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「ストレッチソックス」を応用した膝関節屈曲セルフストレッチングの効果

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Academic year: 2021

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(1)

【はじめに】

生活習慣病は国内の死亡割合の約 6 割を占めてお り、今後ますます増加していくことが予想される1) そのなかで、ストレッチング後血糖値が低下したこ とから、有酸素運動と同程度までとはいかないまで も糖尿病などの生活習慣病の予防に効果がある可能 性が報告されており2)、運動習慣がない者が最初に 始めるエクササイズとして利用できると考える。 ストレッチングには静的ストレッチングと動的ス トレッチングがある。静的ストレッチングは 30 秒 程度筋の伸張により、ハムストリングの柔軟性や関 節可動域の改善が見込めることが以前から報告され ているが3)同じ姿勢をとり続ける必要がある。一方、 動的ストレッチングでは、同じ姿勢で筋を伸張する のではなく、伸張したい筋の拮抗筋に対して収縮を 促すことにより、ストレッチング効果を得るという ものである。1 ヘルツ(1 秒間に一回)で 20 回以上 行うことで可動域だけでなく、筋力にも好影響を与 えることが報告されている4)。しかし、動的ストレッ チングの効果はスポーツ選手を対象にウォームアッ プで行うことを前提に実施された研究で示されたも のである。そのため、拮抗筋の機能について正しく 理解しないと効果が少なく、一般成人が健康増進の ために家庭で実施するエクササイズとしては難易度 が高いと考える。 一人でストレッチングを行う場合、長座体前屈や 腹臥上体反らしなど様ざまな方法が存在するが、柔 軟性が低いと目的とする筋に対して伸張効果を与え ることができないことがある。そこで、一人で効果 的なストレッチングを行うためにタオルやゴムバン ド、壁などを利用することがある。これらの利点は、 補助者がいなくても一人で伸張したい筋に対して十 分なストレッチング効果を与えることができる点で ある5)。このように、セルフストレッチングを行う 際には様ざまな補助具の検討が重要となる。 このような状況のなかで、ストレッチソックス ((株)横山セイミツ社製、特願 2018-171942)が開 発された。これを使用する者は、長い筒型に縫製し た特製のソックスに足部を通し、くりぬいた踵部に 安定させる(図 1)。そして、ソックスの端を手で把 持して手前に引くことで、下肢関節運動を促すこと ができるものであり、若年者から高齢者の健康増進、 原著

「ストレッチソックス」を応用した

膝関節屈曲セルフストレッチングの効果

*

福井 一輝

1)

  浦辺 幸夫

1)

  前田 慶明

1)

小宮  諒

1)

  森川 将徳

1)

  横山 宗治

2) 要旨 「目的」本研究は、セルフエクササイズ補助具であるストレッチソックスを大腿四頭筋のストレッ チングに応用した際の効果を明らかにすることを目的に実施した。 「方法」健常成人男性 7 名を対象とした。課題動作は腹臥位でストレッチソックスを用い、膝関 節 90°屈曲位から最大屈曲位まで動かす運動とした。これを 30 bpm で 2 分間実施し、介入前後 に最大膝関節屈曲角度(°)、外側広筋の筋硬度を測定した。 介入前後の各測定項目の比較に、 対応のある t 検定を用いた。 「結果」最大膝関節屈曲角度は、介入前 126.8±4.3°、介入後 129.8±4.5°となり有意に増加 していた(p<0.01)。外側広筋の筋硬度は、介入前 35.0±3.0、介入後 30.0±2.6 であり有意な 低下を認めた(p<0.05)。 「結論」ストレッチソックスを用いた膝屈曲運動は、腹臥位で簡便に実施可能であり、大腿四頭 筋のストレッチング効果が得られることが示された。 (理学療法の臨床と研究 30:69-72,2021) キーワード セルフストレッチング、関節可動域、大腿四頭筋

* Effect of knee joint flexion self-stretching, using “Stretch Sox”

1) 広島大学大学院医系科学研究科

Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University

2) 株式会社横山セイミツ YOKOYAMA SEIMITSU Co.,Ltd

(受付日 2020 年 7 月 22 日/受理日 2020 年 11 月 12 日)

- 69 -

(2)

術前患者や術後患者のリハビリなど幅広い年齢層で 使用されることを想定して開発されている。筆者ら は、若年者を対象にこのソックスを使用した足関節 背屈運動を 2 分間実施することで、足関節背屈角度 が増加することを確認した6)。しかし、現在のとこ ろストレッチソックスを用いた運動が関節可動域の 拡大につながるかどうかは足関節でしか確認してお らず、膝関節や股関節、体幹の可動域拡大につなが るかは不明である。 膝関節の柔軟性にかかわる筋として、大腿四頭筋 があげられる。大腿四頭筋のなかでも外側広筋の短 縮や過緊張は、膝蓋大腿関節症の発症要因になって いる7)。大腿四頭筋のストレッチング方法としては、 腹臥位で他動的に膝関節を最大屈曲させる方法が多 く用いられている8)。しかし、高齢者自身が 1 人で このストレッチングを行おうとした場合、膝関節の 最大屈曲角度を十分に得ることは困難であることが 多い。そのため、大腿四頭筋に対して十分に効果的 なセルフストレッチングが出来ていないのが現状で ある。 そこで今回、ストレッチソックスを応用した大腿 四頭筋のセルフストレッチング方法を考案し、その 効果を確かめることで、簡便に行える大腿四頭筋の セルフストレッチング方法を提案できると考えた。 仮説は、ストレッチソックスを用いたセルフスト レッチングが大腿四頭筋の柔軟性を向上させ、膝関 節屈曲可動域を大きくするとした。

【対象および方法】

1.対象 本研究は一群の事前事後テストデザインとし、膝 関節に整形外科的疾患のない健常成人男性 7 名(年 齢:23.5 ± 1.0 歳、身長:169.3 ± 5.0 cm、体重: 67.5 ± 9.3 kg、BMI: 23.6 ± 2.3 kg/m2)を対象とし た。本研究の対象には、ヘルシンキ宣言にもとづき、 研究の目的および方法を十分に説明し、書面にて同 意を得た。なお、広島大学疫学研究倫理審査委員会 の承認を得て実施した(承認番号:E-2041)。 2.方法 1)課題動作 対象は、図 2-a に示すようにストレッチソックス を足関節に通し腹臥位をとり、ストレッチソックス を頭頂の上から両手で把持する。膝関節 90°屈曲 位を開始位置とし、両手でストレッチソックスを膝 関節最大屈曲角度まで牽引し(図 2-b)、再び 90° 屈曲位まで戻す。これを 30bpm で 2 分間実施する膝 屈曲セルフストレッチングを課題動作として実施し た。なお、課題を実施中する際には下肢は完全に脱 力するように口頭指示を行った。 2)測定項目および方法 ストレッチソックスを用いた膝屈曲セルフスト レッチングの効果判定のために、課題動作前後で、 最大自動膝関節屈曲角度(°)および大腿四頭筋の 筋硬度の測定を実施した。最大自動膝関節屈曲角度 の測定肢位は腹臥位とし、東大式ゴニオメーターを 用いて対象がこれ以上自動で膝関節屈曲ができない 角度を測定した。大腿四頭筋の筋硬度の測定部位は 外側広筋とした。外側広筋は、膝関節最大屈曲時で 特に伸張される筋であるため8)、今回膝屈曲セルフ ストレッチングの効果判定に使用した。筋硬度の測 定には、デジタル式硬度計 NEUTONE TDM-Z2(TRY-ALL 社製)を用い、背臥位で安静にしている対象の大転 子と外側上顆を結んだ遠位 1/3 の部位を測定した9) 本研究で用いたデジタル式硬度計は、押圧による測 - 70 -

Journal of Physical Therapy Practice and Research (30) 2021

図1.ストレッチソックス装着時の足部

(3)

定対象からの抵抗の大きさを 0 から 100 で表示する。 この値は検者が上部ハンドルを押圧し、荷重が約 14.71 N になった時に測定子が受ける反力を意味す る。すなわち、表示される値自体には単位がないた め、メーカーが指定した N=0.0238 ×測定値 +0.532 の式にて、単位をニュートンに換算した。 3)統計学的解析 各測定項目の正規性を Shapiro-Wilk 検定で確認 後、正規性を認めた場合は対応のある t 検定、正規 性を認めなかった場合は、Wilcoxon の符号付順位検 定を用いた。有意水準はそれぞれ 5%とした。統計 学的解析には、SPSS ver.25.0 (IBM 社製 ) を用いた。

【結果】

表 1 に介入前後の測定項目の結果を示す。 最大自動膝関節屈曲角度は、介入前 126.8 ± 4.3°、 介入後 129.8 ± 4.5°、変化量は 3.0°となり、有意 に増加していた(p<0.01)。 外側広筋の筋硬度は、介入前 35.0 ± 3.0、介入後 30.0 ± 2.6、変化量は 0.12N であり、有意な低下を 認めた(p<0.05)。

【考察】

本研究は、ストレッチソックスを用いた膝屈曲セ ルフストレッチングを行い、大腿四頭筋の柔軟性改 善につながるかを検討した。その結果、最大自動膝 関節屈曲角度の向上、外側広筋の筋硬度の低下によ り、大腿四頭筋の柔軟性の改善が得られた。したがっ て、ストレッチソックスを用いた膝屈曲セルフスト レッチングが大腿四頭筋の柔軟性の改善に有用であ る可能性が示された。 今回用いた膝屈曲セルフストレッチングは、2 分 間 30bpm で実施したため、一定の角速度で筋に伸張 を加えられていたことが考えられる。他動的に当該 関節を一定の角速度で動かすことにより関節可動域 が改善することが明らかにされている10)。本研究で 実施したセルフストレッチングは、腹臥位で両上肢 によりストレッチソックスを把持した状態で、膝関 節屈曲 90°から最大屈曲角度まで上肢の力で動か してゆくものであった。そのため、動的なストレッ チングとは異なり目的とする筋の疲労感も少なくス トレッチングを実施することが可能であったと考え た。 また、セルフストレッチング前後で外側広筋の筋 硬度が 8.7%減少し、有意な低下が認められた。筋 硬度は、垂直圧力に対し筋によって提供される抵抗 力と定義することができる11)。これは、筋が長軸方 向に伸張される際の抵抗、すなわち筋スティフネス とは異なる指標であるが、筋硬度と筋スティフネス との間には一定の関係が存在しているとされる12) さらに、筋硬度計で腓腹筋のスティフネスを測定し た研究では、筋の長軸方向の伸張性と有意な高い相 関を認めたことが明らかとなっている13)。これらの ことから、外側広筋の筋硬度低下は伸張性の改善を 示していると考えた。さらに、外側広筋は膝関節最 大屈曲時により伸張されることから8)、他動的に膝 関節を最大屈曲させた今回のセルフストレッチング で同様に外側広筋をストレッチングできていたこと が示唆された。 本研究の限界について述べる。一つ目に、単一群 の事前事後テストであるため、静的ストレッチング や動的ストレッチングと今回のセルフストレッチン グを同一に比較できない点である。今回は、あくま でストレッチソックスを用いたセルフストレッチン グを行うことで可動域が改善したに過ぎず、ほかの 方法と比較した際の有用性に関して述べることはで きない。二つ目は、今回の対象が若年者である点で ある。そのため、実際に高齢者に対してもセルフス トレッチングが同様の効果を示すかどうかは不明で ある。高齢者に対してもの効果が生じるかを確認す るために、今後は高齢者を対象に研究を実施してい く必要がある。

【結論】

腹臥位で、ストレッチソックスを用いた膝屈曲セ ルフストレッチングを実施することにより、大腿四 頭筋の柔軟性の改善が期待できることが示唆され た。今後は、対象の年齢や目的部位の異なるストレッ チソックスを用いたセルフストレッチングの方法を 考案し、効果を検証していくことで幅広い年齢層に 対して、自宅でも可能な低負荷なセルフストレッチ ングが普及していくと考える。 - 71 - 理学療法の臨床と研究 第 30 号 2021 年 表1.セルフストレッチング前後の各測定項目の結果と変化率の比較 ιϩϓηφϪροϱή઴ ιϩϓηφϪροϱήޛ รԿི [Ჟ] p஍ ගؖઇ࠹୉ࣙಊ۸ۄֱౕ [°] 126.8 ± 4.3 129.8 ± 4.5 2.3 0.01 ۔ߙౕ [N] 1.37 ± 0.07 1.26 ± 0.06 8.7 0.02

(4)

【文献】

1) 厚生労働省ホームページ 平成 30 年(2018)人口動 態統計月報年計(概数)の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/ geppo/nengai18/index.html(2020 年 4 月 11 日引用) 2) Nelson AG, Kokkonen J, et al.: Twenty minutes of

passive stretching lowers glucose levels in an at-risk population: an experimental study. J Phys 57: 173-178, 2011

3) Bandy WD, Irion JM, et al.: The effect of time and frequency of static stretching on fl exibility of the hamstring muscles. Phys Ther 77: 1090-1096, 1997 4) 土井眞里亜,浦辺幸夫・他:静的および動的ストレッ チング後に生じる足関節可動域と筋力の経時的変化. 理学療法科学 25:785-789,2010 5) 岡本敦,青山有里・他:体つくり運動への PNF ストレッ チ の 導 入. 東 海 学 園 大 学 教 育 研 究 紀 要 4:17-20, 2018 6) 小宮 諒,浦辺幸夫・他:「ストレッチソックス」を 併用した足関節背屈運動が足関節背屈角度に与える即 時効果.第 6 回日本予防理学療法学会,広島国際会議場, 2019

7) Lin F, Wilson NA, et al .: In vivo patellar tracking induced by individual quadriceps components in individuals with patellofemoral pain.J Biomech 43: 235-241, 2010 8) 鈴木重行:ID ストレッチング(第 2 版).三輪書店,東京, 2006:pp212-213 9) 中村 翔,颯田李央・他:超音波画像診断装置を用い た膝屈曲自動運動時の外側広筋の動態観察.愛知県理 学療法学会誌 27:12-15,2015

10) Maeda N, Urabe Y, et al.: The effect of different stretching techniques on ankle joint range of motion and dynamic postural stability after landing. J Sports Med Phys Fitness 56: 692-698, 2016

11) Horikawa M, Ebihara S, et al .: Non-invasive measurement method for hardness in muscular tissues. Med Biol Eng Comput 31: 623-627, 1993 12) Murayama M, Nosaka K, et al.: Changes in hardness

of the human elbow fl exor muscles after eccentric exercise. Eur J Appl Physiol 82: 361-367, 2000 13) 中村雅俊,池添冬芽・他:筋硬度計で測定した筋のス ティフネスと受動的トルクおよび筋の伸張量の関連 性.理学療法学 40:193-199,2013 本論文の要旨は第 24 回広島県理学療法士学会に て発表した。 - 72 -

参照

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