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海外財産の相続:事例研究
~ 米国の財産の相続手続き(第 4 回)
これまで、海外に財産を保有する場合の「海外相続リスク」の存在、特にプロベイト手 続き等の相続手続きの煩雑さについて、米国の例を基に説明し、事前の対応が必要なこと をお話してきました。 このコラムの最終回では、海外財産の相続手続きの代表的な事例を 2 つご案内いたしま す。 事例I 米国の銀行預金の相続手続き(米国でのプロベイト手続き)この事例では、米国でご自身名義の銀行預金をニューヨークにお持ちだったので、ニ この事例では、米国で被相続人名義の銀行預金をニーヨークにお持ちでしたので、ニ ューヨークでプロベイト手続きが行われることになります。 (1)人格代表者(遺産管理人)の指名申請(公証手続きの必要性) まず、プロベイト手続きにおいて遺産を管理する人(人格代表者)を裁判所に申 請する必要があります。米国に信頼できる親族や友人が居ない場合は、米国の弁 護士などに依頼することになります。 なお、申請書の署名について、第 2 回でご説明した公証手続き(Notary)が必要に なります。 被相続人:米国駐在経験を持つ日本居住の日本人で、2011 年に相続開始。 相続人:奥様、長男、長女(いずれも日本居住の日本人) 米国の財産:米国銀行(ニューヨーク)の預金 1 億円相当 単独名義(米国事業に関係無し) 日本の財産:不動産・有価証券・預貯金 3 億円 遺言書の有無:遺言書無し
三輪 壮一 氏
三菱 UFJ 信託銀行株式会社 リテール受託業 務部 海外相続相談グループ 米国税理士2 (2) 死亡証明書の手配 死亡証明書として、除籍謄本の英訳版を裁判所に提出するのが一般的です。除籍 謄本の英訳は一般の人には非常に難しく、専門の翻訳業者に依頼することをお勧 めします。 (3) 裁判所管理下での一連の相続手続き 人格代表者が裁判所より任命されると、人格代表者は、相続人の確定、債権者へ の公告や債務の清算、相続に係る税金の支払い、残った財産の相続人への移転等 の相続手続きを、裁判所の管理の下で進めていきます。 (4) 米国の遺産税および日本の相続税 被相続人が日本居住の日本人(米国から見て非居住外国人)である場合、米国に 所在する財産が 6 万米ドルを超えると、米国の遺産税が課されることになります (2015 年現在)。しかしながら、非居住外国人の銀行預金で事業に関連しないも のは、米国外の財産として、米国遺産税の課税対象とはなりません。したがって、 本事例では、遺産税の申告・納税は不要となります。 米国連邦遺産税の概要 相続人 被相続人
米国市民・米国居住者・米国非居住外国人
米国市民 米国居住者 課税対象:全世界財産 控除額:2015 年の場合、課税遺産額ベースで 543 万米ドル ただし、米国籍を有する米国市民の配偶者への相続による財産移転は、上限なく遺産額から 控除が可能。 また、米国籍を有する米国市民の配偶者は、先に死亡した米国市民の配偶者 の未使用の控除額を使用することが可能 (Portability. ただし、遺産税申告において Portability を選択する等の一定の条件を満たす必要がある) 米国非居住 外国人 課税対象:米国所在財産 (ただし米国事業に関連しない銀行預金は対象外) 控除額:課税遺産額ベースで6 万米ドル また、日米相続税条約では、全世界財産を開示することで米国市民、米国居住者に認められ ている控除額の一定割合(※)を控除額とすることが認められています。 ※2015 年の場合(課税遺産額ベース) 控除額:543 万米ドル×(米国遺産税課税対象財産額/全世界相続財産の額)3 (注)日本または米国における税制改正により、将来において上記記載の内容が変更 となる可能性があります。 一方、日本の相続税は、被相続人が日本居住者である場合、財産を取得する相続 人や受遺者の居住地や国籍に関係なく、国外の財産も日本の相続税の課税対象と なります。したがって、相続開始後 10 カ月以内に、米国の預金を含めて相続税を 申告・納税する必要があります。 (5) 米国で発生する費用の支払い 米国のプロベイト手続きに関して発生する費用(人格代表者の報酬や弁護士費用 など)は、原則米国の遺産から支払われます。人格代表者は、遺産である預金の 中から、適宜支払いを行うことになります。 (6)遺産の配分 プロベイトでの遺産の配分は、遺言が無い場合は、原則州法に基づく法定相続分 に基づくこととなります。しかしながら、銀行預金のような動産の場合、日本の 分割協議書に基づく配分が認められるケースが多いようです。分割協議書の使用 が可能であれば、人格代表者は、英訳された分割協議書に基づき、相続人への配 分を行うことになります。 事例 II 米国株式の相続手続き 事例Iとの違いは、米国の財産が、銀行預金ではなく、米国の株式であることです。 ① 納税義務者: 被相続人(遺産を管理する人格代表者) ② 申告納税期限: 死亡日より9 ヶ月以内 (原則) ③ 課税の対象: 被相続人の国籍や居住・非居住の状況により取扱いが異なります。 ④ 連邦税である遺産税とは別に、州税として相続税・遺産税がある州もあります。 被相続人:米国会社(ニューヨーク州本社)の日本法人の元役員 日本居住の日本人 2011 年に相続開始 相続人:奥様、長男、長女 (いずれも日本居住の日本人) 米国の財産:米国本社の株式 1 億円相当 単独名義 (ストックオプションにて取得) 日本の財産:不動産・有価証券・預貯金 3 億円 遺言書の有無:遺言書無し
4 たったこれだけの違いですが、米国での相続手続きは、事例 I とはかなり異なること になります。(1)~(3)までは同じですので、事例Iと相違する(4)から説明します。 (7) 米国の遺産税と日本の相続税 事例Iで述べたように、非居住外国人の米国の財産が 6 万米ドルを超えると、米 国の遺産税の課税対象となります。米国の預金(事業に関連しないもの)は遺産税 の課税対象外でしたが、米国株式は課税対象となりますので、相続開始後、原則9 ヶ月以内に遺産税の申告納税を行う必要があります。 なお、日米相続税条約の第4条を使用することにより、米国人等に認められてい る多額の控除額(2015 年度は 543 万米ドル)の一部を利用することが可能となりま す。ただし、日本の財産を米国の税務当局に、相続開始後 9 ヶ月以内に開示する必 要が有りますので、日米の税務の専門家が緊密に連携を取る必要が出てきます。 また、この米国の株式に対し、日本の相続税も課税されますので、日米双方で課 税される2重課税の状況が発生します。この場合、日本の相続税から、米国の遺産 税の一定部分を控除する「外国税額控除」が認められています。 (8) 米国で発生する費用や税金の支払い プロベイト手続きに関連する費用(人格代表者の報酬や弁護士・会計士の費用な ど)や遺産税などは、原則米国の遺産から支払われます。この事例では、銀行預金 が無いので、人格代表者の判断で、米国の株式を売却し、費用や税金の支払いに充 てることになります。 この場合問題となるのは、株式の売却に伴う譲渡益に対する課税です。米国の譲 渡益は、取得価額が相続開始時に修正(ステップアップ)されるので、売却益が出 ないか、出ても日本ほど大きくならない可能性があります。一方で、日本は、被相 続人の取得価格を引継ぎますので、多額の譲渡益が発生する可能性が有ります。 日米双方で譲渡益課税がなされた場合、日本の所得税から米国で課された所得税の 一部を控除することが可能です(外国税額控除) 米国の財産が不動産中心で預金が少ない場合も、費用や税金の支払いのために、 遺産を売却することになります。すると、株式と同じように税務の問題が発生して きますので、注意が必要です。 (9)遺産の配分 遺産が動産なので、事例Iと同様、日本の分割協議書に基づく配分が可能となる と思われます。 一方、事例Iと異なる点は、相続人への配分は、米国の税務当局(IRS)による「遺 産税申告書の確認」が終了し、「移転証明書」(Transfer Certificate)が出されて
5 初めて可能となる、という点です。IRS が移転証明書を出すまでに、申告書提出か らおよそ 1 年ほどかかる、と言われていますので、その分、相続人へ遺産が配分さ れるまでに、相当の時間がかかることになります。 これまで、4 回にわたり、海外に財産を持つ場合の留意点やその対応策、そして実際に相 続が開始された場合の具体的手続きについて、米国の例をもとに説明してきました。海外 相続に関する皆様のご理解に、少しでも役立てれば幸いです。