最近のフランス国際家族法における公序の動向≪国
際家族法研究会報告(第2回)≫
著者名(日)
国際家族法研究会, 佐々木 彩
雑誌名
東洋法学
巻
53
号
2
ページ
315-318
発行年
2009-12-22
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000719/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja東洋法学 第53巻第2号(2009年12月) ︽国際家族法研究会報告︵第2回︶︾
最近のフランス国際家族法における
公序の動向
佐々木 彩 ︻ フランスにおける従来の公序論 国際私法上の公序は、法廷地国際私法において準拠法とし て指定された外国法︵以下、準拠外国法とする︶を適用した 結果、当該準拠外国法の適用結果が法廷地国の法秩序に反す る場合には、その適用を排除できる役割を担っている。より 厳密にいえば、国際私法上の公序条項の中には、外国法の適 用を排除すべき規定を定めている﹁排斥条項﹂︵例えば、わ が国際私法規定である法の適用に関する通則法第四二条﹁外 国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又 は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。﹂等が該 当︶と、絶対的に強行すべき内国法を定め、問接的にそれに 反する準拠外国法の適用を排除する﹁留保条項﹂︵例えば、 フランス民法第三条第一項﹁警察及び安寧に関する法律は、 領土内に居住するすべてのものを拘束する﹂が該当︶の形式 に分類することができるが、一般に、両者の使い分けはされ ておらず、同一の意味に解して問題ないであろう︵溜池良夫 ﹃国際私法︵第三版︶﹄︵有斐閣、二〇〇五年︶二〇九−二一〇頁 参照︶。 このように、本来適用すべき準拠外国法の適用を排除でき る公序条項の適用に当たっては、実質法上の公序条項と同 様、それが濫用されるのを避けるため、慎重に行わなければ ならない。そこで、公序則の発動は、いかなる場合に可能で あるかが間題となる。フランスは、かつて、アルジェリア、 モロッコ等、イスラーム法圏諸国を広く植民地として有して いた。その結果、イスラーム法が一夫多妻婚を認めることに より生じる問題、イスラーム法が夫からの一方的な離婚、い わゆるタラーク離婚を認めることにより生じる問題など、法 廷地であるフランスの法秩序に触れる事案が少なからず生じ ていた。そのような問題が生じた場合に公序則を発動する際 の基準として、フランス国際家族法において伝統的に用いら れてきたのが、﹁公序の緩和された効果︵①験什讐け雪幕号 一、o&冨建菖。︶﹂の理論である。それは、端的にいえば、権 利の獲得がフランスでなされているか、または、外国でなさ れているかによって区別されるべきと考える地理的要因に基 づくものであり、後者の場合には、公序則の発動は控えられ るという考え方である︵拙稿﹁国際私法における公序概念−普 遍的公序論の新たな構築1﹂比較法第三九号︵二〇〇二年︶四一 九頁、野旨賃α︾&搾∪邑二日Φヨ畳8巴胃一諒る08もま㌣ま9︶。 また、近年、破棄院判決でも支持されている﹁近接性の公序 ︵o&おE菖。号虞o臥巨けひ︶﹂と呼ばれる理論は、ドイツ的観念から関連付けられたものであり、公序の緩和された効果 の理論と結びついて現れている。近接性の公序は、国際私法 上の公序によって外国法の適用を排除するには、その準拠外 国法所属国と法定地国との間に最密接関連性︵国目窪富臥Φ− どお︶が見出されることを要するとするものであり、それ は、とりわけ、親子関係や離婚の問題において明示されてい ることが指摘されている︵ω震尽巳>&登零酵・三旨Φ毎呂自− 巴冒貯蹴声月器巴巴営9く一起幕ヨのω酵一Φもδ讐0ω窪お2江員 ω﹃目の80ぞBΦ○巳α①ω噸即一く讐Φぎ8毎蝕o墨=四≦讐浮ΦΦ巳o賄 9Φ8岳。窪ε昌る80qお器oコβおω舞もb89霊ヨ︶。例えば、 一九三三年二月一〇日の破殿院判決︵寒寂ミ織こミ㌣一。塗 9Nρ8$男昌巴は、﹁自然︵非嫡出︶親子関係の証明を禁 ずる外国法は、原則として、国際的公序に関するフランス的 概念に反しないとしても、その準拠外国法が、フランス国籍 又はフランスに常居所を有する子から親子関係を証明する権 利を奪う結果になるときは別であり、公序は通常であれば権 限のある外国法の適用に反対する﹂と判示した。同破殿院判 決において、法廷地であるフランスとの関連性が密接であれ ば、公序則の発動を認めることが明確に示されていることが 見て取れる。 ニ フランスにおける最近の公序 ここ最近の十数年来におけるフランス国際私法上の公序の 特色として、一様に指摘されているのは、フランス国際私法 における公序の例外にかかわる厳密な国家的性格が緩和され る傾向にあるという点である︵日巨R蔓≦鷺鉾∪登二b$旨甲 ぎ⇒巴ギ一奉88噂巳8︶。それは、ヨーロッパに起源を有す るもの、特に、﹁ヨーロッパ人権条約︵08<Φ呂8①ξo冨①甲 冨α8身o房α巴.ぎヨヨの︶﹂によって与えられる影響が広が りをみせており、必然的に、それは公序の例外に到達するで あろうといわれている︵≦讐舞β。F巳Oε。すなわち、同 条約によって表明された、私生活及び家族生活が尊重される 権利、両性平等といった、﹁基本権︵階o房︷8量日窪鐙員︶﹂ を公序の例外へ加えることが指摘されている。実際、フラン スの裁判例において、ヨーロッパ人権条約に基づく基本権の 介入は増加の傾向にあるといわれている。例えば、一九九〇 年一月三一日のフランス破殿院判決︵淘ミらミミ帖§㌣一8ρ 呂多︶は、養父母がブラジル国籍を有せず、かつ、ブラジ ルに居住もしていない場合、養子縁組を禁止するブラジル法 の規定がヨーロッパ人権条約第八条第一項、第二一条及び第 一四条に反するとして、ブラジル法の適用を排除している。 また、一九九四年六月一四日のパリ控訴院判決︵淘ミらミ 叙こミ㌣一〇拐葛貫︶は、性転換者の戸籍の姓の変更を禁止 しているアルゼンチン法の適用を排除するために、ヨーロッ パ人権条約第八条第一項﹁すべての者は、その私生活、家族 生活、住居および通信の尊重を受ける権利を有する。﹂の規 定に基づき、私生活及び家族生活の尊重に対する権利を裁判 316
東洋法学 第53巻第2号(2009年12月) 所において援用した。また、同条約は、イスラーム法諸国で 出生した女性に対してもしばしば援用されている。例えば、 モロッコ人夫婦についてモロッコで生じた夫からの一方的離
婚に関する一九九四年六月一日の破殿院判決︵寒ミミ
織ζミ㌣一〇綜巳貫︶、一九九五年一月三一日の破殿院判決 ︵尋寂註ミζミ㌣一8伊葛墜︶、一九九五年二一月一九日の破 殿院判決︵bミ轟お零葛ごは、配偶者の平等について定め ているヨーロッパ人権条約第七議定書第五条﹁配偶者は、婚 姻中および婚姻の解消の際に、配偶者相互間およびそのこど もとの関係において、婚姻に係る私法的性質の権利および責 任の平等を享有する。本条は、国がこどもの利益のために必 要な措置をとることを妨げるものではない。﹂の規定を通し て、女性の国内法における有効な差別的規定の適用を逃れさ せているといえるであろう︵まき9目謎ρ冨ω90房8且甲 目窪痘轟砂8墜図母O房ひ霞磐鴨お︵い.Φ誘ヨ覧Φ身RO一二昌Φ旨㌣ ぎ昌巴胃箒律昏8邑﹂⇒冨ωR魯巴曾鼠目窪鼠夷ぎぎ日帯のg 跨9冨鵬曾曾幕︵88yやお鋳拙稿﹁国際私法における公序と基 本権に関する考察﹂東京経営短期大学紀要第一七巻六〇ー六一頁︶。 このように、裁判例においては、ヨーロッパ人権条約に基 づいた基本権の概念が国際私法の場面でも取り入れられ始め ていることが見られる。しかしながら、基本権の概念を用い た公序則発動基準の統一は、主に、次に示す二つの理由に よって、容易には成し遂げられないといわれている。 第一に、基本権は相対的に曖昧な性格を有している。その 結果、何かにつけ、基本権の概念を援用することを認めるこ とになる。それは、絶対主義︵暮ω○ξ蔚目Φ︶に繋がる危険 性があり、基本権のひとつに反するとみなされるすべての準 拠外国法が、排除される可能性が生じる︵≦讐巴る冒F や一〇9︶。基本権が有する性格の観点から、同様の趣旨につい て指摘するものとして、次のような見解もある。すなわち、 国際私法規定は、諸外国の法の抵触の調整を目的としている のに対し、人権は普遍的であることが望まれるため、それは 必然的に統一性を有するものであり、国際私法においてヨー ロッパ人権条約の内容に基づきそれを援用するために準拠外 国法の適用を妨げることになるであろう︵曾目品ひる冒F 皐。。 。k<Φのい①∈①辞ρ︽いΦR。三筥Φ旨mぎ邑冥一くひ①二のω母・凶けω 8民曽日窪蜜員︾﹂口bミ外ζミ誉ミ跨尋ミ“ミ§淋§きω2ω一9段Φ。− 叶一gα①窓日﹃9σ自貰竃琶Φ−︾暮の写一ω8幻o魯ρ↓姦震蔓園①− <Φ“p8g巴≦霊Φ幕ζ斡緒g︽霊8ロ<Φ昌8①霞。忌Φ暮Φ号ω 饗・一房α2、げ。ヨ幕①二.巷旨8け一・ロα①ω8§①ωひ5凝曾Φω︾﹄墨 ら註昏織こミ︾︾一〇〇一も6鰹①班巳∼拙稿・前掲六一頁︶。 第二に、しばしば、裁判官は、外国法の内容を調査するこ となく、ヨーロッパ人権条約本文を直接に適用する誘惑にか られる危険性が生じる︵<お邑る冒F巳09︶。すなわち、こ こにおける危険性とは、裁判官が、渉外的訴訟事件におい て、基本権の適用性を確認するだけに留まり、かつ、渉外的訴訟の事案内容を勘酌することなく、基本権の適用を命じる ことに繋がる可能性があることである。 三 おわりに 以上、最近のフランス国際私法における公序の一動向につ いて、公序則の発動の面から基本権的観念の導入が裁判例に おいて目立ち始めていることに触れたが、基本権の概念の導 入は、抵触法の場面のみならず、外国判決を承認する場面で も看過することはできない。ほぼ全てのヨーロッパ諸国が加 盟しているヨーロッパ人権条約の中には、各国に共通する法 原則が定められており、それは、無論、国際民事訴訟法上に おいても表れている。 例えば、フランスの裁判所は、フランスに居住するイス ラーム人である妻に対して、外国においておこなわれた夫に よる一方的な離婚︵タラーク離婚︶の承認については、非常 に流動的な立場をとっていたが、二〇〇四年二月一七日に下 された五つの破殿院判決︵需ミミミこミ貰8鼠皐鍵88 ℃の霞帥=mB日﹄90ミ蕊無80企P誌Oρ88い曾mOきき隠︶におい て見られる立場については、その態度を決したといわれてい る︵笠原俊宏﹁国際私法におけるイスラム専制離婚﹂法学新報一 一三巻第一一u二一号︵二〇〇七年︶一〇〇頁以下参照︶。すな わち、第一に、外国判決は、それが公平であり、かつ、相手 方が関与するものでない限り承認されてはならず、第二に、 その基準を満たす外国判決であっても、婚姻解消事件におい ては、夫婦間の平等に関するヨーロッパ人権条約議定書第七 号によって求められている婚姻当時の平等が遵守されていな い限り拒否されるべきとするものとされている︵笠原・前掲 一〇九頁︶。同人権条約のみに基づいて問題の解決が図られ るのではなく、前出の﹁公序の緩和された効果﹂の理論、及 び、﹁近接性の公序﹂の理論等が相互的に作用して問題の解 決が図られるのはいうまでもない。しかしながら、今日、フ ランスを含む欧州連合︵田3需きd旨8︶の限られた範囲に おいて、抵触問題的処理から承認問題的処理への傾向につい て指摘されていることは注目すべきあろう︵笠原俊宏﹁わが 国際私法における登録パートナーシップについて﹂﹁二一世紀の 家族と法﹄小野幸二教授古稀記念論集︵法学書院、二〇〇七年︶ 所収五七五頁︶。抵触法上の間題としてではなく、外国判決の 承認上の問題として解決が図られる場面が増えれば、ヨー ロッパ人権条約はもとより、﹁婚姻及び親の責任についての 裁判管轄並びに裁判の承認及び執行に関する二〇〇三年一一 月二七日理事会規則︵ブリュッセルH規則︶﹂等に基づいて、 EU域内においては外国判決の承認が認められやすくなり、 フランスにおける公序の発動場面は︻層減少する傾向へ進む と思われる。 ︵東洋大学法学部非常勤講師︶ 318