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重度認知症者における認知機能検査に関する研究 : Cognitive Test for Severe Dementiaの開発

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(1)

重度認知症者における認知機能検査に関する研究 :

Cognitive Test for Severe Dementiaの開発

著者

田中 寛之

内容記述

学位記番号:論保第16号, 指導教員:西川 隆

(2)

大阪府立大学大学院

総合リハビリテーション学研究科

博士論文

重度認知症者における認知機能検査に関する研究

-CognitiveTestfOrSevereDementiaの開発一

2016年3月

田 中 寛 之

(3)

目次 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。・・・2 l.重度認知症者をとりまく現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 2.重度認知症者向けの認知機能検査・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 第1章CognitiveTestfbrSevereDementiaの開発・・・・.。・・・・・・・5 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1 . Ⅱ、方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 頂 l.CTSDの項目選定手lll...........・.・・・・・・・..、5 条件 機 能 検 杳 に 求 め ら れ る 。 . ・ ・ ・ 5 l ) 重 度 認 知 症 者 向 け の 認 知 . ・ ・ ・ 2)項目の選定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 析およびCTSD完成版 ) C T S D の 試 作 版 の 信 頼 性 , 妥 当 性 の 分 . ・ ・ ・ ・ 1 0 3 2.倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・....・・・11

結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

m .

1.CTSDの設問構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.・・・・l1

考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 Ⅳ、 1.重度認知症者を対象とした認知機能検査・・・・・・・・・・・・・・13 2.CTSDの内容妥当性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 第2章CognitiveTestfbrSevereDementiaの臨床的有用性の検討・・・・・17 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 1 . Ⅱ、方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 l.対象者..・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.用いた検杳と実施手順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

(4)

3.実施環境・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 4.分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 倫理的配盧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 5 . 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 m . 検杳の成績 1.認知症重症度と認知機能..・・・・・・・・・・・・・・・20 2.CTSDの下位項目の成績分布と涌渦率・・・・・・・・・・・・・・・・23 3.CTSDの信頼性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 信頼 1評価者間信頼性,検杳-再検杏性,内的整合性..・・・・・・・27 4.CTSDの妥当性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 1)併存的妥当性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 2)構造的妥当性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 3)実施時間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 敏 5.CTSDの鋭件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 解釈件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 6.CTSDの 考察・・・・・・・.・・・・・・・・・・・・・・・・・・.・・・35 Ⅳ、 績分布 l . 各 認 知 機 能 検 杳 の 成 . ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 5 梶 2.CTSDによって把できる残存認知機能・・・・・・・・・・・・・・・35 3.CTSDの信頼性,妥当性, 鋭敏性,解釈性・・・・・・・・・・・・・・37

総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

研究の限界と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.・・・41

文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48

資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49

(5)

要約 博 士 後 期 課 程 で は 最 重 度 の 認 知 症 ま で 残 存 す る 認 知 機 能 を 測 定 で き る CognitiveTestfbrSevereDementia(CTSD)を開発し,臨床的有用性を検討した。 CTSDは13項目で7つの認知領域(記憶,見当識言語視空間行為,前頭葉 機能,社会交流)を有し,30点満点で採点する検査である。調査は2013年4月∼ 2015年6月にかけて,DSM-Vの診断基準により認知症と診断された患者で実施 した。全ての対象者にCDR,MMSE,HDS-R,SCIRS,CTSDを実施し,信頼性・ 妥当性・鋭敏性・解釈性について分析した。 結果として,対象者は160名(女性103名:男性57名)で,年齢は87.4 7.6, 重症度はCDR1群19名,CDR2群25名,CDR3群116名であった。全対象者で の各認知機能検査の平均得点は,MMSE7.5 6.2,HDS-R6.26.2,SCIRS17.7 =t9.6,CTSD19.7 9.0(O-30)であった。CTSDの信頼性については,総点におけ る評価者間・検査一再検査信頼性は,Speannanp係数がそれぞれ0.961,0.969(P <0.001)であり有意な相関が得られた。内的整合性についてはα係数が0.934で あり,CDR3群のみでは0.896であった。妥当性については,併存的妥当性に関 して,CDRl,2群で他の検査と相関を示さなかったが,CDR3群のみに相関が 得られた(r=0.867-0.914;P<0.001)。鋭敏性に関しては,CDR3群の53名の対 象者に半年後の検査得点の変化について検討し,有意な変化が認められた。解釈 性に関しては,最低得点を示した者の割合が2.5%で,床効果を示さなかった。 CTSDは最重度の認知症にいたるまで既存の認知機能検査より詳細に残存す る認知機能を評価でき,臨床的有用性が高い検査であることが示唆された。 Keywords:severedememia重度認知症cognitivefimctiontest認知機能検査 reliability信頼性validity妥当性 -1­

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緒言 1.重度認知症者をとりまく現状 平成24年時点で,朝田らの調査では,わが国の認知症者数は約462万人,Mild Cognitivelmpairmem(MCI)は400万人と推定されl),医療・介護対策が急がれて いる。 アルツハイマー型認知症(Ala1eimr'sdisease,以下AD)をはじめとする多く の認知症の経過においては,認知機能の重症度が中等度の段階に入るとともに 行動心理学的症候(BehavioralandPsychologicalSymptomsofDementia,以下BPSD) が目立ちはじめ,家庭内での介護が困難となって医療施設や保健施設・福祉施 設への入所・入院を要するようになる。その後は基本的な日常生活活動(Activities ofDailyLiving,以下ADL)の重症化も付け加わり,各施設における認知症患者の 重症化は一方的に進むことになる。 認知機能が極度に低下した重度認知症者の比率は認知症者全体の約2∼3割を 占めており2)3脚),入院・入所している重度認知症者の割合は非常に高い5)。 認知症者に適切な対応・ケア,ADL支援を行うには対象者それぞれの病状を 認知機能検査やADL尺度を用いて正しく評価することが重要である6)7)。しか し,重度認知症者においては詳細な客観的評価が困難であるため,介護者間で 病状に関する認識が異なることも多く,一貫性のあるケアを妨げる要因となっ ている。 これらのことから,重度認知症者向けの認知機能検査・ADL尺度は今後ます ます必要になってくるにもかかわらず我が国では研究が立ち遅れているのが現 状である。 2.重度認知症者向けの認知機能検査 現在わが国で使用されている代表的な認知機能検査としては,Mini-Mental StateExammation(以下MMSE)8),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下 m)S-R)9),AIzheimer'sDiseaseAssessmentScale(以下ADAS)'0)''),N式精神機能 検査12)などがある。 これらの検査は主に認知症のスクリーニングや軽度から中等度の患者を対象 2

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-とした検査法であり,認知機能障害の有無の検出には適しているが,重度認知症 者においては「床効果を呈する」「集中力が続かない」「教示が複雑である」など の問題点が指摘されており13)14)15)16),残存する認知機能の詳細な評価は困難であ る。 一方,包括的重症度評価であるClinicalDementiaRating(以下CDR)17)や FunctionalAssessmentStaging(以下FAST)18)は観察にもとづく評価法であり,軽 度から重度にわたる広い範囲の認知症について大まかな能力を把握するには有 用であるが,個別の患者の詳細な評価には適していない13)14)15)16)19)20)。Herrmann etal.21)は,重度に進行した認知症者のための評価測定には軽度認知症者とは異 なるアウトカムを選定する必要を述べている。 我々が調べ得た限りでは,重度認知症者用の認知機能検査法として,Severe CognitiveImpainnentRatingScale(以下SCIRS)'3),TheTestfbrSeverelmpainnent (以下TSI)'4),SevereMini-MentalStateExamination(以下SMMSE)'5),Severe ImpainnentBatteIy(以下SIB)'6),HierarchicDementiaScale(以下HDS)'9),modified OrdmalScalesofPsychologicalDevelopment(M-OSPD)22),SIB-shortversion (SIB-S)23),SIB-824),BedfbrdAlzhe伽erNursingSeverityScale(BANS-S)25),Severe ImpainnentRatingScale(SIRS)26),SevereCognitivelmpainnentProfile(SCIP)27), BaylorProfbundMentalStateExamination(BPMSE)28),andtheClinicalEvaluationof Moderate-to-SevereDementia(KUD;Swedishacronym)29)の13の検査法がすでに開 発されている。これらの検査の中でもSIBおよびSCIRSは中等度から重度認知 症者用の認知機能検査であり,日本語版を含めて各国で翻訳され30)31)32)33),臨床 的有用性が確認されている。 様々な国々で重度認知症者の認知機能を測定する試みが行われており,個別の 重度認知症者に残存する認知機能を簡便に把握する客観的評価法は今後いっそ う必要性を増すと思われるが,わが国においてこの分野の研究はいまだ立ち遅れ ており32)33),SlBとSCIRSを除いてこれらの検査法に関する国内の論説は見当 たらず,臨床的には未だあまり用いられていないと思われる。さらに,Volicer,et al.25),Doody,etal.28),Ericsson,etal.29)は,最重度認知症者においてはSIBなどの 重度向けの認知機能検査でも床効果を示し検査を実施することが難しいことを 指摘している。 -3­

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つまり,これまで多くの検査が開発されてはいるものの,いまだ国内では十分 活用されていない。しかも最重度認知症までをも評価するためには,以下に述べ るように,実施時間や反応様式,その国の生活で使用される物品,評点方法など 項目内容について検討し,床効果を示さない検査が必要であると思われる。 重度認知症の認知機能検査において,実施時間や反応様式などいくつかの点で その検査の形式が議論されている。 まず,実施時間について,SIBを開発したSaxton,etal.'6)は,重度認知症にお いては実施時間が短いほうが良いことを述べたが,Volicer,etal.25)とDoody,et al.28)は,SIBにおいても20分以上の実施時間を要し,重度認知症にとって注意の 持続が容易でないことを指摘した。反応様式については,Saxton,etal.16)と EncSSOn,etal.29)は,最重度認知症でも評価できるように可能な限り単純な言語で 評価を行い,挨拶や行為なども評価すべきであることを指摘した。また,評価の 様式としても最大限の能力を評価するために観察式よりむしろ,Perfonnance basedの評価であることが望ましいと指摘した。認知機能の領域について,Peavy etal.27)は,M-OSPDやBANS-Sでは,SIBやSCIRSと比較して評価できる領域 が少ないことを指摘した。文化や生活様式については,Ferraroetal.34)は,文化 背景的に沿った適切な項目を選択する重要性を述べている。例えば,原版の SMMSEには「cat」のspellingを答える質問項目が習熟知識(overleamedknowledge) に含まれている。しかし,spellingの課題は発音とspellが異なる英語特有の質問 項目であり,表記と発音が通常は一致する日本語には対応せず,日本人にとって は適切ではない。実施の簡便さについては,Doody,etal.28),やHaITelletal.15)は, SIBは訓練の実施について検査者はある程度訓練を積んだ専門家である必要が あり,特別な物品も必要であることを指摘している。 これまで述べた全ての検査において,重度や最重度認知症者を評価するにあた っては実施時間や,反応・評価の様式,認知領域,文化生活背景について,メリ ットとデメリットがあり,これらの要因をさらに検討し,重度∼最重度認知症者 にとって最も適切な認知機能検査を開発する必要がある。したがって,本研究で は,これまで重度∼最重度認知症者にとって,残存する認知機能を詳細に幅広く 測定できる臨床的に有用性の高い認知機能検査を開発し,その臨床的有用性を検 討することとした。

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­4-第1章CognitiveTestfOrSevereDementiaの開発 I . 目 的 既述した通りMMSEやHDS-Rなどの既存の認知機能検査では,重度認知症 者に対して床効果を呈し,残存する認知機能は正確に評価できない。しかし,重 度認知症者にも残されている認知機能の項目はいくつかの海外の先行研究で示 されている。本研究ではこれらの先行研究で開発された重度認知症向けの認知機 能検査から,床効果を示さず,重度∼最重度認知症者にとって適切と考えられる 項目を抽出し,新しい重度認知症用の認知機能検査であるCogmtiveTestfbr SevereDememia(CTSD)を新規に開発して,その内容的妥当性を検討することと した。 Ⅱ、方法 1 . C T S D の 項 目 選 定 手 順 CTSDの作成手順は次の通りであった。1)レビューした13の重度認知症者用 の認知機能検査について緒言で述べた,実施時間・反応様式・使用物品,評点方 法等の問題点を解決できる条件を見出す,2)神経心理学,老年精神医学に精通 した研究協力者である作業療法士,言語聴覚士,医師計8名により最重度認知症 まで適応可能と思われる項目を抽出し,設問項目が適切かいなかを検討するとと もに必要に応じて改変し試作版を作成,3)試作版を20人程度の重度認知症者に 対して実施し,信頼性・妥当性の分析,必要に応じて項目の改変,再抽出,得点 配分の変更を加えた。上記1)-3)の作業を3回繰り返して新たな検査を作成した。 1)重度認知症者向けの認知機能検査に求められる条件 まず,新しく開発する検査の内容妥当性を担保するため,これまでに各国で 開発・使用されてきた検査の特徴を把握し,重度・最重度の認知症者向けの認 知機能検査に必要な条件を検討した。筆者が調べ得た限りの13の重度認知症向 けの認知機能検査をレビューした。これらの検査に共通する目的は,重度認知 -5­

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症者の認知・行動特性を考慮に入れ,残存する認知機能を幅広く評価すること であり,それぞれの開発者らの報告では,実際に既存の検査に比べて残存する 認知機能をより詳細に把握しうることが示されている。以下に各検査の概要と 特徴を述べる。また,表1にそれぞれの検査の名称,報告者,公表年,項目数, 認知領域,満点,実施時間についてまとめておく。 HDS'9)は,ピアジェの発達概念,および認知症の階層的減退の原則に基づいて 考案された検査法である。見当識や記憶など20の領域で構成され,それぞれの 下位検査が5­10項目からなっており,段階的に難易度が高くなっている。 SIB'6)は,アメリカで開発され,現在はフランスやイタリアなどいくつかの国 でも翻訳・標準化されて,最も代表的な重度認知症者用の認知機能検査として, 各種の治療やリハビリテーションの効果判定に広く使用されている。わが国に おいても,新名ら(2005)32)により信頼性,妥当性が検証され,臨床的有用性が確 認されている。質問項目は40項目で構成されており,注意,見当識記憶,言 語視空間行為,社会交流の9つの領域を評価している。初版では満点は152 点であったが,改訂版では100点に変更され実施時間は30分程度である。 SIBのこの約30分という実施時間が長いという指摘を受けて,Saxton,etal. (2005)はSIB-shortversion(以下SIB-S)23)を開発している。SIB-Sで評価できる領 域はSIBと変わらず,質問項目を26項目,満点を50点とし,実施時間はおお よそ10-15分程度となった。 TSI14)は,8つの質問項目で構成され,運動,言語理解,言語生産,記憶,基 本的知識,概念化の6つの領域が評価される。満点は24点満点であり,実施時 間は10分程度である。 M-OSPD22)は,元来は2歳程度までの認知機能の発達段階を測定する検査を改 変して,FAST6,7に相当する重度認知症用に適応させたものである。評価され る項目は主に5つの項目であり,評価できる領域も他の検査に比べて限られて いる。満点は55点である。この検査の特徴として, 患者の最良の反応optimal perfonnance''に注目していることが挙げられる。患者の言語的反応で評価する 項目はなく,追視などの反応によって評価し,また実際に使用する物品は特に 指定されておらず,患者の注意が向けられやすい物を使用し,対象者の最大限 の能力が発揮できるよう周囲の環境への配慮も行っている。 -6­

(11)

BANS-S25)は観察式の評価法であり,満点は28点である。この検査の特徴と して,7つの評価項目には認知機能の評価だけでなく,睡眠や更衣など日常生活 能力の評価も含まれていることが挙げられる。各項目4段階に分けられ,点数 が高いほど認知・機能的能力が高いことを示す。観察式であるため簡易に使用 でき,包括的な残存能力の評価が可能であるが,他の検査と比べて詳細な認知 機能を測定するには不向きであると言える。 SCIp27)は,SIBやTSIなどの検査法によっては測定できる認知機能領域の数や 難易度の範囲が制限されているという弱点を克服し,より広範囲かつ詳細に認 知機能を測定しうる検査法として開発された。最大点は245点であり実施時間 は約30分である。SCIPは対象者の反応の正確さを判定するだけでなく,項目ご との認知プロセスまでも評価できるようにデザインされている。 B P M S E 2 8 ) は 2 5 項 目 の 認 知 評 価 ( B P M S E - c o g ) と 1 0 項 目 の 行 動 評 価 (BPMSE-behave)からなる検査法である。認知評価には見当識,言語,注意 運動の4つの領域が含まれている。満点が25点で,実施時間は約5分で可能で ある。 KUD29)は最近開発された評価法である。開発者のEricsson,etal.(2011)は,重 度認知症者の評価にあたって介護者は患者の能力をしばしば過小評価して残存 する最大限の能力を評価できていないことを指摘し,対象者の能力を引き出す 実際の反応にもとづくperfbnnancebased''評価の重要性を強調している。KUD は本来25項目からなるが,分析過程で主要な15項目のみが抽出されている。 それぞれの項目は社会的交流,記憶,言語,視空間ADLの5つの領域を評価 するものである。この検査で特徴的であるのは項目1-3の社会的交流の項目であ る。これらの項目は採点の対象ではなく,検査成績に影響を及ぼす検者・被検 者の良好な検査状況を成立させるために設けられたものである。それ以降の項 目は0-4点の範囲で評点化され,満点は48点である。実施時間は最大20分程度 である。 なお,本研究の終了後に公表された検査法も付記しておく。Themultimodal assessmentofcapacitiesinsevel℃dementia(MAC-SD)35)はスペインで開発された もので,認知機能評価パートとADL評価パートに分かれ,19項目からなり,満 点が97点である。SIBが最重度までは評価が困難であるとの指摘のもと重度と -7­

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最重度までのADLの評価をも含めたスケールとなっている。SIB開発以降は,よ り詳細に,かつ簡便に認知機能を把握しようとする試みがなされ,各国の生活様 式に即した項目が選定されていることが理解された。いくつかの検査には認知 機能のみでなく,ADLや行動的変化を評価する項目が含まれていた。しかし, ADLに関しても残存能力を詳細に把握するためには専用の評価法が必要であり 32),また各領域の特性が散逸してしまわないためにも,認知機能とADL・行動 的変化の評価は区別する必要があると考えられる。 各種の重度認知症者用の認知機能評価法が開発・改良されてきた経緯を振り返 れば,重度の認知症に特化した認知機能検査法に求められる特性や条件は,次の ようなものであると考えられる。①質問式検査(perfonnancebasedで非言語的応 答も評価できるものが望ましい),②実施時間はおおよそ10-20分程度,③質問 項目は10項目前後,④満点は30-50点程度,⑤評価される領域は5-9領域,⑥ 機能的能力は含まず認知機能のみを評価できるもの⑦評価者は特別な訓練を必 要とせず簡便に使用できる,⑧最重度認知症においても床効果・天井効果を示さ ない項目で構成する,の諸条件である。

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­8-表1重度認知症者向けの認知機能検査 検査名 満点 報 告 者 年 項 目 領 域 (点)

Ronnberg・L19) Saxton.JI6) Albert.M14) Volicer・L25) Auer.SR22) Pevy・GM27) Rabins.pV26) Doody・RS28) Harrell・LE15) Saxton.J24) Choe・JY13) Schmitt・FA24) Ericsson・I29) Heller.S35) Tanaka.H36) HierarchicDementiaScale(HDS) SeverelmpainnentBattery(SIB) TestfbrSeverelmpainnent(TSI) BedfbrdAlzheimerNursingSeverityScale(BANS-S) ModifiedOrdinalScalesofPsychologicalDevelopment(M-OSPD) SevereCognitivelmpairmentProfile(SCIP) SeverelmpainnentRatingScale(SIRS) BaylorProfbundMentalStatusExamination(BPMSE) SevereMiniMentalStateExamination(SMMSE) SeverelmpainnentBatteryShortversion(SIB-S) SevereCognitivelmpainnentRatingScale(SCIRS) SeverelmpainnentBattery-8(SIB-8) ClinicalEvaluationofModeratetoSevereDementia(KUD) MultimodalAssessmentofCapacitiesinSevereDementia(MAC-SD) CognitiveTestfbrSevereDementia(CTSD) 1 9 8 7 2 0 2 0 2 0 0 1 9 9 0 4 0 9 1 0 0 1 9 9 2 8 6 2 4 1 9 9 4 7 7 2 8 1 9 9 4 5 5 5 5 1 9 9 6 X 8 2 4 5 1 9 9 6 1 1 X 2 2 1 9 9 9 2 5 4 2 5 2 0 0 0 1 0 5 3 0 2 0 0 5 2 6 9 5 0 2 0 0 8 1 1 5 3 0 2 0 0 9 8 5 2 8 2 0 1 1 1 5 5 4 8 2 0 1 5 1 9 3 9 7 2 0 1 5 1 3 7 3 0 30 30 10 観 察 式 3 0 30 10∼15 5 10∼15 10∼15 10∼15 1 5 20 ※ lO ※不明 -9­

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2)項目の選定 1)に列挙した①∼⑧の重度認知症に求められる検査の条件に適合する評価項 目を選定した。選定は,神経心理学,老年精神医学に精通した研究協力者であ る作業療法士,言語聴覚士,医師の計8名が,レビューした検査法の中から最 重度認知症まで適応可能と思われる項目を討議を通じて抽出することにより行 った。具体的には,各検査の項目数,認知領域,点数,実施時間,設問内容を 確認し,次に,日本の文化・生活背景に適しているか,幅広い認知領域を評価 できているかを検討し,必要に応じて,既存の検査の項目が床効果を示してい るかどうかについて,各検査の原著を確認した。以上の手順で構成した項目群 をCTSDの試作版とした。 3)CTSD試作版の信頼性,妥当性の分析およびCTSD完成版 2)でCTSDの試作版を作成し,続いて,試作版の信頼性および妥当性を検討し た。対象者は医療法人晴風園今井病院の介護療養型病床に2013年4月∼8月ま で入院していた患者のうち,DSM-Vの診断基準に従い,病歴,症状,神経学的 所見および画像所見によって認知症と診断を受け,さらに重症度分類でCDR3 と評定された20名であった。除外基準として,l)重度の意識障害(頭部外傷後 の遷延性意識障害など),2)重度の失語,難聴,視覚障害,運動機能障害,3)検 査実施の1週間以内に新たに向精神薬を処方されている,4)主治医により,検査 が病状に悪影響を及ぼす可能性があると判断された,の諸項に当てはまるもの は除外した。 試作版の信頼性については,内的整合性,検査一再検査信頼性を,妥当性につ いては対象者の直近1ヶ月以内のMMSEとHDS-R,SCIRSとの併存妥当性を検 討した。また,試作版の総点および各項目の点数の床効果について検討した。 内的整合性については3回の試作版改編の過程でCronbachα係数が0.8(P<0.01) 以下になることはなかった。また検査一再検査信頼性についてもCTSDの総点お よび各下位項目の得点に関して,Speannan順位相関係数が0.7以下(P<0.01)にな ることはなかった。妥当性については,CTSD総点とMMSE,HDS-R,SCIRS おのおのとのSpeannan順位相関係数が0.8以下(P<0.01)になることがなかった。 しかし,床効果の検討においては,試作版検討中にいくつかの項目が床効果を -10­

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呈したため,項目を再抽出,あるいは,質問内容,配点を修正した。また,10-20 分程度で実施できるように,認知領域の重複を可能な限り避けて項目数を減ら すよう努めた。 これらの手順を踏み,CTSDを作成した。この試作版を20人の重度認知症の 対象者に実施し,設問内容や使用物品,採点方法を修正した。以上の手順を踏ん でCTSDが完成した。 2.倫理的配慮 研究協力についての説明は対象者の家族に口頭と文面にて説明を行い,同意書 に署名を得て実施した。本研究は,大阪府立大学大学院総合リハビリテーション 学研究科研究倫理委員会の許可の承認を得て実施した。 Ⅲ、結果 1 . C T S D の 設 問 構 成 我々が開発したCTSD36)は,海外で先行開発されてきた重度認知症者用の認知 機能検査の項目から,最重度まで適応可能で,幅広い認知領域を測定できる項目 を抽出して構成されており,perfbnnancebasedでありながら特別な物品を必要と せず簡便に実施できることから,これまでの最重度を対象とした認知機能検査の 弱点を克服した検査であるといえる。認知領域は,社会的交流,記憶,言語,視 空間能力,見当識,前頭葉機能,行為の7領域の13項目を含み,30点満点で評 点される。各項目の設問に対して被験者から反応が得られなければ最大3回まで 質問を繰り返す。実施時間は10分程度である。CTSDの各項目は以下のとおり である(資料1)。 項目 は,検査者の挨拶に対する被験者の反応について評価する。この項目は, SIB,M-OSPD,BANS-S,SIRS,SCIP,KUDから抽出し,修正したものである。 検査者は,被験者に近づいて「こんにちは。(おはようございます。)」と言い, 口頭で挨拶を返すか,もしくは適切な身体反応で返すことができれば3点,検査 者のほうを見るだけなら2点,検査者が被験者の身体に触れることで口頭や身体 反応が得られれば1点である。 -11­

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項目2は,重度認知症まで保たれる自己に関する見当識について評価する。こ の項目は,SIB,SCIRS,SMMSE,SIRS,SCIP,BPMSE,KUDから抽出し,修正した ものである。検査者が被験者本人に名前(女性なら結婚後の名前)を尋ね,姓名 を正しく言うことができれば3点,姓か名のどちらか一方を答えることができれ ば2点,もし,被験者が名前を答えることができなければ,被験者の名前と検査 者の名前の双方を選択肢として伝え被験者の名前を認識できれば1点である。 項目3は,被験者の誕生日に関する意味記憶について評価する。この項目は, SMMSE,KUD,SIBから抽出し,修正したものである。検査者が被験者の誕生日 を尋ね,月,日,年を正しく言うことができれば2点,月・日もしくは年のいず れかを言うことができれば1点である。 項目4は,復唱能力について評価する。この項目はSCIRS,SMMSE,SCIP, BPMSEから抽出し,修正したものである。被験者は,「さくら・ねこ・電車」 の3つの言葉を復唱するように求められる。それぞれの単語の正答につき1点が 与えられる。 項目5は,呼称能力について評価する。この項目はSIB,SMMSE,SCIP,BPMSE, KUDから抽出し,修正したものである。被験者に時計と鉛筆を一つずつ掲示し, 呼称させ,それぞれの物品の正答につき1点が与えられる。 項目6は,視覚性即時記憶について評価する。この項目は,SIB,SCIP,KUD から抽出し,修正したものである。被験者に時計,鉛筆,コップの3つの物品を 同時に掲示し,覚えさせ,一度隠したのちに,再度思い出すように求める。それ ぞれの物品の正答につき1点が与えられる。時計と鉛筆は項目5で使用したもの と同じものを利用する。 項目7は,視空間能力について評価する。この項目は,SCIRSから抽出し, 修正したものである。被験者は,3時に設定された時計を読むように求められ, 正答すれば1点が与えられる。時計は項目5,6と同じものを利用する。 項目8は,行為について評価する。この項目は,SIB,TSI,SCIP,KUDから抽 出し,修正したものである。被験者は,くしと歯ブラシの2物品を使用するよう に求められる。検査者は,被験者に対して「これを使ってください」と言い,正 確に利用できればそれぞれの物品に対して2点与える。使用できなかったり,不 正確に使用した場合,くしならば「髪の毛をといてください」,歯ブラシなら「歯

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­12-を磨いてください」と言い,正確に利用できればそれぞれの物品に対して1点が 与えられる。 項目9は,色の呼称について評価する。この項目は,SIB,SCIRS,TSIから抽 出したものである。検査者は,赤い物品(例:赤い紙)を掲示し,色の名前を答 えるように求められる。正確に答えることができれば1点が与えられる。 項目10は,流暢性機能(語の検索機能)についての評価である。この項目は, KUD,SMMSEから抽出し,修正したものである。被験者は1分以内でできるか ぎり多くの野菜を答えるように求められる。1つか2つを答えることができれば 1点,3つか4つを答えることができれば2点,5つ以上答えることができれば3 点が与えられる。 項目llは,2つの口頭指示に対する反応について評価する。この項目は,SIB, SCIRS,SMMSE,SIRS,BPMSE,KUDから抽出し,修正したものである。「(あな たの)目を閉じなさい」「(あなたの)鼻を触りなさい」というそれぞれの指示に 対して正確に反応できれば1点ずつ与えられる。 項目12は,模写についての評価である。この項目は,SMMSE,SCIP,BPMSE から抽出し,修正したものである。被験者は5cm 5cmの正方形を掲示され, 模写するよう求められる。おおよそそれぞれの角が閉じられ形と大きさの謝りが なければ1点が与えられる。 項目13は,名前書字についての評価である。この項目は,SIB,TSI,SMMSE, SIRS,SCIP,BPMSEから抽出し,修正したものである。被験者は,鉛筆で白い紙 に自身の名前を書くように求められる。姓名が読める程度に正しく書くことがで きれば2点が与えられ,姓か名のいずれかが正しければ1点が与えられる。 Ⅳ、考察 1.重度認知症者を対象とした認知機能検査 現在使用されている多くの認知機能検査は,障害された認知機能領域の検出 と機能障害の変化の判定を目的に開発されたものであり,軽度から中等度の認 知症を対象とするものである。そのためそれらの検査法では,認知症が進行して 重度に至った場合,難易度の高さのために床効果が現われ,患者の残存機能を捕 -13­

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捉することが困難となる。 重度の認知症においても非言語的コミュニケーションや色の識別などの基礎 的な認知機能は保たれており,多くの研究者によってそのような残存する能力 を評価する試みがされてきた13)14)15)16)。重度の認知症において認知機能を評価す ることの意義は,個別の能力を重要視したパーソンセンタードケアに基づく QualityofLife(以下,Q.O.L)の観点が確立されるのに伴って見出され始めたも のと考えられる37)38)。これらの検査に共通する目的は,重度認知症者の認知.行 動特性を考慮に入れて,残存する認知機能を幅広く評価することであり,それぞ れの開発者の報告では,既存の認知機能検査の問題点を克服したことが強調さ れてきた。しかし冒頭に述べたように,これまでに開発された重度認知症向け の検査については,検査様式の一貫性の乏しさから様々なメリットデメリット が指摘され,ことに最重度の段階に至った認知症に対しても適切に使用できる 検査は開発されてこなかったといえる。 2 . C T S D の 内 容 妥 当 性 今回開発したCTSDの設問構成は,重度・最重度認知症者の残存する認知機 能を測定することを目的とされており,しかもその全項目が既存の重度認知症用 の認知機能検査から抽出されていることで,各項目と検査の構成概念は十分に関 連していると考えられ,内容妥当性は満たしていると思われる。しかも,CTSD は最重度認知症者にとって,デメリットが指摘されてきた問題点を解決し,これ までの検査の弱点を克服した検査であると考えられる。 以下に,先行研究からのレビューより導きだされた重度認知症の検査に要求さ れる8つの条件と,CTSDの構成と内容の妥当性について,既存の検査との比較 を含めて考察する。 ①質問式検査であることについて,Saxton,etal.'6)やEricsson,etal.29)は,重度 認知症においてさえも認知機能検査はperfionnancebasedの検査であることが望 ましく,検査のはじめに行う挨拶なども点数として考慮し,社会交流の項目も含 めるべきことを述べている。CTSDはすべての項目が対象者の反応を測定する項 目で構成されるperfonnancebasedな検査である。 ②実施時間について,Saxton,etal.'6)は,重度認知症者は,注意を20分以上 -14­

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持続させることが困難であることを指摘している。CTSDは,対象者20人の平 均所要時間が605.6 138.4秒であり,SIB-SやSMMSE,TSIなどと同様に,短 時間で実施可能である。 ③質問項目は10項目前後,④満点は30-50点程度,⑤評価される領域は5­9 領域,の3条件については,CTSDは13項目で,7領域を評価でき,満点も30 点であり,いずれも条件を満たしている。これまで開発されてきた検査と同様の 項目数で幅広い領域を測定できる。 ⑥機能的能力は含まず認知機能のみを評価できるものという条件については, SIRSやBANS-Sなど最重度までの認知症を対象とする既存の検査では,認知機 能だけでなく着座や単純な動作などの行動や活動も評価に含めてきた。Ferris,et a1.39)は,認知症の進行を正確に把握するためには,最重度に至っても認知機能 と行動や活動は区別して評価すべきであることを指摘している。CTSDには行動 や活動に関する項目は含まれず,他の検査よりも認知領域のみを評価している。 や歯ブラシを利用する行為の項目はあるが,これらの項目は失行の評価にもよ く利用されており,検査場面でのperfonnanceを評価するという点からも認知領 域に含まれていることは,妥当と考えられる。BPMSEは,最重度認知症までを も対象としており,認知機能と行動の評価を区別して構成されていて,CTSDと 同様に最重度の残存する認知機能を測定できるように思われが,BPMSEで評価 しうる認知領域は4領域のみで,かつperfbnnancebasedの検査ではなく, selfadministratedobservationalscale40)である。一方,CTSDは7領域を評価でき, かつperfonnancebasedである。 ⑦特別な訓練を必要とせず簡便に使用できるという条件について,ADASなど 伝統的な認知機能検査は特別な訓練や道具が必要であり,SIBやSCIRSでは専 用のブロックや刺激カードが必要であるが,CTSDは時計や鉛筆などのどこに でもある物品で実施可能である。さらに,最重度認知症者には,ベッドで寝たき りの対象者も多い41)が,CTSDはベッド上で寝たきりの対象者でも実施可能であ る。また,重度認知症者は,その国の文化や生活背景に影響を受けるので,特定 の国でしか使用されないような物品や言葉による質問の構成は避け,より普遍的 な物品や質問文で構成されるべきであるが,CTSDではこの点についても満たす ことができていると思われる。しかし,開発の段階では,20名を対象に,一人

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­15-の検者が実施するにとどまったため,「誰でも」簡便に使用できるかについては, 次章で報告するより大規模な検討を待たねばならなかった。 ⑧最重度認知症においても床効果・天井効果を示さない項目という条件につい て,Saxton,etal.16)は,SIBでは中等度から重度までの認知症を対象に残存する 認知機能を測定できることを示したが,その後,Volicer,etal.25)や,Ravins,etal.26), Doody,etal.28)は,MMSEが3点以下と定義されている最重度の認知症では,SIB やTSIによる認知機能の測定が困難になることを指摘している。CTSDは最重度 まで床効果を呈さないようにデザインされているが,開発の段階では対象者数が 十分でないためにこれも結論は持ち越された。床効果を検討するにあたっては, 最低でも対象者数が50人以上で検討する必要があると指摘されている42)。 以上より,第1章ではCTSDの内容妥当性は十分に検討されたと思われる。 しかし,課題として,特別な訓練を受けない評価者が簡便に,かつ適切に使用 できるかという点に関する信頼性と,床効果・天井効果を示さないという点に 関する解釈性の問題が残された。そのほか,開発段階においては,対象者数が 少ないために,妥当性,鋭敏性についても検討が十分実施できていない。 第2章ではより多くの対象者に関して,CTSDの信頼性,妥当性,鋭敏性, 解釈性を検討することにより,残された課題を検討して,重度・最重度の認知 症者にとってCTSDが臨床的に有用であるかいなかを検討する。 -16­

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第2章CognitivetestfOrSevereDementiaの臨床的有用性の検討 I . 目 的 第1章では,重度認知症向けの新たな認知機能検査であるCTSDを開発した。 第2章では,第1章で残された課題を解決するために,より多くの被験者にCTSD を施行し,検査成績の信頼性・妥当性・鋭敏性・解釈性を統計的手法を用いた検 討を加え,その臨床的有用性を確認することとした。 Ⅱ、方法 1.対象者 対象者は,医療法人晴風園今井病院の介護療養型病床に2013年4月∼2015年 6月まで入院していた患者である。認知症の診断は,DSM-Vの診断基準に従い, 病歴,症状,神経学的所見および画像所見によって認知症と診断を受け, AIzheimerdisease(AD),vasculardementia(VaD),Lewybodydementia(LBD), frontal-temporallobardegeneration(FTLD),そのほか(正常圧水頭症など)に分類 された。除外基準として,1)重度の意識障害(頭部外傷後の遷延性意識障害など), 2)重度の失語,難聴,視覚障害,運動機能障害,3)検査実施の1週間以内に新た に向精神薬を処方されている,4)主治医により,検査が病状に悪影響を及ぼす可 能性があると判断された,の諸項に当てはまるものは除外した。 2.用いた検査と実施手順 MMSE,HDS-R,SCIRS,CTSD4つの認知機能検査を用いて,認知機能を評価し た。各検査を以下に紹介する。 MMSEは元来認知障害のスクリーニングを目的とした検査であり,11の質問 項目から構成されている。評価できる認知機能の領域として,見当識(o面entation), 記銘(registration),注意と計算(attentionandcalculation),再生(recall),言語 (language)を含んでいる。満点は30点であり,23点以下が認知症レベルと判 定される。MMSEは一般的に教育歴との関連性が示唆されており,教育歴が8 -17­

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年以下になれば23点以下の得点の解釈に注意を要する。 HDS-Rは認知症を検出するためのスクリーニング検査として開発され,わが 国においてはMMSEとともに最も一般的に使用されているものである。HDS-R は9項目から構成され,MMSEと比較して,運動反応を要する項目はなく,す べて言語的反応を求める項目のみで構成されている。評価できる認知機能ドメイ ンとして,見当識(onentation),記銘(registration),計算(calculation),逆唱(digit span),再生(recall),語流暢性(wordfluency)を含んでいる。満点は30点であ り20点以下が認知症レベルと判定される。 SCIRSは重度の認知症を対象として開発された認知機能検査である。llの質 問項目から構成されており,記憶(memory),言語(language),視空間能力 (visuospatialfimction),前頭葉機能(fiPontalfimction),見当識(orientation)の認知領域 が含まれている。質問式の検査で,30点満点で評価される。 重症度はCDRを用いて評価した。 4つの認知機能検査は同週内の2∼4回に分けて,5人の作業療法士のうち各 対象者の担当ではない者が実施した。対象者の疲労を考慮し,同日には最大2 つの検査までとした。CTSDの評価者間信頼性を検討するために,CDR3群の対 象者から無作為に抽出した21名に対して,2名の検査者が1∼2週以内にCTSD を反復実施した。同じく,CTSDの検査一再検査信頼性を検討するために,評価 者間信頼性の検討を行わなかったCDR3群の対象者から23名を抽出し,l回目 の検査からl∼2週間以内に同一の検査者による2回目の検査を実施した。 3.実施環境 重度認知症患者は検査を行う環境によって成績が左右され,検査が困難になる 場合もあるため19),患者が検査に集中でき十分な協力が得られるように環境を 設定した。車椅子移動や歩行が可能な対象者には,個室において検査を実施した。 寝たきりの対象者には,周囲から視覚的・聴覚的な刺激が可能な限り入らないよ う病室のドアを閉め,ベッドの周囲をカーテンで遮って検査を実施した。 4.分析方法 CTSDの検査法としての質を,COSMINチェックリスト42)を用いて検討した。 -18­

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COSMINは,元来健康関連の患者報告式outcome尺度の方法論的質をチェック するための国際基準である。しかし,近年は患者報告式ではなく,認知機能検査 な どの 検 査 法 に つ いての 統 計 的 分 析 の 指 標 に も 活 用 さ れて お り , 現 在 で の outcome測定の開発に関する基本的指針となっている35)。 COSMINは,信頼性・妥当性・鋭敏性・解釈性にカテゴリが分類されており, さらにカテゴリの下位分類として,信頼性は内的一貫性,測定誤差,検査再検査 信頼性,評価者間信頼性に分類され,妥当性は,内容的妥当性,基準関連妥当性, 構成概念妥当性(異文化間妥当性,構造的妥当性,仮説検証)に分類されている。 これらの下位分類にはBOX.A∼BOX.Iのコードが付されており,それぞれの BOXにはさらに設問項目があって,各設問項目はexcellent∼poorの四件法で評 定される(例:BOX.A内的整合性サンプルサイズが100人以上であればexcellent, 50-99人であればgood,30-49人であればfair,30人以下であればpoor)。 CTSDの信頼性に関しては,検査一再検査信頼性と評価者間信頼性,内的整合 性を検討した。Kolmogorov-Smirnov検定によって測定値の正規性の検定を行い, 正規分布に従わないことを確認した。検査一再検査信頼性および評価者間信頼性 は,総点についてはSpeannanの順位相関係数,各項目については級内相関係数, 内的整合性はCronbach'scoefficientalpha係数を算出して分析した。級内相関係数 は,0.80-l.00でほぼ一致,0.60-0.79で十分に一致,0.40-0.59で適切,0.40以下 であれば不適切であるとされている43)。 妥当性に関しては基準関連妥当性を検討した。対象者全体とCDRl群,CDR2 群 , C D R 3 群 そ れ ぞ れ に お いて , M M S E , H D S - R , 日 本 語 版 S C I R S を 外 的 基 準 として相関性をSpeannanの順位相関係数により検討した。構成概念妥当性にお ける構造的妥当性については,CTSDの因子構造を明らかにするための探索的因 子分析を用いて,主因子法,プロマックス回転を実施した。鋭敏性に関しては, MMSEとCTSDの半年後の変化を比較した。解釈性については,重度・最重度 認知症群においてCTSDの最低得点を呈した対象者の割合から床効果を検討し た。データの統計解析には,SPSSVer.22.0を使用した。 5.倫理的配慮 研究協力についての説明は対象者の家族に口頭と文面にて説明を行い,同意書

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­19-に署名を得て実施した。本研究は,大阪府立大学大学院総合リハビリテーション 学研究科研究倫理委員会の許可の承認を得て実施した。 Ⅲ、結果 1.認知症重庁度と認知機能検査の成績 表2に対象者の内訳と属性を示す。対象者は160名(女性103名:男性57名) で,年齢は87.4 7.6歳であった。認知症の原因疾患別内訳は,ADが94名,VaD が51名,DLBが8名,そのほか7名であった。77人の教育歴情報が集められ平 均教育年数はll.8 4.2年であった。 対象者における認知症重症度は,軽度(CDRl)19名(85.0士6.l歳),中等度 (CDR2)25名(89.6zt7.9歳),重度(CDR3)116名(87.7zt7.4歳)であった。 全対象者での各認知機能検査の平均得点(最小値-最大値)は,MMSE7.5 6.2 (0-27),HDS-R6.2 6.2(0-27),日本語版SCIRS17.7 9.6(0-30),CTSD19.7 9.0 (0-30)であった。 CDR3群における各検査の平均得点(最小値-最大値)は,MMSE4.6i3.7(0-ll), HDS-R3.4i3.2(0-10),日本語版SCIRS14.1士8.7(0-29),CTSD16.3i8.3(0-30)であ った。CDR3群内では日本語版SCIRSとCTSDは既存のMMSE,HDS-Rと比較 して平均値が高く,標準偏差が大きかった。 全対象者において,MMSEとHDS-Rは低得点領域に偏りが見られるが,SCIRS とCTSDは高得点領域に偏りが見られる(図l)。CDR3群つまり重度認知症者 群においては,MMSEとHDS-Rは両方とも低得点領域に偏りが見られるが, SCIRSとCTSDは各得点領域に分散して得点が分布していた(図2)。 図3には,MMSEとCTSDスコアの分布図を示す。MMSEがlO点以下の重度 認知症者群はCTSDでは0-27点に幅広く分布している。MMSEが10点以上の 対象者はCTSDでは26-30点の範囲に分布している。

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-20-表 2 対 象 者 の 特 徴 合計 3 C D R 1 2 対象者(男,女) 19(7,12)25(11,14)116(39,77)160(57,103) AD:VaD:DLB:others 9 : 9 : 0 : 1 1 8 : 7 : 0 : 0 6 7 : 3 5 : 8 : 6 9 4 : 5 1 : 8 : 7 年 齢 士 標 準 偏 差 ( 年 ) 8 5 . 0 6 . 1 8 9 . 6 7 . 9 8 7 . 7 7 . 4 87.4 7.6 CTSD(点) 2 9 . 8 0 . 5 2 7 . 6 1 . 9 1 6 . 3 8 . 3 19.79.0 SCIRS(点) 28.7 1.326.5 2.314.1 8.7 17.7 9.6 MMSE(点) 19.1 3.612.3 2.84.6 3.7 7.5 6.2 HDS-R(点) 1 8 . 3 4 . 7 1 0 . 4 4 . 0 3 . 4 3 . 2 6.2 6.2 即 狗 釦 弱 銅 勢 い 0 1 釦 即 胴 鈎 蜘 扣 犯 騨 泌 。 ● ■ → 対 象 者 敷 避 マ 同 感

Ⅱ■.

■■.-一

­ 0・易 ひ ら 伝 二 0 ] 1 1 う ユ レ Z U MMSE 2:-25 2 か 北 け 3 0 1 1 1 コ 二 6 . Z O 』 凸 ・ 2 S HDS・R 蝿 即 幻 鈎 釦 胆 犯 銅 m O 1 対 象 者 飲 虻 鈍 如 郡 誕 恥 沈 誕 加 C l 対 象 稀 散

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C s 今 1 0 2 : 鱈 X も 。 』 0 2 1 』 う Z 6 . j O U ・ も レ ユ 0 口 5 0 1"1.余対象荷:こお!iろ件嬢侭リノ人放分,ii f吋鎮付ではMMSEしIIDS-RI"W}.1,1、仙城に分Aiしくいるが 点械城に分4jしている 1 1 1 3 3 b 』 u Z ら ・ 』 も Z ら j O SqRS S(、IRSL('TSDIMW -21­

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1α』 扣 印 釦 柵 犯 如 岨 。 1 対 象 者 散 邪 酬 沁 調 鋪 鈍 凝 沁 c 対 象 者 敗

ロ 0・も ひき 1 1 】 う ユ b ・ 』 0 』 X 2 5 』 今 j O MM5E ⑥ 。 : 0 1 1 吟 3 6 . 2 u 2 : ・ 2 母 』 各 』 ・ HDSoR 乞二。 如 卸 如 鈎 鋤 蝿 沁 如 沌 。 1 対 象 者 倣 l[K; 乳 釦 加 釦 卵 無 犯 沁 脆 C 対 象 者 散

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O ・ う 告 型 1 1 . 1 う Z b 2 0 認 . 婚 Z 6 j o ひ ら ひ 二 0 1 1 】 。 ユ b ・ よ り 当 二 ・ 2 S ざ ら 麺 口3D SqRS loxi2.CDR3群にお!ナろ併椴従ノ)ノ、欺分4j 靭墜'憩加iliではMMSELIIDS-RItWW.l棚域'二分イiji_,-ご、、ろが.S(、IRSし(、TSDは全 体的仁分術していろ 35 30 ◆ ◆

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10 5 0 0 5 10 15 20 25 30 35 M M S E ¦"3.MMSEしCTSDI=.おける得点ごl・の人数分伽 MMSEか0-9点の吋裳荷It<、TSDeliO-27点の姻蝦に分イijLておij,MMSEか10点以1, であれば,患しん睦i1%点を,l<LCいる -22­

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2.CTSDの下位項目の成績分布と下位項目通過率 表3は,全対象者および各重症度群におけるCTSDの各項目の平均点数を示 す。CDR1,2群は,CTSDの総点,各項目ともに平均点が高く,ほとんどが満 点に近い成績であり,平均点が低い項目はなかった。各項目の得点分布は全て高 得点領域に偏っていた。一方,CDR3群では挨拶の項目で平均点が高かったほ かは,とりわけ平均点の低い項目は見られなかった。MMSEおよびHDS-Rがと もに0点であった23人の対象者が,CTSDでは0-16点の得点分布を示した。 表4,5には,それぞれ,重度認知症者群(CDR3群)のみを対象としたCTSD お よ び M M S E の 各 下 位 項 目 の 通 過 率 を 示 す。 表 4 , 5 の ( ) 内 の 部 分 通 過 と は 各下位項目で部分的に正答して得点したこと,全通過とは各下位項目で完全に正 答して得点したことを意味している。 MMSEでは,復唱・呼称の通過率は高いが,その他の項目は通過率が低かっ た。特にCDR3群では通過率が0%で誰も回答できなかった項目も多かった。 一方,CTSDでは,各項目の難易度の高低は認められるものの通過率が0%の 項目はなく,残存する認知領域を評価できることが示された。 -23­

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表 3 C T S D 各 項 目 平 均 得 点 全対象者 項目 (n=160) 3 、 j ン l l 6 R Ⅱ

C / I CDRl (n=19)

C く 0 4 0 0 0 3 0 0 0 0 2 0 0 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 促 鮭 陛 肚 肚 壁 舩 肚 舩 陛 鮭 鮭 鮭 。 ● ● ● ● ● ● ● 、 ● ■ ■ ● 3 2 2 3 2 2 1 4 1 3 1 1 2 7 1 9 2 8 2 6 7 4 2 8 5 9 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 0 0 士 士 士 士 士 十 一 十 一 土 十 一 士 士 士 十 一 8 3 0 0 3 2 6 5 7 1 4 4 9 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 2 2 1 2 1 1 0 2 0 1 1 0 0 J 3 〕 j j j j j j 2 3 4 1 3 2 2 0 一 一 一 一 一 一 く 0 0 0 0 0 0 0

く く く く く く I j j 拶 己 生 唱 品 覚 刻 品 名 流 命 写 前 挨 自 誕 復 物 視 時 物 色 語 従 模 名 0 3 7 3 0 8 3 2 0 8 2 3 5 ● ● ● ● ● ● ● ● ゆ ● 、 ● ●

3 2 1 2 2 2 0 4 1 2 2 0 1 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 。 ● ● 7 2 8 3 9 0 5 7 5 0 9 4 8 ● ● ● ● ● ◆ ◆ ● 合 ● ● ● 旬 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 0 0 狂 肚 旺 狂 肚 肚 鮭 吐 & 鮭 丑 丑 ● ● ● ● ● ● ■ ● ■ ● ● ● ● 2 2 0 1 1 0 0 2 0 0 1 0 0 合計 19.7 9.029.8士0.527.6士1.9 16.318.3 -24­

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表4CDR3群におけるMMSE下位項目通過率 通過率 下 位 項 目 領 域 (%) 復唱(部分通過) 呼称(部分通過) 呼称(全通過) 復唱(全通過) 三連命令(部分通過) 県の見当識(全通過) 読字命令(全通過) 計算(部分通過) 季節の見当識(全通過) 文復唱(全通過) 市の見当識(全通過) 三連命令(全通過) 建物の見当識(全通過) 階数の見当識(全通過) 遅延再生(部分通過) 構成(全通過) 地方の見当識(全通過) 年の見当識(全通過) 月の見当識(全通過) 日の見当識(全通過) 曜日の見当識(全通過) 計算(全通過) 遅延再生(全通過) 文章記述(全通過) 壺 叩 二 一 口 68.6 62.7 46.6 39.8 37.2 22.0 18.6 l l . 8 6.7 5.l 4.3 4.2 2.5 1.7 l.7 1.7 0.8 0 0 0 0 0 0 0 壷 四 二 一 口 奉 叩 二 一 口 壺 叩 二 一 口 壷 叩 二 一 口 見当識 壷 四 二 一 口 前頭葉 見当識 壷 四 二 一 口 見当識 菫 叩 一 一 一 一 口 見当識 見当識 記憶 視空間 見当識 見当識 見当識 見当識 見当識 前頭葉 記 憶 雲 中 二 一 口 -25­

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表5CDR3群におけるCTSD下位項目通過率 通過率 下 位 項 目 領 域 (%) 挨拶(部分通過) 挨拶(全通過) 名前(部分通過) 復唱(部分通過) 動作命令(部分通過) 行為(部分通過) 呼称(部分通過) 色名呼称(全通過) 動作命令(全通過) 名前(全通過) 誕生日(部分通過) 視覚記銘(部分通過) 復唱(全通過) 呼称(全通過) clockreading(全通過) 行為(全通過) 名前書字(部分通過) 語流暢性(部分通過) 模写(全通過) 誕生日(全通過) 名前書字(全通過) 語流暢性(全通過) 視覚記銘(全通過) 社会交流 社会交流 見当識 94.9 84.5 79.7 70.3 70.3 68.6 66.1 65.3 55.1 55.0 47.4 46.4 44.9 44.9 44.9 32.2 31.3 26.3 24.6 22.9 16.1 10.1 8.4 菫 叩 二 一 口 菫 四 二 一 口 行為 雪 叩 二 一 目 菫 叩 二 一 口 菫 叩 二 一 口 見当識 記憶 記憶 壷 叩 二 一 口 圭 叩 一 三 口 視空間 行為 菫 叩 二 一 口 前頭葉 視空間 記憶 言語 前頭葉 記憶

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-26-3 . C T S D の 信 頼 性 1)評価者間信頼性,検査-再検査信頼性,内的整合性 CTSDの評価者間信頼性は,CDR3群でかつMMSEが10点未満の者の中から 無作為に抽出した21人を対象に,2週間以内に2人の作業療法士が検査を実施 することによって検討した。検査者の2人の作業療法士は,実施・採点方法につ いて筆者からマニュアルを渡され­度だけ説明を受けたうえで検査を実施した。 総点についてはSpeannanの順位相関係数0.961(P<0.001)で,各項目の信頼性 は級内相関係数(ICC)0.6194.973(p<0.05orO.001)であった。 検査一再検査信頼性は,評価者間信頼性の対象者を除いて無作為に抽出した23 人を対象に,2週間以内に検査を2回実施して検討した。総点についてはSpeannan の順位相関係数0.969(P<0.001)で,各項目の信頼性は級内相関係数(ICC)-0.644 0.959(p<0.01orO.001)であった。 これらの結果は,CTSDが臨床的にも信頼性が高いことを示している。表6に CTSDの各項目の評価者間信頼性と検査一再検査信頼性の結果を示す。CTSDの内 的整合性に関してはCronbach!scoefficientalpha係数を求めたところ,全対象者を 通して0.934,CDR3群のみでは0.896で,高い信頼性が得られた。しかし,CDR1, 2群のみでは十分な内的整合性は得られなかった。 -27­

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表6CTSDの評価者間および検査一再検査信頼性 評価者間 (ICC2,,) 0.911(***) 0.947(***) 0.853(***) 0.973(***) 0.947(***) 0.852(***) 0.619(*) 0.896(***) 0.824(***) 0.835(***) 0.858(***) 0.783(***) 0.878(***) 0.961(***) 検査一再検査 (ICC,2) 0.939(***) 0.959(***) 0.896(***) 0.941(***) 0.925(***) 0.644(**) 0.773(***) 0.937(***) 0.654(**) 0.843(***) 0.891(***) 0.772(***) 0.734(***) 0.969(***) 項目 挨拶(0-3) 自己の名前(0-3) 誕生日(0-2) 復唱(0-3) 物品呼称(0-2) 視覚記銘(0-3) 時刻(0-1) 物品使用(0-4) 色名呼称(0-l) 語流暢性(0-3) 従命動作(0-2) 模写(0-1) 名前書字(0-2) 総点 総点:Speannan順位相関係数(***)P<0.001 各項目:級内相関係数(ICC) (***)P<0.001(**)P<0.01(*)P<0.05 4 . C T S D の 妥 当 性 1)併存的妥当性 MMSE,HDS-R,日本語版SCIRSを外的基準として M M S E , H D S - R , 日 本 語 版 S C I R S を 外 的 基 準 と して C T S D と の 相 関 性 を Speannanの順位相関係数により検討した。4者間の相関性を表7に示す。 CTSDの全対象者における4検査間の相関性は0.932-0.968(P<0.001)で有意 な相関が認められた。CDR1,2群の対象者では他の検査とは相関は得られなか ったが,CDR3群における相関性は,0.8710.936(P<0.001)で有意な相関が認め られ,CTSDはCDR3群のみ,つまり重度∼最重度群でのみ妥当性が確認され -28­

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た。 一 方 , 日 本 語 版 S C I R S は , C D R 2 群 , つ ま り 中 等 度 群 に お いて も M M S E , HDS-Rと有意な相関が得られた(0.7110.748,p<0.001)。これらの結果は,CTSD は日本語版SCIRSよりもより重度認知症に特化したものであることを示して いる。 C D R 3 群 に お け る 項 目 一 総 点 の 相 関 は , S p e a n n a n の 順 位 相 関 係 数 0.558-0.858(P<0.001)であった。詳細を表8に示す。 表 7 4 検 査 間 の 相 関 C T S D C T S D C T S D S C I R S S C I R S M M S E V S V S V S V S V S V S S C I R S M M S E H D S - R M M S E H D S - R H D S - R

全対象者¦0.94(***)0.943(***)0.932(***)0.934(***)0.934(***)0.968(***)

0.785(***) C D R l 0.261 0.245 0.350 -0.131 -0.390 0.715(***)0.748(***)0.766(***) CDR2 0.425 0.319 0.475

CDR 310.922(***)0.912(***)0.870(***)0.882(***)0.873(***)0.936(***)

Speannan順位相関係数(***)P<0.001

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­29-表 8 C T S D の 項 目 - 総 点 の 相 関 性 項 目 C D R 3 群 挨拶(O-3) 自己の名前(0-3) 誕生日(0-2) 復唱(0-3) 物品呼称(0-2) 視覚記銘(O-3) 時刻(0-1) 物品使用(0-4) 色名呼称(0-l) 語流暢性(0-3) 従命動作(0-2) 模写(0-1) 名前耆字(0-2) 0.583(***) 0.748(***) 0.629(***) 0.828(***) 0.858(***) 0.780(***) 0.608(***) 0.821(***) 0.623(***) 0.736(***) 0.793(***) 0.558(***) 0.643(***) 総 点 : S p e a n n a n 順 位 相 関 係 数 (***)P<0.001 2)構造的妥当性 CTSDの因子構造を明らかにするための探索的因子分析には,主因子法を用い, プロマックス回転を実施した。因子負荷量の結果を表9に示す。因子分析では CTSDは主に2つの因子で53.4%を説明することができる。一つ目に抽出された 因子は,挨拶,自己の名前,物品呼称,従名動作,復唱,行為,誕生日,色名呼 称,時刻の9項目反映され,寄与率は48.2%であった。この因子に関連する項 目群には通過率の高い項目が多く,より難易度が低い項目群で構成されている。 これらのほとんどの項目は反応的に答えることができ,注意の制御をあまり必要 としないため,この一つ目の因子を自動的反応因子と名付けた(表9)。また, 二つ目の因子は,名前書字,語流暢性,模写,視覚記銘の4項目に反映され,寄 与率は5.3%であった。この因子に関連する下位項目は通過率の低い項目が多く,

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-30-より難易度が高い項目群で構成されている。これらの項目は,提示された指示を 理解し目的の行動に移すというプロセスを含み,注意を操作する必要があるため, この二つ目の因子を注意操作因子と名付けた(表9)。 図4は,CDRの各階層群における上記2因子それぞれを反映する下位項目群 の合計点を示している。自動的反応因子は重度から最重度にかけて著明に低下し, MMSEが3点以下の最重度群に至れば得点がCTSDの総点とほぼ同点数となっ た。注意操作因子は重症度が増すにしたがってほぼ直線的に得点が低下している。 つまり,CTSDは主に難易度で二分することができる項目で構成されており, 重度認知症の認知機能低下を段階的に把握できる検査であるといえる。

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-31-表 9 C T S D の 因 子 構 造 (主因子分析バリマックス回転) 自動的 反応因子 、877 注意 操作因子 項目 自己の名前 -.093 挨拶 物品呼称 従命 -.251 、796 、154 、766 、115 、749 復唱 、734 、149 行為 誕生日 色名呼称 時刻 名前書字 語流暢性 模写 視覚記銘 、322 、530 .016 、566 、127 、549 .211 、399 、956 -.233 .508 、192 、632 -.018 、508 、275 因子負荷量(%) 48.168 5.261 -32­

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35 30 25 0 5 2 1 C T S D CTSD総点 自 動 的 反 応 因 子 注 意 操 作 因 子 10 5 0 3(MMSE4-9)4(MMSEO-3)(、DR 1 2 ¦"14.1I勤的反応W I'l肋的反応Ikil.・li -)・るたびに紙ドし r・1'il;,販 IWW・のK1,1;l"'li!卜点 III唖かI、,iIMI墜にかけて人:きく紙卜L,M瞳獺¦1:Ikir・lilW,lil剛、瑚悠 く い る 雌 R 血 で I t , ¦ 肋 的 I J W j f し 総 , ' M , ほ ぼ ¦ ! オ 点 激 し な る 3)実施時間 CDR3群の84名に対してCTSDは,557.7 137.2秒であった。 5.CTSDの鋭敏性 初回の検査から6ケ月後にMMSEとCTSDをCDR3群の116人中53人に実 施できた。63人は退院もしくは,転院死亡していた。MMSEの平均点は4.2 3.8から3.5 4.1点に減少したが有意な変化は認められなかった。一方,CTSD は15.0 8.8点から12.5 8.5点に減少し,有意な変化が認められた(Wilcoxon順 位符号和検定;P<0.001)CTSDはMMSEより鋭敏性が高いことが示された(図5)。 -33­

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CTSD 1 1 5 3 * p < 0 . 0 0 1 M M S E 28 28 23 23 18 1 n.S 1ヨ 13

8 8

3 3 I 半年 初期 Z 初 期 半 年 W i l c o x o l l 順 位 符 8 ・ F I I 械 肥 * P < 0 . 0 0 1 -2 "5. MMS ELC TSD ( ノ ) .f( I :後 の 礎 化 MMSEばでば.¦抑後にイl.'職左迩化かい伽>.、,れなかったか,CTSDでばイ噸な変化かI泌 y)られた 6 . C T S D の 解 釈 性 解釈性については対象者群におけるCTSDの床効果。天井効果を検討した。 Terweeeta1.44)は,床効果.天井効果を検査の最低点.最高点を示した対象者数 が全体の15%以上であることと定義した。これに従えば,CTSDは,CDR1,2 群において,総点および各項目に天井効果を示していた。しかし,CDR3群では 挨拶の項目のみ天井効果を認めたものの,既存の認知機能検査の最大の問題点と されてきた床効果は,総点および各項目とも示さなかった。CDR3群の対象者に おいて,各検査の最低得点を示した者の割合は,MMSEでは19.8%(23人),HDS-R では,24.1%(28人),日本語版SCIRSでは11.2%(13人)であったが,CTSDでは わずか2.5%(3人)であった。 MMSEとCTSDの項目通過率の比較では,MMSEでは通過率が15%を超えた のは21項目中,復唱,呼称,三連命令,読字命令,県の見当識の5項目のみで あった。一方,CTSDは15%に満たない項目はなかった。CTSDはMISEでは 把握できない低水準の能力を各下位項目においても評価できることが示された。 -34

(39)

Ⅳ.考察 1.各認知機能検査の成績分布 軽度から中等度の認知症を対象に開発された既存の認知機能検査では重度認 知症者の残存する能力を測定することが困難であったが,CTSDでは,最重度の 認知症患者においても,残存している認知機能を信頼性・妥当性を持って幅広く 測定することができた。 重度認知症と意識障害は明確に異なるものであるが,MMSEの成績のみでは 両者を区別することが困難であることが指摘されてきた38脚0)。しかし,CTSDで は重度認知症から認知機能が廃絶される意識障害までの認知機能の減退を追う ことが可能である。Choe,etal.13)も指摘するように,MMSEやHDS-Rでは重度 認知症者群において床効果を呈する項目が多く,残存する認知機能を幅広く評価 することができない。一方,図1,2に示したようにCTSDはMMSE,HDS-R と比較すると平均値が高く標準偏差も大きい。つまり,CTSDは,MMSE,HDS-R の低得点領域に焦点を当てて拡大し,より多段階に評価できる認知機能検査であ ることを示している。MMSEとHDS-Rがともに0点であった対象者23名にお いて,CTSDの得点は0-16点の範囲に分布し,日本語版SCIRSでも0-14点の幅 がみられた。 このことは,既存の検査では床効果や難易度の高さために差を判別することが できなかった対象者群の残存機能を,CTSDではSCIRSよりもさらに詳しく判 別しうることを示唆している。 2.CTSDによって把握できる残存認知機能 今回対象とした重度認知症者に残存する認知機能の特徴を,MMSEの下位項 目とCTSDの下位項目とを比較することによって考察する。 重度認知症者がMMSEなどの検査で低得点になる原因は,近時記憶や構成な ど各認知領域の実際の障害に加えて,質問の意図を理解出来ないことの影響があ ると考えられる。重度認知症者ではワーキングメモリや言語機能の低下によって 文脈や文章の理解が困難で,単語や短文レベルでしか理解できない45)ことが指 摘されているが,MMSEやHDS-Rの下位項目には,長文よりなる質問の意味を

表 2 対 象 者 の 特 徴 合計3C D R12 対象者(男,女) 19(7,12)25(11,14)116(39,77)160(57,103) AD:VaD:DLB:others 9 : 9 : 0 : 1 1 8 : 7 : 0 : 0 6 7 : 3 5 : 8 : 6 9 4 : 5 1 : 8 : 7 年 齢 士 標 準 偏 差 ( 年 ) 8 5
表 3 C T S D 各 項 目 平 均 得 点 項目 全対象者 (n=160) 3、jンll6RⅡDFC/ICDRl(n=19)駆動DFCく 0 4 0 0 0 3 0 0 0 0 2 0 0●●●●●●●●●●●●●0000000000000促鮭陛肚肚壁舩肚舩陛鮭鮭鮭。●●●●●●●、●■■●32232214131127192826742859●●●●●●●●●●●●●0101010101000士士士士士十一十一土十一士士士十一8300326571449●●●●●●●●●●●●●22121102011
表 8 C T S D の 項 目 - 総 点 の 相 関 性 項 目 C D R 3 群 挨拶(O-3) 自己の名前(0-3) 誕生日(0-2) 復唱(0-3) 物品呼称(0-2) 視覚記銘(O-3) 時刻(0-1) 物品使用(0-4) 色名呼称(0-l) 語流暢性(0-3) 従命動作(0-2) 模写(0-1) 名前耆字(0-2) 0.583(***)0.748(***)0.629(***)0.828(***)0.858(***)0.780(***)0.608(***)0.821(***)0.623(**
表 9 C T S D の 因 子 構 造 (主因子分析バリマックス回転) 自動的 反応因子 、877 注意 操作因子項目自己の名前 -.093 挨拶 物品呼称 従命 -.251、796、766 、154 、749 、115 復唱 、734 、149 行為 誕生日 色名呼称 時刻 名前書字 語流暢性 模写 視覚記銘 、530 、322 .016、566、127、549、399.211-.233、956.508、192-.018、632 、508、275 因子負荷量(%) 48.168 5.261 -32­

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