波紋提督と震えるぞ
ハート
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あ
ら
すじ
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艦娘= 水の 上 に 立 ち 、 怪物と戦う 。波紋 戦 士= 水の 上 に 立 ち 、 怪物と戦う 。 ここに 深 淵 な 因 果 関 係 を 見 出 さ ざ る を 得 な い 。波 紋 提 督 の 艦 娘 と の 奇 妙 な 生 活 、 は じ ま り ま す 。 この作 品 の半 分 は 艦娘賛 歌でできてお り ます 。目
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第 一部 ファントムフリート │ │ │ │ │ │ │ │ │ プロローグ 1 一 話 不 知 火 に 落 ち 度 は あ る か │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 8 │ 二話 戦場の 艦娘︵+提 督 ︶ 18 三 話 こ れ よ り 艦 隊 の 指 揮 を 執 り ま す │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 28 四 話 波 紋 提 督 第 一 艦 隊、 抜 錨 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 41 │ │ 五話 正 面 海 域を防衛 せ よ 54 │ 六 話 波紋提 督 、提 督にな る 66 │ 七話 決戦 、鎮守府 正 面 海 域 81 │ │ │ │ │ │ │ │ │ エピローグ 99 第 二部 戦 闘 海流 │ │ │ │ │ │ │ │ │ プロローグ 108 │ │ │ │ │ │ 一話 新 たな 船出 117 二 話 い つ ま で も 演 習 っ て 訳 に も い き │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ ませ ん 126 三 話 反 攻 ・鎮 守 府 正 面 海 域 解 放 戦 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 138 四 話 酒 が 飲 め る 飲 め る ぞ 、酒 が 飲 め │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ る ぞ 150 ︻艦娘 は ︼ まった り提 督 雑談41 ︻ こ れ │ │ くし ょん す るも のではない ︼ 161 │ │ │ │ │ │ │ 五話 提 督 会議 180
│ │ │ │ │ 六 話 運 命の大 車輪 192 七話 ﹁よ うこそ⋮ ﹃艦娘 の 世 界 ﹄ へ⋮ ﹂ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 202 第 三部 スターダストワルキューレ 一 話 ド イ ツ 艦 娘 は う ろ た え な い ッ ! │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 215 二 話 装 甲 空 母 大 鳳 は 静 か に 暮 ら し た │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ い 232
第
一部 ファントムフリート
プロローグ
前 世 で 俺 は チベット 発祥の 秘術 であ る 特 殊 な呼吸 法を 学 ん だ 。 つま り、波紋法 であ る。通 っていた 古 武 術道 場では 仙道 と呼 ん でいた 。 波紋法、 略して 波紋 の 修行 は 困難を 極 める。 1秒間 に 10回 の呼吸ができ るよ うにす る、 10分間 息 を すいつづけて 10分間 はき つづけ るよ うにす る、 など 、 微妙 に 可能 そうで よ く 考 え る とでき るわ けがない 鍛錬 の 達 成 が 要 求さ れる。 し か し 、俺 に は そ れ が で き た 。肺 や 横 隔 膜 な ど を 代 表 と し た 呼 吸 器 官 の 優 れ た 素 質 と 、 厳 しい 鍛錬 がそ れを可能 にした 。文 字 通り血 の 滲む鍛錬 だったのだが 、 その 話 は割 愛 し よ う 。 波 紋 を 使 え ば 水 面 を 歩 き 。有 り 得 な い ほ ど の 若 々 し さ を 保 ち 。座 っ た 姿 勢 で 数 メ ー トルもジャンプ でき る。 ただの呼吸 法 で正に 超人 にな れるわ けだ 。 この 波紋法 というのは 、 実 は太 陽 と 同 じ 波長 の エネルギーを生み出 す も ので 、 本来 ゾ ンビや 吸 血鬼を 破 壊 す る た め に 開 発さ れ た も のだという 。 そして 波紋法を修め、 そ れを 1利用した吸 血鬼 との戦 闘技術を身 につけた 者を﹁波紋 戦 士﹂ と呼ぶ 。 しかし 俺 は 波紋 は 使 えて も、波紋 戦 士 にはな れ なかった 。 何故か 。 恐 怖 に弱かったか ら であ る。 恐 怖 に よ って 、 人間 は体がすく む。 息が乱 れる。 戦 闘 で 激 しい 動 き を して も 息は乱 れ る。 繰 り 返 す が 、波 紋 と い う の は 特 殊 で 困 難 な 呼 吸 法 だ 。 息 が 乱 れ れ ば 波 紋 は 途 切 れ る。 命 懸 けの戦 闘を行 いなが ら波紋を練る には 、 恐 怖 に打ち克つ並 外れ た 精 神 力、 息 を 乱さない体 力 が 要る。俺 は体 力 はあったが 、 精 神 力 は無かった 。 命がかかってい る、 と 思 った 瞬間、 怯え 震 えて息が乱 れ脂 汗 を かき 、波紋 が 維持 できなくなったのだ 。 そ ん な 訳 で 落 ちこぼ れ だった 俺 だが 、 あ る日、 道 場がは る か 英国 か ら 流 れ てきた ら し い ゾンビ に 襲撃 さ れ た時 、 咄嗟 に 妹弟 子 を庇 って 波紋を使 う 事 ができた 。ゾンビ の牙 を 喉笛 に 受 けなが ら、 激痛 と恐 怖 に 耐 えてたったひと呼吸の 波紋を練り、 カウンター の 一 撃。脳 天に 波紋を受 けた ゾンビ はただの 一撃 で灰と 化 した 。 その 瞬間、俺 は 波紋 戦 士 にな り。 致 命 傷 に より、 死 ん だ 。 そして 生 ま れ変わ った 。 生 ま れ変わ った先の 世 界には 波紋も 無け れ ば吸 血鬼やゾンビも いなかったが 、 そ れ以 2 プロローグ
外 は慣 れ親 し ん だ 現代日 本とまったく 変わら なかった 。 い や、 一 つだけ大きな 違 いがあった 。 ﹁ジョジョ の奇 妙 な 冒険﹂ という漫画が 売られ て いたのだ 。 果 たして 俺 の 世 界があったか ら この漫画があったのか 、 この漫画があったか ら俺 の 世 界 が あ っ た の か 。 そ れ は 分 か ら な い 。自 分 の 前 世 の 世 界 が 漫 画 化 し て い る と い う の は な ん と も 奇 妙 な 感覚 だったが 、 まあ 、ファン にな る には十 分 な 理 由だった 。 生 ま れ変わ って も少 し 修行を す れ ば前 世 の 感覚を取り 戻し 波紋を使 えたので 、 漫画か ら 幾つか 知ら なかった 波紋疾走を 学 ん だ り、 戦い 方を 学 ん だ りも できた 。 ジョジョ の奇 妙 な 冒険 は 俺 の バイブル だ 。 大 学 生 最 後 の 夏 休 み。俺 は 海 浜 公 園 の 近 く に 新 し く で き た デ パ ー ト に 買 い 物 に 来 て いた 。 就活は終 わり 卒 論も早々 に片 付 き 、 悠々自適。 就 職 す れ ば時 間も 無くな り旅行 は 難 しいだ ろ うか ら、 どこかの ビーチ で常 夏 の バカンス で も過 ごそうかと 思 い 、 水着 を買 3
いに来たのだ 。三 年前に履いたのが 最後 の海 パン は カビ臭 くなっていた 。 まだ 開店セール期間 中の デパート は 安売り 割 引 の 文 字が 目立 ち 、 そこに 群 が る人 は 多 い 。 か く い う 俺 も ピ ラ ニ ア の 一 員 と 化 し て い る。ス ポ ー ツ コ ー ナ ー の 一 画 、 水 着 コ ー ナ ー に 集 ま り キ ャ ア キ ャ ア は し ゃ ぐ 若 い 女 性 客 │ │ │ │ そ し て そ こ か ら 離 れ た 男 物 の 売り 場に 集 ま るむ さい男 達 と 俺。対比 で男 臭 が 凄 い 。 だが ! 俺 はそ ん じ ょ そこ ら の む さい男とは 一 味 違 う 。 前 世 の 古 武 術道 場の 鍛錬をサボり気 味だが幼い 頃 か ら続 け 、 常 日頃 か ら ︵今も︶ 波紋 を 練 り 続 け た 結 果、鍛 え こ ま れ 絞 り 込 ま れ た 美 し く た く ま し い 筋 肉 と 高 身 長 を 得 て い る。 そのへ ん の男とは む さく る しさの格が 違 うのだ よ、 格が 。 結局 む さく る しい 事 は否 定 し な い が 。顔 も ジ ョ ジ ョ ば り に 濃 い か ら。 し か し ジ ョ ジ ョ と 違 っ て 全 然 モ テ な い の は 理不 尽であ る。や っぱ 誇り高 き 血 統じ ゃ ないと ダメ か ー︵ ´・ω・︶ 悩み なが らジョジョ柄 の海 パン が無いか 探 してい る と 、 突 然横の 壁 が 轟音 と共に吹き 飛ん だ 。瓦 礫の塊が 頭 に 直撃コース で 飛ん でく る の を、 咄嗟 に 腕 に 集 中させた 波紋 で弾 く 。 水着 コーナー に 集 まっていた 若 い女性 客 が 鋭 い 悲鳴を上 げ 、 む さい男 達も 甲 高 い 悲鳴 を上 げた 。 う る せえ 。 む む む。鉄 筋 コ ン ク リ ー ト を 吹 き 飛 ば す こ の 威 力 に は 覚 え が あ る。 吸 血 鬼 だ ! こ 4 プロローグ
の 世 界に も いたのか ! 白昼 堂々 と 良 い 度胸 だ ! ﹁コォォォオオオオオ !﹂ 俺 は 波紋を 全 身 に漲 ら せ 、 決然と 壁 に空いた大穴へ歩 み寄 った 。 大穴の 向 こうに 見 え る青 い空 、 青 い海 。 そこか ら漂 う 微 かな 腐臭 とうっす ら とした 霧。 いかに も 吸 血鬼ら し い 。 背 後 か ら 引 き 止 め る 声 が す る が 止 ま ら な い 。 男 に は や ら な け れ ば な ら な い 時 が あ る のだ 。 最 大 限 に 警戒 しなが ら、 大穴の 外を覗 く 。 上下、 左右。壁 に 足をめり込 ませて 垂直 に 立 ってい る 吸 血鬼も、 街 灯の 上 に 立 ってい る 吸 血 鬼 も い な い 。非 常 階 段 か ら 転 げ 落 ち る よ う な 勢 い で 逃 げ て い く 買 い 物 客 達 が 見 え る だけだ 。 ⋮⋮⋮⋮ 。 あ れ っ 。 いない 。 どこ ? 吸 血鬼 どこ ? 困惑 して 見回 してい る と 、 デパート の 駐車 場に停まっていた 車 が数 台 まと め て吹き 飛 ばさ れ ていった 。 たちまち 炎上を始め、 近 くの 道路 の 車窓 か ら野 次 馬達 がな ん だな ん だ 5
と 顔を出 す 。 数 秒 の 間 を 起 き 、今 度 は 民 家 が 砲 弾 で も 喰 ら っ た よ う に 爆 音 と 共 に バ ラ バ ラ に な っ た 。 どういう 事 だ ? 吸 血鬼 が大 岩 で も投 げまくってい る のか 。 車 や 民 家 が 吹 き 飛 ん で い っ た 方 向 か ら、 大 雑 把 に 何 か が 飛 来 し て き た 方 角 を 割 り 出 す 。 そち ら には海しかなかった 。青 い海には 薄ら と 不気 味な 霧 が 覆 ってい る。 海 上 で 、 何かが 赤 く光った 。黒 煙が 上 が り、 数 瞬後、 信号待 ちしていた大 型トラック が恐 竜 に体当た り さ れ た よ うに派手に横 転 して スリップ。 牛丼屋に 突 っ 込ん でいった 。 吸 血 鬼 に し て は お か し い 。 い く ら な ん だ も パ ワ フ ル 過 ぎ だ 。D I O 様 で も あ の 距 離 か ら の 投擲 で トラックを 吹き 飛 ばすのは 難 しいだ ろ う 。 まさか究極 生 物⋮⋮ ? 目を凝ら し 、意識を集 中して海 上 にい る﹁ソレ﹂を見る。 鯨 の よ うな フォルム。 うっす ら と煙 を上 げ る背 中についた砲筒 、 メタリック な 黒 い 装 甲 。凶悪 な剥き 出 しの歯 。病ん だ よ うな 鈍 い光 を 放つ両 目。 見覚 えがあった 。 駆逐イ級 だ 。 ア、アイエエエエエエ !? 深 海 棲艦 !? 深 海 棲艦ナンデ !? 6 プロローグ
前 世 と 今世 では大きな 違 いが 一 つだけあ る言 ったな 。スマン あ りゃウソ だった 。 今 の 今 まで 気 に も 止 め ていなかった 事 だが 、も う 一 つ 、 大きな 違 いがあった 。 前 世 にあった ブラウザゲーム﹁艦隊 こ れ くし ょん﹂ が 、今世 には無い 。 7
一話 不知
火に
落
ち
度
はあ
る
か
砲塔 を旋回 させ る駆逐イ級を遠目 に 見 て 、 ここ数 日 の ニュースを思 い 出 した 。 東 京 湾 周 辺を航行 していた 豪華客船 が 沈没 した 、 という ニュース だ 。船 体は 真 っ 二 つで ボロボ ロ。現 場周 辺 は 濃 い 霧 に 包 ま れ生 存 者 の救 出 は 難航 し 、 専門家やら自称有識者やら があ れ こ れ と 事 件 の 原 因 を 推 測 し て い た 。有 力 な の は エ ン ジ ン ト ラ ブ ル に よ る 爆 発 と い う 話 だったが 。 も しかしなくて もコイツ、 あ る いは コイツら のせいな ん じ ゃ あないだ ろ うか 。 駆逐イ級。ブラウザゲーム ﹁艦隊 こ れ くし ょん﹂ に登場す る雑魚 敵だ 。RPG でいう とこ ろ の スライム。 そ れ が 一 匹と も な る と 、 故 意 に 負 け よ うと 思わ なけ れ ば 負 け る方 が 難 しい 。 艦娘 がい れ ば 。 転生 してか ら こっち 、 艦娘 な ん て 聞 いた 事 がない 。艦娘 なしで 対処 す る 時 、 駆逐イ級 の強さはど れ ほどなのか 。 今 また 、 ファミレス に砲弾が 突 き刺さ り、 無 残 な崩 壊 と共に 瓦 礫の山に 変わ っていく 。 あち ら で も、 こち ら で も、 さなが ら 空 襲 の よ うに無慈 悲 な破 壊 が バラ巻 か れ てい る。 8 一話 不知火に落ち度はあるかこ れ が スライム ? 馬鹿言 っち ゃ いけね ェ、魔王 の 間違 いじ ゃ ないか 。 デパート に空いた大穴の 縁 に 立 ったまま眼 下 の 惨状 に呆然としてい る と 、 空か ら独 特 の 爆音 が 聞 こえてきた 。見上 げ れ ば 飛行 機 雲を引 き 連れ て戦 闘 機が 一 機 飛ん でい る。 来た ! メイン自衛隊 来た ! 早 い ! も う来たのか ! 実 際 島 風 も 大 満 足 の 恐 ろ し く 早 い ご 到 着 だ 。自 衛 隊 は 深 海 棲 艦 の 襲 撃 を 予 期 し て い た の か ? と 一 瞬 思 っ た が 、 す ぐ に 考 え を 改 め た 。沈 没 し た 豪 華 客 船 の ニ ュ ー ス で は 、 残骸 に 残 さ れ た 痕 か ら 何 者 かに ︵陰謀論者 は 隣国 の 仕 業だと根 拠も なく 名指 ししていた が ︶ 攻 撃を受 けたのでは 、 という 話も あった 。 そ れ に 備 えていたのな ら驚 くほどで も な い 。相 手が 深 海 棲艦 だとは 思 っていなかっただ ろ うけど も。 と に か く 自 衛 隊 は 到 着 し た 。自 衛 隊 は 実 戦 経 験 と 数 は さ て お き 、練 度 は 世 界 最 高 峰。 漁 船 を 化 物 化 し た 程 度 の 怪 物 に 遅 れ は と ら な い だ ろ う 。自 衛 隊 を 倒 し た い な ら ゴ ジ ラ ぐ ら い 持 ってこないと 相 手にな ら ない 。 こ れ で 安心 だ 。 しかし ││││ 本当に 、 そうだ ろ うか 。 深 海 棲艦 の 上 空 を旋回 す る 戦 闘 機 を見 てい る内 に 、嫌 な 予感 がしてきた 。 艦隊 こ れ くし ょん は ブラウザゲーム だ 。ストーリー はあって無い よ うな も ので 、 しか し 人気 はあったた め、 二 次創作で 盛ん に ゲーム の バックグラウンドやストーリー が捏 造 9
さ れ ていた 。 その中で も 潜在 的 な共 通認識 だったのが ﹁深 海 棲艦 の 現代 兵器無 効説﹂ だ 。 ミサイルやステルス 戦 闘 機が登場せず 、 艦娘 の み が戦ってい る のは 、 深 海 棲艦 に 有効 打 を与 え られる のが 艦娘 の み であ る か ら だ 、 という 理 屈 付 け 。 そ れ がこの 世 界で も適 用さ れる な ら、自衛隊 は 深 海 棲艦 に 勝 てない 。 旋回を続 け る 戦 闘 機が 突如 として煙 を 吹き 始め た 。 ﹁ な 、 な ん だぁ !?﹂ 俺 はずっと戦 闘 機 を目 で 追 っていた 。 攻 撃 さ れ た 様 子はない 。 しかし 現実 に 、 戦 闘 機 はき りもみ しなが ら落 ちていき 、 中か ら人 が 飛 び 出 してきて パラシュートを開 く 。 戦 闘 機はそのまま 遠 くの 霧 の中に 突 っ 込ん だかと 思 うと 、 酷 い 衝突音 と共に大きな水 柱を上 げた 。 呆 然 と す る。 戦 闘 機 が 堕 ち た 。エ ン ジ ン ト ラ ブ ル か ? そ れ と も 俺 が 分 か っ て い な いだけで何かさ れ たのか 。 深 海 棲 艦。既 知 で あ り な が ら 未 知 の 敵 。 そ こ で 始 め て 、俺 の 心 に 恐 怖 が 湧 き 上 が っ た 。 あ れ は本当に 深 海 棲艦 なのか 。人類 は 勝 て る のか 。俺 は 今、 終末の 序曲 に居 合わ せた のではないか 。 しかし 。 10 一話 不知火に落ち度はあるか
波紋 戦 士 にとって 、 恐 怖 は 不 倶戴天の敵にして 親 しい 友 の よ うな も の 。 俺 は 己 の 拳を見 た 。イジメ抜 いたとまでは 言 えずと も、 堅 く 、 強く 、 鍛 え 上 げた 拳を 見 た 。 前 世 での 、長 く 辛 い 鍛錬を思 い 出 す 。 妹弟 子 を守る た め、 グールを この手でぶちの め した 、 短 く も輝 かしい 記憶を思 い 出 す 。 波紋 戦 士 は戦 闘 機には 勝 てない 。 しかし 相 手が 化 物な ら、 究極 生 物だ ろ うと 倒 せ る の だ 。 つま り。 ﹁俺 が 深 海 棲艦 に 勝 てない 理 由はないのだ ァァァッ !﹂ 跳躍ッ ! デパート の大穴か ら飛 び 降り、 足 に 波紋を集 中 。 くっつく 波紋 で 壁を駆 け 下りる。 そしてそのまま地 上を 海に 向 けて 疾走 す る。 頭 上 を 砲 弾 が 通 り 過 ぎ 、 数 メ ー ト ル 離 れ た 背 後 の 街 路 樹 を 爆 散 さ せ る。 止 ま な い 砲 撃。成 す 術も なく 蹂躙 さ れる 平 和 な 街。自衛隊 が 堕 ちた 今、 俺 が止 め なけ れ ば 誰 が止 め る ? 再 びの 爆音、 しかし破 壊音 は 続 かない 。俺 は 走り なが ら 空 を見上 げた 。 意外ッ ! そ れ は 三 機の戦 闘 機 ! 自衛隊 の 増援 だ 。 11
が 、 ダメ。 焼き 直 しの よ うに戦 闘 機が煙 を吐 きはじ める。苦 し 紛れ に ミサイル が発 射 さ れ る も す ぐ に 勢 い を 失 い 空 中 で 爆 散 。 そ の ま ま 戦 闘 機 は 墜 落 無 残。 南 無 三 ! ブ ッ ダよ寝 てい る のですか ! どう やら深 海 棲艦 には 現代 兵器が 通 用しない ら しい 。 しかし 、波紋 は 現代 兵器ではない 。 埠頭 か ら 海に 躍り出 て 、 海 上を走る。波 打つ海 面 に 広 が る波紋。 なぜか 俺 の周 り だけ 濃霧 が晴 れ、視 界 も 充 分。 予 測 ! そ れ は ク レ バ ー な 戦 闘 に お け る 必 要 不 可 欠 な 行 為。俺 は 果 敢 に 砲 撃 音 の 元 へ 向 かって海 を駆 けなが ら予 測した 。 深 海 棲艦 と共に 現れ た 濃霧 は 、 も しかす る と太 陽を遮断 す る た め の も のではないか ? 俺 の周 り の 濃霧 が晴 れ てい る のは 、 深 海 棲艦 の 濃霧、 引 いては 深 海 棲艦 に 波紋 が 有効 だか ら ではないか ? 根 拠 は充 分。心を震わ せ ろッ ! 唸 れ血液 の ビート ! 視 界についに 深 海 棲艦イ級 が映 る。俺 に 気 づき 、 砲 門を向 け るイ級。 ﹁コォォォォォオオオッ !!!﹂ 刻 め 呼吸の リズム ! 血 中に作 り出 した太 陽 の エネルギーを 次第次第に束ね 、 拳 に 集 中 ! 12 一話 不知火に落ち度はあるか
砲 門 の 向 き を読み、 弧 をを描 く 走路 で イ級 に 接近 す る。真 横 を 砲弾がつ ん ざく 爆音 と 共に 通り過 ぎ 、風 圧で煽 られよろめ いた 。 しかし 足 は止 め ない 。 とうとう 射程圏。俺 は水 面を蹴り、跳躍 した 。 大 口を開 け るメタリック な怪物に 喰らわ せ る波紋 は も ち ろん こ れ だ 。 ﹁銀色 の 波紋疾走ッ !﹂ 着 弾 ッ ! 狙 い た が わ ず 拳 が イ 級 の 装 甲 に 突 き 刺 さ る。波 紋 が 流 れ る 独 特 の 音 と 手 応 え 。効 いてい る。 そして ッ ! このまま ッ ! 拳を ! こいつの ! 目 の中に⋮⋮⋮⋮つっこ ん で ! 殴り ぬけ るッ ! 跳躍 か ら の着水 。残心を 怠 ら ず振 り返る。 脳 天 を叩 き 壊 さ れ痙 攣す る深 海 棲艦。病ん だ よ うな 昏 い光 を 放つ 不気 味な眼光 も、 片 目を 潰さ れ て コワ さ半 減 だ 。 砲 門を な ん とか 俺 に 向 け よ うとす るイ級 だが 、 そ れを果 た せず 動 かなくな る。 13
確信 す る。 奴は死 ん だのだ 。 波 紋 を 受 け た グ ー ル が 上 げ る の と そ っ く り な 煙 を 上 げ な が ら 塵 に な っ て い く イ 級 を 見 てい る と 、 素晴 ら しい 達成感 がこ み上 げてきた 。 難 敵 で あ っ た ! 終 わ っ て み れ ば 決 着 は 一 瞬 ! 俺 は 無 傷 で 一 撃 の 勝 負 ! し か し 砲 撃 を 貰 っ て い れ ば 俺 が 肉 片 と 化 し て い た ! 射 程 ! そ れ は 戦 闘 の 基 本 ! 遠 距 離 砲 撃 を す る 相 手 に 拳 で 挑 む の は 相 当 キ ツ い ! デ パ ー ト か ら か な り の 距 離 を 全 力 疾 走 し 息 も 切 れ て い る ! 水 面 に 立 つ だ け の 波 紋 の 呼 吸 を 保 つ だ け で 精 一 杯 だ っ た ! 戦 闘 が 長引 けば 負 けていたのは 俺 だっただ ろ う ! そ れ で も勝 ったのは 俺 だった ! 迷 い無い 勇気 に 裏付 け られ た 、 一直線 の 行動 が 早期 決着 を可能 としたのだ ! お 疲れ俺 ! あ り がとう 波紋 ! 呼吸 を 整え 、凱旋 す る た め に 陸 地に 目を 戻そうとす る ! そこで 視 界の 端 に 一瞬 映 る 影 ! 難 破 船 か 深 海 棲艦 の 残骸 か ! 背後を 振 り返り、 霧 に 包 ま れ た海の彼 方 に 目を凝ら す ! 捉えたのは ﹃ 敵影 ﹄ ! 感 じたのは敵 意 ! 数は⋮⋮ ﹃三﹄ ! 意 味す るも のは⋮⋮敵の 、増援ッ ! 14 一話 不知火に落ち度はあるか
﹁アカン﹂ こ れ は無 理 だ 。俺 は全 力 で 逃 げ 出 した 。 陸 地にほうほうの体で 駆 け戻 り、デパート の影に 隠れ て 荒 い呼吸 を 整え る。 砲 撃 はますます 激 しく 、 市街 地 を蹂躙 していた 。 あちこちで火の手があが り、 避難 が 完了 したのか死に絶えてしまったのか 、最早悲鳴も聞 こえない 。 落 ち着け 。落 ち着け 。 一 匹 相 手で も際 どい戦いだった 。三 匹 相 手は 犬 死だ 。既 に 街 は死に体 、 守る べき 民衆 も既 にない 。 俺も避難 すべきではないか ? 海に 面 した 市街 地 を 潰さ れ たとして も、 イ級 が 陸 地 を 闊 歩して 侵 攻してく る とは 思 えない 。足 のあ る人型深 海 棲艦 な ら どうか 知ら ないが 、 と にかく 一度引 いて体 勢を立 て 直 すだけの余 裕 はあ る はず 。 呼吸が 落 ち着いた 。逃 げ よ う 。逃 げ る のは恥ではない 。 戦う 意思を 失 わ ない 限り。 逃走 手 段 として手 頃 な バイク か何かないかと 見回 したとこ ろ で 、 川 が 目 に入った 。コ 15
ンクリート で 舗装 さ れ たその 川 は幅 広 く 、 水 深も 充 分。 遡上。 その 言葉 が 思 い浮かぶ 。 血 の 気 が 引 い た 。 こ れ は マ ズ い ぞ J O J O。逃 げ て る 場 合 じ ゃ な い 。深 海 棲 艦 が 川 を上 ってきた ら内陸 まで 蹂躙 さ れ てしまう 。 な ん とか 、 な ん とかできないか 。 俺一人 では無 理 だ 。助力 がい る。 しかしこの 世 界に 俺 の 他 に 波紋使 いな ん て⋮⋮ そこで 電 流 走る。 深 海 棲艦 と戦う 者 は 艦娘 だけではない 。 そう 、提 督だ 。艦娘を建造 し 、指揮 す る者。 何かに 導 か れるよ うに 、 俺 は本 能的 に ﹁ そ れ﹂ を した 。 ﹁ でき る﹂ 。 その 確信 があった 。 何 を したのかは 俺 に も分 か ら ない 。 ただ 、確 かに ﹁ そ れ﹂ は 成 った 。 反応 は 劇的 だった 。 倒壊 した ビル の 群れ か ら突 き 出 した 折れ た 鉄骨 が 、 身をよ じ るよ うに コンクリート か ら抜 け 出 て 俺 の前に 飛ん でく る。倒壊 していない無 事 な ビル か らも、 無 理やり引 きず り 出 した よ うに 鉄骨 が 出 てきた 。 支え を 失った ビル が崩 壊 していく 。 スーパーマーケットや民家 か ら は 窓ガラスを ぶち破 り、 金 属 製 の 鍋やフライパン、 ア ルミホイル の ロール が 群れを 作って 飛 来 。 大 量 の ガラス 片が 道路 に散乱した 。 16 一話 不知火に落ち度はあるか
ガソリンスタンド か ら は ガソリン が 意思を持 った よ うに ダバダバ 流 れ出 て 、 俺 の前に 池 を 作った 。 しばし 間を置 き 、 海の 方 か ら は 墜落 した戦 闘 機の も のと 思われる 弾 薬 が ジャラジャラ と 金 属 音を立 てなが ら転 がってく る。 目 の前に 集 ま り うず 高 い山 を 作ったそ れ は眩い光 を 放つ 。 ﹁ うお 、 まぶしっ !﹂ 思わ ず 目を閉 じ 、 数 秒後目を見開 いた時 、 資 材は 消 え 、 代わり に制 服を 着た 一人 の 少 女が 立 っていた 。 ﹁ はじ め まして 、司令官。不知 火です 。 ご 指導 ご 鞭撻、よろ しくです ﹂ 俺 は 不知 火ではなく 、 その 背後 の 惨状を見 ていた 。 周 囲 か ら 無 差 別に無 理やり ﹁鋼 材 ﹂ ﹁ボーキ ︵アルミ︶ ﹂﹁燃料﹂ を引 っこ 抜 いてきてしまったせいか 、 半 壊 していた 街 が全 壊 になってい る。 こ れ、深 海 棲艦より俺 の 方 が 被害出 した ん じ ゃ ないか 。 不知 火は 眉間 に 皺を 作 り、 あま り の 出 来 事 に呆然とす る俺を訝 しげに 見 た 。 ﹁ ⋮⋮ 不知 火に 、 何か 落 ち 度 で も ?﹂ 17
二話
戦場の
艦娘︵+提
督
︶
陽炎型二 番 艦不知 火は 、 なぜか 愕 然としてい る司令 に 訝 し ん だ 。身 の 丈 優に 2mを超 え る巨 漢であった 。 彫 り の 深 い 顔立 ち を してい る が 、 歳の 頃 は 二 十ほどだ ろ うか 。妙 な 立 ち 方を した何かの キャラクター が 描 か れ た Tシャツ の 上 か ら で も、 鍛 え 上 げ られ た筋 肉 が 分 か る。若 い 。軍服も 着ていない 。 しかし 、 不知 火には彼が 自分を喚ん だ 司令 であ る事 が 直感的 に 分 かった 。 司令。不知 火が 従 うべき 、司令官 であ る。 鋼 鉄 の 艦 で あ っ た 自 分 が 人 型 を 取 り 二 足 歩 行 し て い る と い う の は 確 か に 奇 妙 な 感 覚 であったが 、 敵と戦うべく海 上 で 司令 の 指 示に 従 い作戦 行動を と る という 事 に 違 いはな い 。 今も街 が煙 を上 げ 、 瓦 礫の山が 築 か れ、 砲 撃 の 音 がす る。 そこは戦場であった 。血 と 硝煙の 臭 いがす る、不知 火のい る べき場所であった 。 司 令 は 固 ま っ た ま ま 顔 を 手 で 覆 っ て ブ ツ ブ ツ 呟 い て い る。 何 か 失 礼 が あ っ た の か と 自ら の 行動を思 い 返 す 。 しかし 、喚 ば れ、 挨 拶を しただけだ 。心 当た り はない 。 18 二話 戦場の艦娘(+提督)﹁不知 火に 、 何か 落 ち 度 で も ?﹂ 不 知 火 が 恐 る 恐 る 尋 ね る と 、司 令 は ハ ッ と し た 様 子 で 頭 を 振 り、目 を 合 わ せ て き た 。 鋭 く 、 力 強い 目 であった 。 戦場 を知る者 の 目。 しかして 血 に 飢 えてはお ら ず 、 誇り高 く 澄ん でい る。 好ましい 目 だった 。 司令 は 渋 い 声 で 言 った 。 ﹁不知 火 。一応確認 しておくが 、君 は 艦娘 だな ?﹂ ﹁ はい ﹂ ﹁俺 の 指 示に 従 うと 考 えていい ん だな ?﹂ ﹁ はい ﹂ ﹁ では 不知 火 、君 に ﹃アレ﹄を倒 せ る か ?﹂ 司令 が ﹃アレ﹄ と 言 った モノを、 不知 火は 説明 さ れ ずと も 正 確 に 理解 した 。 この 霧を 出 してい るモノ。深 海に 棲む艦。人類を脅 かす 、倒 すべき敵であ る。 勿論 です 、 と 口を開 きかけ 、 不知 火は 口を動 かすというあ る 種奇 妙 な 行動を 改 め て 意 識 した 。二 本の 腕、 二 本の 足。目。口、 鼻。 かつてとは 勝 手が 違 う 。意気軒昂 な れ ど 、 慣 れ ない体でどこまで やれる か ? 一瞬 の 躊躇 はあったが 、不知 火は 肯定 した 。 ﹁ ご命 令 な ら ば ﹂ ﹁よ し 。不知 火 、 ついて来い !﹂ 19
崩 壊 した 街 の 瓦 礫 を避 け 踏み越 え 、 走り出 した 司令 に 、 不知 火 も一拍遅れ て 追従 した 。 海へ 走り なが ら、 司令 か らブリーフィングを受 け る。 海か ら一隻 の 深 海 棲艦 が や ってき て 、 之 を撃 破 。 しかし 三隻 の 援軍 が 現れ、 戦 術的撤退。 戦 力増 強のた め不知 火 を建造 す る。不知 火は 司令 と協 力 し 、 街 の正 面 の湾に展 開 してい る深 海 棲艦││││仮称、 駆逐 イ級三隻を撃滅 す る事 が 今回 の 任務 とな る。 一隻 は 撃沈 させたのだか ら、 自分以外 の 艦娘 がい る かと 思 い 見回 すが 、 姿 はない 。尋 ね る と 、 その 一隻 は 司令 が 沈め たという 。司令 は 艦娘 ではないが 、 砲 も魚雷も使わ ず素 手で 深 海 棲艦 に 致 命打 を与 え る事 ができ るら しい 。信 じがたい 事 であったが 、 埠頭 か ら 飛 び 降り 海 上 に 出 た 司令 が平然と水 面を走る様を見 ては 納得 す る しかなかった 。 何か 質 問があ る か 、 と 尋 ね られ、 不知 火は 首を 横に振 る。鋼鉄 の体であった 頃 と 違 う 事 があま り に も多 い 。 何 を尋 ね れ ば 良 いのか も あ や ふ や だった 。 そ れ に 、 支 離滅裂 な 質 問 を 浴びせて 逐一回 答 を貰 ってい る ほどに時 間 があ る訳 で も ない 。今 この 瞬間も、 街 は 攻 撃 さ れ たい る のだ 。 しかし何で も良 いか ら、 と 重 ねて 言われ たた め、 不知 火は 不思議 に 思 っていた 事を尋 ねた 。 ﹁司令。も しかして 、 その 服装 が 最近 の海 軍 の正 装 なのでし ょ うか ﹂ ﹁ い や、 こ れ はただの JOJOプリント だ 。承 太 郎 だぜ ? いいだ ろ﹂ 20 二話 戦場の艦娘(+提督)
﹁ は 、 はあ ﹂ 人 型 を と っ て 一 時 間 も 経 っ て い な い し 、口 が 裂 け て も 人 の 流 儀 に 詳 し い と は 言 え な かったが 、も っと普 通 の 服を 着 れ ば格好 良 く 見 え る のに 、 と 思 った 。 海 上を滑るよ うに 航行 しなが ら、司令 に ﹁ 簡単な作戦 ﹂ の 説明を受 けた 。 不知 火が敵に砲 撃を 浴びせ 、注意を引 きつけ る間 に 、司令 が 背後 に 回 って攻 撃。 簡単に 言 えばこ れ だけであ る。 初陣 であ り、 下 手な 連 携の 試み は却って 逆効果 であ ろ う 事を考 慮した結 果 だった 。練 度 初 期 値 の 不 知 火 単 艦 で は 三 隻 と 撃 ち 合 い を し て も 数 で 押 し 負 け る。司 令 は 一 撃 必 殺 手 段を持 つが 近接必須 で 、 弾幕に 耐 え られ ない 。 不知 火の砲 撃 は当た ら ずと も 充 分囮 にはな る。囮 があ れ ば 司令 に攻 撃 が 行 かず 、 接近 でき る。 単 純 なが らも互 いの利 点を生 かした作戦だ 。 ﹁ 幸 運 と 勇気を !﹂ 司令官 は 暖 かい大きな手のひ ら で 不知 火の 肩を叩 き 、 横に 逸れ て 霧 の中に 消 えていっ た 。 司令官 の 航跡を 示す 独 特の 波紋も波 の 合間 に 消 え 、 不知 火は 一人 になった 。断続的 な 砲 撃 の 音 は 止 ん で い な い 。 戦 場 に た っ た 一 隻 取 り 残 さ れ た よ う な 錯 覚 に 陥 り そ う に な る。 21
別 れ て 三分後 に砲 撃を始めるよ うに 言われ てい る。不知 火は命 令を遂行 すべく 、 前 方 に ゆ っく り進み、霧 の 向 こうに 薄ら と敵影が 見 えた所で止ま り、 砲 を構 えた 。 砲がひどく 揺れ、 狙 いが 定 ま ら ない 。艦 とは 比較 にな ら ないほど 小 さな 人 の 身 では 波 の影 響 が 酷 い ││││舌 打ちして 下を見 たが 、波 は低く 、静 かな も のだった 。 また 、 砲 撃 の 音 が 轟 く 。 そ れ に 合わ せ 、 砲が 揺れる。 不知 火は 、 砲 を揺ら していたのは 自分 の手だと 気付 いた 。 体が 震 えてい る。 自分 が 震 えてい る事 に 、 自分 で 驚 いた 。初陣 といえば 初陣 だが 、 そうでないといえば そうでない 。 まさか戦い を 前にして 震 え る など 。 こ れ が 、 恐 怖。 不知 火は本 能的 に 知 ってい る。深 海 棲艦 は 通 常火器では 傷 つかない 。 しかし 、 艦娘 の 攻 撃 は 通る。逆も また然 り だ 。 アレ は 自分を沈める事 のでき るモノ であ る。 そうはっき り と 認識 した 途端、 砲の ブレ が大きくなった 。 朧げな 沈没 の 記憶 が 、 恐 怖 が 、 絶 望 が 、 無 念 が 、フラッシュバック す る。 手 袋を していなけ れ ば砲 を取り落 としてしまっていたのではと 思 うほど 、 手がじっと り と 気持 ち 悪 い汗で 湿 った 。 数 を 数え る。 あと 三 十 秒 で 、自分 は 囮射撃を始める。 22 二話 戦場の艦娘(+提督)
本 当 に 自 分 に 囮 が 果 た せ る の か 。安 請 け 合 い で は な か っ た か 。 こ の ザ マ で は 前 に 砲 弾が 飛 ぶか も 怪しい 。 今 か ら で も 作 戦 変 更 を 具 申 す る べ き で は な い の か ? し か し 賽 は 投 げ ら れ た 。今 か ら では止 められ ない 。 自分 が失敗して 、 自分 だけが 沈む な ら良 いが 、 今回不知 火がしくじっては 司令 が危な い 。 不知 火は 司令 の 姿を思 い 出 し⋮⋮そして 言葉も思 い 出 した 。 ﹁ 幸 運 と 、勇気を﹂ 人 間 に は 感 情 が あ る。 恐 怖 は そ の 名 の 通 り 恐 ろ し い も の だ 。小 破 す ら し て い な い 艦 娘を行動不能 にし 得る。 しかしその恐 怖を 乗 り越 え る の も また 感情 であ る。 勇気 だ 。 不 知 火 と 違 い 、装 備 も 無 い 人 の 身 で あ り な が ら、徒 手 空 拳 で 敵 に 肉 薄 す る 人 が い る。 遠 くか ら撃 つだけの簡単な 援護 に 怖気付 くほど 、陽炎型二 番 艦 は 情 けないのか ? 為 すべき 事 があ る。成 したい 事 があ る。 ここで やら なけ れ ば 、 この 二度目 の 生 に 意 味 などない 。 司令 が 触れ た 肩 か ら腕 へ 、指 先へ 。胸 へ 足 へ 、頭 へ 。暖 かさが 広 がった 気 がした 。 23
震 えが止まった 。 ﹁司令。不知 火は 、期待 に 応 えて み せます ﹂ ゼロ。 心 の中で カウントを 刻 む と 同 時に 、不知 火の 12.7cm連装 砲が火 を 噴いた 。 作 戦 は 上 手 く 決 ま っ た 。震 え が 無 く な っ た か ら と い っ て 霧 の 向 こ う に 霞 ん だ 敵 に 砲 撃を 当て られる ほど 、不知 火の 練度 は 高 くない 。 しかし砲弾は前に 飛ん だし 、 敵の 意識を引 く 程度 には 近 くに着弾した 。 そして 、 そ れ で充 分 だった 。 ﹁銀色 の 波紋疾走ッ !﹂ 司 令 の よ く 通 る 声 が 不 知 火 の 場 所 ま で 聞 こ え た 。霧 を 破 っ て イ 級 の 背 後 か ら 現 れ た 司令 が 一隻を拳 で 殴り飛 ばし 、続 いて も う 一隻も叩 き潰す 。 誤射を防 ぐた め に砲 撃を 止 め た 途端 の 、 驚 くべき 早 業であった 。 素 人目 に 見 て も かな 24 二話 戦場の艦娘(+提督)
り の 鍛錬を 積 ん だ 事 が 見 て 取れ た 。 本当に 、 深 海 棲艦を拳一 つで 倒 してしまった 。不知 火の中で 司令 への敬 意 がまた 増 した 。 三隻目 の イ級 へ 躍り かか る司令 だったが 、 最後 の 一隻 は 他 の 二隻 と 少 し 離れ た位 置 に いた 。 そ れ を 薄 ら 寒 い 緑 色 の 目 で 見 た イ 級 は 動 い た 。 そ の 動 き は 司 令 と は 逆 方 向 で 、 つ ま り、逃 げていた 。 司令 はそ れを追 いかけ る が 、距離 が縮ま ら ない 。 不知 火の 見 たとこ ろ、 司令 の 航行速度 は 目算 で 20ノット ︵ 時 速37km︶ 前 後 であっ た 。人間 としては素晴 ら しく 速 いが 、 イ級 はそ れよりも速 い 。引 き 撃 ち を さ れれ ば 追 い つけず 滅多撃 ちにさ れる。 ﹁司令 ! 引 いてください !﹂ 再 び 牽 制 の 砲 撃 を し な が ら 叫 ん だ 。声 が 届 い た の か 、司 令 は 不 知 火 を ま っ す ぐ 見 た 。 か な り の 距 離 が あ っ た が 、心 の 奥 底 ま で 貫 か れ る よ う な 、不 思 議 な 強 さ を 持 っ た 目 線 だった 。 不知 火はあ り ったけの 気持 ち を込め てその 目を まっすぐ 見返 した 。 司令 は も う 、 二隻撃沈 という充 分過 ぎ る ほどの 成果を出 した 。後 は 自分 の 仕事 だ 。不 知 火 は 誇 り 高 き 陽 炎 型 な の だ 。艦 が い な が ら 人 に 、 そ れ も 司 令 に 戦 の 趨 勢 を 任 せ る な 25
ど 、 あってはな ら ない 。 司令 は 小 さく 頷 き 、 反転 して 撤退を始め た 。イ級も引 き 撃 ち を 止 め、 速度を落 として 後 退 か ら 前 進 に 入 ろ う と す る。 そ こ に 不 知 火 は あ り っ た け の 弾 薬 を 浴 び せ た 。イ 級 の 航路 が 変わ った 。 砲が 自分 に 向 け られる。 不知 火は 度重 な る 砲 撃 で焼け 付 く よ うに 熱 くなった 自分 の獲物 を構 え 直 し 、 イ級 に 向 かって全 速 前 進 した 。 当た ら ないな ら、 当た る まで 近 づくまでだ 。 ﹁沈め ⋮⋮ ﹂ 最初 は祈 るよ うに 。 砲 撃 は 情 けないほどに命中 精度 が低く 、 至近 弾は 少 なく 、 命中弾は 輪を かけて 少 ない 。 ﹁沈め﹂ 二度目 は戦 意を込め て 。 互 い の 砲 撃 が 交 差 す る。至 近 弾 が 海 面 を 叩 き 、 水 柱 が 上 が っ て 不 知 火 の 体 を 濡 ら し た 。 ﹁沈めッ !﹂ 最後 は決 定事項を 告げ る一喝 だった 。 お 互 い 外 すのが 難 しい 距離 まで 接近 していた 。 不知 火が 最後 の 一撃を撃 つ 。 26 二話 戦場の艦娘(+提督)
イ 級 も 最 後 の 一 撃 を 撃 と う と し た が 、 海 面 を 伝 っ た 波 紋 に 触 れ た 途 端 に 一 瞬 痙 攣 し 、 狙 いが大きく 逸れ た 。 体 勢を 崩した イ級 に砲弾が 突 き刺さ る。 一瞬 の 間、 そして 爆 発 。一面 の水の 世 界に束の 間現れる赤 の 色を一瞥 した 後、 不知 火 は 背後 に 向 き 直り、誇り と 自信をも って敬礼した 。 ﹁司令。 作戦が終 了 しました ﹂ 27
三話
こ
れより艦隊
の
指揮を執り
ます
﹁ お 疲れ﹂ よ く や った 、 御苦労、 頑 張ったな 、 とかな ん とか 色々言葉 は浮か ん だが 、 服 のあちこ ち と 頬 に 煤 を つ け た ま ま 敬 礼 す る 不 知 火 に か け た 言 葉 は 結 局 割 と フ レ ン ド リ ー 路 線 で 落 ち着いた 。 前 世 で 庇 った 妹弟 子の 名 前 も不知 火だったか ら、 どうに も他人 とは 思 えず 上 手く 距離 が 取れ ない 。 こうして 見 てい る と 顔立 ち も どことなく似てい る気 がす る。 案 外、 そのあ た り の 縁 で 不知 火が 初期艦 になったのか も知れ ない 。 ﹁司 令。 戦 況 は ど の よ う に な っ て い る の で し ょ う か ? 各 地 で こ の よ う な 本 土 攻 撃 が ?﹂ 戦 闘 の余 韻も冷め ない 内 に 、 覚悟 と 緊 張が 混 ざった 凛々 しい 表情 で 不知 火が 聞 いてき た 。 そ ん な も の 俺 に 聞 か れ て も 困 る。俺 だ っ て な あ な あ で 戦 闘 潮 流 に 巻 き 込 ま れ た だ け だ 。 が 、不知 火は 俺 に 聞 くしかない 。 28 三話 これより艦隊の指揮を執ります﹁ ち ょ っと 待 て ﹂ 答 え る 前 に 、状 況 確 認 の た め に 周 り を 見 回 す 。瓦 礫 の 山 と 化 し た 街 は 静 か な も の で 、 砲 撃 は止まってい る。燻 ってい る建 物はあって も、 燃 え 上 が る炎 はひとまず 見 当た ら な い 。霧 のせいだ ろ う 。 深 海 棲艦を沈め た 後も、 霧 はまだ 残 っていた 。 ただしかな り薄 くなってい る。も う 霧 という よりも、 薄 く 霞 がかってい る程度 で 、 視 界の 確保 に支 障 はない 。 しかし海に 目を 移 せば 、遠 くの海 上を まだ 濃 い 霧 が 覆 ってい る のが 見 えた 。 な ん となく 察 しがついた 。 恐 ら く 、 この 霧 は 深 海 棲艦 の 勢力圏 の 証 なのだ 。霧 があ る か ら 深 海 棲 艦 が 存 在 で き る の か 、深 海 棲 艦 が 存 在 す る か ら 霧 が 出 る の か は 知 ら な い が 、 倒 して 薄 くなったという 事 は 、 深 海 棲艦を完 全に 駆逐 す れ ば 霧 が晴 れる と 思 っておいて 良 いだ ろ う 。 そして 遠洋 に 濃 い 霧 が 見 え る という 事 は 、 まだ敵がい る、 更 な る追撃 の 可 能 性が充 分 にあ る という 事 で も あ る。 ふ む。 俺 は 不 知 火 に 予 測 も 含 め て 一 通 り の 説 明 を し た 。俺 が 海 軍 の 人 間 で な い と 聞 い て か な り の ショックを受 けた よ うだったが 、 今 は 非 常 事 態だ 。深 海 棲艦 の 電撃的 奇 襲 で 現代 の 日 本 防衛 戦 力 ⋮⋮ 自衛隊も後 手に 回 ってお り、 市民 が 立 ち 上 が ら ざ るを得 ないと判 断 したと 説明 す る と 、 何 やら感服 していた 。尊 敬の 目 がこそば ゆ い 。 29
﹁司令 はこの 後 どうすべきとお 考 えですか ?﹂ ﹁ そいつぁ 難 しい問 題 だな 。 まあ 、 何 を おいて も情 報だ ﹂ ここで 待 機して救 助を待 つ 、 内陸 へ 逃 げ る、 留まって 交 戦 、 瓦 礫に 埋 まってい る か も 知れ ない 人々 の救 助エトセトラ。取れる選択肢 は 多 い 。選択 の 参考 にす る た め に も、 情 報 収 集 を す る 必 要 が あ る だ ろ う 。 戦 争 で 重 要 な の は 兵 站 と 情 報 で あ る。 戦 争 を す る 時 、 兵 站 が 切れ てい る ! 情 報 もわ か らん では敗 北 は 確実 ! 確実 ! そう 、 コーラを飲ん だ らゲップ が 出る っていうく ら い 確実 なのだ 。 ポケット に入 れ ていた スマートフォンを出 して み たが 、 変 な ノイズ が入 る だけで ネッ ト に 繋 ぐ ど こ ろ か 操 作 そ の も の を 受 け 付 け ず 、や が て ピ ガ ガ ッ と 悲 鳴 を 上 げ て 煙 を 出 し 、沈 黙 し た 。玄 関 が 粉 砕 さ れ て い た 近 く の 民 家 に お 邪 魔 し て 固 定 電 話 を 試 し て み る も、 当然繋が ら ない 。 というか停 電 していた 。電気 屋にあった 電化製品も軒 並 み沈黙 し ていて 、電 池 式 の携帯 ラジオ まで スマートフォン と 同 じ よ うな 壊れ方を してしまった 。 水 道管も あちこちで破 裂 して大きな水たま りを 作っていて 、 道路 は乗 り 捨て られ た 車 や倒れ た 街路 樹でとて も使 え る状 態ではない 。都市インフラ が 完 全に破 壊 さ れ てい る。 襲撃 の 始 ま り の時 、 自衛隊 の戦 闘 機が 墜落 した 事を思 い 出 す 。スマートフォンやラジ オ の異常と併せ 、 恐 ら くこの 霧 の中では 電化製品 が 使 えないのだ ろ うと 予 測 を立 てた 。 厄介 な 状況 だった 。情 報 収集を したけ れ ば 足 で稼ぐしかない 。 30 三話 これより艦隊の指揮を執ります
自衛隊 は戦 闘 機 を落 とさ れ警戒 してい る はずで 、 即 座 の救 助 は 望め ない 。 政 府 が 状況 を 把 握 で き て い る か も 怪 し い 。襲 撃 さ れ て い る の は こ の 街 だ け な の か ? 全 国 規 模 な のか ? 世 界 規 模なのか ? そ れも分 か ら ない 。 戦 争 に お い て 戦 力 の 逐 次 投 入 は 愚 策 で あ る。少 数 で 散 発 的 に 戦 闘 を 行 い 各 個 撃 破 さ れる の も論外。 戦 力を 素 早 く 集 中させ 、 一気 呵 成 に攻 撃を す る のが セオリー。 その 理論 に則 れ ば 、 俺 と 不知 火は恐 ら く攻 撃 さ れ ていないと 思われる内 地に 一度撤退 し 、 自衛隊 な り義勇軍 な り な ん な り、他 の戦 力 と 合 流すべきだ 。 しかし 。民家や電気 屋 を う ろ ついてい る間 に 、 海 をチラチラ見 ていた 不知 火の報告に よる と 、 海 上 の 霧 が 少 しずつこち ら に 近 づいてきてい る という 。俺 が 見 て も分 か ら ない が 、 人 の形 を していて もや は り艦。視力 が 違 う 。不知 火の 証言を まと め速度を ざっと 計 算 した結 果、 恐 ら く 明日 の未 明頃 に 再度襲撃 があ る との 予 測 立 て られ た 。 一 時 撤退 してい る間 に港 を 占 拠、 あ る いは 川を遡上、 あ る いは 上陸 さ れ た ら 恐 ろ しい 事 にな る。障害 物のない海だか ら まだ 補足 ・ 撃 破できてい る のだ 。 そ れ が 可能 かどうか は 知ら ないが 、 も し 深 海 棲艦 に コンクリートジャングル に潜ま れ た ら 本格 的 に打つ手が ない 。 コンビニ で 弁 当 を食 べて 腹 ごし ら え を しなが ら ︵代金 は レジ に 置 いておいた ︶ 、 不知 火 と 額を突 き 合わ せて 方針を検討 す る。 31
﹁防衛ライン の 構築を 具申します 。深 海 棲艦 の本 土上陸 は 回避 すべきです ﹂ ﹁ そうだな 。情 報については 誰 か 人を見 つけて 、 その 人 にひとっぱし り して もら うか ﹂ 破 壊 さ れ た 道 路 で は 車 ど こ ろ か バ イ ク の 運 転 も 難 し い だ ろ う 。文 字 通 り 走 っ て も ら う 事 に な る。俺 と 不 知 火 は 街 を 防 衛 し な け れ ば な ら な い 。深 海 棲 艦 の 被 害 を 受 け て い な い で あ ろ う 内 陸 と の 連 絡 役 は 誰 か に 任 せ る 必 要 が あ る。自 衛 隊 が 陸 路 で 兵 力 な り 救 援 な りを寄越 してく れれ ばそ れ が ベスト なのだが 、 そう 上 手くいくとは 思 えない 。 コ ン ビ ニ の 書 籍 コ ー ナ ー に あ っ た 街 の 地 図 で ど こ か ら ど こ ま で を 防 衛 ラ イ ン と 定 め る か決 めよ うとしたが 、不知 火は 難色を 示した 。 ﹁ こ の 地 図 は 地 形 の 精 度 は 高 い で す が 、 水 深 も 海 流 も 描 か れ て い ま せ ん。も っ と 詳 細 な 情 報が 必要 です 。 そ れ と 、 防衛ラインを どう決 める として も、 不知 火と 司令 だけでは戦 力 が 心許 ないかと ﹂ ﹁ あ ∼ ⋮⋮ ﹂ 確 か に 。 前 世 に あ っ た ゲ ー ム は 艦 隊﹃ こ れ く し ょ ん﹄ 。艦 娘 は こ れ く し ょ ん し て ナ ン ボ だ 。 特に ゲーム ではなく 現実 では戦 力的 に 。一隻+オマケ だけでは 、 例 えば 駆逐 六 隻 で 突 破 を かけ られ た ら 攻 撃 の手が 足り ず 防衛ラインを抜 か れる だ ろ う 。 追加 の 召喚、も とい 建造 が 必要 だ 。 しかし 。 32 三話 これより艦隊の指揮を執ります
﹁ ? 不知 火に何か ?﹂ ﹁ い や﹂ き ょ と ん としてい る不知 火 を見る。 こ ん な 小柄 な 駆逐艦娘 の 建造 でさえ 、 付近一 帯の 鋼 材 やら燃料やらを 根こそぎ 引 っこ 抜 いて 集める必要 があった 。 ゲーム内 での 建造 では 、 最 低 建造費 用は 鋼 材 30、 燃料30、 ボーキサイト30、 弾 薬30。現実 と 相関関係 があ る とす る な ら ⋮⋮い や待 て 。 そういえば 、 不知 火の 建造 には 開 発 資 材 を使 っていない 。阿 呆 み たいに材 料を消費 し たのはそ れ が 理 由か ? 艦一隻分 と 考 え れ ば 少 ないぐ ら いなのか も知れ ないが 。 う ーむ ? よ く わ か らん。 と り あえず 保 留にしておこう 。 ﹁ 海 図 は 図 書 館 だ な 。郷 土 資 料 コ ー ナ ー に 行 け ば あ る だ ろ、 た ぶ ん。 な か っ た ら 市 役 所 あた り か ﹂ ﹁ お 供 します ﹂ 図書館 への 道 すが ら、 意外 に も 怪 我人や逃 げ 遅れ た 人 は全然 見 当た ら なかった 。襲撃 か ら三、 四 時 間 は経ってい る し 、 既 に 避難 が 完了 したのか 、 あ る いは 立 てこ も って息 を 潜 め て い る だ け な の か 。内 陸 の 方 へ 避 難 す る よ う に 大 声 を 出 し な が ら 進 ん で い る と 、 弱 々 しいう め き 声 が 聞 こえた 。声を辿る と 、 瓦 礫に 足を挟 ま れ てい る御老人 がいた 。迷 わ ず 駆 け 寄る。 33
﹁ 大 丈 夫ですか ﹂ ﹁ あ 、足 が⋮⋮ ﹂ 瓦 礫の 下を除 いたとこ ろ、 足 が 挟 ま れ て圧 迫 はさ れ てい る が 、 潰 れ てい る訳 ではない よ うだった 。 ﹁ ふ ん ! ⋮⋮ふ ゥん ! ⋮⋮ 不知 火 、頼む﹂ ﹁了解 です ﹂ 瓦 礫 を持 ち 上 げ よ うとして失敗し 、 波紋疾走込み で も 失敗し 。 普 通 の 波紋使 いは 鋼鉄 の 首 輪 を ち ぎ れ な い 程 度 に し か 筋 力 向 上 し な い か ら ね 、仕 方 な い ね 。不 知 火 に 頼 む と 、 空 の ダ ン ボ ー ル 箱 で も 持 ち 上 げ る か の よ う に ひ ょ い っ と 持 ち 上 げ て 投 げ 捨 て て い た 。 馬力 が 違 う 。 ﹁ さ す が 不 知 火 ! 俺 に 出 来 な い こ と を 平 然 と や っ て の け る ッ ! そ こ に シ ビ れ る ! あこが れるゥ ! あ 、 大 丈 夫ですか ? 歩けますか ﹂ ﹁ あ 、 ああ 。助 かった よ。 お嬢さ ん、力持 ちだねぇ ﹂ ﹁艦娘 ですか ら﹂ 不知 火は当然 、 といった 風 に クール に答えた 。力持 ちって レベル じ ゃ ないが 。 御老人 は 御 神さ ん というそうで 、 特に 衰 弱 も なく元 気 だったた め、 内陸 の 方 へ 御足労 を お 願 いさせて もら った 。俺 が 把握 してい る限り の 情 報 を あ り ったけ メモ して渡し 、 警 34 三話 これより艦隊の指揮を執ります
察 か 自 衛 隊 に 届 け て も ら う よ う に 頼 む。 そ の 情 報 を 元 に 対 深 海 棲 艦 戦 に 有 効 な 援 助 を もら え れ ば 最善。艦娘 と 波紋使 いに組織の バックアップ があ れ ば 、 鬼 に 金棒、 ジョース ター家 に スピードワゴン財団 だ 。 何 度 も 振 り 返 っ て 頭 を 下 げ る 御 神 さ ん を 見 送 る。 こ れ で 俺 達 が 深 海 棲 艦 に 負 け て 海 の 藻 屑になって も、最 低 限 の 情 報は活かさ れる。 後顧 の 憂 いは無い 。 あとは前 を見 据え 、心 と体 を 振 り 絞 る まで 。 図書館 の 駐車 場は破 壊 さ れ ていたが 、 本 館 の 方 は無 事 だった 。誰も いない 館内 の 郷土 資 料 コ ー ナ ー を 二 人 が か り で 探 す と 、 海 図 は す ぐ に 見 つ か っ た 。他 に も 海 に 面 し た 高 台、 海 上 か ら の砲 撃 に 対 す る遮蔽 に 使 えそうな 建造 物 ・ 地形などの 情 報 も漁る。コピー 機は止まっていたし 司書も いないので 、メモ だけ 置 いて 勝 手に 借り ていく 事 にす る。 ﹁思 っていた より 水 深 があ り ますね 。魚雷 発 射 に支 障 はなさそうです ﹂ ﹁魚雷 あ る のか ﹂ ﹁ はい 。 無い よりマシ程度 の も のではあ り ますが ﹂ そ う 言 っ て 魚 雷 を 見 せ て く れ る。今 更 だ が こ ん な に ゴ ッ ツ イ 艤 装 を 身 に つ け て い て 邪魔 ではないのだ ろ うか 。 話 を 聞 く と 、 ど う や ら 見 た 目 通 り デ フ ォ ル ト で 最 低 限 の 魚 雷 や 砲 は 持 っ て い る ら し い 。確 か に ゲ ー ム で も 装 備 0 で 戦 え て い た 。 ち ゃ ん と し た 装 備 が あ る に 越 し た 事 は な 35
い よ うだが 。 不知 火は 装備を二 つ 持 て る。初期装備 が 12.7cm連装 砲の み だか ら、 あとひと 枠 分 余 裕 があ る。 でき れ ば用 意 したいとこ ろ。 ﹁不知 火 、装備 ってどう や って手に入 れるん だ ﹂ ﹁ は て ⋮⋮ 不 知 火 に は 分 か り か ね ま す 。私 を 建 造 し た 時 と 同 じ よ う に は で き な い の で す か ?﹂ ﹁ そ れ は 街 崩 壊不可避﹂ 不 知 火 建 造 で か な り 街 の 資 源 を か っ さ ら っ て し ま っ た 。 ま た 同 じ 事 し た ら ペ ン ペ ン 草も生 えなくな る ぞ 。装備開 発 自 体は 感覚的 にできそうではあ る が 。 ﹁司 令 の 身 一 つ で 諸 々 を 工 面 す る の は や は り 無 理 が 出 る か と 。ド ッ ク が あ れ ば い く ら か 効 率 的 な の で は ? こ こ は 海 に 面 し て い ま す し 、工 廠 か 造 船 所 の 類 は 無 い の で し ょ う か ﹂ ﹁造船 所 ! そういうの も あ る のか ﹂ 早速街 の地 図を調 べて み たが 、 造船 所はなかった 。古 い地 図 に よれ ば第 二 次大戦中は あった よ うだが 、 戦 後 に畳 ん でしまった ら しい 。今 は 缶詰工 場になってい る。 しかし 調 べてい る内 に 思 いついた 事 があった 。 ゲーム では 艦娘 の 建造 に も装備 の 開 発に も、 燃料や 弾 薬 といった 資 材の 他 に 開 発 資 材 36 三話 これより艦隊の指揮を執ります
が 必要 だった 。不知 火の 見 た 目も初期装備も、 深 海 棲艦 の 姿 まで もゲーム とここまで似 てい る のな ら、 開 発 資 材について も類 似してい る と 考 え る のは 妥 当だ 。開 発 資 材は 建造 の 触媒 だと 仮定 す る。 占いに水晶 、 呪いに 髪。オカルト に 触媒 はつき も の 。資 材か ら人 間を錬成、 も とい 艦娘を建造 す る の もオカルト の 領域。 きっとそう 外れ た 考 え 方 ではな い 。 俺 と 不知 火は 図書館 で手に入 れ た戦利 品を適 当な バッグ に 詰め、 深夜 までかけて 街 中 を回 ってそ れら しい も の を収集 した 。 ホ ビ ー シ ョ ッ プ で 見 つ け た 埃 を 被 っ た 重 巡 の プ ラ モ デ ル。過 去 の 戦 没 者 慰 霊 碑 を 少 し だ け 削 ら せ て も ら っ た 石 の 欠 片 。転 覆 し て い た 漁 船 の 船 体 の 一 部。古 本 屋 で 見 つ け た エースパイロット の 伝記 などなど 。 何が 開 発 資 材として 働 くか 分 か ら ない 以上、 片っ 端 か ら 集 め る し か な い 。船 体 の 設 計 図 で も あ れ ば 一 番 そ れ っ ぽ く て 良 さ そ う な の だ が 、 流 石 に 見 つか ら なかった 。 そして時刻は 明 け 方近 く 。 元 造船 所 、 現缶詰工 場の 魚臭 い 工 場の搬入 口 のあた り で戦 利 品を 並べ 、 建造を試みる。不知 火は数歩 下 がって 、 ホームセンター で 見 つけてきた カ ンテラ で照 ら してく れ てい る。装備 は 後回 しだ 。 まずは 頭 数 を揃 えたい 。 さて 。上 手くいくといいが 。 い や、 上 手く 行 かせ る のだ 。不知 火に も相 当 街 中 を駆 け 回 って手 伝 って もら ったのだか ら。 37
﹁ 素に 銀 と 鉄。礎 に 石 と契 約 の⋮⋮ 違 った 。 あ ー、 まあ 、 アレ だ 。建造ッ ! お前が 艦娘 にな るん だ よ !﹂ な ん とかな る だ ろ、 と 気合を 入 れる と 、 な ん とかなった 。 不知 火の 建造 時と 同 じ よ うに 、 周 り か ら夜 の 静寂を 破 りガタガタ音を響 かせなが ら勝 手に 資 材が 集 まってく る。 しかし 、 不知 火の時 よりも遥 かに 小規 模で大 人 しい も のだっ た 。 集 まった 資 材は光 を 放ち⋮⋮そ れ が 収 まった時 、 資 材があった場所には 二人 の 艦娘 が 立 っていた 。 ﹁貴様 が 司令官 か 。私 は 那 智 。よろ しくお 願 いす る﹂ 凛々 しい 長身 の女性がまっすぐ 俺を見 て 言 い 、 ﹁航 空 母艦、鳳翔 です 。不 束 者 ですが 、よろ しくお 願 い 致 します ﹂ 弓道 着 を 着た 小柄 な女性がたお や かに 微笑ん だ 。 ﹁よ うこそ 、 ﹃ 戦 争﹄ の 世 界へ 。俺 の 事 は ジョジョ か 波紋提 督とで も 呼 ん でく れ﹂ ジョジョ立 ち をキメ て 華麗 に アイサツ す る と 、二人 共 困惑 して 顔を見合わ せた 。 ⋮⋮う む、掴み は OK︵ 強 調︶ ! ﹁ あ ー、 ご ほ ん。悪 い が 悠 長 に 親 睦 を 深 め て い る 余 裕 は な い ん だ 。早 速 だ が 二 人 に は 約 二 時 間 後 に は 出 撃 し て も ら う 事 に な る。深 海 棲 艦 の 上 陸 を 阻 止 す る 防 衛 戦 だ 。念 の た 38 三話 これより艦隊の指揮を執ります
め確認 しておくが 、重巡洋艦 と 、軽 空 母 だな ?﹂ ﹁ う む﹂ ﹁ はい ﹂ ﹁よ し 、 都合 が 良 いな 。 まずこの地 図を見 てく れ。現 在地がここで 、 未 明 にこの 方面 の海 域 か ら深 海 棲艦 の 侵 攻が 予想 さ れ てい る。鳳翔、 お前は 情 報の 要 だ 。 この 高台 に登って 艦載 機 を 海 上 に 飛 ばし 、 制空権の 確保 と偵 察を してく れ。 入手した 情 報はこま め に 艦載 機 に 手 紙 か 何 か を 持 た せ て 前 線 の 二 人 と 俺 に 送 っ て 欲 し い 。 無 理 な ら 手 旗 信 号 か 狼 煙 に 頼る事 にな る が⋮⋮でき る か ?﹂ ﹁ でき る、 と 思 いますが⋮⋮無 線 は 使 えないのですか ?﹂ ﹁ 無 理 だ 。電 気 製 品 は 全 部 イ カ れ て る。情 報 通 信 を し て 、 余 裕 が あ れ ば で い い が 爆 撃 も 頼み たい ﹂ ﹁了解 しました 。情 報 伝達を 優先 、 余 裕 があ れ ば攻 撃 ですね ﹂ ﹁よ し 。 で は 不 知 火 と 那 智 。 お 前 達 に は 前 線 を 頼 み た い 。二 人 で 組 ん で 深 海 棲 艦 を 迎 え 撃 ってく れ。 細かい判 断 は全て 現 場に 任 せ る。 ただ 、 あくまで も俺達 がす る のは 防衛 戦 だ 。 敵が 引 いた ら追 うな 。 本当な ら俺も出 たいとこ ろ だが ││││﹂ 言 いかけ る と 、不知 火に睨ま れ た 。苦笑 が 漏れる。 ﹁│ │ │ │ ま あ 、 そ れ は 最 終 手 段 だ 。俺 は 不 知 火 と 那 智 が 抜 か れ て 上 陸 さ れ た 場 合 の 最 39
終 防衛ライン として 待 機す る﹂ こ れ が 不知 火と 考 えた 最高 の作戦 。万 全とは 言 い 難 いし 、 急 造 の作戦は穴だ ら け 、 ガ バガバも いいとこ ろ だ 。 が 、 やる しかない 。 戦 わ ず 、 引 くこと も でき る。 しかし戦うと決 め たのだ 。 強い 意思 で やり遂 げなけ ら ばな ら ない 。日 本に住 む一市民 として 、 そして 邪悪 に 立 ち 向 かう 波紋 戦 士 として 、 ここで 深 海 棲艦を食 い止 める。 そ れ か ら、 時 間ギリギリ まで 四人 で 情 報共 有を す る。 や がて空は白 み はじ め、 海 を じっと睨 ん でいた 不知 火が 言 った 。 ﹁司令、 来ます 。 そ ろ そ ろ 作戦 配置 に ﹂ ﹁よ し 。 作戦は 頭 に 叩 き 込ん だな ? 行 くぞ 、暁 の水平 線 に 勝 利 を 刻 め !﹂ 40 三話 これより艦隊の指揮を執ります
四話 波紋提
督第
一艦隊、抜錨
朝日 が海 上を覆 う 霧 に吸い 込 ま れ、 黎明 の空は 赤 く 染 ま る。 海 を望む高台 の 上 で潮 風 に 髪を なびかせなが ら、鳳翔 は 弓 に 矢を 番えた 。 奇 妙 な 心持 ちであった 。弓を 扱うのは 始め てであ る はずなのに 、 ま る で 艦 か ら艦載 機 を 発 艦 す る という 行為 の 延長線上 であ る かの よ うに 感 じ る。 ﹁風向 き 、よ し 。航 空 部隊、 発 艦 !﹂ 引 き絞 り、 ひ ょ うと放た れ た 矢 は 飛 来しなが ら 九九 式艦爆 へと 変 じ る。実 物とは 比 べ る べく も ない大きさで手のひ ら 大ほどしかないが 、 その 爆装 の 威力 は充 分深 海 棲艦を沈 める に 足る。 鳳 翔 は 九 九 式 艦 爆 を 1 1 機 搭 載 し て い る。内 6 機 を 海 に 向 け て 六 方 向 に 扇 形 を 描 く よ うに発 艦 した 。残り5 機は 連 絡用と 、も し も の時のた め の 予備 であ る。 九九 式艦爆 は 爆装 と 対 潜 能力 に特 化 してお り、 索敵 や対 空 能力 は無い 。 しかしだか ら といって 、 搭乗 員 ︵妖精 さ ん︶ が乗ってい る以上目も耳も ない 訳 ではない 。最 低 限 の偵 察 は 可能 だ ろ う 。 41艦載 機が戻ってく る までの 間、 嵐の前の 静 けさの中で 鳳翔 は 考 え る。 最初 か ら 空 母 として 建造 さ れ た 、 世 界で 初め ての 航 空 母艦 が 、 時 を超 えて 現代 の 最初 の 航 空 艦娘 として 蘇る。因果 な も のだ 。旧式も良 いとこ ろ の 身 ではあ る が 、 培 った経 験 で戦 線を、 提 督 を 支え る事 ができ る だ ろ う 。カラダ の 違 いに よるギャップを埋める まで はどうして も ぎこちなくなってしまうが 。 先 任 の 艦娘、 不知 火は着 任 か ら一日も 経っていないが 、 提 督 を随分信頼 してい るよ う だ っ た 。自 分 と 同 じ く 建 造 さ れ た 那 智 な ど は 提 督 の 浮 つ い た 服 装 と か ぶ い た 姿 勢 に 眉 を寄 せていたが 、鳳翔 は 逆 に やる気を感 じていた 。 現代 に 蘇 ったこの 身 は 、 なぜ 艦 ではなく 人 の形 を とってい る のか ? 答えは 提 督 も分 か ら なかったが 、鳳翔 はきっと より深 く 人 に 、提 督に 寄り添 うた め だと 考 えていた 。 艦 に は 無 い 身 近 さ 、暖 か さ 。人 と 同 じ 目 線 で 物 を 見 て 、考 え る 事 が で き る。 そ れ は きっと 、 巨 大で 勇 ましい 鋼鉄 の カラダ と 同 じく ら い大 切 な も のだ 。提 督に 不足 があ る な ら ば 、自分 が支え よ う 。自 然にそう 思 えた 。 や がて 艦載 機が帰 還 し 、 飛行 甲 板を掲 げて着 艦 させ る。 何機か着 艦 に失敗して 落 ちて し ま っ た の は 要 訓 練 だ ろ う 。鳳 翔 は 落 ち た 衝 撃 で 頭 を 打 っ て べ そ を か い て い る 妖 精 さ んを 慰 め なが ら、 情 報 を聞 いて 書面 にしたた め て別の 妖精 さ ん に 持 たせ 、 待 機させてい た 2 機 を 前 線 組と 提 督へ 送 った 。 42 四話 波紋提督第一艦隊、抜錨
空 を飛 ぶ 艦載 機 を見送 った 後、 提 督に 持 たさ れ た ボールペンを しげしげと 見る。提 督 に よる と 、 インクを付 け る必要 の無い 万 年筆 、 ら しい 。便 利な 世 の中になった も のであ る。日 本は も う六十年 以上 戦 争を してお ら ず 、 平 和を謳 歌し 、 技術を 発展させていたの だ 。 そ し て 、 そ の 太 平 の 世 の 中 が 深 海 棲 艦 に よ っ て 今 ま さ に 破 壊 さ れ よ う と し て い て 、 一部 は 壊 さ れ てしまってい る。 鳳 翔 は 長 き に 渡 り そ の 一 生 を 戦 い と 共 に 過 ご し た 艦 で あ る。一 線 を 引 い た 後 も 練 習 艦 として 後進 の 育成 に 努め、最後 は 解 体 処分を受 けその 資 材 を お 国 の 為 に役 立 てた 。 でき る のな ら、今世も 戦い 抜 き 、再 び平 和 が 訪れる様を見 たい 。 そう 願 いなが ら、 鳳翔 は 表情を引 き 締め、 霧 の中か ら ぼ んやり と 姿を現 した 深 海 棲艦 に 向 け 弓を構 えた 。 エンジン音 に空 を見上 げ る と 、 ち ょ うど 爆撃 機か ら紙 が 投下 さ れる とこ ろ だった 。ヒ 43
ラ ヒ ラ と 舞 う そ れ が 海 に 落 ち て し ま う 前 に 、那 智 は 落 下 地 点 に 先 回 り し て 掴 み 取 っ た 。 通信 筒は 残念 なが ら 用 意 できていない 。情 報に よる と 、 敵は 腕 の 生 えた 軽巡1、 単眼の 未 確 認 駆 逐 1、イ 級 よ り 角 ば っ た 造 形 の 未 確 認 駆 逐 2 の 四 隻。角 ば っ た 駆 逐 艦 を 先 頭 に 、 単縦 陣 で正 面 か ら侵 攻してい る との 事。 そ れを旗艦不知 火に 伝 え る と 、不知 火は 少 し 考 えて 言 った 。 ﹁イ 級 の 変 異 体 の よ う な 駆 逐 艦 を ロ 級 と し ま し ょ う 。 こ の ロ 級 に 私 が 先 制 雷 撃 を 行 い ま す ﹂ ﹁脅威度 の 高 い 軽巡 か ら 片 付 けた 方 が 良 いのではないか ?﹂ ﹁ いえ 、 まずは 確実 に数 を減ら しまし ょ う 。私 は 専 用の 雷装を 積 ん でいないので 、 軽巡 の 装 甲 を抜 けない 可能 性があ り ます 。那 智さ ん は 軽巡を お 願 いします ﹂ ﹁ う む、心得 た ﹂ 少 し 距 離 を 空 け て 横 に 並 ん だ 不 知 火 を 横 目 に 見 る。不 知 火 は 魚 雷 発 射 管 を 動 か し て 軽 い 動 作 確認を していた 。動 きはぎこちないが 、 過度 な 緊 張の 様 子はない 。一足 先に 実 戦 を したか ら だ ろ うか 。少 し 悔 しくな る。 まあ 、 今 か ら 戦 功を上 げ れ ば 良 いだけだ 。 戦 力比2:1 とはいえ 、 この 身 は 重巡。驕るわ けではないが 、早々負 け る つ もり はない 。 不知 火は 提 督 を信頼 してい るよ うだが 、 那 智はまだその 人柄を 測 り かねてい る。日 本 人 には 珍 しいほどの 巨 体に 鍛 え られ た体と 、 そ れ に 反比例 す るよ うに浮ついた漫画が 描 44 四話 波紋提督第一艦隊、抜錨
か れ た 服。身 に 付 け る意 味 も ない よ うな 鎖やワッペン で 服を飾り、 どうに も 戦場に似つ か わ しくない 。愚 物ではない よ うだが 、 あま り良 い印 象 は 抱 けなかった 。 なにし ろ こ れ か ら司令官 と 仰 ぐ 者 なのだ 。酒 の 一 杯で も酌み交わ しなが ら、 人間 性の 底を図 って み たく も な る。 そのた め に も、 まずはこの 一 戦 を 終えなけ れ ばな ら ない 。那 智は 20.3cm連装 砲 を構 え 、 高揚 す る心 のまま 薄ら見 え 始め た敵影 を 睨 ん だ 。姿 が 変わ って も、 この 身 は 重 巡洋艦。 戦うた め に存在す る。 開 戦の 合図 は 、 鳳翔 の 艦載 機に よるも のと 思 しき 爆撃 だった 。爆 弾が次 々 と 投下 さ れ ていき 、 しかし大 部分 が 外れ、 水 柱を上 げ る だけに留ま る。 そ れ で も最も警戒 すべき 軽 巡 の 船 体 を 大きく 揺ら がせたのは 僥倖 だ 。 続 いて 不知 火が 魚雷を 発 射 し よ うとす る が 、 も た も たしてい る内 に敵の砲 撃 が 飛ん で き て 、不 知 火 の 足 に 着 弾 し た 。衝 撃 で 取 り 落 と し た 魚 雷 が あ ら ぬ 方 向 で 暴 発 し て し ま う 。 ﹁ ぐ 、小 癪な⋮⋮ ! 仕方 あ り ませ ん、 砲 雷撃 戦に 移行 !﹂ ﹁了解 した 。 砲 雷撃 戦 、 用 意 !﹂ 最後 尾にい る軽巡 はまだ 少 し 遠 い 。那 智は照 準を合わ せ 直 し 、 20.3cm連装 砲 を 撃 っ た 。 弾 は 見 事 先 頭 の ロ 級 に 命 中 し 、一 撃 で 撃 沈 す る。 歓 声 を 上 げ た く な っ た が 、 45