理学 療法学 第
18
巻第4
号413
〜419
頁 (1991
年)報 告
脳卒 中片麻痺患者
の
視覚性
立
ち
直
り
反
応
と
歩行能力
*吉 元 洋
一
* * 要旨 脳卒 中片麻痺 患 者86
例に対し, 椅座 位にお ける視覚性立 ち直り反 応 を姿勢反射機構検査に基づき測 定 し,
歩 行 能 力 との関 連 性にっいて検 討 した。
視 覚 性 立 ち直 り反 応の得 点と性 差,
発 症 時 年 齢,
病 型 及び評 価 まで の期 間との聞に は有 意な差 異 を認 めな かっ
た が,
麻 輝 側と非 麻 痺 側との比 較では有 意な差 異を認め た (X3=
34.
542:p〈O.
oel
)。 歩 行 能 力との比較で は,
麻 痺側 (r≡− 0.
6113
),
非麻痺側 (r=− O.
6127
)ともに有 意な相関 関係 (p<0.
001
) を認め る と と もに,
歩 行 自立群の右麻 痺と 左麻 痺の比較で は右 麻 痺の症 例に.
おい て視 覚 性立 ち直 り反 応 の得 点が有 意に高くな ること を認め た (κ』7.
868
:p<O,
05
)。 キー
ワー
ド:脳卒 中, 視覚性立ち直り反 応,
歩行 は じ め に 人間に お け る身体の動き は種々 の受 容 器によ るフ ィー
ドバ ッ ク回 路を形 成し な が ら発達し,
そ れ ぞ れの運動に 適 し た調 節 系が合 目的的に作 用して行わ れ る。 その な か で も特に視覚か らの情報は,
身体の動きに大きな役割を 演 じて いる。 視 覚 系の発 達は早期からは じ まる が出生時 で は ま だ完全な状態で は なく,
精巧な視覚 系の発達は生 後6
歳 頃 まで続 く と報 告 されて いる1>。 また視 覚 は単に 知 覚と しての作 用だけで は な く,
手と眼の協 調 性や頭 部 調 節に も大 きな影 響 を及ぼす 受 容 器であると と もに効 果 器として の側面も有して い る。 視 覚の関与する姿勢調 節 機 能 として視覚性立ち直り反 応 (Optical
Righting
Reactions
:以下ORR
と略す)が あ る。
ORR
は頭 部に作用 する姿勢反射の一
つ で あ る が,
こ の他に頭 部に作用するものと して迷路性 頭の立 ち 直り反 応が あ り,
本 反 応を基 盤 に して ORR が発 達 す る2) 。 Bobath ヨ) は,
眼 を利用して の姿勢の方 向づ け は,
*
Walkingabilities and optical righting reactions in hemiplegic patients
” 鹿 児 島大 学 医療 技 術 短 期 大 学 部
Yoichi Yoshimoしo
,
RPT :Department of Physical Ther−
apy,
Kagoshima University School of Allied Medicai Sciences (受付日1990年9月1日/受 理日1990年11月8[]) 人間の運動反 応の うちで最も有力な要素で あるとして い る。 姿勢の反射 性調節に関与する機能を一
般に姿勢反射と 呼んで い るDが, 中島 5> に よ ると姿勢反射の 範囲を明確に 定め たもの は な く,
姿勢反 応と呼ぶほ う が適切なもの も あ ると報 告 し て い る。
いずれに して も多くの姿 勢 反 射は 発達に伴い整理・
統合さ れ る た め, 正常な発達を遂げた 健常者の身体運 動は正常姿勢反射機構に よ り,
協調性の あ る多 様な姿 勢運 動パ ター
ンが保障さ れ る6) 。 その た め 脳 卒 中な どの中枢神経 障 害におい ては,
これ らの正 常 姿 勢反射活動が阻害さ れた状 態になるた め陽性徴 候や陰性 徴 候7 )な どが 出 現 し,
正常な身 体運 動 を行 うことが困難 になる。
そ の ため臨 床におい て は,
これらの徴 候 を抑 制 した り促 通 した り して訓 練 を行 っ てい るのが 現 状である。 視覚を介 して の運動療 法は, 理 学 療 法 分野で 日常的に 利 用されており,
特に座 位・
立 位におけるバ ラ ン ス訓 練 や歩 行 訓 練な どは そ の代 表 的なもの である。 そ の ため視 覚 を入 力とする姿 勢 反 射にっ い て評 価 することは,
機 能 障 害に留 ま らずADL
な どの能 力 面にっ いての評 価にも 役 立つ。
姿勢反 射 を 利 用 した評価は,
小児の運 動 発 達検査や評 価 法と して広く利用 さ れて いるT)8)。
し か し成 人について は Bobath の評価 法が あ るもの の評価項目が多く,
熟練414 理学 療法学 第 18 巻第 4 号 と経験に も とつ いたセ ラ ピス トで ない と
,
やりこなすに は困難な側面を有して い る7〕 。 その ため臨床 的に は,
特 定の姿 勢 反 射のみにつ い て検 討 してい るのが 現 状であ る鋤 。 しか し身体の動きは種々 の姿 勢反射が複雑に絡 み合っ て い ることが予測される ため,
特定の姿勢反射の みにっ い て論 じ ること は早 計である が,
そ れ ぞ れの運 動 に最 も関 係 して いる姿 勢 反 射につ い て評 価 す れ ば,
ある 程度 障害を把握 すること も可能にな る。 筆 者は姿 勢反射によ る評価 と して,
カ ナダのChedo −
ke
McMaster
Hospita1
のPostural
Reflex
Mecha −
nism
Testingii
)12) (姿勢反 射 機 構 検査 :以 下PRMT
と 略 す)に よ り脳 卒巾患者を評 価 し,
本検査 法の有用性や 歩行能力との関連性にっ いて報告して い るt3−
16)。今回
pRMT の検 査項目の
一
っ で ある ORR に着 目 し,
椅 座 位におけるORR
と歩 行 能 力との関 連 性にっ い て検討した の で報 告 する。
対
象
座 位 保 持 が監 視レベ ル以.
.
ヒで可 能 な脳 卒 中 片麻痺患 者 86 (男性 59,
女 性 27)例を対象と し,
そ の内 訳は脳出 血 28,
脳 梗 塞 54,
その他4例であり,
右麻 痺46,
左 麻 痺40 例で あ る。 発 症時の年 齢は 15〜
83歳 平均61.
9
歳,
発 症か ら評 価 まで の期 間は 1〜
156 ヵ月 平 均 34.
8 ヵ月 であり,
発 症 から1 年未満 46例,
1年以 上40 例で あ る。
図1
視 覚 性 立ち直り反応の判 定 基準 方 法 評 価項 目はORR
, 下 肢ブル ン ス トロー
ム ス テー
ジ (以下 BS と略す) 及 び歩 行 能 力で あ り,
歩 行 能力にっ い て は 自立 歩 行,
監視 歩行,
介 助 歩 行 及び歩 行 不 能の4
段 階で判 定す る。ORR
の検査肢 位は図1
に示 すご とく足部が床に接 地 しない高 さの検 査 台 を 用い,
手に よ る支持を防ぐため腕 組み位を保 持さ る。
検 者は被 験 者の正 面に椅 座 位を保 持 し, 購幹の動 きを教え た後に実 行 させ る。 驅 幹の動 きは 頭 部 (下 顎 部 )が,
骨 盤の支 持 面 (ス ク リー
ン トー
ンで 示 す )より外に出る まで側 方に傾 けさ せ,
もし支 持 面 外 ま で傾けなけれ ば口答 指 示や介助して行う。 検査の順序 は まず 非 麻 痺 側につい て検 査し,
次に麻 痺側を行う。
ORR
の判定基準を 以 下に示す。 正 常 な調 節 (3
点 ) : 正常な タ イ ミングと協調性とによ り頭部が骨 盤の 支持 面 外に出る まで輻幹を傾け,
かっ も との正中位に戻るこ と が可能 部 分的 な調節 (2
点 ) : 頭 部を支持面外まで傾け ること はで き る が,
タ イ ミン グ や協調性が悪かっ
たり, 正中 位まで戻れ ない場合 促通刺激に反 応あ り (1
点): 随 意的に頭 部を支持面 外まで傾 けること がで き ない場 合,
他動的に頭部が支 持面 外まで移動するように介 助し,
そ の後 介 助なしで正中位 まで立 ち直 れ る場 合 促 通 刺 激に反 応な し (0点 ) : 他 動 的に頭 部 を支 持 面 外 まで傾 け る と,
そのま ま倒 れ て し ま う場合 結 果 歩 行 能 力 は 自 立 歩 行 39 (45.
3%),
監 視 歩 行 27 (31.
4% ),
介 助 歩 行 11 (12.
8% ),
及 び 歩 行 不 能 9 (10.
5% ) 例である。
BS はステー
ジ1
;1 (1.
2% ),
且;2 (2.
3% ),
皿 ; 39 (45.
3%),
IV; 6 (7.
0%),
V ;18 〔20,
9%),
VI;20
(23.
3
% )例で ある。
ORR
は麻痺 側及び非麻痺側ごと に得点が算出さ れ る ため,
それぞれの分 布は図2
に示すごと くである。
麻 痺 側にっ いて は正常な調節25
(29.
1
%) 例, 部分的調節 46 (53.
4%) 例,
促 通 刺 激に反 応あ り12 (14,
0%) 例及 び促 通 刺 激に反 応 な し3 (3.
5%) 例である。
非 麻 痺 側で は正 常な調節が 63 (73,
2%) 例と多 数を占脳 卒 中 片 麻 痺 患 者の視 覚 性 立 ち直り反応と歩行能力
415
麻 痺 側 正臠
節 4攤
部謝
節 反 応 あ り (1点) 反 応 なし (0点 ) 非 麻 痺 側 図2
視覚 性立 ち直り反 応の麻 痺 側・
非麻痺側 別症例数 め, 部分 的調節 18 (20.
9%)例,
反 応 あり5 (5.
9% ) 例で反 応な しの 症例は認めなかっ た。
な お両側と も正常な調節は25
例 (29,
1
%) で, その 内18
例 (72
%)が自立歩行,
他は全て監視 歩行で あ る。ORR
と性 差,
病 型,
発 症 時 年 齢 (表1−
a,
b,
c) 及 び発 症か ら評 価まで の期 間 (表2 −
a) との比較で は カ イ自乗 検 定におい て有 意な差 異 を 認め な かっ た。
ORR
と左右麻痺側との比較で は,
表 2−
b に示 すごと く麻痺 側間に は有意 差を認めな か っ た が,
非 麻 痺 側 との 問に は有意な差異を認め た (X2=41.
379
:pく0.
001
)。ORR
と麻痺側・
非麻痺{則との比 較で は,
表 2−
c に示 すごとくX2=
34.
542
と なり,
有意 な差異を認めた (p<0.
001
)。ORR
とBS
との 比較で は,
表3
に示すごとくス テー
ジが 高 くな るに従いORR
も正 常な調節が 可能とな り,
相 関 係 数 r=
0.
6523 (p< 0.
001)で有 意な相 関 関 係を認 め た。 ORR と歩 行 能 力との比 較で は,
表4
に示 すご と く麻 痺 側 及 び非 麻 痺 側 と もに有 意な相 関 関 係を認め た (麻痺 側 r=−
0,
6113 :pく 0,
001,
非 麻 痺 側 r=−
O.
6127 :p 〈O.
OOI
)。 考 察 図 1に示 し たORR の検 査 法 は嫗 幹の バ ラ ン ス能 力を 評 価した り,
輻 幹の連 動 能 力を同上させるた めの訓 練法 と して 日常よく用い られて い る。
しか しこ の動きに,
ど の よ う な姿 勢 反 射や姿 勢の調 節メ カ ニ ズムが関 与 して い る か につ いての報 告は ない。
しか し表 在 及 び深部知覚や 視覚 及び迷路な ど か らの刺激が, 効果器との間で複雑な フィー
ドバ ッ ク 回路を 形 成 して いるこ と が 推 測 さ れ るが,
そのな かで も視覚や迷路の果たす役割が大き いの ではな いか と考 え る。 そのた め今 回は視 覚によ る姿 勢 調 節機能/
t
と して ORR に着 目し,
歩 行 能 力との関 連性につ い て検 討し た。 今 回の結 果か らORR と性 差,
病 型,
発 症 時年 齢 及び 評 価 までの期 間 との間に有 意な差 異を認め な かっ た が (表 1−
a, b, c, 表 2−
a),
右 麻 痺と左麻 痺の非 麻 痺 側 間と麻 痺 側・
非 麻 痺 側 間の比 較で は有 意 差を認め た (表2−
a, b
) こと に より,
ORR
は前述の要 因より も麻痺 の程 度に関 係が あ ること が示 唆さ れ る。 その ため ORR とBS
と を比較する と, ス テー
ジ が高 くな る に従いORR
得点も高く な り驅幹調節 能 力が有 意に向 上 し,
正 常な調節が可能な症例が増加 してい る (表3
)。 次にORR
と歩 行 能 力との比較では両側と も同程度の 有 意な逆 相 関を認め たことに より (表4
),
歩行能力を 向上さ せ る た めには単に一
側のみの驅幹 調節だけで は な く,
両側の調節能力が向上 する必要がある。
ORR 得 点 の麻 痺側と非麻痺側との関係は図 3に示すご とく,
非 麻416
理 学 療 法学 第18
巻第4
号 表 1 結 果 a.
視 覚性立ち直り反 応と性 差 表 2 結 果 a.
視覚性 立ち直り反 応と評価 期間 正常な調 節 部 分 的 調節 反応 あり 反 応なし 3点 2点 1点 0点 正 常な調 節 部 分 的 調 節 反 応あ り 反応な し 3点 2点 1点 O点 麻 痺側 男 性 非麻痺 側 麻 痺 側 女 性 非 麻 痺側 649Qソ
ー 4 1冖
D315 311 6269 り 2010 1 未 1 以 年 麻痺側 満 非 麻 痺 側 年 麻 痺 側 上 非 麻 痺 側 2330 1∩
δ 13 729己
り り裲
ll 5174 2D10 麻痺 側 :xz=
3375;p=
33.
73 非麻 痺 側 :X2;
2.
Q54;p=
35.
82 麻痺{副:X2;
1.
688;p=
6397 非 麻 痺 側 :X:=
=
3.
541 ;p=
17、
02b .
視覚性立ち直り反応と左 右 麻 痺 側b ,
視覚 性立ち直り反 応と病型 正常な調節 部分的調節 反応 あり 反応 な し 3点 2点 ]点 0点 正常な調節 部分 的調 節 反 応 あり 反 応な し 3点 2点 1点 O点 麻 痺 側 脳 出血 非麻痺側 麻 痺 側 脳梗塞 非麻痺側 麻 痺 側 その他 非 麻 痺 側 698113 114 57∩
コ ー 20 1 2t 526211 201000 麻痺側 右麻痺 非麻痺 側 麻 痺 側 左麻 痺 非麻痺側 74009 13 2 08ρ
OQり
2 2 735 ワ自
2010 麻 痺 {則:X2.
.
3,
527;p≡
74.
04 ヲ旨麻 痺 狽ll:xP’
.
.
4.
264;p二
37.
15 麻痺偵叮:X2=
4.
292;p=
23.
17 *非麻痺側:X2=
4L379 ;p<0、
OOI c.
視 覚 性 立 ち 直り反 応 と麻 痺側・
非麻痺 側 正 常 な調節 部 分 的 調 節 反 応あり 反 応な し 2点 1点 0点 3点 C.
視 覚 性 立ち直 り反 応と発症時年齢 正常な調節 部分的調節 反応あり 反応な し 3点 2点 1点 Q点 麻 痺側 非 麻 痺 側 5DO26 6841 2一
bl 30 xE=
34.
542;pく O.
OOI 50歳 麻 痺 側 未 満 非麻 痺側 麻 痺 側 50歳代 非麻痺側 麻輝 側 60歳代 非 麻痺 側 麻輝側 70歳 代 非麻痺側 80歳 麻 痺 側 以上 非 麻 痺 側 7099693302 11
1
1 31L3673532 1
1
1 21214 玉 3111 QO10100010 表
3
視覚性 立 ち直り反 応 と ド肢ブル ン ス トロー
ム・
ステー
ジ 正 常な調節 部 分 的 調 節 反 応 あり 反 応な し 3点 2点 1点 0点 麻痒 但啀:xz=
16.
088;p=
18.
73 非 麻痺但1」:X2=
4.
498;p;
59.
16 痺側の得 点が向 ヒすれば 麻 痺 側の それ も向上 するこ と を 示 して い る(r
−
O.
67589 :p〈 0,
001)。
その た め歩 行 能 力の向 上に は早期から出現す る非麻痺 側のORR
を利 用 し,
非 麻 痺 側の身區幹 機 能を積 極 的に強 化 して い くことが 必 要である。 こ の こと が麻 痺 側 を含め た編 幹機能を向上 さ せ,
歩 行 能 力の改 善にも役 立っ と考え る 。軅幹運動の重要 性につ い て は諸 家6]17}]s} の報 告に も ある ご とく
,
種々 の動作の基本に な る た め運 動療法のな かに 積 極 的に取り人 れるべ きで ある。 しか し単に可 動 性のみ IH 皿 WVW QO ] 99Q42 1 OO493982
Ql1000 1 111000 r諞
O.
6523;p<0.
001 に着 目 するだけで はな く正常な立 ち直りなど を考慮し,
いわゆ る正常姿勢反射活動に基づ いた訓練を行 うこ と が 必要に な る。 沼 田ら]9)は,
失 行,
失 認 を伴わ ない脳卒 中片麻 痺患者 の荷 重 分 布 を 右 片麻痺と左 片麻痺患者を比較し,
左片 麻 痺で は左傾 斜に より右へ 有 意に偏位す る と し,
左体 幹の 優 位 性にっ いて報告してい る。 さ らに森田 ら 20}は重 心 動 揺 計に よ る分析で,
右 片麻 痺 例は視 覚 系の影 響を大 き く脳 卒 中片麻 痺患者の視覚性立 ち直り反 応と歩 行 能 力 417 麻 痺 側 3 2 1 00 r
=
0.
67589 P 〈O.
OO1 o o o o o o o e o o oo
e
o o
o
o
e
o O
O o
o ooo
o
o
o
e oOoo
o
oo
ooo O
o
e
e
ee o e o 1 2 3 非 麻 痺 側 図
3
視覚 性立ち直り反 応の麻痺 側
・
非麻 痺 側の比較な お (○)は10症 例を示す 受 けること を報 告して い る。 今回の結果で は表 2
−
bに 示すごと く麻 痺 側 間に は有 意 差を認め な いもの の,
非 麻 痺側闇には有意な差 異を認め た。 し か し歩 行 能力 を自立 歩行群と非 自立 歩 行 群 (含 :監 視 介助及び歩行不 能 ) に分け右麻痺と左麻痺 を比 較 する と,
表5
に示 す ごと く 自立歩行 群で は右麻 痺 と左 麻 痺との間に有 意な差 異を 認 め,
沼 田ら が報告 して い る よ う に左体幹の優 位 性が示 唆 さ れ た。筆 者が電勁式バ ラン ス ボ
ー
ド に より健 常 成 人の 軈幹傾 斜反応を 測定 し た結 果で は,
開 眼にお け る 1° / sec の 遅い傾斜刺激で は右方傾斜で頭 部 移 動 角が有 意に大きく,
3 °
/sec の速い刺激では左右差 を認め な かっ た が,
閉 眼 表4 視 覚 性 立ち直り反 応と歩 行 能 力 a.
麻痺側 自立歩行 監 視歩行 介 助 歩 行 歩行不能 正常な調 節:3点 18 部 分 的調 節 :2点 19 反応 あ り ll点 2 反 応な し :O点 Q 7820 1 0 Ω 021 O162 では開 眼に比較し傾斜速度に関係な く, 左 傾 斜におい て 有 意に頭 部 及 び体 幹の移 動 角が増加するこ とを報告して い る21 )。
こ の よ うに躯幹 傾斜反応や立 ち直りの動 きに は,
視 覚 か らの フ ィー
ドバ ッ ク が重要な役 割を有して い る こ とが 示 唆される。
また渡辺12 )は立位姿 勢の調節は前庭 感 覚,
視覚レ 体 性 感 覚の統 合 と発 育 段 階で の各反 射系の プ ロ グラ ミングとに よ り完 成 すると報 告して い る。ORR
は出生時〜2
ヵ月に出 現し生 涯 持続する反応で あ り,
そ の統 合 中 枢は視 覚が関与す る た め大脳皮 質,
特 に後 頭 葉にある とす る報 告が多い2)3冫 。 しか しFioren−
tino2:〉 は その中枢を 中脳 レ ベ ル と し,
田 幸ら24)は 中脳動 物に おいて見られ る と報 告 して いる。 ま た中村ら 2fi> は サ ル の運動 野, 運動前野を 除 去 した高 位 除 脳 動物におい て も見 ら れ る と 述べ て いる。
な お PRMT で は中脳レベ ル に分類さ れ てい る。こ のように
ORR
の中枢につ い ては 両 者の説が ありど ち らが中枢であるか を結論づける こと 表 5 麻 痺 側と歩 行能力との比較 r=−
O.
6113;p<0.
001 正常な 謌節 部 分 的 調 節 反 応 あ り 反応な し 0点 3点 2点 1点b
,
非麻 痺 側 自立 右麻痺 歩 行 群 左麻痺 441 72 1 20 DO 自立歩行 監 視 歩行 介助 歩 行 歩 行不能 X2
=
7.
868 :p< O.
05 正常な調節:3点 35 部 分 的 調節:2点 4 反 応 あ り :1点 0 反応な し :0点 0 3400 2ρ
0320 06『
00 正常な調節 部 分的調節 反 応 あり 反 応な し 0点 3点 2点 1点 非 自立 右 麻 痺 歩行群 左 麻 痺 34 工34 重 55 21 r=−
O.
6127;p〈O.
OOI X2=
0.
492:p=
092418 理学療法学 第 18巻第 4 号 はで きな いが, 本反 磨に は そ れ だ け多くの要 因が関係し て い ることが示 唆され
,
今 後の研 究の成 果に期 待した い。
今 回, 椅座位におけ るORR
をPRMT の判定基準に よ り評価 し,
歩行 能 力との関 連性につ い て検討し た が,
歩行に は姿 勢反射が単 独で作用 すること は なく種々の反 射・
反応 が複 雑に絡み合っ て行わ れるた め,
今 後その他 の姿 勢 反 射との関 連 性にっ い て も検討し たい。 ま と め 脳 卒中片麻痺患 者86
例に対 し,
姿 勢 反 射機構検査の なかの視覚性 立ち直り反 応に着 目し歩 行 能 力との関 連 性 につ いて検討し た結 果,
以 下の結論を得た。
1.
視覚性 立 ち 直 り反 応の得 点と性 差,
発 症 時の年 齢,
病型 及 び評 価までの 期 間 との間には有 意 な 差異を認 め な か っ た が,
麻 痺側と非麻 痺側との比較で は有意に非麻痺 側の 得 点が高くな るこ とを認 め た (X!=34.
542 :p〈0.
001
)。 2,
視覚 性 立ち直り 反応と下肢ブル ン ス トロー
ム・
ス テー
ジ との比較では,
得点が高くな るに従いス テー
ジも 有 意に高 くなる こと を認めた (r=
O.
6523:p
< 0.
001)。
3.
視 覚 性 立 ち 直 り反 応と歩 行 能 力との比 較で は,
麻 痺 側 (r=− 0.
6113
)・
非 麻 痺 側 (r=−
O.
6127
)ともに 歩 行 能 力が向上する に伴い得 点も有意に高 くなる こと を 認めた (p<O.
OOI
)。 4.
視 覚 性 立 ち 直り反 応の麻 痺 側と非 麻 痺 側 得 点と の 間に は,
有意 な相関 関 係 を 認めた (r=
O.
6759
:p<O.
OOI)。 5.
歩 行自立群の左 片 麻痺と右 片 麻 痺 との比較では,
有意に右 片麻 痺の得 点が高くなること を認めた (x2=
7.
868
:p<0.
05
)o なお,
本 論 文の要 旨は第 25回日本理学 療 法 士 学 会に おい て 口演 し た。 引 用文献 1)Farber SD : 〔平 山義人・
他 監 訳 )1
一
神経 系の リハ
ビ リ テー
ショ ン,
多重感覚治療法」協同医書出版,
1987,
pp 169−
171,
2)Barnes MR
,
Crutchfield CA and Heriza CB : ⊂間 野行 生 監訳)「理学療法・
作業療法のた め の神 経生理学プロ グ ラム 演 習 」第2巻,
運 動 発達と 反射一
反 射 検 査の手 技と 評 価一.
医 歯薬 出版,
1986,
PP 81−
83.
3)Bobath B : (梶 浦一
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E・avvEP
opltzzMfigdi
wt"ttth
t5
pt
lj
NJE
2:
tsfittE"
419
<Abstract>
Walking
Abilities
andOptical
Righting
Reactions
in
Hemiplegic
Patients
YoichiYOSHIMOTO,
RPTDopt.
ofRhysical
TZeempy,Ktigoshima U)zivasitySchool
ofAllied
Medical Sciences
In
86
patients with cerebral apopletichemiplegia,
Optical
Righting
Reactions
(ORR)
in
a sitting in chairposition
was measttred according tothe pestural reflex mechanism testingto'
examine itscorrelation with walking ability.
・
'
No significant differencewas notedbetween
scores ofORR
and sexdifference,
age of onset,morbid type or period up tothe evaluation, but comparison between the paralytic and non-paralytic sides revealed a significant
difference
by!=
34,542
:p <O.OOI).
Comparison
with walk-ing ability revealed significant differences(p
< O.OOD forboth theparalytic
side(r:=:
-
O.6113)and non-paralytic side
(r=-
O.6127),
and comparison between right and lefthemiplegias inthewalking, self--supporting group revealed significantly high scores