Title
トマトの半乾燥地帯での周年多収生産を目指した効率的な
苗生産技術の開発に関する研究( 内容と審査の要旨
(Summary) )
Author(s)
中山, 正和
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第661号
Issue Date
2017-03-13
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/56209
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。[7] 氏 名(本(国)籍) 中山 正和(埼玉県) 学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第661号 学 位 授 与 年 月 日 平成29年3月13日 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻 研究指導を受けた大学 静岡大学 学 位 論 文 題 目 トマトの半乾燥地帯での周年多収生産を目指した効 率的な苗生産技術の開発に関する研究 審 査 委 員 会 主査 静岡大学 准教授 切 岩 祥 和 副査 静岡大学 教 授 鈴 木 克 己 副査 岐阜大学 教 授 福 井 博 一
論 文 の 内 容 の 要 旨
本研究では、イラン、シリア等中東の半乾燥地帯において、重要品目であるトマトの 周年生産を目指すため、現地に適した育苗生産技術の開発を行った。中東の半乾燥地域 はわが国同様に季節により温度差がある。よって、トマトの周年生産のため、季節の変 化に合わせて複数回作付けを行うことが、安定的な生産に有利であると考えらえる。わ が国において、作付けを数回行い周年生産を行うトマト低段密植栽培の技術開発が行わ れており、本技術の応用が中東においても有効な技術になると思われる。トマト低段密 植栽培では、圃場の有効活用のため、各作付けで株ごとの生育のばらつきを小さくし、 一斉に収穫・撤去作業を行うことが望ましい。斉一な生育を得るためには、斉一な環境 で管理する必要があり、そのためには出芽から生育を揃える必要がある。本研究では、 まずトマトの出芽揃いと第一花房の開花揃いとの関係について、次に出芽に影響すると 思われる培地の物理性とその含水率および水分布について調査した。また、途上国にお いて普及可能な仕組みを開発することを目的として、イラク北部クルド自治政府内にお いてトマトの作期拡大をはかるために、簡易閉鎖型苗生産システムを開発し、冬期のト マト苗生産の実現性について検討した。トマトの出芽揃いと第一花房開花揃いとの関係 について、播種し株ごとに播種から出芽までに要した日数(出芽所要日数)と出芽から 開花までの到花日数を調査し、出芽所要日数ごとの到花日数は12 月播種で 4、6、8 月播 種よりも有意に大きくなった。出芽は播種3 日後から始まったが、播種 4~5 日後までの 出芽率とすべての株の第一花房が開花するまでの日数には負の相関があった。また、セ ルトレイでの播種時の灌水量を変えた場合の播種3 日後の出芽率は 3、6 mL/穴区で 16 mL/穴区よりも有意に高くなった。さらに、種子へマトリックプライミング処理を行う と未処理区と比べ出芽は24 h、第一花房の開花揃いは 5 日程度早まった。従って、低段 密植栽培では、特に冬作において第一花房の開花を揃えるために出芽揃いは重要であり、出芽を揃えるためには培地含水率が重要であった。またマトリックプライミング処理は 出芽揃いと開花揃いを改善した。次に培地の物理性と水分状態がトマトの発芽率および 出芽率に及ぼす影響について調査した。セルトレイにピートモス主体の市販培地とロッ クウール細粒綿を比重を変えて充填し、与える灌水量を変えて播種 4 日後の出芽率を調 査した。出芽率は市販培地を粗く詰めた場合に最高となり、そのときのpF は 1.1 だった。 また、培地を充填する深さの違いにより出芽率は変化し、浅い方が広範囲の体積含水率 で高くなった。出芽には発芽とその後の根の伸長が影響することが示唆され、出芽率が 最大となった時のセル内の水分布は、上層の体積含水率が中・下層の体積含水率よりも 高かった。よって、発芽を揃え、その後の根の伸長を促し出芽を揃えるためには、セル の上層では発芽に必要な水分を供給し、中・下層では液相と気相とのバランスを確保す る必要があると考えられた。イラクでトマトの作期拡大をはかるために、簡易閉鎖型苗 生産システムと灯油ストーブを備えたビニルハウス育苗システムを開発し、トマトの冬 期苗生産の可能性を検討した。ビニルハウスシステムの設置費用は1,440 USD だったの に対し、簡易閉鎖型システムの設置費用は7,479 USD であった。苗の生育は、簡易閉鎖 型システムのトマトで茎長と茎径が有意に大きく、良質な苗を短期間で生産できた。経 済的なコストを計算した結果、冬期のイラクでの簡易閉鎖型システムの利用はビニルハ ウスよりも低いエネルギー消費量でトマト育苗を可能とし、新たに促成栽培が可能とな った。 以上、本研究で明らかにした育苗に関する知見と開発した技術を応用することで、イ ラクやシリア等中東地域において、トマト作型の拡大が期待できると思われる。また、 この結果はわが国においてもトマト低段密植栽培の技術革新に寄与すると思われる。
審 査 結 果 の 要 旨
中山氏は大学院修士課程を修了後、国際耕種株式会社に就職し、国際協力機構 (JICA)の専門家として、シリア、イラク、スーダンなど中東やアフリカの半乾燥 地帯における農業技術支援に尽力している。中山氏は、これまでに関わってきた途上 国支援活動の経験から、これらの地域において野菜栽培技術の向上が人々の健康や経 済的な活動にとっての重要性を感じ、その中でも地域に適した育苗技術の開発の重要 性を提唱し、そのための技術開発を主眼とした研究に取り組み、博士論文としてとり まとめた。公開論文審査会において、基礎論文に準じて次のような貴重な知見が示さ れた。 中東の半乾燥地域は、少ない降水量、高温や低温などの作物生産にとっての不良環境 要因により、ごく限られた地域、時期でしか栽培できず、多くは輸入に頼っている実 情にある。近年、経済発展や国際援助などにより近代的灌漑農業やハウスを利用した 施設園芸が普及しつつあり、国内生産の拡大が期待されているが、技術的にも未熟で、 野菜苗の育苗においても発芽率が悪く多くの課題を抱えている。 同氏はこれらの地域での育苗技術向上を目指し、次のような研究を行った。①トマ トの低段密植栽培における開花揃いに及ぼす出芽揃いの影響の解析。②出芽揃いに及 ぼす培地物理性の影響の解析。③途上国普及型の簡易閉鎖型苗生産システムの開発をイラク国クルド地域で試作し、その普及の可能性と展望について検討した。 ①ではトマトの出芽揃いと第一花房開花揃いとの関係について、播種から出芽まで に要した日数(出芽所要日数)と出芽から開花までの到花日数を調査し、出芽所要日 数ごとの到花日数が時期により異なること、出芽は播種3 日後から始まったが、播種 4~5 日後までの出芽率とすべての株の第一花房が開花するまでの日数には負の相関 があること、播種3 日後の出芽率はセルトレイでの播種時の灌水量が 3、6 mL/穴 区で16 mL/穴区よりも有意に高くなることを示した。さらに、種子に対するマト リックプライミング処理は、未処理区と比べ出芽は24 時間、第一花房の開花揃いは 5 日程度早まった。従って,特に冬作において第一花房の開花を揃えるためには出芽 揃いは重要であり、出芽を揃えるためには培地含水率が重要であることを明らかにし た。また、マトリックプライミング処理は出芽揃いと開花揃いを改善することを示し た。 ②では、セルトレイにピートモス主体の市販培地とロックウール細粒綿を比重を変 えて充填し、与える灌水量の異なる条件下での出芽率に及ぼす影響を調査した。出芽 率は市販培地を粗く詰めた場合に最高となり、そのときのpF は 1.1 だった。出芽は 発芽とその後の根の伸長に対する培地の物理性が影響することが示唆され、出芽率が 最大となった時のセル内の水分布は、上層の体積含水率が中・下層の体積含水率より も高かった。よって、発芽を揃え、その後の根の伸長を促し出芽を揃えるためには、 セルの上層では発芽に必要な水分を供給し、中・下層では液相と気相とのバランスを 確保する必要があることを示した。 ③では、イラクでトマトの周年栽培を目指すため、簡易閉鎖型苗生産システムと慣 行の灯油ストーブを備えたビニルハウスでの育苗を比較し、冬期のトマト苗生産の可 能性を検討した。初期設置コストを検討した結果、ビニルハウスシステムでは1,440 USD だったのに対し、簡易閉鎖型システムのでは 7,479 USD であった。苗の生育は、 簡易閉鎖型システムのトマトで茎長と茎径が有意に大きく、良質な苗を短期間で生産 できることが示された。ランニングコストを計算した結果、冬期のイラクでの簡易閉 鎖型システムの利用はビニルハウスよりも低いエネルギー消費量でトマト育苗が可 能であった。以上のことから、初期コストをクリアすれば、簡易閉鎖型システムは有 効であり、中東地域においてトマトの作期拡大に寄与できることが示された。 本研究は、わが国においてトマト低段密植栽培における育苗技術の発展に寄与し、 その技術を半乾燥地域に応用することで、トマトの作型の拡大と生産の向上の可能性 を示した。審査の結果、審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科 の学位論文として十分価値あるものと認めた。 基礎となる学術論文
Nakayama, M., Hussein, A., Bapir, M. S., Kiriiwa, Y., Suzuki, K., Nukaya, A. 2016.
Development of a simplified closed-type transplant production system and its potential for tomato seedling production during winter in the Kurdistan region, northern Iraq. Journal of Arid Land Studies 26:9-16.
中山正和・中山幸司・切岩祥和・鈴木克己・糠谷明.2017. トマトの低段密植栽培 における開花揃いに及ぼす出芽揃いの影響.園学研.印刷中 既発表学術論文 堀田明樹・中山正和・西牧隆壯・渡邉文雄.2011.シリアにおける節水に向けた改 良型地表灌漑技術の現状と課題.沙漠研究21:89-95. 中山正和・堀田明樹・切岩祥和・糠谷明.2012.シリア国における水資源の有効利 用に向けた節水灌漑技術の普及活動と普及ツール.沙漠研究22:397-402.