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武道学研究 47(1): 1927, 2014 assumed at P value < For the winning methods of the IJF Rules and the KDK Rules tournaments, the proportion of points fr

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全日本柔道選手権大会における国際柔道連盟試合審判規定の

導入が競技内容に及ぼす影響:ダイナミック柔道の観点から

三 宅 恵 介

1)

松 井   崇

2)

  佐 藤 武 尊

3)

  横 山 喬 之

4)

竹 澤 稔 裕

5)

  川 端 健 司

6)

  秋 本 啓 之

7)

Effects of the International Judo Federation Refereeing Rules on

competition contents in the All-Japan Judo Championships:

From the viewpoint of dynamic judo

Keisuke MIYAKE1),

Takashi MATSUI2), Takeru SATO3), Takayuki YOKOYAMA4),

Toshihiro TAKEZAWA5), Kenji KAWABATA6), Hiroyuki AKIMOTO7)

Abstract

The All-Japan Judo Championships (AJJC) is an open-weight tournament for determining the best judoka in Japan. The AJJC has been held under the Kodokan Judo Refereeing Rules (KDK Rules) since 1951. In 2011, the All-Japan Judo Federation (AJJF) introduced the International Judo Federation Refereeing Rules (IJF Rules), which were formulated to facilitate more dynamic judo (increased wins by ippon, decreased wins by judges’ decisions, and decreased mate-time). Although the IJF Rules has facilitated dynamic judo in international competitions, their effects on the competition contents in the AJJC are still unknown. Here, we aimed to clarify whether the introduction of the IJF Rules facilitated dynamic judo in the AJJC.

The 221 judo matches in the AJJC from 2008 to 2013 were separated into two groups, the tournaments following the KDK Rules (2008–2010) and those following the IJF Rules (2011–2013). Their data were extracted from the AJJC records by Judo, the official Kodokan journal, and from the match videos recorded by the AJJF. We analyzed the proportions of winning contents (wins by ippon or superior performance), winning methods (points from techniques or penalties, or judges’ decisions), techniques for getting points (te-waza, koshi-waza, ashi-waza, sutemi-waza, or katame-waza) and the mate-time for each match. A chi-square test and an independent t-test were used to perform statistical analyses, and for each test, statistical significance was 1)中京大学  〒 470-0393 愛知県豊田市貝津町床立 101  TEL/FAX:0565-46-6587  E-mail:k-miyake@sass.chukyo-u.ac.jp 2)日本学術振興会特別研究員 SPD 3)皇學館大学 4)摂南大学 5)関東学園大学 6)北陸大学 7)了徳寺学園 1) Chukyo University

101 Tokodachi, Kaizu-cho, Toyota, Aichi 470-0393, Japan

2) JSPS Research Fellow (SPD) 3) Kogakkan University 4) Setsunan University 5) Kanto Gakuen University 6) Hokuriku University 7) Ryotokuji Gakuen

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assumed at P value < 0.05.

For the winning methods of the IJF Rules’ and the KDK Rules’ tournaments, the proportion of points from techniques (60.4% vs. 53.6%) and points from penalties (23.4% vs. 15.5%) showed no differences, but the proportion of wins by judges’ decisions in the IJF Rules’ tournaments was significantly lower than in the KDK Rules’ tournaments (16.2% vs. 30.9%) (P < 0.05). Furthermore, the mate-time in the IJF Rules’ tournaments was significantly shorter than in the KDK Rules’ tournaments (77 s vs. 105 s) (P < 0.01). However, the winning contents and techniques for obtaining points showed no differences between the IJF Rules’ and the KDK Rules’ tournaments.

We confirmed for the first time that the IJF Rules did not affect the winning contents and techniques for getting points, but decreased the proportion of judges’ decisions and mate-time in the AJJC. These findings suggest that the IJF Rules partially facilitated dynamic judo in the AJJC.

Key words : All-Japan Judo Championships, International Judo Federation Refereeing Rules, Dynamic judo キーワード:全日本柔道選手権大会,国際柔道連盟試合審判規定,ダイナミック柔道 Ⅰ 諸言  全日本柔道選手権大会注 1)(以下,全日本選手権) は,体重無差別で行われる柔道日本一を決める 60 年以上の歴史と伝統を誇る大会である。全日 本選手権に出場する選手には,国内最高峰の競技 力のみならず1),見本となるような競技態度が求 められることから19),全日本選手権は日本人柔 道家にとって世界柔道選手権大会(以下,世界選 手権)やオリンピック大会柔道競技(以下,オリ ンピック)などの世界最高水準の競技大会と同等 の価値があるとされる27)。したがって,全日本 選手権の競技内容を分析し客観的に論じること は,日本柔道の発展,並びにその競技としての方 向性を定めるための指針になるはずである。  全日本選手権では,1951 年より伝統的に講道 館柔道試合審判規定注 2)(以下,講道館規定)が 運用されてきたが,2011 年に国際柔道連盟試合 審判規定(以下,国際規定)が新たに導入された。 これは,国際規定で行われる国内外の試合数の増 加や,国際柔道連盟(以下,IJF)のランキング 制による日本代表選手の選出に対応するための全 日本柔道連盟(以下,全柔連)の方策であるとさ れる9)。試合時間の変更や延長戦の導入について は見送られたものの,講道館規定と国際規定には 幾つかの相違点がある(表 1)。そのため,国際 規定が全日本選手権の競技内容に及ぼす影響につ いて懸念されているが26),その詳細は不明のま まである。  国際規定は,旗判定や罰則によらず,投技,固 技の技術によって勝敗が決着する 「ダイナミック 柔道」を促進するために構成されている23)。実際, 国際規定の改正が,オリンピックや世界選手権に おける男子の「一本勝ち」を増加させ,「僅差・ 延長」を減少させることが報告されてきた17)23) したがって,国際規定を導入した全日本選手権に おいても,「一本勝ち」の増加や「僅差判定」の 減少などによる 「ダイナミック柔道」 の促進が起 きていると推測される。しかしながら,全日本選 手権に関する競技分析の研究は 1990 年代を最後 にほとんど見られなくなっており6)7)8)10)22)25),国 際規定が全日本選手権の競技内容に及ぼす影響に ついての研究は行われていない。  そこで本研究では,国際規定が全日本選手権の 「ダイナミック柔道」の促進に寄与したかどうか を明らかにすることを目的とし,講道館規定で実 施された 2008 年大会から 2010 年までの 3 大会,

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並びに国際規定で実施された 2011 年から 2013 年 までの 3 大会の競技内容を分析し,両大会群を比 較検討した。 Ⅱ 方法 1.対象  全日本選手権の講道館規定で行われた 3 大会 (2008 年から 2010 年)の 110 試合と,国際規定 で行われた 3 大会(2011 年から 2013 年)の 111 試合を合わせた全 211 試合を対象とした。試合数 の内訳は,2008 年大会 37 試合,2009 年大会 37 試合,2010 年大会 36 試合,2011 年大会 39 試合, 2012 年大会 36 試合 2013 年大会 36 試合である。  なお,講道館が発行する機関誌『柔道』に掲載 されている 2008 年の「全日本柔道選手権大会記」 と,2009 ~ 2013 年の「全日本柔道選手権大会」 の報告,および全柔連強化委員会情報戦略部が撮 影した試合映像を参考に分析項目の集計を行っ た。 2.分析項目 (1)勝利内容  「一本勝ち」および「優勢勝ち」に分類した。「一 本勝ち」には「合せ技」「総合勝ち」を含めた。 それ以外の方法(棄権勝ち,不戦勝ちは省く)に よって勝利を収めた場合を「優勢勝ち」とした。 (2)勝利方法  「技による得点」「罰則による得点」および「僅 差判定」に分類した。「一本」や「技あり」等の 得点は「技による得点」に,「指導 3」や「注意」 等の得点は「罰則による得点」に,「旗判定」に よる決着については「僅差判定」とした。なお,「合 せ技」や「総合勝ち」に該当した「技あり」「指 導 3」「警告」に関しては,二つ目の得点を対象 とした。 (3)得点獲得技  得点を獲得した技を「手技」「腰技」「足技」「捨 身技(真捨身技・横捨身技)」および「固技(抑 込技・絞技・関節技)」に分類した。本来,柔道 の技の分類では,「投技」は「立技」と「捨身技」 に分類され,さらに「立技」は「手技」「腰技」「足 技」に,「捨身技」は「真捨身技」と「横捨身技」 に分類される。また,「固技」は「抑込技」「絞技」 「関節技」に分類されるものである。したがって, 「手技」「腰技」「足技」「捨身技」「固技」のよう に分類されることは一般的でないが,統計の関係 上でこのように分類した。 (4)「待て」の時間  正味試合時間注 3)と試合時間の差を計算し,一 試合当たりの平均値を算出した。その際に「待て」 の時間が 0 秒となる試合は対象から省いた。審判 員が最初の「待て」をかける前に勝敗を決したも のがそれに当たる。全 211 試合の内 6 試合が該当 した。  IJF は「一般大衆がみてわかりやすくするため にはどうすべきか」という観点から,「試合のス 表 1 講道館規定と国際規定の主な相違点

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ピード化」を目標に掲げており,特に「待て」の 時間を短縮させるための通達や指示を審判員に出 している15)。したがって,「待て」の時間の変化 が推測されることから分析項目の一つに定めた。 3.分析方法  2008 年から 2010 年までの 110 試合を講道館規 定大会,2011 年から 2013 年までの 111 試合を国 際規定大会と定めた。そして,各分析項目の数お よび割合をグループ間で比較し,その差について 検討した。 4.統計処理  分析項目の勝利内容,勝利方法,得点獲得技に ついては,クロス表を用いてχ2検定を行い,5% 水準の有意差が認められた場合は,期待値と実際 の頻度の差を検討する残差分析を行った。また, 「待て」の時間については,対応のない t 検定を 行い,有意水準は 5% 未満とした。 Ⅲ 結果  勝利内容の結果を図 1 に示した。講道館規定大 会の「一本勝ち」は 43 試合(39.1%),「優勢勝ち」 は 67 試合(60.9%)であった。それに対して,国 際規定大会の「一本勝ち」は 55 試合(49.5%),「優 勢勝ち」は 56 試合(50.5%)であった。グループ 間に有意な差は認められず,「一本勝ち」の増加 は確認されなかった。  図 2 は勝利方法の結果を示したものである。講 道館規定大会の「技による得点」は 59 試合(53.6 %),「罰則による得点」は 17 試合(15.5%),「僅 差判定」は 34 試合(30.9%)であった。一方,国 際規定大会では「技による得点」が 67 試合(60.4 %),「罰則による得点」が 26 試合(23.4%),「僅 差判定」が 18 試合(16.2%)であった。「僅差判定」 に有意な差が認められ,講道館規定大会と比べて 国際規定大会では有意に減少していることが確認 された(P < 0.05)。  図 3 には得点獲得技の結果を示した。講道館規 定大会の「手技」は 17 本(19.5%),「腰技」は 7 本(8.0%),「足技」は 46 本(52.9%),「捨身技」 は 5 本(5.7%),「固技」は 12 本(13.8%)であっ た。そして,国際規定大会の「手技」は 25 本(26.0 %),「腰技」は 6 本(6.3%),「足技」は 48 本(50.0%), 「捨身技」は 7 本(7.3%),「固技」は 10 本(10.4%) であった。グループ間に有意な差は認められず, 得点獲得技に変化は見られなかった。  「待て」の時間の結果を図 4 に示した。一試合 当たりの「待て」の時間は,講道館規定大会では 105 秒,国際規定大会は 77 秒であった。グルー プ間に有意な差が認められ,講道館規定大会と比 べて国際規定大会では,有意に短縮していること が確認された(P < 0.01)。 Ⅳ 考察  全日本選手権は 60 年以上の歴史と伝統を誇る 図 1 勝利内容の比較

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図 2 勝利方法の比較

図 4 「待て」の時間の比較 図 3 勝利得点獲得技の比較

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大会であり,講道館規定を用いて試合が行われて きたが,2011 年大会より国際規定が導入された。 国際規定が導入されたことで,全日本選手権の競 技内容には変化が生じたものと考えられる。しか し,それを明らかにした研究は行われていない。 本研究では,2008 年から 2013 年の全日本選手権 の競技内容を分析し,「ダイナミック柔道」の観 点から比較検討した結果,次のような知見が得ら れた。  勝利内容では,国際規定の導入による「一本勝 ち」の増加が期待されたが,有意な差は認められ なかった(図 1)。したがって,勝利内容の結果 から「ダイナミック柔道」の促進を確認すること はできなかった。国際大会の「一本勝ち」の割合 と比較すると,その少なさがより明確になる。 2001 年の世界選手権の男子の試合では,全体の 65.0% が「一本勝ち(合せ技,総合勝ちを含めな い)」であったことが報告されている13)。また, 2000 年のシドニーオリンピックの男子の試合で は,全体の 71.7% にも及ぶ「一本勝ち(合せ技, 総合勝ちを含める)」が報告されている23)。中 村15)は「アテネオリンピックでのスピーディー な試合展開とごまかしのない技術の攻防は,ダイ ナミック柔道の一つの完成形といえるかもしれな い」と「ダイナミック柔道」の完成形に触れてい るが,2004 年のアテネオリンピックにおける男 子の試合の「一本勝ち(合せ技,総合勝ちを含め ない)」の割合は 60.5% であった11)12)。「一本勝ち」 の割合だけが「ダイナミック柔道」の指標ではな いが,本研究によって示された全日本選手権の「一 本勝ち」の割合では,「ダイナミック柔道」が促 進されたとは考えにくい。しかし,講道館規定大 会と国際規定大会の差,つまりグループ間の変化 に焦点を当てた場合では,「一本勝ち」の割合に 10% 以上の差が生じている。統計学的な有意差 は認められていないが,「一本勝ち」の割合は増 加傾向であったと推察される。したがって,全日 本選手権の競技内容は,国際規定の影響を受けて, 僅かながら「ダイナミック柔道」が促進された可 能性がある。  勝利方法では,「僅差判定」に有意な差が認め られ,講道館規定大会と比べて国際規定大会では 有意に減少していることが確認された(図 2,P < 0.05)。これは,講道館規定と国際規定におけ る罰則の扱い方の違いに,その要因があると考え る。特に「立ち姿勢において,組む前にでも組ん だ後にでも,何の攻撃動作もとらないこと」(以下, 「積極的戦意の欠如28)」)の罰則では,講道館規 定の場合「教育的指導」→「指導」→「注意」→ 「警告」→「反則負け」の 5 段階であるのに対して, 国際規定では「指導」→「指導 2」→「指導 3」 →「反則負け」の 4 段階となる。そして,罰則に おいて判定の基準となるのは,講道館規定では「注 意」以上,国際規定では「指導 2」以上であるこ とから,講道館規定大会では 3 回目の罰則,国際 規定大会では 2 回目の罰則から,勝敗を左右する 役割をもつことになる。さらに,表 2 は罰則の内 訳を示したものであるが,「積極的戦意の欠如」 が罰則全体の 70% 以上を占めていることからも, 「僅差判定」に与えた影響は大きいといえる。し たがって,「積極的戦意の欠如」の罰則の際に与 えられる「教育的指導」の有無が,「僅差判定」 が減少した要因の一つとして推察される。また, 罰則は片方の選手にのみ与える傾向にあったこ 表 2 罰則の内訳

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と20),国際規定の審判員は罰則を与えるのが速 いといった指摘があることからも26),特に罰則 において国際規定を導入した影響がみられたとい える。IJF は,罰則を上手に扱うことで「技によ る得点」での決着,いわゆる「ダイナミック柔道」 を促進しようとしている。本研究では,「技によ る得点」に有意な差は確認されなかったが,「僅 差判定」の有意な減少という結果から,国際規定 の導入は全日本選手権の「ダイナミック柔道」の 実現に寄与したものと考えられる。ところで,講 道館規定と国際規定の罰則における相違点とし て,罰則の重さの違いが挙げられる(表 1)。例 えば「立ち勝負のときに,場外に出る5)」(以下, 「場外に出る」)罰則は,講道館規定では「注意」 が与えられるのに対して,国際規定では「指導」 が与えられる。したがって,講道館規定と国際規 定を単純に比較することは難しい。しかし,講道 館規定によって「注意」以上の罰則が与えられた のは,2009 年大会と 2010 年大会において確認さ れた「場外に出る」の 4 回,罰則全体の 1.8% に 過ぎなかった。したがって,本研究においては, 罰則の重さの違いによる影響は僅かであると考え られることから,これについては考慮せずに分析 を行った。  得点獲得技では,「立ち姿勢のとき,相手の帯 より下へ手や腕で直接攻撃・防御すること28)」(以 下,「下半身への攻撃・防御」)の禁止という,技 に制限のかかるルール改正があったにも関わら ず,有意な差が認められなかった(図 3)。これは, 日本人選手の柔道スタイルに要因があると考え る。この「下半身への攻撃・防御」が禁止となっ た背景には,外国人選手の柔道スタイルが関係し ている。低い姿勢で下半身ばかり攻撃する柔道ス タイルである「1 m Judo」や,上着を着たレス リングという意味の「Jacket Wrestling」が批判 されたことから,IJF は帯から下に対し直接腕や 手で掴む行為を禁じる方針を掲げ,施行を行った 後に,返し技などの例外は設けながらも「下半身 への攻撃・防御」を禁止とした13)14)18)。一方,日 本人選手の柔道スタイルは,40 年前の全日本選 手権においても「足技」が全施技の 80% 近い割 合を占めていたこと8),外国人選手との比較で「足 技」の成功率が高いと報告されていることから も2),「足技」中心の柔道スタイルであることが うかがえる。したがって,講道館規定と国際規定 の大きな違いといえる「下半身への攻撃・防御」 の禁止による影響が見られなかったのは,ルール の変更にも左右されない,「足技」中心の日本人 選手の柔道スタイルという特徴が表れた結果で あったと推察される。  「待て」の時間では,有意な差が認められ,講 道館規定大会と比べて国際規定大会では有意に短 縮していることが確認された(図 4,P < 0.01)。 この「待て」の時間が短縮した要因は,IJF が出 した審判員への通達や指示にあると考える。中 村15)は「柔道の試合で 5 分間戦う場合,だいた い 7 ~ 8 分かかるといわれている。その中で『待 て』~『始め』間の『おもしろくない』空白時間 はかなりあり,移動時間,着衣の乱れを直す時間, 怪我などで一時的に中断する時間など,動きのな い時間についてどうにかしようと様々な検討が加 えられた。そして,2003 年に IJF は『始め』の 際に選手を毎回試合開始線に戻らせずに再開させ てよいという通達を出した。また,主審も毎回開 始ポジションに戻る必要がなく,正面を背にした ポジションで再開してよくなった。さらには,審 判員に対し『待て』の後なるべく早く移動するよ う指示し,着衣の乱れも戻りながら直させるなど 試合が中断しないよう指導している。その他に, 負傷タイムの原則廃止も決められた」と述べてい ることから,これらの様々な取り組みによって「待 て」の時間は有意に短縮したものと推察される。 したがって,国際規定の導入は「待て」の時間に も影響を及ぼしたといえよう。ただし,「待て」 の時間に対する多くの取り組みは,国際規定とし て定められたものではなく,IJF から審判員に対 して出された通達や指示の範疇であることを理解 しておく必要がある。ところで,本研究では,「待 て」の時間を直接的に何が短縮させたかという分 析までは行っていない。あくまで,国際規定の導 入による影響を推測しているに過ぎないため,そ れに関しては今後の課題としたい。

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 本研究によって,国際規定の導入は,全日本選 手権の僅差判定と「待て」の時間を減少させたこ とが明らかとなった。これは,全日本選手権の競 技内容が「ダイナミック柔道」として一部促進し たことを示唆する。したがって,審判規定の改正 を行い,それを導入していくことで,より「ダイ ナミック柔道」が促進していくものと考えられる。 しかし,一方では,過度な審判規定の改正が柔道 の 伝 統 性 と の 衝 突 に 繋 が る と 懸 念 さ れ て い る15)21)。2014 年からは,新しい国際規定(以下, 新ルール)が運用されていくことが決定されたが, 全日本選手権においてこの新ルールを導入するか どうかは,十分に検討する必要があると考える。 なぜなら,全日本選手権は体重無差別で行われる 試合であるからだ。代表選手の選出や競技の国際 化という理由で,体重別の試合を捌くために構成 された審判規定を,体重無差別の試合にそのまま 採用するのは安易である。それを検討する上で, 本研究のような競技内容を明らかにする研究は, 大会を客観的に捉えるには必要不可欠であり,得 られた情報を上手に活用していかなければならな い。今後は,より多くの情報を収集し,柔道の伝 統性との衝突が起きないよう,全日本選手権とい う大会の位置づけを,明確にしていく必要がある と考える。本研究が,日本柔道の更なる普及・発 展のための一資料になれば幸いである。 Ⅴ まとめ  本研究では,全日本選手権の競技内容の分析を 行い,導入された国際規定が「ダイナミック柔道」 の促進に寄与したかどうかを明らかにすることを 目的とした。そして,講道館規定大会(2008 年 から 2010 年)と国際規定大会(2011 年から 2013 年)の比較を行い,その差について比較検討した。 主な結果は以下の通りである。  勝利内容において有意な差は認められなかった が,「一本勝ち」の割合の差が 10% 以上あること が確認された。勝利方法においては,講道館規定 大会より国際規定大会において「僅差判定」が有 意に減少していた。得点獲得技では有意な差は認 められなかったが,講道館規定大会と国際規定大 会ともに全得点の半分以上を「足技」が占めてい た。「待て」の時間では,講道館規定大会よりも 国際規定大会において有意に短縮していることが 確認された。  以上の結果から,国際規定が全日本選手権にお ける勝利内容および得点獲得技に影響しないもの の,僅差判定と「待て」の時間を減少させたこと が初めて確認された。これらの結果は,国際規定 が全日本選手権における「ダイナミック柔道」の 促進に一部寄与したことを示唆するものである。 謝辞・付記  本研究の実施にあたりまして,ご協力を頂きま した Katrin Jumiko Leitner 氏(立教大学コミュ ニティ福祉学部スポーツウエルネス学科助教)に 感謝の意を表します。

 なお,本研究は 2013 International Budo Con- Con-ference by the Japanese Academy of Budo にお いて口頭発表した内容をまとめたものである。 1)全日本選手権は戦後の 1948 年に第 1 回が開 催された.競技方法は,1948 年から 1959 年ま でトーナメント戦で行われ(開催期間 1 日), 1960 年から 1968 年まで予選リーグ戦と決勝 トーナメント戦で行われたが(開催期間 2 日), 1969 年から再びトーナメント戦に変更されて 現在に至る(開催期間 1 日)24) 2)1900 年に作成された「講道館柔道乱捕試合 審判規定」が 1951 年に改正され名称変更され た.1955 年には「技あり」をとった者が「抑 え込み」に入った場合,その時間は 25 秒とす る等が加えられた.また,1957 年,1966 年, 1968 年,1975 年,1980 年,1985 年,1989 年, 1995 年にも改正されている3) 3)実際に試合で使用される時間のこと4) 引用文献 1)藤居省太:全日本柔道選手権大会への期待, 柔道,82(5),26,2011. 2)徐広林・斎藤仁・角田直也・射手矢岬:近年

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のオリンピック大会における男子柔道選手の決 まり技に関する研究,武道学研究,37(第 37 回大会号),24,2004. 3)柔道大辞典編集委員会:柔道大辞典,株式会 社アテネ書房,150-151,初版,1999. 4) 講 道 館: 和 英 対 照 柔 道 用 語 辞 典 Kōdōkan New Japanese-English Dictionary of Judo,共 同印刷株式会社,30,2000. 5)松井勲:講道館柔道試合審判規定,詳解柔道 のルールと審判法 2004 年度版,大修館書店, 30-108,初版,2004. 6)松井紳一郎・青木豊次・高田十志和:体格差 が勝敗に及ぼす影響―全日本柔道選手権大会昭 和 55 年から平成元年までの試合結果の分析―, 武道学研究,23(3),55-62,1991. 7)松井紳一郎・尾形和男・橋本年一・高田十志 和:体格差が勝敗に及ぼす影響(2)―一流選 手の形態差と試合内容の関係―,武道学研究, 25(1),66-74,1992. 8)松本芳三・竹内善徳・中村良三:全日本柔道 全主権大会における競技内容の分析,講道館柔 道科学研究会紀要,5,75-82,1978. 9)南公良:全日本柔道選手権大会熱戦を振り 返って,柔道,82(6),44-46,2011. 10)西田考宏・松川哲男:全日本柔道選手権大会 における「技」の効果に関する一考察,武道学 研究,24(2),191-192,1991. 11)中村勇:データで読むロンドン五輪,近代柔 道,34(11),42-45,2012. 12)中村勇:データで読む北京五輪,近代柔道, 30(11),48-51,2008. 13)中村勇:データで読むリオデジャネイロ世界 選手権,近代柔道,29(11),48-51,2007. 14)中村勇:データで読むリオデジャネイロ世界 選手権,近代柔道,29(12),46-49,2007. 15)中村勇:国際柔道の現在,ジュニア選手育成 のための柔道コーチング論,道和書院,178-192,初版,2008. 16)中村勇:審判規定から見る柔道史,新装改訂 版バイタル柔道―投技編―,日貿出版社,192-199,新装改訂版,2013. 17)中村勇・南条充寿・矢野勝・田中勤・林弘典・ 山本洋祐・正木嘉美・出口達也・渡辺直勇: 2003 年世界選手権大会の競技分析―1995 ~ 2001 年大会との比較―,柔道科学研究,9, 1-6,2004. 18)中村勇・小山田和之・清野哲也:世界柔道選 手権における勝利傾向の分析―2003,2007, 2011 年大会の比較―,講道館柔道科学研究会 紀要,14,61-66,2013. 19)二宮和弘:全日本柔道選手権大会熱戦を振り 返って,柔道,83(6),41-43,2012. 20)野瀬清喜:大会観戦記,柔道,70(12),47-48,1999. 21)尾形敬史:審判規定の変遷,競技柔道の国際 化―カラー柔道衣までの 40 年―,不味堂出版, 39-137,再版,1998. 22)佐藤行那・手塚政孝・西林賢武・松下三郎・ 堀安高綾:全日本柔道選手権大会の戦後 32 回 大 会 の 推 移, 武 道 学 研 究,13(2),49-51, 1981. 23)坂本道人・菅波盛雄・中村勇・林弘典・久保 田浩史・石井孝法・小俣幸嗣:オリンピック柔 道競技の競技分析―1992 年~ 2000 年大会を対 象として―,筑波大学体育研究,28,15-22, 2006. 24)生田秀和:全日本柔道選手権大会に対する柔 道家の意識に関する研究,筑波大学大学院人間 総合科学研究科体育学専攻修士論文,2011. 25)辻原謙太郎・野瀬清喜・木村昌彦・三戸範之・ 高橋富士夫:全日本柔道選手権大会における競 技分析,武道学研究,21(2),39-40,1988. 26)山口香:全日本柔道選手権大会への期待,柔 道,82(5),28-30,2011. 27)山口香:全日本柔道選手権大会熱戦を振り返っ て,柔道,83(6),43-45,2012. 28)全日本柔道連盟:国際柔道連盟試合審判規定 2011,全日本柔道連盟,初版,2011. 平成 26 年 1 月 25 日 受付 平成 26 年 6 月 11 日 受理

図 4 「待て」の時間の比較 図 3 勝利得点獲得技の比較

参照

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