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Microsoft Word - 3.分娩管理.doc

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3.分娩管理

1)分娩前の運動

妊娠後期の適度な運動は、子宮動脈の血流を増加 させて胎子への酸素供給量を増大させるため、低酸 素脳症に起因する虚弱子の発生リスクを低下させる。 また、子宮内に胎子スペースを確保する肥満の予防、 分娩に耐えられる健康状態と体力の維持にも有効で あり、難産を予防すると考えられている。 妊娠後期、特に分娩1~2週間前の運動不足は、下 肢部や乳房前方から帯径にかけて浮腫を誘発させる。 この場合は、ウォーキングマシン運動あるいは引き 運動の実施により、循環系を改善する必要がある。 分娩予定日の1ヶ月前から、ウォーキングマシン運動を実施 する。 日高地方の冬期間は雪で覆われ、放牧地では歩行 が困難となり、運動不足に陥りやすいことから、強 制的な運動が不可欠である。理想的には馬の息づか いを感じる程度の引き運動が望ましいが、ウォーキ ングマシンの応用が効率的である。分娩予定日の1ヶ 月前から、5km/hの速度で20~30分間の運動を開始 する。 ただし、ウォーキングマシンに入れる前には、繁 殖牝馬へのストレス負荷を考慮して歩様などをチェ ックする。特に、肥満傾向がみられる繁殖牝馬は、 蹄疾患を発症しやすいことから、注意が必要である。 - ポイント☝ - ・分娩1 ヶ月前から開始するウォーキングマシン 運動(20~30 分間)は、難産の予防に有効であ る。

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2)分娩の兆候

分娩兆候には個体差がみられ、同じ兆候が認めら れたとしても、分娩までの日数は異なることを理解 しておく必要がある。 ① 乳房の腫脹(成熟) 分娩2~6 週間前から乳房が少しずつ腫脹し始め、 分娩直前には、さらに腫脹して成熟する。 分娩 1 ヶ月前からの乳房の変化 ② 乳頭先端の乳ヤニの付着 約 60%の妊娠馬においては、分娩 2~4 日前か ら乳ヤニの付着が認められ、その 90%は付着から 72 時間以内に分娩に至る。 分娩直前には、乳頭にワックス(乳ヤニ)が付着する。 ③ 漏乳(分娩に先立つ泌乳) 乳頭先端の乳ヤニ付着の過剰状態は、ホルモン 異常に起因すると考えられている。歩行時に乳頭 から乳汁がしたたり落ちる状態も認められるが、 後肢に付着した乳汁によって漏乳に気づく場合が 多い。漏乳は、初乳中の免疫グロブリン(IgG)が 漏出することから問題となる。漏乳が認められて から、24~48 時間で分娩に至る。 漏乳によって乳汁が付着した後肢 ④ 臀部の平坦化 分娩 1~3 週間前から腹部を支持している仙坐 靭帯の弛緩により、臀部の平坦化が起こる。仙坐 靭帯の弛緩によって腹筋群の収縮が緩和し、胎子 の娩出がスムーズになると考えられている。 分娩 1~3 週間前から、臀部の平坦化が認められる。 ⑤ 外陰部の弛緩 外陰部の弛緩が認められる場合は、48 時間以内 に分娩に至るとされているが、弛緩状態の識別は 容易ではない。この兆候は産道を形成するための 1 ヶ月前 3 週前 1 週前 分娩当日

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変化であり、概ね同時に尾根部の沈下が認められ る。 分娩 1 ヶ月前(左)と分娩当日(右)の外陰部 ⑥ 体温の低下 一般的に、午後の体温は朝より高いが、出産当 日には同体温か、若干低下する。

3)分娩日の推定

- ポイント☝ - 乳汁のpH 値および Brix 値の測定は、夜間分 娩監視の必要性の指標として極めて有用であ る。 ・pH>6.4 24 時間以内の分娩確率は、1%未満である。 ・Brix 値<20% 24 時間以内の分娩確率は、4%未満である。 上記値の場合、分娩監視は不要である。 ○乳汁のpH 値を指標とする分娩日の推定 市販のpH 試験紙(6.2~7.6 の範囲の測定が可能な pH-BTB 試験紙)により、乳汁の pH 値を測定する。 pH の測定には、特殊な機器は不要である。市販の試 験紙を乳汁に1~2 秒間浸すのみであり、極めて簡便 かつ迅速な方法である。 出産10 日以前の pH 値は 7.6 以上を示すが、分娩 が近づくにしたがって低下し、6.4 に達してから 48 ~72 時間以内に出産する確率は、85%~98%である。 pH 値は分娩日の推定というより、むしろ分娩が起 こらない日の推定指標として有用性が高い。例えば、 pH 値が 6.4 に達していなければ、24 時間以内の分 娩確率は1%未満であることから、夜間の分娩監視は 不要と判断できる。 分娩 10 日前からの乳汁色と pH 試験紙の変化 ○採乳およびpH 値の測定手順 ① 採乳者の手・指および乳頭の消毒 採乳前には、必ず石ケンなどによって手・指を 洗浄するとともに、逆性石ケンで濡らしたガーゼ で乳頭を拭く。また、軽く乳頭をマッサージして 乳腺を活性化させる。 ② 乳汁の採取 採乳側の後肢を後踏みさせてから、採乳を実施 する。初産の場合は、必要であれば肩を取ったり、 鼻ネジ、枠場保定を実施して徐々に慣らす。乳汁 の採取は、新生子の吸乳馴致としても有効である。 ③ ガーゼによる濾過 採取した容器から測定用の容器に移す際には、 ガーゼで濾過してゴミを除去する。 ④ pH 試験紙 容器に入った乳汁中に、pH 試験紙を 1~2 秒間浸 す。 ⑤ pH 値の確認 1 ヶ月前 分娩当日

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pH 試験紙を浸した直後の色調を標準色と比較 し、乳汁のpH 値を決定する。 左後肢を後踏みさせ、乳汁を採取する。 (クールモアスタッド) 標準色と比較して pH 値を決定する。 ○乳汁のBrix 値を指標とする分娩日の推定 市販の糖度計によって乳汁のBrix 値を測定し、分 娩日を推定する。測定に使用する糖度計は、溶液中 のショ糖濃度の測定機器であり、乳汁の測定では可 溶性固形分をパーセント表示している。 測定手順は、糖度計のプリズム面に、採乳後にガ ーゼ濾過によってゴミを除去した乳汁0.3ml をたら すのみである。デジタル式では3 秒後に Brix 値が画 面に表示され、アナログ式では小窓をのぞいてBrix 値を確認する。測定時間は5 秒以内であり、簡便か つ迅速な方法といえる。 デジタル式は、3 秒で Brix 値が表示される。 アナログ式は、小窓をのぞいて Brix 値を確認する。 乳汁のBrix 値は、出産 10 日以前は 10%以下で推 移するが、分娩が近づくにしたがって上昇する。20% に達してから72 時間以内の分娩確率は、73%である。 一方、Brix 値が 20%に達していない場合、24 時間 以内の分娩確率は4%未満である。したがって、Brix 値も pH 値と同様、夜間の分娩監視の必要性を示す 指標として有用性が高い。 本来、糖度計によるBrix 値は、初乳中の免疫グロ ブリン(IgG)濃度の推定指標として応用されている。 このため、分娩日の推定のみならず、分娩前に初乳 の質をある程度把握するためにも有効である。

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4)分娩に向けた準備

破水後は、1 時間以内に仔馬の誕生を迎える。この ため、破水を確認してから、あわてて分娩の準備を 開始するのではなく、事前に分娩に必要な器材を準 備しておく必要がある。特に、シーズン最初の分娩 時には、余裕をもって準備しておく。分娩時に準備 する器材は、以下のとおりであり、プラスチックの 容器にまとめておくことが推奨される。 ○分娩に必要な器材 ・ 尾巻き用包帯 ・ 臍帯消毒用の消毒薬(ポピドンヨード液な ど) ・ 難産時の介助用ロープ ・ 介助用のゴム手袋 ・ 新生子を拭くためのバスタオル ・ 胎盤(後産)を吊るすための麻ヒモ ・ 糖度計(初乳の質の確認) ・ 浣腸液(リン酸ナトリウム緩衝液など) ・ 胎盤重量の測定器 分娩時に必要な器材は、まとめて容器に入れる。 (クールモアスタッド) また、遅くとも分娩予定日の 1 週間前から、十分 量の良質な寝藁を敷く必要がある。分娩直前に寝藁 を補充する場合は、ホコリを立てないように注意し、 臍からの感染予防に心がける。 分娩時には、十分量の良質な寝藁を敷く。 (クールモアスタッド)

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5)分娩のステージ

分娩は、以下の3 つのステージに区分される。 ○第1 段階(陣痛症状発現~破水) 分娩の第 1 段階は、馬房内での旋回、前掻き、発 汗など、疝痛症状に類似する行動が観察される。こ れは、子宮の収縮に伴う疼痛に起因する反応と考え らえている。その他、陰唇下部の開口(ライトニン グ)や脇腹を見るしぐさが認められることもある。 第 1 段階の疼痛程度や継続時間には個体差がみら れ、断続的に数時間継続した場合、その兆候に気づ くことなく第 2 段階に進むこともある。また、分娩 の数日前から、第 1 段階の兆候が断続的に認められ ることもある。兆候の発現後、数日間の間隔が空く ことも珍しくはなく、これを異常と判断する必要は ない。このため、静かな環境を維持して静観するが、 漏乳などの異常所見の有無を注意深く観察する必要 がある。 馬房内での旋回 陰唇下部の開口 ○第2 段階(破水~娩出) 第 2 段階は、破水から胎子が娩出されるまでの間 であり、一般的には20~30 分程度であるが、大きな 個体差がみられる。経産馬では、出産を重ねる毎に 短縮される傾向がみられ、5 分間程度で終了する場合 もある。一方、初産馬は時間を要する場合が多い。 破水から 40 分を経過しても胎子が娩出されない場 合は、胎子の生死に関わる可能性があるため、早急 な人為的介助が必要となる。破水からの経過時間を 把握するため、必ず破水時刻を記録する。 (1)破水 分娩の第 2 段階は、子宮頸管の拡張と胎盤の絨毛 尿膜が破れることによる外陰部からの尿膜水の排出、 いわゆる「破水」に始まる。破水によって排出され る尿膜水は黄色~茶色であり、その量には個体差が みられる。 「破水」は、分娩の第 2 段階の開始サインである。

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(2)子宮内での姿勢 妊娠後期における子宮内の胎子は、頭部を後方(子 宮口方向)に背中を下方にした「頭位下胎向」の姿 勢をとっている(下図Ⅰ)。分娩の直前に長軸上で180 度回転し、頭部を後方(子宮口方向)、背中を上方に する「頭位上胎向」の姿勢で娩出される(下図Ⅳ)。 この胎子の転位は、分娩の第 1 段階、遅くても第 2 段階の早期に起こる。 ○子宮内における胎子 ○娩出時胎子の姿勢変化 (3)胎子の姿勢確認 胎子は「頭位上胎向」の姿勢で娩出を迎えるため、 胎子が正常姿勢で産道を通過する際は、両前肢に続 いて鼻端が娩出される。 胎子が正常な胎位であるか否かは、外陰部を洗浄 後、ビニール手袋を装着して経膣で手を挿入し、蹄 底を下向きに伸展した両前肢と鼻端の触知によって 確認できる。この作業は、破水が認められてから 5 分以内に実施する。破水直後において胎子の転位が 完了していなければ、上向きの蹄底が触知される。 この場合は、5 分後に再確認する。 母馬が起立している場合は、胎子は重力によって 腹腔内に沈んでいるため、より深く腕を挿入する必 要がある。横臥している場合、胎子は子宮口へ押し 出されているため、比較的容易に触知できる。しか し、子宮の収縮に伴う疼痛によって蹴ることもある ため、横臥姿勢での検査時には注意が必要である。 破水から 5 分以内に、胎子の姿勢を確認する。 (4)足胞(羊膜に包まれた前肢)の出現 破水から5 分以内に、足胞(羊膜に包まれた前肢) が出現する。羊膜は通常白っぽく、光沢があり、滑 らかである。羊膜中の羊水は通常透明色であるが、 茶色に混濁している場合や羊膜が肥厚している場合 は、胎子の異常が疑われるため、獣医師による早期 の処置が必要となる。 破水後は、足胞(羊膜に包まれた前肢)が出現する。 直ちに、羊膜中の羊水の色調を確認する。

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(5)娩出時の母馬の行動 母馬は娩出時に横臥姿勢を好むが、これは重力の 影響を最小限に留め、娩出を容易にするためである。 さらに、腹筋を最大限に機能させるため、しばしば 背中を壁に接することを好み、息みながら娩出する。 一方、破水直後は、頻繁に寝返りを打ったり、横 臥と起立を繰り返すことも少なくない。これらは胎 子の姿勢を変位させる行動と考えられているが、著 しい場合は、何らかの異常が発生している可能性が ある。 寝返りにより、胎子の姿勢を変位させる。 (6)胎子の娩出 胎子は、片側の前肢を反対側より若干先に出した 状態で娩出される。このことにより、両肘部が骨盤 を同時に通過することを回避し、娩出に際して最大 の難関であるき甲部と肘部の骨盤通過が可能となる。 胎子の胸部が娩出されなければ、臍帯機能は維持 されて胎盤から酸素が供給されるため、胎子は呼吸 活動を開始する必要はない。しかし、胎子の胸部が 骨盤を通過する際には、臍帯が骨盤の縁と胎子の腹 部で圧迫され、酸素供給が阻害される。また、胸部 圧迫によって胎子の呼吸が困難になる可能性もある。 このため、胸部の骨盤通過は迅速に実施する必要が ある。 片側の前肢は、反対側より若干先に娩出される。 胎子の胸部が娩出されなければ、臍帯機能が維持されて胎盤 から酸素が供給される。 胎子の胸部の骨盤通過時には、臍帯および胸部が圧迫され、 酸素供給が不十分になる危険性がある。

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○第3 段階(娩出~後産の排出) 分娩の第 3 段階は、胎子の娩出後から後産(胎盤 膜と羊膜)が排出されるまでの間である。 娩出後の母馬の起立、あるいは仔馬の動きによっ て臍帯が切れた後も、胎盤は子宮壁に付着している。 しかし、臍帯が切れた後は、子宮が急速に収縮を開 始するため、通常後産は 3 時間以内に自然に排出さ れる。子宮の収縮に伴って横臥、発汗、前掻きなど の疝痛様症状が認められる場合があるが、その多く は一過性である。しかし、疼痛が著しく、長時間に わたって持続する場合は、合併症が疑われる。 後産は胎盤血液の消失に伴い、子宮から剥がれや すくなる。このため、胎子は完全に娩出させず、飛 節以下が羊膜に包まれた状態で産道内に残す。この ことにより、母馬の娩出直後の起立を回避できるた め、臍帯は切れることなく血行が維持され、すべて の胎盤血液が仔馬に移行されるからである。 母馬の産道内に、飛節以下を残した状態で維持する。 このことによって臍帯が切れることなく、すべての胎盤血液 は仔馬に移行され、後産の排出が容易になる。 可能な限り、娩出後5 分間は臍帯を切らずに連結を維持する。 臍帯が切れた後は、母馬が羊膜を踏まないように、 羊膜と臍帯を麻ヒモで束ねて垂れ下がった状態とし、 重力に従った自然な後産の排出を待つ。人為的な牽 引は、後産の一部を子宮内に残存させる可能性があ ることから禁忌である。 後産の重量は 8~10kg であり、これ以上の場合は 感染や浮腫などの異常が疑われる。また、排出され た後産を広げ、子宮内に残存していないこと、両方 の角に損傷がみられないことを確認する。 母馬が後産を踏まないように、麻ヒモで束ねる。 後産の排出後には、異常の有無を確認する。 ○分娩時の対処方法 (1)破水が確認されたら、まずその時刻を書き留め、 関係者へ連絡する。電話連絡の発信履歴が、破水時 刻として役立つこともある。その後、専用の清潔な つなぎなどの作業服に着替え、消毒液を混合した湯 を準備する。

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(2)白い羊膜で包まれた足胞を確認する。陰部から 赤い胎盤(レッドバック)が認められる場合は、“早 期胎盤剥離”と呼ばれる異常であり、この胎盤を破 り、早急に胎子胎膜を露出させて娩出する必要があ る。また、羊水は透明あるいは薄黄色であるが、茶 色あるいは赤色に混濁している場合は、胎子の異常 が疑われるため、早急に分娩介助を開始する。 (3)足胞の確認後は、人馬ともに十分に安全を確保 できる体勢を整える。次に、外陰部を洗浄後、洗浄 および消毒した手を膣に挿入し、羊膜を介して蹄底 が下方を向いた両前肢および鼻部を確認する。両前 肢は前後に若干ずれて娩出されるため、先に一方の 蹄底が触知される。 (4)胎位に問題がなければ、必要以上の分娩介助は 実施せず、馬に任せる。横臥と起立を繰り返す行動 は、娩出しやすい胎位に導く正常行動である。著し い発汗や疼痛などの異常が認められる場合は、胎位 修正の試みや獣医師への連絡などの迅速な判断が要 求される。また、胎位に異常がない場合でも、破水 から 40 分間を経過後は息みに同調するゆっくりし た牽引を開始する。 (5)頭部が陰門付近にある時期には、鼻端を覆って いる羊膜を破る必要はない。胎子の胸部が娩出され るまで、そのままの状態で問題はない。 (6)肩部の娩出後は、速やかに胸部が娩出される。 胸部の娩出に時間を要する場合は、臍帯が骨盤によ って圧迫され、酸素供給が停止する可能性があるた め、早急に人為的に娩出させる必要がある。 (7)分娩介助を実施する場合であっても、羊膜に包 まれた仔馬の飛節以下は、母馬の産道内に残存させ た状態で介助を終了する。このことにより、母馬の 起立を遅延できるため、臍帯が切れず、胎盤から仔 馬への血液供給が維持される。 (8)胎盤から仔馬へ最大限の血液を供給するために は、5 分以上臍帯が切れないことが理想である。こ のためには、娩出直後に母馬が起立しないように、 母馬と仔馬には近寄らず、しばらく静観する。 (9)臍帯は、自然に切れることが理想である。胎盤 から仔馬への血液の移行終了後は、血管組織が脆弱 化するため、母馬あるいは仔馬の動きにより、臍帯 は仔馬の腹部から 3~4cm の部位で自然に切れる。 臍帯が切れた後に出血が認められる場合は、指によ る断端の圧迫によって止血する。 (10)臍帯の断端は、1~2%ポピドンヨード希釈液 (イソジン)あるいは 0.5%クロルヘキジン希釈液 (ヒビテン)などによって消毒する。臍帯の消毒は 出産後3~4 日間、少なくとも 1 日 2 回実施して断端 の濡れを確認する。濡れている場合は、「尿膜管遺残」 が疑われるため、獣医師に連絡する必要がある。 (11)出産が 1~2 月の厳冬期の場合、体温維持のた めに仔馬の体表を早急にタオルで拭く必要がある。 しかし、母馬と仔馬のスキンシップを重視するため には、母馬が起立して仔馬の馬体を舐めた後の実施 が望ましい。 この馬体を拭く目的は、体温低下の防止や反射運 動の促進のみならず、仔馬を人に慣らすための「刷 り込み」を含んでおり、仔馬がリラックスするまで 継続する必要がある。 (12)後産は母馬が踏みつけないように、ヒモ(滑 りにくい麻ヒモ)で結札する。分娩から3~5 時間以 上を経過しても、後産が排出されない場合は、胎盤 停滞と判断する。この場合においても決して牽引す ることなく、状況に応じて獣医師に連絡する。 (13)分娩後は子宮動脈破裂、疝痛、蹄葉炎などを 発症しやすいため、母馬の様子を注意して観察する 必要がある。通常、後産を排出する子宮収縮に伴う、 軽度の疝痛様症状は珍しくない。発汗の程度、粘膜 の色、虚脱状態、下肢部温の確認によって疼痛の程 度を判断する。

6)自然分娩

分娩は、子宮および腹筋の収縮によって誘発され る。このため、胎子は後方から押されることが自然

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な動きであり、胎子の前肢を牽引することは、不自 然な力の負荷を意味する。 破水後の検査によって異常が認められなければ、 人為的な分娩介助は可能な限り実施しない。自然分 娩は、結果として最適な分娩に帰着する。 胎子が後方から押されることが、分娩の自然な動きである。 胎子の牽引は、不自然な力の負荷を意味する。 自然分娩は様々な利点があるが、緊急時には介助が必要であ る。 分娩の 90%は人為的な介助が不要であり、破水か ら30 分程度で自然に娩出される。自然分娩は母子と もに様々な利点をもつが、緊急時には介助が必要で あるため、異常状態の認識が重要である。 ○自然分娩の利点 ①子宮機能の早期回復 人為的な胎子の牽引は、胎盤を子宮から剥ぎ取る 行為であり、子宮壁に損傷をもたらす危険性があ る。一方、自然分娩では臍帯が切れることなく、 胎盤から仔馬への血液供給が維持される。胎盤の 血液が仔馬に完全移行することにより、後産は子 宮から剥がれやすくなる。この場合、3 時間以内に 自然排出され、出血や子宮壁の損傷は殆ど生じな い。このことにより、次の妊娠に向けた子宮機能 の早期回復が可能となる。 ②産道通過時の仔馬に対する損傷リスクの軽減 人為的な介助によって強く前肢を牽引した場合、 仔馬は肘関節、肩関節、さらには肋骨を損傷する 可能性がある。一方、自然分娩では、仔馬の損傷 リスクが軽減される。 ③分娩後の新生子の早期起立 狭い骨盤を通過するストレスは、仔馬への刺激の 付与として重要な役割を果たしている。この刺激 により、新生子は生後から短時間内の起立が可能 になるとも考えられている。人為的な介助によっ て短時間内に分娩を終えることは、仔馬への刺激 の軽減を意味し、出生後の起立時間に影響を及ぼ す可能性がある。 ④新生子の循環血流量の維持 分娩介助においては、自然分娩に比較して母馬の 疲労が軽減されること、また、娩出後に仔馬の周囲 に人の気配を感じることから、しばしば母馬は分娩 直後に起立を試みる。この起立に伴って臍帯が切れ るため、胎盤血液の仔馬への完全移行が困難となる。 胎盤血液の流出(仔馬への不完全移行)は、特に虚 弱子の場合に重大な影響を及ぼすことがある。一方、 自然分娩では分娩による疲労が著しいため、分娩直 後の母馬の起立は稀であり、横臥状態が維持される。 このことにより、臍帯の結合が維持されて新生子に 十分な血液が供給される。 - ポイント☝ - ○自然分娩の利点 ①子宮機能の早期回復 ②仔馬の損傷リスクの軽減 ③新生仔馬の早期起立 ④新生仔馬の循環血流量の維持

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7)胎位の修正

正常な胎位は胎子の長軸と子宮の縦軸が同軸、胎 子の背側が子宮の背側に位置し、頭部と前肢が子宮 口に向かっている状態である。頚部と2 本の前肢は 伸展し、蹄底は下方に向いている。また、産道を容 易に通過するため、片側の前肢は反対側より若干先 に出した状態になっている。 正常胎位(頭位下胎向) ○異常胎位の修正方法 重度の難産の場合は、胎位を修正するため、局所 麻酔によって母馬の腹筋運動を抑制し、子宮内に広 いスペースを確保する必要がある。このように、獣 医師による修正が必要な異常胎位も存在することか ら、その重症度の見極めが重要となる。また、早期 過ぎる胎位の修正は、逆に難産を誘発することもあ る。このため、分娩の経験を積む必要があるが、あ る程度の知識があれば、適切に対応できる。以下に、 異常胎位とその修正方法を示す。 ●異常胎位 (1)頭位下胎向腕節部屈曲姿勢 正常胎位で前肢の両側あるいは片側が、腕節部に おいて屈曲している。 【処置】 頭部および屈曲肢を子宮腔内に戻すとともに、屈 曲肢の管部を保持して腕節を背側に挙上し、球節お よび蹄が子宮口に向くよう導く。 頭位下胎向腕節部屈曲姿勢 (2)頭位下胎向肩関節部屈曲姿勢 正常胎位で前肢の両側あるいは片側が、肩関節部 で屈曲している。 【処置】 肩関節屈曲姿勢から腕節部屈曲姿勢になるように、 整復を試みる。まず、前腕部を保持して腕節部を屈 曲させた状態で、腕節部屈曲姿勢に整復する。その 後は、頭位下胎向腕節部屈曲姿勢の整復と同様であ る。前腕部を保持する必要があるため、ある程度の 腕の長さが必要である。 頭位下胎向肩関節部屈曲姿勢 (3)頭位下胎向頭上前肢姿勢 正常胎位で前肢の両側あるいは片側が、胎子の頭 上に位置している。この姿勢は、比較的発症率が高 - ポイント☝ - ・頭部と前肢が子宮口に向かっている異常体位の 場合は、母馬を起立させて胎子を子宮内に戻す ことが基本となる。 ・胎子への酸素供給の阻害が疑われる場合(後肢 の異常、逆子など)は、早急に人為的な介助に よって娩出させる。

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い異常胎位である。 【処置】 頭部を挙上するとともに、前肢の蹄尖が子宮を損 傷しないように球節を保持し、下方に牽引して子宮 口から娩出する。頭上に位置している前肢は背側の 子宮壁に接しているため、子宮壁を損傷させないこ と、子宮口からの娩出後も膣壁を損傷させないこと に注意する。 頭位下胎向頭上前肢姿勢 (4)頭位下胎向後肢伸展(犬座)姿勢 正常胎位であるが、後肢が伸展している。 【処置】 頭部および前肢は、正常姿勢時と同様に娩出する。 頭部および前肢を牽引するとともに、子宮内に挿入 した手によって後蹄を子宮内に戻すように押さえる ことにより、膝関節と飛節を屈曲させる整復を試み る。後蹄を子宮内で押さえるためには、ある程度の 腕の長さが必要である。また、若干回転させながら 頭部および前肢を牽引することにより、整復が容易 になる。 頭位下胎向後肢伸展(犬座)姿勢 (5)頭頂位下胎向頚部屈曲姿勢 正常胎位で頚部が屈曲し、胎子の鼻梁部が母馬の 骨盤に引っ掛かる。 【処置】 前肢を子宮腔内に戻すとともに、子宮内に挿入し た手によって胎子の下顎部を保持し、子宮口に向く よう導く。胎子の下顎部が母馬の骨盤に引っ掛かか らないように、子宮腔内に戻すことによって整復が 容易になる。 頭頂位下胎向頚部屈曲姿勢 (6)頭位上胎向姿勢 正常胎位と同様、胎仔の長軸と子宮の縦軸は同軸 に位置し、頭部と前肢は子宮口に向かう。しかし、 胎子の背側が正常胎位とは逆に、子宮の腹側に位置

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している。 【処置】 両前の球節を縛った2 本のヒモを牽引するととも に、子宮内に挿入した手によって胎子の前腕部を保 持する。その後は、若干捻転させながら側胎位にす るように、前肢および頭部を子宮口に向ける。娩出 時の胎子の回転により、子宮捻転が引き起こされる 可能性があるため、確実に前腕部を保持する必要が ある。また、胎子の前肢によって背側子宮壁が損傷 する可能性もあるため、作業は慎重に実施する。 頭位上胎向姿勢 (7)骨盤位下胎向姿勢(逆子) いわゆる逆子である。正常胎位と同様、胎子の長 軸と子宮の縦軸は同軸、胎子の背側は子宮の背側 に位置している。前肢ではなく、後肢が子宮口に 向かって伸展している。 【処置】 産科チェーンあるいはヒモを胎子の後肢に連結し、 牽引するのみである。臍帯部が子宮口の通過時に圧 迫され、低酸素血症が引き起こされる可能性がある ため、可能な限り短時間内に娩出する必要がある。 骨盤位下胎向姿勢(逆子)

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8)分娩時および分娩後の繁殖牝馬の疾病

(1)早期胎盤剥離 通常、破水後に陰部から脱出する羊膜は白色であ るが、稀に破水が認められず、陰部から赤い胎盤 (レッドバック)が観察される場合がある。 この状態は「早期胎盤剥離」と呼ばれ、子宮と胎 盤に早期剥離が起こっている。このため、胎子は 酸素が供給されず、低酸素状態に陥っている可能 性が高い。したがって、獣医師の到着を待つ間に、 陰部から露出している赤い胎盤の中心にある白い 星の部分を破り、早急に胎子胎膜を露出させ、羊 膜を破って胎子の前肢を迅速に牽引する必要があ る。 牽引後の新生子は、低酸素脳症や感染症を発症し ている可能性が高いことから、早急かつ適切な処 置が必要となる。 赤い胎盤(レッドバック)が認められた場合は、早急に胎子 胎膜を露出させて羊膜を破って胎子を牽引する (帯広畜産大学 石井三都夫准教授提供) (2)子宮動脈破裂 母馬の生死に関わる疾病である。主な症状は、腹 腔内への大量出血による貧血に起因する可視粘膜 の蒼白、および著しい疼痛である。 腹腔内への大量出血であることから、分娩時に外 貌上の出血は認められない。このため、出産後の 母馬の注意深い観察が必要である。特に、高齢馬 における発症率が高いことから、このような症状 が出産後の高齢馬に認められる場合は、直ちに獣 医師に連絡する必要がある。 (3)子宮脱 子宮脱は分娩後に胎盤のみならず、子宮自体が膣 外に脱出した状態である。子宮脱が認められた場 合は、直ちに獣医師に連絡して早急な治療が必要 である。 獣医師が到着するまで、膣から脱出した子宮を可 能な限り清潔に保つ必要がある。このため、母馬 は起立状態を維持させ、垂れ下がった子宮は、食 塩水(1リットルの水に小さじ 2 杯弱の食塩を混和) で湿らせた新しいタオルで覆って乾燥を防止する。 子宮脱の処置が遅延した場合は、子宮機能が回復 せず、受胎に影響を及ぼす場合があるため、獣医 師による早急な処置が不可欠である。 (4)胎盤停滞 一般的に、分娩から3~5 時間以上を経過しても、 後産が排出されない場合は、胎盤停滞と考えられ る。後産は子宮角、続いて子宮体部、最後に子宮 頸部の順に脱落する。後産の排出には、子宮の収 縮と後産自体の重力が関与している。このため、 排出されないからとの理由により、引っ張り出す べきではない。胎盤停滞に対しては、子宮収縮作 用をもつオキシトシンの投与が必要であるため、 獣医師に連絡する。 最も胎盤停滞が起こりやすい部位は子宮角部で あり、用手による除去が困難な部位でもある。こ のため、排出後には必ず後産を広げ、両方の子宮 角における損傷の有無、すべての排出を確認する 必要がある。子宮角に残存した胎盤膜は、数日間 放置しても影響はないと考えられていることから、 早急に引っ張り出すことは禁忌である。

参照

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