デイツピング方法と乳中ヨウ素イオン濃度について
有賀秀子・西村篤史・田中
伸・田中隆伸・西部 潤*・真鍋就人*
帯 広 畜 産 大 学 生 物 資 源 利 用 学 , 帯 広 市 080 十 勝 農 協 連 生 乳 検 査 セ ン タ ー ペ 帯 広 市 080 (1994. 2. 1 受理) キーワード:ヨードホールデイッピング,ポストテ、、イツピング,フ。レディッピング,バルク乳,ヨウ素濃度 要 約 十勝地区のミルキングパーラーで,搾乳時のヨウ 素剤によるテY
ッピングを立ち会い調査した.次に 同管内から選定した119バルクの生乳中ヨウ素濃度 を測定し,ディッピング処理法の乳中ヨウ素濃度に 対する影響を検討した. その結果,ポストデイッピングでは適正濃度での 使用が%を占めていたが,使用テ。イッピング剤はい ずれも搾乳直前の使用が禁止されているもので,プ レディッピングではかなり高濃度で使用されている 傾向にあった. 無処理群では,乳中ヨウ素濃度の最高値が242ppb で,最低値は100ppb以下,平均値は123.5ppbであ った.ポスト群では平均値は200ppb程度て沿ったが, 最高値が1,000ppbを超える試料もあり,プレ・ポス ト群では最高値,平均値,最低値ともに高くなり, 無処理より明らかに濃度が上昇した. 緒 言 言=
乳房炎は経済動物である乳牛において,その経済 損失をもたらす大きな原因となっている.通常, 日 常的な搾乳作業にその発症の原因が大きく関わって いるところから,その予防のため,搾乳時に乳頭の 殺菌・消毒がなされるケースがわが国でも多く見ら れるようになってきた.この乳頭のディッピングは 搾乳後に行われるポストディッピングが一般的であ るが,搾乳前のプレテ。イツピングも一部で実施され ている. BARRIOS (1976)は有効ヨウ素濃度5,000ppmのデ イッピング剤を用い乳頭をポストテ、、イツピングする と,乳中ヨウ素濃度を上昇させることを報告した. さらに,ポストデイツピングが乳中ヨウ素濃度を高 めていることをDUNSMORE(1976)やHEMKEN(1980),BRUHN and FRANKE (1985)などが報告し,また, 乳中への残留ヨウ素量は搾乳前処理によって大きく 影響を受けると述べている. 一方HILLERTONet al.(1993)は,乳房炎の発生, 乳中細菌数と細胞数,バルク乳中ヨウ素濃度に対す るプレディッピングの効果は認められないと報告し ている.このようにデ〉イツピングの功罪についての 評価は未だ一致を見ない点がある. 現在わが国で用いられているデイッピング剤はヨ ウ素系製剤が大半を占め, 日本動物薬事協会(1987) によると,乳房炎予防用ディッピング剤では一般に 有効ヨウ素濃度5,000ppmでの使用が勧められてい る.一方,汎用の畜産殺菌消毒剤であるが乳頭消毒 にも使用できるヨウ素系殺菌剤も用いられており, これらについては, 日本動物薬事協会 (1987)では 有効ヨウ素濃度44-87.5ppmで使用するように指示 している. このように市販のデイッピングに用いられる薬剤 はその性質によって使用濃度が大きく異なり,さら に搾乳直前の使用が禁止されているなど,酪農家で
Correlation between dipping treatment and concentration of iodine in bulk milk: Hideko ARIGA, Atsushi NISHIMURA, Shin TANAKA, Takanobu TANAKA,ワunNISHIBU and *Narumi MANABE (Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine, Laboratory of Food Science and Technology.
本TokachiFederation of Agricultural Cooperatives, Milk Testing Laboratory, Obihiro-shi 080)
有賀秀子・西村篤史・田中 伸 ・ 田 中 隆 伸 ・ 西 部 潤 ・ 真 鍋 就 人 使用する場合混乱を来たす可能性が考えられるので, その実態を把握する目的で本調査を実施した.さら にディッピングが乳中ヨウ素濃度を高めるという報 告もあるので,バルク乳のヨウ素濃度を測定しテ、、イ ッピングとの関連を調べた.
実 験 方 法
1 .デイッピングの立会調査の対象 十勝管内で, ミルキングパーラーで、搾乳を行って いる 19酪農家を選定し,搾乳時に立会し,テ、、イツピ ングの実施方法について調査した. 対象は芽室町4酪農家,清水町9酪農家,中札内 村6酪農家の計 19酪農家である.調査は 1992年 8月 から 11月の 13日間で,プレ・ポストの別,使用デ イッピング剤の種類と濃度,ディッピング前後の処 理,テ、、イツピング液の調製と保管の他,参考調査と して乳房の衛生状態,洗浄方法などについても実施 した. 2. バルク乳のヨウ素濃度の測定 十勝管内から6か町村(中札内村,大樹町,清水 町,陸別町,音更町,芽室町)を選定し,ディッピ ング処理別(無処理群,ポストテ、、イツピング群,プ レ・ポストディッピング群)バルク乳をそれぞれ約 40試料採取した. ヨウ素濃度の測定は, ORION 94-53 BN型ヨウ素 電極と ORION90-10型シングルジヤンクション比較 電極を装着したORIONEA 929型イオンメーターを 用い, CRAVEN and GRIFFITH (1977) お よ びLACROIX and WONG (1980) の報告を参考に直接法
で、行った.試料中に電極をセットし,撹持しながら 電極の安定を待ち測定した.試料は繰り返し測定し 測定値の変動係数が3%未満の値を用いた.
結果および考察
1 .ミルキングパーラーでのテpイツピングの実態 本調査は19パーラーについて行われたが,その中 でポストディッピングを実施していたのは15パーラ ーであり,残りの4パーラーではプレ・ポストテ、、イ ッピングをイ井用していた.ポストテ、、イツピングのみ のパーラーでは搾乳前に乳房洗浄が行われていたが, プレディッピングでは乳房洗浄をしないで、テ、、イッピ ングをした後,ペーパータオルで拭き取ってティー トカップを装着していた.そのため,付着した汚物 がほとんど除去されないままにヨウ素剤で処理がな されるケースが多く, ヨウ素の効果が低減される可 能性があった.ディッピング処理は洗浄処理とは異 なるわけであるから,殺菌・消毒剤を洗浄剤と区別 して認識し,使用する必要性を徹底させることが大 切であろう. 用いられていたデイッピング剤は,表1に示した ようにポストについては, ヨードホールと皮膚保護 剤を配合した乳頭浸漬消毒剤の使用が多く,銘柄Cを はじめ他の3種と合わせてこのタイプが最も多かっ た.ヨウ素系殺菌・消毒剤の使用も 1例見られた. プレディッピングでは,実施4例中3例がヨウ素系 殺菌・消毒剤で,いずれも搾乳直前の使用が禁止さ れているものであった. 表1.各種ヨウ素製剤のデイッピングでの使用状況 薬 剤 の 種 類 ヨードホールと皮膚保 護剤を配合した乳頭浸 漬消毒剤 ポストディ 7'レテV
銘柄 ッピング ッピンク、、 C 12 1 1 3 L 1 W 2 C 1 2 汎用ヨウ素系殺菌消毒剤一
F 1 使用濃度についてみると,ポストディッピングで は, 19例中適正濃度での使用は 14例 (74%)で,や や希薄および適正濃度の%程度での使用が3例認め られた.高濃度での使用は2例で, うち 1例は汎用 のヨウ素系殺菌・消毒剤を 40倍もの高濃度で使用し ていた.一方,プレディッピングでは搾乳直前の使 用自体が問題であるが,さらにその濃度は4例中 3例 までが,汎用のヨウ素系殺菌・消毒剤を乳頭消毒用 の適正濃度の10倍の高濃度で使用していた. ポストディッピングは,搾乳直後になされている 場 合 が19例中 7例で,11例 が 3分以内,残り 1例も 5分以内に処理されていた.ポストディッピングは, 乳頭孔がまだ聞いているうちになされなければ効果 が期待きれない.この点においては,ほぽ満足すべ き状態にあった. 一方,プレテV
ッピングについては,殺菌・消毒 効果があり,なおかつ処理剤が乳中に混入しない方 法でなければならない.本立会調査の結果では,4
例 -64-ディッピングと乳中ヨウ素濃度 中3例が処理後l分以内にペーパータオルで拭き取 っていた.殺菌・消毒剤の乳頭との接触時間が長す ぎると乾燥して完全に拭き取ることは困難で、あるし, 接触時間が短かすぎると消毒効果は低減きれる.接 触時間は少なくとも 30秒は必要で、あるとされている. この点からは殺菌・消毒効果は期待されたが,ペー ノfータオルの簡単な拭き取りで,処理液を完全に除 去できたかについては疑わしい状況にあった.また ポストデイツピング剤を使用した場合には,搾乳前 によく洗浄することが必要で、あると指示されている が,プレ・ポストを行っている場合には搾乳前に洗 浄をしないので,乳中への混入が心配される. ディッピングは,ポストではスプレー方式が約% であったカヘフ。レデPイッピングでは
4
1
列中3
1
列まで がディッパーを用いており,スプレーに比べ,均一 にかつ多量の薬液が付着する傾向にあった. このように,ポストディッピングでは,その処理 方法は比較的適正に行われていたが,プレディッピ ングは本質的な問題をはじめ,その処理方法も問題 が多く,かつ混乱していると判断された. これらを総合的に考慮すると,生乳中への混入の 危険はポストに比べプレがはるかに大きいと考えら れるが,酪農家の現場ではプレテーイッピングの導入 が進んできている.これらのことから,テ、、イッピン グ,特にプレディッピングに対する適切な指導方針 が速やかに確立される必要があろう. 2. バルク乳のヨウ素濃度の実態 採取した119試料のヨウ素濃度は,最小値が 78ppb で最大値は1,100ppbと試料間濃度差が大きかった. 最小値は無処理群で,最大値はプレ・ポストデイツ ピング群に検出された.そこで,各試料のヨウ素濃 度分布をデイツピング処理別にみた(図1).無処理 群では100ppb未満が 18%程度検出されたが,ポス トデイッピング群では約5%,プレ・ポスト群では全 く検出きれなかった.また200ppb未満の試料は無処 理群では92%を占めていたが,ポスト処理群では 80% 弱,プレ・ポスト処理群では43%と, IJ慎にその割合 は低下し,ディッピング処理の実施に伴いヨウ素濃 度の高い乳が出現する傾向にあることが確認された. またデイッピング処理別バルク乳中ヨウ素濃度につ いては,無処理群は 123.5ppb (試料数 38),ポスト デFイツピング群は208.4ppb (試料数 44),プレ・ポ スト群では250.8ppb (試料数 37)で,テ、、イツピング 処理を行うことにより乳中ヨウ素濃度が有意に高ま ることが確認された.しかし,プレ・ポストとポス トのみの両処理問での平均値に有意な差は見られな かった.これは,低濃度領域における出現頻度は異 なった傾向にあるようであったが,高濃度領域での 出現頻度の傾向に差が無かったことにlよるものと思 われる. 図1.ヨウ素デイッピング、処理別バルク乳中ヨウ素濃度分布 我が国では水産物の利用量が多いため, ヨウ素欠乏はほとんど見られず,むしろ摂 取過剰による甲状腺機能障害が心配される. 栄養所要量策定検討委員会 (1989) では, 成人の1日当たりヨウ素の必要な量は安全 率も考慮して100μg以上であると推定して いる.現在の摂取量は平均1-4mgで,ヨ ウ素欠乏は心配なく,むしろ過剰摂取の発 生が報告されている.本調査結果のポスト デイツピング試料から換算すると200ppb程 度の乳ではカップ2杯 で 80μg程度の,さ らに最高濃度の1,100ppbではカップ 1杯の 乳で220μgものヨウ素を摂取することにな る.したがって,乳中のヨウ素濃度をこれ 以上上昇させることなしむしろ低下させ ることに務めることが必要で、あると判断さ れる. -65-有賀秀子・西村篤史・田中 伸 ・ 田 中 隆 伸 ・ 西 部 潤 ・ 真 鍋 就 人
文 献
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