■学位論文要 旨(修 士)
日比 経済連携 協定 か ら考
える外 国人労 働者政 策 と
日本 の介護労働 市場
藤
井
恵
理*
* 京都 女 子大 学大 学 院 公 共圏創 成 専攻 現代社会研究科 95 本 論 文 「日比 経 済 連 携 協 定 か ら考 え る 外 国 人 労 働 者 政 策 と 日本 の 介 護 労 働 市 場 」 は 、 日 比 経 済 連 携 協 定 に基 づ く介 護 労 働 分 野 へ の 外 国 人 労 働 者 の 受 け入 れ が 、 日本 の 外 国 人 労 働 者 の 受 け入 れ 政 策 と介 護 労 働 の あ り方 に どの よ うな 意 味 を 持 つ か 、 を検 討 した もの で あ る。 まず1章 で 、 外 国 人 労 働 者 受 け 入 れ を め ぐ る政 策 ・議 論 ・実 態 に つ い て 整 理 して い る 。 日本 の 外 国 人 労 働 者 受 け入 れ に 関 す る基 本 方 針 は 、① 専 門 的 、 技 術 的 分 野 の 労 働 者 は積 極 的 に 受 け 入 れ る 、 ② 単 純 労 働 者 の 受 け 入 れ は 経 済社 会 に与 え る影 響 を考 慮 し て慎 重 に検 討 す る(実 質 的 に受 け 入 れ ない)、 で あ る。 こ の 方針 は 、1988年 の 「第6次 雇 用 対 策 基 本 計 画 」 で 明 示 さ れ 、 今 に至 る ま で 変 わ つ て い な い 。 一 方 、 少 子 ・高 齢 化 社 会 にお け る労 働 力 不 足 を背 景 に 、 外 国 人 労 働 者 に 関 す る 議 論 が 高 ま っ て い る。 そ こ で の 焦 点 は い わ ゆ る単 純 労 働 者 を 受 け 入 れ る か 否 か で あ る 。 小 池 和 男 は、 労 働 者 を他 国 か ら受 け 入 れ る場 合 は 、 専 門 的 な技 術 を持 つ 高 度 人 材 に 限 定 し、 日本 経 済 の競 争 力 に寄 与 す る 人 材 を 育 て る こ とが 重 要 で あ り、 そ れ 以 外 の 単 純 労 働 者 は 受 け入 れ るべ きで は な い と主 張 す る。 ま た 、 労 働 力 と して は 日本 の 高 年 者 の 活 用 が 有 効 で あ る と主 張 す る。 中村 博 彦 は 、 人 口 減 少 社 会 へ の 対 応 策 と して 、 移 民 受 け 入 れ 政 策 を提 言 して い る。 移 民 開 国 と難 民 受 け 入 れ に 積 極 的 な姿 勢 を示 して お り、 従 来 の 政 策 と比 べ て 非 常 に 開 放 的 で あ る。 井 口泰 は 、 日本 に お い て ア ジ ア の 人 材 を養 成 し、 そ の 一 部 の 人 々 に 還 流 して も ら う 「人材 開 発 ・還 流 モ デ ル 」 を 提 唱 して い る 。96 現代社会研究科論集 三 者 と も外 国 人 を受 け 入 れ た場 合 の 社 会 的 な 保 障 や 教 育 ・訓 練 の重 要 性 を挙 げ て い る点 は 共 通 で あ る 。 実 態 に つ い て は 、 入 国 管 理 統 計 な どに基 づ き在 留 資 格 の 変 遷 と労 働 者 数 の 推 移 を把 握 し た後 、 中 村 二 朗 ら に よ る最 新 の 実 証 研 究 の 成 果 を紹 介 す る。 そ の 結 論 は 、 外 国 人 労 働 者 (特に単 純労 働 者)の 導 入 が受 け入 れ 国(日 本) の 労 働 者 の 労 働 条 件 に マ イ ナ ス の影 響 を与 え る か とい え ば 、 必 ず し もそ うで は な く、 受 け 入 れ が 産 業 構 造 の 高 度 化 を遅 らせ る か とい え ば 、 短 期 的 に は そ の 面 が み られ る もの の 、 も と も と資 本 装 備 率 や 熟 練 労 働 者 と補 完 的 な資 本 が 相 対 的 に装 備 さ れ て い る企 業 で は 、 外 国 人労 働 者 を導 入 し な い 企 業 よ り相 対 的 に 効 率 的 な 経 営 を行 っ て い る 可 能 性 が 高 い 、 とい う もの で あ る。 中村 二 朗 らは 、 さ らに 、単 純 労 働 者 と熟 練 労 働 者 と い う二 分 法 的 な考 え 方 は 、 労 働 市 場 の 実 態 と乖 離 して お り、 中 間 的 な 労 働 者 の 存 在 だ け で な く、 外 国 人 労 働 者 の 国 内 で の 人 材 育 成 効 果 も加 味 した 上 で 、 どの よ う な外 国 人 労 働 者 を、 どの よ うな 方 法 で 、 どの 程 度 導 入 す るか に つ い て、 体 系 的 な議 論 を行 う必 要 性 が 高 い、 と言 う。 続 くH章 で は、 日比 経 済 連 携 協 定 に よ る外 国 人 介 護 士 受 け入 れ の 経 緯 、 概 要 、 問 題 点 を 述 べ る 。 経 済 連 携 協 定 の 概 要 と経 緯 、 受 け入 れ コ ー ス 、 人 数 、 雇 用 条 件 等 を 整 理 し、 問 題 点 と して 、 候 補 者 要 件 の 設 定 の 高 さ、 国 家 試 験 受 験 に 関 わ る問 題 点 、 制 度 ・運用 面 で の 不 備 を指 摘 して い る。 そ して 皿章 で 、 日本 の 介 護 労 働 分 野 に 焦 点 を当 て 、 日比 経 済 連 携 協 定 に よ る外 国 人 労 働 者 の 導 入 が どの よ うな 意 味 を持 つ か を 追 求 す る。 少 子 ・高 齢 化 の 現 状 と将 来 推 計 人 口 の推 移 か ら介 護 分 野 の 労 働 需 要 増 が 必 然 的 で あ る こ と、 厚 生 労 働 省 の 推 計 で2014年 ま で に約40 万 か ら60万 人 の 介 護 人 材 確 保 の 必 要 性 が あ る とさ れ て い る こ と を述 べ 、 ひ とつ の 対 応 策 と して の 経 済 連 携 協 定 に よ る介 護 労 働 者 の 受 け 入 れ に 注 目 し、 経 済 界 と事 業 者 側 の 賛 成 意 見 、 労 働 者 側 の 条 件 付 反 対 意 見 を紹 介 した 後 、 意 味 の 検 討 に入 る 。 まず 量 的 に は 、 今 後 の 介 護 人 材 確 保 の 必 要 量 に 比 べ フ ィ リ ピ ンか らの 受 け 入 れ枠 は2年 間 で600人 、 イ ン ドネ シ ア か ら も同 じ く600人 で あ る 。 介 護 労 働 市 場 に イ ンパ ク トを与 え る 規 模 で は な い 。 しか し、 質 的 に 大 きな 意 味 を持 つ 可 能 性 を 持 っ て い る。 第 一 に 、 日本 介 護 福 祉 士 会 が 賃 金 等 の 就 労 環 境 が 改 善 さ れ れ ば 外 国 人 の 導 入 に 反 対 し な い と して い る こ とで あ る 。2009年 、 介 護 報 酬 を3%引 き上 げ る こ とが 決 定 さ れ 、 介 護 労 働 の 処 遇 は 改 善 の方 向 に あ る 。 第 二 に 、 介 護 労 働 者 の 賃 金 引 上 げ に は 限 度 が あ る こ と を指 摘 す る。 介 護 職 の 賃 金 引 き上 げ は介 護 報 酬 の 引 き上 げ が前 提 とな るが 、 介 護 報 酬 の大 幅 な引 き上 げ は介 護 保 険 料 の 負 担 増 につ な が る 。 そ こ そ この 処 遇 改 善 で と ど め 、 か つ 介 護 労 働 を確 保 す る に は 、 外 国 人 労 働 の 導 入 が 不 可 欠 と考 え て い る。 第 三 に、 厚 生 労 働 省 が あ げ る 単 純 労 働 者 導 入 に た い す る 反 対 理 由 が この 分 野 で は 成 立 し
日比経 済 連携 協 定か ら考 え る外 国 人労働 者政 策 と 日本 の 介護 労働 市場 97 な い 点 を 指 摘 す る 。 厚 生 労 働 省 の 反 対 理 由 は 以 下 で あ る。 ① 雇 用 機 会 が 不 足 して い る高 齢 者 等 の 就 業 機 会 を減 少 させ る お そ れ が あ る こ と。 ② 労 働 市 場 の 二 重 構 造 化 を生 じ させ る と と もに 、 雇 用 管 理 の 改 善 や 労 働 生 産 性 の 向 上 の取 り組 み を阻 害 し、 ひ い て は 産 業 構 造 の転 換 等 の 遅 れ を もた らす お そ れ が あ る こ と。 ③ 景 気 変 動 に伴 い 失 業 問 題 が 生 じや す い こ と。 ④ 新 た な社 会 費 用 の 負 担(教 育 、 医 療 ・福 祉 、 住 宅 等)を 生 じ させ る こ と。 ⑤ 送 り出 し国 や 外 国 人 労 働 者 本 人 に と り、 人 材 の 流 出 や 日本 社 会 へ の 適 応 に伴 う問 題 等 影 響 も き わ め て 大 きい と予 想 され る こ と。 ① につ い て は、 中 村 二 朗 らの 実 証 研 究 に よ り、 労 働 需 要 が 旺 盛 な 分 野 で は外 国 人 労 働 者 が 日本 人 の 雇 用 機 会 を奪 っ て は い な い こ とが 明 らか に な っ て い る こ と、 今 後 の 必 要 確 保 人 数 か ら して 介 護 分 野 の労 働 需 要 は 強 い と考 え られ る こ とを述 べ る。 ② に 関 して は 、 就 労 条 件 が 改 善 の 方 向 に進 ん で い る こ と、 介 護 分 野 は機 械 化 や 合 理 化 が 困 難 で あ る こ と、 そ し て介 護 は 成 長 分 野 で あ る こ とか ら、 大 き な問 題 に な らな い と述 べ る 。 ③ に つ い て は 、 工 場 労 働 や 建 設 労 働 な ど雇 用 が 景 気 に左 右 され る分 野 と異 な り、 介 護 労 働 へ の 需 要 は安 定 的 に増 加 して い く点 を 指 摘 す る 。 ④ は、 負 担 増 と受 益 増 の バ ラ ン ス で 考 え る べ き問 題 で あ り、 受 益 者 が 主 に介 護 事 業 者 で あ れ ば事 業 者 に 相 応 の 負 担 を 求 め て い くこ と が 考 え られ る と述 べ る 。 ⑤ に つ い て は 、 介 護 労 働 の 開 放 は 送 り出 し 国 が 求 め て きた こ と で あ る こ と、 日本 社 会 へ の 適 応 は 受 け 入 れ 側 の 努 力 と双 方 の慣 れ に よ り進 む性 格 の 問 題 で あ る こ と を指 摘 す る。 以 上 か ら、EPAを 介 して の 介 護 労 働 者 の 受 け入 れ は 、 単 純 労 働 者 受 け 入 れ の 突 破 口 に な り得 る と結 論 づ け る。 そ して 、 現 状 の 介 護 労 働 者 受 け 入 れ に 関 わ る 問 題 点 が 改 善 され 、 よ り多 くの 優 秀 な 外 国 人 労 働 者 が 介 護 分 野 で 働 く 日が くる こ と に た い す る 期 待 を 表 明 す る 。 さ ら に、 こ こ で 突 破 口 が 開 か れ れ ば 、 外 国 人 労 働 者 を専 門 的 技 術 的 労 働 者 と 単 純 労 働 者 と に 分 け る 二 分 法 は消 滅 に 向 か い 、 受 け 入 れ た 人 材 を い か に育 て て 日本 社 会 に 貢 献 す る 存 在 に して い くか が 問 わ れ る 時 代 が 来 る と展 望 す る。