判例研究 : 注射薬剤製造許可の責任
著者
高木 武
雑誌名
東洋法学
巻
29
号
1
ページ
91-96
発行年
1986-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003617/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja判 例 研 究
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注射薬剤製造許可の責任 ︵構驚甦ル、一︶ ︹事実︶筋肉董のために大騒頭筋短縮症等纏患した患者︵蓉︶豪族が、注射薬剤を製造した製薬会葉枇︶と 国に対して、損害賠償︵擁︶とし天四億円の支払を求めて出訴したが、裁判所は、製薬会社の賠償責任を肯定し、製造許 可・承認をした国の賠償責任を否定した。 ロ ロ ゑな なロに する はヤつぎのようであるの 一薬事法︵昭蓋︶は、医薬品の安全性の審査基準と審査手続窺定を欠いているが、厚生大彊、安全罐保のために 有害作用を追跡調査し適切な措置を講ずる権限と義務を付与し、右の責務は、国民各個人に対する義務である。しかし医薬 品の許可承認、その取消等︵瓢︶は、高度の専門技術的判断を琴る奮、ある程度の裁量性は、否定できない. 二厚生大臣の指示権限︵坐縢︶は、同条編定の経緯に徴しても、その広藝裁量箋ねられているものというべ尊 あり、その権限の不行使には、権限の濫用は、認めがたい。 東 洋 法 学 九一判 例 研 究 九二 ︹研 究︺ 右の一は、支持できない。二は、ほぽ支持できる。 一 昭和二三年当時の薬事法と昭和三五年当時の薬事法の医薬品安全確保に関係のある主な規定の改正部分を中心 にして示すと、つぎのようなものであった。 a 薬事法︵調一一︶は、薬事を規制し、その適正を目的にしていたが、薬事法︵理一一︶は、医薬晶、医薬部外品等に薬 事︵噸一一︶を分け、これらに関する事項を規制し、その適性をはかることを目的とする︵欄上︶。 b 薬事法︵瑠一一︶は、登録制をとっていたが、医薬品を業として製造しようとするときは、製造所ごとに厚生大臣 の許可を受けなければならない︵遡、荏ル︶。
c 日本薬局方に収められていない医薬品を製造しようとする老は、製造許可を受けるには、一定の基準
︵翼、商.︶に適合し、かつ晶目ごとに厚生大臣の承認を受けることが必要である︵詔注伍四卜︶。 d 医薬品に添付する文書・能書への用法等の一定事項の記載義務︵昭班議︶又は製造無承認の一定事項の記載禁止 ︵昭狂駈︶等の規定があった。 右規定では、医薬品の安全確保に関する規定としては、とくに製造許可・承認の規定が目立つ。これを各論的に分 説すれば、つぎのようである。 ω 目的 薬事法は、右のように規定するが、﹁規制﹂の対象は、医薬品等の規制であるか又は医薬晶等それ自体 の適正をはかるのか不明であろう。又医薬品は、③日本薬局方に収められているもの、⑤人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されているものであって器具器械ではないもの、又は、◎人又は動物の身体の構造又は機能に影 響を及ぽすことを目的とするものであって器具器械でないものである︵超一富︶。とくに食物と医薬晶の区別は、困難 である。それは、食物は、﹁医薬品﹂といわないだけであるからである。 ω 製造許可 製造許可は、もっともすぐれた規制の手段である意味では、医薬品の安全確保の性質がもっともあ るものであるといえるが、許可を登録と同じように解するものもある。しかし登録は、公簿に一定事項を記載するこ とであり、むしろ許可・免許の方法である。この意味では、許可︵畷購謝珂︶に登録︵調、一︶が改正されたことは、一層、 医薬品の安全確保的になったといえよう。しかし、この場合でも許可は、警察許可であるから、一般・抽象的危険の
防妾晶とする︵酬騨麟霧薦醜議糠備臨峰鉾聚顔獣雛糠旙︶.
㈹ 承認 承認は、あることがらを認める表意行為であろう。ここでは品目ごとに承認を受けることが臼本薬局方 に収められていない医薬品を製造しようとする者が製造許可を受けるための一要件であり、承認を受けていないとき は、その製造許可が与えられない︵超蓋レ餅四︶から、特別の承認であり、重要で、医療品の安全確保をささえている 意味もあろう。この承認について、承認は、確認であるか︵樺葡政︶許可であるか︵擶緻︶という説が対立している︵琉覇 嬉舷紛調醐糖み卸匙が、右のように、この承認は、特別のものである。たんに確認か許可かを決定すべぎものではない であろう。それは、この議論の対立は、国家賠償を意識したものであり、国家賠償の消長には、さして関係がないと 考えられるからである。むしろ安全確保の意味から考察すべきである。 ㈲ 医薬品の文書・能書への一定事項の記載義務と禁止︵調蓋笥一五︶の規定 これは、薬事広告制限︵超矯︶と同じ東洋法学
九三判 例 研 究 九四 ような意味がある。この意味では、医薬品の安全確保性がつよいといえよう.それは、使用者︵患者︶の薬剤選択の 自由をある程度、確保しているといえるからである。 しかし右の医薬品の安全確保に関係のある主な規定︵制度︶は、拡散的であり、意味のあるものもあるが、概して 一般的である。したがって﹁有害作用を追跡調査し適切な措置を講ずる権限﹂は、右の規定からは、考えられない。 二 義務は、ここでは公義務であろうが、公義務は、公権に対する他人のためにする公法上の拘束である︵識稿餌畷 識拒︶。又公義務は、行政主体に属するものを国家的公義務というが、国家的公義務は、個人的公権に対応し実定法 化されない限り、法的義務にならず被行政主体にとっては必ずしも権利にならない。政治的であるために又当然のも のでもある。又個人的公義務の不履行には強制又は制裁があるのが一般的であるが、判決の﹁義務﹂は、実定法化も されていなければ、その不履行には強制又は制裁もない。結局、判決がいうように、決して、そうした義務は、法規 によって厚生大臣に付与されてはいない。又つぎに右の義務を﹁責務﹂にかえているが、このこと自体が、その義務 を、法的でなく政治的であることを明確にしているともいえよう。 三 許可や承認は、それぞれ右のωや㈹に見たようであるが、その取消も、許可に対応する独立の行政行為である。 許可は、一般的には、轟束行為であるとされているが、判決は、これらを含めて、すべて高度の専門技術的判断を要 するから、ある程度の裁量性は、否定できないという。なるほど行政行為には、裁量を必要とするものもある。しか し、ほとんどの場合、立法でなく、解釈として、その必要が認められている︵畷購霧葺肱町︶。そして学説の一部は、 類型的に許可は、轟束行為であることを忘却したように、これ︵糀伽︶を支持するが、ここには、ほとんどの場合、立
法の不備があり、その不備を指摘せず、むしろ立法的に補って解釈されている憾みを覚える。この製造許可︵昭一蓋︶ でも﹁その者がその物につき同条︵昭一一霊︶の規定による厚生大臣の承認を受けていないときは、許可が与えられな い。﹂と規定している︵翼猛.︶が、この規定では、裁量を認めていないし︵立法の不備がある︶、裁量性は、この許 可にはなく、この許可は、覇束行為である。又◎の食物との区別ができないことは、高度の専門技術性を弱めている から、とくに﹁高度﹂ということには、ためらいを感じるであろう︵爆備恥瀞堰獅齢鰍馳外勢嗣︶。 四 医師法は、厚生大臣は、公衆衛生上重大な危害を生じる虞がある場合、その危害を防止するために特に必要が あると認めるときは、医師に対して医療又は保健指導に関し必要な指示をすることができる。前項の規定による指示 をするに当っては、あらかじめ医道審議会の億見を聞かなければならない、と規定する︵鉱コ︶が、指示は指し示すこ とである。しかしその内容によっては、命令的行政行為である下命・禁止の実質をもつことがある。判決は、裁量性 がつよいようなことをいっているが、類型的には、轟束行為であるが、裁量行為であるとしても、羅束裁量︵法規裁 量︶である。それは、不確定概念であるが、公衆衛生上重大な危険を生じる虞がある場合のみでなく特に必要がある と認めるときに限定し、さらに指示に当っては、あらかじめ医道審議会の意見を聞かなければならないからである。 又医道審議会は、場合によっては、参与機関になり、意見を聞くことは、事前︵指示︶への行政手続でもあることに なる。厚生大臣の指示権の発動は、こうして轟束的であるのは、医師は、診療の自由・診療の独立をもつからである ︵峨瀟鶴噺悌擦室︶が、こうした方向からは、判旨が﹁同条項制定の経緯﹂から﹁その広範な裁量に委ねられている﹂と することは、必ずしも適切な説明であるとはいえないであろう。それは、又とくに法規は、立法者意思から独立して、 東 洋 法 学 九五
判 例 研 究 九六 むしろ法律意思によって運動するということができるからである。 判示は、示さなかったが、①医師の医療行為の結果、その効果に比較し放置でぎない重大な被害がある場合、②他 の医療関係法規による適切な措置も、医師の自主的な対策も講じられず、かつ③画一的、具体的指示によって被害発 生の防止の可能なときに限るとしている。しかし、このような状況は、一寸考えられまい。それは、そこでは、医療 ・診療不在しかないように考えられるからである。しかし、右にみたように、法規が規定する場合とときであれば、 厚生大臣は、あらかじめ医道審議会の意見を聞いて、それこそ﹁広範な裁量﹂︵∼︶によって指示権を行使しなけれ ばなるまい。なお、③では、画一的指示が期待されているようであるが、医師ごとに個別的指示もできると考えられ る。それは、とくにそうした場合ときには、指示ができ、個別的指示は法規には、禁止されていないからである。 なお判決理由全体として製薬会社に損害賠償責任を認めたことは頷かれるが、とくにその理由に、何か国が副作用 等の有害作用の情報収集等に遅れをとっても仕方がないよう趣旨が見られたことは、気になる。