症状や疾患程度は就業上の配慮の必要性と関連しているが、就業上の 配慮を受けることが必ずしも職務満足や長寿の増進にはつながっていなかった。就業上の配慮 を話し合う過程や就業上の配慮が雇用の継続に及ぼす影響についての研究は重要な依然として 重要なテーマである。 ⑹ ストレスへの対処行動に関する研究 多発性硬化症の患者の失業率が高い。疾患に関連する要因や属性の差が就労している患者と 就労していない患者について指摘をされているが、説明率としては14~20% 程度にしかならな い。コーピング、ストレス、社会的な支援などが関連している可能性がある。68名の女性の多
発性硬化症の患者を対象とした調査では、多発性硬化症を理由に仕事を辞めた患者は、高齢で、 罹病期間が長く、進行性で、障害や疲労の程度が強く、認知障害が認められた48)。そのような 属性の違いに加えて、離脱行動や薬物の利用といった不適切なストレス対処行動(コーピング スタイル)を取っていた。ストレスや社会的な支援に関しては、仕事が安定して、同僚ともう まくやれ、いくつかの福利厚生も勧められていた。本研究では今後は、MS の患者の就労に関 してはこのような本人のストレス対処行動や、職場の心理社会的要因にも関心を持つことの必 要性が示されていた。 南アフリカにおいて、多発性硬化症の患者で事務職をしている7名に対して、彼ら / 彼女ら の抱えている課題やその対処方法について半構造化面接を行った。その結果、2つの要素が導 かれた。1つは職場への多発性硬化症の持ち込み、もう1つは職場での多発性硬化症への適応、 である。多発性硬化症であることを職場に開示するか、多発性硬化症に対する同僚の認識を管 理する点については様々な選択肢がある。当事者は、移動用の補助具の使用、記録を取ること、 スタミナを蓄えること、現実的な対処方法を採用し、主体的に順応することのような実際的な 対応をしていた。当事者は、職場と交渉して、労働時間の変更、自分に特有な課題の克服のよ うに配慮を調整していた。また、当事者たちは、前向きな姿勢を持ちつつも、将来の厳しい見 通しに対して渋々準備をすることの重要性を強調していた。職場との良好な関係を保つために、 多発性硬化症であることを開示するかどうか検討した。当事者それぞれの身体的、心理的な症 状は異なるが、一人ひとりの当事者は職場に適応していた。早い段階での職場の調整や多発性 硬化症への適応は、配慮に関して、上司と交渉を行う必要がある49)。 97名の多発性硬化症の患者(77% が女性で21~59歳)を対象として、患者の仕事の状況、職 場内での対処方法、属性、身体的、精神的、認知的機能について尋ねた。職場内での対処方法 や他の疾患の状況が、職場内でのネガティブな出来事や配慮との関係を検討した。90% の患者 が職場内でネガティブな経験をしており、情緒的対処方法をより多く使っていたり、より多く のアブセンティーズムを認めたりしていた。73% は1つ以上の配慮を受けており、それは高い 学歴とより多くのプレゼンティーズムと関係していた。職場の物理的な変更を受けた多発性硬 化症の患者ほど、情緒的対処法を採用していた。柔軟なスケジュール調整は、タスク指向型対 処方法と関係していた。多発性硬化症の患者において、情緒的対処方法とタスク指向的型対処 方法は、ネガティブな職場の出来事や職場での配慮と関連していた50)。 ⑺ 生産性や事故に関する研究 多発性硬化症の患者は、パフォーマンスと予後の管理の2つのニーズを持っている。パフォー マンス上の困難は症状の治療と環境の調整または仕事量の調整により管理することが可能であ る。また、雇用者が多発性硬化症の労働者に対して適切な期待ができるように支援することも 期待されている。多発性硬化症の患者が必要とする予後の管理へのニーズとしては、①多発性 硬化症の原因による機能障害、物理的な環境、仕事によって生じる要求との間で生じる相互作
用を調整することや、雇用環境についての専門知識や事業主に対するニーズ、②複雑な課題を 患者が解決できるように支援できるような関連する法律的なサポートやカウンセリングなどに よる支援、があがっていた51)。 60人の多発性硬化症の患者を対象にした研究で、過去2か月間に職場で経験した事故を聴取 した52)。31人が働いて、29人が失業中であった。働いている多発性硬化症の患者が職場で最も 経験している事故は、職場の床面の凹凸へのつっかかりであった。興味深いことに、こういっ た事故は、身体的な機能障害ではなく、不安、うつ、そして認知的な疲労に伴って生じていた。 このような研究によって、多発性硬化症の患者が職場で労災を起こすメカニズムを検討できる と考えられた。 週20時間以上働く744名の多発性硬化症の患者のうち、472名(63%)は、過去14日間以内に 生産性が低下していないと報告していた。生産性の低下が1~2日と回答した割合は18%、3 ~9日が16%、ほとんど毎日が3% であった。IBBDI スコアが10点上がると SPS(Stanford Presenteeism Score)が2.19上昇した。罹病期間が1年短くなると SPS が0.08改善した。炎症 性腸疾患の患者の3分の1以上がプレゼンティーズムを報告していた。プレゼンティーズムと 障害、低い QOL、心理的ストレスは強く関係していた53)。 ⑻ その他 多発性硬化症および視神経脊髄炎は中枢神経系の様々な部位に炎症を繰り返す難治性の疾患 であり、若年女性に好発するため、妊娠・出産、就労などの人生の転機における決断に様々な 影響を与えうる。しかし、近年まで視神経脊髄炎は多発性硬化症の一亜型と考えられていたた め、両者を区別した調査はほとんど行われておらず、各々の実態の相違はまだ十分にわかって いない。就労状況に関する理解を深めるため、両者を対象に行われたアンケート調査の結果を 分析して検討を行うために830人を解析の対象とした。フルタイムで働いている人は診断時から 現在までにかけて多発性硬化症群で46%、視神経脊髄炎群で50%減少し、「働いていない」と答 えた人が大幅に増加していた。過半数の人が病気の症状や体力の低下が仕事上の悩み・困難の 原因になったと答え、体調に合わせられる働き口を探すことが困難だと感じており、多くの患 者が就労上の様々な制限や困難に直面していることが示唆された。また、患者の生活の質の改 善を目指すには、早期から十分な治療介入を行うことによって障害の進行を未然に防ぐことに 加えて、就労環境の整備や継続的支援が不可欠であり、難病相談・支援センターや、患者会の 担う役割は大きいとしていた54)。 イタリアの産業医を対象とした研究では、産業医は、多発性硬化症に罹患した労働者への就 業上の配慮で重要な役割を果たすため、産業医に多発性硬化症の患者の就労に関する研修の機 会を与えることが重要であるという研究があった55)。
3.関節リウマチ 山中らの報告によると、16~74歳までの300万人の診療情報データベースを用いて、抗リウマ チ薬を服用している人の比率を求めた結果、我が国におけるリウマチの有病率は0.6~1.0%、患 者数は60~100万人と推定された56)。関節リウマチ患者については、特徴的な症状と就労支援に ついて以下のようにまとめられる(表)57)。 ⑴ 就労を継続するための要因に関する研究 関節リウマチの患者の就労に関する研究は2000年頃から始まった。22人の関節リウマチの患 者を対象にインタビューした初期の研究では、就労を継続するためには仕事の調整が必要であ り、仕事やキャリアの変更(36%)、就業時間の変更(32%)、治療薬の変更(27%)、送迎サー ビスの利用(23%)、睡眠時間をより長く確保すること(18%)、在宅勤務(14%)が具体的な対 応として挙げられていた。また、就労継続をする上で今後障害になる要因として、疲労(45%)、 手が使えなくなること(45%)、休憩時間が取れなくなること(27%)、通勤の問題(18%)とな っていた。さらに、患者は同僚や上司との関係や仕事と家庭の役割のバランスにストレスを感 じていた58)。 関節リウマチの患者においては、9年間のコホート研究で、より若く、自営業であること、 より高いステイタスの仕事、1週間あたりの就業時間がより長く、高学歴で、ベースライン時 に仕事から離れている期間が短いほど仕事を継続できている人が多かった59)。732名の発症2年 以内の関節リウマチ患者を対象に5年間のフォローアップを行ったところ、ベースライン時に 仕事をしていた者353人のうち、5年後にも仕事をしている者は211人(60%)であった。製造 業従事者やベースライン時の健康状態が悪い患者が離職していた60)。 カナダのナショナルデータでは、15歳から65歳の関節炎と関節リウマチに罹患している者の 割合は8.9% であった。それぞれのグループに対する就業者の割合は、3% と23% であった。関 節リウマチに罹患する労働者の就業期間は4.19±0.02年短かかった。15歳時点での推計される 就労可能期間は男性が37.42歳±0.01歳、女性が31.06歳±0.01歳であった61)。 Varekampらは、関節リウマチの患者において、就労継続に必要な6つの要素を導き出した。 表 関節リウマチの罹患労働者に特徴的な症状と就労措置 症状 身体機能への影響 必要な就業措置 朝の関節のこわばり 午前中の運動制限 早朝作業の禁止 始業時刻を遅くする 多発する関節の疼痛と腫脹 関節周囲の筋力低下 関節可動域の制限 重筋作業全般の制限 長時間残業の制限、要医療 手指関節の変形 巧緻性の低下 手指作業の制限 荷重関節の疼痛と腫脹、腰痛 立位保持の制限 立位作業、高所作業、振動作 業などの制限・禁止
①労働者の対処(coping)能力と仕事へのコミットメント、②職場の経済的な支援制度、③適 切な社会保障制度による支援、④治療、⑤事業主や同僚の前向きな対応、⑥仕事への適応であ る。健康管理の専門家は患者の仕事に対する認識、特に事業主からの支援の就労への影響につ いて過小評価しているため、患者と仕事に関して話し合うことの重要性が指摘されている62)。 患者登録パネルのアンケート調査により関節リウマチ患者の就労状況について検討したとこ ろ、関節リウマチの影響で仕事を辞めた患者は31.6%、仕事を変えた患者は11.6%であった。加 えて、使用薬剤別に仕事に復帰できた割合を検討したところ、生物学的製剤使用患者では 37.3%、非使用患者では28.7% であった63)。 池田らは、外来関節リウマチ患者45例を対象に日常生活活動に関するアンケート調査を行い、 罹患期間1年以上~15年未満の A 群、15年以上の B 群に分け検討した。その結果、薬物認知度 は両群ともに約80% であった。日常の外出手段では自家用車ならびに公共交通機関等の利用が 自身のみで可能が A 群84%、B 群65% で、家事(炊事・洗濯・掃除)は自身で実施しているの が A 群74%、B 群54% であった。就労状況は両群ともに就労および無職の割合は約50% で、余 暇活動における趣味は現在も実施しているのが A 群57%、B 群64% であった。一方、日頃の運 動は A 群が58%、B 群が35% で、ウォーキングが習慣化されている場合が多かった。また、一 日の生活スケジュールにおける睡眠時間では、両群ともに5時間以上~9時間未満が約80~ 90% を占め、家事と日常生活活動時間では1時間以上~5時間未満が A 群約90%、B 群約70% であった。なお、日常生活満足度は満足度が高いのが A 群47%、B 群53% であった64)。就労に 関しては、罹病期間は関係していなかった。 疲労は仕事に影響する関節炎の一症状である。疲労に対する理解が進むことは、職場の中で 疲労の管理がしやすくなることにつながる。そのことを明らかにするために、アイルランドで 18名の関節リウマチの患者を対象に、疲労の仕事への影響に関してインタビュー調査を行った。 対象者は女性が過半数を占めておりフルタイムで働いていた。疲労への理解を進めるために、 次の3つの課題が明らかになった。①疲労の仕事のパフォーマンスへの影響、②職場での病気 の開示、③認知的な手法や職場で限られたスタミナを維持するための方法を自己学習すること を含む、仕事をベースにした疲労への対策、である。疲労は上司や同僚の理解は不十分である にもかかわらず、仕事のパフォーマンスに影響する。また、疲労を自己管理ができない者が多 い。そのため、専門家による職場への介入は職場での疲労の管理に役立つが、そのような介入 を行う際には、介入の中に関節リウマチの疲労に関する事業主や同僚への教育を含める必要性 が示されていた65)。 ⑵ 生産性に関する研究
関節リウマチ患者において、WLQ(Work Limitations Questionnaire)が仕事の生産性を評 価するための信頼できるツールであった。しかしながら、関節リウマチ患者は、関節リウマチ による機能的な制限に応じた仕事を選ぶ傾向にある。WLQ は関節リウマチ患者の就業能力を
評価するために使える。WLQ は、HAQ(Health Assessment Questionnaire)や SF-36では同 定できないような就業に関する要因を評価することができる66)。 関節リウマチ患者は、健康な労働者と比較して仕事のパフォーマンスやスキルが劣ると認識 されがちなため、関節リウマチ患者に対する好ましくない反応が認められ、そういった社会的 な認識が関節リウマチ患者の障害者率を上昇させている可能性がある67)。 関節リウマチによる年間の収入の減少は2,319ドル(9.3%)から3,407ドル(10.9%)であった。 HAQで0.25の違いが1,095ドルの違いを生じていた。WLQでは、関節リウマチの罹患により6% の生産性の低下が認められた。関節リウマチの罹患による家庭内所得の減少幅は、すべての患 者で6,287ドル(11.8%)であり、働いている患者では4,247ドル(6.9%)、働いていない労働者 では7,374ドル(14.8%)であった。収入の低下には、機能の状態、教育歴、年齢、人種と婚姻 歴が影響していた68)。 関節リウマチに罹患する労働者の生産性は3つの異なる尺度で評価されていた。仕事の障害 (work disability)、失業(休職を含む)、就業制限であった。中央値で66%(36~84%)の関節 リウマチに罹患する労働者が過去12か月間に失業や休職を経験していた。その期間は中央値で 39日間(7~84日間)であった。生産性が50%低下するまでに要した期間は4.5~22年であった。 肉体的な作業が必要な仕事、機能障害の程度、高齢者が、就業上の障害を生じやすかった。関 節リウマチに関連する仕事に関する障害は、アメリカとヨーロッパの国々で変わらなかった。 1970年代から関節リウマチに関連した仕事上の障害が明らかに減少しているのは、関節リウマ チの疫学的な変化というよりも、むしろ肉体的な重労働が減ったことが影響しているかもしれ ない。この時点では、DMAR(disease-modifying anti-rheumatic drugs)の仕事に関する生産性
の低下の改善への影響については評価されていなかった69)。 カナダのオンタリオ州での383名の関節リウマチに罹患した労働者を対象にした18か月間の 前向きコホート研究を行った。関節リウマチに関するコストは、1人あたり1年間に11,533カ ナダドルであった。そのコストの最も大きな部分は、仕事でのパフォーマンスの低下で41% を 占めていた。退職や転職により生じるコストが37% であった。就業時間の減少が12%、アブセ ンティーズムによるものが10%であった。症状の程度、仕事のスケジュールの調整への裁量度、 抑うつ症状が生産性の低下に影響していた。病気そのものだけではなく、心理社会的要因や仕 事に関連する要因が関節リウマチによるコストに影響していることが明らかになった70)。
関節リウマチの患者において、adalimumab と methotrexate の2剤併用療法と methotrexate 単剤による療法をアブセンティーズム(欠勤日)とプレゼンティーズムをアウトカムとして比 較した。労働者では、併用療法は欠勤日が17.4日だったのに対して、単剤療法は36.9日であっ た。また、プレゼンティーズムも、単剤療法より併用療法の方が低率であった。また、新規就 労や就労継続の割合も単剤療法よりも併用療法の方が高かった。また、ベースライン時の X 線 所見の進行の程度が独立して新規就労や就労の継続に影響していた。methotrexate 単剤療法と 比較して、併用療法のほうがより良い仕事上の結果(アブセンティーズムやプレゼンティーズ
ムが低く、新規就労や就労継続ができていた)が得られていた。これには X 線所見の進行の程 度が影響していた71)。 イギリスにおいて、11人の関節リウマチ患者に対してインタビュー調査を行った研究では、 プレゼンティーズムを自発的なもの(病気があるが仕事をしたい)と非自発的なもの(病気の 時に仕事をすることにプレッシャーを感じる)に区別して検討した72)。関節リウマチの発症は、 仕事の能力、働き続けることへのモチベーションを高く保つことに影響した。職場調整を行う ことにより、患者が仕事に留まり、能力を維持することができた。一方で、管理者が病気休暇 に対して誤解している場合は、非自発的なプレゼンティーズムや職場復帰の遅れ、復職過程で の仕事の位置付けとの葛藤をもたらした。職場の調整は、自発的なプレゼンティーズムを促進 した。仕事上の障害や仕事の欠勤を減らすためには、職場の方針により、病状が不安定な労働 者のニーズに合った調整ができるようにするべきであった。関節リウマチの患者は仕事上障害 を生じる可能性が高いため、関節リウマチの患者に対してリハビリテーションを行うことは意 味があった。関節リウマチ患者に対するリハビリテーションにより、関節リウマチ発症後も仕 事に留まりたいという個人のモチベーションが高く維持されていた。しかしながら、病気を持 ちながら仕事をするプレゼンティーズムの状態に対しては、大部分がネガティブなイメージで あった。プレゼンティーズムを自発的なものと非自発的なものに分けることが重要である。職 場の調整は、自発的な良いプレゼンティーズムを促進し、関節リウマチの患者の離職や生産性 を改善していた。一方で、非自発的なプレゼンティーズムは、組織の方針と患者の就労支援へ のニーズが一致していない時に生じていた。 ⑶ 職場での良くない出来事に関する研究 Sakita らは、関節リウマチ患者を対象にインターネット調査を実施し、結果が得られた238 名について特徴をまとめた73)。関節リウマチ患者の社会との関わりの特徴として、一つには、 仕事関係で不利益を被った経験、家族関係が悪化した経験、誤解された経験、非難された経験 といったネガティブな社会との関わりが広範にわたっていた。もう一つは、情緒的・手段的サ ポートの受領サポートの提供がいずれも女性より男性で少なかった。属性・特性および機能障 害を制御してもなお、社会との関わりの多くの変数が、不安、抑うつとも希望とも直接的また は間接的な関連性を有していた。しかし、不安・抑うつと希望とでは、関連を有する社会との 関わりの変数は異なっていた。不安または抑うつと直接的な関連性を示したのは、家族関係が 悪化した経験、誤解された経験、非難された経験、情緒的サポートの受領といった主にネガテ ィブな社会との関わりであった。一方、希望と直接的な関連性を示したのは、ソーシャルサポー トの授受、主治医満足度、社会参加といった主に社会との肯定的・積極的な関わりであった。 関節リウマチ患者にとってネガティブイベントは、より強い痛み、疲労、社会的なストレス、 仕事の裁量度の減少と関連していた。また、ネガティブイベントは仕事の特徴や身体機能の状 態、社会的支援とも関連していた。このような要因が就労の継続と関連している可能性があり、
今後さらなる研究が必要である74)。 ⑷ 就労に関する介入研究 87人の関節リウマチ患者を対象として、人間工学的な介入の有無により仕事への影響を評価 したRCTが行われた75)。職場のアセスメント、関節炎に関連する仕事上の障害を改善するため の計画が提供された。関節炎のケアや人間工学的な知識を持つ作業療法士によって、2.5時間の セッションが提供された。参加者は、仕事の状況や関節炎に関連する障害の程度を評価するた めのインタビューを受け、観察され、仕事をしている様子の写真を撮られた。ルーチンワーク やその仕事に欠かすことができない要素が同定され、関節炎の仕事のパフォーマンスへの影響 が評価されると同時に、職場環境の人間工学的な評価が行われた。参加者の希望により上司も このセッションに参加した。このプロジェクトでは、仕事の評価のサマリーや関連する領域の 写真撮影、そして関節炎に関連する機能障害をより良く調整するための仕事上のアドバイスが 行われた。典型的なアドバイスは、ルーチンや仕事の流れを決めるための方法、体操や運動、 使用する OA 機器の調整や変更、そして個人に特化したアドバイス(生活習慣の改善など)で あった。仕事の調整の計画が望ましいものであるかどうか、月に1回電話でフォローされ、必 要があれば機器の購入や導入の支援のセッションが持たれた。さらに、関節炎の自己管理の方 法や職場でできる人間工学的な対策についてのマニュアルが提供され、その内容には、就業配 慮に関する地元の社会資源や法律、仕事に関するリスク、仕事の内容に特異的なガイドも含ま れた。 実際の職場で関節リウマチ患者の生産性を維持するためのRCTがオランダで行われた76)。介 入手法は、統合されたケアと参加型の職場介入の2つのパートからなっていた。統合されたケ アでは、産業医がケアマネジャーの役割を演じてケアをコーディネートした。ケアマネジャー は臨床と産業保健の間でコーディネーターの役割を果たす。参加型職場介入は作業療法士が行 い、これには患者と患者の上司による問題解決が含まれた。職場介入の目的は、仕事をしてい く上での障害に対して実施可能な解決策について患者と上司がコンセンサスを得るための手法 であった。この研究のプライマリーアウトカムは、プレゼンティーズムによって失った時間で 評価される生産性である。セカンダリーアウトカムは、病気欠勤、QOL、痛み、疲労であった。 介入の費用対効果プログラムは社会的な視点で評価された。通常の外来では患者の仕事の生産 性の改善を目的としていない。この介入プログラムの費用対効果が良ければ、より低いコスト で生産性を高めることができると考えられた。 関節リウマチを含む炎症性の関節炎の患者を対象に、介入群には3日間の関節リウマチを専 門とする作業療法士による1対1の個別化された職業リハビリプログラムが提供され、コント ロール群には書面のみの情報提供を行った。職業リハビリテーションプログラムには、仕事の アセスメント、活動記録や行動計画、職場での関節炎への対処方法、人間工学、疲労やストレ スマネジメント、働く上での権利や支援サービス、就労支援する技術、仕事の調整、心理面、
開示するときの支援、職場への訪問、事業主への支援からなっている。職業ストレスプログラ ムは、書面のみの提供よりも、プレゼンティーズム、アブセンティーズム、失業することへの 恐れの減少、痛みや健康状態の改善が認められた77)。 関節リウマチ患者の統合医療介入および参加型職場介入の費用対効果および費用効用を評価 することを目的とした78)。専門リウマチ治療センター内で、無作為化対照比較試験と並行して 12か月の追跡経済評価を実施した。18~64歳で関節リウマチと診断され、最低週8時間の賃金 労働を行い、労働機能において若干の困難を経験している成人を、介入群(75名)と通常のケ ア群(75名)に無作為化した。分析は intention-to-treat の原理に従った。欠損値は群毎の転帰 平均を用いた mean imputation で処理した。有効性の転帰は、生産性および QOL[質調整生存 年(QALY)]とした。医療、患者および家族、生産性、および介入に関連するコストは、社会 的観点から算出した。費用対効果および費用効用を評価し、効果の追加ユニットごとのコスト および有益性の増分を反映させた。サブグループおよび感度分析では、所見の堅牢性を評価し た。仕事中の生産性の損失は、2週間につき介入群で約4.6時間、通常のケア群で3.5時間であっ た。QALY の差はごくわずかで、通常のケア群0.77、介入群0.74であった。全体的に、12か月 の追跡後の平均コストは介入群で7437.76ユーロ、通常のケア群は5758.23ユーロであった。費用 対効果および費用効用分析にて、通常のケア群に比べた介入の有効性は低く、しばしば高価で あった。感度分析はこれらの所見を支持していた。 150人の関節リウマチ患者を対象とした RCT では、介入群(統合的なケア、職場参加型のプ ログラム)とコントロール群で、1年後のフォローアップで職場における生産性などの指標で 差を認めなかった79)。この研究では、この介入プログラムについては、対象者を、より制約の 強く、仕事が不安定な就業中の関節リウマチ患者に絞るべきだとしている。 上司の支援に対する介入プログラムの評価を検討するために、関節リウマチ患者に対して RCTを行った80)。コントロール群には従来通りの対応をした。アウトカムは、6か月後の仕事 の生産性とした。結果は、上司の支援の向上は認めたが、関節リウマチ患者の仕事の不安定さ や生産性への影響は認めなかった。ただし、上司の支援は部下の健康に影響を与えていること から、今後もその可能性を検討していく必要がある。 仕事上の障害は、個人の性格、仕事の特徴、物理的な環境や就業制限に関する方針や人間関 係といった職場環境との相互作用の結果である。職業リハビリテーション上の介入方法につい てはまだ、十分な知見がない。潜在的な仕事の制限と必要な職業リハビリテーションの評価は、 働いている患者と働きたい患者の中で評価されるべきである。関節リウマチ患者を対象にした 就労継続と職場の復帰プログラムの開発と評価が必要である81)。 ⑸ その他 荒川らは、関節リウマチ患者会の効果と不参加者の要因を明らかにすることを目的に、外来 通院中の関節リウマチ患者90名へアンケート調査を実施し、患者会参加者30名と不参加者60名