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競技スポーツの科学研究 ~ アトランタ五輪を終えて ~ 新潟大学・山崎 健

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スポーツ科学は役に立たない?

<え、平泳って一瞬止まってるの?> 1990年、カナダでの水泳のパンパシ フィック大会での200m平泳ぎのデータ は、日本の水泳界に大きな変革をもたらし たとされています(河合正治、パソコンが 支える水泳日本の復活、日経パソコン22 3号、1994年)。そのレースの分析結 果は、世界記録保持者の米国のバローマン と日本記録を樹立した選手とのタイム差4 秒が、実は泳速停止時間の差で、1ストロ ークにつき0・05秒対0・13秒(50 ストロークで4秒)だったということです。 この肉眼では把握できないほどの泳速停止 時間が「世界との壁」であったとの事実は、 水泳指導法に画期的な転機をもたらし、腕 力と脚力の強化に加えて日本選手の特質に あったフォームも研究されるようになった ということです。 <でもって、・・・> 研究者は「へー、平泳ぎっておもしろい んだねー・・」といったと思います。コー チは「だから学者は困るんだよ、sin だ cos だといってないでもっとこういうことを分 析してくれよ!」とでも言ったのでしょう か? ここで大阪支部・水泳プロジェクトは「平 泳ぎでのスーパードル平対カエル脚論争」 のヒントになるかな・・・と思うのかも知 れません(私はそう思ったもので)。 つまり、平泳ぎが「泳速ゼロ」を含んで いる以上は、キック動作はカエル脚のほう が有効なのではないか?また、初期のバタ フライから「カエル脚」が淘汰されたのは おそらく「泳速ゼロ」を含まないためにド ルフィンキックになったのではないの か?・・・ということです。9月の新潟の 学会での水中牽引力計を用いた短い距離 (数m)のデータでも、ピーク値は平泳ぎ のほうがクロールよりも大きいという結果 もでています。 <スポーツ科学は使うもの?> ソウル五輪・金メダリスト鈴木大地のコ ーチ鈴木陽二氏は、「科学を応用すること はいいことだと思うんですよ。でも、科学 自体では強くならないと思いますよ。とい うのは、科学はいつもトップの後を追って いるからです」とトップ先行論を主張しま す。そして、科学は応用するものだ/選手 をあらゆる角度から知ることが必要/AT を利用する/バイオメカニクス的なもの/ ビデオの活用法/心理的なこと/科学者と の話し合い、と論を展開します(鈴木陽2、 科学を取り入れたコーチングとは何か?、 コーチングクリニック第5卷、1991年)。 また、バイオメカニクスの研究者である 若吉浩二氏は、現場との関わりについて「こ れまでは1方通行であったが,最近では両 方通行なものになりつつあるということで ある。実際、レース分析の研究は、実験室 で行なうものに比べてマクロなものである かもしれない。しかしながら,研究者が現 場で活躍されている指導者の方々や選手達 と「競技力向上」という共通意識を持つた めには、こういったかたちの研究も重要で あるように感じる。そして、その中から「何」 が競技力の向上に役立つのか、またコーチ や選手は、「何」を知りたがっているのか、 その「何」をスポーツ科学者は、正確に捉 え理解し、研究していかなければならない」 と指摘しています(若吉浩2、競泳のレー ス分析、体育の科学第42卷、1992年)。 つまり、「何が重要か?」を発見するこ とが研究者と現場とを結び付けるきっかけ となるのではないかということが言えそう です。では、私たちの授業実践ではどのよ うな応用が考えられるのでしょうか?

ドーピングのサイエンス?

<筋肉づくりとドーピング> 最近のスポーツトレーニングでは、筋肉 量を増加させるためのウェイトトレーニン グとタンパク質摂取のタイミングを含めた

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「トレーニング・食事・休養のスポーツラ イフマネージメント」という考え方が主流 となっています。つまり、ハードなトレー ニングによってダメージを受けた筋線維は、 睡眠前のウェイトトレーニングとタンパク 質摂取後の睡眠時の成長ホルモンの分泌に よって効果的に回復すると考えられていま す。じつは、筋肉増強剤の使用(ドーピン グ)は、この「トレーニング・食事・休養」 という筋線維の修復と増強のサイクルに 「1つの間違いが追加されただけ(?)」 の問題ともいえるのです。 その意味では、意図的なタンパク質錠等 の摂取も似たようなことともいえるのです が、3大栄養素、ミネラル、ビタミン類以 外の「薬物」は、通常の食事行為としての 栄養摂取の1部とはみなされず、また使用 禁止薬物で失格することもあって、結果的 に使用されていない(してはいけない)と いうことです。また、選手の病気治療やリ ハビリテーションでの使用(本来の筋肉増 強剤の使用目的)も、1963年のヨーロ ッパスポーツ評議会では「治療のために与 えた場合でも、その物質の性質、量などが 競争力を高めると考えられる場合にはドー ピングと認める」と定義しています。 <究極のスポーツパフォーマンスは?> では、百歩譲って、悪魔に魂を売り渡す ような「人類最高のパフォーマンス」を求 める行為はどうなのでしょうか? 結論的にいえば、我々は「突然現れた異 星人」には、驚愕はするが感動はしないの ではないかと思うのです。 1988年のソウルオリンピックでの、 薬物使用のジョンソンと使用しなかったル イスや他の選手との興味あるデータが報告 されています。9秒79のジョンソンと9 秒92のルイスとのタイム差は、ほぼ30 ∼60mの間の差でありラストの40mは ジョンソンの3秒46に対してルイスは3 秒44で走っています。しかし、ジョンソ ンは、30∼60m区間を5・02歩/秒、 それ以降90mまでを4・84歩/秒とい う驚異的ピッチで走り、全区間を通しても 4・76歩/秒で走っています。ルイスは この30m区間を4・84歩/秒、全区間 で4・40歩/秒であり、他の選手も4・ 39∼4・55歩/秒です(参考までにロ ーマの世界選手権のジョンソンの9秒83 のときも4・72歩/秒と高い)。つまり 墜ちた偶像・ジョンソンは人間業とは思え ない驚異のピッチで走っていたことになり ます。 1991年、東京の世界選手権100m 決勝を9秒86の世界新記録で走ったルイ スは、ラスト10mでオーバーストライド でピッチの落ちたバレルを逆転しています (ルイス4・52歩/秒対バレル4・23 歩/秒、この区間のタイム差は0・01秒)。 つまり、現代のスポーツ科学は、スピー ドの決め手は高いピッチを維持できるこ と・・を示しています。ジョンソンはまさ に、スピードを得るための最適なトレーニ ングを「ある1つの間違い」を除いて完璧 に実行していたこととなるのです。 東京での世界選手権100m決勝は、出 場者8名中6名が9秒台で走り全員が自己 ベストをマークしました。そして、そのデ ータには、10∼20m区間でのみ4・8 ∼4・9歩/秒という高いピッチがみられ たもののそれ以上のピッチを30mも維持 するという驚愕すべきデータは得られてい ません。まさに人類最高のパフォーマンス が示された「今世紀最高のレース」であっ たといえるのではないでしょうか。

共感のメカニズム

<ナイスシュート!> サッカーの経験者が、「この1点!」の シュートチャンスのシーンに興奮して思わ ず絶妙のタイミングでキック動作(実際に ボールを蹴るものではないが)をしてしま うのはよく経験することです。また、テニ スのテレビ中継で「ここぞ!」というボレ ーをアウトしたシーンを見ると、経験者は

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何となく自分でも「押さえがきかなかった」 ような感覚が生じます。ハードルの経験の ない人が選手のハードリングを見ると「何 をやっているのかよく分からない」うちに ゴールしてしまいますが、経験者はあたか も自分がハードリングを行っているようで、 選手が「ガチャン!」とハードルを引っか けたりすると、思わず「イテッ!」という 感覚まで生ずることも経験します。 このような「共感」ともいわれる現象には、 1体どんなメカニズムが関係しているので しょうか? 「スキルの学習」という連載でも述べた のですが、私たちの運動司令の実体は「関 節トルク」といわれる「関節をどの位の力 と加速度で動かすのか」というものではな いかと考えられています。つまり「フォー ム」という「各関節の角度とその組合わせ」 とはあまり関係していないようで、「操作 的な説明」や「他の動作の動かし方での例 示」が「有効なような気がする」背景にも このことが存在しているのではないかと思 われるのです。 ですから、運動経過を客観的に説明した 「記述的概念」というのは外的で普遍的な ものなので、現実に存在する各々の「個人」 には対応していないのではないか?、私た ちが運動を遂行する際には、この概念を自 分の関節や筋出力に応じた運動司令(トル ク)に「翻訳」しているのではないかとい うことになってきます。 <共感するメカニズム> 「共感」にかかわって、いわゆる「通」 の存在があります。一般に「通」の解説者 には往年の名プレーヤーが「昔とった杵柄」 をもとに見事な説明をしてくれます。 しかし「名選手必ずしも名監督にあらず」 といわれるように、スーパースターであっ たからといって名コーチでもありませんし 「通」の解説者とも限らないわけで、何を 基準にそう判断しているのでしょうか? 実はこの事は「スポーツらしさの共感と 共有」という概念に関わっているのではな いかと思っています。私たちの身体の構造 と機能は「人類としての普遍性・共通性」 とともに「スーパースターと凡人という個 別性・特殊性」をもっています。そして、 人間の身体運動は、基本的運動パターンと それを構成する運動司令(トルク)と運動 感覚とから成立すると考えられています。 ですから、バッティングはある程度できる のですが、プロ野球のピッチャーからホー ムランを打つことは誰にでもできるわけで はありません。 この事から、スポーツらしさを規定する 人類的共通性と個別的特殊性(スーパース ター)との「中間的翻訳者」として「通」 が存在し、私たちはこの解説を通してスポ ーツ場面を共感し共有することができるの ではないでしょうか。 その意味では、「スーパースター」とい うのは外的なもので「各個人」には対応し ておらず、私たちが運動を遂行する際には、 この「概念」を自分の関節や筋出力に応じ た運動司令(トルク)に「翻訳」している のではないかと考えられます。ですから、 自らの身体もスーパースターの動きと「共 感」できる可能性を持ってはいますが、そ の程度は経験のレベルと現在の身体的状態 に依存するのではないかと考えられます。 自分の経験したことのないスポーツは 「どうもよく分からない」とか「うまく指 導ができない」ということの背景にも、ど うやら神経生理学でいう「関節トルクとし ての運動司令」が関わっているようなので す。

ドル平は科学的か?

<経験から生まれた科学?> 時々TVや書籍でドル平が紹介されると 問い合わせが殺到するという話を聞きます。 しかし、これは逆に未だに「市民権」を得 ていないことでもあるようです。 ドル平で教えると「出世できない?」と か「ソ連」から持ち込まれた泳ぎ方である

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とか一昔前はいろいろといわれたようです。 現在でも、「習得の困難なカエル脚をドル フィンキックで置き換えた指導法」で「泳 げればよいのだから認めるべきである」と の「良心的珍解釈?」もあるようです(ド ルフィンキックの習得も随分と難しいと思 うのですが)。 数学者の遠山啓先生が、知的障害を持つ 子が大きな丸型と小さな丸型をはめ込むパ ズルの課題が初めてできた時の劇的な感激 を紹介しながら「原数学」という概念を示 しています。つまり、数学の原点は「量の 操作」であって「質の操作」ではない、だ からこそ初めて「量の操作」が可能となっ たときに数学の本質に触れた劇的な感激が 生じたのではないか、実はどの教科であっ ても「原○×」というものが存在するので はないかと指摘されていました。 「呼吸ができて浮けて進める」という泳 げることの原点をモデルとしたドル平はま さに「原水泳」というべきものと思います。 しかし、ドル平は「原数学」と異なり幾 つかの課題の中から偶然発見されたもので はありません。当時は近代4泳法と日本泳 法のレパートリーしか持ち合わせていなか ったわけで、それらの持っていた課題から は、残念ながら「カナヅチさんは何故泳げ ないのか?」の答えは得られなかったわけ です。 その意味では、どの指導法でも上手くい かなかった「カナヅチではない」先生達の 問題意識が「呼吸法から導入する指導段階」 を発見した訳で、必要と経験とが生み出し た有効な指導法といえるのです。では、何 故「科学的」といわれているのでしょうか? <誰でもが教えられること?> 例えば、「呼吸法が胸郭の生理学的・解 剖学的構造に対応したものである」「手の かきと呼吸動作の協応が生理学的な反射に 合っている」「身体の比重を吸息停止で 1・0以下にして浮力を保つ」など様々な 指導方法の根拠が示されています。 しかし、およそ人間の身体運動というも のはすべて現実的なものである以上、必ず 「自然科学的法則」に則って遂行されてい るわけで、例え「面かぶりバタ脚」からの 指導であってもそこには必ず科学的な事実 が存在し、それでもって一流選手になるこ ともありうる訳です。 ですから、他の指導法も含めて「科学的」 という表現を用いる場合は「有効性」つま り比較的多数が上手になりかつ比較的多数 が教えられる可能性を持つこと(原指導 法?)ということが問題となるものと思い ます。 最近話題の「ニューサイドカーブスキー」 というのがあります。幅広でウェストが絞 ってあり初心者でもサイドカーブを利用し た「カービングターン」が容易に習得でき るというキャッチフレーズのスキーです。 ヨーロッパではこのスキー用の特別な指導 法とグループ分けが行われているようです。 私たち同志会では「原スキーターン」と してプルーク斜滑降を位置づけてきました。 日本スキー連盟でもプルークターンを基本 的課題として位置づけていますが、勤労者 スキー協議会では「カービングターン」を 前提としていてスキーを横ズレさせること は主要な段階とは想定していないようで、 ニューサイドカーブに注目しているむきも あるようです。 物理的な条件が劇的に変化した場合には、 従来考えられていた「普遍性」の概念が随 分と変わってしまうのかもしれません。

話題の「メンタル・トレーニング」

(1) アタランタ五輪終了後の話題の一つに 「メンタル・トレーニングの必要性」があり ます。 例えば、競泳陣は事前にメダルを期待さ れたにもかかわらず、自己ベストを出した のが4 人だけで「惨敗」とされてしまいま した。やはり日本選手は本番で実力を発揮 できないのではないか・・そういえば、か つてスピードスケートで金メダルを期待さ

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れた黒岩彰選手は、サラエボ五輪の失敗後 メンタルトレーニングを取りいれて、カル ガリー五輪では銅メダルを取っているでは ないか! しかし、この指摘は何も最近に始まった ことではありません。例えば、1964 年の東 京オリンピックでもこのメンタル・トレー ニングが取り入れられ成功したと考えられ ています。 「黙って俺についてこい」「真夜中にた たき起こしての試合形式練習」「ライオン とにらめっこ」なども立派な(!?)メンタ ルトレーニングでした。 単刀直入にいえば、「メンタル・トレー ニングの必要性」ではなく「メンタル・ト レーニング導入システムの必要性」なので す。つまり、各競技団体がコーチやチーム の能力や裁量に依存して、選手強化システ ムとして必要な条件をサポートしていない ことが問題だといえます(ナショナル・ト レーニングセンターすらない!)。 さて、オリンピックや世界選手権のたび に指摘される「実力を発揮できない日本選 手」の問題点をいくつか考えてみたいと思 います。 <実力は優勝できるものだったか?> バルセロナ五輪 100m 平泳の岩崎恭子選 手のように、全く「本命視」されずに決勝 に進み、大幅に自己ベストを更新した場合 はプレッシャーも全くなく優勝できると思 うのですが、今回の競泳陣はどうだったの でしょうか、実力に見合ったプレッシャー だったのでしょうか? 話題の映画「シャル・ウィ・ダンス」で も、主人公の杉山さんが奥さんと子どもの 存在に気づいたとたんにズッコケてしまっ たシーンがありました。「無欲」や「無心」 がよいというのは素人でもオリンピック選 手でも同じことと思いますが、そのレベル と緻密さは随分違うと思います。「日本選 手は自立していない」という話もよく聞き ますが、こちらも実力と周囲の期待の中で ギャップが生じているのかもしれません。 94 年の世界選手権・女子マラソンで優勝 した浅利純子選手は、アトランタでのシュ ーズアクシデントに泣いた訳ですが、バル セロナ、アトランタと五輪でのメダルの続 いたエゴロワ選手、有森裕子選手の実力は 優勝を争えるものだったと思います。 <精神・身体面のコンディショニングとピ ーキングとの関係は?> アトランタ五輪女子 100m 優勝者のディ バース選手は、本命の100mH では随分と ナーバスだったようです。バルセロナ五輪 の10 台目転倒の悪夢が再現したのでしょ うか? 同様に、金メダルの取れない「悲運」の オッティ選手も決勝はどうもいけません。 一方、男子 100m 決勝でのクリスティー 選手のフライング騒動にもめげず世界新を 出したベイリー選手の集中力とは対照的に、 本命フレデリクス選手、新星ボルドン選手 の敗退も印象的でした。男子三段跳びの前 世界記録保持者バンクス選手は、ウォーク マンからヘッドフォンで「バンクスのテー マ」を聴きながらリラックスと集中力をコ ントロールすることで有名でしたが、オリ ンピックでも世界選手権でもあまりよい成 績がありません。 つまり、オリンピックの決勝に残り優勝 するレベルの選手であっても「本番で実力 を発揮できない!」こともあるので、どう も日本選手だけの問題ではないように思う のですが?

話題の「メンタル・トレーニング」

(2) <本番での集中力=ピーキング> 1964 年の東京オリンピックの話ですが、 金メダルを取った女子バレーボールチーム は「最終の夜のソ連戦で勝って優勝」とい うシナリオで夜間中心のトレーニングとコ ンディショニングを行ってきました(現在 は「ピーキング」と表現されています)。 ですから、予選リーグなぞは「どうでもよ

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い(ピークがきてしまっては困る)」わけ で、日・ソ二強対決という図式では「予選 は手抜き」ができたわけです。 1996 年のアトランタ五輪では、予選通過 なぞ当たり前のブラジルがピーキング成功 の日本に「予選リーグ第1戦」敗れるとい う波乱が起きてしまったわけで、「簡単に 勝つハズ」のシナリオが狂ってしまったわ けです。各国の競技レベルが向上してくる と予選の思わぬ波乱が尾を引き準決勝で敗 退してしまったのでしょうか。 本番での集中力といっても、いつが本番 か、予選か決勝か、初日か最終日か、ピー クを持ってこなくても予選を勝ち抜けるの か・・といったいろいろな要因が混ざって きます。2年前のウィンブルドン前哨戦決 勝で「本命」マルチネス選手を破った伊達 公子選手が、本番ウィンブルドンでは予選 ラウンドで姿を消し、マルチネス選手が優 勝するという「ピーキング」の典型のよう な出来事がありました。心理的に優位に立 つことはよいのですが、前哨戦にピークが きてしまってはいけないのです。 <最終のシナリオ> アトランタ五輪、陸上男子100m 決勝で、 ベイリー選手は、7 選手中もっとも遅い 0.174 秒(他の選手は 0.14 秒台)という反 応時間でありながらゴールでは9 秒 84 の 世界新記録で優勝しています。つまり、最 後は勝つというシナリオができていたのだ と思います。 同じく、女子決勝では、とびだしたディ バース選手がオッティ選手に並ばれそうに なりながら逃げ切っています。この場合も 「必ずオッティが並んでくる」というシナ リオで最後は逃げ切るという戦略だったの だと思います。 1988 年ソウル五輪、男子水泳 200m 背泳 決勝で、鈴木大地選手はコーチと協議しバ サロスタート(水中でドルフィンキックの みで潜水して25m 以上進むもので無呼吸 のためリスクも大きい)の回数を増やし、 先行するバーコフ選手に並んで焦りを生ま せ、偶数回のバサロにより得意な手でタッ チしてターンするというシナリオで優勝し たのは記憶に新しいところです。ここです ごいと思うのは、本番の決勝でシナリオを 変え得る「実力」があったということで、 それまでのトレーニングのレベルの高さが 想像できます。 つまり、「最終のシナリオ」をどう描く のか、そしてそれを実現するためにどうす ればよいのかを準備することがメンタルト レーニングの重要な役割でもあるのです。 「ウォーミングアップを始めた、体が重 い、でもだんだんと体が温まると何となく 体が軽くなるような気がしてきた。スター ト練習をしたが、何となくしっくりしない。 しょうがないからリラックスをして音楽を 聴きながら集中力を高める・・でも高めす ぎてはいけない・・決勝でピークを持って くる。さあ、決勝だ。スタートは普通に出 ればよい。みんな前にいる、だんだんと皆 が近づいてくる・・」といった現実的で綿 密な「メンタルリハーサル」を何回も繰り 返すことが重要なようです。 「試合が始まった、みんな動きが悪い、 ミスも多い。相手にリードされた・・ここ で作戦タイム。きた、監督の怒鳴り声・・ 試合が終わったらビンタ10発、あーあ、 またか・・」などという現実的な「メンタ ルリハーサル」もあるようですが・・最終 のシナリオとしてはどうも具合が悪いよう です。いつも起こることは、いつも負けと ビンタとに結びついてしまうからです。

スポーツライフマネージメント

最近のスポーツトレーニングの考え方に スポーツライフマネージメントという概念 があります。これは、練習だけではなく、 「運動−栄養−休養」のサイクルの組み合 わせとそのタイミングをいかに管理するの かということなのです(鈴木正成、スポー ツの栄養・食事学、同文書院、1986 年)。 トレーニングによりダメージを受けた筋

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肉などの身体組織は、蛋白質の摂取と分解 によるアミノ酸を利用して再合成されます。 この際、成長ホルモンの分泌によりその再 合成が促進されます。つまり、練習時では なく休養時≒練習をしない時に強くなって いるわけです(練習サボれば強くなる!)。 <寝る前の筋トレ> 睡眠中に成長ホルモンが分泌される(こ れは一定の時間に睡眠をとる人類の特徴) ということは、睡眠前に分解されやすい蛋 白質を摂取することが有効ですが、さらに ある程度筋肉に刺激を与えることで、入眠 期からの成長ホルモンの分泌が促進される ことが知られています。ですから、寝る前 にプロレスごっこでもやって牛乳や蛋白錠 剤、パウダーなどを摂取し、スヤスヤと眠 れば翌朝にはパワーアップ(寝る子は育 つ!)。 <昼寝のお勧め> 同様の現象は、午睡(昼寝)でも起こり ます。午前中の筋トレ、昼食での蛋白質摂 取、午睡による成長ホルモンの分泌と身体 の再合成という図式を1日に2回繰り返す ことは筋肉づくりには不可欠のライフスタ イルということです。 「そういえば野球部のAは午後の授業よ く寝とるな・・たたき起こすのやめるか?」 (野球部監督のB先生談・・ウソウソ!) <スタミナ切れを防ぐ> 激しいスポーツ活動を持続するためのエ ネルギー源は、肝臓と筋肉に蓄積されたグ リコーゲンです。このグリコーゲンは、ト ップクラスの選手(体重60 キロ)でも 480 グラム程度と推定されています。そこでマ ラソン選手などは、グリコーゲン・ローデ ィング(カーボ・ローディング)という方 法を取り入れてこの貯蔵グリコーゲンを少 しでも増やそうと努力します。脂肪もエネ ルギー源として利用できるのですが、出力 が小さいのでゆっくりとした運動を持続す るにはよいのですが、一定以上のスピード での激しい試合の中で、スタミナ切れを起 こさずにのりきって行く主役はやはりグリ コーゲンです。 <練習後の買い食い> 最近の研究で、このグリコーゲンの貯蔵 には、身体活動終了後30 分以内に炭水化物 を摂取することが有効であることがわかっ てきました。練習後に炭水化物をとること が大事なのですが、30 分以内に一度とりさ らに夕食などでもう一度十分に摂取するこ とで効率的にグリコーゲンを貯蔵すること ができます。 「そういえば俺、練習終わってから家帰 るまでタイヤキとか買い食いしたよな・・ あれがあったから俺強かったのか!」 <計画を立てること> スポーツライフマネージメントというこ とですから、この練習−食事−睡眠という サイクルをいかに計画的に実行するのかと いうことが重要です。一日の練習時間、朝 食、昼食、夕食の食事内容と時間、就寝前 の蛋白摂取、午後の居眠りと睡眠時間の確 保・・という計画を実行できるかどうかと いうことがスポーツで成功する鍵となりま す。実は、この生活時間帯が夜型にシフト していることが現代っ子の特徴なのですが、 中学生、高校生のスポーツ選手にしても同 様の影響を受けているようなのです。

ウェイトコントロール

体重制のスポーツでは、自分の「実力」 をより下のクラスで有利に発揮するために 減量を行います。しかし、力が出なくなる ような方法は問題ですし、水を飲まないよ うな方法も脱水症やトレーニングのレベル を低下させてしまいます。 「実力」はある程度以上の筋肉量で決ま りますので、ウェイトコントロールでは筋 肉量を維持するトレーニングと栄養を確保 しながら体脂肪を落とす方法がとられてい

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ます。 <体脂肪沈着のメカニズム> 体重のうちに脂肪が占める割合を「体脂 肪率」といいます。平均は、男性で 15%、 女性で24%といわれていますが、トップク ラスのアスリートは男女とも1ケタ台にな ります。 体脂肪は、非常食料や断熱材、クッショ ンやサポーター等様々な役割がありますの で一定量以下になると様々な問題がおきま す。 女子では、12%以下になると月経異常を まねき、ホルモンバランスが崩れて骨のカ ルシウム代謝が阻害され、更年期女性の「骨 粗鬆症」と同様の状態になります(日本の 女子ランナーの骨密度は 50 歳代の女性な みとの報告もあります)。そして、その脆 くなった骨は、月間 800Km を越える練習 量により容易に「疲労骨折」を起こしてし まいます。「優勝候補の○×選手、足の故 障で欠場!」という場合はたいていこのケ ースです。 脂肪は、血液中のカイロミクロンという 中性脂肪がリポ蛋白リパーゼ(LPL)とい う酵素により脂肪酸に分解されます。そし て、心臓と筋肉でエネルギーに変換される ルートと脂肪組織に蓄積されるルートとの 二つがあります。このリポ蛋白リパーゼの 活性は、炭水化物や糖質の摂取により、心 臓と筋肉では低下し脂肪組織では上昇する ことが知られています。「甘いものを食べ ると肥りやすい!」というのはこのことで、 砂糖とクリームたっぷりのコーヒーにクリ ームたっぷりのケーキを「寝る前」に食べ ると「火に油を注ぐこととなり・・幸せい っぱい、脂肪もいっぱい!?」という結末と なります。 <現代版ウェイトコントロール> ですから、選手は夕食や就寝前の脂肪分 の摂取を極力ひかえます。朝食では、一日 の練習を支えるエネルギー源として炭水化 物(ご飯)をたっぷりと摂り、練習後の昼 食では、筋肉の再合成をはかるための材料 である脂肪分の少ない魚や鶏肉などの蛋白 質も摂取して昼寝をします。外食でやむを 得ず「とんかつ(抽出するとコップ一杯の 油が出る!)」が出れば衣は残し「しゃぶ しゃぶ」は徹底してシャブシャブして脂肪 分を除き、注文する場合には油調理を避け (野菜でも「炒め」はだめ)、自炊では油 の不要な「テフロン加工フライパン」をつ かうという徹底ぶり。そして、練習のエネ ルギー源としての炭水化物と筋肉再合成の ための蛋白質やミネラル、ビタミン類は十 分に摂取し、就寝前の軽いウェイトトレー ニングと蛋白質摂取により筋肉づくりをお こないます。 「 そ れ で も や っ ぱ り ケ ー キ が 食 べ た い!」という選手には、禁止すると心理的 ストレスになりますから、午前中か昼の練 習前ならばOK です。かつて全日本大学女 子駅伝選手村のホテルで、わが新潟大学チ ームが、夕食のバイキングでワイワイと騒 ぎながら楽しそうにケーキを食べていたら、 知り合いのある大学の監督が「食事見てれ ば選手のレベルわかるよなー!」といわれ ました・・クソ!。 さて、子どものからだの最近の話題一つ に「隠れ肥満」の存在があります。つまり、 身長と体重から見れば「標準体重」なので すが、体脂肪率を計ってみると筋肉量が少 ないために「肥満」と判定されるのです。 これは、身体運動量の減少と食生活でのカ ロリー制限の影響(女性の誤ったダイエッ トもこれと同じです)によるらしいのです が、まさに、現代版ウェイトコントロール とまったく正反対の現象といえます。

現代っ子の証明

− すぐ「疲れた」という − 「現代っ子」の特徴の一つに、すぐ「疲 れた」という・・があります。我家の子ど もも朝起きてすぐ「疲れたー」。そういえ ば、昨日は、朝が陸上の部活で、夕方から

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体 操 教 室 で 寝 る 前 に 勉 強 し と っ た も ん な・・それにしても情けないやっちゃ・・。 このことは、現代っ子を特徴づける重要 なタームなのでいつか本格的に研究しよう と思っているのですが、とりあえず仮説だ け・・。 <「やる気」の生理学的メカニズム> 正木健雄氏は、最近の「子どものからだ のおかしさ(背筋力の低下や防衛反応の低 下等)」のひとつに「大脳の覚醒水準の低 下」を指摘します。この「朝からあくび」 や「いつもボーッとしている」等の現象の 背景には、筋活動量の低下や筋肉量の減少 といった要因が考えられてます。筋活動に よる信号(求心性刺激)が、脳幹網様体を 経由して大脳の覚醒水準を向上させること はよく知られており、子どもの生活リズム の「夜型」へのシフトともあいまってこの ような「おかしさ」を生じさせているとも 考えらます(ちなみに、筋活動は覚醒刺激 発生装置であるとともに人体最大の発熱源 でもあり、35 度台の「低体温児」の現象と の関連も考えられている)。 近藤薫樹氏は、子どもの統合活動を、① 身体を基礎とした本能・情動の発達、②具 体的経験を基礎とした感性的認識の発達、 ③言語活動を基礎とした抽象的認識の発達 の三段階に分け、その相互作用とバランス のとれた発達を保証するための「幼児期の 遊び」の重要性を指摘しています。 以上の点から、「意欲」といわれる現象 の生理学的メカニズムには、脳幹網様体賦 活系からの覚醒反応による「注意」や「集 中」、大脳辺縁系による「動機づけ」など が関与しており、これらはいわゆる「一般 的な成分(具体的対象にはあまり依存しな いもの)」と考えらます。つまり、遊びを 中心とする子どもの活動量の減少が筋肉量 の低下をまねき、覚醒刺激の減少や注意や 集中の低下をまねいていると考えられます。 しかし、ファミコンゲームやミニ4駆を やっている時はとても「意欲的」に見えま す。 <血糖動員性と子どもの「やる気」> では、対象に依存した「好き嫌い」とい う現象にかかわった「やる気」のメカニズ ムはどうなのでしょうか。 コロブコフは、各種の身体運動時の子ど もの血液中の血糖値(運動のエネルギー源 となる)を分析し、12∼14 才では「遊びの 要素」のある運動(ゲームや球技)でのみ 血糖値は上昇するが、他の運動(60m走や クロスカントリースキー)では十分なレベ ルにまで達せず、そのことが「低血糖」を まねき「防衛反応」としての「不快感」を もたらすことを指摘しています。つまり、 「いやいややらされている」状態では、十 分な血糖が動員されず「やる気」などは望 めないということで、エネルギー源が十分 に準備されていないわけですからすぐ「疲 れた」というのでしょうか。「持久走」「水 泳」「器械運動」が子どものきらいな運動 のワースト3に入っているというのもなん となく肯けるような気がします(「楽しい 体育」には「個に応じためあて」が必要!?)。 もう一つの問題は、子どもの生活時間帯 です。我々の新潟の子ども達への調査では、 小学5・6年生で、比較的活動的な群と非 活動的な群とでは、「朝起きた時に気分が よい」「寝不足を感じない」といった項目 に統計的な差が見られました。 どうやら、活動的な子ども達は、睡眠の 質も深くエネルギー動員性も高いため「朝 から元気」なようなのです。

子供の危機?

最近の子どもの体力や運動能力に低下傾 向が見られ「戦後最低」の危機的状態であ る事が報告されています。埼玉大学の加賀 谷熈彦氏は、特に1990 年以降に、背筋力 に加えて握力や50M 走なども顕著な低下 傾向が見られる事を指摘しています。(「青 少年の体力の現状」、学校体育、1997 年 6 月号)

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これらの背景に、子どもの生活の多忙化、 夜型化、食生活の偏り、運動遊びに代表さ れる身体活動量の減少などが存在する事が 指摘され、我々の研究室の新潟の子どもの 生活時間帯や、身体活動量、体脂肪率や持 久的能力に関する調査でも同様の傾向が見 られます。 その一方で、子どものスポーツの過熱も 指摘されて久しく、週18 時間を越える長 時間練習や年間200 試合を越える土日の試 合の連続がスポーツ少年の身体や心に様々 な問題を引き起こしている事も指摘されて います。 <最近のスポーツ少年は軟弱?> スポーツ少年団の指導者が、「最近の子 どもはすぐ足が痛い、膝が痛いという」と 嘆いている話を良く聞きます。本当に「軟 弱」なのでしょうか? スポーツ医学の高沢晴夫氏は、靭帯等の 強度を決定する因子としてのコラーゲンと いう蛋白質の増加について、発育過程での ストレスが重要であり日常生活で自然に身 体を動かすという要素が非常に大きいこと を指摘しています。(「児童・生徒の骨折 について」、臨床スポーツ医学第2巻3号、 1985年) つまり、「最近の子ども」は小さい頃か らヘトヘトになるまで外遊びなどをやった 事がなく、関節や靭帯の強度が未成熟のま ま「大人のスポーツ」を行います。 遊びは本来「不定形」ですので一個所に 運動ストレスは集中しませんが、スポーツ は一定の技術の習得を前提としますので一 個所に運動ストレスが集中します。ところ が最近の子どもは関節や靭帯の強度が不足 しているわけで、子どもの骨は発育期にあ って柔軟である事もあり、過度のストレス の反復に絶えられず様々なスポーツ障害を 起こしやすくなっているわけです。 <発育段階と運動機能の発達> 子どものスポーツは、本来は遊びの延長 として段々と専門化してゆくものです。宮 下と武藤は、①10才以下では神経系の急成 長に対応した動きづくり、②11∼14才では 身長の急成長と全身持久力の発達に対応し たスタミナづくり、③15才以降に長育のピ ーク終了後、男性ホルモンの分泌に対応し た筋力づくりを行なうべきであると指摘し ています。(「子どものスポーツ医学」、 南江堂、1987年) このことから、子どものスポーツに「ス ピードやパワー」といった筋肉トレーニン グの要因を持ち込むことは、大人のシステ ムの子どもへの「侵略」に他なりません。 (武藤芳照「子どものスポーツ」、東京大 学出版会、1989年) スポーツ障害の予防には、発達段階に見 合った運動課題(決して練習内容ではない) が重要である事が指摘されています。二昔 以上前(一昔前ではない)の子ども達は、 あまり勉強もせず暗くなるまで良く遊び、 中学校では全国大会もなく、子どものスポ ーツの集大成である高校でのインターハイ や甲子園に一つのピークを持ってくる事が できました。 しかし、現在は遊びを飛び越して小学生 段階から「大人のスポーツシステム」に組 み込まれ、スポーツ障害の発生やそれによ るバーンアウトといった様々な問題を生み 出してきています。学校5 日制が検討され る中で、子ども達が存分に遊べる環境を模 索する事こそが日本のスポーツ水準向上の 鍵を握っていると思うのは私だけでしょう か?

スポーツタレントの発掘

オリンピックや世界選手権で金メダルを 目指すには、現在の代表選手の強化だけで はだめで、子供の頃からの「スポーツタレ ント」を発掘することが重要だといわれて います。 確かに、先の体操競技世界選手権メダル リストの塚原選手は、五輪・金メダリスト の父親と同じく五輪代表の母親という優れ

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た家系(遺伝子?)で、子供の頃から両親 のいる体操クラブで才能を磨き、金メダリ ストのアンドリアーノフ選手のコーチを受 けて成長してきました。「やっぱサラブレ ッドは違うよな・・!」ということでしょ うか。 <才能を見つけること> しかし、塚原ジュニアのように両親とも 五輪体操競技選手で体操クラブ育ちの場合 には、「九分九厘」体操競技に向いた才能 があるし環境も整っているわけです。しか し、ひょっとすると「棒高跳」あたりも向 いていたのかもしれません。 かつてスポーツ王国といわれた旧東独は、 この才能の発掘に優れたシステムを持って いたといわれています。例えば、ジュニア のウェイトリフティングの選手は、最大重 量ではなく一定の重量での技術点のような ものもあり、レスリングやボクシングでは 試合だけではなく床運動のような種目もあ りました。また、筋力や持久力といった出 力系だけではなく、動作を上手に組み合わ せるコーディネーションといった制御系の 能力も重視し、それらのテスト項目や測定 基準も考えられていたようです。 そして、手の骨の26 項目を測定すること により生物学的年齢(BA)を算出し、暦年 ではなく生物学的年齢と照らして高いパフ ォーマンスであるかどうかで「国立スポー ツ学校」にスカウトするか、そのまま地域 クラブで競技を続けるかの判断(経済投資 の効率?)をしていたようです(そこに本 人の意志がどの程度関与できたかは分かり ませんが・・)。 つまり、才能のあるタレントを発掘し、 かつそのタレントの生物学的成熟度が何歳 であるかを判定することによって、優秀な スポーツ選手の「供給源」を確保していた ようです(最近は、その後のトレーニング でのドーピング疑惑も指摘されています が・・)。 <成長段階の推定> この生物学的成熟度の推定は大変に重要 な意味を含んでいまが、残念ながら日本で は未だシステムとしては確立されていませ ん。放射能を用いたレントゲン照射を何回 も実施できず、スポーツ障害で来院した際 に障害部位と同時に測定したものを利用す る程度と思われます。 現在、我々の研究室では、スポーツ医学 関係者とも共同で「身長」を用いてこの成 長段階を推定できないかとトライしていま す。 身長は毎年伸びて行くわけで、健康診断 の項目にも入っています。そこでこの一年 毎の身長の成長速度曲線を、コンピュータ を用いて連続したものに補完して求めるこ とにより、何とか成長段階を推定できない だろうか・・ということです。 成長速度は、いったん滞ってから急激な スパートがあり、ピークを迎えると以降低 下して行きます。このスパートからピーク の間(男子で小学校5年から中学校2年位) に、成長期の膝のスポーツ障害である「オ スグッド=シュラッテル症」が発生しやす いというデータが得られています。 そして、この時期はご存知のように子ど もたちがスポーツを始める時期に合致して おり、さらに、子どもたちの生物学的年齢 (BA)は、暦年と±3年のズレがあると 考えられています。ですから、スポーツの 指導において、この成長段階の推定ができ れば子どもたちのスポーツ障害を予防する ことが可能となってきます(3ヶ月後は危 ない!)。 ところで、「えっ、うちの6年1組って 小学4年生と中学2年生が混ざってるの か?」

子どものフルマラソン

昨年12 月、一家でホノルルマラソンを走 ってきました。私が4 時間 08 分、中 2 の 兄が4 時間 22 分、小 5 の弟が 6 時間 51 分、 妻と小2 の娘が 8 時間 10 分という結果で

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した。 実は、国内では日本陸連の規定で、高校 生以下はフルマラソンに参加できないので、 ホノルルは日本人の子どもが走れる数少な いマラソンといえます。 前にもふれたように、宮下と武藤は、① 10才以下では神経系の急成長に対応した動 きづくり、②11∼14才では身長の急成長と 全身持久力の発達に対応したスタミナづく り、③15才以降に長育のピーク終了後、男 性ホルモンの分泌に対応した筋力づくりを 行なうべきであると指摘しています。です から、小2は別として小5と中1の我が家のラ ンナーたちにとっては、ペース配分さえ間 違わなければあまり問題のない(?)もの と考えられます。 <3 つのエネルギー供給系> 私たちが運動を行うときのメカニズムは、 ATP-CP系による筋線維の収縮です。これ は、ハイパワー系といわれ、一気に使って しまうと7 秒間程度で消費されてしまいま す。そこで、もう少しスピードの遅い運動 では、この消費されたATP-CP系を、筋肉 中のグリコーゲンを分解する解糖系という メカニズムを用いて回復させます。これを ミドルパワー系といい、33 秒間ほど持続が 可能です。ですから、スピーディーな運動 の継続は、エネルギー供給源からみても40 秒程度が限度ということになります。この 解糖系では、分解産物として乳酸が生成さ れ、この乳酸が一定量以上蓄積してくると 「きつい!」という感覚が生じます(極め つけは「ケツ割れ状態」)。最近の研究で は、この一定の血中乳酸値の時にどの位の 強度の運動ができるのか(ATといわれるこ ともある)が持久力の因子として重要であ ることがわかってきました。 <本当の持久的な運動は?> 3つめの供給系は有酸素系(ローパワー 系)といわれるもので、体内の炭水化物や 蛋白質や脂肪を酸化してエネルギーを発生 させ、ATP-CP 系や解糖系を回復して、長 時間の運動を可能とし、血中乳酸も生じま せん。しかし、このシステムは出力が小さ いため、一定以上の速いスピードで走った りするとミドルパワー系から「借金」をせ ねばならず、徐々に乳酸が蓄積してきて「き つい!」という感覚が生じます。そして、 グリコーゲンを消費し尽くしてしまうと、 「足が棒!」のヘロヘロ走行の状態となり ます。 喩えていえば、ハイパワー系は、財布の 中の一万円札、ミドルパワー系は千円札、 そしてローパワー系は毎日もらえる小銭の お小遣いということです。ですから、小銭 が毎日300 円しかもらえない人が、見栄を 張って600 円のお昼ご飯を食べつづけると 来月までもらえないミドルパワー系ハイパ ワー系を食いつぶしてしまって「もう駄目 状態!」となります。 <マラソン完走の秘訣> もしも、マラソンで「ラクラク完走」を 目指すのであれば、適当に水分と食物を補 給しながら乳酸の生じないペース(心拍数 130bpm 以下)で走れば OK ということに なります (もちろん関節や靭帯の強度もあ る程度は必要)。しかし、それでは良いタ イムは出ないので、ミドルパワー系も適当 に動員しながらゴールで「お財布空っぽ状 態」になれば良いわけで、子どものフルマ ラソンでも同様のことがいえます。中1 の お兄ちゃんは、このお財布空っぽ状態が 27Km できたようで、お父さんに 35Km 地 点で15 分差を逆転され、その後は、一応、 陸上部・長距離選手の「お小遣い能力」で なんとかゴールをしたようです。 ところで、8才男子の世界最高記録は3 時間 00 分で、女子は3時間 26 分です。ど の位の運動強度で走っていたのかはわかり ませんが興味のもたれるデータです。が、 その後この子どもたちの名前を聞きません。 どうもマラソンの「早熟」の結果はあまり よくないようです。

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話題閑休

(二日酔いとランニング) 「ウー気持ち悪い、昨日飲み過ぎ た!」・・某研究会合宿の朝、よくある話 です。で・・ <酒抜きに汗かいてくる・・> 吐く息もなんとなく酒臭いし気持ちも悪 いので、「アルコールを抜いてしまおう!」 と運動(ランニングなど)に行くのはよく ある話です。エタノール(アルコール)は 水溶性ですので水を飲んで汗をかけば何と なく体外に排出されるような気がします が・・ じつは、二日酔い(宿酔)の元凶はアセ トアルデヒドという分解途中の産物で、最 終的には二酸化炭素と水になるのですがそ こまで分解しきれないのです(要するに「飲 み過ぎ!」)。そして、アセトアルデヒドは 水溶性ではありませんので水を飲んで汗を かいても簡単に体外に出て行かないのです。 <お酒の行方・・> エタノール(アルコール)の代謝は、胃 と小腸で吸収され、体内最大の化学工場・ 肝臓へと向かいます。そこで、アルコール 脱水素酵素+ミクロソームのエタノール酸 化系+カタラーゼの共同作業で「アセトア ルデヒド」に分解されます。 そして、アセトアルデヒド脱水素酵素に よって「酢酸」を経由して、最終的に二酸 化炭素と水に分解され・・やっと酒が抜け るのです。そして、分解処理速度は 12g/ 時(日本酒 90cc/時)ですので、これを越 える分はアルコールまたはアセトアルデヒ ドで再循環(酔いが醒めない・二日酔い) ということとなります。 再循環をするということは、肝臓は常時 高濃度のアルコールとアセトアルデヒにさ らされていることになり、脂肪組織からの 脂肪酸の運搬がはじまり、中性脂肪の合成 がすすみ、最悪の場合「脂肪肝」「肝炎」 を引き起こすこととなります。 夜中の 2 時まで大徳利3本も飲めば、分 解されるのが 12 時間後、朝 6 時に寝不足で 走ったりすると・・アセトアルデヒドは心 臓の筋肉に対してもエネルギー生産阻害、 収縮力低下、脂肪蓄積と線維化の促進等の 問題をもっていますので・・ <恐怖の生体実験!> ということで、某中年男性に、二次会ま でいって 1 升近く飲んだ翌日の通勤ランニ ング時の心拍数を計ってもらい、通常の通 勤ランニング時と比較検討してもらいまし た。 すると・・ 朝起床時は、通常よりやや高い(60 拍 Vs 64 拍)のですが、走り出すとすぐ通常より 20 拍ほど高い 160 拍/分を越えます。そし て、ランニングを終了して 1 時間経過して もなかなか 90 拍/分以下にならないので す。 1 8 15 22 29 36 43 50 57 64 71 78 85 92 99 106 113 12 0 12 7 S1 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 心 拍 数 の 回 復 が 遅 い 時 間 経 過 通 常 よ り 心 拍 数 が 高 い 終 了

スマッシュは調整?

スポーツ心理学の分野で最近話題になっ ているテーマの一つに「視覚情報処理」が あります。これは、東京大学の佐々木和夫 氏の提唱する「知覚的知識(アフォーダン ス)」という概念に基づくもので、本来は スポーツ以外の分野からのアプローチであ ったものです。 「中枢プログラム」による「刺激−反応 −評価」という因果的な「機械の行為」に 対し、環境に存在する情報による複雑に(因 果的でない)調整された「有機体の行為」 について説明したもので「知覚的知識と行 為との調整のしあい」という概念です。

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佐々木氏は、ブーツマによる卓球のスマ ッシュの実験結果を引用し、打ち込み動作 が「定型」ではなくインパクト直前の60 ミ リ秒位まで微妙に調整されていることから、 一旦開始された行為が、知覚情報に対して 限りなく「柔軟」であることを示していま す。そして、熟練したスポーツマンの行為 は、特定の刺激によって引き起こされる「定 型」ではなく、環境変化による知覚情報に 対して限りなく柔軟になるプロセスの習得 であるとしています。 <視覚性運動制御> 名古屋大学の山本裕二氏は、この概念を 受けて、環境との相互作用としての運動行 為の変化において、インターフェースとし て重要なものが視覚であり、日常生活の多 くの運動が視覚性運動制御のもとで遂行さ れるとしています。 そして、刺激の種類によって運動プログ ラムが事前に決まり、修正はあるものの基 本的にはそのプログラムに基づいて出力さ れるという従来の考え方に対して、生態学 的アプローチを提起しました。 視覚情報による環境変化を「オプティカ ルフロー」と表現し、物体の接近がもたら す視覚性運動情報をτ(タウ)と規定して います。それは、ある時点での物体との距 離をその物体の速度で割ったもので、イン パクトまでの残り時間が特定できる情報と しています。 山本氏は、野球のバッティングについて の実験で、バットスイングがインパクトの 100 ミリ秒前から内外角のコースに応じて 変化することから、この変化が視覚性運動 制御によってもたらされたのではないかと しています。人間の反応時間は、視覚刺激 から筋肉が活動するまで100 ミリ秒かかる ことがわかっていますので、ボールの変化 の情報をそれ以前の段階で処理して対応し ていることは十分に考えられることです。 <ボール感がある?> 野球の外野手が、ライナー性の打球に判 断よくダッシュし好捕するシーンがよく見 られます。これは、投球の速度とコース、 バットスイングの内容と打球音などの情報 と「インパクト時」と「瞬間経過後」の打 球のコース等を判断しているもので視覚性 運動情報(τ)が大きく関与しているもの と考えられます。 どうやら、「ボール感がある」というの は、この視覚情報処理の能力に関係してい るようで、特に「最近の子ども」は、外遊 びをせずにビデオ画面の視覚情報処理ばか りしているので、実際に飛んでくるボール を扱うのが下手くそになっているのでしょ うか。 元中国バドミントンナショナルチームの 知人が、「フレームショットを100 回打て れば世界チャンピオンになれます!」とい っていましたが、これも「あたりそこねの タウ」が視覚情報処理を混乱させるからな のでしょうか? 神経生理学では、「感覚刺激によって引 き起こされる運動」と「自発的な運動」で は脳内で関与する個所が異なっていること がわかっています。また、視覚を受容する 視覚野には、線の移動にのみ反応する細胞 や顔にのみ反応する細胞など様々な役割を 持つ細胞が存在することはわかっています が、このような複雑な視覚性運動制御がど のようなメカニズムで実現されているかは 未だによくわかっていないようです。

イレギュラーボールの処理

前回、視覚情報処理による運動制御や「知 覚的知識(アフォーダンス)」という問題 をとりあげました。実は、体育心理学やス ポーツ心理学の分野で、最近少し話題にな っているトピックスなのですが、若干「よ くわからない部分」も含んでいるもので・・。 流行っているなら遅れてなるか・・とい うことで我が研究室でも実験をしてみまし た。スマッシュもバッティングも研究され ているので、卓球のリターンをとりあげま

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した。 <反応時間と予測> 私たちの研究室では、ずっと(ここ 20 年ほど)反応時間の研究を行っています。 反応時間というのは、刺激が提示されてか らそれに応じた動作を開始するまでの時間 をいうのですが、刺激の内容に関わって「ヤ マ」がはれるので・・本当は多くの問題を 含んでいます。 例えば、テニスのネットプレーで「必ず ストレートがくる」との予測が可能であれ ば、いかによいパッシングショットでもボ レーできます・・が相手が「タイミングが 合わず」ヘロヘロのクロスショットがきた りするとボレーできません。 そして、どこが刺激の開始かというと「ボ ールインパクト以前」であることがわかり ます。つまり、インパクトされてから反応 していたのでは間に合いませんし、逆にあ まりはやく反応してしまうと相手にこちら の対応を読まれてしまいます。卓球のサー ブレシーブでも同じことで、相手サーバー の「肩のひねり方」を重要な情報源として コースを判断しているようです。 <視覚情報処理時間> 今回は、予測の問題ではなく、短時間で の視覚情報処理を検討しようということで、 卓球のストロークをモデルとし、秒速12m という実際の試合並みのスピードで打ち出 されるボールをバウンド地点に細工をする ことによりイレギュラーバウンドさせて、 それへの対応を検討することにしました。 そして、ボールがイレギュラーバウンド をすることが事前にわかっていると、バウ ンドしてから準備動作が完了する(テイク バック)までの時間を遅らせていることが わかりました。これは、バウンドしたボー ルのコースを判断(視覚情報処理)し、そ れに応じた動作パターンを決定するまでの 時間が必要なためと考えられます。 椅子に座らせて胴体を固定する条件でも 試してみました。すると、バウンドしてか らテイクバックまでの時間に加え、振り出 してからボールインパクトまでの時間も遅 延していました。そして、手首の関節角度 もボールインパクトの 100msec.前でも多 様に変動しています。つまり、全身が自由 な状態では、視覚情報処理に関わると考え られる時間にのみ遅延がみられ、これに対 して、胴体が固定されると、既得の動作パ ターンのみでは対応できず、何らかの調整 システムが作動して、質量の軽い前腕や手 首の変動にインパクト直前にまで影響を与 えている可能性が考えられるのです。 つまり、通常の状態では、私たちの身体 は大変に柔軟に課題に対応して動作パター ンを瞬間的に変更できる能力を獲得してい るようなのです。

データの科学的管理?

<誤差と実力> 4 月のロッテルダムマラソンで、ケニア のロルーペが2 時間 20 分 47 秒の女子世界 最高を記録し、翌日のボストンマラソンで はエチオピアのロバが足の痛みを抱えなが らも自己ベストの2 時間 23 分 21 秒で優勝、 そのタイム差は2 分 30 秒で 6.25%ですが、 コースの難易度比較するともっと差はなく なります。同じくボストンマラソン男子の 部では、ケニアのタヌイが同僚のチェベト を3秒差で逆転し2時間7分34 秒で優勝、 こちらは 0.04%で、3 位の南アのタイスと は18 秒差で 0.24%ということになります。 こんなデータは研究者としては「誤差」 としか言いようがありませんが、コーチと しては「実力差」ということになります。 アトランタ五輪の男子 100mでも、ベイ リーの世界新記録 9 秒 84 に対するフレデ リクスの9 秒 87 は 0.3%の「誤差」でしか ありませんが、ベイリーは五輪、世界選手 権とも金メダルの「実力者」です。 つまり、我々研究者が論文を書くデータ の「誤差」の範囲に「実力差」の範囲があ ることとなります。しかし、誤差の中に「必

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ず」実力が入っているということは、そこ に厳然たる「科学的事実」が存在している ということにもなります。 <「違いのわかる」データ分析?> ところで、二昔位前の測定機器は、精度 が悪くまた実験の戦略もまだ確立されてい なかったため、実際には数回の複雑な変化 をしているものを2 回程度の変化でしか分 析できませんでした。また、元々正常な人 間を前提に考えられたシステムでしたから、 トップクラスの「異常な(?)」データを 分析できるシステムではなかったわけです。 長野五輪で話題の主、ジャンプの原田選 手のトレーニングドクターは、バイオメカ ニクスが専門の北星学園大の佐々木先生で す。最初は、全く話し合いにならなかった そうで、佐々木先生は失敗したジャンプを 指摘するのに、原田選手は「そんなことは 言 わ れ な く て も 自 分 が 一 番 わ か っ て い る!」ということで、すったもんだの末「上 手くいったジャンプと普通のジャンプの違 いを分析してみる」という視点の転換から、 ようやく「誤差の分析」がスタートしたと のことです。現在は、バイオメカニクス的 分析によるデータはトレーニングに不可欠 のものとなっているのは皆さんもご存知の ことと思います。 現在、長距離ランナーのトレーニング管 理は、疲労とオーバートレーニングの限界 の判定に血液中の様々な物質のデータが活 用されています。また、トレーニング強度 の推定には血中乳酸が使われています。広 島大の長距離がご専門の新畑先生は、オー バートレーニングの判定にクレアチンキナ ーゼ(CPK)という心臓発作に関連して 増加する物質を活用しています。新畑先生 に、なぜそんなにこだわるのですか?と質 問をしたら、「選手もコーチも練習をやめ るというのは大変に勇気のいることで、つ いついオーバートレーニングになってしま う」からだとのこと、そして最後に冗談で 「オレ随分選手潰したもん!」。 <データの貢献度> 現在のスポーツ医科学のデータから恩恵 を受ける可能性が最も高いのは、いわゆる 「市民マラソンランナー」ではないかと思 うのです。上手にトレーニングを行ない、 食事・栄養・給水・ペース等を管理すれば、 5時間程度の記録なら簡単に30∼40分は短 縮できますし、「正常範囲の上限」程度の 誤差管理ならスポーツ医科学の独壇場です。 また、コーチや選手、市民ランナーにも比 較的理解のしやすいデータが多くなってい ます。例えば、ランニング開始から2時間 後に急激に血圧低下が起こることがわかっ ていますが、これは、発汗による血液の濃 縮に関係しており、適切な給水である程度 は予防できることもわかってきています。

マイペースとは

中長距離走をモデルとした教材に「ペー スランニング」があります。「がむしゃら にがんばらないで自分のペースでベストタ イムを・・」というのですが、では、その ペースは一体どうやって決めるのでしょう か? <オーバーペース?> 無理して頑張るな・・ということですが、 では「無理」とはどういう状態をいうので しょうか?「オーバーペース」という表現 もあります。つまり、自分の持久的能力を 超えたペースで走り出すと最初は良いが後 半バテバテになってしまう状態を指すよう ですが・・ しかし、生理学的にいうと、私たちの身 体の持っている 3 つのエネルギー供給系 (7秒以下のハイパワー系、33秒続くミ ドルパワー系、いつまでも続くローパワー 系)の総量は一定ですので、瞬間的に速く 走ろうが持続的にのんびり走ろうがそれ以 上のパフォーマンスは得られないように思 えます。 ただ、ミドルパワー系を急激に使ってし

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まった場合には、グリ−コーゲンの解糖に より筋肉中に乳酸が蓄積します。そしてこ の量が筋の 0.3%を越えると運動遂行が不 可能になるといわれ、この乳酸が出はじめ ると、私たちは「きつい!」と感じ始めま す。 ですから、いわゆる「オーバーペース」 とはこの乳酸が除去できなくなって、運動 遂行ができなくなった状態を指すと思うの ですが、長距離走では、300mで「はいそ れまで!」というハイペースで走ることは ありませんので、ペース変動はあるものの 結果はどう走っても同じではないかと思わ れます。事実、長距離走では「前半型」「後 半型」「イーブンペース」「機能的イーブ ンペース」4 つのペースがあることが報告 されています。 <スキルの維持> この中では、機能的イーブンペースが最 も良いタイムが出ることが経験的に知られ ています。スピードの水準が段々低下して 行くわけですが、この原因はハイパワー系 とミドルパワー系の消費です。ローパワー 系は酸素の供給さえあれば持続するのです が、それほどスピードが出せません。そし て、これらの瞬発性に関係した筋線維(FT 系)は、複雑な神経支配を受けていて「効 率的に上手に走るスキル」を支えていると 考えられます。 ですから、この FT 系線維が疲労困ぱい 状態になると、ミドルパワー系や出力の小 さいローパワー系を効率的に利用すること ができなくなり、フォームも崩れて結果的 にベストタイムが出ないことになります。 「見てくれのカッコよさ?」を維持しなが ら何とか完走する・・どうやらこれが「マ イペース」の正体のようです。

スポーツは体にわるい?

最近話題の加藤邦彦先生の「スポーツは 体にわるい」という本があります。私もい ろんな方から質問を受けるので読んでみま した。 基礎老化学で、活性酸素とストレス、抗 酸化物質の研究が専門の方ですので説得力 のあるデータがきちんと提示されています。 が・・問題は「スポーツ」の規定に若干無 理があるようで、ある意味で現在の日本人 の「スポーツ観」をあらわしている面もあ るようです。 <活性酸素の害?> 180 185 190 195 200 205 210 200m 400m 600m 800m 1000m 前半型 後半型 イーブン 機能イーブン 4つのペース配分 例えば、過度な運動は短命につながると いうことでねずみのデータを人間に換算し たものがあります。体重63Kg の 30 代男性 は、時速 10Km のランニングで毎日 25 分 以下なら大丈夫だが 40 分以上だと死亡率 が増加するというもので、確かに、強制的 な運動負荷を与えるとストレスとなって免 疫機能を低下させるというデータはよく知 られています。そして、激しい運動を繰り 返すと酸素消費量が増大し、反応性の高い 「フリーラジカル」といわれる活性酸素を 増加させ、これが身体に様々な悪影響を与 え、老化やガンなどを誘発するということ です。また、激しいスポーツは、体脂肪を 分解して「過酸化脂質」を増加させこれも また動脈硬化や炎症を引き起こす。故に、 酸素消費量を急激に増加させるようなスポ ーツは体にわるい・・という結論になりま す。 そして、寿命に直接的に影響を与えるも のとして「肥満」をあげ、それを予防する ために「運動」の意義があるのであって、 食事制限で肥満が防げるのであれば敢えて 運動によるストレスを増加させなくても良 いのではないか?・・として、ねずみの実

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